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(1)

Dibromohexitolの抗腫?効果と作用機序

著者 長谷川 嘉成, 石川 信雄

雑誌名 星薬科大学紀要

号 16

ページ 63‑68

発行年 1974

URL http://id.nii.ac.jp/1240/00000029/

(2)

自 然 科 学 綜  説

1)ibromohexitolの抗腫瘍効果と作用機序

The Antitumor E鉦ects of I)ibromohexitol and its Mechanisms

長谷川嘉成,石川信雄

YosHINARI HAsEGAwA and NoBuo IsHIKAwA

(Hoshi College of Pharmacy)

 はじめに

 細胞効果を有する最初の糖alcoho1は,Vargha1)

により mannito1骨格に nitrogen mustard

(HN 2)の活性基を結合させて作られたdegranol である.ついでVarghaとKuszmann2), Haddow ら3)がほとんど同時にmannitolにmyleran

(buslfan)の活性基を結合させたmannitol・myle・

ran(MM)を作り, KellnerとN6meth4・5)によ りこの化合物の細胞効果が証明された.

 先の研究老達とは別に,Instit6risとHorv th6)

は細胞毒活性を持つ官能基を分子中に取り込ませ るという従来の考え方ではなく,MMから反応 性,極在性,分子の大きさなどを関係づけて,α,

ω一

置換一糖alcohol誘導体の新しい抗腫瘍剤を作 り出そうとした.彼等はmesyloxy基の代りに,

分子中に関連官能基を入れて細胞効果が残存して いれば,この方法でMMの阻害効果による分子 の性質に関する情報が得られるものと考えた.重 いhalogen置換体とmesyloxy基の性質が似て いることと,脂肪親和性の炭素一halogenおよび 親水性のalcohol残基の存在で,これらの化合物 が生物体での移動に適することを見込んで,糖 alcoholに臭素および沃素を結合させた.かくし て抗腫瘍活性を有するdibromomannitol(DBM)

の合成が1961年に完成され,ついで1967年に DBMの立体異性体であるdibromodulcito1(DB・

D)も合成された7).

 著者らはこれら薬剤の抗腫瘍作用を総括して紹 介し,作用機序に関する綜説を試みることとす

る.

     CH2−Br      l

  HO−C−H

     l

  HO−C−H

     l    H−C−OH      l    H_C_OH

     |      CH2−Br

1,6dibromo−1,6dideoxy−

 D−mannitol(DBM)

  CH2−Br   l H−C_OH   l IIO_C_II   l HO_C_H   l H−C−OH   l   CH2−Br

1,6−dibromo−1,6づideoxy・

  dulcitol(DBD)

1.実験腫瘍に対する効果

 DBMは吉田肉腫の皮下移植に対して]/20 LD5。

の投与量(po, ip)で増殖抑制作用を示し,また 移植12〜14日後に150mg/kgを投与する場合で

も著明な抑制作用を示している8).しかし他の腫 瘍に対する効果は弱く,Walker 256癌肉腫に対 する有効量は1回投与118mg/kg(ip)であり治 療係数は8以下となる9).リンパ性腫瘍のNK/Ly lymphomaに対しては全く効果を示さないが,こ のことはDBMが骨髄向性であることを示唆する

ものである.著者らエ゜)はラット腹水腫瘍の内,吉

田肉腫のほかに腹水肝癌AH−13で細胞効果を認

めたので,さらにDBMによる延命効果をmito・

(3)

mycin C(MT・C)と比較して求めた.その結果

AH 13に対してDBMはMT Cよりも効果は

高く,poで9/10匹が60日間生存するという好成 績が得られた.

 DBDの実験腫瘍に対する効果はDBMよりも

広範囲のスペクトラムを示しているH」2).高感受 性の吉田,Waiker, Shay腫瘍に対しては,10〜

30mg/kg,1回投与で著効を示し,耐性腫瘍に対 しては100〜200mg/kg,6〜10回投与で効果を示 す.DBMと異なりDBDがL−1210に効果を示

すことも注目すべき点であろう13).

 2・血行性転移阻止効果

 Cs6nyi14)は種々の腹水型移植腫瘍を動物の尾 静脈内に移入し,腫瘍性異細胞血症を起させると いう方法でDBMの転移阻止効果をしらべた.

DBM 200 mg/kg(ip)を移植15分前に行なった 場合,動物の80%を吉田肉腫の転移から阻止出来 た.移植24時間後の場合は100mg/kg×4の治 療で4/9匹に効果を認めている.同様に,Walker,

Ehrlich腫瘍の場合も効果が得られ,特に後者の 腹腔内移植癌に対する治療効果が弱いことを考え あわせると興味深い.

DBD処置後にWalker 256癌肉腫を移植した 動物では,検出可能な循環細胞は1〜3時間後の 初期に減少する.経時的に見て腫瘍細胞が完全に 血中から除かれることはないが,対照群よりもず っと少なくなっている.さらに治療動物群では転

移は認められない12 15).

 3.In Vitroでの効果

 吉田肉腫細胞にDBMを接触させた後の移植性 に関しては,阻害効果は37°C,2時間艀置する場 合10〜20μg/m1である.これは4°Cよりも37°C に於ける場合の方が約30倍も強いことから温度依 存性であると言える16).

 HeLa細胞を培養して細胞形態学への影響を検 討した場合,DBMの細胞毒性効果は強いとは言

えない17).

 24時間処理で細胞に障害を与える最小濃度は 25μg/m1であり,完全に破壊せしめる濃度は 1000μg/m1である.前者の低濃度では有糸分裂 の減少が明らかであり,異常ポリプロイド分裂が 行なわれ,多核巨細胞も大量に出現している.異 常不規則性細胞としては極性染色体,3極中期分 裂体,星状中期分裂体,染色体破壊および橋状体 形成等がみられる.DBM, DBD処理後のエオジ ン好性体は核酸代謝阻害によるいくつかの空胞と して認められ,食作用は薬剤量に関係なく48時間 処理後に始まる.しかしその後の研究18)で悪性細 胞の食作用が薬剤量と時間に依存することを観察

している.Kellnerら19)は培養細胞の形態学によ るスクリーニング方法にかけ,DBM, DBDが HeLa細胞に対して明らかな効果を示すことを確

かめている,

 4.腫瘍細胞の限外構造に与える影響

 LapisとBenedeczky2°)はShay緑色白血病細 胞を新生児に移植して,6〜7日後にhexito】誘導 体を投与した.細胞構造の変化は1時間から168 時間まで観察し,DBMの1回大量投与時には核 および核小体に変化が起こるが,小量分割投与で は核よりも細胞質に変化を多く認めている.DBM 投与3〜12時間後にmitochondriaで著変が見ら れ,続いてribosomeの集積をともない,粗面小 胞体の空胞化に至る.さらに脂肪滴,自己貧食作 用による空胞およびmyelin体の増加が見られ

る,

 DBDの大量1回投与では, Shay緑色腫に短時 間のうちに激しい傷害が起り,核の電子密度が低 下する.Chromatinは核膜に沿うか核形質中で 塊状に固まる.一方小量分割投与ではlysosome の変性が最も特徴的なもので,これは糖alcohol 誘導体以外の他のどんな薬剤でも起こっていない 変化である.

 薬剤由来の強酸(臭化水素酸)の放出により pHが変化し, lysosome酵素は至適pHに達し,

細胞器官を構築している生体高分子物質の状態,

(4)

機能および細胞内膜の透過性に変化を与える.そ してmitochondriaの膨化を惹起するものと推察 されている.これらの変化がdibromohexitolの 作用機作に関して最も重要なものと考えられる.

 5 交叉耐性

 Dibromohexitolと数種のアルキル化剤の間に は交叉耐性が存在する.DBMはdegranol耐性

NK/LyおよびEerlich腹水腫瘍に対して21 22),

またHN 2耐性吉田肉腫に対して23)交叉耐性を示 す.DBMで作った吉田肉腫耐性株細胞は骨髄向 性薬剤のmyleran, MM, DBD,リンパ向性薬剤 のdegranol, trismustard等のアルキル化剤と交 叉耐性を示したが,代謝拮抗剤のmethotrexate やアルカロイドのvinbrastineに感受性を残して いる24),この成積から,DBMはアルキル化剤と しての作用を発揮して細胞毒効果を有することが うかがわれる.DBD獲得耐性吉田肉腫を用いた 実験でもvinbrastineが交叉耐性を示していな い25).またこの耐性株に対してmyleranも感受 性を示すが,MMは交叉耐性を示すことから,

交叉耐性は糖分子の関与を示唆している.Gati ら26)は上記実験をさらに進めて移動分子の役割を 追求し,6炭素鎖を含んだ化合物による耐性株は 他の関連6炭素化合物に対して交叉耐性を示すも のとした.HN 2耐性腫瘍に対して細胞毒活性 hexitol体の中では, DBDだけにわずかながら増 殖抑制作用が見られた.

 6.造血系におよぼす影響

 ラット骨髄形成に対するDBMの抑制作用は選 択的なものであり,リンパ球,赤血球および血小 板形成には影響を与えない8・28).ラットとウサギ を用いた末梢血液および骨髄造血に対するDBD の単一大量投与では,経時的変化が3期に区別出 来るという29).第1期は刺戟期で,投与後24時間 続き最初リンパ球,後で頼粒球による末梢白血球 の増加がある.第2期の主な特徴は,末梢と骨髄 の損傷であり,末梢では頼粒球減少症,骨髄では

細胞形成阻害と有核細胞数の減少を来し,骨髄の 完全な空胞化と細胞破壊を示す.これは3日目で 最も著明である.第3期は7日以後の恢復期であ り,骨髄および末槍血液像の緩徐な正常化,骨髄 の再生が進行中である.事実上の正常化は21日か ら40日になる.

 7.免疫効果

 犬の腎移植に対する拒絶反応の抑制剤として DBMは使用不可能である3°).著者ら1°)の実験で も,羊赤血球で感作したマウス脾の抗体産生細胞 に対するDBMの抑制作用が特に強いものである とは言い難い.DBDはDBMよりも免疫抑制効

果は強いと言われている31).

 通常免疫能を抑制する抗癌剤でも,用量,投与 後の時間,動物種など条件が変ることによって免 疫活性を高める場合がある.B6rzs6nyiら32)は DBDの作用機構を研究中に,抗原感作直後に異種 赤血球とBSAを供給すると,マウス血液中の抗 体量を低下させる作用のあることを認めた.とこ

ろが感作3日前にDBDを投与すると,抑制作用 はなく逆に免疫能を高めることになった.これは 薬剤により強力な免疫担当細胞の分離を促進する ためと考えられる、

 8.核酸および蛋白質合成におよぼす影響  Hidv6giら33)はin vitroで骨髄細胞および HeLa細胞の核酸,蛋白質合成におよぼすdibro−

mohexitolの影響をしらべている. DBM 500μ9/

m1,150分間の艀置でウサギ骨髄中のDNA合成

阻害は著明であり,また阻害度は,DNA, RNA,蛋

白質の順に現われている.DBDにおいてもDNA

合成阻害がもっともはっきりしている.HeLa細

胞のDBMに対する感受性はウサギ骨髄細胞に対

する場合よりもずっと弱く,骨髄で効果の得られ

る量で婚置6時間では生体高分子合成に変化を与

えていない.ただし艀置を20時間に延長すると阻

害効果が現われ,この場合はRNA合成が障害を

受け,特にDBMは50μ9/m1の小量でも効果が

(5)

明らかである.蛋白質合成の減少は薬剤が蛋白質 合成系への直接作用ではなく,DNA, RNA合成 阻害に伴って起こったものであろう.DBD 250 mg/kg投与によりラット骨髄のDNAは2日目 に60%減少するが,核酸量は3〜4日目には対照 群と同量になり可逆的である84).一方感受性吉田 肉腫では,RNA分画で著変が認められている.

またHN 2耐性吉田肉腫では,投与3日後に lipid−PとDNA−Pの両分画の増加による総リン 酸が高濃度になり,ほとんど影響がないと言え る.DBDのDNA代謝に対するオートラジオグ

ラフ法を用いた検索によると35),腫瘍細胞のG1 期からS期の細胞の一部が急速に破壊され,S期 の他の細胞では一定期間生合成が止まりG。期に 入るものと推測される.

 他の制癌剤との比較は行なっていないが,DB M投与により,吉田肉腫担癌ラットで低下して いる肝カタラーゼ活性の恢復は著明なものであ

る鋤.

 9.構造活性相関

 α,ω一置換一alkaneおよびpolyol系列における 細胞毒活性と化学構造との相関々係については,

吉田肉腫に対する効力でくわしく検討されてい る7). Dimesyl esterの細胞毒活性に匹敵する 強力な活性は,dibromo誘導体だけに認められる が,沃素置換体では阻害効果も弱く副作用も付随

している.Dibromoalkaneは不活性であり,臭素 とmesy1系列間の細胞毒活性の構造条件は類似 していないことになる.KuszmannとVargha37)

は多くの糖誘導体を合成し,1・brOlno−6・X・1,6・

dideoxy−D−mannitol(X=Cl,1, SO3CH3)にも強 い抑制効果のあることを報告している.

 Dibromohexitol関連化合物について, Insti・

t6risら6・7)は次のように述べている. (1)実験

化合物の系列ではin vitroでアルキル化能と 細胞毒効果は直接に相関々係がない.例えば DBMよりも反応性に富むdiiodomannitolは細 胞効果が見られないし,myleranよりもアルキル

化能の高いdibromobutaneやdibromohexane でも効果は得られていない.(2)糖alcoho1水 酸基の存在は臭化物の細胞毒効果として本質的な

ものである.その立体配置は臭化物とmesyl

ester系列とではちがった効果を示す33).すなわ

ちmannitol誘導体ではDBM, MM両者に活性 があるのに反し,dulcitolでは臭化物(DBD)で 効果を示し,mesylester体(dimesyl dulcitol)

では細胞効果を示さない11).

 10.作用機序

 Dibromohexito1は化学構造上アルキル化剤で あるが,生物学的にアルキル化の性質を示す確実 な証明はなされていない6・7・38 41).DBMのアル キル化能を求核試薬のthiosulfateに対する測定 で行なうと,MMのアルキル化能と同程度である が,HN 2と比較すると非常に劣るものである.

DavisとRoss42)はMMの細胞効果は弱アルカ

リ性(pH 7.5)培地中で出来た1,2:5,6−dianhydro−

D−mannitol(diepoxide)によると述べているが,

この場合は強力なアルキル化剤となり得る.化学 的見地からDavidら43)の反論もあるが, DBMや DBDも同様にepoxide形成の可能性がある.事 実JarmanとRoss44)によってin vitroでdi・

epoxideの分離がなされている.彼等は45)さらに dibrolnohexitolの作用機作を解明する目的で epoxideを合成し,これらの化合物が血液におよ ぼす動態を比較検討した.Instit6risらはin vivo におけるDBMの作用機序に, epoxide形成は重 要な役割を果すものでないと主張したが38 鋤,そ の後epoxide生成の可能性と役割を全面的には 否定し得ないという立場をとっている46).Dibro−

mohexitolで治療したラットの血清および腹水中 において,アルキル化代謝産物と共に1,2:5,6−di anhydrohexitolを見出したとも言われている26)・

 脂肪親和性の炭素一臭素結合部位と親水性の水

酸基は,あまり水に溶けないdibromohexito1の

吸収を容易にさせて細胞内への輸送を確実にして

いる.すなわちこれらの基は,核酸,蛋白質,リ

(6)

ポ蛋白質などを生体高分子の適当な極性,非極性 基に薬剤が速やかに近づくのを助けている.リボ 蛋白の膜,核蛋白,酵素により吸収された分子の 極性効果は,生体高分子の電子系に歪みをひきお こすだろう.この様な方法で,反応を引き起こす 前でも細胞機能に影響をおよぼすことが出来る.

Dibromohexitolのアルキル化作用あるいは加水 分解が強酸の放出にともなって起こる可能性につ いては,すでに項目4.で論じた.この様に一時 的なpHの変動がアルキル化あるいは生物学的に 活性な高分子系周辺の変動などをひき起こす.す なわちpHの変動は順々に起こり,アルキル化に よって起こるものと非常に良く似た高分子の電荷 の変化をひき起こしているらしい.細胞の核内お よび小器官での化合物の極性効果や臭化水素酸の 放出は,酵素の機能等に影響し,核酸合成におけ る塩基対をそこない.細胞膜の透過性を変えて細 胞毒効果に非常な寄与をすることになろう.

 そのほかdibromohexitolは生物学的アルキル 化剤であると言われてはいるが,臭素含有代謝産 物が代謝拮抗様の活性を現わす可能性もある35)と いう点に留意しなければならない.

 おわりに

 Dibromohexitolは主としてHungaryの研究 陣によって最近の10数年間に研究されて来た.そ の抗腫瘍性は臨床的にも有効性が確かめられてい る.すなわちDBMが慢性骨髄性白血病(CML)

に著効を示すことは最初Eckhardtら47)により,

また真性多血症に対する効果はSzentkl rayら48)

により見出された,そこでこの薬剤はCMLに対 して少なくともmyleranと同程度の効果を有し,

myleranおよび放射線治療耐性患者にも有効で あるという特徴を有するものである.DBDに関 してはCMLだけでなく, Hodgkin病や固型 癌にもその効果のおよぶことが確かめられてい

る13 49).これら2者の効力の差が組織への分布あ るいは蓄積の差5°)によるものなのか,さらにその 原因として血中albuminへの結合比率の差51)が 関与しているのか,あるいはその他の問題である か今のところ定かでない.動物に対する毒性が DBMよりもDBDでより強いことも,制癌スペ

クトラムの差に関係があるだろう.

 わが国でも臨床への応用がなされている現 在52〜54),未解決の作用機序が解明され,新しい癌 化学療法剤として発展することを期待したい.

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(7)

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      (Received Nov.11.1974)

参照

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