概要
世界スポーツマネジメント学会 (The World Association for Sport Management: 以下WASM) によ って開催されているWASM conferenceが、2014年の第1回大会(マドリード・スペイン)、2017 年の第2回(カウナス・リトアニア)に続き第3回学会大会が2019年10月16日~19日の4日間 の日程で開催された。本学会設立の意義については、新井(2014)による報告書の通りであるが、
本大会にも6つの大陸を代表する学術学会(North American Society for Sport Management: NASSM, European Association for Sport Management: EASM, Sport Management Association of Australia and New Zealand: SMAANZ, Asia Association for Sport Management: AASM, Latin American Association for Sport Management, ALGEDE, African Sport Management Association: ASMA)に所属する研究者たちが集結 した。本学会のテーマは “The World Voice of Sport Management” であり、会場はサンティアゴ・チ リ(Santiago, Chile)と、初めての南米開催であった。チリは南米の中で最も治安の良い国とされ ており、スポーツはサッカーが最も人気である。過去のオリンピックでは、テニスでの金メダル2 個を含む13個のメダルを獲得している(Chile National Olympic Committee, online)。
会場となったサント・トマス大学 (Santo Tomás University)は、スポーツに関する研究と実践の 融合を目的とし、オリンピック・トレーニングセンターに併設されている。学会のメインホールも トレーニング施設を利用して行われた。本学会が開催された2019年は、大学設立10周年の記念す べき年であった。
研究動向
本大会では173件の研究が抄録集に掲載されていたが、大会プログラムに掲載された発表は口頭 発表109件、ポスター発表28件の合計137件であった。137件の中には、抄録集に掲載されてい ない研究も5件存在した。口頭発表の詳細は、25分間の口頭発表が104件、75分のセミナーが3件、
75分のワークショップが2件であった。
研究分野は、本学会組織委員会から提案された17つのトピックに沿って分類した。その結果を 表1に示す。最も多かったのは、第1回大会(新井,2015)や近年行われたNASSM conference(高田,
2018)、AASM conference(松原,2019)、SMAANZ conference(醍醐,2018)と同様にマーケティ ング関連の研究であった。次いで、ガバナンス・ポリシーとスポーツマネジメント教育アプローチ が同数であった。抄録集未掲載の5演題は、「未分類」に分類した。以下、発表演題数上位3つの
■国際会議レポート
世界スポーツマネジメント学会第 3 回大会
The World Association for Sport Management Conference 2019
三倉 茜(順天堂大学大学院)
研究分野について、研究内容の傾向について述べる。
〈マーケティング〉
これまで蓄積されてきた観戦者スポーツにおけるサービスクオリティやモチベーションに関する 理論を、自国のプロスポーツリーグに当てはめ評価した研究や、メガスポーツイベントの効果を測 定する研究が大半を占めた。一方で、フィットネスクラブや大学にて行われるヘルスサービスを対 象とした研究も見られ、スポーツマーケティング研究の対象の広がりを感じた。さらに、近年注目 を集めるeスポーツのスポンサーシップに関連する研究も発表された。
〈ガバナンス・ポリシー〉
ヨーロッパスポーツマネジメント学会(前田・紺田,2019)では、マーケティングを抜いて最も 発表数の多いトピックとなるなど、研究者の関心が高まっている。各国のスポーツ関連組織のガバ ナンスやポリシー、レギュレーションを評価する研究など、実践的な内容が多く発表された。
〈スポーツマネジメント教育アプローチ〉
スポーツマネジメント関連の大学や学部におけるカリキュラムや、学生のキャリア形成、スポー ツマネジメント教育に関わる人材の評価などが主に扱われたトピックであったが、過去のWASM conferenceにて発表された研究に関する分析(Pitts and Zhang, 2019)も扱われた。
国及び大陸別の発表演題数を表2にまとめた。最も演題数が多かった国はアメリカの39件、次 いでブラジルの21件であった。また、大陸ごとに見てみると、北米が最も多く42件(30.7%)、
表1 分野別発表演題数
研究分野 演題数 %
Sport Marketing 24 13.4
Governance and Policy of Sport 23 12.8
Sport Management Education Approaches 23 12.8
Participation Sport 13 7.3
Challenges 12 6.7
Sport Tourism 11 6.1
Social Media Marketing 10 5.6
Financial Issue 8 4.5
Sport Industry Segment-Motor Sport, Water Sport, and All Others- 8 4.5
Development of Industry 7 3.9
Culture 7 3.9
Human Diversity and Sport 6 3.4
Legal Syetems 5 2.8
The Sport Business Management Professor 5 2.8
Country/Regional Collaboration 4 2.2
International Understanding 4 2.2
International Relations 3 1.7
未分類 5 3.4
合計 178 100
次いで南米の34件(24.8%)であった。南米開催ということもあり、他の学会ではあまり参加の ないブラジルやコロンビアなどからの発表者が多かったことは特徴的であった。一方で、開催国チ リからの発表は1件に留まった。
日本からの一般研究発表は、渡辺泰弘氏(広島経済大学)による “The Influence of Parentsʼ attitude and Expectation on Youth Sport participation: The Focus on Sense of Fiscal Burden”(ポスター発表)、“Impact of Servicescape on Behavior Response at Japanese Professional Baseball Events”(口頭発表)、伊藤真紀氏
(法政大学)による “Career-Decision Making Process of US Paralympians”(口頭発表)、筆者による “How the Female Basketball Players Will Be Coaches?-Identifying the Most Influential Factors by Social Cognitive Career Theory-”(口頭発表)の4件であった。
表 2 国及び大陸別発表演題数
エリア 国 演題数 合計演題数 %
北米 アメリカ 39
42 30.7
カナダ 3
南米
ブラジル 21
34 24.8
コロンビア 6
メキシコ 3
アルゼンチン 1
チリ 1
ベネゼエラ 1
ペルー 1
ヨーロッパ
ドイツ 9
29 21.2
スペイン 4
チェコ 4
リトアニア 3
イギリス 2
フランス 2
ロシア 2
オランダ 1
ポーランド 1
ポルトガル 1
アジア
中国 13
26 19.0
日本 4
イラン 4
台湾 3
タイ 1
大韓民国 1
オセアニア
オーストラリア 2
4 2.9
ニュージーランド 1
フィジー 1
アフリカ ケニア 1
2 1.5
南アフリカ 1
合計 137 100
基調講演
大会テーマに沿った、3つの基調講演が行われた。
1つめは、現代のスポーツマーケティングの創設者とも呼ばれるPatrick Nally氏により、“A Practitioner’s View of Sport Marketing Industry” というタイトルで講演がなされた。Nally氏は7代 目FIFA Presidentを務めたJoão Havelange氏の元、Havelange氏が選挙時に公約として掲げたグロ ーバル開発プログラムの拡大に従事した。具体的には、Nally氏はFIFAのコマーシャルに関する ルールや規約を緩和し、1977年のFIFA World Youth Championshipや、1978年FIFA World Cupアル ゼンチン大会からスポンサーとなったコカ・コーラ社とFIFAの強固な関係を構築した。他にも、
ʻInterSoccer4ʼ と呼ばれる4年をパッケージにした新しいスポンサーシップの新しい形を提案するな ど、これまで自身が行った取り組みについて紹介がなされた。Nelly氏は、スポーツを大きなジグ ソーパズルであると喩え、スポーツビジネスを取り巻く様々な要素にフィットする取り組みを考案 する上で、スポーツマネジメントという学問分野が必要不可欠であると語った。またスポーツは文 化であり、社会変化の影響を受けやすいため、政治、テクノロジーなど多角的な視点からの検討が 必要であると、スポーツマネジメント研究の果たす役割について説いた。
2つめは、ブラジル・サンパウロ大学のアソシエート・プロフェッサーのFlávia da Cunha Bastos 教授により、“Sport Management in Latin America and the World Scenario” というテーマで、現在のス ポーツマネジメントプログラムやカリキュラムについてオーバービューイングした内容の講演がな された。スポーツマネジメントに関連する学部やプログラムは世界中で年々増加している。一方で、
取り扱う内容やクオリティについては統一した評価がなされていないため、今度の課題として1)
現在存在するスポーツマネジメント関連の学部・コースをマップする、2)現在提供されているコ ースのクオリティを評価する、3)スポーツマネジメントに関するコース設置のためのCertification を作成する、の3つを挙げた。
3つめは、エクアドルプロフェッショナルフットボールリーグCEOの Luis Manfredi氏が登壇す る予定であったが、一身上の都合によりキャンセルとなった。代わりとして、本学会大会実行委員
長であるRodrigo Alvarado氏によりチリオリンピック委員会の歴史、サント・トマス大学の歩みに
ついて講演があった。過去、チリオリンピック委員会会長の不祥事によって、チリオリンピック委 員会に対するイメージは悪化した。その状態から回復を図るために行われた、国内外に向けた様々 な取り組みが紹介された。その1つであるハイパフォーマンススポーツサポート事業では、種目間 やアスリート間での連携不足、ハイパフォーマンス施設の点在、専門的な人材の不足などが問題で あったため、オリンピック・トレーニングセンターとサント・トマス大学を併設することにより、
科学と実践の融合が図られたと語った。また、様々な取り組みは数値にて評価され、着実な改善が 見られると説明した。
考察
2日目にはAnnual Meetingが行われ、各大陸代表から近年の取り組みについて紹介がなされ
た。EASM、NASSM、SMMANZは大学と連携し、アカデミックを実践につなげている一方、
ALGEDA、ASMAは専門家の不足など、組織運営の上で多くの課題がある現状が紹介された。
WASMは、世界中のスポーツマネジメント関連の情報を収集し、国際的な研究協力を推進すると
いうミッションを掲げているため(新井,2014)、組織を超えた協力が今後さらに必要であると考 える。他にも、各組織が考える今後のスポーツマネジメント研究や実践の上での課題として、共通 の課題としてジェンダーについての研究をさらに促進すること、テクノロジーとの協働などが挙げ られ、今後のスポーツマネジメント分野の拡大が必要であると感じられた。
一般研究発表においては、理論が重要視されない実践的な研究や、完結していない研究の発表も あり、発表のクオリティにばらつきがあった印象であった。抄録集を見ても、極端に短い抄録も掲 載されていたことから、査読があったとはいえ厳格な審査でなかったことがうかがえる。また、第 1回大会と同様、発表に対する質疑応答のほとんどは実践への応用に関するものや提案などが主で あり、方法論についてはフォーカスがされていなかった。
学会プログラムについては、開催テーマに沿った様々な方面からの講演者が集い、開催テーマに 沿った講演がなされた他、1日目にはワイナリーツアーが企画されるなど、主催者の工夫が垣間見 えた。一方で、学会期間中である10月18日に、地下鉄料金値上げに抗議する学生らのデモが発生 し、公共交通機関がストップするなどの事態が発生した。このデモはのちに暴動に発展し、市街 中心部では地下鉄の駅やバスの破壊、放火が相次ぎ、15名が死亡する大変な騒ぎとなった(CNN, 2019)。学会会場や参加者が宿泊するホテル周辺では大きな混乱はなかったが、政府からは夜間外 出禁止令が発令され、緊張した雰囲気が漂った。その関係か、最終日は参加者が少なく、予定され
ていたOral presentationがいくつかキャンセルされた他、クロージングセレモニーとして予定され
ていたClosing dinnerが中止されるなど、混乱の中第3回大会は閉幕した。このような情勢も含め、
スムーズな運営とは言いがたい大会ではあったものの、北米やヨーロッパ以外での開催となったこ とは意義のあることであると考える。チリからの発表が1件だったことは先述したが、この大会を 契機としてチリや南米のスポーツマネジメント研究が今後ますます発展していくことを願う。
次回大会の開催場所、時期などについては公式な発表はなかったが、今後の大会においてさらに 多くの参加者が集い、スポーツマネジメント研究における国際的なネットワーク構築のプラットフ ォームとしての、WASMの益々の発展を願い、本レポートの結びとしたい。
図1 日本からの参加者全員での記念撮影
【参考・引用文献】
新井彬子(2014)世界スポーツマネジメント学会第1回大会. スポーツマネジメント研究7(1):58-63. Chile National Olympic Committee. (online) Chile medals. Retrieved January 29, 2020 from https://www.olympic.org/
chile
CNN(2019) 暴動続くチリ 外出禁止令延長、首都まひ状態市民の不満噴出.Retrieved January 29, 2020
from https://www.cnn.co.jp/world/35144314.html
醍醐笑部(2018)オーストラリア・ニュージーランドスポーツマネジメント学会2017年大会.スポーツマ ネジメント研究10(1):100-103.
前田和範・紺田俊(2018)ヨーロッパスポーツマネジメント学会2018年度大会.スポーツマネジメント研 究11(1):53-59.
松原優(2019)アジアスポーツマネジメント学会2018年度大会.スポーツマネジメント研究11(1):47-51. Pitts, B. and Zhang, J. J. (2019) An Analysis of the Presentations of the World Association for Sport Management Conferences: 2014 Spain, 2017 Lithuania, and 2019 Chile -Implications and Recommendations for the Future-. Oral Presentation at the 3rd World Association for Sport Management Conference.
高田絋佑(2018)北米スポーツマネジメント学会2017年度大会.スポーツマネジメント研究10(1):81-86.