A remark on Alexander criterion of bi-orderability
伊藤 哲也
(東京大学数理科学研究科)
∗1. Introduction
3次元多様体の基本群についての(左または両側)不変順序の存在は、Foliation,
Laminataion
の存在などと密接に関連した興味深い問題であることが認識され、近年盛んに研究されている。最近では、Heegaard Floer Homology(特に
L-space)
との関連などが観察され、今後の発展が大きく期待される研究分野である。この 記事では、(ねじれ)アレキサンダー多項式を用いた群の
bi-orderability
の議論に ついて、筆者の結果を簡単にまとめる。詳しくは論文[3]
を参照の事。定義
1.
群G
上の全順序<
が任意のG
の元a, b, c
に対して、a < b = ⇒ ca < cb, ac < ab
が成り立つ時、<を
G
の両側順序(bi-ordering)
と呼ぶ。群G
が少なくとも一つの 両側順序を持つとき、Gはbi-orderable group (BO group)
であるという。また、G
と両側順序<
の組(G, <)
を順序つき群と呼ぶ。Ordering
の存在からG
のいくつかの性質が導かれる。例えば、BO groupは有限位数の元を持たない。(gN
= 1
とすると1 < g < g
2· · · < g
N= 1
となり矛盾)。2. Clay-Rolfsen obstruction
Fibered knot(Fibered 3-manifold)の基本群が BO-group
になるための十分条件 がアレキサンダー多項式を用いてPerron-Rolfsen
により与えられた。定理
1 (Perron-Rolfsen [4]). K
をS
3内のfibered knot
とする。Kのアレキサン ダー多項式∆
K(t)
のすべての解が正の実数ならば、π1(S
3− K)
がBO-group
で ある。この定理より、例えば、Figure eight knotの補空間の基本群が
BO-group
であ ることが分かる。2010
年のプレプリントで、Clay-Rolfsen
はfibered knot
(fibered3-manifold)の基本群が bi-orderable
になるための必要条件を与えた。これは、上 のPerron-Rolfsen
の定理の弱い意味での逆である。定理
2 (Clay-Rolfsen [1]). K
をS
3内のfibered knot
とする。π1(S
3− K)
がBO-
group
ならば、Kのアレキサンダー多項式∆
K(t)
は少なくとも一つの正の実数解を持つ。
この定理より
torus knot
の補空間の基本群はBO-group
ではないことが分かる。一方で、上の二つの定理からだけでは
BO
かどうかを決定できないようなfibered
∗〒
153-8914
東京都目黒区駒場3-8-1 e-mail: [email protected]
web: http://www.ms.u-tokyo.ac.jp/~tetitoh/
knot
も多数知られている。一番簡単な例では、62-knot
のBi-orderability
は現在 分かっていない。はじめに、Clay-Rolfsenの定理の証明の概略を(オリジナルの証明とは少し異 なる観点で)述べる。まず、準備として順序つき群についての
maximal Abelian
quotient
に対応物について説明する。定義
2. H
を順序つき群(G, <
G)
の正規部分群とする。すべてのh, h
′∈ H, g ∈ G
に対しh <
Gg <
Gh
′⇒ g ∈ H
が成り立つとき、Hが凸
(convex)
であると呼ぶ。このとき商群G/H
上に順序<
G/HをaH <
G/HbH ⇐⇒
Defa <
Gb
により定義する。これは、剰余類の代表元a, b
によらずwell-defined
であり、G/Hの両側順序となる。順序つき群(G/H, <
G/H)
を順序つき商群と呼ぶ。定義
3. (G, <
G)を順序つき群とする。 (G, <
G)
のconvex commutator subgroup C
G を、commutator subgroup [G, G]を含むG
のconvex subgroup
全体のintersection
として定義する。GのC
Gについての順序つき商群(G/C
G, <
G/CG)
を(G, <
G)
のmaximal ordered abelian quotient
と呼ぶ。(Clay-Rolfsen
の定理の証明のスケッチ).π
1(S
3− K)
がBO-group
であることと、モノドロミー
ϕ
∗: π
1(Σ
g,1) → π
1(Σ
g,1)
の作用で保たれるπ
1(Σ
g,1)
の両側順序が存 在することが同値であることが知られている。G= π
1(Σ
g,1)
のϕ-不変な両側順序
<
Gを一つとる。するとモノドロミーϕ
はQ -ベクトル空間の同型 ϕ
G/CG⊗ id
Q: (G/C
G) ⊗ Q → (G/C
G) ⊗ Q
を誘導する。
ϕ
G/CGが順序付き可換群の同型であることから、線形写像ϕ
G/CG⊗ id
Qが正実数の固有値を持つことが示される。従って、
∆
′(t) = det(tI − ϕ
G/CG)
をϕ
G/CG の固有多項式とすると∆
′(t)
は少なくとも一つの正の実数解を持つ。一方、Kの アレキサンダー多項式∆
K(t)
は∆
′(t)
を割り切ることが分かり、∆K(t)
が正の実 数解を少なくとも一つ持つことが示される。以上の観点から見ると、Clay-Rolfsenの議論は、モノドロミーが
maximal or-
dered abelian quotient
に誘導する線形写像の特性多項式を調べること鍵になっていることが分かる。とくに、orderingの
(meta abeilan
な)情報を持っているのは アレキサンダー多項式の一部、∆′(t)
である。3. Twisted Alexander polynomial
ねじれアレキサンダー多項式は、アレキサンダー多項式の拡張であり、線形表現
ρ : π
1(S
3− K) → GL(n; Q )
を定めると決まる多項式∆
ρK(t)
である。古典的なア レキサンダー多項式は一次元自明表現により定まるねじれアレキサンダー多項式 として理解される。(ここでは、ねじれアレキサンダー多項式の定義は省略する。例えば
Friedl-Vidussi
のサーベイ[2]
などを参照すること。)知られている多くのアレキサンダー多項式を用いた議論は(有限表現に付随し た)ねじれアレキサンダー多項式を用いた議論に拡張され、より強力になること が知られている。そのため、Clay-Rolfsenの議論をねじれアレキサンダー多項式 に拡張しようと考える事は自然な発想である。
アレキサンダー多項式を用いた議論をねじれアレキサンダーに拡張する一番基 本的な方法(戦略)は、次のようなものである。
1. G
を有限群、ρ: π
1(S
3− K) → G
を全射とし、有限表現ρ
G: π
1(S
3− K) → G → GL( Q G)
を考える。2.
局所係数ホモロジーについてのShapiro
の定理より、ρGに付随したねじれ アレキサンダー多項式と全射ρ
の定めるS
3− K
のcovering
のアレキサン ダー多項式が一致することがわかる。3.
通常のアレキサンダー多項式を用いた議論より、表現ρ
Gに付随したねじれ アレキサンダー多項式についての条件が得られる。4.
表現ρ
Gの既約分解を考えることで、一般の表現についてのねじれアレキサ ンダー多項式についての条件が得られる。このように、有限被覆をとることでアレキサンダー多項式の持つ
(meta) abelian
な情報が増えるということがねじれアレキサンダーの強力さの背景にある。4. Feature of Clay-Rolfsen obstruction
上で述べた、Alexander polyonomialの議論を
twisted Alexander polynomial
を用 いて精密化する戦略に沿って、Clay-Rolfsenの結果を精密化(強力化)しようと すると、次のような結果が期待される。定理?
1 (期待される拡張1). K
をS
3内のFibered knot
とし、ρ: π
1(S
3− K) → GL(n; Q )
を有限表現とする。π1(S
3− K)
がBO-group
ならば、ρに付随したねじ れアレキサンダー多項式∆
ρK(t)
は少なくても一つの正の実数解を持つ。ところが、これは正しくない。もう少し条件を弱めた、次の形の結果ですら正 しくない。
定理?
2 (期待される拡張2). K
をS
3内のFibered knot, G
を有限群とし、ρ: π
1(S
3− K) → G → GL( Q G)
を有限表現とする。π1(S
3− K)
がBO-group
なら ば、ρに付随したねじれアレキサンダー多項式∆
ρK(t)
は古典的なアレキサンダー 多項式∆
K(t)
よりも多くの正の実数解を持つ。例
1 (反例). K
をFigure-eight knot
とする。Perron-Rolfsen
の定理よりπ
1(S
3− K)
はBO-group
である(∆
K(t) = t
2− 3t + 1)。今、表現 ρ : π
1(S
3− K) → Z
2→
GL( QZ
2)
をとる。すると、ρに付随したねじれアレキサンダー多項式は∆
ρK(t) =
(t
2+ 3t + 1)(t
2− 3t + 1)
であり、新しい正の実数解は現れない。このように、Clay-Rolfsen argumentはねじれアレキサンダーを用いても強力に することができない。その背景として、順序付き群の
maximal abelian quotient
についての次の定理を示した。定理
3 ([3]). (G, <
G)
を順序つき群とし、HをG
の有限位数部分群とする。<Hを順序
<
GのH
への制限とし、(H, <H)
を順序つき群と見る。このとき、包含写 像i : H , → G
の誘導する順序つき群の写像i
∗: H/C
H→ G/C
GはQ -ベクトル空
間としての自然な同型i
∗⊗ id
Q: (H/C
H) ⊗ Q →
∼=(G/C
G) ⊗ Q
を誘導する。
この定理は、順序つき群の
maximal abelian quotient
のある種の剛性を表して いる。順序構造を考えない普通のmaximal abelian quotient H
1(G; Z ) = G/[G, G]
を考えると、rank
H
1(G; Q ) > 0
の時、Gの有限指数部分群H
に対してstrict
な不 等式rank H
1(G; Q ) = (G/[G, G]) ⊗ Q < rank H
1(H; Q ) = (H/[H, H ]) ⊗ Q
が成り立つ。つまり、有限指数部分群をとる事でmaximal abelian quotient
は真 に大きくなる。有限表現に関してのねじれアレキサンダー多項式を考えることは、有限被覆の アレキサンダー多項式を考えることであった。上の定理より有限被覆を考えた時 に、順序構造を加味した
Maximal ordered abelian quotient
の持つ情報が増えな いため、順序構造については通常のアレキサンダー多項式以上の情報が取り出せ ないことが分かる。これはbi-orderability
についての問題がこれまでの多くの問 題とは非常に異なった性格を持つ事を表している。参考文献