地方財政の危機と対応策 (江川孝雄教授退職記念号 )
著者名(日) 濱田 一成
雑誌名 山梨学院大学法学論集
巻 51
ページ 227‑250
発行年 2004‑02‑25
URL http://id.nii.ac.jp/1188/00000910/
論 説
地方財政の危機と対応策
濱 田 一 成
227地方財政の危機と対応策
二 一
四 三
五
目 次
はじめに 地方財政の危機の様相と発生の原因
地方財政の危機に対する各種対策案と実施の困難性
地方財政の危機の解決策の検討にあたり考慮すべき理念と事情
地方財政の危機に対する国の方策
地方財政の危機に対する地方公共団体の解決努力
おわりに
227
地方財政の危機と対応策
号 企
白岡
説
地方財政の危機と対応策
二 三
四 五
目 次
はじめに
地方財政の危機の様相と発生の原因 地方財政の危機に対する各種対策案と実施の困難性 地方財政の危機の解決策の検討にあたり考慮すべき理念と事情 地方財政の危機に対する国の方策 地方財政の危機に対する地方公共団体の解決努力
おわりに
j賓
田
成
法学論集 51〔山梨学院大学〕 228
はじめに
ハ レ 地方公共団体の財政が危機的状態にあることについては︑異論のないところであろう︒
この問題が一部の団体の問題でなく︑ほとんどすべての団体の問題であることは︑いっそう深刻であるし︑それ
が個々の団体の姿勢により生じたというよりも︑国の政策との関係で生じている部分が大きいため︑個々の団体の
努力だけでは問題の解決を図ることができず︑国の抜本的な対策がなければ解決できないと思われる︒
本稿においては︑地方財政の危機からの脱出の必要とそのための各種方策及びそれを検討する際に考慮すべき事
項について論じる︒
地方財政の危機の様相と発生の原因
1 地方財政の危機の発生
我が国のバブル経済が終わり︑経済の停滞の時期を迎えるとともに︑地方公共団体の財政にも危機が忍び寄って
きた︒はじめは︑しばらく時期を待てば︑景気が回復し︑地方公共団体の財政も好転すると考えられていた︒
ところが︑いつまでたっても景気は回復しないどころかむしろ悪化が進むという感じになってきている︒今で ハ ズ レ は︑このままいけば遠からず︑わが国の経済・財政は破綻するとまで心配されるような状態になっている︒
228
はじめに
51
(山梨学院大学〕
地方公共団体の財政が危機的状態にあることについては︑異論のないところであろう︒
この問題が一部の団体の問題でなく︑ ほとんどすべての団体の問題であることは︑ いっそう深刻であるし︑
そ れ
が個々の団体の姿勢により生じたというよりも︑国の政策との関係で生じている部分が大きいため︑個々の団体の
法学論集
努力だけでは問題の解決を図ることができず︑国の抜本的な対策がなければ解決できないと思われる︒
本稿においては︑地方財政の危機からの脱出の必要とそのための各種方策及びそれを検討する際に考慮すべき事
項について論じる︒
地方財政の危機の様相と発生の原因
1
地方財政の危機の発生
我が国のバブル経済が終わり︑経済の停滞の時期を迎えるとともに︑地方公共団体の財政にも危機が忍び寄って
きた︒はじめは︑しばらく時期を待てば︑景気が回復し︑地方公共団体の財政も好転すると考えられていた︒
いつまでたっても景気は回復しない︑どころかむしろ悪化︑が進むという感じになってきている︒今で
は︑このままいけば遠からず︑わが国の経済・財政は破綻するとまで心配されるような状態になっている︒
と こ
ろ が
︑
229地方財政の危機と対応策
国は︑このような事態になるまで漫然と過ごしていたわけではない︒何度も財政︑金融上の措置︑規制緩和等の
景気対策をとってきたし︑財政構造改革にも取り組んだ時期もある︒
これらはいずれも良い結果を生んだとはいわれていない︒もっとも︑それらの対策をしなかったらどうなったか
について︑説得力のある研究結果はまだないようである︒
2 地方財政の危機の発生の原因
現今の地方財政の危機の発生の原因は︑大きく分けて三つあると考えられる︒
ω 我が国経済の低迷に対し︑有効な対策が執られなかったこと
種々の対策が執られたことは前述のとおりであるが︑それによる景気の好転は生じていない︒
このため︑地方の重要な歳入源である法人事業税︑法人住民税等は決算額の減少が続いている︒
また︑国の減税政策で住民税等の減税が行われたが︑減税補てん債等による財源措置がなされたため借金が増
パ レ えた︒
③ 国の景気対策に協力するため︑多額の借金をしながら公共事業や単独事業を進めたこと
景気が回復し︑税収が伸びれば︑それで借金の相当部分の返済ができると期待されているのであるが︑まだ景 パ レ 気が回復していない︒
㈹ 地方公共団体の行財政改革がまだ十分といえないこと
累次にわたり︑行財政改革は行われてきているが︑今後もその必要が大きい︒
地方財政の危機と対応策
229国は︑このような事態になるまで漫然と過ごしていたわけではない︒何度も財政︑金融上の措置︑規制緩和等の
景気対策をとってきたし︑財政構造改革にも取り組んだ時期もある︒
これらはいずれも良い結果を生んだとはいわれていない︒もっとも︑ それらの対策をしなかったらどうなったか
について︑説得力のある研究結果はまだないようである︒
2
地方財政の危機の発生の原因
現今の地方財政の危機の発生の原因は︑大きく分けて三つあると考えられる︒
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・
4種々の対策が執られたことは前述のとおりであるが︑ 我が国経済の低迷に対し︑有効な対策が執られなかったこと
それによる景気の好転は生じていない︒
このため︑地方の重要な歳入源である法人事業税︑法人住民税等は決算額の減少が続いている︒
また︑国の減税政策で住民税等の減税が行われたが︑減税補てん債等による財源措置がなされたため借金が増
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国の景気対策に協力するため︑多額の借金をしながら公共事業や単独事業を進めたこと
景気が回復し︑税収が伸びれば︑
気が回復していない︒
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それで借金の相当部分の返済ができると期待されているのであるが︑ まだ景
地方公共団体の行財政改革がまだ十分といえないこと
累次にわたり︑行財政改革は行われてきているが︑今後もその必要が大きい︒
法学論集 51〔山梨学院大学〕 230 地方財政改革のための諸方策
国一般会計 交付税特別会計 地方財政 歳出 歳入 歳入 歳出 歳入 歳出
二
地方財政の危機に対する各種対策案と実施の困難性
イ 君 噸歳出削減 支 債 庫金方 国出地
霧収増
1 ⑧ウ r 新 1 税
1 ③国庫支出金増
』 _ _ _ _ _ 一 一 _ _ _ _ _ _ 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一レ
地方財政危機に対する対応策としては︑次のような
ことが考えられる︵図参照︶が︑それぞれに難しい点
がある︒
借入
交付税 石蕎税増 ゆ
国債
6税収増 7新税 一II 支 2歳出削減庫金 国出 ①地方において︑歳出を削減し︑収支のバランス を図り︑地方債の額を減ずることは可能である が︑法律で義務付けられている事務が多く︑ま た︑住民福祉に直結する事務が多いため実際上は 困難である︒ ②国の歳出の削減は︑まず︑国債の減に向けられ るであろう︒ ③国庫支出金を増やすことは︑地方分権の立場か らは望ましいとは言えず︑また︑国にその余裕は ない︒ ④地方において︑税収増を図ることは大事である
230 51
(山梨学院大学〕
法 学 論 集
地方財政改革のための諸方策 国一般会計
歳出 歳入
地 方 財 政
歳入 歳出
交付税特別会計
歳入 歳出
間 隔
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地方財政の危機に対する各種対策案と実施の困難性
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地方財政危機に対する対応策としては︑次のような
ことが考えられる
( 図
参 照
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それぞれに難しい点
が あ
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①
地方において︑歳出を削減し︑収支のバランス
を図り︑地方債の額を減ずることは可能である
が︑法律で義務付けられている事務が多く︑ 本
4山た︑住民福祉に直結する事務が多いため実際上は
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で あ
る ︒
②国の歳出の削減は︑ まず︑国債の減に向けられ
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③国庫支出金を増やすことは︑地方分権の立場か
らは望ましいとは言えず︑ また︑国にその余裕は
︑ 戸I
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+J
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④
地方において︑税収増を図ることは大事である
が︑多額は望めない︒
⑤ 地方交付税の増は︑国の財政危機の下では望めないだけでなく︑むしろ削減の議論さえ出てきている︒
⑥ 国も税の増収を図ることは大事であるが︑多額は望めない︒
⑦︑⑧ 国・地方を通じ︑新税を作るか︑税率を上げることは必要であるが︑国民︑住民の理解を得るのが困難
である︒
地方独自の法定外普通税︑法定外目的税を作ることは︑地方自治の具体化という意味では意義があるが︑既
に主要な税源が法定税の対象とされており︑多額の収入は期待できない︒
三 地方財政の危機の解決策の検討にあたり考慮すべき理念と事情
231地方財政の危機と対応策
地方財政の危機の解決策の検討にあたっては︑地方自治の理念と各種の事情を考慮する必要がある︒
1 自己決定・自己責任
地方自治は︑本来地方がみずから治めるということである︒
地方自治は︑団体自治と住民自治とからなっている︒団体自治とは︑国から独立した地方公共団体がみずからの
判断と責任でその地域内の公共的な問題を解決していく︵地域に関する事務を処理する︶ことであり︑住民自治と
は︑地方公共団体の住民がその意思と責任の下にその地域内の公共的な問題を解決していく︵地域に関する事務を
処理する︶ことである︒ が︑多額は望めない︒ ⑤
地方交付税の増は︑国の財政危機の下では望めないだけでなく︑むしろ削減の議論さえ出てきている︒
⑥
国も税の増収を図ることは大事であるが︑多額は望めない︒
⑦︑⑧ 国・地方を通じ︑新税を作るか︑税率を上げることは必要であるが︑国民︑住民の理解を得るのが困難
で あ
る ︒
地方独自の法定外普通税︑法定外目的税を作ることは︑地方自治の具体化という意味では意義があるが︑既
に主要な税源が法定税の対象とされており︑多額の収入は期待できない︒
地方財政の危機の解決策の検討にあたり考慮すべき理念と事情
231
地方財政の危機と対応策
地方財政の危機の解決策の検討にあたっては︑地方自治の理念と各種の事情を考慮する必要がある︒
1
自己決定・自己責任
地方自治は︑本来地方がみずから治めるということである︒
地方自治は︑団体自治と住民自治とからなっている︒団体自治とは︑固から独立した地方公共団体がみ︑すからの
判断と責任でその地域内の公共的な問題を解決していく(地域に関する事務を処理する)ことであり︑住民自治と
は︑地方公共団体の住民がその意思と責任の下にその地域内の公共的な問題を解決していく(地域に関する事務を
処理する)ことである︒
法学論集 51〔山梨学院大学〕 232
先般の地方分権改革以来︑自己決定・自己責任ということが強調されているが︑このことは︑本来地方自治の中
身としてあることである︒ただ︑従来国の関与が大きく︑地方の自主性︑自立性が阻まれていたために︑機関委任
事務制度の廃止︑関与の廃止・縮減︑必置規制の廃止・緩和を機に︑地方が自己決定︑自己責任に目覚め︑行動を ︵5︶ もってそれを示し︑国がそれを制度的にも︑運用上も認め︑支援するということなのである︒
地方自治における自己決定・自己責任については︑団体自治の側面と住民自治の側面から見ていく必要がある︒
団体自治の側面における自己決定・自己責任は︑国の関与を避け︑地方が自主︑自立で行動し︑その結果はその
団体がかぶる︵国に後始末をさせることはできない︒︶ことを意味する︒
一方︑住民自治の側面における自己決定・自己責任は︑住民が議会や首長を通じて政策を選択し︑その成果を受
けるとともに︑政策の誤りによる不利益は終局的に住民がかぶるということを意味する︒
このことは︑地方公共団体の財政についてもいえることである︒
ただし︑地方財政に関しては︑第一次分権改革においては︑その自主性の強化が税財源の充実を中心に先送りさ
れており︑自己決定・自己責任体制ができているとはいいがたい︒
自己決定・自己責任については︑いくら強調しても強調しすぎることはない︒地方公共団体の為政者︑職員︑住
民のそれぞれがその重要性を肝に銘じる必要がある︒ただし︑国は︑地方の自己決定・自己責任が実質的に可能と
なるよう条件整備を図らなければならない︒
2 住民の居住地選択
憲法第二二条は︑何人にも公共の福祉に反しない限り︑居住︑移転の自由を保障している︒
232
先般の地方分権改革以来︑自己決定・自己責任ということが強調されているが︑このことは︑本来地方自治の中
身としてあることである︒ただ︑従来国の関与が大きく︑地方の自主性︑自立性が阻まれていたために︑機関委任
51
C 山梨学院大学〕
事務制度の廃止︑関与の廃止・縮減︑必置規制の廃止・緩和を機に︑地方が自己決定︑自己責任に目覚め︑行動を
もってそれを示し︑国がそれを制度的にも︑運用上も認め︑支援するということなのである︒
地方自治における自己決定・自己責任については︑団体自治の側面と住民自治の側面から見ていく必要がある︒
団体自治の側面における自己決定・自己責任は︑国の関与を避け︑地方が自主︑自立で行動し︑その結果はその
法学論集
団体がかぶる (国に後始末をさせることはできない︒)ことを意味する︒
一方︑住民自治の側面における自己決定・自己責任は︑住民が議会や首長を通じて政策を選択し︑その成果を受
けるとともに︑政策の誤りによる不利益は終局的に住民がかぶるということを意味する︒
このことは︑地方公共団体の財政についてもいえることである︒
ただし︑地方財政に関しては︑第一次分権改革においては︑その自主性の強化が税財源の充実を中心に先送りさ
れており︑自己決定・自己責任体制ができているとはいいがたい︒
自己決定・自己責任については︑ いくら強調しても強調しすぎることはない︒地方公共団体の為政者︑職員︑住
民のそれぞれがその重要性を肝に銘じる必要がある︒ただし︑国は︑地方の自己決定・自己責任が実質的に可能と
なるよう条件整備を図らなければならない︒
2
住民の居住地選択
憲法第二二条は︑何人にも公共の福祉に反しない限り︑居住︑移転の自由を保障している︒
233地方財政の危機と対応策
住民は︑自分の住む地方公共団体を自由に選択できるのである︒
このことは︑環境の良いところ︑福祉や教育水準の高いところに転居して︑その恩恵を受けることができるし︑
さらには自分の意見や意向を行政に反映しやすいところに転居することもできる︒また︑逆に環境の悪いところ︑
福祉や教育水準の低いところから転出して︑その害を避けることもできる︒
しかしながら︑意見や意向の近い者だけが集まって︑新しい市町村を作り︑そこに住むということは︑わが国の ︵6︶ 仕組みでは現住民の総意による市町村の分割又は分立によるほかできない︒
一方で︑居住︑移転の自由があるからといって︑人はそう簡単に転居できるものではない︒住居︵土地︑家屋の
所有等︶︑勤務︑子供の通学等の制約等がある︒そこでは︑人は︑たとえ不満があろうとも︑その場に住み続けな
ければならない︒
わが国においては︑経済の高度成長期に若年層を中心に人口が農村から都会に移動した︒少子高齢化の時代を迎
えるに至り︑農村においては人口の高齢化はいっそう厳しいものがある︒これを残った者の責任といえるであろう
か︒都会に移動した世代はまだ出身の農村とのつながりを感じているであろうが︑次の世代は都会がふるさとであ
り︑農村への共感は特別な配慮︵例えば︑教育により農村の持つ環境保護機能をはじめとする多面的機能を理解さ
せること︶なくしては形成されていかないのではないかと危惧される︒
地域における自己決定・自己責任との関係で言えば︑住民が地域外に移住したり︑地域内に転入したりというこ
とがなければ︑その考えは貫徹されるであろうけれども︑居住︑移転の自由はそれに影響を与えるのではないか︒
3 地域振興と行政 住民は︑自分の住む地方公共団体を自由に選択できるのである︒ このことは︑環境の良いところ︑福祉や教育水準の高いところに転居して︑ その恩恵を受けることができるし︑
さらには自分の意見や意向を行政に反映しやすいところに転居することもできる︒また︑逆に環境の悪いところ︑
福祉や教育水準の低いところから転出して︑ その害を避けることもできる︒
しかしながら︑意見や意向の近い者だけが集まって︑新しい市町村を作り︑
仕組みでは現住民の総意による市町村の分割又は分立によるほかできない︒ そこに住むということは︑ わが国の
一方で︑居住︑移転の自由があるからといって︑人はそう簡単に転居できるものではない︒住居(土地︑家屋の
所有等)︑勤務︑子供の通学等の制約等がある︒そこでは︑人は︑ たとえ不満があろうとも︑ その場に住み続けな
ければならない︒
わが国においては︑経済の高度成長期に若年層を中心に人口が農村から都会に移動した︒少子高齢化の時代を迎
地方財政の危機と対応策
えるに至り︑農村においては人口の高齢化はいっそう厳しいものがある︒これを残った者の責任といえるであろう
か︒都会に移動した世代はまだ出身の農村とのつながりを感じているであろうが︑次の世代は都会がふるさとであ
り︑農村への共感は特別な配慮(例えば︑教育により農村の持つ環境保護機能をはじめとする多面的機能を理解さ
せること)なくしては形成されていかないのではないかと危慎される︒
地域における自己決定・自己責任との関係で言えば︑住民が地域外に移住したり︑地域内に転入したりというこ
233
と が
な け
れ ば
︑
その考えは貫徹されるであろうけれども︑居住︑移転の自由はそれに影響を与えるのではないか︒
3
地域振興と行政
法学論集 51〔山梨学院大学〕 234
パクレ 地域振興に行政の果たす役割は︑小さくはない︒
地方公共団体も地域振興・活性化のために種々の政策を行ってきた︒企業誘致やベンチャー企業の育成︑観光振 ︵8︶ 興︑地域文化振興等である︒
しかしながら︑地域振興はインフラ整備の部分を別とすれば︑民間の活動に負う部分が多い︒地域振興がうまく
いかなければ︑地方公共団体の財政的基礎である税収もままならない︒
地域における自己決定・自己責任との関係で言えば︑税収の少ないことをその団体の責任に帰してよいものであ
ろうか︒あるいは︑地域の行政水準の低いことをその団体の責任に帰してよいものであろうか︒
そうではなく︑どの地域も均衡の取れた状態にするために︑国が積極的に地域開発にかかわってきたのではない
か︒ 今︑国の開発は進み︑地方への財政的配慮により︑どの地域でもナショナルミニマムは実現したといわれる︒地
方公共団体の公共施設は確かに整備された︒数ある施設の中には︑利用されない無駄も見られる︒道路と農道が並
走している例も見られる︒ただ︑利用されないものの中には︑いわゆる箱もの施設もあるが︑ハードの面ばかり整
備されて︑ソフトの配慮が間に合わないものもあると考えられる︒
地方を甘やかすと︑モラルハザードが生じるとして︑選択と負担をバランスさせるという考えがある︒現実に︑
国から補助金を引っ張り出すのが首長の腕の見せ所であると主張し︑実績を誇るものもいる︒確かにこれはおかし
い︒しかし︑補助をねだるから補助制度ができるのか︑補助制度があるから補助をねだるのか︑見方は分かれるで
あろう︒補助金は各省の力の源泉の一つと見られており︑現に各省は補助金を整理したがらない︒国が毅然たる態
234
地域振興に行政の果たす役割は︑小さくはない︒
地方公共団体も地域振興・活性化のために種々の政策を行ってきた
D企業誘致やベンチャー企業の育成︑観光振
興︑地域文化振興等である︒
51 C
山梨学院大学〕
しかしながら︑地域振興はインフラ整備の部分を別とすれば︑民間の活動に負う部分が多い︒地域振興がうまく
いかなければ︑地方公共団体の財政的基礎である税収もままならない︒
地域における自己決定・自己責任との関係で言えば︑税収の少ないことをその団体の責任に帰してよいものであ
法学論集
ろうか︒あるいは︑地域の行政水準の低いことをその団体の責任に帰してよいものであろうか︒
そ う で は な く ︑ どの地域も均衡の取れた状態にするために︑国が積極的に地域開発にかかわってきたのではない
今︑国の開発は進み︑地方への財政的配慮により︑どの地域でもナショナルミニマムは実現したといわれる︒地 か
方公共団体の公共施設は確かに整備された︒数ある施設の中には︑利用されない無駄も見られる︒道路と農道が並
走している例も見られる︒ただ︑利用されないものの中には︑ ハードの面ばかり整 いわゆる箱もの施設もあるが︑
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ソフトの配慮が間に合わないものもあると考えられる︒
地方を甘やかすと︑ モラルハザードが生じるとして︑選択と負担をバランスさせるという考えがある︒現実に︑
国から補助金を引っ張り出すのが首長の腕の見せ所であると主張し︑実績を誇るものもいる︒確かにこれはおかし
い︒しかし︑補助をねだるから補助制度ができるのか︑補助制度があるから補助をねだるのか︑見方は分かれるで
あろう︒補助金は各省の力の源泉の一つと見られており︑現に各省は補助金を整理したがらない︒国が毅然たる態
235 地方財政の危機と対応策
度で不要な補助をしなければモラルハザードは生じないであろう︒モラルハザードを生じる地方の圧力の方が優位
であるというなら︑所詮それを制度のデザインで抑えることは困難であろう︒制度のデザインそのものが圧力でゆ
がめられてしまうであろう︒近視眼的な経済的合理性でなく︑本来の合理性につき理解を求め︑行動してもらうし
かあるまいと考える︒
経済の効率論として︑利用需要の多いところに施設を作るべきであるという論がある︒この場合︑施設の近くに
住む者は︑その利用に関し︑交通費の負担が少なく︑時問も労力もかからない︒遠隔の地にいる者は︑多額の交通
費を負担しなければならず︑時間も労力もかかる︒
経済効率としては︑人口密集地に施設を建設するのは理解できるが︑各個人の平等という観点からは︑別の考察
が必要である︒
便利の地に住まない方が悪いという議論があるかもしれない︒それなら不便の地に立派な施設ができた場合は︑
その方が有利だということでそちらに移住すればよい︒だが︑そのようなことは起こりそうもない︒
解決法の一つは︑便利の地にいる者から交通費相当額を取るか︑不便の地にいる者に交通費相当額を援助するこ
とである︒ただし︑多くのことに関してこのような個別の平等を図っていくのがよいのか︑各種サービスをトータ
ルで見て平等を図ればよいのかという議論は存する︵税というものは︑サービス全般に配慮して賦課徴収される︶︒
ナショナルミニマムは実現したといわれるが︑ストックにおけるものとフローにおけるものとは違うし︑地方に
おける医療︑就職先確保等はむしろ危機的な状態にあるのではないか︒
4 国の法律による事務処理の義務付けと地方自治 度で不要な補助をしなければモラルハザードは生じないであろう︒ モラルハザードを生じる地方の圧力の方が優位
であるというなら︑所詮それを制度のデザインで抑えることは困難であろう︒制度のデザインそのものが圧力でゆ
がめられてしまうであろう︒近視眼的な経済的合理性でなく︑本来の合理性につき理解を求め︑行動してもらうし
かあるまいと考える︒
経済の効率論として︑利用需要の多いところに施設を作るべきであるという論がある︒この場合︑施設の近くに
住 む
者 は
︑
その利用に関し︑交通費の負担が少なく︑時間も労力もかからない︒遠隔の地にいる者は︑多額の交通
費を負担しなければならず︑時間も労力もかかる︒
経済効率としては︑人口密集地に施設を建設するのは理解できるが︑各個人の平等という観点からは︑別の考察
が 必 要 で あ る ︒
便利の地に住まない方が悪いという議論があるかもしれない︒それなら不便の地に立派な施設ができた場合は︑
地方財政の危機と対応策
その方が有利だということでそちらに移住すればよい︒だが︑ そのようなことは起こりそうもない︒
解決法の一つは︑便利の地にいる者から交通費相当額を取るか︑不便の地にいる者に交通費相当額を援助するこ
とである︒ただし︑多くのことに関してこのような個別の平等を図っていくのがよいのか︑各種サービスをト!タ
ルで見て平等を図ればよいのかという議論は存する
( 税
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サービス全般に配慮して賦課徴収される)︒
ナショナルミニマムは実現したといわれるが︑ ストックにおけるものとフローにおけるものとは違うし︑地方に
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おける医療︑就職先確保等はむしろ危機的な状態にあるのではないか︒
4
国の法律による事務処理の義務付けと地方自治
法学論集 5ヱ〔山梨学院大学〕 236
地方分権一括法による改正後の地方自治法に基づく地方公共団体の事務は︑自治事務と法定受託事務に分類され
る︒ 自治事務のうちには︑地方公共団体が法の規制なく︑自由に実施できるものもあるが︑法律の規定の下に義務的
に実施しなければならないものも少なからずある︒
法定受託事務は︑法律によって設けられるものであり︑法律の規定の下で裁量の余地は事務により異なるであろ
うが︑義務的に実施しなければならないものである︒
平成一五年度地方財政計画の歳出の分析をみると︑国庫補助関連事業︵約二六・三兆円︶︑国が法令等で基準を
設定しているもの︵警察官や高校教員数など︶︑国の法令でその実施を義務付けているもの︵戸籍︑保健所︑ごみ ︵9︶ 処理など︶が︑地方一般歳出の大部分を占めている︒
このような事態の下では︑若干の裁量の余地がある場合はあっても︑自己決定・自己責任は言うべくして十分に
は実行できないと言える︒このよう看事態打開のためには︑地方公共団体の事務に関する規制を徹底的に廃止.縮
小することが必要であるが︑そのようなことは可能であろうか︒また︑それができたとしても︑いわゆる各住民に
対するナショナルミニマムの保障の観点から︑財源の不足する地方公共団体に対して財源が保障されなければなら
ないであろう︒
また︑地方公共団体が自主性・自立性を発揮して各種の施策に取り組むことができるようにすることは地方自治
の本来の姿であるから︑地方公共団体が自主的・主体的に課税できるようにし︵観念的な課税権の付与ではなく︑
現実に住民に負担を求めることが︑住民にとって過大な負担とならないこと︶︑あるいは︑最低限の財源保障をす
236
地方分権一括法による改正後の地方自治法に基づく地方公共団体の事務は︑自治事務と法定受託事務に分類され
る
51
(山梨学院大学〕
自治事務のうちには︑地方公共団体が法の規制なく︑自由に実施できるものもあるが︑法律の規定の下に義務的
に実施しなければならないものも少なからずある︒
法定受託事務は︑法律によって設けられるものであり︑法律の規定の下で裁量の余地は事務により異なるであろ
うが︑義務的に実施しなければならないものである︒
法学論集
平成一五年度地方財政計画の歳出の分析をみると︑国庫補助関連事業(約二六・三兆円)︑国が法令等で基準を
設定しているもの(警察官や高校教員数などて国の法令でその実施を義務付けているもの(戸籍︑保健所︑ごみ
処理など)が︑地方一般歳出の大部分を占めている︒
このような事態の下では︑若干の裁量の余地がある場合はあっても︑自己決定・自己責任は言うべくして十分に
は実行できないと言える︒このような事態打開のためには︑地方公共団体の事務に関する規制を徹底的に廃止・縮
小することが必要であるが︑そのようなことは可能であろうか︒また︑それができたとしても︑ いわゆる各住民に
対するナショナルミニマムの保障の観点から︑財源の不足する地方公共団体に対して財源が保障されなければなら
な い
で あ
ろ う
︒
また︑地方公共団体が自主性・自立性を発揮して各種の施策に取り組むことができるようにすることは地方自治
の本来の姿であるから︑地方公共団体が自主的・主体的に課税できるようにし (観念的な課税権の付与ではなく︑
現実に住民に負担を求めることが︑住民にとって過大な負担とならないことてあるいは︑最低限の財源保障をす
237 地方財政の危機と対応策
ることが必要である︵いわゆる各住民に対するナショナルミニマムの保障の観点から︑財源の不足する地方公共団
体に対する財源が保障されるだけであれば︑ナショナルミニマムの確保のための財源をそれ以外に当てることはで
きないからである︒︶
5 住民の要望︑行政需要は無限であるといえること︒
今日︑国・地方の財源は︑基本的に国民負担に基づくものであることが︑国民の間で知られるようになってきた
ために︑国や地方に何でも政策やサービスを求めるのではなく︑個人でできることは個人で︑会社でできることは
会社で︑民問の団体等︵自治会・町内会︑社会福祉協議会︑NPO︑ボランティアグループ等︶でできることは民
問の団体等で行い︑行政への依存を避けようとする動きも活発になりつつある︒それでも︑少子高齢化対策︑IT
化︑環境改善︑地域産業振興︑地域文化振興︑生活基盤整備︑安全確保等地方公共団体の果たすべき役割は枚挙に
暇がないし︑今後とも新規の行政需要が続出すると考えられる︒それだけに︑計画的︑重点的に財源を見ながら政
策を決めていく必要がある︒
6 都市対田舎
都市のものとなるべき財源が地方交付税などの形で田舎に移転され︑都市は損をしているといわれることがあ
る︒ しかし︑これはどの程度の移転であれば︑都市と田舎のバランスが取れているかの問題である︒
ここで︑地方財政において大きな比重を占める教育財政について取り上げてみる︒
まず︑憲法第二六条は︑﹁義務教育は︑これを無償とする︒﹂と規定している︒このことは︑義務教育を行う市町 ることが必要である (いわゆる各住民に対するナショナルミニマムの保障の観点から︑財源の不足する地方公共団
体に対する財源が保障されるだけであれば︑ ナショナルミニマムの確保のための財源をそれ以外に当てることはで
きないからである︒)
5
住民の要望︑行政需要は無限であるといえること︒
今日︑国・地方の財源は︑基本的に国民負担に基づくものであることが︑国民の間で知られるようになってきた
ために︑国や地方に何でも政策やサービスを求めるのではなく︑個人でできることは個人で︑会社でできることは
会社で︑民間の団体等(自治会・町内会︑社会福祉協議会︑
NPO︑ボランティアグループ等) でできることは民
聞の団体等で行い︑行政への依存を避けようとする動きも活発になりつつある︒それでも︑少子高齢化対策︑
I T
化︑環境改善︑地域産業振興︑地域文化振興︑生活基盤整備︑安全確保等地方公共団体の果たすべき役割は枚挙に
暇がないし︑今後とも新規の行政需要が続出すると考えられる︒それだけに︑計画的︑重点的に財源を見ながら政
地方財政の危機と対応策
策を決めていく必要がある︒
6
都市対田舎
都市のものとなるべき財源が地方交付税などの形で田舎に移転され︑都市は損をしているといわれることがあ
しかし︑これはどの程度の移転であれば︑都市と田舎のバランスが取れているかの問題である︒ る
2 3 7
ここで︑地方財政において大きな比重を占める教育財政について取り上げてみる︒
まず︑憲法第二六条は︑﹁義務教育は︑これを無償とする︒﹂と規定している︒このことは︑義務教育を行う市町
法学論集 51〔山梨学院大学〕 238
村や都道府県は︑学校の校舎︑設備の建設︑維持管理費︑教職員の人件費等に多額の経費を必要とし︑その経費を
負担しているが︑児童の保護者は︑義務教育に関し︑基本的な経費を負担しないということである︒
これら経費の支出は︑経済学的には﹁資源配分﹂としての支出とされるものであり︑それは基本的に能力に応じ
て負担される税をもって賄われるべきものである︒
次に︑生活保護に関しては︑憲法第二五条は︑﹁すべて国民は︑健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有
する︒﹂と規定しており︑これを受けて生活保護法は︑﹁憲法第二五条に規定する理念に基づき︑国が生活に困窮す
るすべての国民に対し︑その困窮の程度に応じ︑必要な保護を行い︑その最低限度の生活を保障するとともに︑そ
の自立を助長することを目的とする︒﹂としている︒
生活保護法による扶助︵その多くが金銭給付によって行われる︒︶は︑経済学的には財政支出における所得再配
分機能の発揮の代表的な例である︵財政収入における所得再配分機能の発揮の代表的な例は︑所得税の超過累進課
税である︒︶が︑住民への給付の役割は︑市と県︵町村の区域︶が担っている︒一般的に︑所得再配分機能は国の
役割といわれているが︑現実にはそのような役割の一部を地方公共団体が担っていることを考慮すると︑自己決
定・自己責任というだけでは済まないのである︒
したがって︑田舎において資金が不足すれば︑都市地域からあがった国税︵その中には︑大企業が法人税を本社 パリレ で一括納付するので︑実質的には︑田舎に帰属すべきものが含まれている︒︶を移転することは何ら不自然ではな
い︒ もし︑都市地域からあがった国税を都市地域にのみ配分するとすれば︑都市地域における富者と貧者の間におけ
2 3 8
村や都道府県は︑学校の校舎︑設備の建設︑維持管理費︑教職員の人件費等に多額の経費を必要とし︑ その経費を
負担しているが︑児童の保護者は︑義務教育に関し︑基本的な経費を負担しないということである︒
51 C
山梨学院大学〕
これら経費の支出は︑経済学的には﹁資源配分﹂としての支出とされるものであり︑それは基本的に能力に応じ
て負担される税をもって賄われるべきものである︒
次に︑生活保護に関しては︑憲法第二五条は︑﹁すべて国民は︑健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有
する︒﹂と規定しており︑これを受けて生活保護法は︑﹁憲法第二五条に規定する理念に基づき︑国が生活に困窮す
法学論集
るすべての国民に対し︑その困窮の程度に応じ︑必要な保護を行い︑その最低限度の生活を保障するとともに︑そ
の自立を助長することを目的とする︒﹂としている︒
生活保護法による扶助(その多くが金銭給付によって行われる︒) は︑経済学的には財政支出における所得再配
分機能の発揮の代表的な例である(財政収入における所得再配分機能の発揮の代表的な例は︑所得税の超過累進課
税である︒)が︑住民への給付の役割は︑市と県(町村の区域)が担っている︒ 一般的に︑所得再配分機能は国の
役割といわれているが︑現実にはそのような役割の一部を地方公共団体が担っていることを考慮すると︑自己決
定・自己責任というだけでは済まないのである︒
したがって︑田舎において資金が不足すれば︑都市地域からあがった国税(その中には︑大企業が法人税を本社
田舎に帰属すべきものが含まれている︒)を移転することは何ら不自然ではな で一括納付するので︑実質的には︑
し ユ
。もし︑都市地域からあがった国税を都市地域にのみ配分するとすれば︑都市地域における富者と貧者の聞におけ
239地方財政の危機と対応策
る所得移転的効果は生じても︑全国における富者と貧者の間における所得移転的効果は十分には生じないこととな
り︑所得再配分機能の発揮がいびつになってしまう︒したがって︑都市地域からあがった国税を都市地域のみで使
用するということは︑不公平を生じるものであり︑是認できるものではない︒
なお︑現実の政策について資源配分機能と所得再配分機能とを分離することが難しい場合もあるといわれてい
る︒ 都市には︑都市特有の財政需要があるので︑そのことに配慮する必要はある︒
都市と田舎とは︑それぞれ独立の存在であるとともに︑相互に補完しあう関係にあるのであるから︑対立的に捉
えるべきものではない︒
なお︑地方公共団体問の比較に当たり︑条件を等しくするため︑人口一人当たり額が用いられることがある︒こ
れは︑問題点の把握の端緒として用いるのには意味があるが︑その結果を絶対視することは問題である︒例えば︑
平成一四年四月一日現在の知事の給料月額についてみると︑東京都知事は一︑四七六︑○○○円︵減額前一︑六四
パなレ パレレ ○︑○○○円︶で︑山梨県知事は一︑二六〇︑○○○円であり︑住民︵平成一四年三月三一日現在の住民基本台帳
人口︶一人当たり負担額を見ると︑東京都では︑○・一二四円︑山梨県では一・四二三円である︒この金額の比較
から︑山梨県民は都民より二・五倍のサービスを知事から受けているとはいえない︒逆にいえば︑山梨県民は東
京都民に比べ相対的に重い負担をしていることになる︒
7 市町村合併の推進
平成一二年四月に﹁地方分権一括法﹂が施行され︑分権の歩みがいよいよ現実的なものになる中で︑市町村の役 る所得移転的効果は生じても︑全国における富者と貧者の聞における所得移転的効果は十分には生じないこととな り︑所得再配分機能の発揮がいびつになってしまう︒したがって︑都市地域からあがった国税を都市地域のみで使 用するということは︑不公平を生じるものであり︑是認できるものではない︒
なお︑現実の政策について資源配分機能と所得再配分機能とを分離することが難しい場合もあるといわれてい
都市には︑都市特有の財政需要があるので︑ そのことに配慮する必要はある︒ る
都 市
と 田
舎 と
は ︑
それぞれ独立の存在であるとともに︑相互に補完しあう関係にあるのであるから︑対立的に捉
えるべきものではない︒
なお︑地方公共団体間の比較に当たり︑条件を等しくするため︑人口一人当たり額が用いられることがある︒こ
れは︑問題点の把握の端緒として用いるのには意味があるが︑ その結果を絶対視することは問題である︒例えば︑
地方財政の危機と対応策
平成一四年四月一日現在の知事の給料月額についてみると︑東京都知事は一︑四七六︑
0 0
0 円(減額前一︑六四
O ︑
000
円)で︑山梨県知事は一︑二六 O ︑
000
円であり︑住民(平成一四年三月=二日現在の住民基本台帳
人 口
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一人当たり負担額を見ると︑東京都では︑ 0 ・二一四円︑山梨県では一・四二三円である︒この金額の比較
から︑山梨県民は都民より一一・五倍のサービスを知事から受けているとはいえない︒逆にいえば︑山梨県民は東
京都民に比べ相対的に重い負担をしていることになる︒
7
市町村合併の推進
239
平成二一年四月に﹁地方分権一括法﹂が施行され︑分権の歩みがいよいよ現実的なものになる中で︑市町村の役
法学論集 5ヱ〔山梨学院大学〕 240
割がますます大きくなっている︒
市町村は︑﹁福祉﹂︑﹁保健﹂︑﹁教育﹂といった住民に身近な事務を処理しているが︑分権が進むにつれて︑その
役割は拡大し︑同時に住民の期待も大きくなると予想される︒
市町村がその役割を十分に果たすために︑全国的に自主的な合併が進められているが︑現在進行中のためその帰
趨は明らかでない︒
合併は︑財政的な基盤の強化をもたらすものと期待されている︒
四 地方財政の危機に対する国の方策
平成一五年六月二六日︑経済財政諮問会議において﹁経済財政運営と構造改革に関する基本方針二〇〇三﹂︵以
下﹁基本方針二〇〇三﹂という︒︶がとりまとめられ︑これを受けて政府は二七日︑﹁基本方針二〇〇三﹂を閣議決
パむズねレ
定した︒
この﹁基本方針二〇〇三﹂の第二部中﹁6︑﹁国と地方﹂の改革﹂において︑いわゆる三位一体の改革を行うこ
ととしている︒
まず︑﹁改革のポイント﹂として︑地方分権の推進と国・地方を通じた行財政改革の推進を掲げている︒
次に︑三位一体の改革によって達成されるべき﹁望ましい姿﹂として︑以下の三つの姿を掲げている︒
①地方の一般財源の割合の引上げ
240
割がますます大きくなっている︒
市町村は︑﹁福祉﹂︑﹁保健﹂︑﹁教育﹂といった住民に身近な事務を処理しているが︑分権が進むにつれて︑
そ の
51
(山梨学院大学〕
役割は拡大し︑同時に住民の期待も大きくなると予想される︒
市町村がその役割を十分に果たすために︑全国的に自主的な合併が進められているが︑現在進行中のためその帰
趨は明らかでない︒
合併は︑財政的な基盤の強化をもたらすものと期待されている︒
法学論集
四
地方財政の危機に対する国の方策
平成一五年六月二六日︑経済財政諮問会議において﹁経済財政運営と構造改革に関する基本方針二
OO
三 ﹂
( 以
下﹁基本方針二
OO
三﹂という︒)がとりまとめられ︑これを受けて政府は二七日︑﹁基本方針二
OO
三﹂を閣議決
定 し
た ︒
この﹁基本方針二
OO
三﹂の第二部中﹁ 6 ︑﹁国と地方﹂の改革﹂において︑ いわゆる三位一体の改革を行うこ
と と
し て
い る
︒
まず︑﹁改革のポイント﹂として︑地方分権の推進と国・地方を通じた行財政改革の推進を掲げている︒
次に︑三位一体の改革によって達成されるべき﹁望ましい姿﹂として︑以下の三つの姿を掲げている︒
①
地方の一般財源の割合の引上げ
241地方財政の危機と対応策
②地方税の充実︑交付税への依存の引下げ
③効率的で小さな政府の実現
続いて︑三位一体の改革の具体的な改革工程においては︑以下の三項目についておおよそ次のように述べてい
る︒ ①国庫補助負担金の改革
﹁地方の権限と責任を大幅に拡大するとともに︑国・地方を通じた行政のスリム化を図る観点から︑﹁自助と自
律﹂にふさわしい国と地方の役割分担に応じた事務事業及び国庫補助負担金のあり方の抜本的な見直しを行う︒﹂
このため︑﹁国庫補助負担金等整理合理化方針﹂に基づき︑事務事業の徹底的な見直しを行いつつ︑国庫補助負
担金については︑広範な検討を更に進め︑概ね四兆円程度を目途に廃止︑縮減等の改革を行う︒その際︑国・地方
を通じた行財政の効率化・合理化を強力に進めることにより︑公共事業関係の国庫補助負担金等についても改革す
るとしている︒
②地方交付税の改革
﹁地方交付税の財源保障機能については︑その全般を見直し︑縮小していく︒他方︑必要な行政水準について国
民的合意を図りつつ地域問の財政力格差を調整することはなお必要である︒
また︑国・地方を通じた歳出の縮減︑必要な公共サービスを支える安定的な歳入構造の構築等を通じて︑早期に
地方財源不足を解消し︑その後は交付税への依存体質から脱却し︑真の地方財政の自立を目指す︒﹂
このような観点から︑次のとおり取り組むとしている︒
②
地方税の充実︑交付税への依存の引下げ
③
効率的で小さな政府の実現
続いて︑三位一体の改革の具体的な改革工程においては︑以下の三項目についておおよそ次のように述べてい
る
①
国庫補助負担金の改革
﹁地方の権限と責任を大幅に拡大するとともに︑国・地方を通じた行政のスリム化を図る観点から︑﹁自助と自
律﹂にふさわしい国と地方の役割分担に応じた事務事業及び国庫補助負担金のあり方の抜本的な見直しを行う︒﹂
このため︑﹁国庫補助負担金等整理合理化方針﹂に基づき︑事務事業の徹底的な見直しを行いつつ︑国庫補助負
担金については︑広範な検討を更に進め︑概ね四兆円程度を目途に廃止︑縮減等の改革を行う︒その際︑国・地方
を通じた行財政の効率化・合理化を強力に進めることにより︑公共事業関係の国庫補助負担金等についても改革す
241
地方財政の危機と対応策
る と
し て
い る
︒
②
地方交付税の改革
﹁地方交付税の財源保障機能については︑その全般を見直し︑縮小していく︒他方︑必要な行政水準について園
民的合意を図りつつ地域間の財政力格差を調整することはなお必要である︒
また︑国・地方を通じた歳出の縮減︑必要な公共サービスを支える安定的な歳入構造の構築等を通じて︑早期に
地方財源不足を解消し︑その後は交付税への依存体質から脱却し︑亘/︑の地方財政の自立を目指す︒﹂
このような観点から︑次のとおり取り組むとしている︒
法学論集 5ヱ〔山梨学院大学〕 242
ア 国の歳出の徹底的な見直しと歩調を合わせつつ︑以下のような措置等により︑地方財政計画の歳出を徹底的
に見直す︒これにより︑地方交付税総額を抑制し︑財源保障機能を縮小していく︒この場合︑歳入・歳出の両
面における地方公共団体の自助努力を促していくことを進める︒
﹁・国庫補助負担金の廃止︑縮減による補助事業の抑制
・地方財政計画上人員を四万人以上純減
・投資的経費︵単独︶を平成二〜三年度の水準を目安に抑制
・一般行政経費等︵単独︶を現在の水準以下に抑制﹂
イ 国の関与の廃止・縮小に対応した算定方法の簡素化及び段階補正の見直しを更に進めていく︒また︑基準財
政需要額に対する地方債元利償還金の後年度算入措置を各事業の性格に応じて見直す︒なお︑地方債に対する
市場の評価がより機能するように取り組んでいくとある︒
ウ 現在︑九割以上の地方団体が地方交付税の交付団体となっているが︑不交付団体︵市町村︶の人口の割合を
大幅に高めていく︒
工 税源移譲を含む税源配分の見直し等の地方税の充実に対応して︑財政力格差の調整の必要性が高まるので︑
実態を踏まえつつ︑適切な対応を図る︒
③税源移譲を含む税源配分の見直し
﹁廃止する国庫補助負担金の対象事業の中で引き続き地方が主体となって実施する必要があるものについては︑
税源移譲する︒その際︑税源移譲は基幹税の充実を基本に行う︒税源移譲に当たっては︑個別事業の見直し・精査
ア
国の歳出の徹底的な見直しと歩調を合わせっつ︑以下のような措置等により︑地方財政計画の歳出を徹底的
242
に見直す︒これにより︑地方交付税総額を抑制し︑財源保障機能を縮小していく︒この場合︑歳入・歳出の両
51
(山梨学院大学〕
面における地方公共団体の自助努力を促していくことを進める︒
﹁・国庫補助負担金の廃止︑縮減による補助事業の抑制
‑地方財政計画上人員を四万人以上純減
‑投資的経費(単独)を平成二()三年度の水準を目安に抑制
法学論集
‑一般行政経費等(単独)を現在の水準以下に抑制﹂
イ
国の関与の廃止・縮小に対応した算定方法の簡素化及び段階補正の見直しを更に進めていく︒また︑基準財
政需要額に対する地方債元利償還金の後年度算入措置を各事業の性格に応じて見直す︒なお︑地方債に対する
市場の評価がより機能するように取り組んでいくとある︒
ウ
現在︑九割以上の地方団体が地方交付税の交付団体となっているが︑不交付団体(市町村) の人口の割合を
大幅に高めていく︒
ここ
税源移譲を含む税源配分の見直し等の地方税の充実に対応して︑財政力格差の調整の必要性が高まるので︑
実態を踏まえつつ︑適切な対応を図る︒
③
税源移譲を含む税源配分の見直し
﹁廃止する国庫補助負担金の対象事業の中で引き続き地方が主体となって実施する必要があるものについては︑
税源移譲する︒その際︑税源移譲は基幹税の充実を基本に行う︒税源移譲に当たっては︑個別事業の見直し・精査
243地方財政の危機と対応策
を行い︑補助金の性格等を勘案しつつ八割程度を目安として移譲し︑義務的な事業については徹底的な効率化を図
った上でその所要の全額を移譲する︒あわせて︑二八年度までに必要な税制上の措置を判断﹂して︑その一環と
して地方税の充実を図る︒﹂
また︑地方が納税者の理解を得ながら︑課税自主権を活用して地方税の充実確保を図ることは重要な課題であ
り︑課税自主権の拡大を図る︒
こうした取組により︑地方歳出の見直しと併せ︑地方における歳出規模と地方税収入との乖離をできるだけ縮小
するという観点に立って︑地方への税源配分の割合を高める︒その際︑応益性や負担分任性という地方税の性格を
踏まえ︑自主的な課税が行いやすいという点にも配意し︑基幹税の充実を基本に︑税源の偏在性が少なく税収の安
定性を備えた地方税体系を構築するとしている︒
なお︑この時点においては︑削減の対象となる補助金名及びその額︑移譲する税目は明らかにされていない︒
以上述べた﹁基本方針二〇〇三﹂による改革は︑まずは一五年末に行われる一六年度の予算編成︑税制改正と地 パぎ 方財政対策︵地方財政計画の策定につながる︒︶で具体化が始まることとなる︒
三位一体の改革の受け手である地方公共団体側は︑次のような提言等を行っている︒
全国知事会は︑﹁三位一体に関する提言﹂︵全国知事会会長私案︶︵平成一五年一〇月七日︶において︑義務教育
国庫負担金︑公共事業関係︵災害復旧関係を除く︒︶等総額九兆〜一〇兆円の国庫補助負担金を廃止すべきである
とし︑総額八兆〜九兆円を地方に税源移譲すべきであるとしている︒また︑地方に移譲されるべき税目と税額につ
いて︑所得税から住民税︵個人住民税を一〇パーセント比例税率化︶へ三兆円程度移譲︑消費税から地方消費税へ を行い︑補助金の性格等を勘案しつつ八割程度を目安として移譲し︑義務的な事業については徹底的な効率化を図 った上でその所要の全額を移譲する︒あわせて︑﹁一八年度までに必要な税制上の措置を判断﹂して︑その一環と し て 地 方 税 の 充 実 を 図 る ︒ ﹂
また︑地方が納税者の理解を得ながら︑課税自主権を活用して地方税の充実確保を図ることは重要な課題であ
り︑課税自主権の拡大を図る︒
こうした取組により︑地方歳出の見直しと併せ︑地方における歳出規模と地方税収入との乗離をできるだけ縮小
するという観点に立って︑地方への税源配分の割合を高める︒その際︑応益性や負担分任性という地方税の性格を
踏まえ︑自主的な課税が行いやすいという点にも配意し︑基幹税の充実を基本に︑税源の偏在性が少なく税収の安
定性を備えた地方税体系を構築するとしている︒
なお︑この時点においては︑削減の対象となる補助金名及びその額︑移譲する税目は明らかにされていない︒
地方財政の危機と対応策
以上述べた﹁基本方針二 OO 三﹂による改革は︑まずは一五年末に行われる一六年度の予算編成︑税制改正と地
で具体化が始まることとなる︒ 方財政対策(地方財政計画の策定につながる︒)
三位一体の改革の受け手である地方公共団体側は︑次のような提言等を行っている︒
全国知事会は︑﹁三位一体に関する提言﹂(全国知事会会長私案)(平成一五年一 O 月七日)において︑義務教育
国庫負担金︑公共事業関係(災害復旧関係を除く︒)等総額九兆
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