日本管 理 会 計 学会誌 管理会 言i学 第2巻第 1号 1993年 春季 号
特 集
海 外 進 出 企 業
の現 在 直 面 す
る税 務 上
の問題
大 川 邦彦*
〈研究要 旨〉
表題は 「海 外 進 出 企 業の現 在直面 す る税 務 上の問 題」と し,目次 は 「1 は じめ に」
「2 グロ ーバ ル企業と税務」「3 国際的移転価格の問題 と日本の グロ ーバ ル企業を取 り 巻 く環 境 」「4 日本の グロ ーバル
企 業は移 転 価 格の問 題 に どのよ うに対 処 すべ きか」
と して まと め た .
経 済,貿 易 摩 擦 が 続 く米 国 その他の外 国に進 出した日本系企 業に 関する税 務上の主 要 な 規 制 等 を一覧 し,その 中で海外の事 業の 生 き残 り を左右 する ほ どの重 要1生を持
つ 国際 間の 移転価 格の 基本 的な算定方法の背景にある考え方とその 問 題 点を検 討 し,
最 後 に現 在お よ び将 来に向 け 企 業は移 転 価 格の 問 題に どの ように対 処 すべ きか を論 ずる.
〈キーワード〉
グm 一バ ル企業 ,利益率の 内外格差 ,タ ッ クス ヘ イ ブン税 制, 連 結 納 税 制 度, 外 国 税 額控除 制 度, 国 際 的 移 転 価 格 税 制, 二重 課 税 救 済,租 税 条 約に基づ く相互協議 , 移 転 価 格 分 析 調 査,移 転 価格算定方法,ア ーム ス レ ン グス の原 則
1. は じめに
日本 系企業の 海外 進 出は規 模 ,業 種の多様 性か ら み て その 裾 野 は広 が っ た .こ の 世界的 不 況の 中海 外 進 出企 業は採 算 性 を悪 くし, 事 業規 模 縮小 さ ら に 撤 退の 可 能 性 を含め海 外事 業を再検討 する時 期になっ てい る.
海外事業が成 功 し ない 原 因は壬 差 万 別で ある .その 中 に は, 管理情 報 シス テ ムの 欠陥 ・ 不 備 に起因 して 適 時 に適切 な 対 処 が取 ら れ な か っ たこ と が原 因で あ っ た ケース もあろ う.
企業の採算性を予 測 する上で , 税負担額は不可欠な情報で ある に も か か わ らず , その 国の
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管 理 会言1学 第2巻 第1号
法人税の 実効 税 率を財 務 会 計上の税 引 前 利益 に乗 じて 推 定す る な ど大 ま か な場合 が多い .
設備 投 資も一段 落 し,平 常な事 業状 態に移行 し た子 会社につ い て は そ れ で も大 き な支 障は ない か も知れ ない が .い ずれ にせ よ経 営 管理の た めの 情 報シス テ ム を構 築 する際に税 務 情 報の 作 成に適 切 な 配 慮 が さ れてい ない との 印象が 強い .
原 因の 一つ は,外 国の 税 制が複 雑で ある こ と, 言 語の 問題, 例外は あるが 企業側 に十分 な知 識が ない こ と, 適切 なア ドバ イ ザ ーに相 談し て い ない こ と な どが あげ ら れ よ う .海外 進 出に絡む 日本お よび外 国で の 税 務の 問題は, も はや 一部の大企業だけの問 題で は なくな り.中 堅 企業 も同様な 問 題 に直面 して い る .米国で は外資系企業特に 日本 系企業は米国の 自 由な市場で 事 業を行 える機 会 を享 受 して い る割には親予 問の移転価 格 操 作 によ り米国の 税
金 を免れ てい る とい うイメージ が 固定 化 しつ つ あ る .日米 間で 税金の 取 り合い 合 戦に なる と,結 局は進 出企業が不利 益を受 ける こ とに なる.現 在の 法 人所 得税 に関する税 務 環 境は,
企 業 が事前 に適切 に自己 防衛の 対 策 をとっ て い れば問 題 が 起こ っ た と して も 最 小 限 に抑 え ら れ る,と実 感 してい る.
以下 , 海外 進出 し た 企 業に 関する税 務上の 規 制を一覧 し,最も懸念する とこ ろ の 国際 間
の移 転 価 格の 問 題を どの よ うに捉 ら えるべ きか , そ し て, それ にどの ように対 処 するべ き かの一一端 を 論 ず るこ ととす る.
2. グロ ー バル 企 業 と税 務 2.1 日本企業の利 益率の 内外格差
松田修 一数 授が 「グロ ーバ ル 企業の経営 目標の 変 質」と 題 して , 論文を寄稿され て い る. 教授 は目本の 親 会 社は米 国子 会社 に何 を期 待 するか,1984 年 と1989 年 につ い て比 較 され
て い る製 造業 につ い て は, 量 的拡 大へ の 反省と質的向上へ の 転換, 新製品 開発力の 強化,
子 会社の利 益 を再投資に向ける傾向, 米 国地域 統 括 機 能の 強化等の傾向を指 摘 して い る.
1989 年で は調査の 対 象 と し た 日本の親 会 社の 税 引前 利益率が5% を超えて い る反面, 米国
の子 会 社の それ は 0 % か ら2%未 満の会 社が 70 %弱, マ イ ナス を含め る と85% 弱ある こ と が指摘 さ れて い る .
1990 年7月の 米 国連邦議 会 ,税制委員 会 の監視小委 員会で 米 国連邦議 員はIRS か らの資 料 を 基 に外 資 系 ,特 に,口本 系企業と米 国系企業を比 較 し, 日本 系企 業は 関連 者間移 転 価 格 を操 作 し,米国法人税を適正 に納 付 して い ない と批 判 して い る.
その 議 員に よ る と, 1984 年か ら 1987 年に か けて, 日本 系企業の投 資総 額 が 2 .6倍 ,売上 高 総額が 1.6倍 に増 加 して い る に も か か わ らず ,逆 に連邦 法人税 納 付 総 額は10分の 1 強に
海 外進 出 企 業の現 在 直面 す る 税務]/tの問 題
減 少 し て い る と指 摘 し て い る.こ の 証 言の 基礎 資 料の信 頼 性につ い て は, 別 に確か め なけ れ ば な ら ないが , 営 業 利益 率の低 さは我 々実 務 に携 わ る もの と して認 識 する と こ ろ で あ り,
先の 松田教 授の 調査 結果 とも符 合 する点は多い .こ れ ら の デ ータの示 す 問題に対 し て個 別
の 日本 系グロ ーバ ル企業は移 転 価格 操 作以外 に原 因が ある こ と を合理 的 に立証 する こ と が 急 務 となっ て い る.
国 際 間の 移 転価 格の 本題 につ い て は後 節で ま とめ て検 討 する こ とに し て, まずグ ロ ーバ
ル企業の活動を規 制 する 基本 的な税制 につ い て概 略 してお くこ とにする。
2.2 グロ ーバル企 業 を取り巻 く税制
主要な国々 は , 財政赤 字の 状 況下で 内政 上 の 妥 協 と し て一部の 減税 措 置 を行な うとし て も, 全体 的に は増 税 措 置 を とり,その 執 行を強化する傾 向が み ら れる,そ して , 各国の 税 体 系は多様で は ある が , ボ ーダーレス な 企業 活動に対 して は各国 と も類 似 な 税 制 で規 制 し
て い る.以 下の項目はその主 要な例で ある.
2.2.1 タッ クスヘ イブン税制
い わ ゆ るパ ッ シ ブ な所 得が税の 軽 課 税国に逃れ る こと, 企業 実 体の 薄弱な い わゆ るペ ー
パ ーカ ン パ ニ ーが軽 課 税の所 得を累積 する こ と を防止する た めの税 制は先 進各国で導入 さ
れて い る.日本で も 「内国法人の 特定外国 子会社等に係る所得の課税の 特例」が制定さ れ
てい る.
2.2.2 グル ープ企業 間での支払利 子の損金性の規制
例 えば, 日本の 税 収の 観 点か ら み て , 利子の受 領 者で ある法人が 日本の 法人税の 納 税 義 務 を負 う場 合に は, 支払 側 と受 領 者側を 同時に み る と プラ スマ イ ナス ゼ ロ と な り, あえて
規制 を す る 必要は ない が, 非居 住者で ある場合 に は源泉 税 20 % また は租税条 約に よ り軽減 さ れた源 泉 税 (多 くの例 では 10 %)が 課 さ れ る だ けで ある .支 払 者 側 で の支 払 利 子 は損金 とな り, 徴 収で きる源 泉 税の 額 より大 き な法人税の額 を徴 収 する機 会を失 うこ とに なる . そ こ で, 各 国と も子 会 社の 負 債 資本比率を問題とする ように なっ て き た.日本で も 「国外 支 配株主等 に 係 る負 債の 利 子の課 税 の特 例 」 を 制 定 し, 規 制するこ と に なっ た.
管理会計 学 第2巻 第1号
2.2.3 連結 納税申告制度
こ の制 度は国 際 間の 取 引を規 制 する もの で は ない .よ く知ら れて い る ように米 国, 英 国 , ド イツそれ ぞ れ方式は異なる が,一定の資 本グ ル ープ を構成 する国 内企業の損益 の合 算に よる納 税申告を認め て い る .日本で は依然 認め られて い ない た め, 日本の 国 内で の 企業グ
ル ープの 財務 体 質の 強化に税 制は 貢献して い ない ,
2.2.4 外 国税 額控除制 度
多くの 国は 自国の 企業の 所 得 課 税に つ い て は, 全世 界 所得課税 制 度を採用 して い る.そ
こで ,二 重課 税 の 解消の た め の 制 度 と して , 国外で 課 税 さ れた所 得 を本国の課税所得 に含
め ない方 式 (国外 源泉 所 得の 課 税 免除方 式 ) と自国の 納 税額か ら一定の外国で の納 付 税 額 を控除する方式 (外国税 額控 除方 式 ) を認め てい る. 従 来は子 会社の 納付 した外国の税 金 を税 額 控 除の対 象と して い た が,外 国の孫 会 社が 外 国の 子 会社を通 し て B本の親 会 社に利 益 配 当した場 合に,孫 会杜が納 付 した外 国の税金につ い て も一定の計 算に よ り日本の親 会 社の 外 国税 額控 除の対 象 とする ように 日本の税 制が 1992 年に改正 さ れ た.これに よ り,企
業の 海外展 開の 資本系列の パ ターン決定に余裕が生 ずる と期待され て い る.
3
. 国 際 的移 転 価 格の問 題 と日本の グロ ーバル 企 業 を取 り巻 く環 境税 制は 国 際間の企業 活 動 を規 制 また は促 進 する ため の 手 段 と して利 用 され て きた.2 に 列 挙 したもの以外に, 輸 出促 進, または, 輸入促 進の ため の 準 備 金 制 度, 海外 投 資の損 失 を 補愼す るた め の準 備 金, 使 用 料 等の 所 得 控除, など が 日本の 例で ある.これらの制 度は 個 別の企 業に と り重 要で ある に は違い ない が , 税 務調査で企業の 申告 所得 額が更正 さ れた 場 合の金額の大 き さ,価 格政策とい う企業の根 幹に起 因する ため , こ こ 数 年の 間に 日本 企 業の 問に 国際 間の 移転価 格の 税務調査へ の 対 応が緊急かつ 重要な問 題 と して認 識 さ れる よ
うに なっ て きた,
以 下, 移転 価 格の問 題を取 り巻 く環 境につ い て考察 して み る .
3.1 単体財 務諸表の重視の傾 向
日 本の企 業は過 去 におい て は, 株 主へ の 事業 報 告書で その 親 会 社の 単体の計 算 書 類だけ を 報 告 して い た. 日本の 親 会 社が株 式 を 公 開 して い る場 合で あっ て も 親 会 杜 単体の財務諸 表を重視 する傾 向は依 然 とし て残っ て い る .この こ とが 子会 社の 利 益をす く な くし, 親 会 社に多 くの利 益 を集 中さ せ るべ く操 作 して い る との疑い の 背 景 と なる. 連結決算 制 度が 導