7.磁気浮上系の安定化制御
1 はじめに
電磁石に電流を流すことにより,鉄球を引きつけることができる。これは,重力に勝る 力を電磁石が発生しているからである。もし,電磁石が重力と等しい力を発生したならば,
鉄球は空中に浮上するはずである。本実験ではフィードバック制御
(feedback control)
を利 用することにより,このような磁気浮上の実現を試みる。特に,実験の主目的は,制御理 論の習得というよりはむしろフィードバック制御というのはどういうものなのか,またど のように実現されるのかを実験を通して実際に体験してみることにある。2 磁気浮上系
M g
f z
図
1:
磁気浮上系 本実験の目的は,電磁石に流れる電流を制御することによって鉄球を空中に安定浮上させる
ことである。図
1
からわかるように,鉄球を空中に浮上させるためには,重力により発生 する力(M g)
を磁力(f)
で補償できればよい(M g = f
となる磁力を生成すればよい)
。電磁石が発生する力
f
は,そこに流す電流i
や鉄球と電磁石との距離z
等の関数で与 えられる。したがって,決められた鉄球を決められた位置に浮上させるのに必要な電流は,たとえば実験により得ることは原理的には可能である。それでは,単にその電流を電磁石 に流すだけでよいのだろうか。答は否である。なぜならば,この場合,鉄球が所定の位置 からほんのわずかでもずれるとバランスが崩れて浮上させることができなくなるためであ る。これはちょうど棒を立たせようとするときの状態と類似している。しかし,適切に制 御を施すことができれば,所定の位置からのずれを補償し,安定に浮上させることが可能 となる。以下,本実験で対象とする系を磁気浮上系
(electro-magnetic levitation system)
と 呼ぶ。本実験では,フィードバック制御を利用して鉄球の安定浮上を試みる。フィードバック 制御とは,制御対象
(controlled object
:制御の対象となるもの。本実験では磁気浮上系)
の 現在の状態を観測して,その結果に基づいて適切な操作量(manipulated variable)
を制御 対象に対して与えるものである。そのブロック線図(block diagram)
を 図2
に示す。図中,現在の状態から操作量を作り出す部分をコントローラ
(controller)
と呼ぶ。図
2:
フィードバック制御図
3
に示す実験装置と対応をつけてみよう。まず,現在の状態であるが,実験装置では鉄 球に取りつけられたアルミ製の棒の角度をポテンショメータを利用して電圧に変換し,そ れをA/D
変換器を通してマイクロコンピュータ(
以下,マイコン)
に取り込むことで,電 磁石に対する鉄球の位置を計測する。次に,後述するコントローラ内で行われる計算アル ゴリズムに従って必要な電流値を算出する。それをD/A
変換器を通して指令値として電流 アンプに送る。電流アンプは,その指令値に対応した電流を電磁石に供給する。このよう にしてフィードバック制御系が構成される。コントローラが適切に設計されていれば,鉄 球は安定に空中に浮上する(
はずである)
。グ ラ フ $ % ポ テ ン シ ョ メ ー タ
. /
$ 0 1 マ イ コ ン
$ 5 ア ン プ
図
3:
磁気浮上実験装置3 モデリング
図
2
中のコントローラを適切に設計するためには,磁気浮上系がどのような動特性を もつのかをあらかじめ調べておくことが必要となる。制御理論においては,通常,微分方 程式(differential equation)
を用いて制御対象の動特性を表す。この微分方程式を モデル(model)
,適当な方法によりモデルを求めることを モデリング(modeling)
と呼ぶ。
図
1
に示す磁気浮上系に対して,(1)
鉄球が上下方向にしか運動しない(2)
鉄球が空中で運動する際に生じる粘性抵抗力は無視できるくらいに小さい(3)
鉄球の運動は微小であるという仮定の下でモデル
(
線形微分方程式)
を求めると,次式を得ることができる[1]
。¨
z − αz = βu (1)
ここで,
z
は鉄球の位置,u
は操作量,α, β
は定数である。これに対する特性方程式(characteristic equation)
はs 2 − α = 0 (2)
で与えられ,その根である極
(pole)
は± √
α
となるが,α > 0
であることから,磁気浮上 系は不安定であることがわかる。4 フィードバック制御
式
(1)
に対して,次に示すフィードバック制御を施してみよう。u = −K 1 z − K 2 z ˙ + r (3)
ここで,
K 1 , K 2
はフィードバックゲイン(feedback gain)
,r
は目標入力(reference)
である。
このときの閉ループ系
(closed-loop system)
は,次式で与えられる(
式(3)
を式(1)
に 代入)
。¨
z + βK 2 z ˙ + (βK 1 − α)z = βr (4)
これに対する特性方程式は
s 2 + βK 2 s + βK 1 − α = 0 (5)
であり,フィードバックゲイン
K 1 , K 2
の適切な選定により,閉ループ系の極(
式(5)
の 根,閉ループ極)
を任意に与えることができる,ことがわかる。
ここで,安定性に関する重要な定理を示しておく。
定理
系が安定であるための必要十分条件は,全ての極の実部が負であることである。
つまり,式
(3)
により,磁気浮上系を安定化できることが言える。たとえば,閉ループ 極をλ 1,2
にしたいとしよう(
ただし,実部は負)
。このとき,閉ループ系に対する特性方程 式は(s − λ 1 )(s − λ 2 ) = 0 (6)
でなければならないので,式
(5)
と係数比較を行うことで,フィードバックゲインはK 1 = 1
β (α + λ 1 λ 2 ), K 2 = − 1
β (λ 1 + λ 2 ) (7)
のように計算できる。
5 制御実験
注意
学生証などを通電中の電磁石に近づけないこと。
電磁石の長時間の連続運転は避けるように。
それでは,鉄球の浮上実験を行う。手順を以下に示す。なお,本実験ではグラフ電卓
Voyage200
を利用するが,その操作方法については実験の際に説明する。Step 1
コントローラの設計式
(7)
からわかるとおり,閉ループ極λ 1,2
からフィードバックゲインを設計できる。一 例として,λ 1 = −60, λ 2 = −70
に対してフィードバックゲインK 1 , K 2
を計算する。そ の際に,式(1)
中のα, β
は以下の数値を使用すること。表
1:
定数α, β
α β
グループ
1 3100. − 14.91
グループ2 2863. − 16.17
Step 2
数値シミュレーション(
ステップ応答)
1.
グラフ電卓上でコマンド***
→k1
,***
→k2
を順に実行する。ここで***
に はStep 1
で設計した値をいれること(
有効数字6
桁)
。2. F3
→1:magresp(k1,k2)
を実行してステップ応答を確認する。もし,ステップ 応答が一定値に漸近しない場合,フィードバックゲインの設計が正しくないの で再計算すること。Step 3
(
離散時間)
コントローラの設計1. F3
→3:magcont(k1,k2)
を実行して(
離散時間)
コントローラを設計する。な お,離散化の際のサンプリングタイムは1 msec
である。Step 4
コントローラの送信1.
グラフ電卓とマイコンを専用ケーブルで接続する。2.
メイン電源スイッチをオンにしたときにLCD
に表示される最初の画面を,以 降では 基本画面と呼ぶ。3.
マイコンのS2
ボタンを押す。4. F4
→2:magsend()
を実行し,コントローラをマイコンへ送信する。5. S1
ボタンを数回押して,基本画面に戻る。6.
通信トラブルが発生した場合,グラフ電卓のケーブルをはずし,マイコンの電 源をオフにして再度上述の操作を行う。Step 5
制御実験1. S1
ボタンを押して制御を開始する。静かに鉄球を電磁石に近づけていくことで 浮上が確認できるはずである。2. S1
ボタンを押すと,鉄球が上方向に移動する(
ステップ応答)
。3. S4
ボタンを押して制御を終了する。その際に,アルミの棒を手で支えること。4. S3
ボタンを押した後,F4
→3:magget()
を実行する。これにより,ステップ応 答の実験結果をマイコンが取得できる。5. F4
→4:mresult()
を実行すると,理論結果と実験結果がグラフ電卓の画面上 に表示される(
前者が実線,後者が点線)
。それを書き写す。注意
1
コントローラによっては,実験の際に鉄球が電磁石にくっついてしま う場合がある。このとき,アルミの棒を押し下げて電磁石から離そうとすると,アルミの棒の先端から鉄球がはずれてしまう恐れがある
(
瞬間接着剤で取り付け ているだけなので)
。このような場合は,S4
ボタンを押すかマイコンの電源をオ フにすること。実験
1
以下に示す極に対して,フィードバックゲインを設計し,制御実験を行え。λ 1,2 = {− 90, − 100 } , {− 120, − 130 }
λ 1,2 = {− 40 ± 40i } , {− 40 ± 80i } , {− 40 ± 100i } , {− 40 ± 120i }
実験
2
設計仕様を満たすフィードバックゲインを設計し,それに対して制御実験を行え。なお,設計仕様は実験の際に示すが,参考になる式を以下にまとめておく。
閉ループ極が複素共役数であり,
λ 1,2 = − σ ± i ω (σ > 0, ω > 0)
とする。こ のとき,整定時間t s
とオーバーシュートOS
は,それぞれ次式で与えられる[1]
。t s = 4
σ , OS = e − πζ/
√ 1 − ζ
2(8)
ここでζ = σ/ √
σ 2 + ω 2
である。
レポート
課題
1
実験1
で設計したフィードバックゲインを表にまとめよ。また,複素 共役極に対しては,整定時間t s
とOS
も計算すること。課題
2
理論と実験のステップ応答の比較を行え。もし,相違点が生じた場合,その理由を考察せよ。
課題
3
極の実部と虚部の役割を示せ。なお,その根拠も示すこと。課題
4
本実験では,鉄球の位置をアルミの棒の角度により計測した。本方法 以外で鉄球の位置を(
非接触で)
計測するセンサについて検討してもらい たい。なお,その際にセンサの計測原理も示すこと。