Kyushu University Institutional Repository
歴史と環境 : 歴史地理学の可能性を探る
溝口, 常俊
名古屋大学大学院環境学研究科 : 教授
阿部, 康久
九州大学大学院比較社会文化研究院社会情報部門 : 准教授
http://hdl.handle.net/2324/1398514
出版情報:2012-12-20. 花書院 バージョン:
権利関係:
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本稿の目的は,第二次大戦後に激しい過疎化を経験した岐阜県揖斐郡旧坂 内村1)の,1985〜2000年にかけての人口移動の実態を,村役場へ提出された 転入・転出届等を一覧表の形に転記した資料である『人口異動調査票』2)の 分析から明らかにすることである.とりわけ,過疎地域で大きな割合を占め ると考えられる往復移動者の移動の実態把握を試み,人口移動のより踏み込 んだ現象理解を目指す.
戦後の過疎化は,経済地理学的な立場からは,市場経済化と産業構造の変 化の中で,山村が周辺地域化・従属地域化した過程としてとらえられてき た.こうした視点は,岡橋(1997)の周辺地域としての把握や,堤(1997)
の縁辺地域論などに表れている.こうした議論を踏まえた近年の過疎地域を めぐる研究視点の1つは,経済基盤や労働市場からみた過疎地域の存立構造 である.人口移動との関連ではとくに,建設・製造業や公的機関による雇用 機会が山村の労働力を吸引し,人口の維持や還流移動の促進に結びついてい る側面が指摘されてきた(例えば吉田1990,吉田1993,梶田1998,加茂1999).
ただし雇用機会との関連だけでなく,集落内の連帯意識や,家族的な理由が
第8章
過疎山村・岐阜県旧坂内村における1985〜2000年の人口移動
鈴 木 允
Ⅰ はじめに
再転入・再転出移動を中心に
1)2005年1月に,隣接する複数の町村とともに揖斐川町に吸収合併され,現在は揖斐川町の一 部となっている.2000年以降現在までに,岐阜県内の複数の市町村で合併が行われたが,本稿 では2000年までの期間を分析対象としたので,市町村の単位は全て2000年時点のものである.
2)『人口異動調査票』は,役場に提出される転入・転出・転居(村内での居住地移動)届およ び出生・死亡届を,手集計によって一覧表の形にまとめたものである.ここに掲載されている 項目は,転入・転出・転居・出生・死亡者の氏名,生年月日,村内の居住地区,転入元・転出 先の市町村,転入・転出・転居・出生・死亡の年月日である.この資料をデータとして使用す ることにより,移動者の属性と移動の空間的パターンとの関係,同一人物による転出入の繰り 返しなどについても把握することが可能である.
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還流移動の要因となりうることも指摘されている(安食1993,加茂1999).
一方,社会地理学的な側面からは,過疎地域における世帯や社会生活の維 持に関する検討が進められてきた.このうち,過疎地域の高齢者の生活維持 における別居子や近隣者との社会関係の重要性を論じた中條(2003)や,別 居子との空間関係が支援の頻度を規定するという田原・荒井(1999)の研究 は,年齢などの属性によって移動者の移動性向に違いがあることや,山村に 残留する高齢者の社会生活の維持のために,人口移動の空間的な広がりが規 定される側面があることも示唆している.
ただし,過疎地域の人口移動の実態そのものに注目した研究は,管見の限 りでは堤(1987)をあげることができるのみである.堤は,過疎山村・大分 県上津江村からの1960〜84年の転出移動について,住民票除票の集計作業と アンケート・聞き取り調査から分析を行った.そこでは,進学・結婚・就職 などのライフイベントをきっかけとする移動が多く,それとも関連して若年 層におけるモビリティが高いことや,対象地域の物理的・経済的・社会的遠 隔性が人口のプッシュ要因として作用したことなどが明らかにされた.
堤による検討以降,過疎地域の人口移動を正面から論じた研究は行われて いない.その背景には,1970年代以降の人口減少傾向の鈍化によって人口問 題自体に関心が持たれにくくなったことや,過疎問題の本質を人口問題に矮 小化すべきではないと考えられるようになったことがあると思われる.しか し,決して一様ではない過疎地域をめぐる人口移動の実態について,十分に 把握されてきたとは言い難い.そこで本稿は,その研究の空隙を埋めるべく,
過疎地域の人口移動の実態を捉えていくことを目的とし,とくに既存統計の 集計項目・期間等の資料的制約から把握できなかった短期的な往復移動の実 態について,個人単位で転入・転出状況を把握することができる『人口異動 調査票』を用いることで明らかにしていきたい.
こうした分析は,近年の人口移動研究で注目されてきた,地方への人口残 留傾向や還流移動の実態に関する知見を提示することにもつながる.
1970年代に確認された人口移動転換に象徴される人口移動の主流と逆流の 交替は,農山村地域が単なる人口流出地域ではなくなったことを示した.そ んな中,人口移動研究においては移動流の実態解明が目指され,近年では,
江崎ほか(1999,2000)によって還流移動の実態解明が進められてきた.そ の結果,学歴に関係なく「Uターン」傾向が世代を追うごとに強まったこと,
帰還先については出身市町村である場合が大勢を占め,出身市町村への指向
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傾向も世代ごとに強まっていることなどが明らかになった3).また,地方圏 のほぼ全域で1970年以降出身地残留率が上昇したことを明らかにし,その主 な要因として就業機会の格差縮小を指摘した山口ほか(2000)の成果もある.
このように非大都市圏への人口回帰傾向が指摘される一方で,例えば江崎
(2002)は,地方都市の人口増加への寄与は社会増加よりも自然増加の方が高 く,Uターン移動者の流入はあまり寄与していないことや,非大都市圏内に おける都市−農村の格差の存在4)を指摘している.非大都市圏への人口分散 化傾向に関しては,実際には非大都市圏の都市部を指向し,農山村部への移 動傾向が弱かったことが明らかにされており(磯田1993),「村」出身者では 出身の村へ帰還する者の割合が低く,Uターン率や残留率を押し下げる要因 になっていることも明らかにされた(江崎2007).また,過疎地域内における 過疎化の進行度の地域差も指摘されている(作野1994).
以上の研究成果は,既存統計やアンケートなどで捕捉され得る人口集団に ついてのものであるが,本稿の分析は,対象地域・期間の移動を悉皆的に捉 えられるため,より実態を詳細に捉えることが可能となる.その意味でも,
本稿の分析は意義のあるものであると考えられる.
本稿は以下,Ⅱで対象地域の概要を述べた後,ⅢとⅣで『人口異動調査票』
のデータを用いた人口移動の分析を行う.閲覧を認めて頂いた『人口異動調 査票』のうちから,1985年4月1日〜2000年3月31日の間の転入・転出移動 を検討対象とした5).以下で述べるように,1985年以降という期間は,若年
3)ただし江崎ほか(2007)によると,直近のUターン率・残留率は低下しつつあるという.
4)江崎(2002)は,一国スケールにおける非大都市圏→大都市圏の転出超過が大都市圏の人口 集中を産み出したのと同様に,地方圏の各県内においても,都市部における人口増加,郡部に おける人口減少が明瞭にみられ,戦後日本の人口分布変動には階層性が存在していたことを 指摘している.
5)『人口異動調査票』は,1985年4月以降の届出分が保存されており,それ以前のものは残存 していなかった.このため,1985年3月に届出が行われた4月以降の移動は含まれていない.
なお,転入・転出のほか,村内の転居者はのべ37人確認された.この37人の中には,教職員住 宅の統合による教員とその家族の移動が11人含まれる上,地番変更などの形式的な移動も含 まれているため,実質的な村内移動者はかなり少ない.このため本稿では,人数が僅少な村内 移動は検討対象としなかった.さらに,『人口異動調査票』では移動者の居住地区も記録され ている.しかし,移動者の属性,移動パターンなどに関して,村内の地区間での差異はほとん ど認められなかったため,村内の地域差に関しても本稿では言及しない.村内での移動者の少 なさや,地区間の差異の小ささが,村内の中心−周辺の地域性がほとんど存在しないことに起 因すると考えれば,このこと自体が対象地域の遠隔性を示唆していると考えることもできる であろう.
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層の流出による人口減少が鈍化した後の時代にあたり,比較的近年における 動向を検討することになる.具体的には,対象地域における人口移動の年齢 や性別による違いをⅢで明らかにした上で,同一者による往復や繰り返しの 移動(再転入・再転出移動)の実態をⅣで明らかにする.Ⅳでは,聞き取り 調査などで明らかになった移動者の移動理由についても言及する.最後に,
分析結果を踏まえた小結をⅤで述べる.
Ⅱ 研究対象地域
本研究の対象地域は,岐阜県揖斐郡旧坂内村(以下,単に坂内村と表記す る.)である(図1).岐阜県の西部に位置し,滋賀・福井の両県に接してい る.県庁所在地の岐阜市からは自動車で約1時間30分,県西部の中心的都市
藤橋村
坂内村
久瀬村 春日村 A
B D
C
大垣市 E 岐阜市
各務原市 関市
可児市 美濃 加茂市
0 10km
3.2以上 2.4~3.2未満 1.6~2.4未満 0.8~1.6未満 0.8未満 第1位対地
3.2以上 2.4~3.2未満 1.6~2.4未満 0.8~1.6未満 0.8未満 第2位
図1 対象地域の位置と周辺町村の転出移動流(1994年10月~1999年9月)
Fig.1 Study area and regionalization by out-migration flow
資料:岐阜県人口動態統計調査による 注)2番目に多く転出した市町村へ,最も多く転出した市町村の90%以上の人数が転出している場合は,
ほぼ同様の重要性を有する転出先ととらえ,破線の凡例もしくは矢印で示している.
また,岐阜県内の市町村からの転出者の最多の転出先は,全ての市町村で県内の市町村である.
滋賀県
愛 知 県 福 井 県
岐 阜 県
岐阜市 大垣市 関市 美濃加茂市 その他
(その他の場合は, 矢印で示した)
各市町村からの転出者の,
最多の転出先となった市町村
A:揖斐郡揖斐川町 B:揖斐郡池田町 C:揖斐郡大野町 D:安八郡神戸町 E:本巣郡穂積町
図1 対象地域の位置と周辺町村の転出移動流(1994年10月〜1999年9月)
Fig.1 Study area and regionalization by out-migration flow 資料:岐阜県人口動態統計調査による.
注)2番目に多く転出した市町村へ,最も多く転出した市町村の90%以上の人数が転出している 場合は,ほぼ同様の重要性を有する転出先ととらえ,破線の凡例もしくは矢印で示している.
また,岐阜県内の市町村からの転出者の最多の転出先は,全ての市町村で県内の市町村であ る.
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である大垣市からは自動車で約1時間である.面積は153.26km2で,その大部 分を山林が占める.地質的には古生層からなり,外帯とよく似た地形が広 がっている(藤田1981:93).揖斐川支流の広瀬川を中心に枝状に分かれた小 河川の流域の河岸段丘,埋積谷を中心に集落が立地し,耕地が開かれている が,その規模は小さい.またこの地方は,冬季には1日に1mを越す積雪を みることもある豪雪地帯であり,年降水量は3,000mm程度に達する.
2000年国勢調査による人口は663人,人口密度は4.3人/ km2であった.人口 の減少は図2に示すように,1947年以降一貫して続いてきたが,とりわけ 1960年代以降の減少は顕著であった.伊藤(1969)は,1964,67年の坂内村 からの転出動向を調査し,世帯主・長男の転出や挙家離村が多くみられた ことや,中学卒業後にほとんどの者が離村していることを明らかにしてい る6).こうした人口流出に伴う人口減少は,同時に高齢化を招いた.出生 コーホート別人口の変化を示した表1からは,1960年代以降の15歳以上の コーホート規模の著しい縮小傾向と,とくに1990年以降の高齢人口比率の増 加が確認される.2000年国勢調査による65歳以上の高齢人口の割合は48.6%
に達し,この数値は全国の自治体の中で5番目に高いものであった7). 図2
0 500 1000 1500
0 500 1000 1500 2000 2500 3000
1947 1950 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 世帯数
人口
年
図2 坂内村の人口と世帯数の変化 Fig.2 Changes in Population and
the number of households 人口 世帯数
資料:国勢調査 図2 坂内村の人口と世帯数の変化
Fig.2 Changes in Population and the number of households 資料:国勢調査
6)伊藤(1969)によると,1968年3月の中学卒業者54人のうち,村内の診療所に就職した1人 を除く53人が,進学・就職のために離村している.
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村の産業は農林業主体であったが,戦後,人口減少や高齢化とともに第一 次産業従事者が著しく減少した(図3).1960年に1,000人を超えていた第一 次産業従事者は,2000年にはわずか17人となった.また,第二次産業従事者 は1980年にかけて増加したが,その後2000年までに大きく減少した.結果と
出生年の区分は,国勢調査の基準日が10月1日であるため,各年とも10月2日生〜10月1日生の 期間である. 資料:国勢調査
7)高齢人口の生産年齢人口に対する比率を示す老年人口指数は113(全国では26),高齢人口の 年少人口に対する比率を示す老年化指数は585(同121)であり,数字の上からも,人口減少と 極端な少子高齢化が進行した過疎山村の様相をみることができる.
表1 出生コーホート別人口の推移(1960〜2000年)
Table1 The population change by cohort(1960-2000)
出生年 1960年
の年齢 1960年 1965年 1970年 1975年 1980年 1985年 1990年 1995年 2000年 2000年 の年齢
1995-2000 15 0-4
1990-1995 15 18 5-9 A
1985-1990 24 19 22 10-14
1980-1985 20 26 25 22 15-19
1975-1980 29 29 32 30 26 20-24
1970-1975 29 33 35 20 28 23 25-29
1965-1970 57 58 56 43 16 21 19 30-34
1960-1965 160 121 109 30 23 23 26 22 35-39 B
1955-1960 0-4 236 203 186 22 26 24 31 30 33 40-44 1950-1955 5-9 265 239 25 23 26 24 27 26 26 45-49 1945-1950 10-14 302 46 29 29 32 34 34 39 37 50-54 1940-1945 15-19 73 52 30 27 23 23 23 22 22 55-59 1935-1940 20-24 105 102 60 60 53 52 56 56 56 60-64 1930-1935 25-29 180 152 116 104 100 103 96 99 94 65-69 C 1925-1930 30-34 185 158 132 122 115 116 108 98 94 70-74 1920-1925 35-39 137 118 99 81 77 74 69 69 60 75-79 1915-1920 40-44 115 91 70 62 56 52 45 41 30 80-84 1910-1915 45-49 129 111 91 83 78 77 67 53 32 85-89 D 1905-1910 50-54 111 95 69 61 54 47 36 19 10 90-94 1900-1905 55-59 118 103 87 69 52 25 13 2 2 95-99 1895-1900 60-64 108 88 67 45 17 11 4 3 0 100-
1890-1895 65-69 75 51 32 19 7 2 0 0
1885-1890 70-74 47 36 24 7 0 0 0
1880-1885 75-79 34 16 6 2 0 0
1875-1880 80-84 24 10 3 0 0
1870-1875 85-89 4 0 0 0
1865-1870 90-94 2 0 0 1860-1865 95-99 0 0 -1860 100- 0
A:年少人口 803 602 364 196 118 84 82 59 55
B:生産年齢人口 1,261 1,028 721 613 538 516 434 377 286 C:前期高齢人口 122 139 154 130 132 129 114 167 188
D:後期高齢人口 64 62 65 73 76 85 120 118 134
合計 2,250 1,831 1,304 1,012 864 814 750 721 663 高齢人口比率 8.3% 11.0% 16.8% 20.1% 24.1% 26.3% 31.2% 39.5% 48.6%
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して2000年には,公務を中心とした第三次産業従事者の割合が最も高くなっ た.また,1996年の坂内村の産業別事業所数と従業者数(表2)をみると,
村内の労働市場が,サービス業を中心とした少数の事業所が存在する程度 の8),極めて限られたものであることがわかり,坂内村の経済基盤の脆弱さ をみることができる.なお,2000年国勢調査によると,坂内村に常住する15 歳以上就業者277人のうち,228人が村内で就業している.村外における主要 な就業先と就業者数は,揖斐川町(9人),大垣市(7人),岐阜市(5人)
の順となっている.
8)1994年発行の『タウン・ハローページ』によると,サービス業に属する事業所は,旅館(民 宿・山荘を含む)6件,庭石業4件,寺院3件,スキー場2件,郵便局1件,理髪店1件,ゴ ルフ場1件,薬湯1件の計18件であった.
図3 産業別15歳以上就業者数(1960・1980・2000年)
Fig.3 Employed persons 15 years of age and over by industry(1960, 1980, 2000)
0 200 400 600 800 1,000 1,200 1,400
1960年 1980年 2000年
(人)
図3 産業別15歳以上就業者数(1960・1980・2000年)
Fig.3 Employed persons 15 years of age and over by industry(1960,1980,2000)
農業 林業 鉱業 建設業 製造業 サービス業 公務 その他の第三次産業
表2 坂内村の産業別事業所数,従業者数(1996年)
Table 2 The number of establishments and engaged persons by industry in Sakauchi village (1996)
事業所数 従業者数
農林漁業 3 32
鉱業 0 0
建設業 10 38
製造業 3 37
電気・ガス・熱供給・水道業 0 0
運輸・通信業 2 17
卸売・小売業,飲食店 7 12
金融・保険業 0 0
不動産業 0 0
サービス業 18 102
公務 4 38
計 47 276
資料:『事業所・企業統計調査』
資料:国勢調査
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図1には,1994年10月〜1999年9月までの5年間における,岐阜県南西部 の各市町村から,最も多くの転出者の転出先となった市町村が示されてい る.
最も多くの市町村からの転出先となっているのは岐阜市であり,次いで多 いのが大垣市,3番目が関市であった.岐阜市への転出者が最も多い市町村 は広範囲に認められるが,関市の近隣町村では関市に,大垣市の周辺からそ の西南部においては大垣市に向かう移動が多い.都市の階層構造という視点 から見ると,岐阜市が頂点で,大垣市や関市はそれより低次の中心地性を有 し,揖斐川町がさらに低次の中心地である.本稿で対象地域とする坂内村は,
隣接する藤橋村・久瀬村とともに,揖斐川町への転出が最も多い.なお,揖 斐川町は岐阜市と大垣市への転出がともにほぼ同数で,多数を占めている.
坂内村からの転出者のうち,揖斐川町への転出者が最多であることは,坂内 村が岐阜県南西部においても最縁辺部に位置付けられることを意味してい る.
Ⅲ 対象地域の1985〜2000年における人口移動の概要
表3は,『人口異動調査票』データから,1985年4月〜2000年3月までの15 年間における男女・年齢(5歳階級)別の転入・転出数を集計したものであ る.各年齢に占める単身移動者の比率も併せて示した.対象期間における転 入者はのべ418人,転出者はのべ515人で,97人の転出超過であった.
転出については,年齢別では20代の転出者が合計で187人(全転出者の 36.3%),30代の移動者が81人(15.7%)に達し,20代・30代の転出者だけで 268人(51.1%)と全転出者の過半数を占める.40〜60代では各階級とも概ね 20人程度の転出であった.また,70歳以上の転出者は合計44人,15歳未満の 転出者は合計49人であった.男女差については,全転出者のうち男性が261 人,女性が254人とほぼ同数であったが,20代では女性の転出者が多く,30〜
50代にかけては男性の転出者の方が多い.40代・50代の女性の転出者数は極 めて少ない.各年齢層における単身移動者の比率については,20代では単身 移動の比率が極めて高いが,30代になると単身での転出者の割合が低くなる 傾向がある.また,親に随伴する移動がほとんどである年少人口の単身移動 の割合は低い.高齢の転出者については,実数の少なさの影響もあって年齢 階級によるばらつきがあるが,65歳以上の転出者のべ62人のうち,単身での
155
転出者がのべ32人と,ほぼ半数であった.転入については,20代・30代の年齢の転入者が多く,20代の転入者は134 人,30代の転入者は74人と,20代・30代の転入者が全転入者のほぼ半数を占 めている.40〜60代では各階級とも20人程度の転入がみられるが,70歳以上 の階級の転入者は合計で22人と少ない.一方15歳未満の転入者は68人
(16.3%)と,比較的多い.また男女別では,男性の転入者が224人(53.6%),
女性が194人(46.4%)で,男性の方が多い.ただし年齢別にみると,20〜24 歳では男性より女性の転入者が圧倒的に多く,30〜60代ではそれぞれ男性の 方がやや多いという傾向がある.単身移動者の割合については,転出者と全 く同様の特徴が指摘できる.
このように,転入・転出移動を行うのは20代・30代を中心とした若い年齢 層が多く,全体的に男性の移動者の方が多い傾向はあるが,若年層では女性 の移動者の多さも目立つ.高齢化が進んでいる中で,コーホート規模が小さ
表3 男女・年齢(5歳階級)別転出・転入数と単身移動者の割合 Table 3 The number of immigrants and out-migrants by sex,age and the percentage of single migrants
年齢 転 出 転 入
計 男性 女性 単身移動者とその割合 計 男性 女性 単身移動者とその割合 0-4歳 25 14 11 3 12.0% 29 19 10 2 6.9%
5-9歳 12 8 4 0 0.0% 23 15 8 1 4.3%
10-14歳 12 5 7 0 0.0% 16 9 7 1 6.3%
15-19歳 49 28 21 43 87.8% 11 5 6 11 100.0%
20-24歳 82 26 56 74 90.2% 74 20 54 72 97.3%
25-29歳 105 49 56 90 85.7% 60 29 31 46 76.7%
30-34歳 42 27 15 26 61.9% 40 24 16 18 45.0%
35-39歳 39 23 16 22 56.4% 34 23 11 18 52.9%
40-44歳 12 7 5 7 58.3% 19 15 4 12 63.2%
45-49歳 18 14 4 12 66.7% 20 14 6 15 75.0%
50-54歳 17 15 2 16 94.1% 19 14 5 15 78.9%
55-59歳 17 12 5 14 82.4% 11 7 4 6 54.5%
60-64歳 23 10 13 14 60.9% 20 11 9 13 65.0%
65-69歳 18 8 10 6 33.3% 20 11 9 7 35.0%
70-74歳 8 2 6 5 62.5% 7 3 4 4 57.1%
75-79歳 16 8 8 11 68.8% 6 2 4 4 66.7%
80-84歳 12 2 10 5 41.7% 4 1 3 2 50.0%
85-89歳 7 2 5 5 71.4% 3 1 2 2 66.7%
90-94歳 1 1 0 0 0.0% 2 1 1 1 50.0%
95歳以上 0 0 0 0 0 0 0 0
計 515 261 254 353 68.5% 418 224 194 250 59.8%
資料:『人口異動調査票』
156
い30代以下の移動者の割合が高いということは注目すべきであろう.
転入・転出移動者の属性と移動の空間パターンについては,表4・5の通 りである.転入・転出とも,岐阜県内の市町村との移動が圧倒的に多く,他 県では愛知県がやや多い程度である.県内の市町村別では,近隣の揖斐川町 や池田町との間の移動が多いほか,大垣市・岐阜市を中心とする都市部との 移動も目立つ.年齢ごとの傾向としては,近隣との移動者は40歳以上の中高 年層,都市部との移動は若年層の移動が主体となっている9).
Ⅳ 再転入・再転出移動
1.再転入・再転出移動を行う移動者の存在
『人口異動調査票』から同一人物による移動の回数を調べると,転入・転出 移動で調査票に複数回登場する移動者が272人確認され,この272人による転 入・転出の回数の合計が627回となった.転入移動を1回のみ行った移動者 は108人,転出移動を1回のみ行った移動者は187人であった.この合計295人 に272人を加えた567人が,検討対象期間の転入・転出移動者の実数であるこ とになる.したがって,実移動者数567人の約48%が,一往復以上の移動を 行ったということになり,こうした移動者が転出入移動に占める割合がかな り大きいことが確認された10).そこで以下では,転入→転出,及び転出→転 入の移動について詳しく検討していきたい.
なお本稿では,転入した後再び転出する移動を「転入→転出移動」,転出し た後再び転入する移動を「転出→転入移動」と呼ぶ.後者はいわゆる還流移 動であるが,後に述べるように還流移動とみなし得ない移動も含まれるの で,あえて「転出→転入移動」と呼ぶことにする.
9)都市部への転出者は全体に女性が多いという特徴もある.15歳以上の転出者の中で女性の 割合をみると,大垣市では15歳以上の転出者61人のうち,女性が38人(62.3%)を占めるし,
岐阜市では41人中27人(65.9%)が女性である.転入者については,大垣市・岐阜市で15〜24 歳の女性が多く,揖斐川・池田の両町では男性の転入者が多いことが注目される.都市部から の転入者は若い年代の女性が多く,揖斐川町や池田町からの転入者は中高年層の男性が多い ことになる.
10)転入・転出者数の合計はのべ933人であるので,若干数が合わないが,これは,職権消除の 処置がとられたものや,転入・転出届の重複提出,もしくは記載ミスと思われた事例が存在す るためである.重複提出や記載ミスの訂正は,移動の実態を知り得ない以上不可能であるた め,本稿の分析では,職権消除を転出に含めた上で,重複提出や記載ミスと思われたものにつ いても,総移動件数にそのまま含めた.
157
表4 主要な転出先への年齢・男女別転出者数 Table 4 The number of out-migrants by age, sex, and destination 年齢・性別 坂内村か
距離らの道路(km)
0-14 15-24 25-39 40-64 65- 計 転出先 男性 女性 男性 女性 男性 女性 男性 女性 男性 女性 男性 女性
岐阜県内
揖斐川町 25.5 4 3 6 3 17 12 17 8 9 14 53 40 池田町 30.7 0 2 4 1 6 3 8 3 2 4 20 13 大野町 31.7 0 0 2 2 3 3 2 2 1 1 8 8 神戸町 35.9 1 0 2 4 5 3 0 2 0 0 8 9 大垣市 41.3 2 2 7 19 14 13 1 3 1 3 25 40 穂積町 43.0 0 0 0 2 4 2 1 2 3 2 8 8 岐阜市 46.5 2 1 5 13 7 9 1 1 1 4 16 28 各務原市 57.5 6 1 0 0 4 6 0 0 0 1 10 8 関市 63.9 4 2 0 2 4 5 0 0 0 0 8 9 その他 5 7 15 12 26 19 17 2 1 1 64 41 合計 24 18 41 58 90 75 47 23 18 30 220 204 愛知県 名古屋市 82.0 0 0 3 2 1 2 2 1 2 2 8 7 その他 3 2 4 6 1 3 4 3 0 1 12 15 合計 3 2 7 8 2 5 6 4 2 3 20 22 その他の都道府県 0 2 6 11 7 7 5 2 3 6 21 28 転出計 27 22 54 77 99 87 58 29 23 39 261 254
資料:『人口異動調査票』
注)対象期間に15人以上が転出した市町を主要な転出先とみなして表に掲げた.また,表中の道 路距離は,坂内村役場から転出先の市役所・町役場までの道路距離を,Map Fan Webのルート 検索サービス(http://www.mapfan.com/routemap/index.html)によって求めたものである.
表5 主要な転入元からの年齢・男女別転入者数
Table 5 The number of immigrants by age, sex, and previous residence 年齢・性別 坂内村か
距離らの道路(km)
0-14 15-24 25-39 40-64 65- 計 転入元 男性 女性 男性 女性 男性 女性 男性 女性 男性 女性 男性 女性
岐阜県内
揖斐川町 25.5 2 0 1 3 8 3 14 10 10 6 35 22 池田町 30.7 2 1 0 1 3 1 6 2 3 4 14 9 大野町 31.7 3 1 0 2 0 3 7 2 0 0 10 8 神戸町 35.9 1 0 2 1 4 1 0 0 0 1 7 3 大垣市 41.3 7 3 4 14 16 10 1 2 1 2 29 31 岐阜市 46.5 2 1 2 4 4 5 2 0 0 3 10 13 各務原市 57.5 5 0 0 1 2 4 0 0 0 0 7 5 関市 63.9 2 2 0 0 3 3 0 0 0 0 5 5 可児市 79.0 3 2 0 0 2 3 0 1 0 0 5 6 その他 11 8 7 16 24 16 17 5 3 1 62 46 合計 38 18 16 42 66 49 47 22 17 17 184 148 愛知県 名古屋市 82.0 2 1 2 3 1 1 3 2 1 3 9 10 その他 2 3 1 8 2 2 4 3 0 0 9 16 合計 4 4 3 11 3 3 7 5 1 3 18 26 その他の都道府県 1 3 6 7 7 6 7 1 1 3 22 20 転入計 43 25 25 60 76 58 61 28 19 23 224 194 資料:『人口異動調査票』
注)対象期間に10人以上が転入した市町を主要な転出先とみなして表に掲げた.表中の道路距離 の求め方は,表4と同様である.
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2.転入→転出移動1)転入→転出移動者の属性と移動パターン
まず,転入→転出移動者についてみると(表6),対象期間に坂内村に転入 したのべ418人の転入者のうち,のべ253人が再び転出を行っていた.つまり 全体の転入者の6割以上は再び転出していることになる.この中には,一度 転出した後で再び転入し,さらにもう一度転出した移動者も含まれている.
こうした移動者の,年齢と転入後再転出するまでの期間別の人数をみる と,在村期間に関しては,およそ3年以内で再度転出する移動者が転入→転 出移動者の8割以上を占めることを特徴として指摘できる.その中でもおよ そ1年以内の在村後,再転出した移動者が113人(転入→転出移動者の約 45.1%)と,非常に多い.資料の制約上,1985年3月までと,2000年4月以 降の移動は考慮できないため,実際には転入→転出移動者であっても,在村 期間が長くなるほど集計から漏れる割合が高まる.しかし,短期間の滞在の 後に再度転出を行う移動者が非常に多いことは,傾向として指摘できよう.
また,年齢別の転入→転出移動者に関しては,随伴移動の多い年少人口を含 めて39歳以下の移動者が多く,転入→転出移動を行うのは若年層が中心であ るといえる.
また,若年層ほど転入後に再転出する移動者の割合が高い.とくに15〜24
表6 在村期間・年齢別の転入→転出者数
Table 6 Out-migrants having moved in by age and periods of staying in the village 在村期間\年齢 0-14 15-24 25-39 40-64 65- 計
在村期間別の転入↓転出者数
10日以内 1 0 1 2 0 4 35日(約1ヶ月)以内 0 2 2 1 1 6 100日(約3ヶ月)以内 5 12 11 4 1 33 190日(約6ヶ月)以内 2 10 13 8 0 33 375日(約1年) 以内 9 8 11 9 0 37 745日(約2年) 以内 9 9 14 8 4 44 1,105日(約3年) 以内 9 14 22 12 1 58 1,835日(約5年) 以内 1 5 9 1 1 17 3,670日(約10年) 以内 2 7 3 2 3 17 3,671日(約10年) 以上 0 1 0 0 2 3 合 計(人) 38 68 86 47 13 252 転入者総数(人) 68 85 134 89 42 418 転入者に占める割合 55.9% 80.0% 64.2% 52.8% 31.0% 60.3%
資料:『人口異動調査票』
注)年齢は,転入時の年齢である.
159
歳では,総転入者数85人のうちの80%にあたる68人が再転出している.15歳 未満では68人の転入者中38人(41.2%),25〜39歳では134人中86人(64.2%),
40〜64歳では89人中47人(52.8%)が再転出していた.一方,65歳以上では 42人の転入者中,再転出したのは13人(16.7%)と比較的割合が低い.この ように,若い年代の転入者の多くが再度転出する一方,高齢転入者は多くが そのまま村に留まっており,このことが高齢化の1つの背景にもなっている と考えられる.
2)転入→転出移動者の移動理由
こうした移動者の移動理由に関して,『人口異動調査票』の分析や聞き取り 調査から明らかになったものについて,以下に言及しておきたい.
転入→転出移動者の中で数が多いのは,教職員をはじめとする職業上の理 由による移動者である.教職員については,坂内小・中学校に赴任する教職 員の多くが村内の教職員住宅に居住するため,教職員の人事異動に伴う転 入・転出の移動が毎年生じる.対象期間における教職員とその家族の転入者 はのべ102人(教職員はのべ73人),転出者はのべ106人(同73人)確認され た.教職員として村に転入する移動者とその家族は,ほぼ例外なく再転出す る移動者であり,その赴任期間が一般的に3年間であるため,転入後3年間 村に滞在し,再び転出する場合が多い.また,校長や教頭として赴任する教 職員以外は,20代・30代の若い教職員がほとんどであり,この年齢層の転入
→転出者数の増加につながっている.なお,職業上の理由で転入し,将来再 び転出する可能性の高い移動者という点では,数は多くないが,県から派遣 される村の診療所の医師,駐在所の警察官,村内に事業所をもつ企業の社員
(及びその家族)なども同様である11).転入→転出移動者の総数が253人であ るから,このうちの半分程度が職業上の理由による転入→転出移動者である とみなして良いであろう.
このほか,元々村の出身者,もしくは出身者の子供が転入→転出移動者と なっている場合が多い.とくに,在村期間1ヶ月未満の転入→転出移動者の 大部分は,そのような移動者であった12).移動の理由としては,出産時に一 時的に実家に戻った移動者が確認されたほか,村長選挙の際の投票権を獲得 するために籍を村に戻した事例や,自家用車の車庫証明を取得する際に,便
11)企業の社員の例としては,村内に自社の発電所を持つ企業や生コン工場を持つ建設会社の社 員の転入者が挙げられる.
160
宜上駐車スペースがある実家に現住地を戻した事例が聞き取りから確認され た13).
3.転出→転入移動
1)転出→転入移動者の属性と移動パターン
対象期間における転出→転入移動者の人数はのべ98人であった(表7).転 出者総数のべ515人の2割弱にあたる人数で,転入→転出移動者に比べると 少ない.
転出→転入移動者の年齢,村外滞在期間別の人数をみると,転出後およそ 3年以内に再転入している移動者が約8割であるが,村外滞在期間がおよそ 1年以内の移動者が56人(転出→転入移動者の57.1%)おり,転入→転出移 動の場合と比較してより短期間の往復移動が多いといえる.なお,10年以上 村外に滞在した後で再度転入した事例は,対象期間の中では確認されなかっ た.
年齢・男女別にみると,転出後に再度転入する移動者の割合が高いのは40 歳以上の層で,40〜64歳では87人の転出者中29人(33.3%),65歳以上の高齢 人口では62人中19人(30.6%)が再転入していた.一方,15〜24歳では131人 の転出者中29人(22.1%),25〜39歳では186人中17人(9.1%)であり,再転 入率は低い.また村外滞在期間についても40歳を境に傾向が異なる.40歳以 上の移動者では,1年以内で村に戻る移動者の割合が高く,この中には一時 的・短期的な転出をした移動者が多く含まれていたことが推測される.他 方,40歳未満の転出→転入移動者は,1年間以上にわたって村を離れている 移動者が多い.
なお,転出→転入移動者のべ98人のうち,2000年3月末現在で坂内村内に 残留していたのは49人である.98人中48人が再び村外へ転出し,1人が死亡
12)『人口異動調査票』は年次・担当者によって記載方法が若干異なり,世帯主や世帯主との続 柄が記載されていない部分があるため,このことを具体的なデータとして提示することは困 難であるが,世帯主の氏名や続柄などの情報から類推できた限りにおいては,短期間在村者は 元々村内出身者であるか,出身者の子供である場合がほとんどであった.
13)なお,転入→転出移動者としてカウントされている移動者の中には,書類上は転入・転出を 行ったことになっていても,いわば「実体を伴わない」移動者も存在する.例えば,在村期間 10日未満の転入→転出移動者がのべ4人(実際は3人)存在するが,この3人はごく一時的な 必要性のために籍を移したと考えられる.在村期間がある程度長い移動者の中にも,実体を伴 わない移動者がある程度存在するものと考えられる.
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したためである.結局,1985年4月以降の15年間でのべ515人いた転出者の 中で,2000年3月末に在村していたのは49人に過ぎないことになる.転出→
転入の後,再度転出した48人14)のうち,のべ35人が15〜39歳である.15〜39 歳の転出→転入移動者数のべ46人のうちの35人が再度転出していることにな る.このことから,村に再転入した若年層の中でも実際に村に長期的に残る 者は多くないといえる.
2)転出→転入移動者の移動理由
転出→転入移動の理由としては,高校や大学への進学時に村を離れた後,
卒業と思われる時期で村に戻る移動者の存在が複数確認できた.村内や,通 勤可能な近隣市町村での就職をした場合に,実家に戻るという選択がとられ たことが推察される.
また,聞き取りによると,村出身者が村外で住宅を建設する際に,税制面 での優遇措置を得るために,村在住の親を住宅を建設している町へ転出させ るケースが多いとのことである.そして住宅建設が終わった後で親の籍だけ 村に戻すと,転出→転入移動者となる.ただしこのケースでは,親は実際に は村内に残っていることも多い15).
このほか,退職時に村に帰還した移動者が1名確認された.この移動者は 表7 村外滞在期間・年齢別の転出→転入者数
Table 7 Return migrants by age and periods of staying outside the village 村外滞在期間\年齢 0-14 15-24 25-39 40-64 65- 計
村外滞在期間別の転出↓転入者数
10日以内 0 0 1 1 1 3 35日(約1ヶ月)以内 0 0 0 2 0 2 100日(約3ヶ月)以内 0 0 1 6 9 16 190日(約6ヶ月)以内 2 2 1 6 4 15 375日(約1年) 以内 2 3 5 6 4 20 745日(約2年) 以内 0 4 1 3 0 8 1,105日(約3年) 以内 0 8 3 3 0 14 1,835日(約5年) 以内 0 7 4 1 1 13 3,670日(約10年) 以内 0 5 1 1 0 7 3,671日(約10年) 以上 0 0 0 0 0 0 合 計(人) 4 29 17 29 19 98 転出者総数(人) 49 131 186 87 62 515 転出者に占める割合 8.2% 22.1% 9.1% 33.3% 30.6% 19.0%
資料:『人口異動調査票』
注)年齢は,転出時の年齢である.
14)再度の転出後,再び転入して2000年3月末時点で村に留まっていた人数は含んでいない.
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退職前の勤務地で社員寮に居住しており,退職後に「村に戻るしかなかった」
ために,村内の実家に帰還していた.
また,転入→転出移動と同様の一時的・形式的な理由による移動も確認さ れた.転入→転出→転入→転出という移動を行ったために,転出→転入移動 者に数えられた移動者が16人存在した.このうちの8人については,職業上 の理由で転入した移動者(もしくはその家族)が,一時的に元の住所に戻っ た移動であることが確認できた.
なお,対象期間内で行き来を何度も繰り返した村出身の移動者が確認され た.生活の基盤を村外に持ちつつも,村内の実家との関係も密に保つような 状況であると推察される.
Ⅴ 小結
以下に,本稿の分析で得られた知見を概括しながら,そこから浮かび上 がった過疎地域の特性について言及し,結びとしたい.
まず,属性によって,移動の傾向に明瞭な差異があることが確認できた.
若年層の流出超過傾向が継続していることと,若年層の移動が都市部を含め て空間的に広範囲である傾向が認められた.既存研究では,山村地域に進出 した製造業などの雇用機会が,人口維持機能を果たしている側面が指摘され てきたが,雇用機会が限られる対象地域では,若年層の流出傾向が継続して いた.一方で,40歳以上の年齢層では,若干ではあるが転入超過傾向を示し,
また,移動の空間的パターンについては近距離との移動が多いこともわかっ た.移動者の移動理由を明らかにしていくことは課題として残されている が,世帯維持や高齢の親の介護などの理由によって,元々村の出身である移 動者が実家に戻る移動を行っている可能性が考えられる.
次に,往復移動を行った移動者が非常に多いことが確認された.中でも,
小中学校の教職員をはじめとする転入→転出移動者が,転入者全体に占める 割合が高く,転入者が定着人口となっていない状況が確認された.このよう に期間限定的に流入する人口が恒常的に存在している状態は,生産年齢人口
15)なお,親を村内に残したまま子供だけが村外へ転出する事例は多いが,聞き取りでは,子供 の方が町で一緒に住もうと親を誘っても,親の方が村を離れたがらずに残っていることが多 いという情報があった.なお,高齢者の場所への愛着に注目した研究として,田原・神谷
(2002)がある.
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が非常に少ない村内で,他地域からの流入人口によって地域を支える労働力 が確保されていることを意味している.また,頻繁に移動を繰り返す移動者 の存在も確認された.これは,実家を村内に残しつつも生活基盤を出身地の 坂内村内だけで求められない,もしくは,生活基盤が村外にありながらも実 家との関わりが強く残っている,といった生活状況を示しているとみること ができよう.
若年層で,転入後に定住する移動者は対象期間内では極めて少なかった が,今後もその傾向は続くであろう.ただし,40代以降の年齢では流入超過 の傾向も認められており,対象地域の高齢者の比率がますます高まる中,村 出身者の還流移動などによって,地域社会の維持に必要な人口の流入が,今 後も一定程度みられることは予想される.本稿で用いた資料では,対象期間 の制約もあり,長い期間の中で行われる還流移動については把握し得なかっ たが,前述のように,往復移動者の動向は,過疎地域の人口移動に大きな影 響を与えている.
本稿は,岐阜県坂内村の近年の人口移動の実態を『人口移動調査票』から 明らかにすることに主眼を置いたため,移動が生じた要因については,聞き 取り調査で明らかになった移動理由を補足的に述べるにとどまり,深く踏み 込むことができなかった.労働市場との関連性や社会地理学的な観点から,
移動行動の説明を行い,人口変動との関連性をより明示的に示すことが,今 後の課題であろう.今後,人口移動研究と地域研究を接合していく上でも,
移動理由に関する検討は重要な課題になる.
また,過疎地域が高齢化地域であることを踏まえれば,高齢者の人口移動 が過疎地域に与える影響が今後ますます大きくなるであろう.団塊世代の大 量退職時代を迎えた今日,引退者の移動に注目する必要性も指摘されている
(久保・石川2004,田原2007など).引退後に大都市圏を離れて地方に移住す る移動者の動向や,生活維持が困難になった過疎地域の高齢者の移動に着い て,さらに分析していく必要があろう.さらに,ツーリズムによる都市と農 山村との交流が人口の動向に与える影響なども,今後重要な視点となるであ ろう.こうした点の検討は,今後の課題としたい.
[付記]
本稿は,2001年3月に名古屋大学文学部に提出した卒業論文を,大幅に書 き改めたものです.卒業研究時から,その後の大学院在籍中まで,溝口先生
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には様々にご指導いただきました.末筆ながら,改めて深く感謝申し上げる 次第です.余談ですが,この卒業研究を受けて溝口先生からは「(この15年間 だけでなく)100年間の人口変化をたどりなさい」というご教示を頂き,この 一言が私の大学院での研究につながりました.先生の一言とともに,私のそ の後の研究の出発点になった卒業研究を,今回,思い出とともに寄稿させて いただきました.
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