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第巻 は じ 第3号 め に 日本の農業総算出額は 1 98年の約11.7兆円をピークとしてその後年々下がり 201年 には8.兆円に減少している 農業総産出額の減少の主な産物は 米と牛肉である 一方 農産物の輸入は年々増え続けており 201年の輸入額は 9.兆円に増加し 同年における 輸出額は総額

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日本酒輸出のメリット

要旨 日本の農業総算出額は,2014年に8.36兆円に減少している。一方,農産物の輸入は増 え続けており,2015年の輸入額は9.52兆円,輸出額は0.74兆円であり,8.77億円の輸入超過で あった。米の輸出入に関しては,輸入は数量ベースで77万トン,金額ベースで613億円であっ た。輸出は重量ベースで7,640トン, 金額ベースで22億3,400万円と少額であるが, 今後に期 待を持たせるものである。  本稿では,日本の農産物生産における米の概況を検討し,輸出額が伸びている米加工品で ある日本酒の生産の現状,日本酒業界の概況並びに財務を検討する。さらには,日本酒の製 造コストを考慮し,日本酒の国内流通と海外販売の概況から,輸出することは蔵元にリット をもたらしているのかどうかについて検討する。

Abstract In recent years, agriculture has been attracting the attention of many Japanese people and some groups have been striving to develop nationwide initiatives to revitalize agriculture. In Japan, the revised Agricultural Land Act has enabled more effective use of land, including abandoned farmland, used for agriculture.  Outside Japan, negotiations are underway for the country to sign EPAs with Southeast Asian countries and the EU, while the agricultural market has been opened as a re-sult of the effects of TPP, which was ratified by Japan. Although the future of the TPP is currently uncertain, Japanese agriculture is going through drastic changes.  In light of these circumstances surrounding agricultural products in recent years, the objective of this paper is to focus on rice, a fundamental element of Japanese agriculture and food. The current state of its production, consumption, as well as import and export in Japan will be analyzed. By taking into account the decrease in demand resulting from population decline, we also consider measures needed to support the future development of Japanese agriculture and study the possibility of exporting Japanese sake as a processed rice product.

キーワード 米の輸出入,農産物輸出,日本酒輸出 原稿受理日 2018年1月24日

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は じ め に

日本の農業総算出額は,1984年の約11.7兆円をピークとしてその後年々下がり,2014年 には8.4兆円に減少している。農業総産出額の減少の主な産物は,米と牛肉である。一方, 農産物の輸入は年々増え続けており,2015年の輸入額は,9.5兆円に増加し,同年における 輸出額は総額7,458億円であったことから, 同年の農産物の貿易収支は,8.8兆円の輸入超 過であった。米に関しては,2015年の輸入は数量ベースで77万トンであり,金額ベースで 613億円であった。 同年の米の輸出は輸入に比べ少額であるが増加傾向にあり, 前年比約 70%増の重量ベースで7,640トン,金額ベースで22.3億円であったが,今後の輸出に期待を 持たせるものである。 次に米の加工品である日本酒について見ると,生産量が日本酒消費の激減により1975年 に1,350千KL であったものが,2008年以降500千KL 以下に減少し,2014年には447千KL に減少している。海外の動向を見ると,韓国・米国・中国・台湾・ブラジルでは日本から の輸入量よりはるかに多量の日本酒を自国内で生産しており,日本酒の人気は高い。日本 政府の後押しもあり,2007年に70億円であった日本酒の輸出額が,2015年に140億円,2016 年に155億円に増加し,国内生産の救世主と期待されている。財務省等のデータによれば, 普通酒の売上げは急速に減少しているが,純米酒以上の高級酒が海外および日本国内で若 い女性を中心として人気を博し,生産が増加しているといわれている。一方,明治時代以 降,蔵元の倒産・廃業が多く,明治時代初期には約3万5千社あったといわれる蔵元も 1940年には,7,000軒程度に減少し,戦後も減少し続け2014年には,1,452社にまで減少し ている。 そこで,本稿では,日本の農産物生産における米の概況を検討し,米加工品である日本 酒の生産の現状を検証し,さらに日本酒業界の概況並びに財務を検討する。さらには,日 本酒の製造コストを考慮し,日本酒の国内流通と海外販売の概況から,輸出することは蔵 元にメリットをもたらしているのかどうかについて検討する。 これらの日本酒輸出に関する先行研究は,以下に引用している農林水産省の「米をめぐ る状況について」 を始めとして,日本酒の製造方法から蔵元の財務状況まで財務省,国税 庁,農林水産省やジェトロのホームページで多数公開されている。輸出方法・実績に関し  農林水産省「米をめぐる状況について 平成27年3月」, http :/ /www.maff.go.jp/j/seisan/keikaku/soukatu/kome_antei_torihiki/pdf/sankou1_150310.pdf

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ても経済産業省の「日本産酒類の輸出促進に関する経済産業省の取り組みについて」, ジェトロの「日本酒ハンドブック」 を始めとしてホームページで多数公開されている。書 籍では木村克己(2010年,2015年),上原浩(2015年),日本醸造協会(2016年), 小林佳 太(2017年) らによる教科書的な書籍から,これらの省庁のデータに基づいた種々の書籍 も多数出版されている。

Ⅰ 米及び米加工品

 1.米の分類 日本において,一般に米の分類は,その状態によりもみ,玄米,精米,砕米に分類され, 製品の形状として,米粉,ひき割り,ミール,米粉調製品,米菓生地,米こうじ等に分類 される。米の用途は,自宅での炊飯以外にも各種弁当,おにぎり,赤飯,おこわ,包装米 飯,発芽玄米,乾燥米飯類等の米飯類がある。米は加工品として,もち,だんご,米菓, 清酒,焼酎,みりん,酢等に幅広く使用される穀物である。 そこで,米・米加工品に問題が生じた際に流通ルートを速やかに特定し,迅速な対応を とるために,生産から販売・提供までの各段階を通じ,取引等の記録を作成・保存するこ とを目的として,米トレーサビリティー法 が整えられ,米の産地情報の伝達が義務づけ られている。この法律により産地偽装を罰し,特に輸入米を国産米として販売するという 不正あるいは食用に耐えない米の販売を禁ずるようにしているが,不正や違反が後を絶た ない。 2.米の消費について 日本の米の消費は,1965年の一人あたり消費量 118.3kg/年をピークに,食生活の変化に より,パン,パスタ,ラーメン,うどん等の小麦を原料とするものが主流となり,米の消  経済産業省の「日本産酒類の輸出促進に関する経済産業省の取り組みについて 平成25年3月」 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/syurui/dai1/siryou3-6.pdf  ジェトロ「日本酒ハンドブック」https://www.jetro.go.jp/industry/foods/notice/20131030.html  木村克己『日本酒の教科書』,新星出版社,2010年  木村克己『日本酒の基礎知識』,新星出版社,2015年  上原 浩『純米酒 匠の技と伝統』,角川ソフィア文庫,2015年  公益財団法人 日本醸造協会『日本酒学』,洋泉社,2016年  小林佳太『ロバート・パーカー・ワイン・アドヴォケートが認めた 世界が憧れる日本酒78』, CCC メディアハウス,2017年  お米とご飯の基礎知識,http://www.okomehp.net/category  農林水産省「米トレーサビリティー法の概要」, http://www.maff.go.jp/j/syouan/keikaku/kome_toresa/

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費量は2013年には一人当たり 56.9kg/年まで減少している。その結果,2014年度におけ る水稲作付面積は164万ha にまで減少し,主食用米面積は147万ha に減少している。この 減少を埋めるために,加工用米,新規需要米,備蓄米等の生産を行っている。米需要の 減少の打開策として,米および米加工品(精米,米菓,日本酒等)の輸出を日本政府(農 林水産省,経済産業省,ジェトロ等)が後押しして,生産量を維持しようとしている。 3.米および米加工品の輸出目標 日本国政府は,2020年に農林水産物の輸出目標を1兆円にし,米および米加工品の目標 は600億円としている。 米そのものに関しては,海外での精米の取り組みや炊飯ロボット と組み合わせた外食への販売などの取り組みを推進している。米菓については,相手国の ニーズに合った商品の開発,手軽なスナックとしてのプロモーションを強化している。日 本酒については,発信力の高いパリやニューヨーク等の重点市場でのイベント事業やセミ ナー等を通じて,日本酒の良さを PR している。

Ⅱ 米の輸出入について

 1.米の世界生産 米の世界生産は,中国が第1位で約1億4,500万トン,インドが第2位で約1億トンであ り,以下タイ,ベトナムといったアジアが続き,米国,ブラジル,エジプト,イタリア等 で作られている。日本は米国とほぼ同量の約800万トンを作っている。 世界最大の米生産国である中国では,ジャポニカ米の生産が増加しており,1980年から 2011年までの31年間で作付面積は11.0%から28.0%へ,生産量は10.8%から32.2%へ増加し, 作付面積は約2.5倍,生産量はほぼ3倍になった。しかし,中国の米の輸出入量はその生産 量・消費量と比べて非常に少なく,おおむね1%未満である。 2.日本の米の輸入 日本は原則米の輸入を禁止してきたが,高い販売価格を諸外国から指摘され, GATT (関税及び貿易に関する一般協定)ウルグアイランドの交渉の中で,日本政府はミニマム・  農林水産省「米をめぐる状況について 平成27年3月」, http://www.maff.go.jp/j/seisan/keikaku/soukatu/kome_antei_torihiki/pdf/sankou1_150310.pdf  農林水産省「米をめぐる状況について 平成27年3月」, http://www.maff.go.jp/j/seisan/keikaku/soukatu/kome_antei_torihiki/pdf/sankou1_150310.pdf

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アクセス(MA;Minimum Access)米 として米市場を部分的に海外に開放することに 合意し,1986年から1988年までの3年間の平均消費量(玄米換算で約1千万トン)の4% (約40万トン)を1995年に輸入し, 基準年の消費量に対し0.8%(約8万トン)ずつ増加さ せ,2000年までに8%(約80万トン)にまで増加させることに合意し,輸入を実施してき た。財務省貿易統計によれば,2015年の米の輸入は数量ベースで77万トンであり, 金額 ベースで613億円であった。 3.日本産米の輸出 日本の国内市場では今後の需要増加を見込めず,米の生産維持には,米の輸出が必須と なっている。日本産米は,①安全,②高品質,③おいしさ,などの理由により海外で高い 評価を得ており,年々輸出量が伸びている。さらに,2013年12月4日に「和食」が,ユネ スコの無形文化遺産に登録され,健康志向の高まりから世界的な日本食ブームがおこり, 日本産食材の品質が高く評価され,輸出量および輸出金額が着実に増加している。米を主 食とする,台湾,香港,中国,シンガポールなどアジア諸国やアメリカなどへ米の輸出が 行われており,おいしさと,その品質の高さが評価され始めている。 表1のとおり,精米(商業用)の輸出は,2011年に2,000トン(輸出金額約7億円)を越 え,その後も順調に販売高が伸びており,2015年には7,640トン(22.3億円)まで増加した。 香港,シンガポール,台湾の3ヵ国で輸出の過半を占めるが,これらの国では,日本産米 への理解と受け入れ準備ができており,輸出市場が順調に拡大している。 今後の目標となる市場は,世界最大の米市場の中国である。中国は,年間約30万トンの 米をタイから輸入している。近年多くの中国人が日本を訪れ, 日本産米を消費し, 日本 産米を炊くための炊飯器を購入していることから,日本産米に対する好感度が高く,日本 産米の輸出を大幅に増加させることが可能な市場であると考える。 2015年の急激な販売額の増加に関しては,為替レートが大きく円安に振れたことが大き な要因と考えられるが,全体として,2015年における前年比約70%の増加は,目を見張る ものがある。ただし, 米の輸出総量が7,640トン, 輸出金額は22億3,400万円であり, まだ  農林水産省によれば,MA 米については,全量を基本的に政府が買い取り,売れ残った MA 米は,国産米とともに援助用途に充てられるほか,新規用途需要に充当するよう政府が在庫とし て管理している。  日本においては,籾米は輸入禁止であり,輸入は全て精米である。病害虫がつきやすい籾米あ るいは玄米の状態での輸入は,他国においても非常に厳しい検疫条件が付与されることが一般的 である。  タイからの輸入米は,インディカ米の中でも香りのよい「香り米」と呼ばれる米が輸入されて いる。

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まだ少額であるが,今後に期待を持たせるものとなっている。 速報値として,206年に は9,986トン,2017年16月期は5,589トンの輸出となっている。 4.米の輸出手続き 日本では,米は自由に商業的に輸出できる商品ではなく,販売等を目的とした輸出には, 事前に地方農政局等へ「輸出数量の届出」を行うことが義務づけられている。一方,個人 的使用に供するために輸出される米穀は届出の必要はない。 世界最大の米市場である中国向け輸出には,植物検疫上,指定精米工場での精米及び登 録くん蒸倉庫でのくん蒸処理が義務付けられている。JA 全農は,2017年度よりみずから 表1 商業用の米の輸出数量等の推移 2015年 2014年 2013年 2012年 2011年 2010年 金額 数量 金額 数量 金額 数量 金額 数量 金額 数量 金額 数量 百万円 トン 百万円 トン 百万円 トン 百万円 トン 百万円 トン 百万円 トン 2,234 7,640 1,428 4,516 1,030 3,121 726 2,202 683 2,129 691 1,898 輸出合計 (+56%) (+69%) (+39%) (+45%) (+42%) (+42%) (+6%) (+3%) (-1%) (+12%) (+27%) (+45%) 659 2,519 497 1,744 377 1,207 299 916 256 779 249 654 香 港 (+33%) (+44%) 463 1,850 371 1,295 300 961 208 668 183 598 126 334 シンガポール (+25%) (+43%) 268 753 155 407 74 168 50 154 66 183 95 271 台 湾 (+73%) (+85%) 291 568 76 157 19 46 14 34 0 0 43 96 中 国 (+282%) (+262%) 103 322 37 81 36 91 16 29 24 46 25 39 アメリカ (+176%) (+298%) 84 273 59 185 56 189 34 130 38 157 32 125 オーストラリア (+42%) (+48%) 37 208 15 43 9 21 8 19 6 13 7 13 タ イ (+147%) (+384%) 60 189 41 112 23 58 18 48 17 57 14 36 イギリス (+47%) (+69%) 15 142 2 4 5 16 1 3 1 1 2 5 ベトナム (+570%) (+3,450%) 24 134 10 51 14 73 2 7 1 4 1 3 モンゴル (+149%) (+163%) 41 124 15 49 2 6 3 10 6 22 6 15 マレーシア (+163%) (+153%) 189 558 149 388 115 285 74 184 86 269 92 307 その他 (+27%) (+44%) 出典:農林水産省「米輸出関連ホームページ    http://www.maff.go.jp/j/seisan/boueki/kome_yusyutu/kanren.html 資料:財務省「貿易統計」(政府による食糧援助を除く。) 注1:(  )内は対前年同期増減率である。 注2:「その他」には,2015年については,ドイツ,カナダ,インドネシアなどが含まれる。 注3:数量1トン未満,金額20万円未満は計上されていない。  農林水産省 米輸出関連ホームページ http://www.maff.go.jp/j/seisan/boueki/kome_yusyutu/kanren.htmL

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中国に進出し販売する予定である。農林水産省では,精米工場の指定を受けるために必要 なトラップ調査 の支援を実施している。 また,中国は米の関税割当制度を導入しており,割当数量は年間532万トンである。 関 税割当枠を有する輸入業者であれば1%,関税割当枠がない業者の場合は65%の関税がか かる。また,輸入増値税という,物品の輸入を行う場合などに適用される税を,別途通関 に納めることになっており,米の場合は税率が13%となっている。

Ⅲ 日 本 酒 と は

 1.日本酒の分類・定義 日本国内では,日本酒は酒税法 により,「日本酒(清酒)」は発泡性酒類,醸造酒類, 蒸留酒,混成酒類の四種類に分類されている酒類のうちのワインやビールと同じ「醸造酒 類」に分類される。以下は酒税法における日本酒(清酒)の定義である。 清酒 次に掲げる酒類でアルコール分が二十二度未満のものをいう。 イ 米,米こうじ,水を原料として発酵させて,こしたもの ロ 米,米こうじ,水及び清酒かす,その他政令で定める物品を原料として発酵さ せて,こしたもの ハ 清酒に清酒かす(粕)を加えて,こしたもの 2.日本酒の製造(醸造)について 世界の主要な酒については,①日本酒,ワイン,ビールといった醸造酒,②焼酎,ウィ スキー,ウォッカといった蒸留酒,③リキュール類といった混成酒に大きく分類される。 醸造酒については,ワインはブドウのみを原料として,ブドウに含まれている糖分をその ままアルコール発酵させる「単発酵」で造られる。ビールは水と麦芽を原料として,麦芽 に含まれるデンプンを糖化した後,アルコール発酵させる「単行複発酵」で造られる。 日本酒は,水と米を原料として,米に含まれるデンプンを糖分に変える糖化とアルコー ル発酵を同時に行う発酵方法「平行複発酵」で造られるものであり,ワインと異なり,穀  農林水産省「平成28年度の中国への米輸出拡大に向けた精米工場の条件整備について」, http://www.maff.go.jp/j/seisan/boueki/kome_yusyutu/china_24seibi.htmL  国税庁「酒税法における「清酒」の定義」, https://www.nta.go.jp/kohyo/katsudou/shingi-kenkyu/sake-bunkakai/021127/shiryo/07a.htmL

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類に含まれるデンプンを,醸造工程の最初の段階で酵母が発酵できる糖分に分解しなけれ ばない。日本酒の製造工程は, ①精米→②蒸米→③仕込み→④発酵→⑤上槽(絞り)→ ⑥濾過→⑦加熱→⑧貯蔵→⑨火入れ,瓶詰め→⑩清酒の流れに沿って行われ,玄米から清 酒になるまでに約50日かかる。加えて,その後の熟成に3~6カ月を要する 食用米で日本酒を造る場合,米をいくら削っても,「雑味」となるタンパク質や脂質が のこるため,高級な日本酒では,「酒造好適米」を使用する。食用米は,精米歩合92%程 度の白米であるが,清酒の原料とする米は,精米歩合70%以下の白米が多く用いられ,特 定名称の清酒に使用する白米は,農産物検査法による3等以上に格付された玄米又はこれ に相当する玄米を精米したものに限られている。 玄米1kg から取れる日本酒量を検討すると, 製造技術・設備による差異が大きいが, 表2のように計算することができる。 普通酒は, その玄米も一般のコシヒカリ等の米飯 用の米を使用しているため,原料価格が安い。一方純米酒には,酒造好適米を使用するた め原材料費が高い。 近年,酒造好適米の生産が急増しており,2011年の6.5万トンから2015年は10.5万トン, 2016年には約15万トンに増加している。2011年における価格では,1 俵 60kg あたり山田 錦は2万3,600円(394円/kg ),五百万石は1万6,400円(273円/kg )であり,主食用米の 1万2,179円(203円/kg )に比べ, 高価な米である。 そこで, 酒造好適米を原料に使用す る場合は,高い価格設定を行わないと,採算が取れない。  ぴあ MOOK『日本酒の本』,ぴあ株式会社,2017年,23頁。  日本酒造組合中央会「日本酒の製造工程」, http://www.japansake.or.jp/sake/know/what/03.htmL  精米の精米歩合とは,白米のその玄米に対する重量の割合をいい,精米歩合60%というときに は,米の表層部を40%削り取ることを意味する。米のたんぱく質,脂肪,灰分,ビタミンなどが 多過ぎると清酒の香りや味を悪くするため,これらの成分を少なくした白米(酒造好適米)を使 用する。  NHK テレビテキスト『日本酒のいろは』,2015年,NHK 出版,15頁。  『きょうから飲み方が変わる! 日本酒のいろは』,NHK テレビテキスト,2015年,  和田美代子,『日本酒の科学』,講談社,2015年 表2 玄米 1kg でできる酒量 玄米1kg でできる酒量 精米歩合 清酒の酒類 約2升(3.6L) 80%程度 普通酒(清酒ではない) 約1升5合(2.7L) 70%以下 本醸造酒 約1升(1.8L) 70%程度* 純米酒 約8合(1.4L) 60%以下 純米吟醸酒・特別純米酒 約5合(0.7L) 50%以下 純米大吟醸酒・大吟醸酒 『きょうから飲み方が変わる! 日本酒のいろは』,NHK テレビテキスト, 2015年及び和田美代子,『日本酒の科学』,講談社,2015年を基に計算・作成 * 純米酒については,現行では精米度の制限は存在しない。

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3.清酒の製品品質表示基準 日本酒(清酒)は酒税法によって上記の通り定義づけられているが,日本酒は酒造技術 の発達や消費の多様化に伴って,品質や製法が異なる様々なタイプのものが販売されるよ うになった。それらの表示には酒税法が定める法的なルールがなかったため,酒販店に並 ぶ日本酒の品質をラベルから判断することが難しかった。 そのような背景から1989年11月に中央酒類審議会によって「清酒の製法品質表示基準」 が定められ,その一部が改正され,2005年1月1日から現行基準が適用されている。変 更の主な特徴は,以前は純米酒の精米歩合は70%以下であったが,この基準が取り払われ たことである。純米酒は精米歩合が80%でも90%でもよくなり, コストダウンが可能と なったが,この場合,高精米歩合でもおいしい酒を醸造するための新たな技術・設備が必 要となる。 表3 特定名称の清酒の表示 香味等要件 こうじ米 使用割合 精米歩合 使用原料 特定名称 吟醸造り,固有の香味,光沢が良好 15%以上 60%以下 米,米こうじ, 醸造アルコール 吟醸酒 吟醸造り,固有の香味,光沢が特に 良好 15%以上 50%以下 米,米こうじ, 醸造アルコール 大吟醸酒 香味,光沢が良好 15%以上 基準無し 米,米こうじ 純米酒 吟醸造り,固有の香味,光沢が良好 15%以上 60%以下 米,米こうじ 純米吟醸酒 吟醸造り,固有の香味,光沢が特に 良好 15%以上 50%以下 米,米こうじ 純米大吟醸酒 香味,光沢が特に良好 15%以上 60%以下又は 特別な製造方法 米,米こうじ 特別純米酒 香味,光沢が良好 15%以上 70%以下 米,米こうじ, 醸造アルコール 本醸造酒 香味,光沢が特に良好 15%以上 60%以下又は 特別な製造方法 米,米こうじ, 醸造アルコール 特別本醸造酒 国税庁「清酒の製法品質表示基準の概要」 https://www.nta.go.jp/shiraberu/senmonjoho/sake/hyoji/seishu/gaiyo/02.htmL  表中の麹米(こうじ米)とは,米麹(白米に麹菌を繁殖させたもので,白米のでんぷんを糖化させ るもの)の製造に使用する白米をいう。なお,特定名称の清酒は,麹米の使用割合(白米の重量に対 する麹米の重量の割合をいう。)が,15%以上のものに限られている。  醸造アルコールとは,でんぷん質物や含糖質物から醸造されたアルコールをいう。 もろみにアル コールを適量添加すると,香りが高くスッキリした味となる。さらに,アルコール添加は,清酒の香 味を劣化させる乳酸菌(火落菌)の増殖を防止するという効果もある。清酒に使用できる醸造アル コールの量は,白米の重量の10%以下に制限されている。  国税庁「清酒の製法品質表示基準の概要」 https://www.nta.go.jp/shiraberu/senmonjoho/sake/hyoji/seishu/gaiyo/02.htmL

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Ⅳ アルコール飲料に対する国内外の規制

 1.TPP 協定の枠組みでの決定事項 2015年度の日本酒の輸出総額約140億円のうち,TPP 参加予定であったアメリカ,シン ガポール,オーストラリア,ベトナムで約65億円となり,ほぼ半分を占める。アメリカが 日本酒に課している輸入関税は,1L 当たり3セントであるが,TPP の発効後即時撤廃さ れ,カナダも発効後即時撤廃されると決まっていた。一方日本が他国からの輸入にかける 関税は10年間で段階的に撤廃することになっていた。 TPP 参加国では日本酒の需要が高く,日本酒輸出に有利な条件で合意したと考えられて いた。また,2020年に米及び米加工品の売上で600億円を目標に掲げているが,「和食」が 2013年に世界遺産登録され,世界中で日本食ブームに沸いており,それに併せて日本酒も 人気となり輸出拡大となっている。一方,日本酒のライバルとなるワインの輸入関税は, 1  L 当たり125円,または15%のいずれか低い方が関税として課されるが,日本酒関税撤廃 の見返りとして協定の発効後8年目以降は関税が撤廃されることが決まっていた。 さらに,蒸留酒(焼酎・ウィスキー等)の容器容量規制の改正が行われ,もともと日本 酒は米国に輸出する際 750mL 等に容量が限定されていたものが改正され,4 合瓶(720mL) 等でそのまま輸出することができると,TPP に先行して変更された。また,日本が地理的 表示制度で指定している酒類と,米国における特産酒類(バーボン等)を,日米両国が適 切に保護するための手続を進めることに合意していた。つまり,日米の関係法令に従って 製造されたもの以外は双方の国内において販売禁止とすることである。カナダとの間でも 同様に合意していた。 日本政府は日本酒を成長産業にするため輸出に力を入れており,関税が撤廃されれば追 い風となる。輸出を増やすため,政府や日本貿易振興機構(ジェトロ)などが協力して海 外のバイヤーとの商談会を開催するなど積極的に取り組んでいる。 2.日本の酒類の輸入関税について 日本に海外(WTO 加盟国)からの酒類を輸入する場合,ウィスキーとビールの関税は すでに撤廃されている。ワインの輸入関税はシャンパン等の発泡性ワインが182円/L(750mL で約137円)で, 非発泡性ワインは15%または125円/L(750mL で約94円)である。 海外

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産の清酒・濁酒を持ってくると,70.4円/L の関税が課される。例えば,焼酎の関税は, 酒税抜きの価格が 720mL で300円とすると1本あたり48円の関税が課される。ワインは関 税が撤廃されると 750mL 入りの価格が1本100円程度下がるので,安価な輸入ワインはさ らに安くなり,日本市場が活性化する可能性がある。 日本が輸入しているワインなどについて,日本が課している関税の撤廃を要求される可 能性はある。TPP ではないが,チリとの二国間協定では,日本酒の関税を撤廃し,チリの ワインも段階的に関税を撤廃することが決まっている。 日本は TPP と並行して欧州連合との間で2013年から続いていた日欧経済連携協定(EPA) を2017年7月6日に大筋合意した。発効すれば,世界の人口の8.6%,国内総生産(GDP) では世界の28%を占める最大規模の自由貿易圏が誕生することになる。 合意の具体的内容は,EU からの輸入は,ワイン,パスタ,革製品などの関税が最終的 に撤廃する予定である。カマンベールやモッツァレラチーズなどソフト系と呼ばれるチー ズは数量制限がかかるが関税が撤廃となる予定である。一方,日本から EU への輸出につ いては,主要品目である自動車の関税を段階的に下げ8年目でゼロに,自動車部品は大半 が即時撤廃となることが大きく報道されたが,ワインの関税撤廃と現行40%に上る日本酒 に対する EU の関税も撤廃するということで大筋合意したため,日本酒の販路拡大に貢献 すると考える。 3.酒税について アルコール飲料の輸入に対しては,関税に加えて,酒税 が課される。酒税法は,アル コール分1度(重量パーセント濃度で1%)以上の飲料(飲み物)が課税対象である。一 表4 日本における酒類に対する関税 無税 ビール 182円/L SP ワイン(発泡性ワイン) ブドウ酒 150L 以下の非発泡性ワイン 15%または125円/L の低い方 45円/L ぶどう果汁 無税 ウィスキー 70.4円/L 清酒・濁酒 16% 焼酎 126円/L リキュール 税関「主な酒類にかかる税率」より作成 http://www.customs.go.jp/tetsuzuki/c-answer/kojin/3105_jr.htm  税関「主な酒類にかかる税率」, http://www.customs.go.jp/tetsuzuki/c-answer/kojin/3105_jr.htm  財務省「酒税の税率」,http://www.mof.go.jp/tax_poLicy/summary/consumption/123.htm

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般に酒類にはタバコと同様,嗜好品としての観点,健康・道徳・社会面での観点,財政収 入の確保の観点などから,高率の税負担が課されており,また諸外国でも付加価値税等の 一般的な消費税とは別に酒税が課される例が多い。 酒税は原則として以下の2つの場合に課される。 1)国内でお酒を製造した場所以外に移動させる場合 2)外国から輸入したお酒を保税地域から移動させる場合 しかし,実際は例外として以下の2つの場合,酒税が免除される。 1)製造場から移出され又は引き取られた酒類であっても消費のための流通段階に入 らず,その酒類を酒類製造者が他の酒類の原料として使用する場合 2)酒類製造者が外国に輸出する目的で酒類を製造場から移出する場合 酒税法では,酒類を,「発泡性酒類」,「醸造酒類」,「蒸留酒類」及び「混成酒類」の4 種類に分類し,その分類ごとに異なる税率を適用することとしている。 税率は1KL あた りで決められている。

Ⅴ 日本酒の生産・流通から見た輸出のメリット

1.蔵元(清酒生産業者)の数 次に,日本酒製造業者(蔵元)の財務はどのようになっているのかを検討する。近年, 海外向けの輸出が伸びているが,日本国内では,若い女性が日本酒を再評価し,普通酒の 低迷をよそに,純米酒以上の高級酒が人気となり,高級酒の生産は増加傾向にある。しか し,高級酒の販売については,金額ベースでも生産量ベースでも依然小さく,販売の中心 となっているのは普通酒であり,普通酒の販売低迷により倒産・廃業する蔵元が多く,蔵 元の数は大きく減少している。 明治初期には,各村々には1軒の蔵元があるといわれ,日本全国で約3万5千軒あまり の蔵元あったといわれていた。しかし,図1のとおり第2次世界大戦が始まった1940年に は7,000軒にまで急速に減少し,大戦中に軍令により統合を余儀なくされ3,160軒に大幅に 減少した。その後,1955年に4,021軒にまで戻ったが,蔵元の数はさらに大幅に減少し2014 年には1,451軒になった。 次に規模別の蔵元の数を検討すると,大手酒造トップの白鶴酒造ですら年商350億円程

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度であるため,表5のとおり従業員数が300名を越える蔵元は2014年に大企業で6社, 中 小企業で3社しかなく,その他中小企業が総数で1,376社であり,個人経営の蔵元が69社あ り, 総数が1,451社となっている。2000年と2014年を比較すると, 大企業は10社から6社 に,中小企業が1,837社から1,376社に,個人が130社から69社に減少している。特に中小企 業の約500社の減少が大きな問題となっている。 大手の蔵元の生産量を見てみると,表6のとおり,東京の世界鷹,オエノングループを 除くと,兵庫県の灘地域の白鶴,大関,菊正宗,日本盛,白鹿,京都府の伏見地域の月桂 冠,黄桜,松竹梅(酒蔵は灘と伏見の両方にある)の関西地区にまとまっている 2.蔵元の財務状況 次にこれらの酒造業の業績を見てみると,表7より平均値は大企業に引っ張られ,業界 総売上は,約4,350億円, 売上総利益約1,500億円, 営業利益61億円であるが, 業界全体の 業績は良くない。その結果,2014年度における欠損企業が34.4%,欠損企業と低収益企業 図1 清酒製造業者数の推移 多酒創論「日本酒を製造する酒蔵はどこまでへ居続けるのか」を改訂 http://tasyusouron.jugem.jp/?eid=25  芋焼酎白霧島ライフ&ちょっと気になるお酒の情報 http://imosyoutyu.hippy.jp/

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を併せた経営状況の悪い会社が45.5%を占めている。 これでは, 現在約1,451社ある蔵元 が800社程度に減少してしまう可能性が高い。この原因は, 収益構造にあるのではないか と考える。そこで日本酒の流通から見てみることにする。 表6 大手酒造メーカーの生産量 対比(%) 2014年 2013年 2012年 銘柄 2014/2012 2014/2013 (Kl) (Kl) (Kl) 95.9 96.5 57,545 59,619 60,034 白鶴 102.2 101.1 50,405 49,835 49,334 松竹梅 97.3 97.3 48,462 49,788 49,788 月桂冠 102.1 102.1 25,999 25,454 25,453 世界鷹G 83.2 91.7 25,976 28,321 31,208 大関 80.2 87.2 20,580 23,321 25,645 オエノンG 94.3 94.9 18,256 19,230 19,356 黄桜 96.1 98.1 17,318 17,660 18,021 菊正宗 76.9 86.4 16,996 19,681 22,098 日本盛 97.3 102 10,961 10,746 11,260 白鹿 出所:芋焼酎白霧島ライフ&ちょっと気になるお酒の情報 http://imosyoutyu.hippy.jp/ 原典:日刊経済通信社調べ 表5 規模別の清酒製造業者数の推移 総合計 中小企業 大企業 中小企業計 個人 法人 法人 300人以下 小計 3億円以下 3億円以下 3億円超 資本金3億円超 300人以下 300人超 300人以下 従業員300人超 1,977 1,967 130 1,837 1,821 8 8 10 2000年 1,929 1,920 124 1,796 1,781 7 8 9 2001年 1,904 1,896 119 1,777 1,764 6 7 8 2002年 1,836 1,830 115 1,715 1,700 6 9 6 2003年 1,782 1,775 110 1,665 1,653 4 8 7 2004年 1,737 1,730 108 1,622 1,613 4 5 7 2005年 1,698 1,692 105 1,587 1,580 2 5 6 2006年 1,645 1,639 94 1,545 1,539 2 4 6 2007年 1,616 1,610 92 1,518 1,512 1 5 6 2008年 1,585 1,579 92 1,487 1,479 4 4 6 2009年 1,564 1,559 90 1,469 1,460 5 4 5 2010年 1,549 1,544 84 1,460 1,451 4 5 5 2011年 1,517 1,511 81 1,430 1,422 3 5 6 2012年 1,479 1,473 74 1,399 1,391 3 5 6 2013年 1,451 1,445 69 1,376 1,369 3 4 6 2014年 出所:国税庁「清酒製造業者数の推移」各事業年度10月1日付のデータ https://www.nta.go.jp/shiraberu/senmonjoho/sake/shiori-gaikyo/seishu/2015/pdf/01.  国税庁「清酒製造業者数の推移」 https://www.nta.go.jp/shiraberu/senmonjoho/sake/shiori-gaikyo/seishu/2015/pdf/01.pdf

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3.日本酒の国内流通 日本酒については,図2のとおり,アルコール添加の日本酒(アル添酒)が多数出回っ ている。全ての日本酒が純米酒であったものが第二次大戦後,アルコールを多量に添加す る, 三増酒(三倍醸造酒)という粗悪品が低価格で販売されている。このことが,「日本 酒はまずい」という考えを日本中にもたらした。 また,流通はアル添酒,三増酒,合成酒を中心に考えられていたため,蔵元からの出荷 表7 酒造製造業の業績の推移 単位100万円 2014年 2013年 2012年 435,142 436,482 429,781 売上高 153,705 149,487 148,747 売上総利益 6,175 1,266 3,699 営業利益 1,464者 1,495者 1,528者 企業数 出所:国税庁「清酒製造業者数の推移」(各事業年度10月1日付のデータ) https:/ /www.nta.go.jp/shiraberu/senmonjoho/sake/shiori-gaikyo/ seishu/2015/pdf/01.pdf 図2 特定名称酒の製造比率の推移 出所:国税庁「清酒製造業者数の推移」各事業年度10月1日付のデータ https://www.nta.go.jp/shiraberu/senmonjoho/sake/shiori-gaikyo/seishu/2015/ pdf/01.pdf

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価格は,定価の50%以下に下がっている。出荷量が下がらなければ,まだまだ低級品を造 るだけでも十分成り立っていたが,アル添酒や清酒と呼べない三増酒や合成酒の販売が急 速に下がってきたため,倒産・廃業する蔵元が多発した。 近年,図2のごとく,純米酒の出荷が伸びてきており,2014年度には20%を越えるよう になってきている。よい酒が出回るのは良いことであるが,蔵元の出荷価格が,以前の普 通酒を中心とした流通体系であれば,純米酒の生産コストは普通酒に比べ大幅に増加し, 収益を圧迫するようになると考える。 4.日本酒の製造コスト試算 日本酒の製造コストを公開している資料はないため,以下の分析は種々のデータに基づ く推測である。例えば,一升瓶(1.8L)の酒の生産に必要な玄米の量は,表2より普通酒 で 500g(食用米で約100円)であり,純米酒1kg(山田錦で394円/kg,五百万石で274円 /kg )と原料重量で2倍,原料価格で2~3倍高くなる。また,安価な食用の米を純米酒 に使うには高度な製造技術・設備が必要となり,なかなか使えない。 蔵人等の人件費は,地方の地酒の場合,生産の行われる11月から5月までの6か月で, アルバイト料(1,000円/時間)を基本と考えて月額20万円/人(年額120万円/人)かかる。 その他に水や麹のみではなく, 精米費用や蒸米費用として,電気料金, さらには1kL あ たり12万円の酒税がかかる。蔵そのものの固定資産税等も費用として必要である。 一升瓶1本(1.8L)あたりの原価試算(1,000石;10万本生産 180kL) 普通酒=100円 (玄米・麹費用)+60円 (人件費)+20円 (水道光熱費等)+216円 (酒税)=396円 この結果,店頭価格が一升瓶(1.8L )で1,000円の普通酒において,製造原価が400円で あれば,100円の営業利益を生み出し,500円での出荷では,薄利であるが利益が出ると推 察する。しかし,これらの費用以外にも建物の維持修理費用や自動車等の固定費がかかり, 大きな収益は見込めない。 製造工程からは一見普通酒と純米酒は同じような製造コストがかかるかに見える。しか し,アルコールを添加して防腐効果を高めるのと高めないのでは,腐造乳酸菌による腐造 に対する対応が異なるため,アルコール無添加で製造するためには高い製造技術及び設備 が必要となる。さらに,純米酒に見合う味わいのある酒を造れるのかどうかという重要な 製造技術の問題もある。普通酒しか造ってこなかった中小の蔵元では,これらの製造技術

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および設備が無く,純米酒を製造することが難しい。 これらの事情を考慮すると,国内での販売において,純米酒は普通酒の2~3倍の価格 で販売する必要がある。さらに純米吟醸酒であれば,3 ~5倍の価格にしないと国内の流 通慣行の中では,収益水準を上げることは非常に難しいと考える。 現実には, 大手酒造 メーカーが純米酒を,一升瓶(1.8L)で2,000円程度販売しているため,プレミアが付くよ うな地酒を除き,知名度の低い蔵元では単純な値上げは,難しそうである。 しかし,海外の酒類販売店は,一般に定価の70%で購入するため,純米酒以上の高級な 日本酒を製造する蔵元にとっては,海外市場は大きな収益源に変わる。純米酒以上の高級 な日本酒を定価の70%で販売できれば,十分な利益を獲得することができ,生産にゆとり が生まれる。生産に余裕が生まれれば,自社による販売に力を入れることができるように なり,さらに生産量を上げることが可能となる。「獺祭」を販売する山口県の旭酒造の最 近10年の活動がまさにそのことを物語っている。 獺祭のみならず,「十四代」や「黒龍」 のようなプレミアが付くような地酒であれば,なおさら利益水準が高くなるため,純米酒 以上の高級な日本酒を輸出するメリットが出てくる。 そこで,海外販売に力を入れてゆく蔵元は,伸びる要素が多分にあるが,現状のままの 蔵元は倒産してゆく運命となる。中小企業では純米酒以上の高級酒を製造でき,かつ今ま で経験したことのない海外への販売へ踏み出せるかどうかに蔵元の命運がかかっている, と考える。

お わ り に

日本の農業総算出額は,1984年をピークとして,減少している。農業総産出額の減少の 主なものは,米と牛肉である。そこで,米および米加工品の輸出に活路を見出そうとして いる。特に日本酒がクローズアップされているが,日本酒も生産量が1975年に1350千KL であったものが,2008年以降500千KL 以下に減少し,2014年には500千KL を割り込み447 千KL に減少している。 海外では日本酒が人気となり,日本酒の輸出は数量・金額ともに増加傾向を示している。 2007年に70億円であった日本酒の輸出額が2014年に115億円,2015年に140億円,2016年に 155億円に増加し,日本酒生産の救世主となっている。日本各地で,純米酒以上の高級酒 の生産が増加している反面,倒産・廃業する蔵元も多く,日本酒輸出は蔵元にメリットを もたらしているのかについて検討した。

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日本酒の蔵元の財務状況は厳しく,欠損企業が依然として30%以上あり,低収益・欠損 企業の合計では,45%の蔵元が厳しい状況にある。低価格品である普通酒の販売が大きく 減少し,その生産の大半を占める小さな蔵元の財務状況が悪い。そこで,純米酒以上の高 級酒を醸造しようと意気込む蔵元は生き残れるが,高級酒を醸造できない蔵元は倒産して ゆくしかないのが現状である。 一方,海外の販売店あるいは卸業者は,定価の70%前後で蔵元から購入するのが一般的 であるため,蔵元にとっては,海外の販売店は上客となる。生産に余裕が生まれれば,販 売に力を入れ,生産量を上げることが可能となる。そこで,海外販売に力を入れてゆく蔵 元は,伸びる要素が多分にあるが,現状のままの蔵元は倒産してゆく運命となる。中小企 業では純米酒以上の高級酒を製造でき,かつ今まで経験したことのない海外への販売へ踏 み出せるかどうかに蔵元の命運がかかっている,と考える。 参 考 文 献 農林水産省「米をめぐる状況について 平成27年3月」,

http : // www . maff . go . jp / j / seisan / keikaku / soukatu / kome_antei_torihiki / pdf / sankou1 _150310.pdf 経済産業省の「日本産酒類の輸出促進に関する経済産業省の取り組みについて 平成25年3月」 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/syurui/dai1/siryou3-6.pdf ジェトロ「日本酒ハンドブック」https://www.jetro.go.jp/industry/foods/notice/20131030.htmL 木村克己『日本酒の教科書』,新星出版社,2010年 木村克己『日本酒の基礎知識』,新星出版社,2015年 上原 浩『純米酒 匠の技と伝統』,角川ソフィア文庫,2015年 公益財団法人 日本醸造協会『日本酒学』,洋泉社,2016年 小林佳太『ロバート・パーカー・ワイン・アドヴォケートが認めた 世界が憧れる日本酒78』, CCC メディアハウス,2017年 お米とご飯の基礎知識,http://www.okomehp.net/category 農林水産省「米トレーサビリティー法の概要」, http://www.maff.go.jp/j/syouan/keikaku/kome_toresa/ 農林水産省「米をめぐる状況について 平成27年3月」,

http: // www . maff . go . jp / j / seisan / keikaku / soukatu / kome_antei_torihiki / pdf / sankou1 _150310.pdf 農林水産省 米輸出関連ホームページ http://www.maff.go.jp/j/seisan/boueki/kome_yusyutu/kanren.htmL 農林水産省「平成28年度の中国への米輸出拡大に向けた精米工場の条件整備について」, http://www.maff.go.jp/j/seisan/boueki/kome_yusyutu/china_24seibi.htmL 国税庁「酒税法における「清酒」の定義」, https://www.nta.go.jp/kohyo/katsudou/shingi-kenkyu/sake-bunkakai/021127/shiryo/ 07a.htm ぴあ MOOK『日本酒の本』,ぴあ株式会社,2017年,23頁。

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日本酒造組合中央会「日本酒の製造工程」,http://www.japansake.or.jp/sake/know/what/03.htmL) NHK テレビテキスト『日本酒のいろは』,2015年,NHK 出版,15頁。 『きょうから飲み方が変わる! 日本酒のいろは』,NHK テレビテキスト,2015年 和田美代子,『日本酒の科学』,講談社,2015年 国税庁「清酒の製法品質表示基準の概要」 https://www.nta.go.jp/shiraberu/senmonjoho/sake/hyoji/seishu/gaiyo/02.htm 税関「主な酒類にかかる税率」,http://www.customs.go.jp/tetsuzuki/c-answer/kojin/3105_jr.htm 財務省「酒税の税率」,http://www.mof.go.jp/tax_poLicy/summary/consumption/123.htm 芋焼酎白霧島ライフ&ちょっと気になるお酒の情報 http://imosyoutyu.hippy.jp/ 国税庁「清酒製造業者数の推移」 https://www.nta.go.jp/shiraberu/senmonjoho/sake/shiori-gaikyo/seishu/2015/pdf/01.pdf

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