卒業研究論文
プロ野球における各チームの育成の分析
学籍番号 07D8104018I 庄野 正人
中央大学理工学部情報工学科 田口研究室
2011 年 3 月
i
あらまし
本研究は,ドラフト制度によって入団した後チームの中心として活躍する選手に注目し,
選手の成長や能力評価,球団ごとの育成の取り組みについて分析を行う.最初に,過去
9
年間の入退団選手の傾向の分析を行う.次に,クラスタ分析を用いて打者をタイプ別に分 類する.そして,チームの中心となる打者に注目して,過去5
年間におけるタイプの推移 を基に成長に関して分析を行う.最後に,DEAを用いて投手・野手の相対的な能力を示す 効率性やお手本となる選手を求める.同様に,チーム全体での打撃・投球の効率性や各チ ームの選手育成の効率性の評価をし,球団ごとの取り組みについて分析を行う.キーワード:プロ野球,クラスタ分析,DEA
ii
目次
第
1
章 はじめに ... 1第
2
章 使用データの概要 ... 22.1.
日本プロ野球のレコードブックデータ ... 22.2.
近年における選手の成長傾向の分析 ... 22.2.1.
過去9
年間における入退団選手の傾向分析 ... 32.2.2.
主力選手について ... 5第
3
章 クラスタ分析を用いた打者の分類 ... 83.1.
クラスタ分析の概要 ... 83.1.1.
類似性と距離 ... 83.1.2.
クラスタ分析の手法 ... 93.2.
打者の分類 ... 103.3.
試合出場傾向の分析 ... 14第
4
章DEA
の概要 ... 174.1. DEA
の基本的事項... 174.1.1.
効率的フロンティアと参照集合 ... 174.1.2.
仮想的入力と仮想的出力 ... 194.2. CCR
モデル ... 204.3.
限定領域法 ... 21第
5
章DEA
のプロ野球への適用 ... 235.1.
打者の評価 ... 235.1.1.
主力野手の打者評価 ... 245.1.2.
セ・リーグ全体の打者評価 ... 255.1.3. 12
球団全体の打者評価 ... 275.1.4.
クラスタ分析による分類とDEA
の打者評価との関係 ... 295.2.
投手の評価 ... 305.2.1.
主力投手の投手評価 ... 315.2.2.
セ・リーグ全体の投手評価 ... 325.2.3. 12
球団全体の投手評価 ... 345.3.
各チームの選手育成の効率性評価 ... 385.3.1.
入力値・出力値について ... 385.3.2.
若手選手育成の効率性評価 ... 395.4.
各球団の特徴のまとめ ... 43第
6
章 むすび ... 456.1.
まとめ ... 45iii
6.2.
今後の課題 ... 46謝辞 ... 47
参考文献 ... 47
付録 ... 48
1
第1章 はじめに
現在,日本には様々なスポーツが普及していて,テレビでも中継が行われている.プロ 野球も人気のスポーツの一つである.2008年の北京オリンピックにおいては,国の代表と してプロアマ問わず多くの選手が参加し,結果的に
4
位に終わったがテレビを見て多くの 人が感動を味わった.翌年2009
年には,野球世界一を決めるWBC
が行われ,北京オリン ピック金メダルの韓国やベースボール発祥の国であるアメリカを見事に破り,再び世界一 の栄冠を手に入れ前年の雪辱を果たした.これをきっかけに多くの国民が日本プロ野球の レベルの高さを知り,さらに関心を持つ人が増えてきていると思われる.また,日本のプロ野球でも今年行われた日本シリーズでは,クライマックスシリーズ
3
位から勝ち上がったパ・リーグ代表の千葉ロッテマリーンズが,セ・リーグ代表の中日ド ラゴンズを死闘の末に破り,奇跡の下剋上を果たし大いに盛り上げた.この下剋上の背景 には,新しく球団の顔となった西村監督が掲げた「和」のスローガンのもと,チームリー ダーの西岡剛選手を中心に選手が一つになったことがある.一方で,毎年熾烈な戦いを繰り広げる日本プロ野球の世界に足を踏み入れる黄金ルーキ ー達が近年,日本中を騒がせている.昨年は甲子園を沸かせた花巻東高校の菊池雄星投手 がドラフト
6
球団競合の末,埼玉西武ライオンズに入団した.今年は,4
年前に「ハンカチ 王子」の愛称で親しまれ,楽天の田中将大投手と投げ合った早稲田大学の斎藤佑樹投手が 日本中の注目を集めた.斎藤選手だけでなく,同大学の大石達也投手や中央大学の澤村拓 一投手なども高い評価を得ていて,彼らが今後のプロ野球を大いに盛り上げてくれること は間違いないと思われる.しかし,プロの世界で生き残って活躍し続ける選手はあまり多くはない.期待されて入 団してからチームの中心として活躍している選手は実際どのように成長を遂げたのだろう か.本研究では,そのような選手に注目し,選手の成長や球団ごとの育成の取り組みにつ いての分析を行う.同時に,防御率や打率など単純な指標ではなく,特徴を活かした選手 やチーム全体での総合的な評価も行う.分析を行うにあたり,2001 年から
2009
年までの プロ野球レコードブックや選手名鑑のデータを用いる.最初に,ドラフト制度によって入 団した選手の近年の成長傾向を分析する.次に,クラスタ分析を用いて打者をタイプごと に分類する.ここでは,過去5
年間の打撃成績を使用して打者の成長について分析する.最後に,事業体の効率性を分析する
DEA
をプロ野球に適用し,2009 年における打者・投 手の選手評価を行う.また,12 球団ごとのチームの強さや選手育成の効率性についての評 価も行う.2
第2章 使用データの概要
本研究では,日本プロ野球の記録を記した
2001
年度から2010
年度までのベースボール・レコード・ブック及びプロ野球選手名鑑を研究データとして用いる.
2.1. 日本プロ野球のレコードブックデータ
ベースボール・レコード・ブックとは,日本プロ野球で行われる
1
試合ごとの試合結果 及び選手成績,歴代の記録などが記載されている書物であり,以下のものが詳しく載って いる[6].・セリーグ・パリーグの回顧 ・セリーグ・パリーグの公式戦全記録
・交流戦全記録 ・個人年度別成績
・イースタン・ウエスタン公式戦全記録 ・ファーム交流戦全記録
・クライマックスシリーズ ・日本シリーズ
・オールスターゲーム ・日本プロ野球歴代記録(1936年~2009年)
また,プロ野球選手名鑑とは,球団ごとの選手が前年の成績とともに顔写真付きで紹介 されている名鑑であり,以下のものが載っている[7].
・球団ごとの選手のデータ(成績・出身地・経歴・ドラフト年度・タイトルなど)
・プロ野球の試合日程 ・チームでの成績
・個人成績 ・タイトル
・ドラフト選手・入退団選手一覧
2.2. 近年における選手の成長傾向の分析
近年では,若いうちからプロの世界で活躍する選手が目立ってきている.プロ野球でも 平均年齢が,投手では
27
歳で野手では28
歳と若い.また,若い選手だけでなくベテラン の選手も投手では最大47
歳,野手は最大42
歳と年をとっても活躍する選手はいる.だが,華々しい活躍をする選手がいる一方プロの世界から退いていく選手が多いのもまた事実で ある.本研究では厳しいプロの世界を乗り越え,チームの中心として活躍する選手の成長 を中心に分析していく.
3
2.2.1.
過去9
年間における入退団選手の傾向分析本項では,
2000
年~2008年にドラフト制度によって入団した選手を対象として,過去9
年間の入退団選手の傾向について分析する.図 2.1 と図 2.2 には球団ごとの入団者数・退団者数の合計をポジション別に示す.全体 として,投手のほうが野手よりも入団者数が多い.また,巨人やロッテは他球団と比較す ると多くの投手を採用している.退団者数も同様に,投手のほうが野手よりも多い.また,
西武・ソフトバンクは外野手を一人も戦力外にしておらず,巨人は他球団と比較すると投 手の退団者が多い.
図 2.3と図 2.4には,12球団全体でのドラフト順位ごとの退団者数の合計を投手・野手 別に示す.投手のドラフト
4
順目以降の退団者の割合は,高卒投手と大卒・社会人投手と もに約7
割以上と下位指名に集中している.一方,野手のドラフト4
順目以降の退団者の 割合は,高卒野手が約8
割で大卒・社会人野手が約9
割となり,投手よりも下位に集中し ている.図
2.5
と図 2.6には,12球団全体での在籍年数ごとの退団者の合計を投手・野手別に示 す.投手は,平均在籍年数が高卒と大卒・社会人ともに4
年であり,約6
割の大卒・社会 人投手が3
年以内に退団している.一方,野手も,平均在籍年数が高卒と大卒・社会人と もに4
年であり,投手と比べると3
年以内に退団する割合がやや低い.全体として,投手のほうが野手よりも入退団選手が多く,理由として先発・リリーフと 起用の幅が広いからだと思われる.また,ドラフト上位指名の選手は下位指名の選手と比 較しても育成を継続される傾向があると思われる.さらに,大卒・社会人選手は高卒選手 と比較するとやや早めに育成を断念される傾向があると思われる.
図 2.1 球団ごとの入団者数(ポジション別)
0 10 20 30 40 50 60
巨人 阪神 中日 ヤクルト 広島 横浜 日ハム ソフトバンク 西武 ロッテ オリックス 楽天
入団者数[人]
球団名
捕手 外野手 内野手 投手
4
図 2.2 球団ごとの退団者数(ポジション別)
図 2.3 順位ごとの退団者数(投手) 図 2.4 順位ごとの退団者数(野手)
図 2.5 在籍年数ごとの退団者数(投手) 図 2.6 在籍年数ごとの退団者数(野手)
0 5 10 15 20
巨人 阪神 中日 ヤクルト 広島 横浜 日ハム ソフトバンク 西武 ロッテ オリックス 楽天
退団者数[人]
球団名
捕手 外野手 内野手 投手
0 2 4 6 8 10 12
自由枠 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 育成
退団者数[人]
順位[位]
高卒投手 大卒・社会人投手
0 2 4 6 8 10 12
自由枠 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 育成
退団者数[人]
順位[位]
高卒野手 大卒・社会人野手
0 5 10 15 20 25
1 2 3 4 5 6 7 8
退団者数[人]
在籍年数[年]
高卒投手 大卒・社会人投手
0 5 10 15 20 25
1 2 3 4 5 6 7 8
退団者数[数]
在籍年数[年]
高卒野手 大卒・社会人野手
5
2.2.2.
主力選手について本研究では,チームの中心となって活躍する選手の成長を分析する.そこで,各チーム の中心となる選手を「主力選手」と呼ぶことにする.主力選手について以下のように定義 する.
投手
2000
年~2008年にドラフト制度によって入団した選手を対象として,2001
年~2009 年に一度でも以下のどちらか一方の条件を満たした選手を主力投手と呼ぶ.・ 先発投手として
20
試合以上登板した選手・ リリーフ投手として
50
試合登板した選手 野手同様に,2000 年~2008 年にドラフト制度によって入団した選手を対象として,2001 年~2009年に一度でも以下の条件を満たした選手を主力野手と呼ぶ.
・ 年間
100
試合以上出場した選手(途中出場も含む)このように定義した理由を説明する.投手について,先発は約
7
試合に1
回登板してい ればローテーションを守れ,リリーフは約3
試合に 1回,つまり1
対戦カードに1
度登板 してれば中心選手として活躍したと考えられる.野手について,シーズンの過半数である 約2/3
出場していれば中心の選手として活躍したと考えられる.図 2.7 には,球団ごとの主力選手を投手・野手別に示す.全体として主力投手数は各球 団大差ないが,主力野手数においては中日が非常に尐ない.以下この原因を考察する.
中日は内野手・捕手に毎年固定のベテラン選手がスタメンに座り,唯一外野手はポジシ ョンに空きがある.表 2.1には,中日の各年の主な試合出場外野手ベスト
5
を示す.2002 年から外野手のポジション3
枠を,福留選手や和田選手を実力のある選手で1
枠,外国人 で1
枠,最後の1
枠を主に代走や代打で活躍するサブの選手が争う年が続いている.これ らのサブの選手の積極的な長期起用や外国人の1
枠が若手選手の出場機会を妨げる要因だ と思われ,主力野手数が尐ない.図
2.8
と図 2.9 には,ドラフトの順位ごとの主力選手数を投手・野手別に示す.投手に おいては,高卒ではドラフト1
順目以上の主力選手が最も多く,3
順目以内の主力選手の割 合が約6
割と上位指名が多い.大卒・社会人では自由枠で入団した主力選手が最も多かっ た.野手においては,高卒と大卒・社会人共に約4
割が3
順目以内に指名された選手であ る.また,高卒では1
順目で入団した選手,大卒・社会人では自由枠で入団した選手が最 も多いが,投手と比べると順位に偏りなく主力選手を輩出している.図 2.10と図 2.11には,主力として活躍するまでに掛かった年数ごとの選手数を投手・
6
野手別に示す.投手においては,平均年数が高卒では
4
年で大卒・社会人は3
年であった.野手においては,平均年数が高卒では
5
年で大卒・社会人では3
年と全体として投手より も成長に時間が掛かっている.また,高卒野手の中で最も多かったのが6
年間であり,高 校を出てチームの中心野手として活躍するのには時間が掛かることがわかる.全体として,チームの中心として成長している選手にはドラフト上位指名の選手が多く,
即戦力として期待されて起用に応えられているものと思われる.また,投手よりも野手の ほうがチームの中心として成長するまでに掛かる年数は掛かり,野手の育成には時間が掛 かると思われる.
図 2.7 球団ごとの主力選手数
表 2.1 中日ドラゴンズの各年の主な試合出場外野手ベスト
5
1 2 3 4 5
‘01 井上一樹 波留敏夫 荒木雅博 関川浩一 大西崇之
‘02 福留孝介 井上一樹 大西崇之 森野将彦 ブレット
‘03 福留孝介 アレックス 大西崇之 関川浩一 森野将彦
‘04 福留孝介 アレックス 井上一樹 英智 森野将彦
‘05 福留孝介 アレックス 森野将彦 井上一樹 大西崇之
‘06 福留孝介 アレックス 森野将彦 井上一樹 英智
‘07 森野将彦 李ビョンギュ 福留孝介 英智 井上一樹
‘08 森野将彦 和田一浩 李ビョンギュ 井上一樹 小池正晃
‘09 和田一浩 藤井淳志 英智 小池正晃 野本圭
0 2 4 6 8 10
巨人 中日 阪神 ヤクルト 広島 横浜 日ハム ソフトバンク 西武 楽天 オリックス ロッテ
主力数[人]
球団 主力野手
主力投手
7
図
2.8
順位ごとの主力投手数 図 2.9 順位ごとの主力野手数図 2.10 成長に掛る年数ごとの主力投手数 図 2.11 成長に掛る年数ごとの主力野手
0 5 10 15 20 25 30 35
自由枠 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 育成
主力投手数[人]
順位[位]
高卒投手 大卒・社会人投手
0 5 10 15 20 25 30 35
自由枠 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 育成
主力野手数[人]
順位[位]
高卒野手 大卒・社会人野手
0 5 10 15 20 25
1 2 3 4 5 6 7 8
主力投手数[人]
掛かった年数[年]
高卒投手 大卒・社会人投手
0 5 10 15 20 25
1 2 3 4 5 6 7 8
主力野手数[人]
掛かった年数[年]
高卒野手 大卒・社会人野手
8
第3章 クラスタ分析を用いた打者の分類
本章では,多変量解析の一つであるクラスタ分析を使用して打者のタイプ分類を行う.
近年の打撃成績を使用して,主力選手の各年における特徴の推移に注目し,どのように成 長を遂げているのかについて分析する.
3.1. クラスタ分析の概要
クラスタ分析とは,様々な性質をもつものが混在している集合の中で,類似度や非類似 度といった指標に基づき,類似性の高い部分集合に分類する方法である.この部分集合を
「クラスタ」と呼ぶ.
3.1.1.
類似性と距離データが表 3.1 のように与えられている場合,ここに何らかの指標を定義する必要があ る.類似性を表す指標は数多く存在する.ユークリッド平方距離のように値が小さいほど 類似性が高いことを表わす場合,これを非類似性という.また,相関係数のように大きな 値ほど類似性が高いことを表わす場合,これを類似性という.値 (
=1,2,3,…,
,=1,2,3,
…, )の尺度によって,用いる指標が異なる.ここでは,次に示す
3
つの尺度で測定され ているものについて考える.1) 間隔尺度 :
連続量で表わされるデータ.2) 名義尺度 :
カテゴリ的データ. 0,1の値をとる.3) 順位尺度 :
順序で表わされるデータ.表 3.1 個体と変量
個体|変量
…
1
…
2
…
N
…
9
それぞれの尺度で測定されたデータに対し,各個体間もしくは各変量間に類似度を定義し なければならない.本研究では連続量で表わされるデータを扱うので,間隔尺度について 述べるとして,表 3.1のような 変量のデータが与えられたとき,任意の個体 間の非類似 度 は次のように定義されるものがある.
1)
ユークリッド平方距離
2)
標準化ユークリッド距離ここで, は変量 の分散を表わす.
3)
マハラノビス距離ここで, は個体 の観測値ベクトル, は分散共分散行列を表わす.また,
は
を転置したベクトルを表わす.
4)
ミンコフスキー距離
=2
とすれば,ユークリッド距離になる.3.1.2.
クラスタ分析の手法クラスタ分析では大別して階層的手法と非階層的手法が存在する.階層的手法はデンド ログラムという樹形図を得る手法である.クラスタ数を設定することなく分析対象の階層 的構造を求めることができる.一方,非階層的手法は,あらかじめクラスタ数を設定し,
各クラスタの重心間の距離が最小になるようなクラスタを得る手法である.
a)
階層的手法この手法は, 個の個体が与えられたとき, 個のクラスタを初期状態として定める.
この状態からクラスタ と を統合して,新しいクラスタ を生成する.このとき,新し く生成されたクラスタ と他の任意のクラスタ との非類似度 が最も近い
2
つのク ラスタを統合する.これを,すべての個体が1
つのクラスタに統合されるまで繰り返し,階層構造を得る.クラスタを統合する方法は次のようなものがある.ただし,クラスタ
10
と
の非類似度を ,クラスタ に含まれる個体数を とする.また,本研究では,最 長距離法を利用する.
1)
最短距離法
2)
最長距離法
3)
群平均法
4)
重心法
5)
メジアン法
b)
非階層的手法階層的手法は対象となる個体数が多くなるにつれて,計算量や記憶容量が膨大となり,
実行不可能に陥る.したがって,対象となる個体が多く存在する場合には,非階層的手法 が用いられる.代表的な手法として
K-平均法が挙げられる.
3.2. 打者の分類
本章では,2005 年から
2009
年までの打者の打撃成績を基にタイプの分類を以下のよう に行う.1)
対象2005
年から2009
年に200
回以上打席に立った以下の各年における全打者・
2005
年 → セ・リーグ(56人),パ・リーグ(65人)・
2006
年 → セ・リーグ(58人),パ・リーグ(63人)・
2007
年 → セ・リーグ(55人),パ・リーグ(60人)・
2008
年 → セ・リーグ(53人),パ・リーグ(63人)・
2009
年 → セ・リーグ(60人),パ・リーグ(62人)11
球団ごとのレギュラーの大半が規定打席である約
400
打席の半分ほど打席に立って いる.そのため,ある程度試合に出ている選手を評価するために,200
打席に設定する.2)
変量打撃成績において重要とされる打率・打点・本塁打・盗塁・安打の
5
変数を扱うことに する.3)
距離及び手法データ同士の類似性には,値が小さいほど類似性が高いことを表わすユークリッド平方 距離を採用した.また,使用するデータが膨大ではないため,階層的構造を得る階層的手 法を用いた.特に,
3.1.2
節で紹介したいくつかの手法を用いて,タイプ分けの分析がし易 い最長距離法を用いた.分類されたクラスタを基に打者の特徴について分析したところ,以下の
6
つのタイプに 分類できる.図 3.1には,2009年度における打者の分類を表すデンドログラムを示す.a)
主軸タイプ打点や本塁打が他のタイプの選手と比べると群を抜いている選手.
例)中村剛也選手(西武),中島裕之選手(西武)
b)
中軸タイプ主軸タイプほどではないが,打点や本塁打で高い値を持つ選手.
例)阿部慎之助選手(巨人),亀井義行選手(巨人)
c)
巧打タイプ安打数で高い値を持つ選手.
例)西岡剛選手(ロッテ),片岡易之選手(西武)
d) HR
尐ない・俊足タイプ本塁打が尐なく,盗塁が多い選手.
例)赤星憲広選手(阪神),松本哲也選手(巨人)
e)
シーズン途中活躍タイプ安打や打点,本塁打である程度の値を出し,シーズンの途中からもしくは途中まで活 躍していたと思われる選手.
例)村田修一選手(横浜),天谷宗一郎選手(広島)
f)
守備重視型タイプ打撃成績が良くなく,守備や代走に力を発揮していると思われる選手.
例)鶴岡慎也選手(日ハム),梵英心選手(広島)
12
図 3.1 クラスタ分析によって得られたデンドログラム 中村剛也(西武)→
←守備重視型タイプ
←HR尐ない・俊足タイプ
←シーズン途中活躍タイプ
←主軸タイプ
←中軸タイプ
←巧打タイプ
阿部慎之助(巨人)→
西岡剛(ロッテ)→
村田修一(横浜)→
赤星憲広(阪神)→
鶴岡慎也(日ハム)→
13
表 3.2には,過去
5
年間における各球団のタイプごとの選手の合計数を示す.巨人には,安打や盗塁が稼げる打者よりも打点や本塁打を稼げる打者が多く存在している.本拠地で ある東京ドームは球場の狭さから本塁打が出やすく,本塁打によって試合が決まることが 多いことが一つの要因となっている.また,長打力のある選手を他球団や海外から毎年の ように補強していることから,他球団と比較してみても軸となる選手が多い.反対に,オ リックスや楽天,ヤクルトは外国人に打線の一角を任せる傾向が強く,それらの選手の成 績不振により他球団と比較すると軸となる打者が尐ない.
表 3.3には,過去
5
年間において200
回以上打席に立ち続けた主力野手のタイプの推移 を示す.青木選手は2008
年までは盗塁や安打が多い選手として活躍していたが,チーム内 の外国人選手の不振や長打力が備わってきたことから2009
年においては打線の軸として成 長している.内川選手は,2007 年まではレギュラーとして完全に定着していなかったが2008
年の安打量産を機に打線の軸として成長している.片岡選手や中村選手は,2008
年に チームの監督や打撃コーチが変わってから,大きく成長している.それぞれの持ち味でも ある盗塁・本塁打が増加したことから俊足選手,主軸選手としてチームに欠かせない存在 となったと思われる.また,中島選手は年度によって安打が多くチャンスメイクの役割を こなしていたり,本塁打や打点が多く打線の軸として役割をこなせたりとオールラウンド な選手であると思われる.表 3.2 過去
5
年間における各球団のタイプごとの選手数 主軸(人)
中軸
(人)
巧打
(人)
HR 尐ない・俊足
(人)
シーズン途中
(人)
守備重視
(人)
オリックス 3 5 9 3 20 14
巨人 7 12 4 2 25 13
西武 3 11 8 3 25 13
ソフトバンク 3 9 12 4 28 12
中日 7 7 9 6 29 8
日ハム 1 13 6 2 22 16
阪神 5 9 6 5 25 4
広島 4 9 4 4 21 13
ヤクルト 4 6 10 4 24 8
横浜 2 11 7 5 25 11
楽天 2 5 9 2 18 18
ロッテ 0 13 7 1 21 12
14
表 3.3 過去
5
年間における主力野手のタイプの推移主力選手 ‘05 ‘06 ‘07 ‘08 ‘09
阿部慎之助(巨) 中軸 中軸 中軸 シーズン途中 中軸 青木宣親(ヤ) HR 尐ない・俊足 巧打 巧打 巧打 中軸
鳥谷敬(神) 巧打 中軸 巧打 巧打 中軸
赤星憲広(神) HR 尐ない・俊足 HR 尐ない・俊足 HR 尐ない・俊足 巧打 HR 尐ない・俊足 内川聖一(横) シーズン途中 シーズン途中 守備重視 巧打 中軸
村田修一(横) 中軸 主軸 中軸 主軸 シーズン途中
中島裕之(西) 巧打 中軸 中軸 巧打 主軸
片岡易之(西) 守備重視 シーズン途中 HR 尐ない・俊足 巧打 巧打 中村剛也(西) シーズン途中 シーズン途中 守備重視 中軸 主軸 今江敏晃(ロ) 中軸 中軸 シーズン途中 シーズン途中 シーズン途中
3.3. 試合出場傾向の分析
本節では,チームの中心として活躍する野手が成長するまでにどれくらい試合を経験し,
成長してからどれくらい試合に出場し続けているかを分析する.そして,3.2節で分析した タイプを基に主力野手になるまでの試合での経験値について分析する.ここで,経験値と は,選手が主力野手として活躍する前年までに経験する
1
軍・2軍での試合数や打席数など の合計値である.図 3.2 に,主力選手に成長するまでに掛かる
1
軍,2軍での試合数の合計数を示す.即 戦力として早い段階から期待に応え主力選手となる野手がいる一方で,大半の主力選手は1
軍,2軍で200
試合以上経験を積んだ上でチームの中心となっていることがわかる.図 3.3には,主力選手に成長してからの試合出場傾向を示す.主力野手において,
3
年連 続で100
試合以上出場する選手は全体の3
割ほどしかいないことが分かる.また,怪我や 成績不振などにより単年のみの活躍や隔年での活躍をする選手も全体で3
割存在し,プロ の世界でチームの中心として成績を残し続けることは難しいと思われる.表 3.4には,タイプごとの
1
軍試合での経験値,表 3.5には2
軍試合での経験値を示す.表に示されているタイプは
3.2
節で分析した選手のキャリアハイの成績でのタイプを以下 のようにまとめたものである.・ 主軸タイプ,中軸タイプ → 打線の軸となる打者
・ 巧打タイプ,HR尐ない・俊足タイプ → チャンスメイクを得意とする打者
・ シーズン途中活躍タイプ,守備重視型タイプ → 打撃が成長段階の打者
上記のような区別でそれぞれ各項目の試合経験値の平均値と最大値を求めた.打線の軸
15
となるタイプの打者は,
1
軍での平均打席数が最も多く,成長していくことが難しいと考え られる.また,チャンスメイクを得意とするタイプの打者は,2
軍での打席数の平均が最も 低く,早い段階から1
軍で経験を積む傾向があると考えられる.打撃が成長段階のタイプ の打者は,2軍での最大打席数が他のタイプと比べて多いことから,打撃が向上するまで2
軍生活を送る可能性が最も高いと思われる.全体として,主力選手に成長するまでにはある程度の試合数を必要としていて,活躍が チームに大きく影響を与えるタイプの打者は育成に時間がかかると思われる.また,チー ムの中心として成長してから成績を残し続けることは容易でないと思われる.
図 3.2 主力選手に成長するまでに掛かる試合数
図 3.3 主力選手に成長してからの試合出場傾向
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20
0試合 0~100試合 100~200試合 200~300試合 300~400試合 400~500試合 500試合~
主力野手数[人]
試合数
38%
29%
33%
単年のみ100試合出場 2年連続で100試合出場
3年以上連続で100試合出場
16
表 3.4 主力野手の
1
軍試合での各経験値1軍 試合 打席 安打 長打 出塁 本塁打 打点 盗塁
打線の軸 平均 108 291 69 22 87 8 32 2 となる打者 最大 274 867 230 68 283 28 93 9 チャンスメイク 平均 89 225 49 13 63 3 16 6 を得意とする打者 最大 250 641 149 36 202 10 44 31 打撃が成長段階 平均 92 229 48 14 63 3 19 3 の打者 最大 234 657 152 51 212 14 55 12
表 3.5 主力野手の
2
軍試合での各経験値2軍 試合 打席 安打 長打 出塁 本塁打 打点 盗塁
打線の軸 平均 179 655 170 61 235 23 88 9 となる打者 最大 299 928 246 130 379 50 146 23 チャンスメイク 平均 112 431 108 29 147 7 42 18 を得意とする打者 最大 342 1357 353 94 499 25 124 73 打撃が成長段階 平均 178 634 158 43 223 12 68 24
の打者 最大 577 2393 611 186 895 74 334 155
17
第4章 DEA の概要
本章では,
DEA
についての概要を述べる.DEA
は多入力,多出力系のシステムなどの相 対的な効率性を求める手法である.この手法を用いることで,野球選手の個性を活かした 総合的な評価を行うことができる.また,効率性の低い選手がどのような選手を手本にす れば良いのかわかる.4.1. DEA の基本的事項
4.1.1.
効率的フロンティアと参照集合本項では,DEAで用いられる効率的フロンティアと参照集合の概要について,1 入力
1
出力,2入力1
出力での事業体の例を用いて説明していく.表 4.1には
1
入力1
出力の営業所の例を示す.8つの営業所があり,営業人数(人)と 売上高(単位:千万円),1 人当たりの売上高(千万円/人)としたとき,1人当たりの売 上高はB
がトップでF
が最下位である.営業人数を入力とし,売上高を出力として図 4.1 にプロットする.B
と原点を結ぶ直線の勾配が一番大きく,この線を効率的フロンティアと 呼ぶ.また,効率的フロンティアに位置するB
を効率的と呼び,効率的フロンティアより も下にある事業体を非効率的と呼ぶ.表 4.1 1入力,1出力の例
営業所 A B C D E F G H 営業人数[人] 2 3 3 4 5 5 6 8 売上高[千万円] 1 3 2 3 4 2 3 5 売上高/人[千万円/人] 0.5 1 0.667 0.75 0.8 0.4 0.5 0.625
図 4.1 営業所の比較
表 4.2には
2
入力,1
出力のスーパーマーケットの例を示す.入力1
は従業員数(単位:十人),入力
2
は売り場面積(単位:千平方メートル),出力は売上(単位:億円)である.0 1 2 3 4 5
0 1 2 3 4 5 6 7 8
売上高
営業人数 効率的フロンティア
A B C D E F G H
18
ただし,出力を
1
とし,1億円の売上を出すための従業員数と売り場面積を表す.入力1/
出力,入力
2/出力を座標軸として各店をグラフ上に示したものが図 4.2
である.効率性を 考えた場合,なるべく尐ない入力で所与の出力を出している店ほど優れているとみるのは 自然である.そういった見方から点C,D,E
を結ぶ効率的フロンティアが形成される.さ らに,C
から水平に伸びる線と,E
から垂直に立つ線までを考慮するとすべてのデータはこ の線で囲まれる領域内に包み込まれることになる.この領域を生産可能集合と呼ぶ.しか し,このように生産可能集合が線分で囲まれているというのはあくまで仮定であって,あ るいは曲線になっているかもしれない.そこで正確には,線形生産可能集合の仮定という.また,非効率な事業体は効率的フロンティアをもとに効率値を求められる.図 4.3 には 店
A
の参照集合を示す.たとえば,店A
の場合,原点と点A
を結ぶ線がフロンティア線DE
と交わる点をP
とすればとして,店
A
の効率値を求めることができる.このことは,A を非効率とする店はD,E
の存在であることを意味する.このD,E
を参照集合(優位集合)と呼ぶ.また,効率的 フロンティア上の点は効率的な値1
であり,効率値1
未満の非効率的な事業体は効率的フ ロンティアに入力・出力の値を近づけることで効率的となる.表 4.2 2入力,1出力の例
店 A B C D E F G H I 従業員数 [十人] 4 7 8 4 2 5 6 5.5 6
売り場面積
[千平方メートル] 3 3 1 2 4 2 4 2.5 2.5 売上 y[億円] 1 1 1 1 1 1 1 1 1
図 4.2 2入力,1出力の例 0
1 2 3 4 5
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9
売り場面積/売上
従業員数/売上
生産可能集合 A B CD EF GH I
19
図 4.3 店
A
の参照集合4.1.2.
仮想的入力と仮想的出力前項までの例では,入力か出力のどちらかの種類が
1
つであり,2
次元の図に表示して効 率的フロンティアを見い出すことは容易であった.しかし,入出力項目の数がもっと増え て多入力,多出力となった場合には事業体の効率性の相対比較はそれほど易しくない.よ って,入力・出力の値にウエイトを掛け合わせる仮想的入力と仮想的出力を用いて効率性 を求めなければならない.そこで,例として病院の事業体を考えてみる.入力を医師数と看護婦の人数,出力を外 来患者延数と入院患者延数で
2
入力2
出力としたとき,以下のような仮想的入力・仮想的 出力を得る.・ 仮想的入力 = × 医師数 + × 看護婦数
・ 仮想的出力 = × 外来患者延数 + × 入院患者延数 そして,
仮想的出力 仮想的入力 によって効率性を比較する.
, , ,
などのウエイトの値の決め方には2
通りある.一つは,固定ウエイトと 呼ばれ,各ウエイトの比率を :: などのように固定する.もう一つは,可変ウエ
イトと呼ばれ,各ウエイトの値を事業体ごとに可変にする.野球選手の評価などにおいて,固定ウエイトよりも可変ウエイトのほうが適しているといえる.なぜなら,あらかじめウ エイトを固定するのはある意味では公平だが,自分の最も得意とする項目に大きいウエイ トを付けて,苦手とする項目に小さいウエイトを付けて効率性を求められるほうが対象の 特性を活かせるからである.よって,本研究でも効率性の評価に可変ウエイトを用いる.
0 1 2 3 4 5
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9
売り場面積/売上
従業員数/売上
P A
D E
20
4.2. CCR モデル
本節では,DEA の最も基本的なモデルである
CCR
モデル([Charnes-Cooper-Rhodes モデル])の概要について述べる.DEA
では,分析対象を一般にDMU
という. 個のDMU
が存在するときを考える.そ れぞれの効率性を測定する際に,対象となっている活動を代表的に記号o
とし と書く ことにする.以下,記号o
は1, 2,…, のどれかを指すものとする.入力につけるウエイ
トを ( ),出力につけるウエイトを ( )として,その値を次の分 数計画問題を解くことによって定める.< F > max. =
s.t.
(
)
この制約式の意味は,ウエイト
による仮想的入力と仮想的出力の比をすべての活動に ついて
1
以下に押さえるということである.その上で,当該の活動の比率尺度 を最大化す るように,を決める.したがって,最適な の値 は高々1である.
また,上記の分数計画問題を以下の線形計画問題に変形したものが
DEA
の基本的なモデ ルであるCCR
モデルである.< L > max.
s.t.
…①
ここで,< L
>の最適なウエイトの解を(
),目的関数値を とすると,= 1
な らば はD
効率的であり,< 1
ならば はD
非効率的であるという.ここで,が
D
非効率的のときを考えると,制約式①の中にはウエイト()に対して等式が成立 している が必ず存在するはずである.そのような の集合を以下のように示す.
}
21
に属する活動は
D
効率的であり,を
D
非効率と判定させる基になっている活動 である.そして, に対する参照集合(優位集合)でもある.また,参照集合 によっ て形成される凸集合を効率的フロンティアと呼ぶ.このように,CCRモデルを用いることで野球における選手の効率性を評価することや,
手本とする選手を求めることができる.本研究でも打者の評価に
CCR
モデルを用いる.ま た,投手評価においては先発投手とリリーフ投手のそれぞれでCCR
モデルと比べて効率的 な選手が出易いとされているBCC
モデル([Banker-Charnes-Cooperモデル])を用いる.BCC
モデルでは,以下のように仮想的出力に定数 を加える.・ 仮想的入力 = × 自責点 + × 被安打
+
× 被本塁打 + × 与四球・ 仮想的出力 = × 投球回 + × 奪三振 +
上記のようにして
CCR
モデルの< L>を改良した式が以下の BCC
モデルである.< L > max.
s.t.
BCC
モデルを解くことで,CCR モデルと同様に,最適なウエイトの解()と目的 関数値 ,参照集合について求めることができる.
4.3. 限定領域法
これまでに述べてきた
LP
の解において,非効率な活動の入出力に対する最適ウエイト(
)の中に
0
がよく表れることがある.そのことは,当該の活動にとってその項目を カウントするのは不利になるので,その項目はなかったことにして評価するということを 意味する.しかし,選ばれた入力や出力の項目のあるものを無視した評価結果は説得性に 欠けるという意見もある.いずれも正当な見解である.そこで,ウエイトの相対的な大き さに制限を設けることが提案されている.例えば,入力の第1
項と第2
項のウエイトの間 に,
22
といった制約を必要に応じて設定する. は比の下限であり, は上限である.この手法 は,ウエイトの存在領域を制限することになるので,領域限定法と呼ぶ.このような制限 が加われば,当然のことながら効率値は一般に低下する.普通のモデルで効率的と判断さ れた活動が非効率的になる場合もある.しかし,上下限の値が適切に設定されていれば,
説得性のある結論が得られる.多くの場合,最適解においてはウエイトの比が上限か下限 のどちらかに一致するので,上限値と下限値は慎重に選ばねばならない.
一案として次の方法を紹介する.まず,
として各項目の平均値を求め, >1である ,例えば, =2, =10を元に,
・
・
などとおけば,項目の値の大きさまで考慮した上限の値を設定できる.
23
第5章 DEA のプロ野球への適用
本章では,第
4
章で紹介したDEA
をプロ野球に適用し,2009年度の選手成績データを 用いて,打者・投手の効率性の評価を行う.効率的な選手の特徴や,非効率な選手がどの ような選手をお手本にして成長することができるか分析していく.また,チーム全体での 打撃や投球,育成の効率性の評価も行う.5.1. 打者の評価
本節では,2.2.2項で紹介した主力野手,セ・リーグ全体,
12
球団全体の3
つの事業体に おいて,打者の効率性を評価する.また,チーム全体の打撃の効率性も評価する.評価を 行う際,DEAを適用する打者の基準として200
回以上打席に立った選手を対象とする.尐 なくとも規定打席約400
回の半分は打っていないと,あまり試合に出ていない選手が効率 的になりやすくなってしまうと考えられるためである.また,入力を打席,出力を安打・本塁打・盗塁・長打・出塁の
1
入力5
出力とする.打点・併殺打・犠打はチームによって 事情が変わってくるため,項目に含めない.また,選手の特徴を最大限に活かす評価を行 いたいと考えたため,打者にとってマイナスの要因になりやすい三振は含めないことにす る.表 5.1にはセ・リーグ球団の
DEA
適用野手,表 5.2にはパ・リーグ球団のDEA
適用野 手を示す.また,DEAに適用する全打者の個人成績は付録に示す.表 5.1 セ・リーグ球団の
DEA
適用野手巨人 李スンヨプ 小笠原道大 木村拓也 鈴木尚広 谷佳知 古城茂幸 脇谷亮太 阿部慎之助 坂本勇人 亀井義行 松本哲也 ラミレス 中日 荒木雅博 井端弘和 小池正晃 谷シゲ元信 ブランコ 森野将彦
藤井淳志 和田一浩
ヤクルト 相川亮二 ガイエル デントナ 福地将和 宮本慎也 川島慶三 畠山和洋 青木宣親 田中浩康
阪神 新井貴浩 葛城育郎 金本知憲 関本賢太郎 ブラゼル 狩野恵輔 平野恵一 桜井広大 赤星憲広 鳥谷敬
広島 石井琢朗 栗原健太 小窪哲也 東出輝裕 廣瀬純 フィリップ 石原慶幸 梵英心 赤松真人 天谷宗一郎 マクレーン ス
横浜 金城龍彦 佐伯貴広 下園辰哉 ジョンソン 細山田武史 内川聖一 藤田一也 村田修一 吉村祐基 石川雄洋
24
表 5.2 パ・リーグ球団の
DEA
適用野手日ハム 稲葉篤紀 金子誠 スレッジ 高橋信二 田中賢介 森本稀哲 小谷野栄一 糸井嘉男 鶴岡慎也
楽天 小坂誠 セギノール 高須洋介 中村紀洋 山崎武司 リック 嶋基宏 渡辺直人 草野大輔 中村真人 鉄平 リンデン ソフトバンク オーティズ 川崎宗則 小久保裕
紀
多村仁志 松中信彦 森本学 本多雄一 長谷川勇也 田上秀則
西武 石井義人 ボカチカ 銀仁朗 中島裕之 片岡易之 中村剛也 佐藤友亮 GG 佐藤 栗山巧
ロッテ 井口資仁 里崎知也 サブロー 竹原直隆 橋本将 福浦和也 西岡剛 今江敏晃 早坂圭介 大松尚逸 ベニー
オリックス 大村直之 小瀬浩之 カブレラ 北川 博敏 後藤光貴 日高剛 山崎浩司 ラロッカ ローズ 大引啓次 坂口智隆 下山真二 フェルナンデス
5.1.1.
主力野手の打者評価本項では,2.2.2 項で紹介した主力野手
48
人の打撃成績を基にCCR
モデルを用いて,打者の効率性評価を行う.表 5.3には,効率値順で上位
20
人の選手の効率値・各ウエイト・参照集合・3.2節で得られる打者の分類を示す.
主力野手の中では,中島・青木・片岡・赤星・中村・糸井・内川・鉄平選手の
8
人が効 率的である.中島選手は出塁のウエイトが最も大きく,実際の出塁数も258
回の成績を残 し,パ・リーグ最高出塁率のタイトルを獲得している.同様に,青木選手も出塁のウエイ トが最も重視されていて,出塁数249
回でセ・リーグ最高出塁率のタイトルを獲得してい る.片岡・赤星選手は,盗塁のウエイトが最も重視されている.片岡選手は盗塁数51
回の 成績を残し,パ・リーグ盗塁王のタイトルを獲得している.また,赤星選手は盗塁数31
回 と片岡選手と比べると尐ないが,片岡選手の打席数646
回に対して377
回であることから,尐ない打席で盗塁を成功させていることが効率的になった要因であると考えられる.中村 選手は本塁打のウエイトが最も大きく,実際にも本塁打
48
本でパ・リーグ本塁打王のタイ トルを獲得している.糸井・内川・鉄平選手は,安打のウエイトが最も重視されている.糸井選手は安打のほかに盗塁や長打のウエイトも大きく,成績では打率.306,盗塁
24
回,長打
58
回と各項目でバランス良く高い成績を残していることが効率的となった要因である と考えられる.また,内川・鉄平選手は,打率が非常に高い.内川選手は打率.318 でセ・リーグ
2
位,鉄平選手は打率.327でパ・リーグ首位打者を獲得している.このことが,効 率的になった要因であると考えられる.また,非効率的とされている選手に注目する.坂口選手は安打や盗塁のウエイトが重視 されている.似たようなタイプの参照集合として,盗塁が優れている片岡・赤星選手をお 手本とすることで成長することができると考えられる.藤井選手も同様に,安打や盗塁の ウエイトが重視されていて,参照集合として片岡選手と安打に優れている糸井・鉄平選手
25
を手本にしている.阿部選手は安打や本塁打のウエイトが重視されていて,参照集合とし て本塁打が優れている中村選手を手本にしている.西岡選手は盗塁や出塁のウエイトが重 視されていて,参照集合として,盗塁が優れている赤星・糸井選手や出塁が優れている中 島選手を手本にしている.
表 5.3 主力野手における効率値上位
20
人の選手選手名 分類 効率値 安打 本塁打 盗塁 長打 出塁 打席 参照集合
中島 主軸 1 0.0012
92
0 0 0.0017
7
0.0026 26
0.0015 43
中島
片岡 巧打 1 0.0044
11
0.0046 6
0.0051 9
0 0 0.0015
48
片岡
中村 主軸 1 0 0.0208
3
0 0 0 0.0017
79
中村
糸井 巧打 1 0.0057
73
0 0.0019
2
0.0035 1
0 0.0020
16
糸井 赤星 HR尐・俊足 1 0.0023
85
0 0.0085
1
0 0.0044
03
0.0026 53
赤星
青木 中軸 1 0 0 0 0.0001
7
0.0039 88
0.0016 03
青木
内川 中軸 1 0.0041
43
0 0 0.0025
6
0.0010 18
0.0018 12
内川
鉄平 中軸 1 0.0057
76
0 0.0049
4
0 0 0.0017
7
鉄平
坂口 巧打 0.9927
49
0.0054 94
0 0.0047 0 0 0.0016
84
片岡・赤星
藤井 巧打 0.9924
63
0.0073 22
0.0015 4
0.0065 6
0 0 0.0022
83
片岡・糸井・鉄平
阿部 中軸 0.9832
95
0.0069 86
0.0045 3
0 0 0 0.0021
65
中村
西岡 巧打 0.9796
22
0 0.0015
7
0.0074 9
0 0.0040
16
0.0018 83
中島・糸井・赤星
長谷川 巧打 0.9739
28
0.0018 9
0 0 0 0.0030
33
0.0017 12
中島・鉄平 桜井 シーズン 0.9731
05
0.0052 27
0.0042 7
0 0 0.0039
8
0.0031 25
中島・中村・鉄平
亀井 中軸 0.9662
7
0.0057 45
0.0040 3
0.0041 5
0 0 0.0018
28
中村・糸井・鉄平
坂本 中軸 0.9650
58
0.0050 44
0.0031 3
0.0021 6
0 0 0.0015
63
中村・内川・鉄平 村田 シーズン 0.9639
97
0.0087 47
0.0056 7
0 0 0 0.0027
1
中村・内川
草野 巧打 0.9578
06
0.0055 36
0 0 0 0.0009
58
0.0019 57
内川・鉄平
本多 巧打 0.9575
29
0.0050 35
0 0.0046
8
0.0002 6
0.0000 87
0.0016 08
片岡・糸井・赤星・鉄平 GG 佐藤 中軸 0.9548
93
0.0034 68
0.0025 4
0 0 0.0019
45
0.0017 99
中村・内川・鉄平 天谷 シーズン 0.9521
72
0.0066 84
0 0.0077
9
0 0.0017
48
0.0027 7
糸井・赤星・鉄平
5.1.2.
セ・リーグ全体の打者評価本項では,セ・リーグ全体での野手
60
人の打撃成績を基にCCR
モデルを用いて,打者 の効率性評価を行う.表 5.4には,効率値順で上位20
人の選手の効率値・各ウエイト・参 照集合・3.2節で得られる打者の分類を示す.全体的に見ると,セ・リーグで首位争いをした巨人・中日の両球団で効率性が高い選手 が多いことが分かる(上位
20
人中,巨人6
人,中日5
人).また,セ・リーグ全体では,新たに小笠原・鈴木・谷・ラミレス・阿部選手が効率的となっている.青木選手はセ・リ ーグ全体で見ても,代表的な選手となっている.阿部・ラミレス選手は安打や本塁打のウ エイトが大きい.阿部選手は打率.293,本塁打
32
本と高い成績を残し,本塁打はセ・リー グ2
位の成績を残している.ラミレス選手も同様に,打率.322,本塁打31
本と成績を残し,セ・リーグ首位打者と最多安打を獲得している.小笠原選手は本塁打や出塁のウエイトが
26
重視されていて,本塁打
31
本,出塁223
回と高い成績を残している.鈴木選手は盗塁のウ エイトが最も大きい.打席数が220
回にも関わらず,代走も含めて盗塁数25
回を記録して いることから,走塁のスペシャリストとして効率的となったと考えられる.谷選手は長打 や出塁のウエイトが重視されている.打席数が316
回と尐ないチャンスで,打率.331,本 塁打11
本,長打35
回,出塁120
回と高い成績を残していることが効率的になった要因で あると考えられる.次に,非効率的とされている選手に注目する.和田選手は打率
302,本塁打 29
本,出塁226
回と高い成績を残している.しかし,和田選手よりも本塁打が優れている小笠原・阿部 選手や出塁が優れている青木・谷選手を参照集合としてお手本にしている.井端選手は,出塁数
252
回と高い成績を残しているが,打席数657
回に対して長打数31
回と長打をあま り打たない打者である.そのことから,出塁だけでなく長打を重視する青木・谷選手をお 手本にしている.主力野手の中で効率的であった内川選手は,安打数に関しては青木選手 の161
回とさほど変わらない160
回である.しかし,出塁数に関しては,青木選手が249
回に対して,内川選手は203
回と尐ない.このことから,青木選手を参照集合にしている と考えられる. ブランコ選手は,本塁打39
本でセ・リーグ本塁打王を獲得している.し かし,他の成績を見ると,打席615
回に対して打率.275,出塁数213
回であり,参照して いる阿部選手の打率や小笠原選手の出塁数に务ることが非効率になった要因と考えられる.表 5.4 セ・リーグ全体での効率値上位
20
人の選手選手名 分類 効率値 安打 本塁打 盗塁 長打 出塁 打席 参照集合
小笠原 主軸 1 0 0.0066 0 0 0.0036 0.0017 小笠原
鈴木 守備重視 1 0.011 0 0.013 0.0092 0 0.0045 鈴木 谷 シーズン 1 0 0.0031 0 0.0069 0.006 0.0032 谷 ラミレス 主軸 1 0.002 0.0035 0 0.0017 0.0019 0.0017 ラミレス
阿部 中軸 1 0.003 0.0046 0 0.0022 0.0026 0.0022 阿部
青木 中軸 1 0 0 0 0.0016 0.0038 0.0016 青木
ガイエル 中軸 0.9997 0 0.002 0 0.0045 0.004 0.0021 谷
和田 中軸 0.9989 0 0.0028 0.005 0.003 0.0032 0.0017 小笠原・谷・阿部・青木
森野 主軸 0.9896 0 0.0001 0 0.0016 0.0037 0.0016 小笠原・谷・青木
亀井 中軸 0.9805 0 0.0031 0.006 0.0032 0.0035 0.0018 小笠原・鈴木・谷・阿部
・青木 村田 シーズン 0.9797 0.006 0.0158 0 0 0 0.0027 ラミレス・阿部 桜井 シーズン 0.9723 0 0.0002 0 0.0031 0.0073 0.0031 小笠原・谷・青木
井端 巧打 0.976 0.001 0 0 0 0.003 0.0015 谷・青木
内川 中軸 0.9673 0.002 0 0 0 0.0035 0.0018 谷・青木
ブラゼル シーズン 0.9624 0.008 0.0197 0 0 0 0.0034 ラミレス・阿部 ブランコ 主軸 0.9596 0 0.0063 0 0 0.0034 0.0016 小笠原・阿部
福地 巧打 0.9597 0.006 0 0.004 0 0 0.0018 鈴木・ラミレス
金本 中軸 0.9572 0 0.0027 0.005 0.0029 0.0031 0.0016 小笠原・青木
藤井 巧打 0.9537 0.006 0 0.007 0.0046 0 0.0023 鈴木・谷・ラミレス
天谷 シーズン 0.9509 0.004 0 0.005 0 0.004 0.0028 鈴木・谷
27
5.1.3. 12
球団全体の打者評価本項では,12球団全体での野手
123
人の打撃成績を基にCCR
モデルを用いて,打者の 効率性評価を行った.表 5.5には,効率値順で上位20
人の選手の効率値・各ウエイト・参 照集合・3.2節で得られる打者の分類を示す.12
球団全体では,主力野手の中で効率的であった中島・中村・糸井・鉄平・青木選手が 参照選手となっている.これらの近年入団した選手達は,球界を代表する選手に成長して いると考えられる.また,セ・リーグ内で効率的であった鈴木・谷・ラミレスに加えて,新たに,パ・リーグのカブレラ・ローズ選手が効率的となっている.カブレラ選手は,出 塁や安打のウエイトが重視されていて,尐ない打席数
275
回に対して打率.314,出塁110
回とそれぞれで高い成績を残している.ローズ選手は,長打や出塁のウエイトが大きく,尐ない打席数
346
回に対して長打37
回,出塁139
回と高い成績を残している.次に,非効率的とされている選手に注目する.主力野手の中で効率的であった片岡選手 は,同じく盗塁を得意としている鈴木選手を参照している.盗塁数でいえば,片岡選手が
51
回で鈴木選手が25
回と片岡選手のほうが多い.しかし,打席数をみると片岡選手が646
回で鈴木選手が220
回であり,鈴木選手は尐ないチャンスの中で盗塁を稼いでいることが 分かる.このことから片岡選手は鈴木選手を手本にしていると考えられる.また,セ・リ ーグの中で効率的であった小笠原・阿部選手も非効率となっている.小笠原選手は,自分 よりも本塁打が優れている中村選手や安打が優れているラミレス選手,出塁が優れている 谷選手を手本にしている.阿部選手は自分よりも本塁打が優れている中村選手,安打が優 れているラミレス選手を手本にしている.内川選手は出塁が優れているカブレラ,谷選手 を手本にすることで成長することができると考えられる.また,チーム全体での打撃の効率性を評価する.打者の効率性評価と同様に,入力を打 席,出力を安打・本塁打・盗塁・長打・出塁の