親密な対人関係の維持に関する研究 [ PDF
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(2) ため一時点だけを切り取って検討を行っても,その関係を. 動を選定し,被験者自身と想定されるパートナーとの間の. 十分に描写できないと考えられる.加えて親密化過程で生. 行動として文章を構成し,呈示文章とした.. じる相互作用は各カップルで千差万別であり,親密関係で. 第2時点(交際2年目と想定) :. 生じた相互作用の記憶を統制することは不可能である.. Aパターン(第2時点:親密). そこで本研究では「想定法」を用い,親密な関係の過去. 松井(1990)の恋愛進展段階で第3∼5段階に該当する行動. 記憶の統制を行う.また呈示文章に時間経過を加えること. から文章を構成し,呈示文章とした.. で,親密さが深まった対人関係の動態的な描写を試みる.. Bパターン(第2時点:減退). Levinger のモデル(1980)を参考に「当該関係に関する記. 松井(1990)の恋愛進展段階および下斗米(2000)の役割期待. 憶」の統制を行い, 「寛容性」 「パートナーへの感情」の変. 行動尺度から行動を選定し,役割期待行動を行わないパー. 化から関係維持・崩壊へ向かう関係変容パターンの仮説を. トナーを描写した文章を呈示文章とした.. 3つ提案し,仮説の妥当性の検討を行う.. Cパターン(第2時点:混乱). Aパターン:関係の構築から親密化過程は非常に友好な関. 松井(1990)の恋愛進展段階および下斗米(2000)の役割期待. 係→親密さが深まった状態でも友好な関係であるが,ある. 行動尺度から行動(Bパターンと動揺の項目)を選定し,. 一時点でパートナーの期待はずれ行動を経験するパターン.. 役割期待行動を行う場合と行わない場合があるパートナー. 仮説A・・当該関係への記憶,パートナーへの感情が非常. を描写した文章を呈示文章とした.. に肯定的である.期待と遂行のズレに初めて直面するとズ. (b)親密な関係の恋愛段階: 松井(1990)の恋愛進展段階30. レを非常に過大視するため寛容性は低下し,過度に否定的. 項目から16項目を選出し,作成した.. 感情が喚起し,関係崩壊を志向する.. (c)パートナーへの感情: パートナーへ感じる感情について,肯. Bパターン:関係の構築から親密化過程は非常に友好な関. 定的感情( 3項目) ,否定的感情( 12項目; 立脇,2001) を尋ねる. 係→親密さが深まると度重なる期待はずれ行動が生じ始め. 項目を作成した.. るパターン.. (d)パートナーへの役割行動期待: パートナーへ感じる役割行. 仮説B・・当該関係への記憶,パートナーへの感情は当初. 動の期待度について尋ねる 29 項目を作成した(下斗. 肯定的である.しかし度重なる期待はずれ行動により,当. 米,1999;2000 より抜粋) .. 該関係への記憶,パートナーへの感情は否定的に傾倒し,. (e) 寛 容 性 :McCullough ら (1998) が 作 成 し た. パートナーへの寛容性は低下し,好意感情の低下および否. 「 Transgression-Related. 定的感情の増加を招き,関係崩壊を志向する.. Inventory」を和訳した12項目より構成した.. Interpersonal. Motivations. Cパターン:関係の構築から親密化過程は非常に友好な関. (b)親密な関係の恋愛段階は,呈示文章の交際で経験して. 係→親密さが深まると期待はずれ行動と期待どおりの行動. いると想定される恋愛行動すべてに○をつけてもらう形式. が繰り返し生じ始めるパターン.. を用いた.他の質問項目は,各項目に対して「まったく思. 仮説C・・当該関係への記憶,パートナーへの感情は当初. わない」から「非常に思う」の5件法で回答を求めた.. 肯定的である.しかし期待はずれ行動と期待どおりの行動. 上述の内容からなる質問項目への回答を用いて,親密さ. の反復に伴い,当該関係に関する記憶およびパートナーへ. が深まった対人関係の様相を明らかにすることを目的とし. の感情が肯定と否定の間で揺れ動く.当該関係の経験から. て分析を行った.. 期待と遂行のズレへの順応化が生じており,パートナーに 対する寛容性は高まり,関係維持を志向する.. 結 果 親密さが深まった対人関係の維持に影響を及ぼしている. 方 法. パートナーへの感情,役割行動期待への回答に対して,そ. 回答者 大学生 326 名(男性 139 名;女性 187 名). れぞれ因子分析(重みづけのない最小二乗法,プロマック. 質問紙の内容. ス回転)を行った.. パターンに対応する3種類を作成した.第2時点で呈示. 以下に,各々の因子分析により得られた因子を示す.. する文章内容がパターンごとに異なり,それ以外の呈示文. 1.パートナーへの感情. 章および質問項目は全パターン共通である.. 因子分析の結果,Ⅰ. 「肯定的感情」 ,Ⅱ. 「拒否的感情」 ,. (a)呈示文章. Ⅲ. 「接近欲求に基づく否定的感情」 ,Ⅳ. 「アンビバレント. 第1時点(交際1年目と想定) : (親密さが深まった関係). 感情」の4因子が得られた.. 松井(1990)の恋愛進展段階から第3∼5段階に該当する行. 2.パートナーへの役割行動期待. 2.
(3) 因子分析の結果,Ⅰ. 「親密性」 ,Ⅱ. 「支援性」 ,Ⅲ. 「自. することが明らかとなった.. 律性」 ,Ⅳ. 「配慮性」 ,Ⅴ. 「類似性」 ,Ⅵ. 「自立性」の6. 4.第1時点と第2時点での親密な対人関係の変容. 因子が得られた.. ( 1) パートナーへの感情. 当該関係に関する記憶と関係維持の関連. :時間 (F (1,280) =68.45),パターンの主効果 「 拒否的感情」. 当該関係に関する記憶が,パートナーへの感情,役割行. (F (2,280) =15.83),および時間×パターンの交互作用(F. 動期待,寛容性に及ぼす影響を検討するため,呈示文章で. (2,280) =38.99)が有意(すべて p<.01)であった.「 接近欲. 3パターンに分けて分析を行った.パートナーへの感情,. 求に基づく否定的感情」 :時間 (F (1,280) =194.29),パター. 役割行動期待,寛容性について,パターン及び性別による. ンの主効果(F (2,280) =52.24),および時間×パターンの交. 違いを検討するため,分散分析を行った.. 互作用(F (2,280) =112.61)が有意 (すべて p<.01) であった.. 3.第1時点での親密な対人関係. :パターンの主効果(F (2,280) =20.09), 「 アンビバレント感情」. パートナーへの感情および役割行動期待は,パターンの. および時間×パターンの交互作用(F (2,280) =32.99)が有意. 差については有意な結果は得られなかった.性別について. :時間 (F (1,280) (すべて p<.01)であった.「 肯定的感情」. は,パートナーへの感情では「接近欲求に基づく否定的感. =491.89),パターンの主効果(F (2,280) =64.90),および時. 情」 (F (1,281) =10.49)と「アンビバレント感情」(F (1,281). 間×パターンの交互作用(F (2,280) =140.81)が有意(すべて. =10.32)において有意差が認められた(すべて p<.01) .. p<.01)だった.. 4.5. 8. **. 3.5. 3.67. **. 2.5. 6 4.07. 1.5. 4 評 定 値. 0.5. 0.49. -0.5. 1.21. 2. - 0.90. -1.5. 評 定 0 値. - 2.52. - 4.01. -2.5 -3.5. 男性. - 4.40. 女性. -2. A. -4.5 拒否的感情. 接近欲求・ 否定的感情. アンビバレント感情. 肯定的感情. B. -4. C Fig.1 第1時点「パートナーへの感情」性別比較. -6. 役割行動期待では「支援性」 (F (1,281)=14.68) , 「自律性」. ①. 拒否的感情. (F (1,281) =11.26) , 「配慮性」 (F (1,281) =72.71) , 「自立. ①. ②. 接近欲求・否定的感情. ①. ②. アンビバレント感情. ①. ②. 時間. 肯定的感情. Fig.3 第1時点(①)と第2時点(②)の感情変容パターン比較. 性」 (F (1,281) =24.28)において,性別の主効果が有意であ った(すべて p<.01) .. 結果よりAパターン(親密→親密)では肯定的感情がつ ねに強く,否定的感情が低い.一方Bパターン(親密→減. 6. 男性. **. 5. 女性. 退) ・Cパターン(親密→混乱)は第2時点で肯定的感情が. **. 低下し逆に否定的感情が上昇することが分かった.. **. 4. 評 3 定 2 値. ②. ( 2) パートナーへの役割行動期待. ** 4.76. 「 親密性」 :時間 (F (1,277) =65.36),パターンの主効果(F 2.20. 1. 5.70. (2,277) =10.58),時間×パターンの交互作用(F (2,277). 2.13 3.56. 0.80. 2.47. -0.01. 3.36. :時間 =35.16)が有意(すべて p<.001)であった.「 支援性」. 0. -0.56. -1 親密性. 支援性. -0.46. 自律性. 配慮性. -0.20 類似性. (F(1,277)=69.89) , 性 別 (F(1,277)=14.76), パ タ ー ン 自立性. (F(2,277)=13.95)の主効果,時間×パターンの交互作用. Fi g.2 第1時点での「役割行動期待」性別比較. 第1時点でのパートナーへの感情は,男女ともに肯定的. (F(2,277)=40.00)が有意(すべて p<.001)であった.「 自律. 感情が非常に高く,逆に否定的感情は低かったことから第. 性」 :性別(F(1,277)=12.94),パターン(F(2,277)=9.52)の主. 1時点の呈示文章より,被験者は親密さが深まった状態を. 効果,時間×パターンの交互作用(F(2,277)=8.84)が有意. 想定していることが確認された.. :時間(F(1,277)=69.01),性別 (P<.001)であった.「 配慮性」. 親密さが深まった恋愛関係において,女性は「接近欲求に. (F(1,277)=55.14),パターン(F(2,277)=15.16)の主効果,時. 基づく否定的感情」及び「アンビバレント感情」をより強. 間×性別(F(1,277)=5.55),時間×パターン(F(2,277)=32.52). く感じることがわかった.また支援性,自律性,配慮性,. の交互作用が有意(時間×性別のみ p<.05,他はすべて. 自立性の役割行動について,女性がよりパートナーへ期待. p<.001) であった.「 類似性」 :時間(F(1,277)=41.36),パタ. 3.
(4) ーン(F(2,277)=8.58)の主効果,および時間×パターン. 結果より,親密さが深まった状態で女性は男性よりも「接. (F(2,277)=11.71)の交互作用が有意(すべて p<.001)だっ. 近欲求に基づく否定的感情」及び「アンビバレント感情」. 自立性」 :時間(F(1,277)=45.71),性別(F(1,277)=18.37), た.「. をより強く感じ,役割行動を高く期待することが明らかと. パターン(F(2,277)=5.64),時間×パターン(F(2,277)=20.48). なった.この性差は,性役割に縛られていること(和. の交互作用が有意(パターンのみ p<.01,他はすべて. 田,2000) ,進化心理学的観点より男女で配偶者への期待が. p<.001)だった.. 異なる(Buss,1995)ことが影響していると考えられる.第2 時点で男性が女性より寛容性が高いという結果は,親密さ. 6. が深まった状態で,女性が男性よりも接近欲求が充足でき. A. 5. B 4. ない事態への不満や関係喪失への恐れ・不安を感じること. C. 3. と関連している可能性があるだろう.女性が別れの主導権. 2. を握っているという結果(大坊,1988;松井,1993)は,女. 1. 性の高い不安感情が払拭されないことからパートナーへの. 評 定 0 値. 「拒否的感情」が高まり, 「別れ」を決断していると説明で. -1. きるだろう.. -2. -3. 時間. ①. ②. ①. 親密性. ② 支援性. ①. ② 自律性. ①. ② 配慮性. ①. ② 類似性. ①. パートナーの期待はずれ行動の多少に関する記憶がパー. ②. 自立性. トナーへの寛容性に影響を及ぼさないことから,期待はず. Fig.4 第1時点(①)と第2時点(②)の役割行動期待のパターン比較. れ行動に関する記憶は,パートナーへの寛容性に影響を及 結果よりAパターン(親密→親密)では,第1時点と第. ぼさないことが明らかとなった.また期待はずれ行動の有. 2時点でパートナーへの役割行動期待には変化がないこと. 無が,パートナーへの感情に影響があることが明らかとな. が分かった.一方,Bパターン(親密→減退) ・Cパターン. った.期待はずれ行動の反復が多いほど肯定的感情は低下. (親密→混乱)は第2時点でパートナーへの役割行動期待. し,拒否的感情・接近拒否に基づく否定的感情・アンビバ. が低下することが分かった.. レント感情は強くなることが明らかとなった.同時にパー. 5.第2時点でのパートナーへの寛容性. トナーへの役割行動期待も低下することが明らかとなった.. 寛容性についてはパターン間で有意な差が認められず. 期待と遂行のズレの増加から,接近欲求が充足できない事. (revenge :F(2,277)=15.07,ns)(avoidance :F(2,277)=. 態への不満や関係喪失への恐れ・不安を強く感じ,自らの. 146.13,ns) , 性 別 の 主 効 果 の み 有 意 ( revenge :. 期待を低下させて期待と遂行のズレを最小限にとどめるこ. F(1,277)=156.27,p<.01 , avoidance : F(1,277)=294.10,. とで不満・不安感情を減少させて関係を維持している可能. p<.01)だった.これらの結果から,寛容性には,パートナ. 性が示された.. ーの期待はずれ行動の多少に関する記憶は影響を及ぼさず, 引用文献. 性別が影響を与えることが明らかとなった.. ◆David M.Buss( 1995) .狩野秀之訳 2000 女と男のだましあい−ヒトの性行動の進化−. 仮説の検討. 草思社) ◆大坊郁夫・ 奥田秀宇( 編) 1996 対人行動学研究シリーズ3 親密な対人関係の. 第1時点と第2時点のパートナーへの感情に関する分析. Love and Sex:Cross-Cultural Perspectives. 科学 誠信書房.◆Hatfield,E.&Rapson,L.R.( 1995). から,当該関係への記憶,パートナーへの感情が非常に肯. Person PTR.◆Levinger,G.(1980)Toward the Analysis of Close Relationships Journal of. 定的であるという仮説Aの前半部分,当該関係への記憶,. Experimental Social Psychology,16,510-544.◆松井豊( 1990) 青年の恋愛行動の構造 心理. パートナーへの感情は友好関係の頃よりも否定的に傾倒す. 学評論,33,355-370.◆松井豊( 1993) 恋ごころの科学 サイエンス社.◆McCullough,E.M, et. るという仮説Bの前半部分,期待はずれ行動と期待通りの. al. 1998 Interpersonal Forgiving in Close Relationships:Ⅱ .Theoretical Elaboration and. 反復に伴い,当該関係に関する記憶およびパートナーへの. Measurement Journal of Personality and Social Psychology,6,1586-1603.◆諸井克英ら. 感情が,肯定と否定の間で揺れ動くという仮説Cの前半は. ( 著) ( 1999) 「 親しさが伝わるコミュニケーション: 出会い・ 深まり・ 別れ」 金子書房.◆下斗米 淳( 1996) 「 対人関係の親密化」 研究の展望: 理論的枠組みの検討 専修人文論集,58,. 支持されたといえる.しかし,寛容性がパターン間で差が. 23-49.◆下斗米淳( 1999) 対人関係の親密化過程における役割行動期待の変化に関する研. 認められなかったことから,パートナーの期待はずれ行動. 究 専修人文論集,64,1-32.◆下斗米淳( 2000) 友人関係の親密化過程における満足・ 不満. の多少に関する記憶が,寛容性に影響を及ぼし,関係崩壊. 足感及び葛藤の顕在化に関する研究−役割期待と遂行とのズレからの検討− 実験社会. あるいは維持を方向づけるという仮説は支持されなかった.. 心理学研究,40,1-15.◆立脇洋介( 2001) 異性交際における否定的感情の構造 社会心理 学会第 42回大会発表論文集,256.◆和田実( 2000) 大学生の恋愛関係崩壊時の対処行動と 感情および関係崩壊後の行動的反応−性差と恋愛関係進展度からの検討− 実験社会心. 考 察. 理学研究,40,38-49.. 第1時点のパートナーへの感情及び役割行動期待の分析. 4.
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