問題と目的 余暇時間におけるテレビの視聴, 仕事中のコンピュー ターの使用, 移動中の長距離運転など, 生活や仕事環境 における機械化は座位行動(Sedentary behavior: 以下, SB)の増加を引き起こした.成人の(Sedentary time:以下, ST)は, 1 日の覚醒時間の 60%を占めることが報告された 1).座位行動は「座位及び臥位におけるエネルギー消費量 が 1.5Mets 以下の全ての覚醒行動」と定義され, 身体不 活動とは異なる概念として扱うことが強調された 2).SB が死亡率やその他のヘルスアウトカムに関連することが, 近年相次いで報告されている 3).SB がヘルスアウトカム に与える影響は明らかである.さらに, 座位行動のパタ ーンにおいても, 座位行動の中断(Sedentary break:以下, S-break)や長い連続した座位時間(Sedentary bout: 以下, S-bout)が, 代謝疾患関連の生化学データに影響するこ とが報告されるようになった4). SB 評価方法として, 現在までに報告された多くの研究 では, 特定の活動のSB を記述する質問紙法が用いられて きた. この方法は, 人の記憶に頼る曖昧さや活動強度の 把握の困難さが問題とされてきた.一方で SB の定義に従 い, 活動強度を遵守できる加速度計を用いた客観的な測 定が疫学的研究において推奨されている.加速度計は持 続時間やタイミングなども評価でき, S-break や S-bout の測定も可能である. わが国の身体活動ガイドラインでは, SB を減少するた めの一般的なアプローチの普及が奨励され, 子供, 成人, 高齢者, 性別, 勤労者, および障がい者などの特徴に合 わせた介入の必要性が初めて提言された 5).勤労者の座 位行動は余暇時間よりも仕事中の方が長く, 勤務時間の 60-70%を座位行動で過ごすことが報告されており6), 勤 労者は長時間の SB が定常化しやすいと考えらえる.また, SB と人口統計学的要因の関連は国によって異なること が示され7), 勤務時間が長い日本人は世界的に見ても SB 時間が長い傾向にある. そのため, 日本人勤労者に対し てアプローチを検討することが必要である. 勤労者の座位行動の抑制に向けた介入研究では, 環境 と指導に着目した報告された. 職場環境に着目して, 動 きやすいワークステーションやトレッドミルデスクを用 いた介入が実施され, STの短縮や血糖やHDL-コレステロ ールの改善が報告された8).また, 指導では生活習慣やSB に焦点を当てた個別指導の有効性や, デスクワークの時 間を区切って, パソコン画面を見続けることを制御する ような意識的なS-breakの効果なども明らかにされた.し かし, その有用性はまだ明確にされておらず, SBを改善 する効果的な戦略の構築が望まれている. SBに関連する因子を特定することは, SBを抑制させる 介入を行う対象者の特定へ導く.現在までにSBに関連す る因子が報告されている7)が, 職業的因子の関連性を検 討した報告はほとんどない. 本研究では長時間の SB が定常化しやすいと想定され る日本人勤労者を対象として, 加速度計を用いて S-bout を測定し, 関連因子を解明するとともにヘルスアウトカ ムとの関連を調査することを目的とした. 方法 1) 研究デザイン 本研究は, 同様の測定手続きを用いたシーアールシ ー・グループ(以下, CRC)と両備グループ(以下,両備)の 2 社の従業員を対象にした横断研究である. CRC は福岡県で展開され, 主な事業内容は臨床検査・ 医薬品販売などの医療/健康関連業務である.両備は岡山 県で展開され, 主な事業内容は情報関連業, 運輸・観光 業, 生活関連業からなる. 2) 対象者 CRC は, 20 歳以上の全従業員 395 名を対象とし, 両備 は, 両備グループの各関連会社に勤める 30 歳以上の全 従業員 1123 名を対象にした. 調査は, 各企業の健康診断の時期に合わせて施行され た.企業の開催する定期健康診断に参加し, 調査に関す る同意と回答が得られた者を解析対象とした. 3) 測定項目
勤労者における座位行動の関連因子および
ヘルスアウトカム評価に関する疫学研究
キーワード:座位行動,勤労者,加速度計,日本人,肥満 行動システム専攻 池永 千寿子指導教員:大柿 哲朗 教授
(1)SB・身体活動量の測定
SBの測定には, 3軸加速度計を内蔵した身体活動量計 Active Style Pro HJA-350IT(オムロンヘルスケア社, 京 都;以下, 加速度計)を用いた. 健康診断後には自主的 な健康への行動変容が生じることを想定し, 健康診断の 2週間前までに全対象者に質問票及び加速度計を郵送し, 調査期間を経て健康診断当日に回収した. 測定期間は健康診断前の連続した7日間とし, 入浴, 水泳, および就寝時などを除いて, 起床時から就寝直前 までの装着を求めた.参加者には活動量計を常時腰部に 装着し,普段通りの活動を行うように指示した.データ記 録間隔は1分間とし, 表示画面はブラインド化した.また ActiGraphを用いた先行研究9)に従って, 加速度の検出が 0であった時間が60分を超えて連続した場合に, その時 間帯を未装着状態と判定した.1日あたりの装着時間が10 時間以上かつ, 4日以上のデータが得られた者を解析対 象とした. 定義に基づき, 活動強度が1.5METs以下の活動をSBと し, 1.5-3.0Metsの活動は軽度の身体活動(以下, LPA), 3Mets以上の活動は中高等度の身体活動(以下, MVPA)と した.SBが1分以上連続した座位時間(以下, ST), 30分以 上連続した座位時間(以下, S-bout)を算出した. MVPA は 少なくとも10分以上活動が連続した時間を採用した. そ して, 1日の装着時間時間におけるST, LPA, およびMVPA の割合を算出した. (3)因子項目の算出 ・人口統計学的因子 性別・年齢は調査時に各企業より提供され, 婚姻状況 は質問紙法を用いて回答を求めた. ・職業的因子 世帯収入・職種・雇用形態・勤務形態は質問紙法によ り回答を得た.世帯収入は同世帯の合計収入について 400 万「以上・未満」で分類し, 職種は「管理職・事務職・ 営業職・技術職・その他」の 5 項目, 勤務形態は「常勤・ パート」, シフトは「日勤・シフトワーカー」より回答 を選択させた. ・行動因子 飲酒・喫煙状況は質問紙法により回答を得た.食事摂 取 量 は 簡 易 型 自 記 式 食 事 歴 法 質 問 票 (brief-type self-administered diet history questionnaire)を用 いて質問し, 現在の食事摂取量と適性食事摂取量の項目 を使用した. 食べ過ぎかどうかを判断するために, 現在 の食事摂取量を個人別の適性食事摂取量で除して適性食 事摂取割合(%)を算出した. ・身体精神的因子 形態測定から身長, 体重を測定し, BMI[BMI= 体重 (kg)/身長(m)2 ]を算出し, BMI25 ㎏/m2以上を肥満とし た.睡眠の質と睡眠時間を調査するためにピッツバーグ 睡眠質問票(以下, PSQI-SCORE)を使用した.うつ症状の 調査に Center for Epidemiologic Studies Depression Scale(以下, CES-D) を使用した. 職業性ストレス簡易調 査票を用いて, 仕事上のストレスチェックを実施した. (4)生化学データによるヘルスアウトカム診断 健康診断当日に実施した採血結果を使用した. 10 時間 以上の絶食後に採血を実施し, HDL-コレステロール(以 下,HDL-CHO), LDL-コレステロール(以下,LDL-CHO), 総コ レステロール(以下,TC), 中性脂肪(以下,TG), 空腹時血 糖(以下,BG)を使用した.質問紙より血糖降下薬と脂質異 常症のための治療薬の内服を確認した. 正常範囲の基準は, HDL-CHO は 40 ㎎/dl 以上, LDL-CHO は 140 ㎎/dl 未満, TG は 140 ㎎/dl 未満, TC は 220 ㎎/dl 未満, BG は 110 ㎎/dl 未満を正常とした. 脂質異常症は, 脂質異常症のための治療薬を服用しているか, LDL-CHO, TG, および HDL-CHO のいずれかが異常値の場合とした. 糖尿病型は, 血糖降下薬などの服用があるか, 空腹時血 糖 126 ㎎/以上とした. 4) 統計学的処理 S-bout の関連因子の特定には, S-bout を従属変数と した一般線型モデルを用いて非標準回帰係数を求めた. 説明変数は人口統計学的因子, 職業的因子, 行動因子, および身体精神的因子に含まれる変数毎に個別のモデル を構成した.調整因子は性別, 年齢, および教育歴を使用 した. S-bout のヘルスアウトカムへの関連の調査には, 各 有所見者と正常者のS-bout をt 検定で比較した.さらに, 各有所見者を目的変数に, S-bout を説明変数として, ロ ジスティック回帰分析を行った.調整因子は有所見者ご とに, MVPA, 性別, 年齢, 喫煙, 飲酒, 肥満, および適 性食事摂取割合から適当な調整因子を選出し, 強制投入 法を使用した(p=0.05). 結果 799名(男性622名)を最終解析対象とした. 装着時間におけるSBの割合 STは平均8.7±2.1時間(装着時間中の61.4±12.6%), MVPAは0.2±0.3時間(装着時間中の1.3±2.1%)だっ た.S-boutは平均3.3±2.2時間で, STのうち37.9%を占 めた.
図1.装着時間における行動割合 S-boutの関連因子 人口統計学的因子では男性, 若年者, および高学歴, 職業的因子では非常勤者, 職種(技術職・非営業職), シ フトワーカー,行動因子では非喫煙者で S-bout は有意に 延長した. 身体精神的因子の関連は認めなかった. n.s.=not significant 表1. S-boutに関連する因子の重回帰分析結果 S-boutとヘルスアウトカム評価 生化学検査による有所見者の割合は , 高TCは31.4%, 高TGは23.9%, 低HDLは9.1%, 高LDLは37.4%, 高BGは10.8%, 肥満症は22.2%, 糖尿病型は4.5%, 脂質異常症は47.2%が 該当した.
有所見者と正常者を比較した結果では, S-boutは高TG と肥満者で有意に延長し, 高TCでは有意に短縮した. 図 2.S-bout の生化学データによる有所見者と正常者の 比較 ロジスティック回帰分析より長時間の S-bout は肥満症 に関連した. 図 3. ロジスティック回帰分析を使用した生化学データ による有所見に対する S-bout の影響 考察 先行研究によると, 米国, オーストラリアおよびベル ギーの成人では, 1日の覚醒時間の55~60%(9.3時間)で あった1).Kimらは成人を対象に10時間以上の装着時間に おけるSTは約57%(8.0時間), S-boutは約12%(1.73時間) と報告した10). 本研究のSTは装着時間の61.4±12.6% (8.7±2.1時間), S-boutは24.4±15.5%(3.3±2.2時間) を占め, 先行研究と比較して日本人勤労者のSTは長く, 特に長時間のS-boutが生じやすいことが分かった. S-boutは, 男性, 若年者, 若年者, 非常勤者, 職種(技 術職・非営業), シフトワーカー, および非喫煙者にお いて延長した. 人口統計学的因子では,先行研究7)と同様に性別・年 齢・教育歴で関連を認め, 婚姻関係では関連を認めなか った. 女性は, 子育て, 家事, および社会的交流など家 庭において低-中等度の身体活動が多いことが考えられ, B P Socio-demographic factors Married -5.42 n.s. SEX 1.40 0.009 Age -36.09 0.001 Education 13.59 <.0001 Occupational factors Employment status -13.56 0.009 Type of job Engineer 59.48 <.0001
Office clerk -17.98 n.s. Business -86.66 <.0001 Managerial class 10.84 n.s. Other -75.58 0.004 Shift work -44.52 <.0001 Economic status -4.10 n.s. Behavioral factors Current drinker -0.81 n.s. Current smoker -22.99 0.035 Calorie intake 0.006 n.s. Appropriate intake ratio 14.39 n.s. Sleep duration -9.26 n.s. PSQI_SCORE -1.25 n.s.
MVPA -0.49 n.s.
Physical health and mental health
BMI 1.91 n.s. CES-D 0.94 n.s. Brief Job Stress Question naire Job demand 0.50 n.s. Job Control 1.68 n.s. Human relationship -8.60 n.s. Fitness of work 8.19 n.s. Psychological 2.08 n.s. Physical 2.87 n.s. Support from Superiors and Colleagues 1.37 n.s.
ST MVPA LPA
%
%
% S-bout 37.9% 肥満症 糖尿病型 脂質異常症 高BG 高LDL 低HDL 高TG 高TC * * *S-breakしやすかった可能性がある. 先行研究では高齢 者の座位時間が長くなると報告されたが7), 今研究では 若年者のS-boutが延長した.流動性知能(集中力)は20歳 をピークに徐々に低下することが言われており, 若年者 は座位姿勢で長時間仕事に没頭できると思われる.結晶 性知能(経験値)は60歳まで上昇すると報告され, 年齢が 高い方が仕事を効率的に実施できるため長時間の同じ作 業をすることなく, S-breakされる可能性を考える.学歴 では, 高学歴のコンピューター利用時間が長いことが報 告された7).本研究の対象会社の業務内容は検査・情報管 理など座位作業が多い.特に検査では, 国家資格を有す る臨床検査技師が多く所属し, 彼らは高校卒業後に専門 の学校に進学しているため坐位作業職の学歴は高かった. 婚姻関係はソーシャルサポートの役目を果たし, 運動や 身体活動のような健康行動における増加が知られている が, SBは2012年に定義されたばかりの新しい健康関連項 目であり, 認知度が低い可能性が有り, 長期的な観察が 必要である. 職業的因子では,先行研究で 常勤労働者の方が非常 勤労働者より仕事中の座位行動時間が長くなる可能性を 示唆したが7), 反対の結果を示した.労働基準法第34条1 項では, 6時間以下の労働時間における休憩時間の付与 義務はないと定められている.非常勤労働者は, 仕事中 の休憩が取りにくく, S-breakが生じにくかった可能性 がある.シフトワーカーはサーカディアンリズムに従わ ず, 眠気が増加する夜間に働き,眠気が減少する日中に 眠るため疲労が生じやすい.睡眠覚醒リズムの回復のた めに非勤務時間の大部分があてられ, S-boutを延長させ たと考える.職種では本研究の対象会社の技術職は医療 検査, 情報管理, および運転など座位作業中心であるた め, 勤務中に長時間のS-boutが定常化されやすい可能性 がある. 反対に, 営業職は仕事中に移動を伴うため, 交 通機関などを使用するたびにS-breakが生じたと考える. 行動因子では喫煙がS-boutとの関連を示した.先行研 究では喫煙はSTの延長に関連したが, 反対の結果だった. 近年, 厚生労働省を中心に職場内の禁煙が促進されてい る.喫煙のために屋外に移動する行動がS-breakをもたら したかもしれない. S-boutは肥満と関連した. 先行研究ではS-boutのメタ ボリックシンドロームへの影響が示された4).骨格筋は ヒトの体重の約40%を占める最大の臓器である. 身体活 動に伴う筋収縮はマイオカインを介して, 脂肪酸化の上 昇,脂肪分解・インスリン感受性の改善を促進させ,慢 性疾患を防御することが知られるが, 筋収縮を伴わない SBでその効果は得ることはできないことが示唆された. また, STの延長はスナック菓子や糖質を多く含む飲料・ アルコール過剰摂取に関連する11)と報告された. S-bout は筋の収縮不足や食事行動に影響し, 肥満と関連したか もしれない.ほかの有所見で関連を示さなかった理由に, Pinto Pereira SM.らは, MVPAで調整すると脂質・糖尿病 生化学データとSTとの関連が消失したと報告している12). 本研究でもMVPAで調整しており, S-boutとの関連を認め なかったかもしれない. 本研究は男性, 若年者, 高学歴, 非常勤, 職種(技術 職・非営業), シフトワーカー, および非喫煙者の特徴 を持つ日本人勤労者のS-boutは長いことを示し, 長時間 のS-boutは肥満に関連することを明らかにした.今後は この特性を持つ対象者のS-boutを抑制するための戦略の 構築が必要である. 本研究の研究限界には,横断研究であるため因果関係 を証明できないこと,健康診断に伴う健康行動の影響を 制限できないこと,10時間以上の絶食の管理が不十分な ため生化学データにばらつきが生じる可能性を否定でき ないこと, 因子項目の抽出に自己記入式質問用紙を使用 しているため 個人の解釈による不正確さを是正できて いないことをあげる. 主要引用文献 1) Owen N. Prev Med, 55:535-9, 2012.
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11) Cleland VJ, Schmidt MD, Dwyer T, et al. Am J Clin Nutr 2008:87:1148-55.
12) Pinto Pereira SM, Ki M, Power C. PLoS One, 2012:7:e31132.