︿論説﹀
株 主 代 表 訴 訟 に 関 す る 一 考 察
黒木松男
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目次
︑はじめに
二︑アメリカ会社法における株主代表訴訟
(6)(5) (4){3)(2)(1)
取締役会への提訴請求
特別訴訟委員会の勧告
行為時株主の原則
担保提供
和解規制
弁護士報酬規制
三︑おわりに
一︑はじめに
平成五年の会社法改正により︑株主代表訴訟が改善され︑株主の監督是正機能がより一層強化された︒すなわち︑
同改正法は︑株主代表訴訟の活性化のため︑第一に訴え申立手数料(訴状貼用印紙代)を訴額の如何を問わず一律八
二〇〇円とし(商二六七.四項︑民事訴訟費用法四・二項)︑第二に勝訴株主の会社に対する費用償還請求権の拡大
をして(商二六八ノニ.一項)︑株主代表訴訟を提起する場合の高いハードルをかなり低くし︑株主が自腹を切った
としても切らなかったと同程度に確実に会社からその費用を償還してもらえるようにして訴訟を追行できるようにし
ら ねた︒これは︑日米構造問題協議およびその後毎年行われているフォロー・アップというアメリヵからの外圧の一つの
成果ととらえることができよう︒また︑現在世界的に論議を呼んでいるコーポレート・ガバナンス(OO壱o雷8
Ω︒<①円昌9昌o①)のあり方が問われている点が︑わが国にも波及した一つの現れと見ることもできよう︒すなわち・わ
が国におけるコーポレート・ガバナンスを考察してみると︑実質的な会社支配者である代表取締役社長および会社経
営のトップを構成する常務会のメンバーの不正な︑または不適切な業務執行を効果的にチェックする実効性のある機
関が存在していない会社が多いのが実情であろう︒アメリカのような社外取締役のいないわが国の取締役会では︑従
業員からたたきあげたサラリーマン取締役が︑会社のトップの物言わぬサイレント・パートナーとしてそのチェック
ハヨ 機能を期待しえない︒また︑会社の最高の意思決定機関である株主総会も︑総会屋の横行や会社経営者の姿勢から"
観客のいない茶番劇を演ずる場"と化してしまっている︒さらに︑本来最もそのチェック機能を発揮すべき監査役や
監査役会も︑取締役と同様︑サラリーマン監査役が多いこと︑および平成五年の改正で導入された社外監査役(監査
特例法一八.一項)の人事権が会社の経営者側に握られていることなどから︑そのチェック機能を十分果たせない状
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況にみ塵︒したがって︑会社内部の自浄作用の範ちゅうで期待されるのは︑株主と従業員であろう︒従来︑株主は︑
個人株主の減少とそれと対照的にグループ企業内の株式相互保有の進展にともなう法人株主の増大による発言権の低
下およびバブル経済の渦中でのインカム・ゲインよりもキャピタル・ゲインに執着した投機熱のおかげで︑会社経営
に参画したり︑会社経営者をチェックしようとする株主は︑きわめて希な存在になってきた︒その意味では︑株主も︑
他の会社内部者と同じように︑十分なチェック機能を果たしえない会社経営者のサイレント・パートナーであった︒
ところが︑バブル経済が崩壊し︑それにともない表面化した最近の金融・証券・建設不祥事件は︑眠っていた株主を
揺り起こした︒それ程このバブル経済の付けが︑株主にとってきわめて深刻なものであったのである︒
現在社会的な注目の的になっている数多くの大型の株主代表訴訟が提起されているが︑これは株主が有している本
来のチェック機能の現れとみることができよう︒このような株主代表訴訟の主なものを列挙してみると︑長崎銀行の
一万株の株主が︑代表取締役・専務・常務に対し︑不当融資による債権回収不能分を損害として︑会社へ二億円を支
払うよう請求した長崎銀行不当融資事件︑片倉工業の株主が︑当時の取締役らによる同社の株の買い占めに対する防
衛手段として自己株式を取得した行為を違法として訴えた片倉工業自社株取得事件︑大口の顧客に対するワラント債
を安く売って高く買い戻すなどの方法による損失補てんにより会社に四七〇億七︑五〇〇万円の損害を与えたとして
(9)(10)その返還を取締役らに請求した日興謹券損失補てん事件︑同じく損失補てんが問題となった野村謹券損失補てん事件︑
三井鉱山の取締役らによるその業績の回復を目指して同一グループ内の三井セメントとの合併工作として子会社を通
して自己株式を取得した行為が違法であるとされた三井鉱山自社株取得事件︑六一万六︑○○○株を保有する株主が︑
セメダイン株式会社の取締役に対し︑アメリヵ進出についての経営判断の誤りなどから会社に損害を与えたとして提
訴したセメダイン裏僻・二・三〇〇株を有する株主が︑中京銀行の取締役一二名に︑違法貸付による損害を発生させ
ハむ たとして銀行にそれぞれ六億三︑八〇〇万円を支払えとの訴えを提起した中京銀行過大融資事件︑蛇の目ミシン工業
の取締役の不当な行為によって会社に損害を生じさせたとする元内部者である株主の告発により提訴された蛇の目ミ
む シン工業事件︑会社の営業規模などに照らして不相当な多額の借入金による株式投資が失敗して会社に損害を発生さ
め せたとして訴えられた日本サンライズ事件︑取締役らが政治資金規正法に違反するヤミ献金をしたとして訴えを提起
したハザマ(謝および鹿島毒︑バブル時の過大馨の取締役の責任を追及した藩銀行毒など枚挙にいとまがな
い︒
以上のような平成五年の株主代表訴訟制度の改善︑わが国でのコーポレート・ガバナンス論議の高まり︑数多くの
株主代表訴訟の提起を契機として︑わが国でも︑株主代表訴訟に関する理論および実務についての論議が活発になさ
れるようになった︒しかしながら︑わが国でのこの理論および実務は︑いまだ成熟しておらず︑今後その深化がはか
られるべきであろう︒その際に︑一つの参考として︑株主代表訴訟の先進国であるアメリカの理論および実務は大い
に参考になろう︒そこで︑本稿では︑今後さらに検討すべき株主代表訴訟の主要な論点を取り上げ︑わが国とアメリ
カとを対照させることによって︑わが国の株主代表訴訟制度のより一層の活性化とその濫用の防止を探求したいと思
うQ注
(1)吉戒修一﹁平成五年商法改正法の解説臼自﹂商事法務=二二四号=頁以下参照︒
(2)吉戒修一﹁会社法改正作業の現況について﹂商事法務一二九九号=一頁以下︑森本滋﹁日米構造問題協議と株式会社法
の改正﹂商事法務=二〇九号三八頁以下参照︒
(3)奥島孝康.ブレップ会社法(第三版)一六八頁以下︑同・会社法の基礎一〇八頁以下参照︒
(4)小室金之助11黒木松男・商法H一一六頁以下参照︒
(5)関俊彦﹁社外監査役制度の模索(上)﹂商事法務=二〇四号二頁以下参照︒
(6)川北英隆﹁株主構成i現状と将来﹂ジュリスト一〇五〇号四四頁以下参照︒
(7)長崎地判平成三.二.一九金融法務事情一二八二号二四頁以下︒同判決は︑原告株主の純然たる個人的な利益追及の手段
として株主代表訴訟を提起することは権利の濫用であるとして︑訴えを却下した︒
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(8)東京地判平成三・四・一八判例時報一三九五号一四四頁以下︒同判決は︑片倉工業の有する子会社の株式の評価損を損害
と認定し︑原告株主の請求を一部認容した︒
(9)東京高判平成五・三・三〇判例時報一四六〇号=二八頁以下︒同判決は︑株主代表訴訟の訴額は︑算定不能だとして非財
産説をとり︑訴訟手数料は八︑二〇〇円でよいとして原審に差し戻した︒平成五年の商法改正を先取りしたとして有名になっ
た事件である︒
(10)東京地判平成五・九・一六判例時報一四六九号二五頁以下︒同判決は︑本件損失補てんは︑証券不祥事として社会的に非
難されるべき行為であったが︑営利を目的とする会社とその取締役との関係でこれをみるときは︑当時の諸状況を考慮する
と︑取締役らが東京放送との取引関係を維持・拡大する目的で本件損失補てんを決定し︑実施したことは︑経営判断の裁量
の範囲を逸脱したものとはいえず︑これをもって︑取締役としての義務に違反したものということはできないとし︑さらに
本件損失補てんが独占禁止法に違反するが︑会社との関係においては︑これによって会社に損害が発生したものと認めるこ
とはできないとして︑原告株主の請求を棄却した︒
(11)最判平成五・九・九商事法務=二三二号四四頁以下︒同判決は︑取締役らの子会社を通して自己株式を取得した行為は︑
商法二一〇条違反としての責任を生じさせるとして︑原告株主の請求を認容した︒
(12)セメダイン事件は︑平成四年五月一八日に東京地裁に提起されている︒
(13)中京銀行過大融資事件は︑平成五年三月一五日に名古屋地裁に提起されている︒
(14)東京地決平成六・七・二二判例時報一五〇四号一二一頁以下︒同判決は︑取締役らによる株主に対する担保提供の申立て
を認容した︒
(15)東京地判平成五・九・二一判例タイムズ八二七号四七頁以下︒同判決は︑取締役らの株式投資は︑同社の営業規模などに
照らして不相当に多額の借入れを行い︑その借入金を資金として株式投資を行ったもので︑善管注意義務に違反するとして︑
原告株主の請求を認容した︒なお︑本件は︑控訴審において訴訟上の和解をしている︒このような訴訟上の和解ができるか
どうかについても後述のように論争がなされている︒高橋宏志﹁株主代表訴訟と訴訟上の和解﹂商事法務=二六八号七四頁
以下参照︒
(16)東京地判平成六・一二・二二商事法務=二七七号九一頁以下︒同判決は︑被告取締役の贈賄行為について取締役としての
責任を認め︑賄賂として支出した会社の資金一︑四〇〇万円を損害として会社に支払うよう命じた︒
(17)鹿島事件は︑株主から会社に対し︑約三〇億円の損害賠償訴訟を起こすよう請求がなされたとの報道がなされている︒日
本経済新聞平成五年=月一六日参照︒