特 集 病院と地域をつなぐ患者支援のあり方
病院から退院した患者が地域で暮し続けるための連携
株式会社楓の風
野島あけみ
1.
は じ め に筆者は臨床看護,行政保健師,地域病院在宅医療 チーム立ち上げに従事後,大学教員を経,12 年前 より現職である楓の風グループへ経営参画し「最期 まで家で自分の人生を生きる」をコンセプトに主に 訪問看護事業の経営・運営を行っています.
保健師として家庭訪問を始めた当時は,ふかふか のお布団の上で寝返りもできず,壁につかまって立 ちあがることもできずに大切にされている高齢者に お会いする事も多く,背中を支え起き上がっていた だくと背部全体に褥瘡ができていたということもし ばしばありました.別の高齢者への訪問では,お風 呂を洗い,布団を干し,おかゆを焚き,お風呂にお 湯を張り,入浴を介助し,そして洗濯もという盛り 沢山な業務でした.その後,寝たきり予防事業から 始まり,訪問診療,訪問看護が始まり,介護保険が 導入され在宅療養支援サービスは当時と比較できな いほど充実しました.現在は,ふかふかのお布団に 埋もれる方に出会うことも,看護師がお風呂を洗 い,おかゆを作ることもなくなりました.
さまざまな課題を持ちながらも,この 30 年間は,
高齢社会に向け医療・介護が大きく前進したことを 実感します.このドラスティクな変化の時を,地域医 療,在宅療養支援に身を置き学んだことは,制度も システムも,そこに魂を入れ,育てるのは一人ひとり の医療・介護・福祉に携わる当事者であるということ です.現在日本は,これまでに,どの国も経験したこ とのない高齢社会への処方を模索しながら前進して います.「社会保障と税の一体改革」は,医療・介 護・福祉に加えて税制,財政を包含した大きな改革 を目指しています.本稿は,医療・介護・福祉の現 場の一人ひとりが,これからの更なる変化に臨む姿勢 を,共に考える機会として執筆させていただきます.
2.
「切れ目のない医療」への一つ目の スタートラインは「目的の共有」多くの人々が,あるいは多くの組織が協働し一つ のことを成し遂げようとした時には,詳細な計画の 前に『目的』の共有が必須と言われています.本稿 のテーマは「病院と地域医療の連携」ですが,この 連携においても,方法論の前に「何のために」とい う目的を,病院側も地域側も認識していることが,
スタートにおいても,プロセスにおいても重要で す.病院と地域の関係は「場」が違う,立場が違う,
姿も見えないという,いわば双方「手探り」の関係 ですので,目的の共有は更に重要と言えます.そし て,病院と在宅医療機関と言う組織レベルでの共有 や理解だけでなく,双方の組織の一人ひとりが,連 携の目的を理解し,自身の目的としていることも必 須と感じます.
目的は高齢・少子・人口減少のこれからの社会 で,効率的で質の高い医療を構築・存続させ,世界 に誇る長寿,国民皆保険,フリーアクセサスという 日本の医療を守るため,そしてその方策である地域 医療構想,そして地域包括ケアシステムを展開する ためには,病院医療と地域医療が連携し「切れ目の ない医療」提供を行うことが不可欠ということです.
地域医療構想(図 1)は,2025 年に向け,病院を 含む一定の地域(エリア)のこれからの医療提供体 制を,将来の需要予測と,既存の資源の有効活用の 視点から計画し,高度急性期機能,急性期機能,回 復期機能,慢性期機能の各医療機能を適切に配置し ましょうという構想です.高齢者人口の増加には大 きな地域差があり,また既存の医療資源にも地域差 があります.これらの地域による差異を踏まえて,
地域に合わせて効果的,効率的に医療機能配置を促 し,患者の状態にあった良質な医療が受けられる体
制を整えようと言う考え方です.
筆者は,東京,神奈川エリアで訪問看護ステー ション経営を行っていますが,同じ神奈川県の中で も,例えば藤沢と平塚のように隣接した地域でも高 齢化の状況,病院や施設の数,在宅医療の浸透,交 通の便,住環境,家族構成等々,随所に差異を実感 します.広く国内を見渡すと東京,埼玉,神奈川な どの首都圏の高齢化は今後更に大きくなりますが,
山形,秋田などは既に高齢社会を通過し高齢者減少
となっています.医療資源である,病床数も人口当 たり最も多い高知県と最少の神奈川県では 4 倍以上 の差があります.このような地域の高齢化と医療資 源の両方から,その地域に最適な地域医療を構想す ることが求められています.
もう一つの柱となるのが地域包括ケアシステム
(図 2)です.高齢社会,少子社会の中で重度の要 介護状態になっても住み慣れた地域で自分らしい暮 らしを人生の最期まで続けられるよう住まい,医
図 1 地域医療構想について(平成 27 年度都道府県等 栄養施策担当者会議資料)
図 2 地域包括ケアシステム(平成 28 年度版厚生労働白書)
療,介護,予防,生活支援を一体的に提供できるシ ステムを地域に即して整備するもので,この地域包 括ケアシステムも地域医療構想同様の理由から,地 域ごとに策定することとしています.更に,ここで 特記すべきことは行政サービス,社会保障の枠組み だけでなく,地域の人々の力,自助,互助を活性化 し,積極的に活用,参加することがシステムの思想 に組みこまれている点です.
地域医療構想,地域包括ケアシステムの二つの取 り組みにより,効率的で質の高い医療の構築・存続 を目指そうとしています.
病院や介護事業所等の組織が,時代の変化を認識 し,目的達成に向かう姿勢を持ちながらも,現場で 働く各個人に,この時代感覚がないことを常々感じ ます.例えば,弊社へ入職される看護師や社会福祉 士の方に地域医療構想,地域包括ケアシステムにつ いて質問しても大方の方は「よくわかりません」と 言われます.中には臨床経験が 10 年,20 年と言う ベテランや病院で管理職をされていた方もいます が,それでも地域医療構想については聞いたことが あるものの,地域包括ケアシステムに至っては,聞 いたこともないという方がほとんどです.それどこ ろか「前職では,病院の方針で患者に退院を迫って ばかりで患者がかわいそうだった」と,病院方針に 非があるように捉えている方もあります.
また,訪問看護ステーション開業の際に,地域病 院へ開業のご挨拶に伺いますと,対応してくださる 退院調整や相談室のご担当者から「転院もできな い,施設にも入れないお気の毒な方がいますので,
訪問看護の支援で家でも生活が可能なら助かりま す.」と言う返答を受け気落ちさせられることもあ ります.ご対応いただいた方は日本の医療・介護が 地域医療構想,地域包括ケアシステムにより「可能 な限り地域で生活する」という目的に向かっている ことをご存知ないのかとも思え,残念ながら,この 退院支援担当者では,この病院の在宅復帰は進まな いだろうと感じさせられます.
このような残念な思いをさせられるのは,何も病 院に勤務する医療者からだけではありません.周囲 の在宅医療機関やケアマネジャーからも「早く病院 に入れてあげなければ可哀そう」「こんな重度の方 は家では無理」と,いとも簡単に,そして病院や施 設が最良の療養環境と言う発想で在宅療養者を病
院,施設へと誘導していく場面にも遭遇します.
地域医療構想,地域包括ケアシステムの理念,哲 学,そして時代のニーズ,国のニーズを的確にとら え,その中での自分自身の役割を自覚し,実践して いく医療・介護・福祉従事者が病院にも地域にも求 められます.一人ひとりの医療・介護・福祉従事者 が,当事者として自覚する事が,「切れ目のない連 携」への一つ目のスタートラインと感じます.
3.
「切れ目のない医療」への二つ目のスタート ラインは「相互補完関係」の認識地域医療構想は全国からの報告を受け 2025 年の 病床必要数を高度急性期 13.1 万床,急性期 40.1 万 床,回復期 37.5 万床,慢性期 28.4 万床と計画して います.回復期病床は約 25 万床の増床を必要とし ますが,それ以外の高度急性期,急性期,慢性期は いずれも病床減少を見込んでいます.加えて「将 来,介護施設や高齢者住宅を含めた在宅医療等で追 加的に対応する患者数を 29.7 〜 33.7 万人程度」と 計画に読み込んでおり,この部分が地域包括ケアシ ステムを主体として担う部分と言えます.地域医療 構想と地域包括ケアシステムの連動性は明確には言 われていませんが,地域医療構想が示す数字から は,地域包括ケアシステムとの当然の連動を包含し ていると考えられます.要は,地域医療構想は地域 包括ケアシステムが稼働しなければ完成しないこと になります.
限られた医療資源を適切な時,適切な患者に集中 的に投入できる事とは,救急対応を必要とし,ベッ ドを必要とする人がその必要な救急医療を受けられ る体制,入院できる体制を構築することです.この 病院医療の使命が全うされることを担保するのが在 宅医療の使命と言うことになります.これを在宅医 療側の視点からみると,安心して在宅療養を行うた めには,必要な時に利用できる病院,バックベッド の存在は必須です.そして,在宅療養拡大を阻む理 由の一つが,さまざまな調査でも伝えられるように
「何かあった時に入院できるか心配」「退院したらも う病院には入れないから,何かあった時を考えると 転院したい」という声です.前述のように,在宅医 療は病院医療の健全化という使命を持ち,病院医療 終了者の「受け皿」としての役割を持ちます.また その逆に,在宅療養者はいざと言う時に必ず受診,
入院できる在宅療養の「受け皿」として病院を必要 としていると言うことになり,病院と在宅医療の関 係は双方が,双方にとっての「受け皿」であると同 時に,「受け皿」を必要とする,相互補完関係と言 えます.健在な病院医療の為の在宅医療,在宅療養 選択のための健全な病院医療の関係は「卵が先か,
ニワトリが先か」の関係とも言えますが,大切なの は,この関係性を双方が理解し,承認し,尊重して いることです.それが切れ目のない医療を叶える二 つ目のスタートラインと感じます.
4.
「切れ目のない医療」への三つ目の スタートラインは「全員参加」地域医療構想の中では,医療提供側だけでなく医 療を利用する国民に対しても「国民は,良質かつ適切 な医療の効率的な提供に資するよう,医療提供施設 相互の機能の分担及び業務の連携の重要性について 理解を深め,医療提供施設の機能に応じ,医療に関 する選択を適切に行い,医療を適切に受けるよう努め なければならない」とその責務を求めています.
また,地域包括ケアシステムは前述の通り,自 助,互助の必要性,重要性を基本理念の一つにおい ています.自分のことは可能な限り自分で行う,そ れでも不足することは助け合うという考え方を基本 として,医療・介護・福祉事業以外の,地域住民が 個人として,地域住民グループとして,それぞれ が,健全な医療の存続のための役割と責務を持つと いうことです.
この概念はとても新鮮に感じます.これまで医療・
介護において客体,ケアを受ける者として存在した 当事者と,当事者周辺の人々が,単なる客体ではな く,主体的参加者,変革者となるという発想です.
このことを,本人自身,国民一人ひとりが自覚する のと同時に,医療・介護・福祉従事者には,患者・
利用者とその人を囲む家族や地域の人々を客体でな く主体としてとらえ,彼らの持つ力を活かす支援に シフトすることが求められていることを自覚,認識 することが,三つ目のスタートラインと考えます.
5.
スタートラインの上での相互理解と相互尊重 さて,ここまで目的を共有して,一人ひとりが当 事者として高齢社会を歩みましょうと言うお話をさ せていただきました.次に,全くもって矛盾することをお話するようですが,同じ目的を持ちつつも,
病院医療と在宅医療の目標は異なることを共有した いと思います.
患者が病院に入院するのは,病気を治すため,症 状を改善する為という明確な目標があり,「病気を 治す為,少しでも良くする為」という暗黙,当然の 目標を患者,医療者が共有しています.在宅医療は どうでしょうか,在宅療養者は病気を治すために在 宅療養しているのではなく「自分の暮らし」をする ために「在宅医療」を利用するにすぎません.在宅 医療を利用される多くの方は,病院での治療効果が これ以上期待できない慢性疾患や末期の方々です.
彼らは,病気はあるけれど,障害はあるけれど「最 期の時まで自分の場所で暮らす,自分の人生を生き る」ことを目標として在宅療養を選択した方々であ り,その目標を可能にするためにケアするのが,在 宅医療であり「支える医療」です.
読者の多数の方は病院,臨床で医療を提供されて いる方と思いますので,この「支える医療」と言う 言葉は分かりにくいと思いますし,病院だって「支 えている」と思われることと思います.そこで,胃 瘻栄養を持って在宅療養される方の例で「支える医 療」を少しご説明させていただきます.
胃瘻栄養は生命予後,QOL の改善を可能とし,
その上,管理が簡便,投与法や栄養学的効果も他の 人工的水分・栄養補充法より優れているということ で,多くの患者に適応されてきました.しかし,食 べられなくなっても長く生きることが,その人の幸 せなのかという極めて根源的で哲学的な問題が問い 始められ,病院でも,胃瘻造設にかかわる医療者 は,胃瘻を造設することにも,胃瘻増設をしないと 判断することにも,双方に倫理的な課題を感じてい ることと思います.このような論議の中で,胃瘻を 持ち退院する方がいるのも現実です.そして,胃瘻 の持つ「胃瘻ライフ」を送ります.在宅療養を支援 する医療者は,胃瘻管理を行うのではなく,胃瘻を 持つ生活「胃瘻ライフ」を支援します.胃瘻栄養で の退院増加により自宅での生活に合ったご家族でも 日々継続できる負担の少ないケア方法が病院からも 指導されています.病院医療者から在宅医療側への 申し送りも洗練されたものになり,結果,在宅にお ける胃瘻管理の課題は縮小しました.しかし,在宅 医療で行うのは,胃瘻管理ではなく,胃瘻を持ち生
活する人の胃瘻ライフの支援です.ご本人,ご家族 は,退院後の生活の中で胃瘻選択の判断の是非を ずっと問い続けることになり「病状や容態が改善す るわけでもなく,本人にとって良かったかどうかわ からない胃瘻のために,ケアを継続していかなけれ ばならない」という気持ちを抱えながらも毎日一日 3 回,胃瘻栄養の注入やケアを行い続けることにな ります.このご本人,ご家族の思いに気づき,支え るのが在宅医療,すなわち支える医療です.在宅医 療を行う医師,看護師は,このご本人やご家族の思 いに対して,胃瘻選択のプロセスや背景というナラ ティブな情報をアセスメントし,家族の自己決定,
自己選択が最良の選択となるように支援します.同 時に,家族が抱える「本当に胃瘻を作ってよかった のか」という,迷いや揺れを支え,日々のケアにお いて,医療造設をしたことの意義や,毎日のケアの
「意味」が実感できることに最大限の配慮をしなが ら療養者とそのご家族をエンカレッジし続けます.
これが「支える医療」です.そして,その目標は
「最期まで,自分の場所で人生を全うする」ことに あります.
では,別の場面で考えてみましょう.在宅療養者 が訪問診療医師や訪問看護師と相談の上,病院を受 診した際に「なんで,こんな些細なことで病院に来 るの?」と言われることがあります.また逆に「な んで,こんなになるまで病院に来ないの?」と言わ れることも多いです.病院で仕事をする医療者は,
どちらも経験されているのではないでしょうか.こ の場面には,病院医療と在宅医療の目標の違いが象 徴的に表れています.そこにあるのは,目標の違い から生じる何を測るのか,どう測るのかという「物 差し」の違いではないかと思えます.在宅において も心身のアセスメントを行いますが,それだけでな くご本人,ご家族の希望する生活,過去の経験,家 族環境,経済力,介護力等々の要因を,身体的なア セスメントと同じ重さで測り,病院へ行くのか,行 かないのかを検討し,ご本人ご家族に提案し,この 医療者の提案を基に判断,決断するのはご本人,御 家族です.「なんでこんなになるまで」も「なんで こんな些細なこと」も,在宅ならではの物差しとご 本人,ご家族個々の物差しによる「最適」です.
入院している時には問題にならない事,在宅療養 中には問題にならない事が,双方がオーバーラップ
する時に,摩擦となり表出します.そこが「切れ目 のない医療」の実践には重要な時になります.患者 にとっての病院医療,在宅療養者にとっての在宅医 療の担う役割や目標の違い,利用者・家族の求める ものの違いを,双方の医療者が理解し,承認し,受 容し,尊重する事,そして同時に患者視点,利用者 視点に立つという基本姿勢です.
6.
在宅療養の入り口を握るのは病院 病院医療,在宅医療がオーバーラップする時と は,在宅医療側からみると,受診していただく時,入院の時そして,退院し在宅療養を開始する時で す.在宅医療側は,在宅医療に繋がっていた方,あ るいは繋がった方にしか,医療やケアを提供するこ とができません.要は,在宅療養の紹介機能は病院 側にあり,在宅医療の入り口を在宅医療側はマネジ メントできないのが現状です.したがって,地域医 療構想に挙げる 30 万の在宅医療提供も,地域包括 ケアシステムの展開も,医療を必要とする方に関し ての紹介者の役割は病院であり,病院の患者支援,
退院支援の力次第ということになります.
在宅医療側は,在宅への退院が決まった段階から しか患者とのコンタクトはできません.これ以前の 退院支援は病院にその任が任されています.退院支 援の結果,在宅へ帰ることが決まり始めて退院調整 として,在宅サービスに声がかかることになりま す.ここに在宅療養拡大を阻む「大きな溝」がある と常々感じます.
この「大きな溝」を裏付ける調査をご紹介いたし ます.平成 29 年度受療行動調査(厚生労働省)で は,現在入院中の方に対し,退院の許可が出た場合 の自宅療養の見通しを質問し「自宅で療養できる」
と の 回 答 は 57.2%,「 自 宅 で 療 養 で き な い 」 は 21.7%です. 病院の種類別にみると,「自宅で療養 できる」は特定機能病院が 74.8%と最も高く,「自 宅で療養できない」は療養病床を有する病院が 32.1%と最も高くなっています.
また,「自宅で療養できない」と回答した方に対 して,自宅療養を可能にする条件を質問したところ
「家族の協力」と言う,とりあえずいたしかたない と納得感のある回答もあるものの,多くは「入浴や 食事などの介護が受けられるサービス」「通院手段 の確保」「医師・看護師の定期的な訪問」「療養に必
要な車いす,ベッドなど」であり,いずれの要件も 地域の中で容易に確保可能なものです.訪問診療や 訪問看護の充実,充足は地域により偏在があるとは いえ,退院調整担当者の認識,情報量,交渉力が影 響しているようにも思えます.
弊社では「なんでも相談」のフリーダイヤルを HP 上でご案内しており,しばしば入院されている 患者様のご家族からの問い合わせを受けます.良く ある相談に「退院させたいが病院が転院を勧める」
「退院させたいが退院させてもらえない」というも のがあります.
先日相談を受けた一例は,現在療養病床に入院中 の患者の奥様からのご相談でした.患者は脳血管疾 患後遺症で要介護 5,リハビリ適応はなく,経口摂 取不可能でここ数か月は末梢点滴のみで過ごし,既 に予後は限られていると IC されている方です.妻 は「病院から,家に帰るのは,無理と言われた.病 前から世話になってきたケアマネジャーに相談した が,ケアマネジャーからは,病院が退院しても良い と言われたら準備すると言われた」と話され,「私,
家でみるのは無理と言ったかしら?」と言われてい ました.お電話で伺う限り自宅退院に支障があると は考えられない方です.病院は,ご本人やご相談者 である妻の能力を判断し「在宅療養は無理,このま ま入院させてあげたい」と判断してくださったのか もしれませんが,何とも歯痒さを感じる相談です.
この相談者のように「何だか,よくわからない」状 態のご家族は大勢いるように思えます.
病院の退院支援の現実について推し量る術はない のですが,ここで二つの調査を紹介させていただき ます.
一つ目は,在院期間 14.1 日,在宅復帰率 94.7%
という高い数値を挙げている,ある公立の急性期病 院看護師 12 名に対する,退院支援に対する意識を インタビューしたものです(「急性期病院における 在宅医療への取り組み」〜看護師の退院支援に対す る意識の現状と課題〜).結果では,退院支援に対 する看護師の意識として ①知識・経験不足(在宅 サービス・介護保険について知らない,意識が低 い) ②他人任せ ③時間的制約 ④院内情報共有困難
⑤評価不能という回答が示されています.
次に,データが古くなりますが健康保険連合会の 2017 年調査の「病院の在宅医療支援と地域連携の
在り方に関する調査研究」をご紹介します.本調査 では,退院支援の課題を抽出し,その結果は①患者 を在宅へ戻すには介護サービスに係る環境の整備が 必要だが,医師や看護師だけでは知識が足りず,地 域連携等のネットワークの活用も難しい.②医療と 介護では患者に対する見方が異なり,ケアの目標も 異なる.医療的視点からみれば看護師が関わるのが 良く,介護的(社会的)視点からは MSW が関わる のがベストである.双方の視点を踏まえて相談する ことで在宅医療に係る患者のニーズが把握できる.
在宅医療の実施に係る収支が赤字になるような報酬 体系では在宅医療の推進は難しい.③在宅医療への 移行を阻害している要因の一つには,病院の医療従 事者が在宅医療に対するイメージや意識をあまり 持っていないことが挙げられる.④退院支援等に関 わる職種(病院医師,ケアマネジャー,訪問看護 師,介護サービス事業者,開業医等)が全員集まる ことはあまりない.各職種間のコミュニケーション 不足が退院患者に対する情報提供・交換を困難なも のとし,在宅医療の推進を阻害している,と一つ目 の報告と重複する結果を報告しています.報告から 10 年の経過の中で,それぞれの課題は軽減,改善 されていることが予測されますが,いずれの結果も 病院退院支援の根源的課題と思え,本調査をご紹介 させていただきました.
この二つの報告からは,退院支援者の退院支援能 力・時間・報酬の不足が明確であり,まずは,退院 支援を行う者の知識,技術,経験の不足を補い,退 院支援に費やす時間・報酬の確保がなければ,今以 上の在宅退院促進はないと言えます.筆者は,二つ 目に上げさせていただいた報告の当時も,そして現 在も同様に在宅療養支援の立場にありますが,病院 における退院支援部署の人員は,病棟看護師の不足 の補充に充てられ,慣れた頃には,調整担当から病 棟へ移動し,調整室の人員削減となる状況に大きな 改善はないように感じます.これは中小病院に限ら ず,大学病院などの大病院においても同様の傾向と 感じています.
また,後者の調査で特筆すべきこととして「退院 支援機能の整備・強化は,経営者側の取り組みと現 場側の取り組みが合致していないと難しい.」とい う回答があります.マネジメント層の方の中には,
ここまでの私の文面に「そんなことはない,当院は
在宅復帰に積極的に取り組んでいる」と感じながら お読みいただいた方もあると思います.しかし,在 宅側からみると,病院が危機感を持ち,在宅復帰に 積極的姿勢であるにも関わらず,退院支援担当者や 現場医師,看護師にその切迫感がない事を実感する ことは多く,また退院調整室からも,病棟医師,看 護師の非積極的な様子を耳にすることも多いのが現 実です.
弊社への依頼においても,受け入れを了解したに も関わらず,その後の退院調整,退院指導が進ま ず,その結果,病状が悪化し退院時期を逸し,依頼 を断ってくることが,一割程度存在しています.こ れも病院現場の危機観の欠如や,現状認識,目的共 有不足の結果ではないかと推察され,冒頭に書かせ ていただいた,すべての関係者がこれからの医療の 方向性や目的を理解し,当事者意識を持つことの必 要性を感じる理由でもあります.
7.
退院支援から,
在宅療養導入支援へのチェンジ 退院支援の課題がそのまま,在宅療養拡大疎外と なるように記しましたが,その解決は,病院に一任 されるものではありませんし,病院が担いきれるも のとも思えません.先に記した,弊社にご相談いた だいた病院から「家は無理」と言われた方も,ご自 身やご家族の意思で転院や施設を選ばれる方も,病 院での入院生活や,その延長としての施設での生活 は想像できるものの,在宅療養で自分や家族が医療 処置や介護をすることはご経験がなく,想像するこ とは難しいと思えます.更に訪問診療や,訪問看 護,介護サービスの利用を想像することも難しいで しょう.要は,想像もできず,何が不安なのかさえ わからない状況です.そのようなご本人,ご家族に 対して,病院の退院調整担当者や看護師が,できる 限りの知識を持ち説明しても,それは「話」でしか 知らないことですので,説得力をもつ説明とはなり ません.退院支援は,単に情報を提供するのではなく,迷 える患者・家族の背中を押すことも時に必要です が,この背中を押す役割を,在宅療養を「話」でし か知らない病院の退院調整室や,看護師に行えと言 うには無理があると常々思います.なぜなら,病院 は患者が在宅療養を選択された場合の,その後の生 活に責任を持つこともできなければ,手を差し伸べ
ることもできないからです.その上,在宅を選択さ れる場合には,病院の立場として「緊急事態があっ ても必ず受診できるとは限りませんよ」「また入院 したいと言われてもベッドはありませんよ」と伝え る必要もあります.患者,家族がその言葉を聞きな がらも「それでも,家に帰ります」と言うには,な かなかの勇気を要するのではないでしょうか.
迷える患者・家族の背中を押し,これからの生活 を私が支えると言うことができるのは,在宅療養支 援側の人間です.急変時に訪問医や訪問看護師がど んなお手伝いができるのかをお話しできるのは,在 宅側の人間です.
また,患者が病院内で見せる姿や力と,人として 生活者として家で発揮する力は同じではないことを 経験の中で実感しているのも,在宅側の人間です.
これまでに,在宅療養をお手伝いさせていただいた 方の中に,病院からの退院時の申し送りで「患者は 理解力がなく,わがまま勝手,その上,ご家族も同 様の理解力に欠ける方で,とても在宅はできないと 思うが,病床コントロールの必要から,1 週間で良 いので在宅でケアして欲しい」と病院から切望され ご自宅に戻られた方がいます.結果的にその方は,
最期まで,何のトラブルもなくご自宅で,言葉通り
「したいことをして」「その方らしく」過ごされ,笑 顔で最期を迎えました.
在宅療養導入にはさまざまな条件があり,その一 つにご本人のキャラクターや人生観があります.こ の患者,この家族なら在宅療養でやっていけるとい う在宅療養支援側の経験知は往々にして有効なこと があります.
また,病院が在宅医療側に患者を紹介すること自 体が,在宅医療側を甘えさせている側面もありま す.病院の退院調整担当者にとって自宅退院は,転 院や施設入所以上に調整や指導の負担がかかりま す.その苦労をして自宅退院をしたにも関わらず,
翌日出勤したら「夜間緊急外来から入院していた」
と笑い話をされることもあります.実は,このよう な話を聞くことは少なくなく,笑い話で済ますこと はできないと感じます.現況,在宅医療サービスは 利用者を病院からの紹介で確保できる,いわば「棚 ぼた」で利用者を受け取ることができてしまいま す.在宅医療サービスを提供する側が,直接入院中 の患者,家族に自分で説明し,自分を信頼して在宅
療養を決心していただくことにより,その責任感や 使命感が高まり,安易に病院に戻すことも減少する のではないかと期待されます.
弊社では,病院の退院調整担当の方に,「在宅療 養選択を迷われる方が居たら,利用につながらなく とも良いので,声をかけてください,呼んでくださ い」とお話しておりますが,残念ながら,そのよう な依頼はほとんどありません.「迷われている方が いますが,引き受けられますか」と第一報を受け,
その後連絡がなく,「やはり転院になりました」と ご連絡いただくことを常々経験します.
連携とは繋ぐこと,共有することだけでなく,そ の先として,力を貸し借りし合う事や,一体として として取り組むなどの方策へ進むことが,「切れ間 ない,質の高い」連携と言う成果を生むことになる と期待しています.医療者同士がつながるからこそ 生み出せる成果です.
8.
知識の共有から感情,
思い,
喜びの共有,
連携へ 先に紹介した病院看護師の退院支援に対する意識 の調査結果⑤に評価困難と言う回答があります.小 さな声ではありますが,これからの連携の方策を考 えるにあたっての示唆を持つ回答です.退院支援を 行い,退院した患者のその後が解らないので,自身 の支援を評価できないということで,至極当然のこ とです.再入院と言う結果は,時に退院支援担当者 の耳に入るものの,それ以外の場合は,どこで,ど のように生活しているのか知るすべはありません.これでは,ご自身の支援の評価にもつながらなけれ ば,次の支援に活かすこともできません.
今,大切なのは,在宅側が退院した方の生活を病 院にフィードバックする事です.私たち在宅側は,
失敗や,苦労をしながらも,自分達で何とかやって いく在宅療養者・ご家族のたくましさや笑顔を日々 目にしています.しかし病院の担当者は,不安そう に退院した,患者,ご家族の後ろ姿しか見ていませ ん.家に帰って良かったと言うご本人,ご家族の言 葉や表情を退院調整室のスタッフや,主治医,看護
師に見ていただくことが,退院する患者に在宅療養 選択を勧める勇気や力としていただけるのではない かと考えています.
そんな思いから,弊社では数年前より,退院後の ご利用者の笑顔の写真を,病院の退院調整担当者,
主治医,病棟看護師に「サンキューカード」として 送らせていただいております.写真と共にご利用者 様の「トイレに行かれるか心配してくれた○○看護 師さん,大丈夫,家に帰ったら,ベッドから 3 歩で トイレだったよ,ありがとう.」などの一言を添え ています.受け取ってくださった方からは「そうそ う,バイタルじゃなくて知りたいのはこういうこと だったのよ」と嬉しい言葉をかけていただくことも あります.
9.
終 わ り に「切れ間のない連携」は,病院,特に退院調整担 当の方々の尽力で進んでいることを日々感じます.
次に目指すのは,退院調整室と言う病院の出島のよ うな部署だけでなく,病院の医師,看護師,セラピ スト等の一人ひとりと在宅側の医師,ケアマネ,訪 問看護師等の一人ひとりの連携が生まれることです.
在宅看取り率日本一の横須賀市では,看取り日本 一を生んだ医療・介護の連携のキーワードを「思い を伝える」「目標を共有する」「できることから始め る」「何も正解はない」「市はコーディネーター」と し,それぞれの頭の一文字を繋ぐと『おもてなし』
と言う洒落た言葉を発信しています.ある大学病院 の MSW で長年のお付き合いをいただいている方は
「病院医師と在宅医師,病院看護師と在宅看護師の 関係は,いわば嫁と姑の関係なのよね」と豪快に笑 いました.情報の共有・連携から,思いの共有・共 感へと変っていく足音を感じます.
超高齢社会と言う課題へ向かう必然性が,医療,
介護,福祉の世界を変え,そこに従事する一人ひと りの視野を広げ,心を深め,つながる好機となるこ とを願います.