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投資協定仲裁における先住民族権利問題

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(1)

1)この問題についての主要な先行研究は次の通り。 Tarci-sio Gazzini & Yannick Radi, ‘Foreign Investment with a Human Face – with Special Reference to Rights of In-digenous Peoples’, in International Investment Law and Its Others (Rainer Hofmann & Christian J. Tams eds.,

Nomos, 2012), pp.87-112; Judith Levine, ‘The Interaction of International Investment Arbitration and the Rights of Indigenous Peoples’, in Investment Law Within Inter-national Law: Integrationist Perspectives (Freya Baetens

(ed.), Cambridge University press, 2013), pp.106-128; Mi-hail Krepchev, “The Problem of Accommodating Indig-enous Land Rights in International Investment Law.” 6

Journal of International Dispute Settlement, p.42(2015);

Valentina S. Vadi, ‘When Cultures Collide: Foreign Di-rect Investment, Natural Resources, and Indigenous Heritage in International Investment Law’, 42 Columbia

I.

はじめに

II.

先住民族の権利保護が関係する仲裁判例

III.

先住民族の保護を理由とする外国人投資活 動の制限が収用に該当する可能性

IV.

おわりに

I

はじめに

 本稿の目的は、投資協定に基づく仲裁(以下: 投資協定仲裁)の場において、先住民族の保護に 関係する国際法の諸規則がどのように扱われてい るのか1)分析すること、特にその中でも、先住民 族の保護のように、人権や環境保護目的で国家 が行う規制活動が投資協定上の収用に該当し、 補償の支払いが求められる可能性について分析す ることにある。  本稿での研究の背景に少し触れておきたい。先 住民族の権利は、国際法上長い歴史のある問題 の一つである。古くは国際法黎明期において、新 大陸におけるネーティブアメリカン(インディアン) の位置づけを巡って争われていた。長年多くの地 において虐げられることが多かった先住民族の保 護が近年様々な場で取り上げられるようになった。 とりわけ

2007

9

月に国際総会が「先住民族の権 利に関する国際連合宣言」を採択したことが大き

投資協定仲裁

における

先住民族権利問題

論文 坂田雅夫 Masao Sakata 滋賀大学経済学部 / 准教授

(2)

Human Rights Law Review, p.797 (2010-2011); Patrick

Wieland, ‘Why the Amicus Curia Institution is Ill-Suited to Address Indigenous Peoples’ Rights before Investor-State Arbitration Tribunals: Glamis Gold and the Right of Intervention’, 3 Trade Law & Development, p.334 (2011)

2)先住民族の権利について近年の主要な先行研究は次の

通り。Cathal M. Doyle, Indigenous Peoples, Title to Ter-ritory, Rights and Resources: the Transformative Role of Free Prior and Informed Consent (Routledge, 2015); Steve Allen and Alexandra Xanthaki, Reflections on the UN Declaration on the Rights of Indigenous Peoples

(Hart, 2011); Alexandra Xanthaki, Indigenous Rights and United Nations Standards: Self-Determination, Culture and Land (Cambridge University Press, 2007); S. James Anaya, Indigenous Peoples in International Law

(2nd ed., Oxford University Press, 2004).

3)「小特集:先住民族の権利の現在」『法律時報』85巻12 号52頁(2013年)。掲載論文は次の通り、桐山孝信「企画趣 旨」同号52頁、小坂田裕子「先住民族の土地権をめぐる過去 と現在の交錯」同号55頁、遠井朗子「名古屋議定書における 先住民族の権利の位相」同号60頁、落合研一「『先住民族 の権利に関する国連宣言』とアイヌ政策」同号65頁。 4)本稿で用いた仲裁判例は、インターネット(http://www. italaw.com/)で入手している。 な契機となり、先住民族の国際法上の権利問題 が注目を集めた2)  この宣言では先住民族の保護に関して様々に 規定されている。多くの規定の中でいくつか議論 を招いた規定が存在した。たとえば同宣言の第

25

条から第

27

条は、先住民族が「伝統的に所有し、 占有し、又は他の方法で使用し、もしくは取得して きた土地、領域および資源に関する権利」を有す ることを規定し、当該「土地、領域および資源」に 関して回復を求める権利があると定めている。こ れは場合によっては現在当該土地や資源を所有 するものの権利を侵害するものであって、既に存 在するいくつかの国際・国内の人権・経済関係の 規範に大きな修正を迫る性格を有している。  そこで先住民族の権利問題に興味を持つ数人 の国際法・国内法学者により、先住民族の法規が どのように発展し、それが他の法規にいかなる影 響を与えているのかを分析する共同研究を行うこ とになり、筆者もその

1

人として加わった。この共同 研究は、すでに『法律時報』において

2013

11

月 に小特集3)組み、その成果の多くを公表した。 この共同研究において私に与えられた役割は、先 住民族の諸権利の発展が国際投資法、とりわけ 投資協定仲裁に影響を与えたのか、与えたとすれ ばそれはいかなる内容のものかを分析するという ものであった。本稿はその共同研究の成果の一つ である。  本稿では、第

II

章において先住民族が関係した 投資仲裁の事例を紹介し論点を抽出する。続く第

III

章において、いくつかの論点から特に、先住民 族の保護を理由として国家が行う外国人投資活 動の制限が収用に該当する可能性について検討 する。

II

先住民族の権利保護が

関係する仲裁判例

4) (1)Glamis Gold(グラミス)社対 アメリカ合衆国事件  グラミス社はカナダ企業であり、アメリカ合衆 国および中南米各国で希少金属の採掘・開発事 業を行っていた。

1972

年にカナダのブリティッシュ・ コロンビア州法に基づき設立され、経営陣の多数 はカナダ国籍である。

1987

年に同社の完全子会 社である

Glamis Imperial

社(以下では特に区別 の必要が無い限り、両社を併せてグラミス社と表 記する)がカリフォルニア州インペリアル郡におけ る鉱山開発権を取得した。  

1994

年にグラミス社は連邦鉱山法の規定に 則って、カリフォルニア砂漠保存地区内における

(3)

7)たとえば、Bernhard von Pezold and others v. Republic of Zimbabwe事件ではジンバブエの先住民団体が意見書 の提出受け入れを求めたが、仲裁廷はProcedural Order No.2(26 June 2012)において、それを却下している。 5)坂田雅夫「公正衡平待遇条項の適用実体 ─TPP投資 章を考える素材の一つとして─」『日本国際経済法学会年報』 第23号81頁(2014).

6Glamis Gold Ltd. v. United States of America,

Sub-mission of the Quechan Indian Nation (15 September 2005). 公有地の鉱山開発計画を内務省連邦土地管理局 に申請した。この開発計画を巡って問題が生じた。 開発計画の該当地区がネーティブアメリカンであ るケチャン族にとって宗教的および文化的にとて も重要な「先祖代々の地」を含んでいたのである。 そのためケチャン族は当該鉱山開発計画に強く 反対した。  

1996

年には連邦土地管理局から、上記計画が 法律上の要件を満たしているとの言明があった。 しかし、ケチャン族からの強い反対を受けて、連 邦土地管理局は追加的な民俗学的調査を行い、

1997

11

月に露天掘り鉱山を完全に埋め戻した としても、重要な避けがたい影響が出ると結論づ けた。連邦土地権利局は内務省の法務室に、鉱山 開発権とケチャン族の宗教権の抵触について法 的意見を求めた。

1999

12

月に法務室は、当該 開発計画がカリフォルニア砂漠保全地区の規則 を著しく害すものだと述べ、文化的価値への害を 避けるためには、計画を規制する形では十分では なく、計画自体を認めるべきではないとした。その 結果、

2001

1

月に計画申請は却下された。しか しながら、その後、クリントンからブッシュへと政 権変更があり、新政権は先の法務室の意見とそれ に基づく決定を取り消した。その結果、鉱山開発 に関する連邦政府の許可は仲裁判決時点で未決 着のままである。  連邦政府の動きとは別にカリフォルニア州が、 鉱山開発について州法を定め、ネーティブアメリカ ンの宗教的に重要な土地における鉱山開発につ いて、埋め立てを必要な要件とした。  グラミス社は

2003

年に北米自由貿易協定の規 定に基づき、アメリカ政府を相手取って仲裁手続 きに事件を付託した。仲裁は

2009

年にグラミス 社の請求を却下する判決を下した。  先住民族の権利が投資仲裁においてどのよう に扱われたのか、という本稿の観点から、この事 件に於いて興味深いのは、①仲裁の過程において ケチャン族が意見書を提出したこと、②仲裁が、 アメリカ政府の行為は

NAFTA1105

条が求める 慣習国際法上の最低標準に違反せずと認定した こと、そして③仲裁が、アメリカ政府の行為は収用 に該当しないと認定したことの

3

点である。②につ いては、既に別稿5)のなかで簡単にグラミス事件 について触れているので、ここでは割愛し、①と③ について以下に纏めておく。  

2005

9

15

日に、仲裁においては第

3

者であ る ケチ ャン族 が 仲裁 に「 法 廷 の 友(

Amicus

Curia

)」として意見書6)を提出した。「法廷の友」 としての意見書は、

NGO

などが公益保護の観点 から意見を述べる手段として最近注目を集めてい る。またその意見書の提出を認めるか否かが各仲 裁で問題となることも多い7)。本事件においてケ チャン族は意見書を通して、先住民族の権利につ いて慣習国際法が成立しているとし、北米自由貿 易協定の解釈において、先住民族の権利に関する 慣習法が考慮されるべきだと主張した。  収用について、仲裁廷は

NAFTA1110

条(収 用)に関するグラミス社の請求を却下するにあた り次のように纏めている。  

1110

条において収用という用語を用いたことに より、この主題についての慣習国際法への言及が 必要となる。慣習法においては、財産の収用、つま り他国の投資家の財産に対して、次のような行為、 すなわち没収行為、または財産の効果的活用への

(4)

10)この判決については、山本晋平「米国各州のタバコ規制

により影響を受けるタバコ取引業を営むカナダ先住民族の

権利が問題となった投資仲裁判断例」『JCAジャーナル』58 巻7号32頁(2011)を参照。

8Glamis Gold Ltd. v. United States of America, Award

(8 June 2009), para.354 9Ibid, para.357 不合理な干渉、もしくは過度な放置といった行為 を取った場合には国家は責任を負い、賠償を支払 わねばならない。しかしながら、財産の逸失または その他の経済的不利益が、善意の無差別な規制 の結果である場合には、国家は責任を負わない8) 仲裁はさらに次のように述べている。  収用の認定に足る干渉の程度についていくつか の

NAFTA

の仲裁は意見が一致している。ある判 例の基準でいうなら、それは「影響を受けた財産 が、それがもはや『奪われた』と見なされる程度に 害されていなければならない」というものであり、 別の判例ではそれは「基準は、財産が所有者から 『奪われた』という結論を支持するに足るほど干渉 が制限的であったのか否かである」と述べられて いる9)

(2)Grand River Enterprises Six Nations社他対アメリカ合衆国事件10)  本件はタバコの規制を巡って、タバコの製造販 売をしていた先住民族が仲裁に訴えを提起したも のである。先のグラミス事件と異なり、本件では先 住民族が原告となり、先住民族としての諸権利に 基づいて投資仲裁で請求を提起できるかが問題 となった。  

1990

年代にアメリカの各州は、タバコが原因と 思われる病気の治療のために各州政府が負担し た費用の支払いをタバコ会社に求める訴訟を相 次いで提起した。それらの訴訟は和解により解決 された。その和解ではタバコ会社の供出する資金 により基金を作り、タバコの害についての教育な どに用いられることになっていた。この訴訟の対象 となったタバコ会社は大企業が中心となっており、 タバコの製造・販売に係わる中小企業は訴訟当 事者となっていなかった。そのため和解条件にお いて、和解に参加していないタバコ会社にも資金 の供出を義務づける州法の制定が各州に求めら れた。当該和解に参加した各州は、和解に参加し ていないタバコ会社に、和解参加企業と同様の 金額の預託を求めた。  その結果、カナダ国内およびアメリカ国内にい る複数の先住民族でタバコに関係する仕事をし ていたもの達が、北米自由貿易協定の規定に基づ きアメリカ合衆国を相手取って仲裁に訴え出た。  本稿の観点から、この事件で興味深いのは、① 請求の多くの部分について管轄の存在そのもの が否定されたこと、②仲裁が、アメリカ政府の行 為は収用に該当しないと認定したこと、そして③先 住民族の保護について慣習法の内容にまで踏み 込んだ議論をしているが、最終的には、アメリカ政 府の行為は

NAFTA1105

条が求める慣習国際法 上の最低標準に違反せずと認定したこと、の

3

点で ある。  仲裁廷は多くの請求について、管轄の存在その ものを否定した。投資仲裁は、ある国家内に投資 をしている外国人投資家と投資受入国との間の 紛争を対象としている。本件の原告は

5

人(社)いた。 原告達はカナダ生まれである。彼らはカナダ国内 のグランドリバー保留地においてタバコの製造販 売をしており、原告の内

1

人だけが、アメリカ国内 セネカ族保留地において、先のタバコを輸入販売 する業務を行っていた。原告

5

人(社)のうち

4

人 (社)がカナダ国内において業務を行っており、ア メリカ国内での投資活動を行っていなかった。そ のために、最終的に仲裁廷が実体判断を行ったの

(5)

Kill, ‘Harmonizing Investment Protection and Interna-tional Human Rights: First Steps Towards a Methodol-ogy’, in International Investment Law for the 21st

Centu-ry: Essays in Honour of Christoph Schreuer (C. Binder,

U. Kriebaum, A. Reinisch & S. Wittich eds., Oxford University Press, 2009), pp.68-707; Martins Paparinskis, “Analogies and Other Regimes of International Law”, in

The Foundations of International Investment Law: Bringing Theory into Practice (Z. Douglas, J. Pauwelyn,

and J.E. Viñuales eds., Oxford University Press, 2014), pp.73-107; Yannick Radi, “Realizing Human Rights in Investment Treaty Arbitration: A Perspective from within the International Investment Law Toolbox.” 37

NCJ Int’ l L. & Com. Reg., p. 1107 (2011); Anthea

Rob-erts, ‘Clash of Paradigms: Actors and Analogies Shaping the Investment Treaty System’, 107 A.J.I.L, p.45 (2013);

Moshe Hirsch, ‘Investment Tribunals and Human 11Grand River Enterprises Six Nations, Ltd., et al. v.

United States of America, Award (12 January 2011), para.154.

12Ibid, para.155.

13)坂田雅夫「公正衡平待遇条項の適用実態」前掲注(5)

14Supra note (11), para.214.

15)まず はPierre-Marie Dupuy et al, Human Rights in International Investment Law and Arbitration (Oxford University Press, 2009)とGiorgio Sacerdoti et al, Gener-al Interests of Host States in InternationGener-al Investment Law(Cambridge UP, 2014)所収の諸論文を参照。その他

の近年の代表的研究は次の通り、James D. Fry, “Interna-tional Human Rights Law in Investment Arbitration: Evidence of International Law’s Unity.” Duke J.Comp. I.L., vol.18. p.77ff (2007); Bruno Simma & Theodore はアメリカ国内でタバコの販売を行っていた者に 関するのみである。  続いて仲裁は収用について分析をしている。仲 裁は、後述するポープ・アンド・タルボット事件お よびフェルドマン事件や、先に触れたグラミス事 件の該当箇所などを引用しながら、「

1110

条の文 言と多くの仲裁の考えによれば、収用には原告の 財産的利益の、全て、又は大部分が奪われること が必要である」11)纏めている。その上で、本件で は預託金の支払いが求められているだけで、原告 の事業は継続中であることを根拠として、収用の 存在を否定している12)  最後に

NAFTA1105

条の「国際法に従った待 遇」について、仲裁が述べている箇所について、同 条項の一般的な解釈問題については既に別稿13) で議論しているので、ここでは先住民の保護に関 連する範囲に議論を絞る。仲裁は、「先住民に大き く影響する政府の政策や行動について、政府当局 が先住民と協議することを求める慣習国際法上の 原則が存在すると言っても良い」と述べている。し かしながら仲裁廷は、この協議義務は先住民のコ ミュニティという団体との協議義務であり、原告個 人の権利ではないとする。また仲裁廷は

1105

条の 求める慣習国際法上の外国人が受ける待遇の最 低標準について、それが「全ての外国人投資家の 投資に保証される最低の保護」14)意味している とし、先住民族のみが持つ権利は含まれないと した。

III

先住民族の保護を理由とする

外国人投資活動の制限が

収用に該当する可能性

 投資協定仲裁において先住民族の権利問題が どのように扱われたのかを探る手がかりとして二つ の事例を紹介検討した。そこで提起された主な問 題は次の通りである。①先住民族の意見を仲裁 に反映させるために、訴外の先住民族団体等から の意見書の提出が認められるか。②投資協定上 の「公正衡平待遇」や「慣習国際法上の最低標準」 の遵守を求める規定を通して、先住民族である投 資家が、先住民族としての権利を仲裁で主張でき るか。③先住民族の保護を目指して国家が取る 措置が、投資協定違反となるのか。主に問題とな るのは、公正衡平待遇規定、慣習国際法上の最 低標準、そして収用規定である。

(6)

準としての「効果」に関する一考察」『同志社法学』57巻833頁 (2005)

18)収用規定に関する最近の研究としては、Arnaud de Nanteuil, L’expropriation indirecte en droit internation-al de l’investissement (2014); Sebastián López Escarcena,

Indirect Expropriation in International Law(2014)を

参照。

19)投資協定に対する近年の反対運動についてはMichael

Waibel, The Backlash against Investment Arbitration: Perceptions and Reality (Kluwer Law International, 2010)を参照。

20) Konrad von Moltke & Howard Mann, NAFTA's Chapter 11 and the Environment: Addressing the Impacts of the Investor-State Process on the Environment

(International Institute for Sustainable Development, 1999).

Rights Treaties: A Sociological Perspective’, in Invest-ment Law Within International Law: Integrationist Per-spectives (Freya Baetens ed., Cambridge University

press, 2013), pp.85-105; N. Jansen Calamita, “tional Human Rights and the Interpretation of Interna-tional Investment Treaties: ConstituInterna-tional Consider-ations”, ibid, pp.164-184; Paula F. Henin, “Jurisdiction

of Investment Treaty Tribunals over Investors’ Human Rights Claims: The Case against Roussalis V. Romania”, 51 Columbia J.Trans’ l.L., p.224 (2012) . 16)坂田雅夫「公正衡平待遇条項の適用実態 : TPP投資 章を考える素材の1つとして」『日本国際経済法年報』第23号 81-99頁(2014年);坂田雅夫「北米自由貿易協定(NAFTA) 1105条の「公正にして衡平な待遇」規定をめぐる論争」『同志 社法学』第55巻1531-1584頁(2004年) 17)坂田雅夫「投資保護条約に規定する「収用」の認定基  本稿では、これらの論点のなかから「先住民族 の保護を理由とする外国人投資活動の制限が収 用に該当する可能性」に絞って、議論を進めていく。 ここでその他の論点について、簡単に触れておきた い。①については仲裁において大きな対立点となっ ているが、未だ法律的議論としては煮詰まってい ないと思われるし、筆者自身も十分な検討を加え ていないので、今回は検討対象に加えていない。 ②については先住民族に限らず、通常の人権規範 全般について、外国人投資家の人権条約上の諸 権利への侵害を投資協定仲裁でどのように問題 にできうるかは既にいくつかの先行研究15)存在 しており、いずれ見解を纏めたいと考えている。③ について収用以外の公正衡平待遇規定と慣習国 際法上の最低標準については、先住民保護という 文脈に限定したものではないが、既に別稿16)で論 じているのでそちらをご参照願いたい。収用条項 についても、既に一般的文脈で論じたことがあっ た17)。しかしながらその論文から既に

10

年が経ち、 収用条項に関連して、その後の進展18)もあったの で、以前の論文を簡単に纏めた後に、先住民の保 護を理由とする外国人投資活動の制限が収用に 該当し、補償金の支払いが求められる可能性につ いて論じておきたい。  経済連携協定、自由貿易協定、又は投資保護 協定といった経済関係の諸協定が今日数多く締 結されている。これらの協定には、外国人投資家 の利益の保護ばかりを目指しており、人権や環境 の保護に配慮していないという批判が存在してい る。つまり投資協定に関連するならば、国家が人 権や環境の保護のために何らかの措置をとった 場合に、その措置の結果として損失をこうむった 外国人投資家が投資協定に基づき仲裁に訴えで て、国家にはその損失への補償・賠償金の支払い が求められるという批判である。わが国でも、環太 平洋経済連携(

TPP

)を契機として、このような批 判が数多く聞かれるようになった19)  もちろん投資協定を締結する諸国は、国家が一 般的に持つ規制権限が過度に抑制されることが ないように協定の文言に様々な工夫をしている。 かつての投資協定には条文などに曖昧な点も多く、 その曖昧性を危惧する研究20)存在した。しかし ながら近年の投資協定では公益保護のために国 家がとる措置を例外とする幅広い例外規定21) 設けることが多い。  さて一般的例外が特に規定されていない場合 であっても、収用規定の解釈適用においては、 様々な例外が仲裁で主張適用されている。ここで

(7)

24) Rudolf Dolzer, ‘Indirect Expropriation: New Devel-opments?’, 11 N.Y.U Environmental L.J. 64, 79f(2002). 25 Pope & Talbot v. Canada, Counter-Memorial of

Government of Canada, 102.

26Available at: http://www1.oecd.org/daf/mai/pdf/

ng/ng987r1e.pdf 21)たとえば、日本とペルーとの間の投資協定第19条 22)前掲注(17) 23)坂田雅夫「最近の投資協定における『収用』の実体 ─ 協定仲裁の分析にみる新動向について─」(同志社大学博士 論文(甲)第361号、2008年) は収用規定批判の根拠とされた諸点、つまり、① 国家が公益のためにとる規制について補償が求め られる、②規制によってわずかな損失がでたとして も補償が求められる、③国家側が収用とされる行 為から利得を得ていないとしても補償が求められ る、といった諸点を念頭に以下に収用規定適用の 実態について検討を加えて行きたい。   (1)収用認定における公益の問題  公益のために取る規制は収用に該当するのか、 は国際法に限らず、様々な諸国の国内法において も問題とされてきた。国際法においては、まず投資 協定への批判という文脈で、投資家への損失とい う「効果」さえあれば収用は成立し、補償が義務 付けられる、といういわゆる効果専一理論が主張 された。まずはこの効果専一理論についてその妥 当性を検討する。 (ⅰ)効果専一理論の問題点   効果専一理論に関しては、筆者自身が既に

2005

年に一つの論文22)公表し、この理論に根 拠が無いことを述べた。その後

2008

年にその後 の実行も踏まえながら、先の論文をさらに詳細に 論じた博士論文23)執筆した。ここではこれらの 論文での議論を簡単に纏めておきたい。

 「効果専一理論(

sole effect doctrine

)」という 名前 につ いては、ドルツァー が

2002

4

月の ニューヨーク大学でのシンポジウムでこの用語を 用いたのが最初のようである。この用語の持つ明 確な印象のゆえに、その後、多くの文献で用いられ るようになったものと思われる。ドルツァーは次の ように述べている。  ここで議論される収用(

takings

)についての考 え方に見られる特別な点は、間接収用の認定に当 たって政府措置が外国人所有者に与える影響が 特に重要視されている、という点である。規制措置 が収用(

takings

)となるか否かを決定するにあたっ て、その措置が法的な地位に与える影響、そして 所有者がその財産を使用し、便益を享受する能力 に与える実際上の影響が特に重要であることは疑 いようがない。しかしながら、争いがあるのは、影 響という要素が唯一の排他的な基準(「効果専一 理論」)であるのか、それとも政府措置の目的や背 景も収用(

takings

)を分析するに当たって考慮さ れるのか、という問題である24)  多くの論者がこの効果専一理論を引くが、それ はこの解釈が現実にもたらす問題の指摘と同時に なされるものであり、むしろ批判の対象とされる説 として多くの論者によりあげられていた。このよう な解釈を実際に適用しようとするならば、今日諸 国が通常果たしている様々な機能が、全てその対 象とされ、それに係わる損失に補償の支払いが求 められる、という著しい不都合を生むことになるで あろう。ポープ・アンド・タルボット事件の仲裁に おいて、カナダ政府が主張したように、収用規定 には、国家の規制活動に関する例外が当然含意 されているのであって、そうでなければ「課税や、諸 規則の策定、輸出入の管理、そして国民が政府に 望む諸機能を果たすことが出来なくなる」25)からで ある。

OECD

1998

年に作成した多数国間投資 協定案の収用規定に付された解釈ノートは「政府 による規制、歳入増加、そしてそのほかの公益の ために取られる通常の行為から生じた損失への

(8)

paras.194-198を参照。

29Saluka Investments BV v Czech Republic, Partial

Award(March 17, 2006), para,254.

30) Rosalyn Higgins, ‘ The Taking of Property by the State: Recent Developments in International Law’, 176

R.d.C. 259, 331 (1982)

27Penn Central Transportation Co. et al. v. New York City et al., 438 U.S. 104, 130.

28)たとえば、S.D. Myers v. Canada, Counter-Memorial

of Canada (Oct. 5, 1999), 115ff, paras.423-436; Pope & Talbot v. Canada, Counter-Memorial of Canada

(March 29, 2000), 101f, paras.409-437; Methanex v. U.S.A., Rejoinder of Respondent (April 23, 2004), 83ff,

補償を当事国に求めるような、新しい規則を創り 出すものではない」26)述べている。

(ⅱ)規制権限論(police power theory)

 効果専一理論と対比して、よく引用されるものに 「規制権限論(

police power theory

)」がある。こ の「規制権限論」も、国際法においては、まだ内容 が確定された用語ではない。もともとは、アメリカ 法において、政府が取る行動の法的根拠を説明す る用語である。

police

という単語に示されているよ うに、もともとは限られた警察行動を含意する用 語であった。この用語の意味は時代と共に拡大し、 最近では、より幅広い政府行動の法的根拠として 用いられている。アメリカ合衆国の国内法では、こ の「規制権限」に基づく措置は、連邦憲法第

5

修正 の財産権保護規定の対象外であって、その措置に より国民が損失をこうむったとしても、政府はその 損失を補償する義務を負わないことになっている。 合衆国連邦最高裁判所によると、政府の行為が 「規制権限」に属するか否かは、問題とされる行為 が与える経済的影響のみではなく、その行為の「性 格」をも考慮すべきものであって、「財産的利益を 開発する能力を否定されただけでは」、連邦憲法 第

5

修正上の「剥奪(

takings

)」を証明することに はならない27)、とされている。  現代の投資紛争において、アメリカ合衆国やカ ナダ等の諸国がこの用語を仲裁裁判の場で用い た。これらの諸国の意図は、政府が公目的のため に取る規制行為は、それが差別的になされない限 り、投資協定の諸条項、とりわけ収用規定の対象 ではない、という点にある。すなわち、かかる規制 行為の結果、外国人投資家に損失が生じたとして も、それに関して補償を支払う責任は存在しない、 という主張である28)  実際に数多くの仲裁判例は、公益のために無 差別の規制が収用には該当しないと確認している。 たとえばサルカ事件仲裁判決は「規制権限の通 常の行使であって、公共の福利を目指す無差別で 善意の規制を取る際に、外国人投資家に補償を 支払わずとも責任は負わない、というのは今や確 立した国際法規である」29)述べている。  ただ最近の多くの仲裁判例にも係わらず、この 「規制権限論」の問題を指摘する意見が存在しな いわけではない。まずこの見解は投資協定の収用 規定の文言と矛盾している。投資協定の収用規定 は、収用は公目的のためであり、差別が無く、かつ 補償の支払いがなければならない、と規定するの が一般的である。「公目的のための差別がない行 為」は収用ではないとすると、この文言と矛盾する 感も強い。  ロザリン・ヒギンズは、かつて収用の問題を詳 細に分析し、次のように述べている。「この区別は 学問的に実行可能であろうか。二つの場合とも(す なわち、公目的のためになされる収奪、もしくは規 制)、国家は公共善のために行動することを目的と していないのであろうか。そして、いずれかの場合 には、財産の所有者は損失をこうむっていないの であろうか。国際法の規則の下では、規制が収用 に該当するならば、それは公目的のためになされ る必要があるし、そして正当な補償が当然支払わ れるべきなのである」30)  このヒギンズの見解は、

2006

年のアズリックス 事件仲裁判決でも引用され、「公目的に基づいて 収用と規制とを分けることが学問的に可能である

(9)

32Pope & Talbot Inc. v. Canada, Interim Award (26 June 2000), paras.100-102.

31Azurix Corp. v. Argentine Republic, Award (July 14, 2006), para.310. のか、という問題を提起するヒギンズ裁判官の懸 念を仲裁裁判所も共有している」31)述べられて いる。つまり多くの場合において公益達成のため の規制活動が収用に該当しないと意見の一致は 見られるが、それは「全ての」場合において公益達 成のための規制が収用から除外されると断言する ほど強いものではないというのが現状であろう。 (2)収用認定における損失と国家側の利得の 問題  また公益の為の規制は多くの場合には収用か ら除外するという例外以外にも、収用認定にはい くつかの条件が存在している。たとえば収用が認 定されるためには、ある程度以上の損失がなけれ ばならないと諸判例は述べており、その程度がか なり高いものであるために実際上収用と認定され るものがかなり限られている現実がある。また、収 用の認定にあたっては、問題とされる行為の結果、 国家側に利得がなければならないという主張もあ り、これも収用認定の高い壁となっている。 (ⅰ)収用が認定されるに足る損失の規模  収用と見なされうる「損失の規模」について、仲 裁判例が収用の認定について厳格な立場を示す 契機となり、その後の多くの判例で引用されるの はポープ&タルボット事件本案暫定判決(

2000

年)である。この事件では、カナダ政府が実施した 軟材木の輸出規制が問題とされた。同判決が収 用について述べた場所は、以下の通りである。    

100.

次の問題は、輸出管理制度が、投資家の 投資の、・・・、収用の原因となったのか、という ことである。国際法においてこれらの用語が持つ 通常の意味にしたがうならば、答えは否定的なも のとならざるをえない。まず、投資が国有化された、 もしくは制度が没収的なものである、とは主張され ていない。投資家(および投資の操業管理者)は、 審問において、本件における投資家が未だ投資を 管理し、投資の日々の運営を指図し、そして投資 の従業員もしくは被雇用者が体制により拘留され たこともない、と答えている。カナダは投資の従業 員もしくは被雇用者の仕事を監督したことはなく、 (税金を除いて)会社の売り上げに対してどのよう な行動も取っておらず、株主の行動や経営に干渉 しておらず、投資がその株主に配当を支払うことを 妨害しておらず、支配人やマネージャーの任命に 干渉しておらず、そして投資家から投資の完全な 支配や所有を取り上げるその他のあらゆる措置も 取っていない。  

101.

投資家が提示することができた唯一の収 奪(

taking

)は、アメリカ合衆国に軟材木を輸出す る投資の能力に介入した、という点だけである。投 資家によれば、この介入により投資の収益は低下 したのだが、その一方で投資はアメリカ合衆国に かなりの量の軟材木を輸出し、この売り上げによ り相当な収益を得ていたのである。  

102.

収益が低下したという投資家の主張を仮 に受け入れたとしても、投資の行動への輸出管理 による介入は、(

NAFTA

:筆者注)

1110

条の意味 における収用を惹起する程度のものとはいえない、 と仲裁裁判所は結論する。商行為に対する特定 の介入が収用に該当するか否かは、時に不明確な 問題でありうるが、その認定基準は、財産が所有 者から奪われた(

taken

)といえるほどに、介入が厳 しい規制であるのか否か、という点である32)

(10)

35Report of the Committee on Nationalization of Property of the American Branch of the International Law Association.この文献はStephen M. Schwebel, Justice in International Law : Selected Writings of Stephen M. Schwebel, p.385, p.390 (1994)に採録されている。

33Feldman v. Mexico, Award on Merits(16 December 2002), para.142. 34)坂田雅夫「国際法における株主の保護 : 国際法委員会 外交的保護条文草案及び国際司法裁判所ディアロ事件判 決を中心として」『彦根論叢』397号4頁(2013)。  もう一つよく引用されるのはフェルドマン事件 仲裁判決(

2002

年)である。原告は、メキシコ国内 においてタバコの輸出入業に携わっていた。原告 はメキシコ政府が課していたタバコ輸出に関する 租税が不公平であるとして、北米自由貿易協定に 基づいて仲裁手続きの開始を求めた。その結果、 仲裁裁判所は

2002

12

16

日に判決を下した。 判決では、不公平な租税制度が収用に当たるとい う原告の主張が、否定された。規制により、原告の タバコ輸出が減少したことは事実であるが、現在 でも輸出は継続されており、何かが奪われたとい える状況にはない、と判断されたのである33)。とく に、この事件では原告が運営していた事業が、タ バコの輸出業以外にも様々であったことが注目さ れた。収用を認定するに当たって、政府の行為が 損失を与える対象を、個別の活動などに限定せず、 企業の投資受入国内における事業活動全体に与 える影響を考慮したのである。  このように事業全体での損失評価という方式は、 投資仲裁で一般的な株主からの請求提起という 場合により顕著になる。通常、事業を継続してい る企業の中には、複数の事業を行うものも多い。 その場合に、その会社の特定業務だけに限られる 規制は、その会社の事業全体を害するものでない 以上、株主訴訟では収用とは認定されない可能性 が高いのである。株主の保護問題については、既 に別稿34)で簡単な問題意識を示しているが、そこ で挙げた仲裁判例は株主による訴えの提起につ き、収用規定に関しては厳格な立場を示していた。 つまり、収用規定に関して多くの判例は「株主の損 害」を限定的に解釈しており、収用が認定される 可能性は少なくなっている。   (ⅱ)国家側の利得  収用の範囲について、収用にはその行為により 国家側に利得が発生していることが必要であると する判例もある。近年仲裁に付託される事例は、 所有権が移転される、という明白な収用の事例は 少ない。多くの事例は国家が何らかの規制を行っ たことにより、投資家の事業活動に損失が生じた、 というものである。これは、いわゆる規制収用の問 題であるが、この場合には、投資家が何らかの損 失をこうむっているとしても、国家側はその規制か ら直接には利益を得ていない。このために、投資 協定の収用規定の適用に当たって、投資受入国が 問題とされる行為から利益を得ていることが条件 となるか否かが、重要な問題となるのである。  この問題は収用の補償義務の法的な基礎づけ がいかなるものか、という理論的な問題に関係し ている。収用に関する最も重要な義務は補償の支 払いである。外国人財産を収用する際に、なぜ補 償の支払いが求められるのか。補償の理論的根拠 としては、二つの考え方がある。一つは既得権保 護 の法理であり、もう一つは不当利得(

unjust

enrichment

)の法理である。いずれの法理が、補 償義務の議論的根拠であるのかは、あまり議論さ れてこなかった。いや、むしろ、その二つの法理が 共に収用に対する補償支払い義務の法的根拠と して用いられてきたといえる。  たとえば、国際法協会アメリカ支部が設立した 「財産の国有化に関する委員会」の報告書は、補 償の支払いを「不当利得と既得権の原則に結びつ いている」とし、既得権保護と不当利得の法理を 事実上同一であると説明する35)。ビン・チェンは 「補償を支払わねばならないという義務は、私有 財産の保護か、もしくは共同体の利得に基づいて

(11)

40Eudoro Armando Olguin v. Republic of Paraguay, Award (26 July 2001), para.84.

41Lauder v. The Czech Republic, Final Award (3 Sep.2001), para.203.

42) M. Sornarajah, The International Law on Foreign Investment (3rd ed., p.367 2010.

43) A. Newcombe, “The Boundaries of Regulatory Ex-propriation in International Law”, 20 ICSID Rev. vo.20,

p.1, p.21(2005). 36) Bin Cheng, General Principles of Law as Applied by

International Courts and Tribunals, p.47 (1953). 37) F.A.Mann, “British Treaties for the Promotion and Protection of Investments”, 52 BYBIL p.241, p.247

(1981).

38Metalclad Corp. v. United Mexican States, Final

Award (30 Aug. 2000), para.103.

39S.D.Myers v. Canada, Partial Award (13 Nov. 2000), paras.287f. いる」36)述べている。マンは英国が締結する投 資協定における収用について、「投資家から財産も しくは財産権を奪い、かつ国家を利する、あらゆる 行為」37)定義している。  ここで不当利得が補償義務の理論的基盤であ るとすれば、収用を行ったとされる国家に何らかの 利益が発生していなければならないことになる。  国家側の利得は必要ないとする仲裁判例として はメタルクラッド事件仲裁判決がある。同判決は、 「たとえ投資受入国が(その措置から)明確な利益 を得ていない」38)場合であっても収用に含まれる としている。  その後の判例にはメタルクラッド事件に従わな いものが多い。たとえば、マイヤーズ事件仲裁判 決は、「カナダはこの措置から利益を得ていない。 財産が移さる、または他者が直接に利されている、 というようなことは、証拠からは示されていない」と 述べて、問題とされたカナダの輸出入規制を「収 用の事例ではない」39)判断している。  オルグイン事件仲裁判決も「収用がなされたと いえるためには、関係当事者からその財産を奪い、 かつ収用財産を、直接又は間接に、得る、支配す る、もしくは少なくとも当該財産から利益を得る効 果を持つのに十分であると合理的に考えられる行 動がなければならない」40)として、国家側の利得 の存在を収用の条件としている。  ローダー事件判決も同様であって、「仮に、

1996

年から

1999

年の間にメディア委員会がとった行動 が原告からその財産権を奪う効果を持つもので あったとしても、これらの行動は収用、もしくはそ れに等しいものには該当しない、なぜならそれは チェコ共和国、もしくは共和国に関係する人や団 体に利益を与えていないからである」41)と述べて いる。  このような判例の動きを受けて、ソルナラジャー は「ローダー事件仲裁判決において、収用とは国 家もしくはその関連団体を利するものでなければ ならない、という提言がなされている。過去の収用 事例においてはそのような要件は存在しなかった ことは確かであろう。過去の事例は、その多くが土 地制度やその他の改良計画を含んでおり、それら は国家というよりも、その国の人民を利するもの だったのである。この要件が受け入れられるなら ば、投資を害する措置であっても、国家を直接に 利することがないものは収用とならないことになる だろう」42)述べている。  ニューカムも興味深い分析をしている。彼はまず 「ほぼ全ての間接収用の事例では、財産の剥奪と 共に、それに対応して国家側が財産の利用や支配 を取得している。したがって、圧倒的多数の学説は、 国家が国家権力を用いて、財産の支配、活用およ び利用を取得する場合に間接収用がなされてい

(12)

る、という見解を支持している」43)述べる。その 上で、もう一つ「極端に恣意的な干渉」が財産に対 して加えられる場合には、国家が財産を取得して いないとしても、収用と認定された若干の事例が あるとしている。いずれにせよ、彼の分析によれば、 収用と認定されるためには、原則として国家側が 何らかの利益を得ていることが必要であって、例 外は国家が「極めて恣意的」な行動をとる場合に 限られることになる。

IV

終わりに

 本稿ではまず先住民族が関係した仲裁判例を 紹介した上で関連する論点を提示した。それらの 論点の中でもとくに、収用規定を取り上げ、先住民 族保護を含む公益のために国家が規制活動を行 うことが収用に該当する可能性について論じた。  その結果、まず投資関連の最近の協定には公 益のために国家が規制活動を取ることに幅広い 留保規定があることを確認した。続いて明文の一 般的留保規定がなかったとしても、仲裁は、公益 のための規制活動を、それが無差別になされる限 り収用とはあまり認定していない事を確認した。さ らに収用の認定にあたっては、ある程度以上の損 失が必要であること、そしてその損失の認定は極 めて厳格になされていることを確認した。最後に 投資家が損失を受けているのみではなく、国家側 がその行為から利得を得ていることを条件とする 判例があることを確認した。  以上のことから、投資協定の収用条項は、国家 が、先住民族の保護を含む、各種の公益のために 規制活動を行うことに対する阻害要因とは、ほと んどの場合になっていないと言える。  

II

章で挙げた論点のなかでは、投資協定仲裁に おいて投資家側が他の人権規範(先住民族の保 護規範も含む)の違反を問えるのか、という問題 が未だ残されている。それについてはいずれ別稿 にて纏めたいと考えている。 【付記】  本稿は科学研究費補助金・基盤研究(

C

「環境) と開発における先住民族の法的地位の再検討− 国際法形成過程変容の多面的考察」(研究代表 者:松本(小坂田)裕子)(課題番号:

23530129

)に よる研究成果の一部である。

(13)

The Problem Indigenous Peoples

Rights

in International Investment Law

Masao Sakata

This paper deals with the interactions

be-tween the rights of indigenous peoples and

international investment law.

At First I analyzed two cases of international

investment arbitration: Glamis Gold case and

Grand River case. First case is the Glamis Gold

Ltd. v. Unites States of America. In this case,

the investor was Canadian gold-mining

enter-prise. Glamis Gold claimed that the United

States, through various acts, wrongfully delayed

approval of its open-pit gold-mining project in

southeastern California and that the State of

California rendered the project economically

unfeasible by introducing backfilling

require-ments of mine in order to protect Native

American Quechan Nation’s ancestral land.

The tribunal found that no expropriation had

occurred since mining had not been made

im-possible, and that the measures did not breach

NAFTA Article 1105 since no violation of the

customary international law minimum

stan-dard had occurred. Second case is the Grand

River Enterprises v. United States of America.

In this case investors were Canadian citizen

and members of indigenous peoples. They were

involved in tobacco production and

distribu-tion in Canada and US. They claimed that

certain actions of some US States to implement

Master Settlement Agreement, which is the

deal between some states and major tobacco

enterprises, violated their rights under the

NAFTA. Tribunal declined jurisdiction over

three of the four claimants. With respect to the

remaining claimant, the tribunal stated “It may

well be ··· that there does exist a principle of

customary international law requiring

govern-mental authorities to consult indigenous

peoples on governmental policies or actions

significantly affecting them”. The tribunal

con-tinued “it would be difficult to construe such a

rule as part of customary minimum standard of

protection that must be accorded to every

for-eign investment pursuant to article 1105”.

Secondly I analyzed the relationship the

ex-propriation provision of investment protection

treaty and governmental regulation for public

purposes (human rights, environmental

protec-tion, of course, the protection of indigenous

peoples, etc.). In conclusion, as United States

Model Investment treaty provides, “Except in

rare circumstances, non-discriminatory

regula-tory actions by a Party that are designed and

applied to protect legitimate public welfare

ob-jectives, such as public health, safety, and the

environment, do not constitute indirect

expro-priations.”

(14)

参照

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