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    国際投資保証のための一考察 ︺﹂

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(1)

    国際投資保証のための一考察 ︺﹂

      横 川    新

一︑はじめに

二︑資本輸入国の投資保証制度

 1 憲法規定

 2 資本輸入国の国内法

 3 政府政策声明

 4 投資保証の実効性︵以上本号︶

三︑資本輸出国の投資保証制度︵以下次号︶

四︑外国投資の保護︵二国間レベル︶

五︑外国投資の保護︵多数国間レベル︶

六︑投資保証の問題点

   国際投資保証のための一考察O

― 71 ―

(2)

       一︑はじめに

 去る四月三〇日に発表された昭和四五年中の︑日本の低開発国に対する援助実績の報告によれば︑昭和四五年

のわが国の援助総額は︑一八億二四〇〇万ドルであり︑対前年比で四四・四%増と大幅な伸びをみた︒援助額で

もDAC︵OECD開発援助委員会︶加盟国中︑米国︑西独についで第三位となり︑GNP比も一九六九年の○・

七七%から〇・九三%へと向上した︒

 援助の内容において特に注目をひくのは直接投資の大幅な伸びで

ある︒一九七〇年の直接投資額は︑政府べースの直接投資金融と︑

民間べースの直接投資を合わせると四億八一〇万ドルとなった︒最

近五年間のわが国の直接投資額の推移は第一表の通りである︒これ

は特にわが国の海外資源開発のための直接投資活動が急激な伸びを

みせたことの反映である︒

 衆知の如く︑先進国と低開発国との間の経済格差が増大の一途を

たどっている現在︑低開発国の経済開発の加進化を行うためにも︑

外国資本に対する国際的要請が強まりつつある︒これは民間外国資

本が低開発諸国に流入する場合︑一般にこれら諸国の経済開発にと

って不可欠な資本︑経営能力︑技術等を一体として供給し︑その結

−72−

(3)

果︑雇用などの面で大きな波及効果を与えるという意味で︑きわめて有効な経済協力形態であるからである︒特

に︑日本の場合には︑経済規模が拡大するにつれて︑ますます多量の原材料︑資源を海外︑特に低開発諸国に求

めなければならない︒その際︑日本が資源保有国に投資を行い︑開発輸入を促進することは︑低開発国の資源開

発︑地域開発と︑日本の資源確保という双方の必要性を効果的に充足する手段として重要であろう︒

 しかしながら現実の国際社会には︑日本をはじめ︑先進的からの海外投資を阻害する様々な要因が存在してい

る︒例えば資本輸入国においては外国人に対し高率の税を課する財政立法の存在︑出資制限︑業種制限︑為替制

限等の投資規制法の存在︑或いは投資が国有化その他の政治的危険にさらされる可能性等があり︑外国投資家は

これらの危険性を上まわる予想利益がない限り︑低開発国への投資決定を下さない場合が多い︒

 この様な多くの阻害要因︑いねば不利な投資環境を乗り越えて︑先進国の民間資本が海外︑主として低開発国

に流れ︑低開発国の経済開発の促進剤としての機能を持つためには︑海外投資を保護する概念と制度とが︑資本

輸出国ならびに資本輸入国の政府により単独に︑或いは共同で作成され︑現実に機能されなければならない︒

 しかしながら︑多くの低開発国をめぐる国内・国際情勢が︑きわめて流動的である現在︑外国投資家にとって

投資先の低開発国の投資環境の安全性と安定性とを確実に予見すべき方法を見出すことは困難である︒その場

合︑外国投資家にとって低開発国の経済的︑政治的構造が不安定であるならば︑期待すべき唯一の方法は投資関

係国によって与えられる法的保証︵legal guarantee︶である︒関係国政府は採られるべき特定推置︑禁止措置を

定め︑外国投資家がかかる措置により損害を蒙った場合の補償措置を定める︒その結果︑外国投資家は現在及び

将来にわたって一定の法的取扱が約束され︑政治的︑経済的変動に対して保証を受けることが可能となってくる︒

−73−

(4)

 この様にして外国投資に対する法的保証は︑海外事業活動の基礎たる法的条件の予測されない変化から投資家

を保護することを目的としており︑一般には政府保証︵government guarantee︶の形態をとるものである︒投資

規準を設定し︑補償措置を規定する投資保証の必要性は︑すでに早くから認識されていたが︑その管轄をめぐる

曖昧さ︑資本輸入国の主権的要求︑資本輸出国の企業利益の追求等から︑現在に至るまで断片的なものとして存

在するのみである︒本稿においては便宜上投資保証の形態を次の如く分類し︑国内法レベルのものに関してはア

ジアの投資法を中心に検討してみたい︒

  各国の投資保証制度︵国内法レベル︶

   資本輸入国

     憲法規定

     国内法︵投資法︑外資関係法等︶

     政府政策声明

   資本輸出国

     海外投資保険制度

     その他の保証措置

  外国投資の保護︵二国間レベル︶

   通商条約

   投資保証条約

−74−

(5)

  外国投資の保護︵多数国間レベル︶

   多数国間投資保険計画

   多数国間投資紛争解決条約

   日本側の構想

       二︑資本輸入国の投資保証制度

 資本輸入国は外資導入の必要性から︑外国投資家に対し︑その投資を保証することによって︑投資環境の改善

を意図する場合が多い︒具体的には︑その国内法および憲法に財産保護規定を具体化させ︑或いは投資に関する

政府の政策を表明することによって内外にその意図を明らかにしている︒

 1 憲法規定

 タイ︑韓国︑インドネシア等の憲法には︑国家による私有財産の収用は︑公共目的︑正当な補償︑事前の補

償︑補償支払の具体的規定等の場合を除いてはこれを禁止する旨の規定が盛り込まれて居り︑一般に補償の支払

が収用の前提条件とされている︒またフィリピン︑南ベトナム等の憲法は︑何人も法律の定める正当な手続によ

らないで︑その財産を奪われることはないという︑英米法上のdue process of lawの概念が明確に規定されて

いる︒

 これらの憲法と実質的には等しいが︑意図︑表現が逆になって結果的に財産の公共性︑社会性を強調したもの

― 75 ―

(6)

としてビルマ憲法がある︒同憲法は次の如き規定をもつ︒

 二三条二項 何人も︑私有財産の権利を︑一般公衆の利益に反し使用してはならない︒

  同 四項 私有財産は公益上必項な場合には制限し︑または収用することができる︒補償は法律による︒

  同 五項 前項に規定する条件に従い︑公益上必項な場合には︑国民経済の個々の部門又は個々の企業は︑

  法律により︑国家管理又は国有にすることができる︒

 ビルマ憲法は︑この様に社会主義的色彩の強いものと言えよう︒

 しかしながら一般的には︑アジア諸国の憲法の財産権関係の規定を見る限りでは︑これらの国々が外国人投資

家の所有する財産を保護しようという傾向がうかがわれる︒国家が財産を収用する際にも︑様々な条件を付して

収用措置を限定的なものとしている場合が多い︒

 これらアジア諸国の憲法規定の中で︑財産権に対して厳しい態度をとる唯一の例外はインドである︒インド憲

法は制定当初︑財産の強制収用に関し︑第三一条二項において次の如く規定していた︒

  ﹁すべて財産を公共の目的のために取得するには︑⁝⁝その取得を承認する法律の規定に基づくことを要する

 ものとし︑かつ︑当該法律は︑その取得した財産に対し補償する旨及び補償額を定め︑並びに補償額の決定の

 方法及び交付の方法を規定するものでなければならない︒﹂

しかしながら一九五五年の第四次修正において︑同項は次の如く修正された︒

  ﹁いかなる財産も強制的に収用または徴用されてはならない︒ただし︑公共の目的のために︑かつその様に収

 用され︑または徴用される財産に対する補償を規定し︑かつ補償金額を定め︑またはそれに基づいてその補償

−76−

(7)

 が決定され︑かつ与えられる原則および方法を特定している法律による場合は︑その限りではない︒右の法律

       4 4 1 1 1 4 x 1 4 4 1 1 1 1 4 1 1 S I に対しては規定されている補償が十分でないことを理由として︑裁判所に異議の申立を行うことは出来ない︒﹂

 この結果︑補償に対する不満がある場合︑外国人を含めて被収用者は︑裁判所という司法機関を通しての救済

を求めることが︑憲法上不可能になり︑憲法は自らこの問題を司法審査の対象から排除してしまったのである︒

      ㈲ そして補償額の決定という問題を︑立法府の自由裁量に委ねた︒この結果︑インド憲法は規定上︑直接的に外国

投資家に不安感を与えたものと言えよう︒同時にインド憲法の第四次改正において次の如き第三一条二項Aの規

定が追加された︒

  ﹁ある法律が︑国もしくは国によって所有され︑もしくは支配される法人への財産の所有権または占有権の移

 転に関して規定していない場合には︑その法律は︑何人からその財産を奪っていても︑財産の強制的収用また

 は徴用に関して規定しているとみなされてはならない︒﹂

 この規定によって︑収用︑徴用の範囲がきわめて限定され︑政府が財産の取得を行う場合︑政府の補償支払義

務は︑その限定された収用︑徴用に関してのみ生じ︑その他の場合には︑政府は補償責任を持たないこととなっ

如゜

 これまでのインド政府の実際の補償態度をみた場合︑この規定が厳格に遵守されている訳ではなく︑かなり弾

力的︑かつ常識的な補償支払が行われている様である︒しかし外国人所有のものを含めて︑財産︑企業等の国有

化の場合︑補償が公正なる司法府の査定を離れ︑立法府の自由裁量に委ねられたこの様な憲法の改正規定は︑外

国投資家にとってはきわめて厳しいものであると言えよう︒それは法的にみても﹁何人も自己の関与する事件に

−77−

(8)

おいて裁判官たりえない﹂とする法原則に反し︑収用を行う当事者が︑自己立法の形で補償の金額を一方的に決

定するという点で問題がある様である︒被収用者の意見はほとんど無視されるであろうし︑また交渉あるいは裁

判による救済の余地がほとんど残されていないからであ句そして何よりも︑インド憲法のかかる規定は外国人

財産に関する限り︑﹁国際関係において︑国はその国際義務を免れるために憲法を含む国内法規を援用すること

は出来ない﹂とする国際法上確立された法原則と牴触するのである︒

 2 資本輸入国の国内法

 アジア諸国の投資法を検討した場合︑各国が外国資本に与える保証︑或いは外資導入の基本的政策はきわめて      I 多様である︒これは各国が採っている経済開発政策が︑特に外国資本との協力関係において︑それぞれ異ってい

       ㈲ るからである︒アジア諸国の投資法を実質額から分類すると次の通りである︒

  ︹自由放任型︺ 外国系企業と自国企業とを区別せず︑外資の導入に伴う工業化を進めてはいるか︑積極的な

 外資優遇策或いは具体的投資法を設定してまで外国系企業を誘致しようとする姿勢をとってはいない︒外資受

 入を規制する法令がないので︑外資の出資制限等の規制措置も︑また優遇措置もとられていないという︑外資

 に関して完全な自由政策をとっている型で︑香港が唯一つこれに概当する︒

  ︹外資協調型︺ 一般に外資導入に関する特別法を制定して外国系企業に対し︑税の減免︑利益金の本国送金

 の保証等︑様々な優遇措置を定めている型である︒この中には自由放任型に近いシンガポールから︑一定の枠

 内できわめて慎重に︑警戒的態度を持続しながら外資導入をはかるフィリピンに至るまで︑各国毎に幅広い差

― 78 ―

(9)

 が見られる︒台湾︑タイ︑マレーシア︑韓国︑インドネシア︑南ベトナム︑ラオス等の国々がこの型に入る︒

  ︹中間型︺ 政策としては外資導入を積極的に行っているが︑特別な投資法或いは投資奨励法は制定せず︑外

 同系企業も国内企業とほぼ同等に取扱い︑投資保証に対する姿勢の点で若干問題がある国々である︒ネパー

 ル︑インド︑パキスタン︑セイロン︑カンボジア等の国々がこの型をとり︑中でもインド︑セイロン︑カンボ

 ジアは外国系企業を含む国内企業の国有化政策を推進している︒

  ︹外資閉鎖型︺ ビルマは一九六二年の革命政権の出現以来︑外国資本の新規投資を一切認めず︑軍事政権の

 下で企業国有化法を制定し︑企業の接収権限を政府に与え︑外国民間資本の活動を事実上不可能なものとして

 いる︒

 以上の如く︑外国投資に対しアジア諸国が与える優遇措置︑或いは各国の投資法の内容は国によって異なって

いる︒しかしながら香港を除けば︑各国共何等かの手段によって外国資本をコントロールしようとする公約数的

な政策がうかがわれるのである︒これは︑ともすれば利潤の追求のみに走りがちな外国系企業の行動を規制し︑

外国資本が経済開発の最適分野に向けられ︑かかる投資が自国経済にとって最大の利益をもたらすことを意図し

ているからに他ならなぺ︒かかる意図を達成するために︑各国は外資法︑投資奨励法︑所得税法等を定めて外国

資本に与える優遇措置或いはその限界を明確にし︑場合によっては政府声明により外国資本に対する基本的態度

を表明するのである︒アジア諸国の外資関係法を︑その形態面から分類すると次の通りである︒

a 外資法・外資導入法を有する国

 台湾

― 79 ―

(10)

    国際投資保証のための一考祭日

  外国人投資条例︵一九五四・一九五九改正︶

  華僑の帰国投資に関する法律︵一九五五︶

  加工輸出区設置管理法︵一九六五︶

  技術合作条例︵一九六二・一九六四改正︶

 インドネシア

  外国投資法︵一九六七︶

 韓国

  外資導入法︵一九六六︶

b 外国資本・国内資本の双方を対象とする﹁投資奨励法﹂を有する国

 ビルマ

      帥  ビルマ投資法︵一九五九︶

 カンボジア

       ㈲  外資導入法︵一九五七︶

 ネパール

  産業法︵一九六一・一九六三改正︶

 フィリピン

       ㈲  投資奨励法︵一九六七︶

−80−

(11)

  産業投資奨励法︵一九六二︶

 ベトナム          I   投資法︵一九六三︶

c 特別の所得税法を有する国

 台湾

  投資奨励条例︵一九六〇・一九七〇改正︶

 マレーシア

  投資奨励法︵一九六八︶

 シンガポール

  経済拡大奨励法︵一九六七・一九七一改正︶

d 投資に関する政策声明を行っている国

 セイロン

  民間外国投資に関する政府声明︵一九六六︶

 インド

  産業政策声明︵一九四九︶

  産業政策決議︵一九五六︶

    国際投資保証のための一考察O

−81−

(12)

 パキスタン

  基本産業政策に関する声明︵一九四八︶

  対外政策に関する補足声明︵一九五四︶

 以上の如くアジア諸国は国内法︑特に投資法を制定することによって外国人投資家或いは外国系企業に対し︑

法的効力を持った保証を付与する場合が多い︒各国が与える保証の内容は様々であるが︑一般に外資導入法︑所

得税法を制定している場合には外資歓迎の政策をとり︑かつ優遇措置が多岐にわたり︑確実な場合が多い︒例え

ば台湾においては︑外国投資家の出資比率が五一%以上の企業については︑操業開始後二〇年間は国有化を行な

わないという保証を与えており︑また五〇%以下の企業の場合でも︑国防上の理由以外では国有化を行なわず︑

国有化が行なわれた場合には合理的な補償が支払われる︒国有化の実例は一件もな叫︒またこれらの国々は法人

税︑所得税免除に代表される各種の優遇措置を定めている︒シンガポールでは企業がパイオニア企業に指定され

ると︑固定資本支出額に応じて最大限五ヶ年間法人所得税が免除され︑また年間輸出額が一〇万シンガポール・

ドル以上で︑かつ全売上高の二〇%以上を輸出する企業に対しては︑一五年間にわたり輸出利益額の九〇%まで

      勁 課税対象から外される︒インドネシアは︑①法人税・配当税の最大限五年間の免除︑②経営者選任権︑③建築

権︑開発権付土地の提供︑④創業設備資材に対する輸入税の免除︑⑤外資導人に対する資本印紙税の免除等に代

表される優遇措置を外国系企業に対して与えている︒

 3 政府政策声明

― 82 ―

(13)

 民間資本の国際的移動にとって最大の障害は︑国有化による損失の不安である︒外国投資家が持つ︑かかる不

安感は民間投資の流れを阻害し︑その効率を悪化させる︒これに対処するため︑多くのアジア諸国の政府はその

領域内にある外国人財産若しくは企業所有者に対し︑または将来の投資家に対して安全を保証する措置をとって

いる︒これは一般には国内法たる投資法および憲法に財産保護規定として具体化されているが︑国によっては外

資法︑憲法が提供するものと同一の保証が︑外国投資に関する特別の政府声明を通じて与えられる場合がある︒

 インドは一九四九年四月六日︑インド連邦議会において行なった首相声明で︑﹁外国企業を強制的に取得する

場合には︑公正かつ衡平な基準に基づいて補償を支払う﹂と述べている︒また一九五九年には大蔵大臣が︑﹁イ

      叫 ンドにおける投資の安全について︑外国人投資家側に不安の余地はなかった﹂と述べている︒しかしながら一九

五六年には生命保険事業及び英国所有のコラー金鉱の国有化が行われた︒いずれの場合も補償は十分かつ公正な

       如 ものであったと思われる︒更に一九六九年には一四の商業銀行の国有化を行った︒

 パキスタンは一九五九年の産業政策に関する政府声明において︑﹁政府としては産業国有化の意図は持ってい

ない︒万一︑国有化を必要とする情勢あるいは緊急事態が生じたときは︑正当かつ妥当な補償を︑その投資国の

      帥 通貨で支払う﹂旨明らかにした︒

 カンボジアは政府声明において︑﹁いかなる企業に対しても︑一〇−三〇年間は国有化を行なわない﹂と︑繰

り返し述べている︒

 セイロンは政府声明において︑﹁外国投資家は︑徴発及びいかなる形の差別待遇からも安全である︒政府はい

かなる民間企業をも国有化する意思はない︒しかし公共の利益のためにこれを検討する必要が生じた時は︑迅

−83−

(14)

       如 速︑有効︑十分な支払をもって投資家の損害を補償する﹂と述べた︒

 この様に政府政策声明の形で投資保証を行っている国々は︑一応国有化を行う意図を有せず︑万一の場合には

十分︑有効︑迅速な補償を行う旨を明らかにしているが︑これは政権が安定している場合に限られており︑政権

の交替が国有化政策への移行を含む経済政策の改革を意味する場合が多いだけに︑これらの政策声明は法的拘束

力の上からは極めて暫定的な意味しか持ちえず︑投資保証という点からはあまり実動的な価値があるものとは思

われない︒

 一九六五年以来セナナヤケ政権の下で外国資本優遇政策を打ち出したセイロンは︑一九七〇年にバングラナイ

ケ政権に交替すると従来の経済政策を大きく変更させ︑急激な社会主義化を推進させた︒この結果︑外国系を含

      韓 めた全ての銀行︑輸人業務の国有化の行い︑茶︑ゴム園等についても政府規制を強めている︒同様な︑政権の交

替に伴う外資政策の急激な変化は︑インドネシア︑カンボジア等においても見られる︒

 要するに︑政策声明の投資保証としての実効性は当該国の政権安定の如何にかかっており︑投資保証としては

投資協定或いは投資法の中に条文化して︑契約として︑或いは法的拘束力を持ったものとして当事国を拘束させ

       醇 た方が優れていると思われる︒

 4 投資保証の実効性

 資本輸入国が外国資本の国有化から保証するという政策声明を発表したり︑国内法を制定したりした場合にお

いても︑それらの実質的効果は﹁その政権が続く限り⁝⁝一という限度での消極的保証にとどまる様である︒国

― 84 ―

(15)

内法等の投資保証が外国人投資家にもたらす実益︑実効性というものは︑結局のところ二つの要因︑すなわちそ

の保証の永続性と強行可能性にかかっていか︒この二つの要因が欠ける場合には︑たとえ投資法中に外国資本の

保証条項が規定されていようとも︑外国投資家が期待する資本の安全性は望めないことになる︒

 ︹永続性︺ これは実際にはかなり政治的要因であり︑投資保証を約束した政権が永続きするか否かの問題であ

る︒場合によっては新政権が︑旧政権の承認した投資保証義務を承継するか否かの間題でもある︒一般に︑民主

的政権交替のルールが確立していない低開発諸国においては︑政府の交替︑既存の政治的イデオロギーの改変

が︑外国人投資家に対する保証を内容とした投資法の廃止︑実質的機能停止を招く原因となる場合が多いことは

衆知の事実であろう︒また国会主権制度の下では︑立法機能に関する限りその継承国会を一般的に拘束すること

が出来ず︑外国人に権利を与えた国内法が廃止され︑法的基盤が容易に失われる危険性も大きい︒

 結局︑資本輸入国が与える投資保証は︑その領域内の外国投資を奨励或いは規制するに当って適用しようとす

る一種の誠意︵訃・︱︷y︸を表現したものであり︑それ以上の過大評価も︑或いは遂に過少評価もできないであ

ろう︒従って投資保証を与えた政権が安定を続ける限りは︑投資法の道義的再保証という形で投資保証は当該政

府の専断的行動をチェックする機能を果すであろう︒

 ︹強行可能性︺ 国内法︑特に投資法の中でどんなに精緻な形で外国投資の保護をうたっていても︑現実には︑

それに対する違反行為があった場合︑具体的にいかなる救済手段が準備されているかという点が最も重要な問題

となる︒救済手段が規定されてなければ︑実際には外国人投資家にとって利用価値がないものとなろう︒

 アジア諸国の投資法の中で︑具体的救済方法を規定したものは極めてまれであり︑また規定があっても具体的

― 85 ―

(16)

国  の  投 資 法

−86−

(17)

― 87 ―

(18)

に救済を求める場合には︑外国人投資家には更に不利な事情が存在する︒一つは︑多くの国においては国家︵主

として外国︶を相手どって︑その国の裁判所に訴訟を提起することは国際法上state lmmunity︑いわゆる主権免

除の原則によって一般には不可能であるからである︒さらに救済方法が存在していても︑外国投資家が裁判所に

対する自由な出訴権を持ち︑かつ国内裁判機構を完全に利用出来るシステムが確立されていなければ実際の役に

は立たない︒しかしながら現実の国際社会における紛争解決手続には︑外国人の取扱をめぐって国内標準主義と

国際標準主義との対立︑或いはインターハンデル事件にみられる如き国内的救済原則の厳格な履行の要請等があ

る︒したがって︑外国投資家は︑仲裁その他の救済手続が明確な形で保証されていない限り︑国内法たる投資法

そのものから投資保証を期待することは困難であると云わざるを得ない︒結局︑外国投資の保護において︑憲法

を含む国内法は限定的な機能しか持ちえない︒資本輸入国の国内法に規定されている保証によっても十分な救済

が得られない場合には︑損害を受けた投資家︵或いはその本国︶は国際法の原則に訴えて救済をはからなければな

  帥 らない︒

 以上述べたアジア諸国の投資法を要約すると第二表の通りである︒

  ∽ 昭和四六年五月一日付 日本経済新聞︒

  ㈲ 主たる投資先は次の通りである︒

    石油資源開発投資 インドネシア︑サウジ・アラビア

    液化天然ガス開発投資 プルネイ

    銅鉱山開発投資 コンゴ︑チリ︑ニューギニア

−88−

(19)

㈲ 一九六四年八月に︑米国の全国産業会議︵National Industrialc呂︷ag8りoad︸がまとめた報告書﹁海外民間

  投資の障害と誘因﹂は︑海外投資の阻害要因として次の一〇項目をあげている︒

  ︱ 為替管理︵国際収支の危機︑複数為替レートの存在︑為替管理の変動等︶

  2 外国企業・外国人に対する規制措置︵五〇%以上の持分請求︑現地人の参加強制等︶

  3 輸入困難︵高関税︑課徴金︑厳格な管理制度︑行政手続の遅延等︶

  4 法制度及び行政機構の不備︵行政管理者の腐敗行為等︶

  5 政治の不安定︵社会不安︑武装闘争等︶

  6 労働問題︵熟練労働者・技術者の不足︑雇用関係法規の不備等︶

  7 インフレーション︵運転資金の価値低下︑借入費用・賃金の上昇等︶

  8 収用と国有化︵特定産業の国有化︑社会主義経済への移行等︶

  9 税制の不備︵税率の変動︑租税条約の欠如︑差別的課税等︶

  10 その他の障害︵インフラ・ストラクチュアの不備︑現地資金供給量の不足︑価格・配当に対する政府干渉等︶

    ッー゛︸・C. B.   Obstacles and Incejitives to Private Foreign Investment。︵芯Qμ︶

㈲ 海外投資に対する阻害要因は低開発国側のみに存在するものでなく︑先進国側にも問題点がある場合がある︒例えば

  国際的二重課税の存在︑独禁法の域外適用等の間題である︒詳しくは︑ヌウォググ著 皆川・小沼・横川訳﹁海外投

  資の法的諸間題﹂︵一九六七︶三五−四一頁参照︒

㈲ A.  Fatouros。  Government Guarantees to Foreign Investors。︵芯呂︶tt・回−ぶ?

㈲ 佐藤和男編﹁国際投資の法的保護﹂︵一九六八︶一〇頁以下︒

⑦ 国会図書館編﹁各国憲法集﹂所収︒

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(20)

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......

I

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