パーキンソン病(PD)は古典的な運動症状のほかに,
さまざまな非運動症状を伴うことが知られている。ドパ ミン作動薬による治療に関連して出現する衝動制御障害
(impulse control disorder:ICD)のほか,遂行機能障 害,自発性の低下,動機付けの低下など前頭葉機能低下 をしばしば合併する。これらの障害は患者の QOL 予測 に重要であるのと同時に,その評価は多系統萎縮症
(multiple system atrophy:MSA),進行性核上性麻痺
(progressive supranuclea palsy:PSP)などの類縁疾 患との鑑別のうえでも重要なポイントである。PD にお いて認知症の合併率は高く,PD-MCI から Parkinson disease with dementia(PDD)へ進展し,前頭葉機能 障害はしばしば認知機能障害の中核を占める。本稿では,
前頭葉機能障害の概念と評価法を示したうえで,PD お よびその類縁疾患における前頭葉機能障害について概説 する。
前頭葉はヒトでは新皮質の約3分の1を占めるが,そ の機能は大まかに外側面,内側面,眼窩面に分けると考 えやすい(図1)。前頭前野外側面は認知活動を行うに あたり重要な情報を保持し操作するための作業記憶,遂
行機能に重要な役割を果たしている。外側面の損傷では 作業記憶の低下や一度に複数のことが処理できない,目 標に向かって細かい計画を立てることができない,例外 的な状況に対応できないといった問題が日常生活でみら れることがある。動作や思考の転換困難や保続現象もみ られる。内側前頭前野は自発的に行動を計画する際の意 思決定や行動の開始,不適当な行動の抑制にかかわると 考えられ,同部位の障害では行動の開始困難,自発性の 低下,つかんだものを離せない強制把握現象(grasping response),目の前に道具があると意志に反して使用し てしまう道具の脅迫的使用(compulsive manipulation of tools),脅迫的ではないが物品があるとつい手を伸ば してしまう利用行動(utilization behavior)などがみら れる。前頭眼窩面の損傷では浪費,ふざけ症,不潔,衝 動的行動,脱抑制など社会性やモラルにかかわる行動異 常が出現する。
これらの前頭葉機能障害は主に外傷,脳血管障害の症 例での観察をもとに確立されたものであり,そのなかで PD においてしばしばみられるものとそうでないものが あることに注意が必要である。
前頭葉機能には上述の通り認知面,運動面,情動面な ど多軸的な症状が含まれる。これらの各要素を組み合わ せたスクリーニング検査と各要因に比較的特化した検査 が開発されている(表1)。Frontal Assessment Battery
はじめに
前頭葉機能障害の症候 前頭葉機能障害の評価法
小林 俊輔
Shunsuke Kobayashi
福島県立医科大学医学部神経内科学講座 講師
パーキンソン病と前頭葉機能障害
内側面
外側面
眼窩面
12 11 13 10 14
脳梁 8
8
6
6 4
9
9
10
10
11
11
12 32
47 46
45 44
25
図1 前頭葉の外観
前頭葉の連合野は前頭前野と呼ばれ,組織発生,機能的に外側面,内側面,眼窩部に分けることができる。図中の数字はブロード マンの領野。
表1 前頭葉機能障害の評価法
項目 症状 検査法
スクリーニング検査 遂行機能障害全般 FAB,BADS
認知面
(遂行機能障害)
注意 作業記憶 概念の転換
注意の分配・転換の障害 心的セットの切り替え困難 柔軟性の低下
Trail Making Test B 数字の順唱・逆唱 視覚性スパン
Wisconsin Card 分類課題 Stroop 課題
流暢性 語想起の障害
図形想起の障害 言語(意味・文字)流暢性課題
図形描画
運動面 保続・反応
抑制
ステレオタイプな行動の抑制 障害,運動プログラムの障害 強制把握現象
Go/Nogo 課題 Luria の運動系列 把握反射
情動面 情動・人格 アパシー,うつ状態,ふざけ 症,脱抑制,ICD
やる気スコア
Neuropsychiatric Inventory(NPI)
Frontal Behavioral Inventory(FBI)
Iowa Gambling 課題
パーキンソン病と前頭葉機能障害
パーキンソン病診断のコツとPitfall
模倣は Luria の系列動作として知られており,PD の運 動プログラミングの障害をしばしば鋭敏にとらえる
(図2)。FAB より詳細で,日常生活のなかでの遂行機 能障害を検出することを目的に開発された検査として Behavioural Assessment of the Dysexecutive Syndrome
(BADS)がある。BADS は「規則変換にすみやかに対 応する」,「行動計画性」,「目標に向けた戦略決定」,「常 識的推測」,「規則を遵守して作業計画する」,「複数課題 に対する時間配分」の6つの能力をみる課題と質問票か らなる。アパシーは動機付けの減弱のために,目的のあ る思考や行動を開始し持続することが困難な状態を指し,
前頭葉症候群の一角をなす。Starkstein が提案した評価 スケールの日本語版である「やる気スコア」が公表され ている1)2)。やる気スコアは認知症性疾患においてミニ メンタルステート検査(Mini Mental State Examination:
他に前頭葉機能の評価課題として,不必要な情報の抑制 機能を評価する Stroop 課題,報酬履歴に基づく選択行 動を評価する Iowa Gambling 課題,作業記憶と計画能 力を評価する Tower of Hanoi / Tower of London 課題 などがある。
FAB はベッドサイドで行える前頭葉機能評価の簡便 かつ鋭敏なスクリーニング検査で,PD においてもしば しば障害が検出される。FAB の下位項目では語の流暢 性,運動系列の試験の感度が高い。把握動作は前頭葉内 側面の障害を示唆する所見であるが PD ではまずみられ ない。把握反射が陽性の場合はむしろ PSP などの類縁
PDにおける前頭葉機能 スクリーニング検査成績
図2 Luria の運動系列
「私がすることをよく見ておいてください」と声をかけて検者は左手で「拳−刀−掌」を3回実施する。「では,
右手で同じことをしてください。はじめは私と一緒に,次は1人でやってみてください」と指示する。
疾患が示唆される。PD において FAB の低得点はすく み足や転倒の予測因子になるという報告もある3)。認知 症を伴わない PD を対象として遂行機能障害を同年代の 健 常 者 群 と 比 較 し た 研 究 で は Trail Making Test, Wisconsin Card 分類課題 , Tower of London Test など 他の前頭葉機能検査と比較して BADS の検出感度が高 いことが報告されている4)。
PD においてアパシーの頻度は16~51%と報告され,
PD の情動障害の中核をなす。前頭-基底核回路と中脳 辺縁系経路(mesolimbic pathway)のドパミン報酬系 の障害が関連すると考えられているが,アルツハイマー 型認知症など他の変性疾患でもみられる。アパシーはし ばしばうつ症状と併存するが,Levy らの研究によると PSP ではうつ症状と比較してアパシーの合併頻度が有 意に高いのに対して,PD では両者の合併頻度は同等で あり,病態の違いによりうつ症状とアパシーが何らかの 選択性をもって出現する可能性がある5)。また,PDD において病初期にうつ症状が多く,認知機能障害が進行 するとアパシーの頻度が増加する6)。
ドパミンアゴニストによる治療に関連して病的賭博,
過食,性欲亢進など脱抑制,衝動性,社会性やモラルに かかわる行動異常が出現することがあり,前頭眼窩面障 害に類似する。しばしば家庭内や社会的な問題を引き起 こし介護者の負担を強いることになる。患者本人は主治 医に申告せず家族からの病歴聴取で明らかになることも 多く,病的賭博や性欲亢進では家族も知らずにいて経済 的破綻や社会的トラブルが深刻になって問題が発覚する こともあり十分な注意が必要である。未治療の PD やド パミンアゴニストによる治療を行わない MSA ではまれ
な症候である。
MSA はα-シヌクレイン陽性の封入体がグリア細胞に みられる変性疾患で PD やレビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies:DLB)とともにα-シヌクレイノパ チーという疾患群に属する。MSA の診断基準に認知機 能に関する項目は含まれていないのみならず,second consensus criteria では認知症は75歳以降の発症,家族 歴とともに MSA の診断を支持しない項目に入ってい る7)。しかしながら,Koga らの MSA 102例を対象とし た研究では32%の症例に認知機能障害がみられており8), Neuropsychology Task Force of the MDS Multiple System Atrophy (MODIMSA)study group の 提 言 で も MSA における認知機能障害は決してまれではなく,従来考え られていたよりも高率に遂行機能障害を主体とした認知 機能低下を認めることを強調している9)。PD/DLB で は運動症状の出現と比較して比較的早期から認知機能低 下がみられるのに対して,MSA では進行期まで認知機 能は保たれることが多く,MSA と診断されてから臨床 的に有意な認知機能低下まで平均約7年という報告があ る10)。また,MSA で人や動物など有意味な対象が見え る複雑幻視はまれであり(9%),DLB でみられる認知 機能の変動は MSA ではみられない。
PSP はグリア細胞内にタウ蛋白の異常蓄積を認める タウオパチーで,核上性注視麻痺,項部ジストニア,歩 行障害,易転倒性など特徴的な神経症状を呈する症例は Richardson 症候群(PSP-RS)と呼ばれる。PSP-RS で 易転倒性が強いことは姿勢反射障害により姿勢保持が不 安定になることに加えて前頭葉機能障害に伴う注意障害 も寄与していると考えられている。PSP の認知症は前 頭葉機能障害の寄与が大きく,流暢性低下,保続,注意 障害のほか,把握反射,視覚性探索反応,模倣行動など が高頻度にみられる11)。また,人格変化・情動変化も多 くみられ,初期に易興奮性,易怒性,子供っぽさがみら
アパシー
衝動制御障害
PD類縁疾患の前頭機能障害
パーキンソン病と前頭葉機能障害
パーキンソン病診断のコツとPitfall
前頭葉の外側面(認知),内側面(運動),眼窩面(情 動)の機能を意識してチェックするとよい。PD では軽 度の遂行機能障害・運動プログラムの障害を認めること が多く,語想起,Luria の運動系列で検出感度が高い。
重度になると FAB の下位項目の Go/No-go で誤りを認 めることが多い。運動面の症候である把握反射,視覚性 探索反応,模倣行動や重度の保続を PD で認めることは まずないので,これらがみられるときには PSP や皮質 基底核変性症などの類縁疾患を考慮する。情動面ではア パシーの頻度が高く,やる気スコアの用紙を渡して記入 してもらうとよい。ドパミンアゴニストを投与している 場合は ICD を念頭に患者,介護者に十分な問診を行う。
REFERENCES
1) Starkstein SE, Fedoroff JP, Price TR, et al. Apathy following cere- brovascular lesions. Stroke. 1993;24:1625-30.
2) 山口修平,坂根理絵子,小黒浩明,他.前頭葉実行機能に対する情 動障害(うつ,アパシー).認知神経科学.2005;7:256-60.
3) Kataoka H, Ueno S. Low FAB score as a predictor of future falling
sion. J Neuropsychiatry Clin Neurosci. 1998;10:314-9.
6) Camargo CHF, Serpa RA, Jobbins VA, et al. Differentiating Be- tween Apathy and Depression in Patients With Parkinson Disease Dementia. Am J Alzheimers Dis Other Demen. 2018;33:30-4.
7) Gilman S, Wenning GK, Low PA, et al. Second consensus statement on the diagnosis of multiple system atrophy. Neurology. 2008;71:
670-6.
8) Koga S, Parks A, Uitti RJ, et al. Profile of cognitive impairment and underlying pathology in multiple system atrophy. Mov Disord.
2017;32:405-13.
9) Stankovic I, Krismer F, Jesic A, et al;Movement Disorders Soci- ety MSA (MODIMSA) Study Group. Cognitive impairment in mul- tiple system atrophy:a position statement by the Neuropsycholo- gy Task Force of the MDS Multiple System Atrophy (MODIMSA)
study group. Mov Disord. 2014;29:857-67.
10) O’Sullivan SS, Massey LA, Williams DR, et al. Clinical outcomes of progressive supranuclear palsy and multiple system atrophy. Brain.
2008;131:1362-72.
11) Gerstenecker A, Mast B, Duff K, et al. Executive dysfunction is the primary cognitive impairment in progressive supranuclear palsy.
Arch Clin Neuropsychol. 2013;28:104-13.
12) Sulena, Gupta D, Sharma AK, et al. Clinical Profile of Cognitive De- cline in Patients with Parkinson’s Disease, Progressive Supranucle- ar Palsy, and Multiple System Atrophy. J Neurosci Rural Pract.
2017;8:562-8.