Ⅰ はじめに 重症患者の治療では原疾患の治療と並行して, 適切な栄養管理が必須である.感染症に対する免 疫力維持,創傷治癒促進,侵襲軽減など栄養管理 の巧拙が治療に影響を与えるからである.近年で は,適切な栄養管理を行うため,投与ルートの選 択,至適エネルギー投与量に加えて,各種のガイ ドラインで糖質,脂質,タンパク質の質や投与量 も細やかに提唱されている.本稿では特に重症病 態における栄養管理,脂質投与について①最近の RCTでの結果,②基礎研究の成果,③ 1 週間を こえてなお重症な病態での管理といった観点で述 べる. 1.栄養管理における脂質投与の意義 脂質はエネルギー源や必須脂肪酸供給の役割の みならず,細胞膜の主成分,炎症や血小板機能に かかわる各種メディエーターの材料として生体に とって重要である.エネルギー源としての脂質は 1 gあたり 9 kcal で,単位重量あたりのエネル ギー量が糖質,タンパク質に比較して高く,効率 的なエネルギー源である.水分制限を厳格に行い つつも一定のエネルギー投与量が必要とされる ケースでは水分量を減らしエネルギー投与を行う ことも可能である.また血糖コントロールに難渋 する症例や慢性呼吸器疾患のような糖質投与に制 限を受けるケースでは脂質投与の割合を増やすこ とにより過剰な糖質投与を回避できるメリットが ある.一方,リノール酸やα-リノレン酸といっ た必須脂肪酸は生体膜の構成成分であり,膜の機 能維持に重要であるが,これら脂肪酸の合成は生 体内で行うことができない.そのため脂質投与が 必須である.脂肪酸欠乏が長期にわたると,皮膚 炎,皮膚の弾力性の低下,湿疹,脱毛などといっ た症状のほか,高脂血症や高コレステロール血 症,動脈硬化などの病態に陥る.周術期の栄養管 理においては脂質投与を念頭に置く必要がある. 2.臨床で使用できる脂肪製剤と脂質投与量 脂質は一般に 1 分子のグリセロールに 3 分子の 脂肪酸がエステル結合したトリアシルグリセロー ルの構造をもつ.脂肪製剤は脂肪酸の種類により 分類される.臨床では大豆油(SO),中鎖脂肪酸 トリグリセライド(MCT),オリーブ油(OO), 魚油(FO)の 4 種類の製剤が利用されている1) (表 1).現在のところ,わが国では SO ベースの 製 剤 し か 使 用 で き な い が, 世 界 的 に は SO, MCT,OO,FO 単 独 あ る い は 組 み 合 わ せ た SMOF製剤がある. 周術期,脂質は一般に成人では全カロリーの 20∼30%を投与する.ESPEN recommendation2)
「重症患者における栄養管理」
脂質投与の是非
守屋 智之
1),2) 脂質,静脈脂肪製剤,侵襲,周術期管理特 集
埼玉医科大学総合医療センター1) 〒350-8550 埼玉県川越市鴨田 1981 防衛医科大学校病院外科2)で は 0.7∼1.5 g/kg/day, 最 近 の Review3)で は 1.0∼2.0 g/kg/day(maximum;2.0 g/kg/day) と推奨されている.脂肪製剤の種類では米国では
SOベースの脂肪製剤が炎症反応を引き起こす懸
念から current clinical practice guidelines では低 栄養でない重症患者では最初の 7∼10 日間の静脈 栄養では SO-based 静脈製剤を控えるように提案 している4).一方 European guideline では静脈栄 養早期での使用を推奨している2). 3.周術期の脂質投与効果を検証した RCT 経腸的に栄養を吸収できないケースでは脂肪製 剤を経静脈的に投与することが必要とされる.そ れはエネルギー投与だけでなく,必須脂肪酸補充 という観点からも重要だからである.これまでの 脂肪製剤は伝統的に SO 由来であったが,SO に はω6不飽和脂肪酸が多く含まれ,SO を含有し た脂肪製剤では炎症性サイトカインとプロスタグ ランジン 2 の放出といった免疫抑制による負の影 響が懸念されてきた.こういった問題に対処すべ く,新規脂肪製剤ではω6不飽和脂肪酸の含有量 を 最 小 限 に し て い る.SO の 代 わ り に MCT, OO,FO を組み合せた製剤や,FO 単独の製剤が 使用されるようになっている.これら脂肪酸含有 の製剤がそれぞれ単独あるいは Mix された状態 で投与された場合に周術期にどのような影響があ るかについて整理,解析を行った.メタ解析5)∼7) や Pubmed で調べえた範囲で 2010 年以降を中心 に検討した(表 2).また FO 製剤には(図 1)5) に示すようにω6:ω3の比率で製剤が分けられて おり,FO といっても製剤ごとに含有量が異なる ことに注意しなければならない. 1)FO vs MCT8)∼12) 5 つの RCT が検索された.2 編が Lipopulas®, 3編が Omegaven®であった.4 編の RCT で血中 のサイトカイン反応が FO 群で対照群と比較して 減少していた.臨床効果としては Han ら10)の報 告では,術後の肝機能,感染性合併症発生率が減 少, ま た Grau-Carmona ら12)は 院 内 感 染 率 (21% vs 37.2%)が減少していたと報告してい る.しかし在院日数や死亡率は 2 群間に違いがみ られなかった. 2)FO-SO13)∼15) 3 つ の RCT が 報 告 さ れ て い る. 炎 症 性 マー カー(IL6,TNFα)が FO 群で低値となったケー スが 2 編,CD4/8 比の変化を指摘した論文 1 編 であった.FO 群では感染性合併症,SIRS の発生 率,在院日数が短縮した報告がある一方,在院日 数,Mortality は変わらない,といった報告もあ り,FO の効果は一定ではなかった. 3)FO-OO16) 5 日以上経口摂取ができていない sepsis 患者を 2群 に 分 け,5 日 以 上 Clinoleic®(Baxter) に Omegaven®を添加した製剤を投与した治療群 と,OO のみの標準製剤(製剤の品名は本文中に 記載なし)を投与した対象群で血液,臨床学的に 表 1 脂肪製剤中の油組成 大豆油 オリーブ油 魚油 ココナッツ油 脂肪酸組成(%) リノール酸(n-6) 50 4 1-3 2 アラキドン酸(n-6) 0 0 0 0 α- リノレン酸(n-3) 10 0 1.3-5.2 0 EPA(n-3) 0 0 5.4-13.9 0 DHA(n-3) 0 0 5.4-26.8 0 オレイン酸(n-9) 25 85 16-20 6 中鎖脂肪酸(MCT) 0 0 0 65 短鎖脂肪酸(SFAs) 15 11 10-20 27
Phytosterol concentration(mg/100 mg oil) 300 200 微量 70
α-Tocopherol concentration(mg/100 mg oil) 6.4-7.5 10-37 45-70 0.2-2
表2 さまざまな脂肪製剤の比較試験 文献 患者背景 比較対照 所見 臨床結果 1) FO vs MCT Barbosa ( 2010 ) 8)
Patient with SIRS or sepsis
Lipopulas vs MCTs/LCTs 炎 症 性 マーカー( IL6,TNF ) が Lipopulas 群 で低下 ICU 滞在期間 , Mor tality ,人工呼吸器 装着日数は同じ Sungur tekin ( 2011 ) 9)
Patient with SIRS or sepsis
Omegaven vs MCTs/LCTs (Lipofundin ) sepsis gr oup で 炎 症 性 マーカー( IL6 , IL1 , TNF )が Omegaven 群で低下 , IL10 は上昇 していた. Han ( 2012 ) 10 ) Patient in sur
gical ICU after major
sur ger y Omegaven vs MCTs/LCTs (Lipofundin ) IL -1, IL -8, IFN -γ , IL -6, and TNF が Omega -ven 群で低下
postoperative liver dysfunction
(
50
%
vs 33.3
%)
and infection rate
( 41.7 % vs 27.8 %)死亡率に差はない de Miranda Tor rinhas ( 2013 ) 11 )
Patient who have under
gone elec -tive sur ger y for the r esection of
gastric or colon cancer
Omegaven vs MCTs/LCTs (Lipovenoes ) MCT/LCTs 群と比較して IL6 は FO 群で高 く, IL10 は FO 群で低下 感染性合併症の発生率 ,在院日数は同 程度 Grau -Car mona ( 2015 ) 12 ) Patient in ICU Lipopulas vs MCTs/LCTs (Lipofundin ) 院内感染率( 21 % vs 37.2 %) いずれも差がなし ( 死亡率 ,入院期 間, ICU 滞在期間 ,人工呼吸器装着期 間) 2) FO vs SO Jiang ( 2010 ) 13 )
Patient who have under
gone GI cancer sur ger y Omegaven vs SO (Intralipid ) 術後 1 日目と 8 日目の CD4/CD8 ratio 変化 感染性合併症 ( 4 vs 12 ), SIRS の発生 率( 4vs 13 ),在院日数( 4 vs 12 ) Zhu ( 2012 ) 14 )
Patient who have under
gone major abdominal sur ger y Omegaven + SO vs SO 炎 症 性 マーカー( IL6,TNF ), CD4/CD8 比が Omegaven 群で低下 感 染性 合併 症の 発 生率 は同 程 度 , SIRS の期間,在院日数は FO 群で短い We i( 2014 ) 15 )
Patients who have under
gone gas -tric sur ger y Omegaven + SO vs SO ( Intralipid ) SO 群に比較して炎症性マ ー カ ー ( IL6,TNF ) の上昇が Omegaven 群で優位に抑制 合併症の発生率は, FO 群で低下 3) FO vs OO Gultekin (2014 ) 16 )
Patients with sepsis
Omegaven + SO/OO ( Clinoleic ) vs OO 炎 症 性 マーカー( IL6,TNF )には差を認めな い .CRP LTB4 が Omegaven 群で低下 Mor tality ,在院日数 ,静脈栄養期間は 2 群とも同程度 4) FO ( SMOF ) vs MCT Ma ( 2012 ) 17 )
Patients who have under
gone elec -tive GI sur ger y FO ( SMOFLipid ) vs MCT ( Lipovenoes ) 炎 症 性 マーカー( IL1,IL6,TNF )は 2 群間で 同程度 在院日数 ,術後合併症 ,感染の発生率 は 2 群とも同程度 Wu ( 2014 ) 18 )
Patients who have under
gone GI sur ger y FO ( SMOFLipid ) vs MCT ( Lipovenoes ) サイ トカイ ン ( IL10,IL6,TNF )は 2 群間 で同 程度 いずれも差がなし ( 死亡率 ,入院期 間,感染性合併症発生率) 5) FO ( SMOF ) vs SO Klek ( 2013 ) 20 ) Pa tie nt s u na bl e t o s us ta in o ra l/ en
-teral food intake for at least 4 wk
SMOFLipid vs SO (Intralipid ) IL6 の変化は 2 群間で同程度 感染症発生率は 2 群とも同程度 ( 17.6 vs 17.9 %) Metr y( 2014 ) 21 )
Patients in ICU after major abdomi
-nal sur ger y SMOFLipid vs SO (Intralipid ) SO 群に比較して術後 4, 7 日目の IL6 が SMOF 群で優位に低値 いずれも差がなし ( 死亡率 ,入院期 間, ICU 滞在期間) 6) OO vs SO Mateu-de Antonio (2008 ) 22 ) Criticallyill ( mainly post -sur ger y ICU ) ClinOleic vs SO (Intralipid ) 血液学的検査 ( 白血球数 , CRP ほか)差を認 めない いずれも差がなし ( 死亡率 ,入院期 間,感染性合併症発生率) Umpier rez et al. ( 2012 ) 23 ) Adul t medic al sur gi cal ICU p atients ClinOleic vs SO (Intralipid ) 血液学的検査 ( 血中グルコ ー ス濃度 , CRP ),サイトカイン ( TNF ),抗酸化指標 , 単球貪食能ほか差を認めない いずれも差なし ( 在院日数 ,死亡率 , 院内感染率,腎不全率) 7) OO vs MCT Gar cia-de-Lor enzo et al. ( 2005 ) 25 ) sever ely bur ned patients ClinOleic vs MCT (Lipofundin ) liver function tests の異常値が MCT 群で OO 群にくらべて多い 死亡率に差はなし
比較検討を行った.その結果,治療群で CRP,
LTB4が治療前にくらべ有意に低下していた.
IL6,TNF-α,在院日数,静脈栄養期間,生存率
に差はみられなかった. 4)SMOF-MCT17),18)
SMOF lipid®(SMOF)は SO30%,MCT30%,
OO25%,FO15%で構成されている製剤である. Fresenius-Kabi 社から発売され,静脈脂肪製剤 のなかでも今後の主流になることが推断されてい る19).SMOF と MCT を 対 比 し た RCT は 2 編. 前項で検討した Omegaven®では対照群とくらべ て炎症性サイトカインが下がっているものが多 かったが,同様の効果がみられたのは 1 編であっ た17).2 編とも感染性合併症発生率,在院日数, ICU滞在期間,死亡率など臨床指標ではほぼ 2 群間で差を認めず,SMOF の MCT に対する優越 性を見い出すことはできなかった. 5)SMOF-SO20),21) SMOF と SO を対比した RCT は 2 編.一つの 報告では SMOF 群で術後 4,7 日目の IL6 が低下 していた.しかし,いずれの検討でも感染性合併 症発生率,死亡率,在院日数など臨床効果はみら れなかった. 6)OO-SO22),23) OO は地中海料理の主要な材料であり,健康的 な脂質と考えられている.OO の主要成分である オレイン酸は抗酸化作用をもち,若干の抗炎症作 用をもち合わせていると報告されている24).OO を 含 有 し た 製 剤 は 2 つ あ り,1 つ は ClinOleic® (Baxter Healthcare), も う 1 つ は SMOF Lipid® (Fresenius-Kabi) で あ る.ClinOleic®は OO と SOの 比 率 が 80:20 と なって い る. こ の OO (ClinOleic®)と SO を比較した RCT は 2 編ある が,いずれも血液学的,臨床的に効果がみられな かった.ClinOleic®は悪影響を及ぼすことがな く,安全であることが分かったが,血液学的,臨 床学的に SO や SO+MCT と変わらないことも明 らかとなった. 7)OO-MCT25) 重 症 熱 傷 患 者 に 対 し て OO(ClinOleic®) と MCT(Lipofundina®)を投与,比較検討した結 果,両群間で CRP やサイトカインなど炎症マー カーでは差を認めていない.AST,ALT,ALP, γ-GTP,ビリルビンなどの胆道系酵素の異常値が OO群で少なかった. FO を中心とした RCT の検討は多くみられた が,インパクトある臨床効果を示すものは少な かった.全体には血液学的に炎症性サイトカイン を低下させるものが多かったが,臨床的に感染性 合併症,死亡率を減少させ,在院日数の短縮にい たる結果はきわめて少なかったからである.ま た, 同 じ FO で も SMOFlipid®と Omegaven®で
ω‐6:ω‐3 Ratio
1:8
100% FO
Omegaven®
2.5:1
30% SO,30% MCT
25% OO, 15% FO
SMOF lipid
2.7:1
40% SO,50% MCT
10% FO
Lipoplas
7:1
100% SO
Intralipid
9:1
20% SO,80% OO
ClinOleic
50% SO,50% MCT
Lipofundin MCT/LCT
Lipovenoes MCT
図 1 文献 5)より改変して引用,ω3:ω6 比で分類した市販の静脈脂肪製剤は結果に違いがあり,ほかの製剤も含めると FO と一括りにしてしまうには困難さがみられた.適 切なω-6:ω-3 が満たされた製剤がまだ市販され ていないのかもしれず,この点については今後, 基礎研究を交えて,検討がなされる必要があるよ うに思われた.それ以外の脂肪製剤についても残 念ながら価値ある検討は見当たらなかった. 4.基礎研究の成果 Meisel ら26)は市販されている 5 つの脂肪製剤 を脂肪肝の発生と必須脂肪酸欠乏症の観点からマ ウスモデルで検討した.19 日間高糖質食を与え たマウスに 5 つの製剤① Intralipid® [Baxter/Fre-senius Kabi], ② Liposyn II®[Hospira Inc], ③ ClinOleic®[Baxter/Clinte],④ SMOFlipid® [Fre-senius Kabi], ⑤ Omegaven®[Fresenius Kabi] を尾静脈から一日ごとに 2.4 g/kg 投与し,病理 学的(H&E と Oil Red O 染色),MR spectrosco-py,また Serum ALT レベルで検討した.その結 果,①から④のいずれも軽度から中等度の脂肪肝 の像を呈していた.⑤ Omegaven®のみが正常な 肝臓の組織像を呈していた.われわれの検討でも TPN下,全カロリーの 20%を含有した FO を投 与したマウスでは肝機能(AST,ALT)は正常化 し,病理学的にも通常食と同程度の肝組織像をし めしていた27).また SO と FO を混注し,肝臓の 脂質代謝,病理像をみた検討でも FO を含有しな い 100% SO 製剤投与群ではコレステロール,中 性脂肪が 8%,33% FO を含有している群と比較 して,高くなっていた.同様に病理所見でも脂肪 肝の像を呈していた28).したがって,TPN 下で の FO の含有は必須と考えられた. 一方,高度侵襲後,集中治療管理を行っている 際に急性肺障害(ARDS)をきたし,治療に難渋 することがしばしば経験される.このような病態 での栄養管理に FO が有効であることを示唆する
研究がある.Hecker ら29)は ARDS の発生に
SO-based oilあるいは FO-based oil 製剤がどのよう
な影響を与えるか,健常 Volunteer とマウスモデ
ル で 検 討 し た. 健 常 Volunteer に Omegaven®
(FO)と Lipoven®(SO)を 48 時間投与,その後
LPSを吸引させ,8 時間後,24 時間後に採血,ま た肺胞洗浄液(BALF)を調べたところ,24 時間 後の BALF 中の白血球数と好中球数が FO 群で有 意に少なく,サイトカイン濃度 TNF-αは 8 時間 後,SO 群で FO 群とくらべて高く,IL8 は 24 時 間後,FO 群では SO 群と比較して低くなってい た.また血中から分離した Monocyte,PMN(多 核 白 血 球 ) に LPS 刺 激 を 行 う と,SO 群 で は PMN由来の炎症性サイトカイン IL8 の産生が高 じ て い る 一 方,FO 群 で は Monocyte 由 来 の TNF-αや IL1βが低下していた.Monocyte の内 皮細胞への接着性は SO 群で高められていたが, FO群では低下していた.さらにマウスモデルで 検討を深めたところ,ω3由来の resolvin E1 のレ セプターである ChemR23 を欠損したマウスでは 上述の健常 Volunteer でみられた FO による正の 効果は打ち消されていた.そのことは FO による 効果が ChemR23-signaling によってもたらされ ている可能性を示していた.侵襲前に FO を投与 した栄養管理を行うことで,術後の肺障害が軽減 される可能性を示した価値ある報告と思われる. このほかにも FO の生体への有利な作用が多く 報告されており,わが国でも導入が期待されてい る.実際,日本外科学会は Omegaven®の開発要 望書を厚生労働省に提出している19) .Omega-ven®と同作用をもつ製剤がわが国で完成された 際には,これまで使用してきた SO 主体の脂肪製 剤と適切な混注比のもと臨床応用される必要があ る.なぜなら Omegaven®の投与にあたっては, 必須脂肪酸欠乏,出血傾向の問題からほかの脂肪 製剤との併用投与を行うべきであると添付文書で 記載されているからである.われわれのデータ27) でも TPN 下,脂肪製剤を 100% FO で管理した マウスでは肝免疫能の回復は不完全であり,緑膿 菌門脈投与後の生存時間もわずかに延長したのみ であった.そこで,われわれは SO と FO との適 切な比率の算定が必要と考え,マウスモデルで検
討した28).その結果,全カロリーの 20%を脂肪 で投与した際には FO と SO の比率は 1:2,すな わち投与脂肪の 33%を FO,67%を SO で投与し た場合に最適比率(33% FO)となることを明ら かとした.33% FO で管理したマウスでは 0% FO,8% FO 群と比較して肝臓の免疫担当細胞の 数,サイトカイン産生能(TNF-α,IL10)が改 善,緑膿菌門脈投与後の生存時間も経口摂取と同 程度まで延長していた. 5.1 週間をこえてなお重症な病態での管理 これまで脂肪製剤のなかでも FO の有効性を述 べてきた.しかし残念ながらわが国では SO 主体 の脂肪製剤しか使用できない.“1 週間をこえて なお重症な病態”で脂肪製剤をどう使うか,わが 国で唯一の SO 製剤が使用できるのか? につい て述べる.SO 製剤はω6主体の製剤であり,炎 症反応が遷延している状況ではその炎症を増悪さ せる可能性や術前投与により術後の炎症反応を高 め,状態悪化につながる懸念をはらんでいる.し かし,SO 製剤を用いた少し古い臨床研究では免 疫抑制効果を示すものがある一方で,そういった 効果がみられなかったとする報告もあり,一貫し ていない. 周術期の SO 製剤投与が生体にもたらす懸念に 対して,Furukawa ら30)の報告は興味深い.研究 では,消化器外科待機手術を A 低侵襲群(胃・ 大腸)と B 高度侵襲群(食道切除+再建)に分 け,周術期術前 7 日,術後 14 日まで脂肪製剤 (Intralipid®)を投与しなかった群(1),した群 (2) に さ ら に 分 け て, 術 後 の IL6,CRP, ConA,PHA リンパ球幼若化試験を検討した.そ の結果,IL6 は B 群では A 群とくらべて優位に 上昇していること,さらに術後 2 時間,1 日後で は B2 群で,B1 群とくらべてさらに高いことが 示された.また CRP では B 群間で差は認めてい ないが,論文内の図から判断すると B2 がやはり B1とくらべて高い傾向にあることが理解でき る.免疫指標である Con A,PHA(リンパ球幼若 化試験)は術後 7 日目で A 群とくらべて B 群で 低く,B2 で最も低値となっていた.A2 群は A1 群と差を認めていない.このことから侵襲の比較 的軽い状態では SO 製剤の投与は IL6 や T リンパ 球の機能に影響を与えないが,高度侵襲下におい てはこれらを悪化させることが明らかとなった. このような観点から 1 週間をこえてなお重症な 病態での SO 製剤の投与には患者の全身状態を評 価(IL6,CRP の測定など)してから,行うこと が安全かもしれない.集中治療管理下で脂肪製剤 投与を考えた場合,炎症反応が高く,高度侵襲か ら回復していない状況では脂肪製剤の投与を中断 すること,反対に回復期に入っていれば必須脂肪 酸とカロリー投与を目的として決められた量の投 与は安全に行えること,これらを理解しておくこ とが必要であろう. 文献
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