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2014年8月713号医機学

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1.はじめに

ス パ イ ロ メ ー タ な ら び に 肺 活 量(vital capacity; VC)という言葉を初めて使ったのは,

19 世紀半ばの Hutchinson である1).彼は水封 式のスパイロメータを発明し,健常者や疾患者 を対象に最大吸気位から最大呼気位まで呼出さ せた気量を測定した.その結果,疾患者では気 量が減少していたことから,この気量の減少は 病的状態と死を予測させるものであるとし,“生 命の容量”すなわち,“vital capacity”と命名 した.それから1世紀,1940 年代以降,肺活 量は日常診療で使用されるようになり,その他 にも様々な指標や測定法が開発された.その後,

現在の呼吸機能検査の基礎は 1970 年代には確 立され,測定方法の標準化も進められた.ここ では,現在,一般的におこなわれている呼吸機 能検査の概要,最近保険収載された広域周波オ シレーション法および,呼気一酸化窒素濃度検 査,さらに,呼吸機能検査測定の課題について 解説する.

2.呼吸機能検査の測定項目

現在,主に測定される呼吸機能検査項目を表 1に示す.肺活量測定,努力肺活量測定はスク リーニング検査であり,スパイロメータを使っ て最も多く測定されている.最大換気量もスパ イロメータで測定できるが最近は実施頻度が少 ない.多機能スパイロメータには,クロージン グボリューム測定,ガス希釈法による機能的残

気量測定,肺拡散能力測定ができる機能が付い ている.体プレチスモグラフを用いれば,ボイ ル・シャルルの法則にもとづく機能的残気量測 定や,気道抵抗測定が可能である.また,食道 バルーンを用いて肺コンプライアンス測定もで きる.呼吸抵抗測定は,スパイロメータに付 加するタイプと,単独の測定装置がある.呼吸 筋力測定もスパイロメータに付加するタイプ と単独の測定装置とがある.NEP(Negative Expiratory Pressure;陰圧呼気圧)測定は,

呼気気流制限の評価法として登場した.呼気気

* 東京医科歯科大学医学部附属病院検査部

特 集

特集:生理機能検査の進歩

呼吸機能検査

東  條  尚  子

表1 呼吸機能検査項目

測定項目 測定に必要なもの 備考

肺活量測定 スパイロメータ(気量式,気流式)

努力肺活量測定 最大換気量測定 クロージングボリューム

測定 スパイロメータ,N2濃度計,リザー バーバッグ,100% 酸素 機能的残気量測定 ・閉鎖回路法の場合: スパイロ

メータ,He 濃度計,酸素ガス,

He ガス

・解放回路法の場合: スパイロ メータ,N2濃度計,リザーバー バッグ,酸素

・体プレチスモグラフ 肺拡散能測定

(1回呼吸法) スパイロメータ,CO 濃度計,He 濃度計,タイマー,リザーバーバッ グ,CO・He を含む混合ガス

呼吸抵抗測定 呼吸抵抗測定装置

気道抵抗測定 体プレチスモグラフ

肺コンプライアンス測定 体プレチスモグラフ,食道バルーン

呼吸筋力測定 圧センサー

呼気一酸化窒素濃度測定 呼気一酸化窒素濃度測定装置 NEP 測定 陰圧発生ブロア,圧センサー,ス

パイロメータ

気道過敏性測定 ネブライザー,呼吸抵抗測定装置 換気応答測定 7% CO2・O2ガス,リザーバーバッ

グ,CO2濃度計,スパイロメータ

※スパイロメータに測定ユニットを負荷するタイプあり

(2)

流制限は気流閉塞状態が進行した状況でみられ るもので,一般的にはフローボリューム曲線で 評価されている.NEP は,陰圧下に2回の安 静呼吸で評価できるため,呼吸努力が不要であ る.

3.呼吸抵抗測定

強制オシレーション法による呼吸抵抗測定 は 1956 年,Dubois らの報告に始まる2).安静 呼吸下で単一周波数の正弦圧波(3Hz から 9Hz 程度)を特殊なスピーカーから口腔内に与え,

それによって生じる振動圧と気流量から呼吸 インピーダンス(Zrs)を求める装置である3). 周波数が可変式の装置,3Hz に固定した装置 があった.気道過敏性試験のアストグラフ法も この応用である.その後,圧トランスデューサ やコンピュータ技術の進歩により,現在は,広 域周波オシレーション法による呼吸抵抗測定が 広くおこなわれている.広域周波オシレーショ ン法は強制オシレーション法の一種で,複数の 広い周波数成分を含むインパルス波を負荷し て,得られた気流量と圧を高速フーリエ変換し 周波数毎に,粘性抵抗(R)とリアクタンス(X)

値を解析する(図1).呼吸抵抗は,電流・電 圧と同じ電気的な特性に相当し,Z(f)= R(f)

+ jX (f) { 0 < f < fmax } (j= √-1,f:周波数)

と表される.すなわち,広域周波オシレーショ ン法で測定すると,呼吸に関わる抵抗をその構 成成分に分けて解析できる.

呼吸抵抗測定は,気流閉塞の程度や気道のど こ(中枢側か末梢気道か)が閉塞しているかの 判別,気管支拡張薬の負荷前後の変化で薬剤効 果を判定するなどを目的におこなわれる.また,

安静呼吸のみで解析が可能なため,通常のスパ イロメトリは実施困難な幼少児や高齢者でも測 定できる.

広域周波オシレーション法による呼吸抵抗 測定の普及は,2012 年の診療報酬改定による ところが大きい.それまでは,強制オシレーショ ン法と同じ 70 点だったが,150 点へと大幅に 引き上げられた.現在薬事承認を得て使用可能 な装置は,Jaeger 社製のマスタースクリーン IOS(輸入販売:株式会社フクダ産業)とチェ スト株式会社製の MostGraph-01 がある.

マスタースクリーン IOS の解析結果の一部 を示す(図2).肺気腫では,R は周波数が低 いほど上昇しているが中枢部分の抵抗を表す R20(20Hz の粘性抵抗)は高値になっていない.

X は周波数が低い領域で予測ラインより大きく 低下している.周波数を y 軸にとり,R,X を x 軸の左右に合わせてグラフ表示すると,肺気 腫では台形になる.

MostGraph-01(図3)は,周波数広域帯の R および X の解析結果を時間の順に並べ,そ のパターンが3D カラー画像で表示されるた め,視覚的に理解し易い.

4.呼気一酸化窒素濃度検査

呼気一酸化窒素濃度測定は気道の炎症状態 を評価する目的でおこなわれ,気管支喘息の病 態把握に有用である.操作が簡単な携帯型装 置がヨーロッパを中心に広く普及し,2005 年 にはすでにアメリカ胸部疾患学会(American Thoracic Society; ATS)ならびにヨーロッパ 呼 吸 器 学 会(European Respiratory Society;

ERS)で標準化された測定手技が5),2011 年 図 1 インパルスオシレーション法の回路図

文献 4 より改変

被験者はノーズクリップを装着し,マウスピースを介 して安静呼吸をおこなう.測定中の呼気・吸気は終 端抵抗部分を出入りする.スピーカーから複数の広 い周波数成分を含むインパルス波を発生させて呼吸 に負荷し,得られた気流量と圧を高速フーリエ変換 し周波数成分を抽出することにより抵抗を測定する.

コンピューター

スピーカー

インパルス発生器

金属スクリーン 終端抵抗

流量トランス デューサー

マウスピース 圧トランスデューサー

ニューモタコグラフ

Y

アダプター

デジタル 信号プロ セッサー

(3)

には ATS からその解釈についてガイドライ ン が 出 さ れ て い る6). 日 本 で は, よ う や く Aerocrine 社の NIOX MINO(輸入販売:チェ スト株式会社)が一酸化窒素ガス分析装置とし て 2013 年 3 月 23 日付で薬事承認され,同年6 月1日から呼気ガス分析(D200 4)として保 険適用が開始された.しかし,その時点ですで に装置は製造・販売が中止されていたため使用

できず,新モデル(図4)での薬事一部変更申 請を要し,2013 年 11 月 19 日付で承認されて 以降,やっと保険診療に用いることができるよ うになった.装置はコンパクト,メンテナンス フリーで操作も簡単である.マウスピースとセ ンサーが使い捨てであり,本体自身も使用期限 9か月で回数制限(100 キット用,300 キット用,

500 キット用,1000 キット用)があり使い捨て

図3 MostGrapg-1

(チェスト株式会社製)

広域周波オシレーション法による 呼吸抵抗測定装置.装置に表示さ れている画面は,測定値を時間経 過を x 軸,粘性抵抗(R)を y 軸,

周波数を z 軸に表した 3D 図.

図4 NIOX MINO

(Aerocrine 社製)

好酸球性炎症のバイオマーカーと して呼気一酸化窒素濃度を測定す るハンドヘルド式の装置.

図 2 マスタースクリーン ISO(Jaeger 社製)の測定結果

上段は周波数を横軸に,粘性抵抗(R)とリアクタンス(X)を縦軸に表したグラ フで実線は実測ライン,点線は予測ライン.下段は周波数を縦軸にとり,粘性抵抗,

リアクタンスを左右に合わせて表示したグラフ.

健常者 肺気腫

(4)

である.患者は,本体内蔵の NO スクラバを介 して NO フリーのガスを最大呼気位から最大吸 気位まで吸入する.その後,流量を示すインジ ケータを目安に規定の呼気流量(50±5mℓ/ 秒)

で 10 秒間呼出する.呼気 NO がプラトーとな る最後の3秒間の呼気ガスをサンプリングして NO 濃度を分析する.最大努力呼出を必要とせ ず,従来の呼吸機能検査に比べると患者のスト レスは少ない.日本人の正常カットオフ値は 38.6ppb とされている7).気管支喘息では,毎 回の診察前検査として有用視されているが,保 険点数が 100 点と低く設定されているため採算 が取れない.

5.日本の呼吸機能検査の課題

1970 年代以降,スパイロメータを用いた呼 吸機能検査は広くおこなわれるようになり,

様々な装置が販売された.しかし,当初,スパ イロメータが備えるべき機能や測定精度の決ま りがなかったため,最低限の機能や精度に関す る基準を決める必要が生じた.また,測定の仕 方も施設によってまちまちであったため,測定 値の施設間格差が大きく,結果値を多施設間共 同で評価することができず,測定方法も統一す る必要があった.このような背景から,ATS,

ERS はそれぞれステイトメントを作成し,改 定を繰り返している.スパイロメトリ,肺気量 分画,肺拡散能力測定のステイトメントの最新 版は ATS と ERS が共同で発表している8~13). ATS,ERS からは,広く実施されている測定 項目に対応できるよう次々に新しいステイトメ ントが発表されている.

これに対し,日本で作られたガイドライン は,2004 年に日本呼吸器学会肺生理専門委員 会から出された呼吸機能検査ガイドラインⅠの みである14).取り上げた項目は肺活量測定,努 力肺活量測定,肺拡散能力測定の3つであるが,

測定機器の備えるべき機能と精度も記載されて いる.日本ではその他の検査項目について,装 置の機能,精度,測定方法等のステイトメント はないため,ATS や ERS のステイトメントを 参考にするしかない.検査レベルの維持・向上 のためには,測定機器が最低限備えるべき機能

と測定精度を明確にすることが望まれる.

6.おわりに

現在一般的におこなわれている呼吸機能項 目ならびに呼吸抵抗測定装置と呼気一酸化窒素 濃度測定装置について概説した.広域周波オシ レーション法は気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患 の診断補助や薬剤反応性の評価に有用である.

呼気一酸化窒素濃度測定は気管支喘息のモニタ リングに有用である.

文  献

1) Hutchinson J. On the capacity of the lungs, and on the respiratory functions, with a view of establishing a precise and easy method of detecting disease by the spirometer. Med Chir Trans 1846;29:137-252.

2) Dubois AB, Brody AW, Lewis DH, Burgess BF. Oscillation mechanics of lungs and chest in man. J Appl Physiol 1956; 8:587-594.

3) ERS task force the forced oscillation technique I clinical practice: methodology recommendations and future developments.

Eur Respir J 2003; 22:1026-1041.

4) Smith HJ, Reinhold R, Goldman MD.

Forced oscillation technique and impulse o s c i l l o m e t r y . E u r o p e a n R e s p i r a t o r y Monograph 2005; 31: 72-105.

5) ATS/ERS Recommendations for standardized procedures for the online and offline measurement of exhaled lower respiratory nitric oxide and nasal nitric oxide, 2005. Am J Respir Crit Care Med 2005; 171: 912–930.

6) An official ATS clinical practice guideline:

Interpretation of exhaled nitric oxide levels

(FENO) for clinical applications Am J Crit Care Med 2011; 184:602-615.

7) Matsunaga K, Hirano T, Kawayama T, Tsuburai T, Nagase H, Aizaawa H, Akiyama K, Ohta K, Ichinose M. Reference ranges for exhaled nitric oxide fraction in healthy Japanese adult population. Allergology International: 2010; 59: 363-367.

(5)

8) General considerations for lung function testing. ERS/ATS Task Force Report on Standardization of Lung Function Testing.

Eur Respir J 2005; 26: 153–161.

9) Interpretative strategies for lung function tests. ERS/ATS Task Force Report on Standardization of Lung Function Testing.

Eur Respir J 2005; 26: 948–968.

10) Standardisation of spirometry ERS/ATS Task Force Report on Standardization of Lung Function Testing. Eur Respir J 2005;

26: 319–338.

11) Standardisation of the management of lung volumes. ERS/ATS Task Force Report on Standardization of Lung Function Testing

Eur Respir J 2005; 26: 511–522.

12) Standardisation of the single-breath determination of carbon monoxide uptake in the lung. ERS/ATS Task Force Report on Standardization of Lung Function Testing.

Eur Respir J 2005; 26: 720–735.

13) Consensus statement for inert gas washout measurement using multiple- and single- breath tests. ERS/ATS consensus statement.

Eur Respir J 2013;41:507-522.

14) 日本呼吸器学会肺生理専門委員会編.呼吸機 能検査ガイドライン―スパイロメトリ―フ ローボリューム曲線,肺拡散能力―.東京:

メディカルレビュー社;2004.

参照

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