衝撃波管を⽤いた内⽿爆傷マウスモデルの開発 検討
きむら えいこ
⽊村 栄⼦
(⽿⿐咽喉科学専攻)
防衛医科⼤学校
令和 2 年度
⽬ 次
第1章 緒⾔ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1⾴
第1節 爆傷について 1⾴
第2節 爆傷における内⽿障害 1⾴
第3節 内⽿の構造および機能 2⾴
第4節 ⼀過性閾値上昇と Synaptopathy 3⾴
第5節 内⽿爆傷モデルの問題点 5⾴
第2章 対象と⽅法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7⾴
第1節 動物 7⾴
第2節 衝撃波管 7⾴
第3節 Laser-induced shock wave (LISW) 8⾴
第4節 外⽿、中⽿の形態評価 9⾴
第5節 電気⽣理学的評価 9⾴
第6節 組織学的検討⽅法 10⾴
第1項 有⽑細胞、シナプスの染⾊⽅法 第2項 聴⽑の染⾊⽅法
第3項 周波数毎の定量評価⽅法 第4項 らせん神経節の評価⽅法
第7節 統計学的検討 13⾴
第3章 結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13⾴
第1節 衝撃波曝露後の⽣理学的変化 13⾴
第1項 ⿎膜内視鏡所⾒
第2項 聴性脳幹反応 第3項 歪成分⽿⾳響放射
第2節 衝撃波曝露後の組織学的変化 16⾴
第1項 有⽑細胞数
第2項 内有⽑細胞求⼼性神経終末のシナプス変性 第3項 らせん神経節の変化
第4項 外有⽑細胞における聴⽑の変化
第3節 衝撃波特性の解析結果 19⾴
第4章 考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・19⾴
第1節 衝撃波の特性と⿎膜穿孔 19⾴
第2節 衝撃波の特性と synaptopathy 21⾴
第3節 永久性閾値上昇の原因と聴⽑障害 23⾴
第4節 本研究における内⽿爆傷モデルの有⽤性 25⾴
第5章 結論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27⾴
謝辞 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27⾴
略語⼀覧 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28⾴
参考⽂献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28⾴
図表 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35⾴
第1章 緒⾔
第1節 爆傷について
爆傷とは爆発物への直接的および間接的曝露に起因する外傷の総称であり、⼀次爆傷か ら四次爆傷までに分類される (図 1)。⼀次爆傷は爆発で発⽣する衝撃波による外傷、⼆次 爆傷は爆発により⾶来する異物による穿通性外傷、三次外傷は爆⾵によって⾶ばされて⽣
じる鈍的外傷、四次爆傷は熱傷など⼀次から三次爆傷以外の爆発に起因する外傷と定義さ れている (1, 2)。中でも⼀次爆傷は爆傷肺、⿎膜損傷、腸管穿孔、腹腔内出⾎、眼球破 裂、軽症頭部外傷などを⽣じ、爆傷に特異的な病態を呈するため臨床上問題となることが 多く、内⽿爆傷も⼀次爆傷の影響が⼤きいとの⾒解が多い (2, 3, 4)。衝撃波とは⾳速を超 えて伝播する圧⼒波であり、爆傷における衝撃波は爆発による急激なエネルギー放射によ る周囲物質(⽔、空気)の急激な圧⼒変化から⽣じる。爆傷における典型的な衝撃波の圧波 形を図 2 に⽰す。爆傷における衝撃波は陽性波と陰性波からなり、衝撃波による⼈体への 障害強度は主に、1; 陽性波のピーク圧の強さ、2; 曝露時間、3; 爆発物の種類、4; 爆発物 からの距離 5; 閉鎖空間か開放空間か (2, 3, 5, 6) により定義されると報告されている。
第2節 爆傷における内⽿障害
爆傷の中でも⽿関連の爆傷は多く、イラク戦争においては⽿関連の爆傷が 31 %と⽣存し た爆傷の中で最多であったとの報告もある (7)。爆傷における⽿関連の障害は⿎膜損傷の 報告が代表的である (8) が、⾃然閉鎖若しくは⼿術により閉鎖可能な症例が多く、後遺症 として⻑期に残存するのは内⽿爆傷である。実際に 2011 年度におけるアメリカ退役軍⼈
の労災補償の原因疾病のうち⽿鳴は 11 %、難聴が 7 %と⽿関連の後遺症が最多であり、⽶
軍では内⽿障害が⼤きな隊員の負担および国家的な財政的負担となっていることが伺える
(9)。爆傷はテロリズムの増加により⺠間⼈でも患者を認めており、2013 年に発⽣したボ
ストンマラソン爆破事件でも約 250 ⼈の爆傷患者のうち 100 ⼈以上の⽿関連の爆傷患者を
認め、難聴、⽿鳴、聴覚過敏などの内⽿爆傷の後遺症が最多であった (10)。また、爆傷の 難聴は⼀過性難聴が多く、難聴が残存しても 10 dB から 20 dB 程度の軽度難聴が多いが、
20 ~ 70 %に⽿鳴が発症することが報告されている (10, 11, 12)。この⽿鳴や難聴は鬱や⾃
殺率との関連も⽰されており、⼤きな社会的問題である (13, 14)。現在内⽿爆傷に対する 治療は⾳響外傷に準じた副腎⽪質ステロイドの投与や⾼圧酸素治療が実施されている (10, 11)。難聴についてはステロイド投与にて約 50 %が改善を認めるが、⽿鳴についてはステ ロイド投与後でも残存率が⾼く (10, 11) 内⽿爆傷の有効な治療法は確⽴しているとは⾔
い難い。内⽿爆傷の主病態は軽度難聴と⽿鳴であり、後遺症として頻度が多く有効な治療 法がないため治療法の開発が喫緊の問題であるといえる。
第3節 内⽿の構造および機能
通常⾳は外⽿から中⽿を通過し、物理的振動エネルギーとして内⽿へ伝播される。内⽿
は蝸⽜、前庭、半規管に分けられ、⾳の振動エネルギーは蝸⽜で電気的エネルギーに変換
されて中枢へ伝播される。蝸⽜は前庭階、中央階、⿎室階の三層に分けられ、中央階に存
在するコルチ器によって⾳の振動エネルギーの変換が⾏われる (図 3a)。また、蝸⽜は螺
旋状の構造をとり、回転の頂部から頂回転、中回転、基底回転に分けられ、頂回転は低周
波数、基底回転は⾼周波数を担当する。中⽿から内⽿に到達した⾳波は内⽿内のリンパ液
へ振動として伝播し、蝸⽜内のコルチ器に到達する。コルチ器には 1 列の内有⽑細胞と 3
列に配列する外有⽑細胞が存在し、それぞれが先端に聴⽑を有している (図 3b)。聴⽑は
3 列に配列し、⾳の振動エネルギーの伝播により聴⽑が外側に変位することによって機械
的に聴⽑先端の陽イオンチャネルが解放され有⽑細胞は脱分極する。外有⽑細胞はこの受
動的な電位変化により能動的に伸縮運動を起こし、⾳のエネルギーを増幅させる役割を担
っている (15)。そのため、外有⽑細胞が完全脱落するモデルでは最⼤ 40 から 50 dB の中
等度難聴を⽰すことが知られている (16)。また、有⽑細胞はその基底板側に⼀次聴⼒神経
(らせん神経節細胞) の求⼼性神経終末を有するが、その 95 %は内有⽑細胞に結合するた め⾳の電気信号のほとんどは内有⽑細胞から伝達される (17)。脱分極した内有⽑細胞はシ ナプス⼩胞から神経伝達物質を放出するが、有⽑細胞の求⼼性神経終末は複数のシナプス
⼩胞を有する、感覚系神経細胞に特異的な構造であるシナプスリボンという構造を有し (図 3c)、脱分極に反応して迅速に⼤量の神経伝達物質であるグルタミン酸を放出すること が可能である。このグルタミン酸はシナプス後細胞の AMPA 受容体である Glutamate receptor subunit A2 (GluA2) 受容体に結合し、⾳の電気エネルギーをらせん神経および 中枢に伝達する。
第4節 ⼀過性閾値上昇と Synaptopathy
⼀般的に中⽿及び外⽿の障害による難聴を伝⾳難聴、内⽿の障害による難聴は感⾳難聴 と定義される。内⽿爆傷において⽣じる難聴は感⾳難聴であるが、爆傷受傷時に⿎膜損傷 などの中⽿及び外⽿の障害を合併すると伝⾳難聴を併発する。爆傷における内⽿爆傷及び
⿎膜損傷の頻度は多く(10, 12, 18)、伝⾳難聴の発⽣頻度は⾼い。感⾳難聴は障害後の聴⼒
閾値回復の有無によって、障害後に聴⼒検査上聴⼒が障害前のレベルに回復する⼀過性閾 値上昇 (Temporary threshold shift; TTS) 及び障害後聴⼒が障害前のレベルに回復しない 永久性閾値上昇 (Permanent threshold shift; PTS)に分類される (19)。TTS と PTS の病態 は完全には区別不能であるが、PTS はコルチ器の有⽑細胞脱落が原因として指摘されてお り (20, 21)、らせん神経節障害 (22, 23)や聴⽑障害 (24, 25) 等が関連するとの報告があ る。⼀⽅、TTS は障害後の内⽿の代謝障害 (26, 27) 等の報告があるが、昨今 TTS の原 因として synaptopathy という新しい内⽿機能障害が注⽬されている。
Synaptopathy は内有⽑細胞の求⼼性神経終末の特異的な障害である。各内有⽑細胞は 18
~ 20 個のシナプスリボンを有しているが、騒⾳等の曝露によりシナプスリボンはグルタミ
ン酸を過剰放出し細胞毒性を呈する (28, 29)。シナプス後細胞に加え、内有⽑細胞及び求
⼼性神経細胞の樹状突起にも AMPA 型グルタミン酸レセプターが存在し、過剰なグルタ ミン酸による障害を受ける。内有⽑細胞の求⼼性神経終末では細胞膜破壊及び有⽑細胞の 細胞質浮腫が⽣じ、求⼼性シナプス細胞を障害する。これらの浮腫性変化は 24 時間以内 に消失して内有⽑細胞⾃体の形態は温存されるものの、その後シナプスリボン及びシナプ ス後受容体である GluA2 受容体の脱落が⽣じる(29, 30)。また、GluA2 受容体が観察され なくなったシナプスは「orphan ribbon」と呼ばれ、シナプスリボンが存在していても機能 不全に陥る (31, 32)。シナプスリボンの減少や orphan ribbon はコルチ器において有⽑細 胞の脱落以前に⽣じることが判明しており、「synaptopathy」と呼ばれる。騒⾳性難聴の 研究では内有⽑細胞の 80 ~ 90 %のシナプスにおいて synatopathy が出現しない限り聴⼒
障害は TTS のみである。しかしながら、synaptopathy は⽿鳴や聴覚過敏などの症状と密 接に関連しており、有⽑細胞脱落やらせん神経の障害のない内⽿障害として「hidden hearing loss」と呼ばれ、昨今注⽬されている (22, 28, 29, 31) 。Synaptopathy は騒⾳性難 聴で当初発⾒された障害であるが加齢性難聴や薬剤性の難聴など種々の難聴で報告がある (31, 32, 33, 34)。特に TTS や⽿鳴が多い内⽿爆傷においては synaptopahty の関与が重要 視されている。
また、ヒトでも⼀般的に他覚的聴⼒検査で使⽤される聴性脳幹反応 (Auditory brainstem response; ABR) において蝸⽜神経核の活動電位を反映する I 波の振幅がこの
synaptopathy の程度と関連するとの報告があり (22, 23)、⼀般的に動物実験において
synaptopathy は ABR の I 波振幅で評価されることが多い。しかしながら ABR の I 波
振幅は内⽿爆傷モデルでは頻度の多い伝⾳難聴や内⽿の有⽑細胞脱落、らせん神経の障害
に影響されるために評価が難しい場合が多い。Synaptopathy の病態再現のためには中⽿障
害や有⽑細胞脱落がないモデルが理想的である。
第5節 内⽿爆傷モデルの問題点
本来であれば爆傷の模擬は爆薬を使⽤するのが理想的であるが、安全上の問題や、倫理 上の問題で爆薬が動物実験に使⽤されることは稀である。そのため爆薬に代わり圧縮空気 を⽤いて衝撃波を発⽣させる衝撃波管が爆傷研究において広く⽤いられている。衝撃波管 は空気の圧⼒変化で衝撃波が発⽣、伝播するので実際の爆傷の状況に近似しているモデル であり、⼀次爆傷の衝撃波及び三次爆傷の爆⾵の影響を受ける。しかしながら装置が⼤型 になる管理上の問題点や、エネルギーの制御性が低いという問題点を有する。現在まで報 告されている内⽿爆傷の研究においても実際の爆傷の状況に近似した衝撃波管を⽤いて⼀
次爆傷の病態を再現した報告が多い (35, 36, 37, 38)。内⽿爆傷の研究に衝撃波管を⽤いた 場合、衝撃波管モデルは実際の爆傷と同様に衝撃波及び爆⾵を全⾝曝露するために中⽿、
外⽿の曝露が不可避である。そのため、20 ~ 100 % の⿎膜穿孔を⽣じ (35, 36, 37, 38)、
中⽿機能障害による伝⾳難聴が発⽣する。伝⾳難聴は内⽿障害による感⾳難聴の検査の値 に影響して内⽿爆傷の正確な聴⼒評価が不能になるため、衝撃波管による内⽿爆傷モデル の聴⼒評価は難しいと考えられてきた。
衝撃波管による内⽿特異的な病態評価が難しいことから、我々は Laser-induced shock wave (LISW) というレーザーを⽤いた独⾃の爆傷モデルを開発、検討してきた。LISW は レーザーをターゲットに照射すると後⽅に誘起されたプラズマが膨張することにより発⽣
する衝撃波である (39)。LISW は装置が⼩型で安全で制御性が⾼く、レーザーの出⼒調整 により衝撃波の強度や範囲を変更可能である。特に内⽿爆傷の研究においては内⽿特異的 な曝露が可能であり、⿎膜穿孔や伝⾳難聴を⽣じにくい利点を有する。LISW は再現性が
⾼く、正確な内⽿機能評価が可能な感⾳難聴モデルを作成可能である (40, 41)。先⾏研究
においては 2016 年に Q-YAG レーザーを⽤いた LISW による内⽿爆傷ラットモデルの病
態解明を⾏い、内⽿爆傷の TTS における synaptopathy と軽度 PTS における外有⽑細胞の
聴⽑障害を証明した (40)。LISW は有⽤なモデルであるが衝撃波のみの曝露モデルで爆⾵
の関与がない。さらに衝撃波の伝播において空気を介さない固体衝撃波であり、流体衝撃 波である爆傷とは異なるため実際の爆傷を模擬可能かどうかは検討の余地がある。
内⽿爆傷の模擬には実際の爆傷の状況に近い衝撃波管の⽅が望ましいため、2018 年に Hickman らは衝撃波管による中⽿、外⽿曝露を最⼩限にしたチンチラ内⽿爆傷モデルを開 発し、限局的な synaptopathy と外有⽑細胞脱落を主病態として報告した。しかしながら組 織学的変化の再現性が低く治療研究の応⽤が難しいこと、有⽑細胞脱落を併発するため synaptopathy の正確な評価が難しいという⽋点を有していた (37)。衝撃波管のモデルで 有⽑細胞脱落のない、再現性の⾼い synaptopathy モデルを作成することは⾮常に困難と考 えられている。また、多くのストレインが開発され、多産で遺伝⼦改変が容易であるとい う点から今後治療実験に応⽤するのであればマウスモデルが望ましい。しかしながらマウ スは体重が少なく中⽿、内⽿も⼩さい (42) ため衝撃波の曝露に弱く、Cho らの報告した 衝撃波管による内⽿爆傷マウスモデル (36) は 100 % が⿎膜穿孔を⽣じ、⾼度の有⽑細胞 脱落を⽣じるため synaptopathy の評価が不能であった。そのため、マウスによる内⽿爆傷 synaptopathy モデルの作成は⾮常に困難と考えられている。
以上から、本研究の⽬的は、実際の爆傷の状況に近似した衝撃波管を⽤いて有⽑細胞脱
落と⿎膜損傷のない、再現性が⾼く治療研究に応⽤可能な synaptopathy マウスモデルを
作成することである。
第2章 対象と⽅法
第1節 動物
全ての実験において 4 から 6 週齢のプライエル反射正常な CBA / J 系マウス雄 (体重 17- 20 g) を使⽤し、全ての⼿技は 1 mg / kg 塩酸メデトミジンおよび 75 mg / kg ケタミ ンの筋⾁内注射にて⿇酔下に実施した。餌と⽔は⾃由に与え、飼育室の気温は 23 〜 25 ℃ に保ち、照明は 12 時間おきに点灯、消灯を繰り返した。本実験においては衝撃波管 群の陰性対照群として衝撃波曝露のない Control 群を、陽性対照群として内⽿特異的曝露 であり⿎膜穿孔と有⽑細胞脱落を⽣じない synaptopathy を呈する LISW 群を設定し、衝 撃波管群との 3 群に分けて検討を⾏った。それぞれ n = 5 のマウスに対して有⽑細胞と求
⼼性神経終末のシナプス測定、らせん神経節の評価および外有⽑細胞の聴⽑の評価を⾏
い、総計 45 匹のマウスで実験を⾏った。全てのマウスについて実験前に他覚的聴覚検査 である ABR、歪成分⽿⾳響放射 (Distortion product otoacoustic emissions ; DPOAE)を⾏
い聴⼒に異常のないことを確認した。さらに、細径内視鏡による⿎膜の観察を実施し、中
⽿、⿎膜の形態に異常のないことを確認した。衝撃波曝露 28 ⽇後には先述した⿇酔薬に よる深⿇酔下にパラホルムアルデヒドによる経⼼灌流固定及び解剖を実施した。
本実験の全ての⾏程は防衛医科⼤学校動物実験倫理委員会の承認 (承認番号 18050)を得 て、防衛医科⼤学校動物実験規則に則り実施した。
第2節 衝撃波管
今回の実験に使⽤した衝撃波管は Satoh らにより報告された軽症頭部爆傷の検討に使⽤さ
れた衝撃波管と同装置を使⽤した (43)。本衝撃波管は内径 25 mm、外径 34 mm の SUS
管でポリエステル製隔膜にて⻑さ 400 mm の⾼圧部と⻑さ 800 mm の低圧部に分離され
る、⼩型の衝撃波管である。⾼圧部内に⾼圧窒素ガスを充填した後に隔膜を穿破すると衝
撃波が発⽣し、低圧部⽅向に伝播してマウスに曝露される構造である (図 4a)。本衝撃波
管はマウスを管外に設置する開放型であり、マウスを図 4 b のように管端部斜め下に設置 し、器具で固定することにより爆⾵の影響を軽減したモデルである。マウスは低圧部管端 部から垂直距離 7.5 cm、⽔平距離 5.5 cm 離して正⾯斜め上から衝撃波の曝露を実施した (図 4b)。本衝撃波管は様々な圧⼒の設定が可能であるが、先⾏研究ではピーク圧 25 kPa の設定では脳内出⾎等の器質的外傷が⽣じないことを確認している。また、マウスにおい て重度の内⽿障害が⽰唆される、⼀般⾏動の障害や⾃発運動の低下は観察されないモデル であった (43, 44)。ピーク圧 25 kPa でマウス正⾯から衝撃波を曝露したところ⿎膜穿孔 を⽣じなかったため、同条件で⽣理学的、組織学的評価を実施した。衝撃波曝露の際、マ ウス頭部にマイクロフォン (#113B26 PCB piezotronics) を設置し、オッシロスコープ (DSO7104A Aglient technologies) を⽤いて衝撃波の圧波形を計測した。圧波形は Excel 2020 (Microsoft, Redmond, WA, USA) を⽤いてグラフ化を⾏った。
第3節 Laser-induced shock wave (LISW)
LISW は 532-nm Q-switched Nd: YAG laser (Brilliant b, Quintal; pulse width, 6
nanoseconds FWHM) を厚さ 1.0 mm の polyethylene terephthalate (PET) 製のシートに
厚さ0.5 mm の⿊⾊ゴムを貼り付けたレーザーターゲットに照射することで、ターゲット
の後⽅に発⽣する衝撃波である (図 5a, b)。今回の実験においても我々のラットの先⾏実
験と同様にマウス⽿後部⽪膚にターゲットの⿊⾊ゴムを密着させて PET 側からレーザー
を照射した (図 5c)。予備実験として先⾏実験と同じレーザー径 3.0 mm 、出⼒ 2.0 J /
cm
2、2.25 J / cm
2、2.5 J / cm
2の強度の LISW を本検討と同じ CBA / J マウスに対して曝
露し、出⼒ 2.0 J / cm
2では⾼周波数優位の軽度難聴、出⼒ 2.25 J では全周波数の 30 ~ 35
dB SPL 中等度難聴、出⼒ 2.5 J では全周波数の 60 ~ 65 dB SPL の⾼度難聴の残存を認め
た。そのため、今回は衝撃波管マウスモデルと同等の聴⼒障害を⽰す、軽度感⾳難聴モデ
ルであるレーザー径 3.0 mm、出⼒ 2.0 J / cm
2の強度を⽤いて照射した。0.25 mm 径の
fiber optic hydrophone (FOPH2000, RP Acoustics e.K) を⽔⾯下に 1.0 mm
沈めた⿊⾊ゴムの下に設置して LISW の圧波形を記録し、デジタルオッシロスコープ (DPO4104B, Tektronix; bandwidth, 1 GHz) を⽤いて圧波形の計測、解析を⾏った (39, 40)。
第4節 外⽿、中⽿の形態評価
衝撃波曝露前および曝露直後に全ての群、左右両⽿において細径内視鏡 (AVS 細径内視 鏡システム AE-C1 及びプローブ AE-E27110) を⽤いた⿎膜、外⽿、中⽿の形態観察を 実施し、⿎膜穿孔の有無や出⾎、⽿⼩⾻離断などの伝⾳難聴を来し得る中⽿損傷の有無を 確認した。
第5節 電気⽣理学的評価
本研究の電気⽣理学的評価として、聴性脳幹反応 (Auditory brainstem response; ABR) および歪成分⽿⾳響放射 (Distortion product otoacoustic emissions; DPOAE) を実施し た。ABR は⾳刺激に対して惹起される脳波を記録した代表的な他覚的聴覚検査であり、I
~ VII 波まで観察される。ABR の閾値は聴⼒閾値を反映し、蝸⽜神経核由来の I 波の振幅 は内⽿全体の活動電位を反映している。DPOAE は⾳刺激に対して内⽿から放射される⾳
響放射を記録する検査であり、⾳響放射の由来である外有⽑細胞の⾳の増幅機能を反映し
ている。本研究では衝撃波曝露前、曝露 1 ⽇、 7 ⽇、14 ⽇、28 ⽇後に周波数 5.66
kHz、8.00 kHz、11.33 kHz、16.00 kHz、22.65 kHz、32.00 kHz の周波数帯での ABR の
閾値、ABR の I 波振幅、および DPOAE の閾値測定を実施した。ABR 及び DPOAE 測
定時はマウスを⼩型防⾳室に⼊れて測定し、刺激⾳は⼩型イヤフォン (CDMG15008-
03A, CUI) より出⼒され、イヤフォン付近に設置された⼩型マイクロフォンを通じてマウ
ス⿎膜付近の⾳圧レベルを測定した (45, 46)。ABR 測定時には 5 ms 幅のトーンバース
ト刺激を 30 回 /
秒でサウンドジェネレータから出⼒し、20 dB Sound pressure level(SPL) から 80 dB SPL まで 5 dB SPL ステップで⾳圧を増幅した。脳波記録⽤のステンレ ススチール製針電極を測定⽿側外⽿道下⽅、前頭部の⽪下にそれぞれ挿⼊し、アース電極 を尾部の⽪下に挿⼊して脳波を測定し、512 回の刺激から得られた波形の加算平均を ABR の波形とした。ABR 波形はソフトウェアから出⼒される時間 / 振幅データを Excel 2020 (Microsoft, Redmond, WA, USA) でグラフ化し、閾値は I 波が観察される最⼩の⾳圧と 規定した。ABR I 波振幅は各周波数の 80 dB SPL
刺激時のABR 波形の I 波の陰性波の 振幅とした。80 dB SPL で ABR 波形が観察されない場合は聴⼒閾値を 85 dB SPL、I 波 の振幅は 0 µV として評価を⾏った。DPOAE 測定時は⼊⼒信号 (primary tone) における f2 を前述の ABR の測定周波数と同じ周波数に設定し、全ての周波数で f2 / f1 = 1.2 とし た。⾳圧レベルは f1 = f2 + 10 dB SPL と設定し、f2 を 20 dB SPL から 80 dB SPL まで 5 dB SPL ステップで増幅した。発⽣した⾳響放射は ABR と同システム付属のマイクロフ ォンで測定後⾼速フーリエ変換され、2f1 ‒ f2 周波数帯の出⼒信号がノイズレベルを上回 った最初の周波数を DPOAE の閾値とした (46)。
第6節 組織学的検討⽅法
第1項 有⽑細胞、シナプスの染⾊⽅法
蝸⽜の病理学的検討は 28 ⽇後の ABR, DPOAE を実施後に⾏った。冷却した乳酸化リン ゲル液 0.5ml / g で駆⾎後、4 % パラホルムアルデヒド 1 ml / g にて経⼼灌流を⾏った。
断頭後蝸⽜を摘出し、卵円窓、正円窓、蝸⽜頂回転を開窓して蝸⽜内にも直接灌流し、4 ℃
で 24 時間後固定を⾏った。 固定後、 0.5 mol / l EDTA 液にて 4 ⽇間振盪して脱灰を⾏った。
脱灰後の蝸⽜は 4 分割し、whole mount の状態で免疫染⾊を⾏った。有⽑細胞の評価は
myosin 7a
抗体、シナプスリボンの評価はC-terminal binding protein (CtBP2)
抗体、シナプスリボンのシナプス後受容体である GluA2 受容体は Glutamine receptor 2 (GluR2)
抗体による免疫染⾊を使⽤した。ドライアイス上で蝸⽜の各ピースを 10 分間凍結した後、
0.3% Triton X ‒ 100 を添加した 5% normal horse serum にて 1 時間室温でブロッキングを
⾏った。1) mouse (IgG1) anti-CtBP2 を 1:200 (#612044, BD Transduction Labs)、2) mouse (IgG2a) anti-glutamine receptor 2 (GluR2) を 1:2000 (#MAB397, Millipore)、 3) rabbit anti- myosin 7a を 1:200 (#25-6790 Proteus Biosciences)を⼀次抗体として 37℃で⼀晩反応させ た。⼀次抗体終了後に PBS で 3 回洗浄し、1) Alexa Fluor 488-conjugated goat anti-mouse (IgG2a) を 1: 500 (#A21131, Life Technologies)、2) Alexa Fluor 568-conjugated goat anti- mouse (IgG1) を 1:1000 (#A21124, Life T echnologies)、3) Alexa
Fluor647-conjugated chicken anti-rabbit を 1:200 (#A21443, Life Technologies)を⼆次抗体として 37℃で 2 時間 反応させた。⼀次抗体、⼆次抗体は 0.3% Triton X ‒ 100 を添加した 1% normal horse serum に
溶解した。染⾊後は ⽔溶 性封⼊ 剤 (Dako ultramount aqueous permanent mounting medium, #S1964, Dako, USA)で封⼊した (37, 46)。
第2項 聴⽑の染⾊⽅法
有⽑細胞、シナプスの評価⽅法と同様に蝸⽜の固定、 摘出、 脱灰を⾏い、 脱灰後の蝸⽜は
5 分割し、whole mount の状態で免疫染⾊を⾏った。 ドライアイス上で蝸⽜の各ピースを 10
分間凍結した後、0.3% Triton X ‒ 100 を添加した 5% normal donkey serum にて 2 時間室
温でブロッキングを⾏い、rabbit anti-espin 1 : 100 (ESPN, Sigma #MAB397) を⼀次抗
体として 37℃で⼀晩反応させた。⼀次抗体終了後に PBS で 3 回洗浄し、 biotinylated donkey
anti-rabbit F AB fragment 1:400 (Jackson ImmunoResearch #711-067-003)を⼆次抗体として
37℃で 2 時間反応させた。⼆次抗体終了後も PBS で 3 回洗浄し、streptavidin-conjugated
Alexa Flour 568 1:200 (Jackson ImmunoResearch #S-11226)を三次抗体として室温で 1 時
間反応させた。 全ての抗体は 0.3 % Triton X ‒ 100 を添加した 1 % normal donkey serum
に溶解した (37)。染⾊後は⽔溶性封⼊剤 (Dako ultramount aqueous permanent mounting
medium, #S1964, Dako, USA)で封⼊した。
第3項 周波数毎の定量評価⽅法
分割した蝸⽜の全体像を蛍光顕微鏡(BZ-X 710, Keyence, Japan)を⽤いて 10
倍で撮影し、Image J software のプラグインを⽤いて(measure line; NIH, Bethesda, MD, USA, http://www.masseyeandear.org/research/ otolaryngology/investigators/laboratories/eaton- peabody-laboratories/epl-histology-resources/) 蝸⽜の全⻑からの割合を計算して蝸⽜の frequency map を作成した。作成した frequency map に基づいて 5.6 kHz、8.0 kHz、11.3 kHz、16.0 kHz、22.6 kHz、32.0 kHz の周波数担当領域を決定した。決定した各周波数帯 から 200 µm 毎に蛍光顕微鏡(BZ-X 710, Keyence, Japan)を⽤いて 60
倍で撮影し、有⽑細胞の数、形態の観察および内有⽑細胞神経終末のシナプスのカウントを⾏った。シナプ スについては内有⽑細胞毎の平均値で、orphan ribbon については 200 µm 間のシナプス リボン数における割合をパーセンテージで評価した。外有⽑細胞における聴⽑の形態を共
焦点レーザー顕微鏡(TCS SP8 confocal microscopy, Leica, Germany)を⽤いて60
倍で 撮影し、決定した各周波数帯から 100 µm毎に聴⽑障害のある細胞を評価し、50 外有⽑細 胞数毎の障害を認める細胞として平均化して評価を⾏った。
第4項 らせん神経節の評価⽅法
有⽑細胞、シナプスの評価⽅法と同様に蝸⽜の固定、摘出、脱灰を⾏い、30 % スクロー ス液に 2 ⽇間浸漬後 OCT に包埋し、 液体窒素で固化した。 蝸⽜軸に並⾏に 12 µm の凍結
切⽚を作成し、ヘマトキシリン・エオジン染⾊を⾏い、60倍で撮影を⾏なった(BZ-X 710, Keyence,Japan) 。らせん神経節は蝸⽜軸全体が観察され、 頂回転、中回転、 基底回転のらせ ん神経節が全て観察される切⽚においてそれぞれのらせん神経節の細胞数、形態の評価を
⾏った。
第7節 統計学的検討
統計学的検討は Prism 7 software® (GraphPad software, Inc, La Jolla, CA, USA) を使⽤
し、全ての電気⽣理学的変化および組織学的変化における値の検定には one-way ANOVA 法を⽤い、post hoc 検定として Turkey 法を⽤いた。
p<0.05 を統計学的有意と判断し、
全ての図、表のエラーバーは標準誤差 (SE)を⽰す。
第3章 結果
第1節 衝撃波曝露後の⽣理学的変化 第1項 ⿎膜内視鏡所⾒
曝露直後の衝撃波管群の細径内視鏡による⿎膜所⾒を図 6 に⽰す。衝撃波管群において も LISW 群と同様に全ての個体で衝撃波曝露後の⿎膜穿孔や⽿⼩⾻離断、出⾎等の外⽿、
中⽿の障害を認めなかった。
第2項 聴性脳幹反応 (Auditory brainstem response; ABR)
曝露前後における ABR 閾値を表 1 に、閾値の変化を図 7 a, b に⽰す。衝撃波管群では 曝露 1 ⽇後に全周波数で有意な閾値上昇がみられた。各周波数では 1 ⽇後は曝露前に⽐
べ、平均値において
5.66 kHz で 30 dB SPL (
p= 0.244)、 8.00 kHz で 39 dB SPL (
p= 0.0089)、 11.33 kHz で 35 dB SPL (
p= 0.0438)、 16.00 kHz で 26 dB SPL (
p= 0.0123)、 22.65 kHz で 18 dB SPL (
p= 0.0131)、 32.00 kHz で 25 dB SPL
(
p < 0.001) の閾値の上昇を認めた。ABR閾値は曝露 7 ⽇後より徐々に回復し、各周波数
では 28 ⽇後は曝露前に⽐べ、平均値で 5.66 kHz で 19 dB SPL (
p= 0.2109)、 8.00 kHz
で 23dB SPL (
p= 0.1655)、11.33 kHz で 27 dB SPL (
p= 0.1481)、16.00 kHz で 13 dB
SPL (
p= 0.3136)、22.65 kHz で 8 dB SPL (
p= 0.4182)、32.00 kHz で 9 dB SPL
(
p= 0.1839) の閾値上昇を認めた。28 ⽇後に ABR 閾値上昇が残存して低周波数優位に軽 度 PTS を認める個体がみられたが、ABR 閾値は回復して TTS を⽰す個体も多く、曝露前 と統計学的には有意差を認めなかった。
LISW 群では曝露 1 ⽇後に 11.33 kHz、16.00 kHz 以外の周波数で有意な閾値上昇がみ られた。各周波数では曝露前に⽐べ、5.66 kHz で 20 dB SPL (
p= 0.0325)、 8.00 kHz で 16 dB SPL (
p= 0.0358)、11.33 kHz で 19 dB SPL (
p= 0.0517)、16.00 kHz で 17 dB SPL (
p= 0.1469)、22.65 kHz で 23 dB SPL (
p= 0.0002)、32.00 kHz で 27 dB SPL
(
p= 0.0009) の閾値の上昇を認めた。ABR 閾値は曝露 7 ⽇後より徐々に回復し、各周波 数では 28 ⽇後は曝露前に⽐べ、平均値で 5.66 kHz で 5 dB SPL (
p= 0.8837)、 8.00 kHz で 2 dB SPL (
p= 0.9896)、11.33 kHz で 5 dB SPL (
p= 0.8936)、16.00 kHz で 9 dB SPL (
p= 0.6401)、22.65 kHz で 20 dB SPL (
p= 0.0010)、32.00 kHz で 18 dB SPL
(
p= 0.0316) の閾値上昇を認めた。5.66 kHz から 16.00 kHz にかけては 曝露 28 ⽇後には 曝露前と有意差を認めないレベルまで閾値の回復がみられ TTS を⽰したが、22.65 kHz, 32.00 kHz の⾼周波数帯では曝露 28 ⽇後に統計学的に有意な閾値上昇が残存し、PTS を
⽰した。
ABR 閾値は曝露 1 ⽇後に著明な閾値上昇を認めるが 28 ⽇後まで回復傾向であり、衝撃 波管群では低周波数優位に TTS と軽度 PTS を、LISW 群では⾼周波数優位に軽度 PTS を 認めた。
曝露前後における ABR I 波振幅を表 2 に、振幅の変化を図 7 c, d に⽰す。衝撃波管群で は曝露 1 ⽇後に全ての周波数において曝露前に⽐べて有意な振幅低下がみられ (5.66 kHz:
p
= 0.0042 / 8.00 kHz:
p= 0.0078 / 11.33 kHz:
p= 0.0002 / 16.00 kHz:
p= 0.0006 /
22.65 kHz:
p= 0.0018 / 32.00 kHz:
p= 0.0334)、曝露 28 ⽇後も 5.66 kHz, 11.33 kHz,
16.00 kHz, 22.65 kHz, 32.00 kHz で有意な振幅の低下が残存した (5.66 kHz:
p= 0.0196 /
11.33 kHz:
p= 0.0066 / 16.00 kHz:
p= 0.0104 / 22.65 kHz:
p= 0.0158 / 32.00 kHz:
p
= 0.0157)。8.0 kHz では曝露 14 ⽇後の時点では曝露前に⽐べ有意に低下を認めた (
p= 0.0066) が、28 ⽇後では回復を認める個体もあり、振幅の平均値は曝露前と有意差を 認めなくなった (
p= 0.0528)。
LISW 群では曝露 1 ⽇後 に 16.00 kHz、22.65 kHz 及び 32.00 kHz において曝露前に⽐
べて有意な振幅低下を認めた (16.00 kHz: p
= 0.0180 / 22.65 kHz:
p < 0.0001 / 32.00 kHz:p
= 0.0017)。5.66 kHz, 8.00 kHz, 11.33 kHz では曝露後有意な振幅の低下はみられなかっ た。16.00 kHz の振幅は徐々に回復傾向で 28 ⽇後では曝露前と有意差がみられなくなった (
p= 0.1384) が、22.65 kHz, 32.00 kHz では回復傾向に乏しく曝露後 28 ⽇まで曝露前に
⽐べて有意に振幅の低下を認めた (22.65 kHz: p
= 0.0002、32.00 kHz:
p= 0.0148)。
衝撃波管群、LISW 群の両群において ABR I 波振幅は ABR 閾値に⽐べ曝露後の回復が
乏しく、衝撃波管群では全周波数でABR I 波振幅の低下を認め、LISW 群では⾼周波数帯 で ABR I 波振幅の低下を認めた。
第3項 歪成分⽿⾳響放射 (Distortion product otoacoustic emissions ; DPOAE) 曝露前後における DPOAE 閾値を表 3 に、閾値の変化を図 8 に⽰す。衝撃波管群では 曝露 1 ⽇後に曝露前に⽐べて 11.33 kHz で 12 dB SPL (
p= 0.4733)、16.00 kHz で 18 dB SPL (
p =0.1498)、22.65 kHz で 14 dB SPL (
p =0.3964)、32.00 kHz で 8 dB SPL の閾値 の平均値上昇を認めたがいずれも統計学的に有意差を認めなかった。曝露後 28 ⽇後にお いても全周波数において曝露前後で有意な DPOAE 閾値の上昇を認めなかった。
LISW 群では曝露 1 ⽇後に曝露前に⽐べて 11.33 kHz で 10 dB SPL (
p= 0.3630)、
16.00 kHz で 15 dB SPL (p = 0.1341)、22.65 kHz で 26 dB SPL (
p= 0.0800)、32.00 kHz
で 18 dB SPL (
p= 0.1944)の閾値の平均値上昇を認めたが、いずれも統計学的に有意差を
認めなかった。曝露後 28 ⽇では 22.65 kHz のみで曝露前に⽐べて 18 dB SPL の DPOAE
閾値の上昇が残存し、統計学的に有意差を認めた (
p= 0.0040)。
第2節 衝撃波曝露後の組織学的変化 第1項 有⽑細胞数
Myosin 7a
抗体により内外有⽑細胞の細胞質を、CtBP2 抗体により内有⽑細胞の核を染⾊した蛍光免疫染⾊像 (a) および 200 µm あたりの内外有⽑細胞数 (b) の定量結果を 図 9 に⽰す。衝撃波管群においても LISW 群と同様に内外有⽑細胞の脱落を認めなかっ た。内外有⽑細胞数の詳細と標準誤差を表 4 に⽰すが、内有⽑細胞、外有⽑細胞ともに衝 撃波管群は LISW 群、Control に⽐べて有⽑細胞の有意な減少を認めなかった。本衝撃波 管モデルは LISW モデルと同様に有⽑細胞脱落を認めないモデルであった。
第2項 内有⽑細胞求⼼性神経終末のシナプス変性
各群における、内有⽑細胞の myosin 7a
抗体およびCtBP2
抗体による蛍光免疫染⾊拡⼤像 (a ‒ f)、内有⽑細胞の求⼼性神経終末の CtBP2
抗体およびGluR2
抗体による蛍光免 疫染⾊拡⼤像 (h, i) について図 10に⽰す。内有⽑細胞の蛍光免疫染⾊拡⼤像では CtBP2
抗体で染⾊される、求⼼性神経終末のシナプスリボンの減少が衝撃波曝露後でみられ、LISW 群のみでなく衝撃波管群においても減少が確認された。また、求⼼性神経終末の拡
⼤像では⼀部の神経終末において GluR2
抗体で染⾊される、シナプス後受容体であるGluA2 受容体のみの⽋損を認める、orphan ribbon の出現が両群で観察された。
これらのシナプス変性を定量化し、中央値と標準誤差を表 5 に、内有⽑細胞毎のシナプ スリボン数および求⼼性神経終末のシナプスにおける orphan ribbon の割合を図 11 (a: 3 群間のシナプスリボン数の⽐較 / b: 3 群間の orphan ribbon 出現率の⽐較) に⽰す。
衝撃波管群、LISW 群ともにシナプスリボンの減少がみられた。衝撃波管群では全ての
周波数で統計学的に有意なシナプスリボンの減少がみられた (5.6 kHz:
p= 0.0006,
8.0 kHz:
p= 0.0148, 11.3 kHz, 16.0 kHz, 22.6 kHz, 32.0 kHz:
p < 0.0001)。衝撃波管群のシナプスリボン数を周波数毎に⽐較しても有意差はみられず (
p= 0.8685)、全周波数で⼀様
に低下が観察された。LISW 群では 5.6 kHz では Control に⽐べ有意な ribbon の減少はみ られなかったが、8.0 kHz, 11.3 kHz, 16.0 kHz, 22.6 kHz, 32.0 kHz (全て
p< 0.0001) で Control に⽐べて有意に減少した。5.6 kHz のシナプスリボン数は 32.0 kHz に⽐べて有意 に多い (
p= 0.0001) 結果であり、⾼周波数の⽅がより強い減少傾向がみられた。
衝撃波管群、LISW 群のシナプスリボン数を⽐較すると 5.6 kHz (
p= 0.0171), 8.0 k Hz (
p= 0.0222), 11.3 kHz (
p= 0.0324)では衝撃波管群 が LISW 群に⽐べて有意にシナプス リボン数の減少を認めるが、16.0 kHz (
p= 0.167)、 22.6 kHz (
p= 0.9003)では衝撃波管 群と LISW 群の間で有意な減少の差は認めず、32.0 kHz (
p= 0.0302) では LISW 群が衝撃 波管群と⽐較して有意にシナプスリボン数の減少を認めた。
衝撃波管群では 5.6 kHz (
p= 0.0052)、8.0 kHz (
p= 0.0046)、11.3 kHz (
p= 0.0162)、
16.0 kHz (
p= 0.0367)、22.6 kHz (
p= 0.0061) で Control 群に⽐べて有意な orphan ribbon の増加を認めた。32.0 kHz では統計学的有意差はないものの、衝撃波管群では Control 群に⽐べて orphan ribbon の増加傾向を認めた (
p= 0.0514)。LISW 群では Control 群に⽐べて 32.0 kHz で orphan ribbon が多い傾向にあるものの (
p= 0.0897)、統 計学的な有意差を認めなかった。
また、シナプスリボンの減少率を各群の周波数毎に検討すると、衝撃波管群で 5.6 kHz:
31.9 % / 8.0 kHz: 45.8 % / 11.3 kHz 56.1 % / 16.0 kHz: 57.0 % / 22.6 kHz: 51.1 % / 32.0 kHz: 57.6 %、LISW 群では 5.6 kHz: 14.9 % / 8.0 kHz 27.6 % / 11.3 kHz 45.5 % / 16.0 kHz: 42.7 % / 22.6 kHz: 49.4 % / 32.0 kHz: 69.8 % であり、いずれの群、周波数帯で も 70 % を超える減少はみられなかった。
第3項 らせん神経節の変化
らせん神経節の形態および各群の定量結果を図 12 に⽰す。衝撃波管群と Control 群の
⽐較では、頂回転で
3.6 個 (
p= 0.6463) 減少、中回転で 3.2 個 (
p= 0.8020) 減少、基底
回転で 2.2 個 (
p= 0.6818) 減少を認め、LISW 群と Control 群の⽐較では、頂回転で 2.6 個 (
p= 0.7869) 減少、中回転で 2.8 個 (
p= 0.8426) 増加、基底回転で 4.8 個 (
p= 0.2327) 減少を認めたが、らせん神経節は曝露後 28 ⽇⽬では衝撃波管、 LISW
両群でControl 群に⽐べて統計学的に有意な減少や細胞の形態変化を認めなかった。
第4項 外有⽑細胞における聴⽑の変化
Espin
抗体にて外有⽑細胞頂部の聴⽑を染⾊した、蛍光免疫染⾊拡⼤像および障害された聴⽑の定量結果を図 13、各群の中央値および標準誤差を表 6 に⽰す。内外有⽑細胞の 細胞質を染⾊する myosin 7a
免疫染⾊においては外有⽑細胞数の脱落を認めなかったものの、外有⽑細胞頂部に存在する聴⽑を染⾊する espin
免疫染⾊像においては聴⽑のみの障害が観察された。⻘⽮印に⽰す聴⽑が⼀部および全部外側に変位を認めたり、⻩⾊⽮印に
⽰す聴⽑が途切れたり、⽩⽮印のように聴⽑のみが消失する外有⽑細胞が観察された。こ れらの障害された聴⽑を周波数毎に定量評価すると、5.6 kHz、8.0 kHz、11.3 kHz では Control 群においても同様の聴⽑障害が観察されるが、8.0 kHz、11.3 kHz では衝撃波管群 において聴⽑障害を認める外有⽑細胞数が Control 群と⽐較して 8.0 kHz: 2.61 個 (
p= 0.7605)、11.3 kHz: 2.49 個 (
p= 0.5140) 増加していた。16.0 kHz より⾼周波数帯では Control 群において聴⽑障害を認める外有⽑細胞はほぼ観察されなくなるが、LISW 群にお いて聴⽑障害を認める外有⽑細胞数が Control 群と⽐較して 16.0 kHz: 2.15 個 (
p= 0.4702)、22.6 kHz: 2.45 個 (
p= 0.2021)、32.0 kHz: 2.22 個 (
p= 0.2013)の増加を認め た。統計学的な有意差は認めなかったが、衝撃波管群では低周波数帯で、LISW 群では⾼
周波数帯で外有⽑細胞の聴⽑障害がみられる傾向であった。
第3節 衝撃波特性の解析結果
衝撃波管及び LISW の発⽣する衝撃波をオッシロスコープで測定した圧⼒波形および⾼
速フーリエ変換による周波数解析の結果を図 14 に⽰す。衝撃波管の陽性波のピーク圧は 25 kPa、陽性波の曝露時間は 160 µ 秒、LISW の陽性波のピーク圧は 91.3 MPa、陽性波の 曝露時間は 1.1 µ 秒であった。また、衝撃波管の RMS 振幅の中⼼周波数は 976.5 Hz、周 波数幅は 10 kHz までであった。⼀⽅、 LISW では RMS 振幅の中⼼周波数は 1 kHz およ び 448 kHz の⼆峰性で周波数幅は 10000 kHz まで認められた。
第4章 考察
第1節 衝撃波の特性と⿎膜穿孔
爆傷の⿎膜損傷は外⽿道経由の⼀次爆傷の衝撃波および三次爆傷の爆⾵が関与し、衝撃 波のピーク圧が主に関係するとの報告が多いが (35, 36, 47, 48)、ヒトの爆傷における⿎膜 穿孔は 8% ~ 65% (10, 12, 18, 36) とばらつきを認め、ピーク圧や爆⾵以外の要因も⽰唆さ れる。本衝撃波管は単回曝露であるが、複数回曝露を⾏うと⿎膜穿孔率が上昇するという 報告もある (12, 35, 47)。本実験では衝撃波管群および LISW 群いずれのモデルでも⿎膜 穿孔を認めなかった。LISW は頭蓋⾻経由の⾻導の衝撃波のみの曝露であり、かつ爆⾵の 影響を受けない純粋な⼀次爆傷のモデルである。そのため LISW ではマウスモデルにおい ても⿎膜穿孔を認めなかったと考察可能である。⼀⽅、本衝撃波管モデルは頭蓋⾻経由の
⾻導の衝撃波曝露に加え、外⽿道経由の衝撃波及び爆⾵の曝露が認められるモデルであ
る。本衝撃波管モデルが⿎膜穿孔を⽣じなかった⼀因として、爆⾵の影響を軽減したモデ
ルであることが考察される。しかしながら、中⽿、外⽿爆傷は衝撃波による影響が⼤きい
(1, 2, 4) ことを考慮して本衝撃波管の衝撃波特性を従来の衝撃波管と⽐較し、爆傷におけ
る⿎膜穿孔に影響する因⼦について考察した。
緒⾔でも述べた通り衝撃波の⽣体に与える影響は陽性波のピーク圧や曝露時間に影響さ れる。実際の IED の典型的圧⼒特性はピーク圧 100 ~ 3000 kPa、陽性波の曝露時間 250 ~ 700 µ 秒 (49) である。ヒト cadaver を⽤いた報告ではピーク圧 55 kPa と低圧で⿎膜穿孔 を⽣じたという報告があり (48)、爆傷における⿎膜穿孔のリスクは⾼い。本研究では⼩型 の衝撃波管を⽤いてピーク圧を 25 kPa と低く設定し、陽性波の曝露時間が 160 µ 秒とヒト の IED の爆傷に⽐べ曝露時間も短いモデルに設定可能であった。内⽿爆傷の衝撃波管を⽤
いた研究において圧波形を渉猟し得た研究の衝撃波特性および動物種、⿎膜穿孔率を⽐較 すると、Hickman らのチンチラモデルはピーク圧 11.9 kPa、陽性波の曝露時間 1.44 m
秒、⿎膜穿孔率 20 % (37)、Cho らのマウスモデルはピーク圧101 kPa、陽性波の曝露時 間 2.24 m
秒、⿎膜穿孔率 100 % (36)、Ewert らのラットモデルはピーク圧 96 kPa、陽性波の曝露時間 1.0 m
秒、⿎膜穿孔率0 %であった (35)。本研究の衝撃波管を他の研究と
⽐較すると、Hickman らのチンチラモデルは本研究の衝撃波管よりピーク圧が低いもの
の、陽性波の曝露時間が⻑いため本研究よりも⿎膜穿孔率が⾼い。また、Ewert らのラッ トモデルと Cho らのマウスモデルを⽐較すると、ほぼ同等のピーク圧を有するが⿎膜穿孔 率に⼤きく差異があり、マウスでは⿎膜穿孔が⽣じやすい。従って、爆傷の⿎膜穿孔には 外⽿道経由の衝撃波及び爆⾵が関与し、動物種、衝撃波のピーク圧、陽性波の曝露時間、
曝露回数が関与すると考えられる。また、緒⾔でも述べた通り、正確な内⽿機能評価には
⿎膜穿孔の⽣じないモデルが必須条件である。本衝撃波管モデルにおいては低いピーク圧 と短い曝露時間を⽰す衝撃波の単回曝露により、⿎膜穿孔の⽣じやすいマウスにおいても
⿎膜穿孔が⽣じず、正確な内⽿機能評価が可能なモデルが作成可能であったと考えられ
る。
第2節 衝撃波の特性と synaptopathy
今回の研究では衝撃波の全⾝曝露である衝撃波管群および内⽿特異的曝露である LISW 群共に有⽑細胞の脱落前にシナプスリボンの減少や orphan ribbon の出現を認めた。今回 衝撃波管群においては⿎膜、中⽿障害を認めず、さらに組織学的に LISW と同部位の障害 を認めた。従って、本衝撃波管モデルにおける衝撃波の中⽿曝露は内⽿障害に影響を与え ていないと考えられる。
本検討において LISW 群は 2016 年の先⾏研究によるラット synaptopathy モデル (40) と同様の、有⽑細胞脱落を⽣じない⾼周波数優位の synaptopathy 及び ABR I 波振幅低下 を統計学的有意に⽣じた。LISW は動物種及び実験者が異なっても同様の結果を得ること ができ、再現性の⾼い衝撃波モデルであると考えられる。LISW とは異なり、代表的な爆 傷モデルである衝撃波管による内⽿爆傷モデルでは、有⽑細胞脱落を⽣じない軽度障害レ ベルの synaptopathy モデルは作成が困難である (35, 36, 38, 47)。2018 年に Hickman ら は衝撃波管を⽤いて有⽑細胞脱落を最⼩限にした希少な synaptopathy チンチラモデルを作 成した (37)。しかしながら、⽣理学的検討においては ABR の閾値及び I 波振幅の測定が 不可能であり、DPOAE の閾値も約 10 dB ~ 70 dB までの⼤きなばらつきを認め、統計学 的な聴⼒評価は不可能であった。病理学的検討においても有意なシナプスリボンの減少を
⽣じたのは n = 12 のうち 4 例のみであり、有意な orphan ribbon の増加を認めた個体は
存在せず、周波数毎の統計学的検討は困難であった。⼀⽅、本検討における衝撃波管モデ
ルは DPOAE 及び ABR の閾値において統計学的有意差を⽣じなかったものの、ABR I 波
振幅においては全ての個体で曝露前より低下を認め、8.0 kHz を除く全ての周波数で統計
学的に有意な振幅低下が確認された。組織学的にも有意な有⽑細胞脱落を認めないモデル
でありながら、全てのマウスで全周波数においてシナプスリボンの低下を認め、統計学的
に有意なシナプスリボンの減少が観察された。orphan ribbon についてはばらつきを認め
て有意な増加を認めない個体もあったが、全体としては 32.0 kHz 以外の全周波数で統計学
的に有意な orphan ribbon の増加を認めた。以上より、本衝撃波管モデルはばらつきが⼤
きく統計学的検討が困難であった従来の衝撃波管 synaptopathy モデルに⽐べ、⽣理学的、
組織学的結果の統計学的検討が可能であり、synaptopathy の評価に重要である ABR I 波 振幅及び組織学的結果に有意差を認め、再現性の⾼いモデルであると考えられる。我々は 今回の衝撃波管 synaptopathy モデルの再現性の⾼さは衝撃波特性によると考え、他研究の 衝撃波管 synaptopathy モデルの報告と本実験の衝撃波管の衝撃波特性を⽐較した。本研究 の衝撃波の特性はピーク圧 25 kPa、陽性波の曝露時間 160 µ 秒、曝露回数 1 回であった が、Hickman らによる内⽿爆傷チンチラモデルでは、ピーク圧 3 kPa、陽性波の曝露時間 1.44 m
秒、曝露回数 10 回 (37)、Du らのモデルでは (47)ピーク圧 96 kPa、陽性波の曝 露時間 1.0 m
秒、曝露回数3 回であった。本実験では衝撃波の単回曝露が可能な衝撃波管 モデルであったが、他研究の synaptopathy モデルでは⿎膜穿孔率を下げるために衝撃波の ピーク圧を下げ、エネルギー調整のために複数回曝露を⾏っている。しかしながら、実際 の爆傷において Hickman らの報告のように 10 回曝露する状況は考えにくい。さらに、
Hickman らにより報告された synaptopnathy は⾮常に限局的であり、発⽣周波数にもばら つきが⼤きく ABR I 波振幅の低下と synaptopathy が関連を認めなかった。また、Ewert らのモデルでは外有⽑細胞の最⼤ 60 % の脱落を認め、ABR の I 波振幅が評価不能であ った。従来の衝撃波管を⽤いた synaptopathy モデルにおいては⽣理学的な評価が不能で あったといえる。本実験の衝撃波管モデルは実際の爆傷の状況により近い単回曝露のモデ ルで再現性の⾼い、有⽑細胞脱落のない Synaptopathy モデルを作成可能であったと考え られた。
Synaptopathy は内⽿爆傷における TTS や⽿鳴の重要な⼀因と考えられている (37,
40)。しかしながら、ヒトの内⽿は組織学的に評価不能であるため、synaptopathy の検査
は⽣理学的検査に限定される。騒⾳性難聴の分野ではマウス TTS モデルにおいて
synaptopathy と ABR I 波振幅の相関が証明されており (22)、ヒトにおいては騒⾳曝露
歴と
ABR I 波の振幅の低下が相関し、ヒトにおける synaptopathy の病態の存在を⽰唆し ている (50)。⽿鳴と ABR I 波の振幅低下が相関するという報告もあり (51)、ヒトにお いて ABR I 波振幅は⽿鳴や TTS の原因となる、synaptopathy を評価可能である唯⼀の 項⽬である。⽿鳴や TTS が主病態である内⽿爆傷においては ABR I 波振幅は重要な⽣
理学的評価項⽬であると考えられるが、従来の衝撃波管による内⽿爆傷の動物モデルは
⿎膜穿孔、有⽑細胞脱落、らせん神経節障害のいずれかが必ず⽣じるために ABR I 波振 幅と synaptopathy の相関が確認不可能であった (35, 36, 37, 38, 47)。本研究において は、より実際の爆傷に近い衝撃波管モデルにおいて ABR I 波の振幅の低下と
synaptopathy の障害周波数は⼀致しており、ABR I 波の振幅低下と synaptopathy が相関 したといえる。従って、本研究により内⽿爆傷の主病態である TTS と⽿鳴が ABR I 波 振幅により⽣理学的に評価可能になったといえる。
また、今回衝撃波管および LISW では著明な synaptopathy を認めたがシナプスリボンの 減少率はいずれの群、周波数帯でも 70 % を超えなかった。緒⾔でも述べた通り、
synaptopathy は TTS の原因とはなり得るが、80 % 以上の変化を認めない限り PTS の原 因にはならない。また、両モデルでは⼀般的に PTS の原因とされている内外有⽑細胞の脱 落やらせん神経節の変化もみられないため、PTS の原因として外有⽑細胞の聴⽑の観察も 実施した。
第3節 永久性閾値上昇の原因と聴⽑障害
先⾏研究においては 2016 年に LISW ラットモデルについて障害周波数に⼀致した外有⽑
細胞の聴⽑障害を報告した (40)。先⾏研究では⾛査電⼦顕微鏡にて 3 列に並んだ外有⽑細
胞のうち最も外側の有⽑細胞の、最外側の聴⽑が外側に倒れて変位している障害がみられ
た。この最外側の聴⽑は検体処理の際の破損や変形が散⾒される部分であるため、今回の
研究では定量評価にあたり検体処理の際に聴⽑の破損が少ないコルチ器の whole mount 検
体の espin
免疫染⾊にて評価を⾏った。今回の我々の検討では外有⽑細胞⾃体の脱落は認めないものの、聴⽑の⽋損や途絶、聴⽑が外側に倒れて変位している障害がみられ、先⾏
研究で得られた⾛査電⼦顕微鏡の結果と同様の所⾒が得られた。また、衝撃波管で低周波 数帯に LISW で⾼周波帯に変化がみられる傾向にあり、DPOAE と ABR の永久性閾値上 昇部位に⼀致した。低周波数帯の聴⽑は⾼周波数帯に⽐べて⻑く、検体の mounting の際 に配列の変位を来しやすいため 5.6 kHz, 8.0 kHz は Control でも聴⽑の形態変化がみら れ、衝撃波管群における聴⽑の形態変化は統計学的に有意な結果とならなかった。11.3 kHz 以降では Control 群の聴⽑の形態変化は減少し、聴⽑が短くなる 16.0 kHz 以降の中〜
⾼周波数帯では Control の聴⽑の形態変化は消失した。LISW では 22.6 kHz より⾼周波帯 で変化がみられる傾向にあったが、個体によるばらつきが⼤きく、今回の検討では統計学 的に有意な定量結果は得られなかった。
聴⽑障害は騒⾳性難聴でも報告が認められ、⾳響曝露の⾳圧や曝露時間により聴⽑の障
害の程度は変化し、聴⼒閾値の障害の程度も報告によって TTS から PTS まで差異を認め
る (25, 52)。内⽿爆傷における障害の程度もモデルによって異なるため、聴⽑障害につい
ても報告によって差異を認める。我々の先⾏研究における有⽑細胞脱落のない LISW モデ
ルでは、衝撃波曝露後の聴⽑障害が観察され PTS と関連を認めた。しかしながら、有⽑細
胞脱落を認める従来の衝撃波管モデルにおいては聴⽑障害が観察されるモデルもあるもの
の定量化はされておらず (37)、有⽑細胞脱落が PTS と関連していると結論づけられてい
る (36, 37, 38)。本衝撃波管モデルは従来の衝撃波管よりも曝露時間が短く、単回曝露の
モデルで衝撃波の総エネルギー量が少ない。そのため有⽑細胞脱落のない内⽿爆傷モデル
が作成可能であり、聴⽑障害が PTS と関連したといえる。今回の研究により、爆傷の状
況に近似したモデルである衝撃波管において検体破損の少ない⼿法で外有⽑細胞の聴⽑障
害が定量評価され、聴⽑障害が内⽿爆傷における軽度 PTS の原因になることが証明され
た。
第4節 本研究における内⽿爆傷モデルの有⽤性
本研究において作成された衝撃波管モデルは単回曝露で従来の衝撃波管モデルより実際 の爆傷に近いモデルでありながら内⽿特異的曝露の LISW マウスモデルと同様の組織学的 変化を認め、⿎膜穿孔、有⽑細胞脱落を認めない synaptopathy モデルであり、さらに軽度 PTS の原因として外有⽑細胞の聴⽑障害が観察された。本モデルは実際の爆傷の状況に近 似した衝撃波管モデルにて内⽿特異的曝露の LISW と同等の synaptopathy と聴⽑障害の再 現性を認め、衝撃波管モデルとしては稀有である正確な⽣理学的評価が可能な障害モデル である。本モデルはこれまで衝撃波管モデルで作成が困難であった汎⽤性が⾼く遺伝⼦改 変が容易なマウスモデルであるため、今後の爆傷研究においてリスク解析や治療研究など への応⽤が可能であると考えられる。緒⾔で述べたように synaptopathy は内⽿爆傷の主 病態である TTS や⽿鳴の重要な⼀因であるため、synaptopathy の正確な再現、評価が可 能である本研究の衝撃波管モデルは今後の内⽿爆傷後遺症の病態解明や治療法開発におい て有⽤なモデルとなり得ると考えられる。
衝撃波管は有⽤な内⽿爆傷マウスモデルであり、さらに LISW モデルと⽐較すると障害 周波数に差異を認める。衝撃波管は全周波数の synaptopathy と低周波数優位の聴⽑障害 を、LISW は⾼周波数優位の synaptopathy と聴⽑障害をそれぞれ認めた。求⼼性神経終末 のシナプスや有⽑細胞は⾼周波数帯において脆弱性が⾼い (22, 33, 53) ため、両モデルの
⾼周波数帯では共に synaptopathy が観察されたと考えられる。⼀般的な内⽿障害モデルで
ある騒⾳性難聴モデルにおいてはどの周波数帯の騒⾳曝露においても⾼周波数優位の難聴
や synaptopathy が⽣じる (19, 22, 54, 55) ため、衝撃波管は有⽑細胞脱落を認めないもの
の低周波数帯まで synaptopathy や聴⽑障害を認める特徴的なモデルである。我々はこのよ
うな衝撃波管の低周波数障害の傾向が衝撃波そのものの周波数特性に起因すると考え、衝
撃波の圧波形の周波数解析を⾏った。衝撃波管の衝撃波の中⼼周波数帯は 976.5 Hz であ
り、マウスの可聴域である 1 kHz ~ 100 kHz に⽐して (56) 周波数が低いことが本研究の
衝撃波管が特徴的な障害周波数を呈したことに関連していると考えられる。実際のヒトの
内⽿爆傷では軽症例においては LISW や従来の騒⾳性難聴のモデルが⽰す⾼周波数優位の
障害が多いものの、軍⼈の爆傷などの重症例になるにつれて低周波数帯まで障害が広が
り、中〜低周波数帯の難聴を合併してより後遺症が重症化するリスクが⾼まる (10, 11,
12, 18)。本研究で作成した衝撃波管は多彩な症状を呈する内⽿爆傷の病態において、広く
病態を再現可能な⾮常に有⽤なモデルであると考えられる。
第5章 結論
・ 本研究の衝撃波管モデルは実際の爆傷の状況に近似したモデルでありながら、⿎膜穿孔 を⽣じず内⽿特異的障害を⽰すモデルであった。
・ 本研究の衝撃波管モデルは組織学的に有⽑細胞脱落を認めず⾼い synaptopathy の再 現性を認めるモデルであった。
・ 本研究のモデルによって内⽿爆傷の TTS 及び⽿鳴が⽣理学的に評価可能となった。
・ より実際の爆傷に近い衝撃波管モデルで外有⽑細胞の聴⽑障害を認め、聴⽑障害が内⽿
爆傷の PTS の原因であることを証明した。
・ 本研究における衝撃波管モデルは内⽿爆傷後の TTS 及び PTS の主病態を正確に再現、
評価可能であることから今後内⽿爆傷後遺症の病態解明や治療法開発において有⽤な モデルとなり得ると考えられる。
謝辞
御指導、御校閲を賜りました防衛医科⼤学校⽿⿐咽喉科学講座 塩⾕彰浩教授および直接 研究のご指導を頂いた防衛医科⼤学校⽿⿐咽喉科学講座 ⽔⾜邦雄講師に⼼より感謝申し 上げます。また、本研究の遂⾏に際し、貴重な御助⾔、御協⼒を賜りました防衛医科⼤学 校防衛医学研究センター⽣体情報・治療システム研究部⾨
佐藤俊⼀教授および川内聡⼦講師、防衛医科⼤学校⽣化学講座 佐藤泰司教授に深く感謝の意を表します。
略語⼀覧
TTS; Temporary threshold shift; ⼀過性閾値上昇 PTS; Permanent threshold shift; 永久性閾値上昇 LISW; Laser-induced shock wave
ABR; Auditory brainstem response; 聴性脳幹反応
DPOAE; Distortion product otoacoustic emissions ; 歪成分⽿⾳響放射 SPL; Sound pressure level
SE; Standard err;
標準誤差Myo 7a; Myosin 7a
CtBP2; C-terminal binding protein 2 GluR2; Glutamine receptor 2
GluA2; Glutamate receptor subunit A2
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