中心的単純環の理論と中心的斜体に関する 種々の問題について
長谷川寿人
新潟大学大学院自然科学研究科博士前期課程
数理物質科学専攻
概要
本論文では,著者が修士のセミナーで学んできた中心的単純環の理論の紹介と,それに まつわる種々の問題と今後著者が取り組んでいきたい問題についてまとめたものである.
体論において,体
kが与えられたとき,その上の拡大体
(ここでは非可換なものも含め る
)がどのくらいあるのか分類することが,体
kを知る上で基本的な問題である.その中 でも,とくに非可換な拡大体がどのくらいにあるのかに焦点を当て研究するのが中心的単 純環の理論である.中心的単純環の理論の中で,とくにブラウアー群
Br(k)は,
k上の中 心的斜体がどのくらいあるのかを表しており,
k上の非可換拡大がどのくらいあるかを知 る上で非常に重要な対象となる.さらに,ブラウアー群は
2次のコホモロジーとの対応が ある.このことから,とくに数論的な体に対しては中心的単純環の理論と
k上の可換拡大 についての理論である類体論を,同じコホモロジーという枠組みの中でみることが可能に なる.
本論文は,主に修士のセミナーの発表に基づいている.とくに
[斉藤
], [渡部
], [GS06],[Pie82]
は内容をまとめる上でよく参考にさせてもらった.また,各節のはじめには,そ
の節の内容をまとめる上でとくに参考にした文献を載せた.各文献の詳細は,本論文の最 後の参考文献を参照してほしい.
本論文は
4つの章からなる:
第
1章では体上の多元環の定義と基本事項についてまとめた.
第
2章では,本論文の主要な対象である中心的単純環についての理論についてまとめ た.
2.1節では,はじめに中心的単純環の最も基本的な定理である
Wedderburnの構造定 理を示し,中心的単純環のテンソル積,係数拡大,逆多元環について述べた.その後に,
中心的単純環の理論において重要である
Skolem–Noetherの定理と中心化定理の証明を
行った.
2.2節では体の重要な不変量であるブラウアー群を導入し,中心的単純環の研究
において重要な役割を果たす分解体や被約特性多項式の性質についてまとめた.この節の
最後に,ブラウアー群の具体例をいくつか紹介した.
2.3節では,中心的単純環のなかで
も非常に重要なクラスである巡回多元環と接合積についての理論を述べた. 節では,
ブラウアー群とガロアコホモロジーとの関係について述べた.ここでの理論から,ブラウ アー群をコホモロジー的観点からみることが可能になる.最後の
2.5節では第
2章で用い られた有限群のコホモロジーの定義を補足としてまとめた.
第
3章では,中心的単純環の中でも,とくに四元数環と中心的斜体に焦点を当て,それ らの理論を紹介した.まず,
3.1節は四元数環についての理論であり,はじめに四元数環 の基本的な性質をまとめた.その後に,四元数環の同型や分解体に関する性質を述べた.
最後に
Albertの定理とよばれる,四元数環のテンソル積がいつ斜体になるかを判定する
ための定理を示した.この定理は,
4.4節において
4次の中心的斜体で巡回多元環になら ないような例を構成する上で非常に重要な役割を果たす.
3.2節は中心的斜体についての 理論である.はじめに,一般の中心的単純環
Aに対してインデックス
ind(A)とピリオド
per(A)
と呼ばれる,ブラウアー類における重要な不変量を定義し,それに対して成り立
つ性質をまとめた.それを用いて,中心的斜体の重要な性質であるプライマリー分解につ いて紹介する.その後,次数がとくに
3次
, 4次の中心的斜体に対して知られている結果 を紹介した.ここでは,次数
3の中心的斜体は必ず巡回多元環になることを紹介し,次数 が
4の中心的斜体は必ずしも巡回多元環にならないことを,
3.1節で準備した
Albertの 定理などを用いた反例の紹介を行った.
最後の第
4章では,中心的単純環の研究における種々の問題と,著者の今後の研究課題
について述べた.
4.1節では,中心的単純環の研究において未解決である問題をいくつか
紹介し,それらに対し現在までに知られている結果をまとめた.
4.2節では,現在著者が
興味を持ち取り組んでいる,中心的斜体の巡回性の問題と中心的斜体の同型問題について
紹介し,今後それらの問題に対してどのように取り組んでいきたいかを述べた.
謝辞
指導教員である星明考先生には,研究室のセミナーにおいて丁寧に指導していただき,
今後の研究に関して様々な助言をいただきました.また,本論文の作成する上でも,多く の有益な御意見をいただきました.深く感謝致します.
研究室の先輩の三浦正道氏には,学部の頃からセミナーをみていただき,先輩として 様々なアドバイスをいただきました.ここに感謝を致します.研究室の同期の金井和貴氏 は,私の疑問点に対し真摯に考え,時には深夜にまで議論を交わすこともありました.感 謝の意を表します.同じ代数系の研究室である小島研究室の先輩の長峰孝典氏は,我々の 修士のセミナーに参加してくださり,多くの数学的なアドバイスを頂きました.また,本 論文を作成する上でも様々な相談にのっていただきました.心より感謝いたします.
最後に,私を支えてくださった多くの皆様へ,心から感謝の気持ちと御礼を申し上げ
ます.
目次
記号
11
体上の多元環
21.1
体上の多元環
. . . 21.2
体上の多元環のテンソル積
. . . 52
中心的単純環とブラウアー群
7 2.1中心的単純環の理論
. . . 72.1.1 Wedderburn
の構造定理
. . . 72.1.2
体上の多元環のテンソル積の中心,単純性
. . . 92.1.3
多元環の係数拡大
. . . 112.1.4
逆多元環
A◦ . . . 122.1.5 Skolem–Noether
の定理
. . . 132.1.6
中心化定理
. . . 152.2
ブラウアー群と分解体
. . . 192.2.1
ブラウアー群
Br(k) . . . 192.2.2
分解体
. . . 202.2.3
被約特性多項式
. . . 252.2.4
ブラウアー群の実例
. . . 302.3
巡回多元環と接合積
. . . 332.3.1
巡回多元環
(K/k, σ, b) . . . 332.3.2
接合積
(K/k, G, φ) . . . 352.4
ブラウアー群とガロアコホモロジー
. . . 392.5
補足:有限群のコホモロジーの定義
. . . 413
中心的単純環の具体例
443.1
四元数環の理論
. . . 443.1.1
基本事項
. . . 443.1.2
四元数環の同型
. . . 483.1.3 2
次体上での分解体
. . . 493.1.4 Albert
の定理
. . . 513.2
中心的斜体の理論
. . . 533.2.1
インデックス
ind(A)とピリオド
per(A) . . . 533.2.2
中心的斜体のプライマリー分解
. . . 573.2.3
次数
3の中心的斜体
. . . 593.2.4
次数
4の中心的斜体
. . . 604
種々の問題と今後の研究課題
62 4.1種々の問題
. . . 624.1.1
中心的斜体に関する問題
. . . 624.1.2
インデックスとピリオドに関する問題
. . . 644.2
今後の研究課題
. . . 654.2.1
中心的斜体の巡回性の問題
. . . 654.2.2
中心的斜体の同型問題
. . . 66記号
本稿で用いる記号や用語に関する注意をはじめに述べておく.
・
Nを自然数全体,
Zを整数環,
Qを有理数体,
Rを実数体,
Cを複素数体とする.
・
Fqを位数
qの有限体とする.
・自然数
n, mに対し,
n|mで
mが
nの倍数であることを表す.
・環
Rは,
0でない単位元を持つものと仮定する.
・環
Rに対し,可逆元全体のなす群を
R×とする.
・単に体
k上の線形空間といった場合,左
k加群を指すものとする.右からのスカラー 倍は定義していないことに注意する.
本論文では,今後,体は可換体を指すことにする.また,特に断らない限り
kを体と
し,
kを
kの代数閉包とする.
1 体上の多元環
1.1 体上の多元環
本節では体
k上の多元環の定義を行い,それに付随するいくつかの用語を準備する.ま た,今後扱う重要な多元環の例として,行列環や自己準同型写像のなす多元環についての 事柄についても確認しておく.この節は,
[斉藤
], [渡部
], [GS06]を参考にした.
定義
k上の線形空間
Aが
k上の多元環
(k-algebra)であるとは
, Aが積の構造も持って おり,
任意の
λ∈k, x, y ∈Aに対し
, λ(xy) = (λx)y =x(λy)が成り立つときをいう.
k上の多元環
Dが斜体
(k-division algebra)であるとは
, Dの
0以外の元が逆元をもつときをいう
. k上の多元環
Aの次元
(dimension)は,
Aの
k上の 線形空間としての次元とし,
[A:k]で表す.
例
1.1 (体
k上の行列環
)体
k上の
n次の正方行列
Mn(k)は,通常の和,スカラー倍,
積に関して
k上の多元環になる.単位行列を
Enと表し,
(i, j)成分のみが
1で他の成分 が
0である行列を
Ei,jで表す.
Ei,jを行列単位という.また,各行と各列に
1が
1つの み入っている行列を置換行列という.
例
1.2 (多元環上の加群の自己準同型写像
) Aを
k上の多元環とし,左
A加群を
Mとす る.
Aの左
A加群としての自己準同型写像全体
EndA(M)は,
f, g ∈ EndA(M), λ ∈k, v∈Vに対し,
(f +g)(v) =f(v) +g(v), (λ·f)(v) =λ·f(x), (f ·g)(v) =f(g(v))
と定めることにより,
EndA(M)も
k上の多元環になる.
例
1.3 (四元数環
)体
kを標数
2ではないものとする.
a, b∈ k×に対し,
k上の
4次元
の
k上の多元環で,
k上の線形空間としての基底として
{1, i, j, ij}をもち,積に関しては
i2 = a, j2 = b, ij =−ji
みたすものを四元数環
(quaternion algebra)といい,
(a,b k
)
と 表す.とくに,
k =R,a =b=−1の場合は,
Hamiltonの四元数環であり,
H=(−1,−1R
)
と表す.
本論文では,以下
k上の多元環といった場合,有限次元のものを指すことにする.
代数閉体
Ω上には自身以外の斜体は存在しない.まず,このことをみてみよう.
命題
1.4代数閉体
Ω上の斜体は
Ωのみである.
証明
Ω上の斜体を
Dとする.任意に
a ∈ Dをとる.すると,
Ωの元と
aによって生 成される
Dの部分環
Ω[a]は体になる.すると,
Ω[a]は
Ω上の有限次代数拡大になるか ら,
aは
Ω上代数的である.すると,
Ωが代数閉体であることから
a∈ Ωである.よっ て,
D=Ωである.
A
を
k上の多元環とする.このとき,単純な左
A加群の
A自己準同型写像のなす
k上 の多元環は斜体になる.これは,
Schurの補題と呼ばれるものの特別な場合である.本論 文では,これを単に
Schurの補題ということにする.
命題
1.5 (Schurの補題
) Aを
k上の多元環とする.このとき,単純な左
A加群
Mに対 し,
EndA(M)は
k上の斜体である.
証明 任意に
0でない元
f ∈EndA(M)をとる.
Ker(f)は
Mの部分加群で,
Mが単純 であることから
Ker(f) = {0},よって
fは単射である.また,
Im(f)は
Mの部分加群 で,
Mが単純であることから
Im(f) =M,よって
fは全射である.よって,
fは同型写 像である.これより,
fは逆写像をもつ.よって,
EndA(M)は斜体である.
定義
k上の多元環
Aの部分線形空間
B ⊂ Aが
Aの部分環であるとき,
Bは
Aの部分 多元環
(k-subalgebra)であるという.
定義
A, Bを
k上の多元環とする.このとき
,写像
f : A → Bが多元環の準同型写
像
(k-homomorphism)であるとは
, fが線形写像であり,かつ環としての準同型写像で
あるときをいう.特に,多元環の準同型写像が全単射であるとき,多元環の同型写像
(k-isomomorphism)
という
. k上の多元環
A, Bに対し
,多元環の同型写像
fが存在する とき
, A, Bは多元環として
k上同型
(k-isomorphic)であるといい
, A≃Bとかく.
定義
Aを
k上の多元環とし
, Aの部分集合を
S ⊂Aとする.このとき
, ZA(S) ={a ∈A|任意の
s ∈Sに対し
, as=sa }とする.
ZA(S)は
Aの
k上の部分多元環である.とくに,
S =Aのときは,単に
Z(A)とかき
Aの中心
(center)という.
定義
Aを
k上の多元環とし,
0でない
Aの左イデアル
I ⊂Aとする.このとき,
Iに真 に含まれる
Aの左イデアルが
{0}しかないとき,
Iを極小左イデアル
(minimal left ideal)であるという.極小右イデアル
(minimal right ideal)も同様に定義する.必ず
{0},Aは
Aの両側イデアルになる.これを自明な両側イデアル
(trivial two sided ideal)という.
D
を
k上の斜体とする.
D上の行列環
Mn(D)の極小左イデアルについてみてみよう.
このとき,
j = 1, . . . , nに対し,
j列目のみに
Dの元がはいり,他の列には
0のみしか入 らない行列のなす集合を
j
Ij =
ˇ a1,j
0
...0
an,j
∈Mn(D)
ai,j ∈D
≃Dn
とする.この
Ij (j = 1, . . . , n)は
Mn(D)の左イデアルになる.このとき,次が成り立つ.
命題
1.6 D上の行列環
Mn(D)の極小左イデアルは
Ij (j = 1, . . . , n)のいずれかで ある.
証明
Mn(D)の左イデアルの元は,
Mn(D)の置換行列の左からの積に関して閉じている ことから,いくつかの列に
Dの元がはいり,他の列は
0のみしか入らない行列となる.
よって,極小な左イデアルは,
1列のみにしか
Dの元が入らない行列からなるものである
から,
Mn(D)の極小左イデアルは
Ij (j = 1, . . . , n)のいずれかに等しい.
本論文の主要な対象である中心的単純環は,次のようなものである.
2.1節において,
中心的単純環の基本的な事項について確認する.
定義
Aを
k上の多元環とする.
Aの中心
Z(A)が
kであるとき,
Aは
k上中心的
(k-central)
であるという.また,
Aが自明な両側イデアル以外の両側イデアルをもたな
いとき,
Aは単純
(simple)であるという.
k上中心的であり,かつ単純である多元環を
k上の中心的単純環
(k-central simple algebra)という.
中心的単純環の典型的な例として,中心的斜体上の行列環があげられる.このことにつ いてみてみよう.
命題
1.7 Dを
k上の斜体とする.このとき,
D上の
n次の行列環
Mn(D)は単純であ る.また,
Dが
k上中心的であれば,
Mn(D)は中心的単純環である.
証明
Iを
0でない
Mn(D)の両側イデアルとする.
Iの
0でない行列
M = (mi,j)1≤i,j≤nをとり,
ms,t ̸= 0であるとする.すると,任意の
1 ≤ r ≤ nに対して,行列単位を用 いて,
Er,r = 1
ms,tEr,sM Et,r ∈I
であるから,単位行列
En = ∑nr=1Er,r
は
Iの元となる.よって,
a = Mn(D)となり,
Mn(D)
は単純である.
また,
D上の行列環
Mn(D)の中心は
Z(Mn(D)) = Z(D)である.よって,
Dが
k上 中心的であれば,
Z(Mn(D)) =kとなり,
Mn(D)は
k上の中心的単純環となる.
上の命題から,とくに
k上の行列環
Mn(k)は中心的単純環である.行列環は中心的単 純環のベースとなっている重要な対象である.
1.2 体上の多元環のテンソル積
この節では,
k上の線形空間に対するテンソル積において成り立つ性質を復習し,
k上
の多元環のテンソル積の定義を行う.本節は,
[斉藤
]を参考にした.
まず,体
k上の線形空間に対するテンソル積において成り立つ性質を復習しておこう.
証明については
[斉藤
]を参照せよ.以下,特に基礎体
kが明らかなときは,テンソル積
⊗k
を単に
⊗とかく.
命題
1.8 Vi (i = 1, . . . , n)を
k上の線形空間とし,
V = ⊗ni=1Viとする.このとき,
(⊗ni=1Vi)⊗kW ≃ ⊗ni=1(Vi⊗W)
が成り立つ.
命題
1.9 V, Wを
k上の線形空間とし,
{α1, . . . , αn}を
Vの基底とする.このとき,
V ⊗W
の元は
∑ni=1αi⊗βi(βi ∈W)
と一意的にかける.
命題
1.10 U, V, Wを
k上の線形空間とする.このとき,
V ⊗W ≃W⊗V, (U ⊗V)⊗ W ≃U ⊗(V ⊗W)が成り立つ.
次に,
k上の多元環のテンソル積の定義をしよう.
定義
A, Bを
k上の多元環とする.
k上の線形空間としてのテンソル積
A⊗Bに対し,
(a⊗b)·(a′⊗b′) := (aa′)⊗(bb′) (a, a′ ∈A, b, b′ ∈B)
により積を定めると,
A⊗kBは
k上の多元環になる.これを,
k上の多元環
A, Bの
k上のテンソル積
(tensor product)という.
命題
1.11 Aを
k上の多元環とする.このとき,
Mn(k)⊗A ≃ Mn(A)が成り立つ.と くに,
Mn(k)⊗Mm(k)≃Mnm(k)が成り立つ.
証明
k上の多元環としての準同型写像
φ: Mn(k)⊗kA →Mn(A), (λi,j)⊗α7→(αλij)を考えると,この写像は全射であり,
k上の次元を見ることで
φが同型であることがわ かる.
また,特に,
A = Mn(k)とすると,
Mn(k)⊗kMm(k) ≃ Mn(Mm(k)) ≃ Mnm(k)よ
り,
Mn(k)⊗kMm(k)≃Mnm(k)が得られる.
2 中心的単純環とブラウアー群 2.1 中心的単純環の理論
本節では,本論文での主要な対象である中心的単純環に関する性質をみていく.とくに,
重要な結果として,
Wedderburnの構造定理
(2.1.1節
),
Skolem–Noetherの定理
(2.1.5節
),中心化定理
(2.1.6節
)が挙げられる.この節は,
[斉藤
], [渡部
], [Cla], [Ten], [GS06]を参考にした.
2.1.1 Wedderburn
の構造定理
命題
1.7より,
k上の斜体
D上の行列環
Mn(D)は
k上の単純多元環であることをみ た.逆に,
k上の単純多元環は,ある
k上の斜体
D上の行列環と同型になるというのが
次の
Wedderburnの構造定理である.これは,中心的単純環の理論において最も基本的
な定理である.ここでの証明は
[Ten]を参考にした.
定理
2.1 (Wedderburnの構造定理
) Aを
k上の単純多元環とする.このとき,自然数
nと
k上の斜体
Dが存在して,
A≃Mn(D)
となる.さらに,上の斜体
Dは同型を除き一意的に定まる.
証明
Iを
Aの極小左イデアル,
D = EndA(I)とする.
Schurの補題
(命題
1.5)より,
D = EndA(I)
は斜体である.
d ∈D,
v ∈ Iに対し,
d·v = d(v)と作用させることで,
I
を
D上の線形空間とみなす.
Aが
k上有限次元であることから,
Iは
D上の線形空間 として有限次元である.よって,ある自然数
nに対し,
I ≃Dnとなる.環の準同型写像
ρ :A →EndD(I), a7→ Laと定める.ここで,
La : I →I, La(x) = ax (a ∈ A)であ る.
k上の多元環
Aは単純であるから
ρは単射である.
次に,
ρは全射を示そう.それには,
ρ(A)が
EndD(I)の左イデアルであることを示せ
ば,
ρ(1) = L1 = idI ∈ρ(A)より,
ρ(A) =Iとなる.そのために,まず
ρ(I)が
EndD(I)の左イデアルであることを示そう.任意の
w ∈ Iに対し,
Rw : I → I, x 7→ xwは
D= EndA(I)の元である.よって,任意の
v ∈I, f ∈EndD(I)に対し,
(f ·ρ(v))(w) =f(Lv(w)) =f(vw) =f(Rw(v)) =Rw◦f(v) =Lf(v)(w) (w∈I)
より,
f·ρ(v) = Lf(v) =ρ(f(v))∈ρ(I)となるから,
ρ(I)は
EndD(I)の左イデアルで ある.次に,
IAは
Aの両側イデアルであるから,
Aは単純より
IA=Aである.これよ り,
ρ(A) =ρ(I)ρ(A)である.よって,
ρ(I)は左イデアルであるから,
ρ(A)も
EndD(I)の左イデアルである.よって,
ρは全射である.以上より,
ρは同型写像であるから,
A≃EndD(I)≃Mn(D)
である.
また,補題
1.6から
Aの極小左イデアル
Iは
I ≃I1 =
a1,1
...
0
an,1
∈Mn(D)
ai,1 ∈D
である.多元環としての準同型写像
φ : D → EndA(I1), d 7→ Rdを考える.ここで,
Rd :I →I, Rd(a) =ad (d ∈D)
である.
Dが単純多元環であることから,
φは単射で ある.
次に,
φの全射性を示そう.任意に
f ∈EndA(I1)をとり,
v=
1
...
0
1
∈I1
と お く .
I1は 極 小 左 イ デ ア ル だ か ら ,左
Mn(D)加 群 と し て 単 純 で あ る .よ っ て ,
Mn(D)v = I1である.任意の
a ∈ A ≃ Mn(D)に対し,
f(av) = af(v)であること に注意すると,
fは
f(v)によって決まる写像である.ここで,
a∈Mn(D)として置換行 列をとり,
f(av) =af(v)を考えると,ある
d ∈ Dが存在して,
f(v) =vd= Rd(v)と なる.よって,
φは全射となる.すると,
φは,
Dから
EndA(I)への同型写像になる.
よって,
D≃EndA(I1)≃EndA(I)となる.これより,
Dは
Aとその極小左イデアル
I2.1.2
体上の多元環のテンソル積の中心,単純性
1.2
節で多元環のテンソル積を定義した.ここでは,
2つの
k上の多元環のテンソル積 の中心や単純性がどのようになるかについてみてみる.
まず,
2つの
k上の多元環のテンソル積の中心がどのようになるかをみてみよう.中心 だけでなく,より一般的な場合を示す.
命題
2.2 A, Bを
k上の多元環,
R, Sをそれぞれ
A, Bの部分多元環とする.このとき,
ZA⊗B(R⊗S) = ZA(R)⊗ZB(S)
が成り立つ.
証明
ZA⊗B(R⊗S)⊃ZA(R)⊗ZB(S)は定義より従う.
任意に
x ∈ ZA⊗B(R⊗S)をとる.
Bの
k上の線形空間としての基底を
f1, . . . , fm (m= [B :k])とすると,
x=
∑m j=1
aj ⊗fj (aj ∈A)
とかける.このとき,
xの取り方から,任意の
a ∈Rに対して,
(a⊗1B)·x=x·(a⊗1B)が成り立つ.ここで,
f1, . . . , fmが
k上一次独立であることに注意すると,,命題
1.9よ り,
∑mj=1(aaj −aja)fj = 0
であるから,任意の
j = 1, . . . , mに対し,
aaj =ajaが成 り立つ.これにより,
aj ∈ZA(R)となるから,
x∈ZA(R)⊗Bである.
次に,
ZA(R)の
k上の線形空間としての基底を
e1, . . . , en (n= [ZA(R) :k])とすると,
x=
∑n i=1
ei⊗bi (bi ∈B)
とかける.ここで,
ZA(R)が
Aの
k上の部分多元環であることに注意しておこう.この とき,上と同様の計算によって,任意の
b∈Sに対して,
bbi =bib (i= 1, . . . , n)となる から,
bi ∈ZB(S)となる.これより,
x∈ZA(R)⊗ZB(S)が得られる.
特に,上の命題で
R=A,S =Bとすると,
2つの
k上の多元環のテンソル積の中心が
どのようになるかがわかる.
系
2.3 Z(A⊗B) = Z(A)⊗Z(B).とくに,
A,
Bが
k上の中心的多元環ならば,
A⊗Bも
k上の中心的多元環である.
次に,
2つの
k上の多元環のテンソル積の単純性がどうなるのかをみてみよう.
命題
2.4 Aを
k上の中心的多元環,
Bを
k上の多元環とする.このとき,以下は同値で ある.
(1) A⊗B
が単純多元環である.
(2) A, B
がともに単純多元環である.
証明
(1)⇒(2)もし,
Aが非自明な両側イデアル
Iをもったとすると,
I⊗Bは
A⊗Bの非自明な両側イデアルとなり,
(1)の仮定に反する.よって,
Aは単純である.
Bも同 様に単純であることが分かる.
(2)⇒(1) A, B
が単純多元環であるとし,任意に
A⊗Bの
0でない両側イデアル
Iを とる.まず,
A, Bがともに単純多元環であることから,
a ∈A\ {0},b∈B\ {0}に対し て,
1A∈AaA, 1B ∈BbBであることに注意する.
x∈I
に対し,
p(x) = min{n∈N|x=
∑n i=1
ai⊗bi (ai ∈A, bi ∈B) }
とし,
r = min{p(x)|x∈I \ {0}}とおく.すると,
r = 1であることを示そう.実際,
r >1
と仮定すると,
x∈Iで,
p(x) =r, x=
∑r i=1
ai⊗bi
となるものがある.ここで,最初の注意により
ar = 1としてよい.このとき,
p(x) = rであることから,
ar−1, ar(= 1)は
k上一次独立である.すると,
ar−1 ̸∈k = Z(A)であ るから,
car−1 ̸=ar−1cとなる元
c∈Aがとれる.このとき,
x′ = (c⊗1B)x−x(c⊗1B)とすると,
x′ =∑r−1(ca −a c)⊗b
より,
x′ ∈I\ {0}で,
p(x′)< rとなり
xのとり方
に矛盾する.よって,
r = 1である.
すると,
Iの
0でない元で
a⊗b(a ∈A, b∈B)の形の元が含まれる.ここで,最初 の注意により
1A⊗1B ∈Iとでき
I =A⊗Bとなる.よって,
A⊗Bは単純多元環であ る.
注意 命題
2.4においては,
Aまたは
Bの少なくとも一方は中心的であるという仮定は外 せない.実際,
Cを
R上の多元環とみなし,
T =C⊗Cとすると,
Cを
R上の単純多元 環であるが,
Tは
R上単純多元環とはならない.このことをみるには,
Tが可換環であ ることから,もし
Tが単純であるとすると,体となることに注意する.
x= 1⊗i−i⊗1, y= 1⊗i+i⊗1∈Tとすると,
1, iは
R上一次独立であるから,
x ̸= 0,y̸= 0であるが,
xy = 1⊗i2−i2⊗1 = 1⊗(−1)−(−1)⊗1 = 0
となる.よって,
Tは整域でないため,体とはならない.よって,
Tは単純多元環でない.
系
2.3と命題
2.4から次の定理が得られる.これは,今後定義するブラウアー群を定義 する上で非常に重要となる事実である.
定理
2.5 A, Bを
k上の中心的単純環とする.このとき,
A⊗Bも
k上の中心的単純環 である.
2.1.3
多元環の係数拡大
K/k
を体の拡大とする.
k上の多元環
Aと
Kの
k上のテンソル積
A⊗Kは
K上の 多元環とみることができる.これにより,
k上の多元環の係数体を
Kに上げることがで きる.このとき,次が成り立つ.
命題
2.6 K/kを拡大体とする.このとき,
Aが
k上の中心的単純環ならば,
A⊗Kは
K上の中心的単純環となる.
証明 命題
2.4より,
A⊗Kは単純多元環であり,命題
2.2より,
Z(A⊗K) = Z(A)⊗ Z(K) =k⊗K =Kより,
K上の中心的である.
中心的単純環の係数拡大に関する重要な性質として,
kの中心的単純環を
kの代数閉包
kまで係数拡大をすると必ず
k上の行列環と同型になることが挙げられる.この性質を述 べているのが次の命題である.
命題
2.7 Aを
k上の中心的単純環とする.このとき,
A⊗k ≃Md(k)となる.
証明
Ω =kとおく.
Aは
k上の中心的単純環であるから,命題
2.4より
A⊗Ωは
Ω上 の単純多元環になる.よって,
Wedderburnの構造定理
(定理
2.1)と,命題
1.4より,
Ω上に非自明な斜体
Dが存在しないことから,ある自然数
dが存在して,
A⊗Ω≃Md(Ω)となる.
この命題により,中心的単純環
Aの
k上の次元は必ず平方数になることがわかる.実際,
Ω=k
とすると,
k上の中心的単純環の次元は
[A :k] = [A⊗Ω :Ω] = [Md(Ω) :Ω] =d2となる.そこで,中心的単純環
Aの次数を次のように定義する.
定義
Aを
k上の中心的単純環とする.このとき,
Aの
k上の次数
(degree)を
degA =√[A :k]
で定める.
2.1.4
逆多元環
A◦ここで,少し一般の
k上の多元環
Aの話に戻る.
k上の多元環
Aに対し,
Aの逆多元 環
A◦と呼ばれる
k上の多元環を定義する.
定義
Aを
k上の多元環とする
. k上の線形空間としての構造は
Aと同じだが,積
·が
a·b=ba (a, b∈A)で与えられる
k上の多元環を
Aの逆多元環
(opposite algebra)といい,
A◦と表す.
逆多元環に関しては次の事実が重要である.この事実は,この後定義するブラウアー群
においては,中心的単純環
Aに対応するブラウアー群の元の逆元となるという事実に対
応するものになっている.
命題
2.8 Aを
k上の中心的多元環とし,
deg(A) =nとする.このとき,
A⊗A◦ ≃Mn2(k)である.
証明 多元環としての準同型写像
Φを
Φ : A ⊗ A◦ → Endk(A), ∑mi=1ai ⊗ a′i 7→
∑m
i=1φai,a′
i
と定める.ここで,
φa,a′ : A → A, x 7→ axa′ (a, a′, x ∈ A)である.
Aが 単純多元環であることから,
A◦も単純多元環である.すると,命題
2.4により
A⊗A◦も単純多元環であることがわかる.よって,
Φは零写像ではないから,
Φは単射である.
また,
Endk(A)≃Mn2(k)に注意すると,次元の関係から
Φが全単射になることがわか る.よって,
A⊗A◦ ≃Mn2(k)である.
2.1.5 Skolem–Noether
の定理
行列環の理論でよく知られていることとして,
k上の行列環
Mn(k)の
k上の多元環と しての自己同型写像は必ず内部自己同型写像,つまり
M 7→CM C−1となる
C ∈GLn(k)が存在して,それによって与えられるというものがある.この事実の一般化にあたるもの が
Skolem–Noetherの定理である.
その証明の為に,補題を
2つ示しておこう.
補題
2.9 Aを
k上の単純多元環とし,
Mを有限生成左
A加群,
Lを
Aの極小左イデ アルとする.すると,
Mは
Lのいくつかの直和と同型である.すなわち,ある自然数
s∈Nが存在して,
M ≃
⊕s i=1
L
である.
証明
Wedderburnの構造定理
(定理
2.1)より,
A ≃ Mn(D)となる
k上の斜体
Dが存 在する.
A
は左
L加群として有限生成であるから,
Mも左
L加群として有限生成である.よっ て,その最小の生成系を
{m1, . . . , ms}とすれば,
M =∑si=1Lmi
となる.
ここで,左
A加群としての全射準同型写像
φ:
⊕s i=1
L→M, (r1, . . . , rs)7→
∑s i=1
rimi
と定める.
単射となることを示そう.
∑si=1rimi = 0 (ri ∈ L)
とする.ここで,ある
jに対し
rj ̸= 0と仮定し,矛盾を導く.ここで,
j = 1としても一般性を失わない.
Ar1 ⊂Lは
0でない
Aの左イデアルであるから,
Lの極小性から
Ar1 =Lとなる.すると,
Lm1 =Ar1m1 =A (
−
∑s i=2
rimi
)
⊂
∑s i=2
Lmi
となることから,
M =
∑s i=1
Lmi =
∑s i=2
Lmi
となり,
{m1, . . . , ms}が最小の個数の
Mの生成系であったことに矛盾する.よって,任 意の
jに対し
rj = 0となり,
φは単射となる.
ゆえに,
φは同型写像になり,
M ≃⊕s i=1
L
が得られる.
補題
2.10 Aを
k上の単純多元環とし,
M1,M2を有限生成左
A加群となる.このとき,
以下は同値である.
(1) [M1 :k] = [M2 :k]
である.
(2) M1 ≃M2
である.
証明 補題
2.9より,
Lを
Aの極小イデアルとすると,
M1 ≃Lm1, M2 ≃Lm2となる.
すると,
[M1 :k] = [M2 : k]であることは,
m1 = m2と同値であるから,
M1 ≃ M2と 同値である.
ここで本題である
Skolem–Noetherの定理は次の定理である.
定理
2.11 (Skolem–Noetherの定理
) Aを
k上の中心的単純環,
Bは
k上の単純多元環
とする.このとき,
2つの多元環としての準同型写像
f, g : B → Aに対して,
u ∈ A×が存在して
g(b) =uf(b)u−1 (b∈B×)が成り立つ.
証明
C = A⊗B◦とする.
τf : C → Endk(A), τf(a⊗b)(x) = axf(b),
τg : C → Endk(A), τg(a⊗b)(x) =axg(b)により,
Aを左
C加群とみなしたものをそれぞれ
Af, Agとする.このとき,命題
2.4より,
Cは
k上の単純多元環である.このとき,
Afと
Agの
k上の次数は等しいから,補題
2.10より,左
C加群としての同型写像
φ : Ag →Afが存在する.
φ(1) =u∈Aとすると,任意の
x∈Aに対し
φ(x) =φ(x1) =φ(τg(x⊗1)(1)) =τf(x⊗1)(φ(1)) =xu
が成り立つ.
φは同型写像より,
u∈A×である.さらに任意の
b∈Bに対し,
g(b)u =φ(g(b)) =φ(τg(1⊗b)(1)) =τf(1⊗b)(φ(1)) =uf(b)
より,
g(b) =uf(b)u−1が成り立つ.
例
2.12 (Mn(k)の自己準同型群
)この定理を用いて,
k上の行列環
Mn(k)の
k自己同型 写像は必ず内部自己同型となることを確認しよう.
Skolem–Noetherの定理における
A, Bをどちらも
Mn(k),
fを恒等写像とすることで,任意の
Mn(k)の
k上の多元環として の自己同型写像
gに対し,
g(M) =CM C−1となる
C ∈Mn(k)× = GLn(k)が存在する.
このことから,
Skolem–Noetherの定理は行列環での自己同型写像に関する事実の一般化 になっていることが確認できる.また,群の準同型写像
GLn(k) → Aut(Mn(k)), C 7→(M 7→ CM C−1)
は上のことから全射であり,この準同型写像の核は
Mn(k)の中心,す なわち
kのスカラー行列である.よって,
Aut(Mn(k)) = GLn(k)/k= PGLn(k)となる ことがわかる.
2.1.6
中心化定理
ここで示す中心化定理とは,中心的単純環
Aと,その単純な部分多元環
Bに対して,
A
の部分多元環
ZA(B)がどのような部分多元環になっているのかを述べている定理であ る.この定理により,
Aの部分多元環の中で,部分多元環
ZA(B)は比較的扱いやすい対 象であることがわかる.
中心化定理の証明の前に
4つ補題を準備しておこう.
補題
2.13 Aを
k上の中心的多元環,
Bを
Aの部分多元環とする.
Aを
(a⊗b)·x=axb (a, b, x ∈ A)によって,左
A⊗A◦加群とみる.このとき,
EndA⊗B◦(A) ≃ ZA(B)で ある.
証明 命題
2.8での多元環としての同型写像
Φ :A⊗A◦ −→Endk(A), ∑mi=1ai⊗bi 7→
∑m
i=1φai,bi
を考える.ここで,
φa,b : A → A, x 7→ axb (a, b ∈ A)である.
A⊗B◦は
A⊗A◦の部分環であるから,
Aは左
A⊗B◦加群ともみれる.
f ∈ Endk(A)に対 し,
f ∈ EndA⊗B◦(A)であることは,任意の
a ∈ A, b ∈ Bに対し
(f ◦φa,b)(x) = f(axb) = f((a⊗b)·x) = (a⊗b)·f(x) = af(x)b= (φa,b◦f)(x) (x ∈A),すなわち,
f◦φa,b =φa,b◦f
と同値である.よって,
Φから
ZA⊗A◦(A⊗B◦)≃EndA⊗B◦(A)を得 る.ここで命題
2.4より,
ZA⊗A◦(A⊗B◦)≃ZA(A)⊗ZA◦(B◦)≃k⊗ZA◦(B◦)≃ZA(B)より,
EndA⊗B◦(A)≃ZA(B)である.
補題
2.14 Aを
k上の多元環,
Mを左
A加群とする.このとき,
EndA(⊕ni=1M) ≃ Mn(EndA(M))
である.
証明
⊕ni=1M
から
Mへの自然な射影
πi : ⊕ni=1M →M, πi(r1, . . . , rn) = ri
と,
Mから
⊕ni=1M
への自然な埋め込み
ιj : M → ⊕ni=1M, r 7→ (0, . . . ,0,
j
ˇ
r,0,· · · ,0)
とす る.ここで,
πi◦ιj =
idM (i=j) 0 (i̸=j)
に注意する.
2つの
A加群としての準同型写像
α, βを
α: EndA(
⊕n i=1
M)→Mn(EndA(M)), α(φ) = (πi◦φ◦ιj)1≤i,j≤n
β : Mn(EndA(M))→EndA(
⊕n i=1
M), β((φi,j)1≤i,j≤n) =
∑n i=1
∑n j=1
ιi◦φi,j ◦πj
とすると,
α, βは互いに逆写像になるから
EndA(⊕ni=1M) ≃ Mn(EndA(M))
であ
る.
補題
2.15 Aを
k上の単純多元環,
Mを有限生成左
A加群とする.このとき,
[M : k]2 = [A :k][EndA(M) :k]である.
証明
Lを
Aの極小左イデアルとする.
Wedderburnの構造定理
(定理
2.1)とその証明 から,
A ≃Mn(D) (D ≃EndA(L)),
L≃Dnであり,補題
2.10から自然数
r∈Nが存 在して,
M ≃Lrであることに注意する.
補題
2.14より,
EndA(M) ≃ EndA(Lr) ≃ Mr(EndA(L)) ≃ Mr(D)を得る.これよ り,
[A:k][EndA(M) :k] = [Mn(D) :k][Mr(D) :k] =r2n2[D:k]2である.
一方,
[M : k] = [Lr : k] = r[L : k] = r[Dn : k] = rn[D : k]であることから
[M :k]2 = [A:k][EndA(M) :k]が得られる.
補題
2.16 A, Bを
k上の単純多元環とし,
A ≃Mn(DA), A ≃Mm(DB) (DA, DBは
k上の斜体
)とする.このとき,以下は同値である.
(1) DA≃DB
(2) A⊗Ms(k)≃B⊗Mt(k)
となる自然数
s, t ∈Nが存在する.
証明
(1)⇒(2)まず,
A⊗Mm(k)≃Mn(DA)⊗Mn(k)≃Mnm(DA⊗k)≃Mnm(k)⊗DAである.また,仮定より
DA ∼ DBであることに注意すると,同様の計算により
B⊗ Mn(k)≃Mnm(k)⊗DB ≃ Mnm(k)⊗DAである.よって,
A⊗Mm(k) ≃B⊗Mn(k)より,命題の
s, tはそれぞれ
m, nとしてとればよい.
(2) ⇒ (1) A⊗Ms(k) ≃ B⊗Mt(k)
より,
Mns(DA) ≃ Mmt(DB)である.すると,
Wedderburn
の構造定理
(定理
2.1)より
DA≃DBであるから,
A ∼Bである.
次の定理が,本題の中心化定理である.
定理
2.17 (中心化定理
) Aを
k上の中心的単純環,
Bを
Aの単純な部分多元環とする.
このとき,以下が成り立つ.
(1) ZA(B)
は単純な部分多元環である.
(2) [A:k] = [B :k][ZA(B) :k]
.
(3) m= [B:k]