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平成20年度 理数教育ステップアップ研修 実践記録

多様な考え方から統合性のある結論を導く授業の工夫

−中学校第3学年「中点連結定理」の指導を通して−

(実践者 五泉市立山王中学校 小田 慎)

中学校の数学では多くの定理を学習しているが、卒業間近の生徒に「中学校の数学でどんな定 理を勉強した」と聞いたときに、サッと出てくる定理は「三平方の定理」や「中点連結定理」

が多い。このことから、生徒は状態を表す定理よりも数値化や式化された定理の方に利便性を感 じ、 覚えやすいのではないかと考えた。

本実践では、台形の中点を結んだ線分の長さが三角形の「中点連結定理」を利用して求められ ることをもとに、 式化することを試みた。三角形の「中点連結定理」を利用するためには、補助 線の引き方を考えさせ、多様な考え方を導き出し、一般化したときの式を見比べて「統合的な見 方のよさ」や「数学の不思議さ」を感じ取れるように授業を展開した。

その結果、生徒は台形の中点を結んだ線分を他の辺の長さから求めたり、式で表したりして一 般化できる「数学のよさ」 を感じ取った生徒も多くいた。

1 「理数の面白さや深く追究する楽しさなどを味わわせる」ための構想

(1) 「理数の面白さや深く追究する楽しさなどを味わわせる」のとらえ

「理数の面白さや深く追究する楽しさなどを味わわせる」とらえとして「数学的なよさ」を感 じ取ることが第一ではないかと考える 「数学的なよさ」とは,一見違うように見える課題が系 統的につながっていたり,多様な考えが引き出せたり、一見多様に見える考えが1つに収束され たりすることである。したがって,これらを感得できる授業(=わかる授業)を構成することによ り,より数学的に価値の高い考え方に気づき,数学的なよさを感じ取る姿勢が見られるようにな ると考える。

具体的には以下の点に考慮し授業を展開していく。

①多様な考え方が導き出せる課題開発の工夫・・・ 多様な考え」

どの生徒も自分なりのアプローチができ,自分の考えだけでなく周囲の考えを聞くことで より価値の高い考え方を追求できるような多様な考えを引き出せる課題を開発する。

②一般解に収束するなどのかかわり合いの工夫・・・ 統合性」

単元もしくは授業の収束場面において,多様な考えを1つに収束したり,場面ごとにそれ ぞれのよさを比較検討したり,さらにはより発展できるような収束の仕方の働きかけを工夫 する。

③自分なりの解決の見通しが持てる課題提示方法の工夫・・・ 系統性」

既習事項からWhat if notの手法による条件変更で,本時の課題を提示すること- - に結びつけ,解決の見通しがもてるよう系統性のある課題提示の方法を工夫する。

(2) 図形領域における生徒の実態

全体的に図形領域を苦手としてる生徒が多い 「分からない」という理由が最も多く聞かれる

(2)

意見である。どうして分からないのか考えてみると,性質や定理を断片的に覚えていたり 「こ うだ!」というように内容だけを覚えていたりする場合が多く,なぜそうなるのかを尋ねると答

えられないことが多くみられた そのため 友達にもなかなか自分の考えを伝えることができず 学習内容の定着にも影響がみられた。

こうしたことから,昨年度の2学期からの図形領域「図形の性質の調べ方」の単元では 「系 統性 「多様な考え 「統合性」を踏まえた課題の作成・提示を心がけ,流れのある授業展開を 試みてきた。具体例として「図形の性質の調べ方」の平行線では,

(ア) ℓ//m (イ) ℓ//m (ウ)

ℓ ℓ

a+b=180゜ a+b=x a+b+c=x

(ア)の同側内角の和が180゜ということから,What‑if‑notの手法を用いて(イ)の 平行線内で屈折したときの角度について考えさせた。平行線を引く・延長線を引き三角形をつく る・垂線を引くなど多様な考え方から解答を求め,a+b=x の一般化された式を導き出すこ とができた。(ウ)では,平行線ではなかったらということで,(イ)の考え方を基に多様な考え方 から解答を求め,一般化された式を導き出すことができた。ここでは,(イ)での自分の求め方と 友達の求め方を比較して,平行線や延長線を利用した求め方が大部分であった。

この流れでは,生徒の間でも「なるほど 「すっげぇー」などの声が多く聞かれ,定着度の向 上につながったと感じている。

また 「図形の性質の調べ方」の単元では,図形の基本的な性質がたくさん出てくるため「既 習事項確認表」を配布し,授業で分かったことをその表にまとめることをさせてきた。生徒の間 では,好評で授業やテスト前などに役立てていた。

本単元でも上記のような流れで授業展開をしていくことが望ましいと考ており 既習単元の 三 角形・四角形・円」と対比させながら性質や定理を定着させていきたい。

(3) 本単元での「理数の面白さや深く追究する楽しさなどを味わわせる」のとらえ

中学2年生では,三角形の合同条件を使って三角形や平行四辺形,円の基本的な性質を観察や 操作活動を通して推論し,論理的に確かめることを学習してきた。本単元では,三角形の相似条 件を使って考察を進めていく。また,日常生活で見かける物に対してかかわりを見いだし,実測 を取り入れるなどして活動的な授業をしていきたい。

三角形の相似条件は,三角形の合同条件と対比させながら直感的,実証的に取り扱う。平行線 と比の性質や中点連結定理は,これまで学習してきた多くの性質とは違って,中学校で初めて知 るものである。図をかいたり測ったりという操作活動を通して推論し,事前に学習している相似 な図形の性質や相似条件を用いて一般化できるようにしたい。

また 図形の分野は本校数学部で研究を進めている統合性などを実践しやすい単元であるため 意図的・計画的に取り上げていきたい。

(4) 本時における「理数の面白さや深く追究する楽しさなどを味わわせる」指導構想

本時の学習目標

(3)

・中点連結定理を利用して問題を解決することができる。

・一般解を式化することができる。

本時における具体的な手立て

本時においては一般化・統合化を図るため 課題把握・追究・解決の3つの授業構成を考えた

課題把握の場面では 台形の平行でない辺の中点を結んだ線分の長さを実測により求めさせる そこからどうしてその長さになるのかを,対角線によって分けられた2つの三角形から中点連結 定理を利用して求められることを論理的に考えさせた。そして,いくつかの具体的な数値で確認 した後に一般化された式を考えさせる。

課題追求の場面では,前場面で追求した線分が2本の対角線によって3つに分割されたときの 線分の長さを求める。課題把握と同様な流れで,実測から論理的な考え方を見つけ出し,具体的 な数値で確認した後に一般化された式を考えさせる。

課題解決の場面では,課題把握と課題追求の場面で一般化された式を見比べさせ、パソコン上 での操作を通して「統合性」から数学のよさや不思議さを感じとらせていく。

本時の流れ

課題把握の課題 (ア)

(課題A)

AD BCの台形ABCDがあります。ABの//

中点をM,CDの中点をNとしたとき,線分

MNの長さは何㎝。

10

MNを実測させる。

どうしてMN=8㎝ になるのか、補助線を引かせ考えさせる。

類題を提示する。

AD=x、BC=yとして、MNの長さを一般化させる。

課題追求の課題 (イ)

(課題B)

課題Aの台形ABCDがあります。そこに2本 の対角線を引いたとき,MNと交わります。その 交点をP,Qとしたとき,線分PQの長さは何㎝

になるかな。

10

PQを実測させる。

どうしてPQ=2㎝ になるのか、補助線を引かせ考えさせる。

(4)

類題を提示する。

AD=x、BC=yとして、PQの長さを一般化させる。

課題解決の場面 (ウ)

パソコンを利用し、三角形から台形に変形させたときも中点連結定理が活用できる「統合性」

を伝えるとともに、一般化した式からも「不思議さ」を感じ取らせたい。

課題A 課題B

x/2 (x+y)/2 (x−y)/2

2 授業の実際

(1) 課題把握の場面

(課題A)

AD BCの台形ABCDがあります。ABの//

中点をM,CDの中点をNとしたとき,線分

MNの長さは何㎝。

10

実測する

始めに実際の大きさの課題Aを提示し、実測でMNの長さを求めさせた。この段階で 「上底 と下底の長さの真ん中だ」ということに気づくつぶやきが聞かれた。中学生で実測をさせること が必要かどうか賛否両論あるだろうが、苦手な子や何も手立てが浮かばない子に対しても興味や 見通しを持ってもらいたいために行った。

どうしてそうなるのか、根拠を考える。

「補助線を1本引いて考えてみよう」という発問から、自力で考えることができた生徒が29 名中11名、周囲の仲間や机間支援でのヒントから分かった生徒が17名いた。

対角線で三角形2個に分割 平行四辺形と三角形に分割

自力で1つの方法を考えることができた生徒に対しては、他の方法も考えさせた。結果的には 上記2つの考え方は同数ぐらいの割合であった。しかし、机間指導からよると図形が苦手な生徒

(5)

は一方向からの見方でしか考えておらず、平行四辺形を活用している場合が多かった。図形は、

用紙を回して見るなどの多方向から見ることで何か糸口が見つかることをこれまでも指導してき たはずだったが、まだ徹底されていないと感じた。

その後、代表生徒に上記の2つの考え方を提示してもらった。提示した図を見て、1通りの考

え方しか考えられなかった生徒の口から そっか すげぇ などの感嘆の声が素直に出ていた こういった声は、今後も大切にしていきたい。しかし、この場面で生徒自身に説明してもらえば 理解が深まったと思うが、時間の関係もあり、教師側が説明してしまったことは反省点である。

類題を提示する。

数値の違うだけの同じ形の台形だったため、生徒はスムーズに答えを導くことができていた。

目先を変えて、形の違う台形(等脚でない)でもよかったのかと考える。

AD=x、BC=yとして、MNの長さを一般化する。

x yなどの文字を使って式化するときに もっと困惑した表情で取り組むと予想していたが

とても意欲的に取り組んでいた 自力で答えを導き出した生徒が17名もいたことに少し驚いた 発表から出てきた式は以下の3通りである。

(x+y)

(10名) (5名) (2名)

左から順に生徒のプリントに多く記入されていた式であ るが、どの式も式変形をすればつながりのある式であるこ とを板書で伝えると納得の表情をしていた。

(課題B)

x+y

(6)

課題Aの台形ABCDがあります。そこに2本 の対角線を引いたとき,MNと交わります。その 交点をP,Qとしたとき,線分PQの長さは何㎝

になるかな。

10

実測する。

課題Aと同様にスムーズに実測を行った。この段階ではつぶやきは聞こえなかったが、何か式 がありそうだと考えている生徒はいた。

どうしてそうなるのか、根拠を考える。

この課題Bは、すでに対角線が引かれておりいくつかの三角形ができているため、どの三角形 を利用して考えるかが問題となってくる。自力で考えることができた生徒は29名中11名、周 囲の生徒や机間支援でのヒントから分かった生徒が16名いた。課題Aとほぼ同数であった。

発表してもらった考え方は以下の2通りである。

(ア) 左右の三角形に着目した考え方

㎝ ㎝

10 10

MQ=5㎝ PN=5㎝

PQをMQとPNの重なった部分と考えて PQ=(MQ+PN)−MN

=(5+5)−8

=2㎝

(イ) 上下の三角形に着目した考え方

10

PN=5㎝ QN=3㎝

PQをPNからQNをひいた残った部分と考えて PQ=PN−QN

(7)

=5−3

=2㎝

類題を提示する。

課題Aと同様に、集中し納得して発表・説明を聞いていたためスムーズに解答を導いていた。

AD=x、BC=yとして、PQの長さを一般化する。

自力で求めることができた生徒は13名と、課題Aのときよりは若干減少していた。生徒の発 表から出てきた式は以下の通りである。

(x−y)

(7名) (2名) (4名)

課題解決の場面では、パソコンを使い視覚的に提示した。

「三角形の上の頂点を底辺に平行にして移動させると・・・」

課題A 課題B

x/2 (x+y)/2 (x−y)/2

三角形の中点どうしを結んだ線分が、台形になると伸びてくることに「すげぇ」などの驚きの 声を聞くことができた。

3 実践の考察とまとめ

(1) 実測について

長さを測るということは小学校での活動であるが、あえて今回は行ってみた。数学が苦手な 生徒や課題解決で何も手立てが浮かばない生徒に対して、少しでも興味関心を持ってもらうた めでもあるが、その数値から関係性を予測してもらいたい意図があった。課題Aでは 「上底

と下底の真ん中だ という生徒の つぶやき からこの意図が達成されたようにように思うが 課題Bでは「つぶやき」が私の耳には聞こえてこなかった。生徒にとって、引き算という考え 方を予測することは難しいのだと感じた。

(2) 多様な考え方について

課題Aでは、必要最低限の線でできた図であるので「1本の線を引いて考えてみよう」とい う条件を提示して考えさせた。結果的には予測した2通りの考え方で収束したが 「線を引い て考えてみよう」というように本数を限定しないで提示したなら、もう少し多くの考え方で導 きだせたのかと考える。例えば、下図のように上底にあわせて垂線を引き、2つの三角形と

x−y

(8)

長方形から考えていく方法である。

課題Bについては、すでに対角線など多くの線が引かれてある図なので、どういう視点から 見るかが大切になってくる。予想した2通りの考え方が発表されたことはよかったのだが、ま だ一定方向からしか見ておらず、課題が手につかない生徒もいた。前記したように、図形は用 紙を回して見るなどの多方向から見ることで、解決の糸口が見つかることをこれまでも伝えて きた。実際、用紙を回したり顔を横にして考えている生徒もいたが、全員に浸透はしていなか った。今後もこの点は、1年生の段階から徹底していく必要があると考える。

(3) MN,PQの長さの一般化について

x、yの文字を使い式化することに対してもっと抵抗感があると予測していたのだが、それ ほど抵抗や不安なく取り組んでいたことに少し驚いた。

PQの一般化については、課題Aより課題Bで考察する方がよいと考えた。

(ア)左右の三角形から考えた生徒 (イ)上下の三角形から考えた生徒

プリントに記入されている式は(ア)の割合が高かった。式変形すると結果的 に式としてはど れも同じであるが、どの方向から考えた式かが分かり、生徒の視点に気付くことができた。

また、授業後のアンケートから「式にすることは便利か」という項目では、29名中27名 が「便利だ」と感じていたが、課題AとBの式の比較では「足した式」と「引いた式」の不思 議さや美しさをあまり上手く伝えることができなかった点が反省としてあげられる。

(4) おわりに

今回の授業の反省・改善点としては、課題が多すぎて時間が足りなかった点が1つある。課題 Aだけで1時間を使った方が、生徒の「つぶやき」を全体に広げ、条件提示を変えることからさ らに多様な考え方も出てきたのではないかと考える。

授業後の感想からは、式化することは便利で「数学のよさ」であると感じ取った生徒も多くい た。しかし、式は忘れてしまうと答えが導きだせない 「どうしてそうなるのか?」の疑問や根 拠を大切にして、多様な見方・考え方から統合的な式が生まれてくることを生徒に伝えていかな ければならないと感じた 「数学のよさ」=「式化」だけでなく、生徒にそこへ行き着くための

「過程」を根拠や理由とともに考えさせ、しっかりと伝えていかなければ「数学のよさ」を感得 することには至らないと考える。

x−y

参照

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