奈良教育大学学術リポジトリNEAR
保育における幼児の言語活動の分析の試み
著者 山口 満
雑誌名 奈良教育大学教育工学センター研究報告
巻 5
ページ 17‑26
発行年 1982‑03‑10
その他のタイトル An Analysis of Language Activities of Children in Kindergarten
URL http://hdl.handle.net/10105/4636
山 口 満(教育学教室)
An Analysis of Language Activities of Children in Kindergarten
Mitsu ru Yamaguchi (Department of Education)
Abstract
In this paper, the author tried to record and analyze the language activities of three chiltren in kindergarden. Their language activities were so much different from each other that teacher should evaluate his teaching activities from the point of view of how an individual child has behaved himself and communicated.
Keywords:
Language Activities Evaluation
Kindergar t en
I 研究の目的
幼稚園における教師の教育活動は、下の図に簡潔に示すように、 (彰保育の計画を立てる、 (塾 その計画を実施する、つまり保育を行う、 ③その保育の結果を反省し、評価する、 ④その反省、
評価に基づいて計画を再検討し、改善するという一連の循環的なっながりをもって展開される
㊤Plan (計画) ‑㊤Do (実施) ‑③See C評価)
」④ Feedback Cフィードバック)」
諸活動から成っている。したがって、実際に行われた保育について反省的な思考をめぐらし、
当初の計画と実際の成果との問にずれがあるか否か、あるとすればその原因は何かなどの点に ついて明らかにすることは、質の高い充実した保育を可能にするうえで重要な役割を果たして いる。
その際、この保育評価は、単に印象的な感想を述べるという程度のこととして行われるので はなく、できるだけ具体的で客観的なデータに基づいて、科学的に行われなければならない。
教育工学的な手法を用いた保育分析は、 VTRやTR等の機器の利用および行動科学的な分析 の方法を取り入れることによって、保育の過程を具体的、客観的に分析し、客観性と科学性を 備えた評価を行うことを意図している。
このような理解に立って、筆者はこれまでに教育工学的な手法を取り入れた保育の分析的研 究を行ってきたが、従来の保育分析の方法に対するひとつの反省として、従来の保育分析では、
目立っ子どもの、しかも目立っ行動や発言だけが分析の対象として取り上げられるという傾向
山 口 満
があったのではないか、言い方をかえれば、目立たない子どもの、目立たない行動や発言に視 点をあてることによってより客観的な分析的評価を可能にすることができるのではないか、
と考えていた。
そんなことを考えていた矢先に、本学の太田教授より、教育工学センターにひとりひとりの 幼児の言語活動を正確に録音することができる小型ワイヤレス・マイクの装置一式が備えられ たとの教示を得たので、早速同教授の協力を得て附属幼稚園で保育過程におけるひとりひとり の幼児の言語活動の録音を行った。本稿は、その録音テープをもとにして、筆者が幼児の言語 活動の分析を試みたその成果を報告したものである。
この装置を使うと一時に6人の子どもの発言を1本のテープに録音することができるが、附 小と附助で実験的に使用してみた結果、6人では声が錯綜して正確な文字化を期すことが困難 であることが判明したため、ここで報告する保育分析については3名の幼児の発言にとどめる ことにした。したがって、3名の幼児ひとりひとりの言語活動の全休をできるだけ詳細に文字 資料化し、それをいくつかの観点から分析し、考察することが本稿の内容であるが、その作業 を通して、ひとりひとりの幼児の活動、とりわけ言語活動に着目して保育を分析し、評価する ことにはどういう意味があるのか、あるとすればその分析のカテゴリーや方法は何かといった 問題について、基本的な洞察が得られることを期待している。いずれにしても、この研究は予 備的なひとつの試みという範囲を出るものではないことを予め断わっておきたい。
H 研究の方法
(1)昭和55年2月に、附属幼稚園の5歳児学級における設定保育(「『泣いた赤鬼』の劇を しょう」)をビデオ・カメラで撮影・録画するとともに、3名の幼児および教師の言語活動を 小型ワイヤレス・マイク(TOA−Wireless tunor,Wireless microphone,ChannelmiⅩer
のシステム装置)を用いて録音した。
(2)3名の幼児および教師の発言と行動を表1に示すような様式で文字化した。
表1 文字化資料の様式
」発 言 l 行 動 l 発 言 l 行 動 l 発 言丁 存 動 l 挙_教 師 l A 男 l B  ̄ 子 l 亘」C 男 き その他の幼児」旦旦」
(3)文字化資料に基づいて、教師の発言については、(1)発言の対象、(2)発言の内容という2 っの観点から分析し、3名の幼児の発言については、(1)発言の回数、(2)発言の起点(きっかけ)、
(3)発言の対象、(4)発言の内容という4つの観点から分析した。
(4)なお、「『泣いた赤鬼』の劇をしよう」という主題のこの設定保育は、浜田広介の童話
「泣いた赤鬼」の話しをみんなで力を合わせて劇にすることを内容とした活動であるが、その 活動の形態は、(1)クラスの半数に当たる14名の幼児(残りの幼児は、紙芝居づくりを担当する)
を赤鬼役3名、.青鬼役3名、子ども役3名、ナレーションの役5名に分けて、それぞれの役割 りを担当させる、(2)ナレーションはあらかじめ決められた通りのせりふを言うが、赤鬼、青鬼、
子どものせりふは、その場でみんなで相談し合って決められるということになっており、ひと りひとりの幼児が自分の役割りを分担しながら、グループおよび14名全体で相談し合い、力を 合わせて1つの課題を達成することをねらいとしたいかにも5歳児の第3学期の活動としてふ さわしいものである。本時の活動に先立って、幼児ば、「泣いた赤鬼」の人形劇をテレビで視 聴し、さらに教師から絵本で読んでもらっており、物語りの筋や内容について、かなりはっき
りしたイメージを持っていると思われる。
(5)言語活動の分析の対象にした3名の幼児の選定は、学級担任の教師に一任した。教師が 紹介してくれた3名の幼児のプロフィールは、次の通りである。
A男………おとなしい。個人的にならしゃべる。活発なグループには入らない。弁当などの 時に割にしゃべっている。暗いイメージはない。他の子どものA男に対する評価は低くない。
好かれている。いやがられること、けんかはしない。この劇づくりの活動では、青鬼の役を自 分で選んだ。
B子………女の子らしい遊びをする。いろいろな友だちと話しをする。最近変わってきた。
行動の範囲も広くなった。しっかりしている。赤鬼の役を自分で選んだ。
C男………言葉の発達が早い。時々 すごい 言葉が出る。けんかはしない。面白いことを 言って笑わせる。知識もすすんでいる。ナレーションの役を自分で選んだ。
III 結果と考察
1 教師の言葉活動の分析
表2 保育の展開過程
時 間 展 開 の 段 階 教 師 の 活 動 子 ど も の 活 動
1 分
1 導 入
き の う ま で の 活 動 を 確 認 す る 。 役 割 ご と に グル ー プ に な って い す に 座 って 、 き よ う の 活 動 を 説 明 す る。
役 割 を 確 認 し 、 約 束 ご とを 話 す 。
教 師 の 話 しを 聞 く。
3 分
2 舞 台 の セ ッ トを 準 備 す る
立 て 札 、 ま ま ご と セ ッ ト、 ナ レ ー シ ョ ンの 文 章 を 書 い た ボ ー ドな ど を 準 備 し 置 き 場 所 を 決
め る 。
グ ル ー プ ご と に セ ッ トを 準 備 す る。
1 0 分 3
赤 鬼 が 立 て 札 を 立 て ナ レ ー シ ョ ン の 文 を 読 ませ る 。 赤 鬼 が 人 間 の f 一ど も と 友 だ ち に な る た め の 手 て 人 間 の 子 ど もを 迎 赤 鬼 の せ りふ に つ い て 相 談 さ せ る 。 だ て に つ い て 、 立 て 札 を 立て た り 、 お 菓 子 や
え る 準 備 を す る お 茶 を 準 備 した り す る。
1 4 分 4
人 間 の 子 ど も が 登 場 ナ レ ー シ ョ ン の 文章 の 読 み 方 を 数 え る 。 人 間 人 間 の 子 ど もが 立て 札 に 気 づ い て 赤 鬼 の 家 に し、 赤 鬼 の 家 に 入 る の 子 ど もの せ りふ に つ い て 相 談 さ せ る 。 入 る が 、 「お い で −J の 声 に ワ ア ッ と 逃 げ 出
が 、ワ ァー と逃 げ 出 す す 。
1 6 分 5 赤 鬼 は 立 て 札 を こ わ 毎 を震 盲 拝 島 亘 瑠 富 雄 害 轟 3 人 の 赤 鬼 は 立て 札 を こ わ す 。
して 、 人 声 で 泣 く 大 声 で 泣 く 。
3 0 分
6 青 鬼 が 登 場 し 、 赤 鬼 と 仲 良 く遊 ぶ
青 鬼 の せ りふ 、 そ れ に 対 す る 赤 鬼 の せ りふ に 3 人 の 青 鬼 が 登 場 し、赤 鬼 と い っ し ょ に 遊 ぶ 。 つ い て 、 相 談 さ せ 、 く ふ う さ せ る 。 さ い ご に 遊 び 終 わ っ て 、 い っ し ょに 山 の ふ も
と に 降 り る (い す に 戻 る )。
4 4 分
7 反 省 の た め の 話 し 合 話 し 合 い
お も し ろ か っ た 点 、 こ うい う よ う に くふ う し 劇 の 良 か っ た 点 、 悪 る か っ た 点 に つ い て 意 見 た ら と い う点 に つ い て 、 全 体 で 話 し合 わ せ る 。 を 出 し合 う 。
お よ そ 9 つ の 意 見 が 出 た 。
19
山 口 満
保育は、表2に示すように、およそ7つの段階を踏んで展開された。この内1と2が導入と 準備の段階、3、4、5、6が劇活動の段階、7が反省のための話し合いの段階である。所要 時間は約44分間であったが、物語りが一番盛り上る6の場面に約14分間が、また後の話し合い
に約14分間が費やされている。
この約44分間の保育の中での教師の発言は、後掲の図3に示すように、全部で423回であった。
それを、その言葉が誰に向かって話されたものかということ、つまり発言の対象という観点か ら分析Lにものが、図1である。
全体的にみると、個人に話しかけ たものが34%、グループに話しかけ たものが33%、学級全体の子どもに 話しかけたものが33%となっている
が、保育の展開の段階ごとにみると、1・導 入 1の導入では学級全体、2の準備で
はグループ、3の場面ではグループ、
4の場面では個人、5の場面ではグ
2.準 備 3.赤 鬼 ループ、6の場面ではグループ、7
の話し合いの所では個人が多くなっ 4.子ども ている。このことから、導入の段階
では、教師が学級全体の子どもに話 5.立て札 しかけるという形態が主な形態にな
っているが、劇を演じる場面ではそ 6・青 鬼 れぞれのグループへの働きかけが主
要な形態になっていること、反省の ための話し合いの段階では、ひとり ひとりの子どもへの問いかけや話し
0 50 IOO%
かけが頻繁に行われているというこ
とを知ることができる。 図1 教師の発言の対象
次に、教師の発言をその意味内容という観点から分析したものが図2である。ここでは、発 言の内容を次の4つに分けることにした。
A 指示的発言……何々をしなさい、何々をしてはいけませんというように、子どもに一定 のオバートな行動をとらせる働きをする発言。例「ちょっと、よく聞いてねd
B 認知的発言……子どもの側に愚考を促す働きをする発言。例「やっぱり鬼さんが言うた 方がええんとちがうやろか、どやろ?」、「さ、出てきはった。それから、そっからどないす んねんやなあd
C 表出的発言……子どもに向って伝達するよりも単に自分の気持ちを表出したり、自分の 認知内容を叙述したりする発言。例「ええなあー。うまいこといったなあ−。」、「さあ−、
考えつかはったd
D 確認的発言‥・・‥子どもの言ったことを確める働きをする発言。側「えっ、きんとん雲乗 って行くのか?」、「青鬼さん、ちっちゃい声やってんて」
全体的に見ると、認知的発言(48
%)と指示的発言(39%)が多いが、
確認的発言も9%を占めており、幼 児を対象にした保育での教師の言語 活動の特色の一端があらわれている とみることができる。1の導入と2 の舞台のセットの準備の段階では指 示的発言が多いのに対して、5の立 て札を立てる場面と7の話し合いの 段階では認知的発言が多くを占めて おり、教師が子どもたちに考えさせ よう、子どもたちの中から意見を出 させようとしていることをあらわし ている。
さて、上述した教師の発言の対象 と内容との両者をあわせて考えてみ ると、この保育における教師の指導 の形態が保育の展開に伴ってどのよ うに変わっていったか、その大筋を
衰3のように捉えてみることができ 図2 教師の発言の内容
る。全体的にみて、この保育における教師の活動は、できるだけ子ども同志で話し合わせ、自 分たちで意見を出し合い、工夫し合っていくようにしむけるという方針のもとに展開されてい
るわけであるが、4の場面即ち 子ども役が登場し、赤鬼の立て た立て札を見てこわごわ赤鬼の 家に入るがワアッと逃げ出して 行く場面では、ナレーション役 の子どもへの指導を含めた個別 的で指示的な内容での発言が多 くなっており、保育のねらいか ら見れば、計画とのずれが明瞭
表3 教師の指導の形態
1 導 入 全 体 の 子 ど も に 指 示 を す る 2 準 備 グ ル ー プ に 指 示 を す る
3 赤 鬼 グ ル ー プ で 相 談 し、 考 え る よ う に しむ け て い る 4 子 ど も 個 人 ご と に 指 示 す る 場 面 が 多 い
5 立 て 札 グ ル ー プ で 考 え る よ う に しむ け て い る 6 青 鬼 グ ル ー プ お よ び学 級 全 体 で 考 え さ せ る 7 反 省 個 人 に 発 関 して 、 考 え さ せ よ う と して い る
にあらわれている部分であるとみることができるであろう。
2 幼児の言語活動の分析
(1)A男の場合
図3は、教師および3人の幼児の発言の回数を示したものである。それによると、もともと言語 活動が活発なC男とあまりしゃべらないA男という対照的な幼児が選ばれているのであるから 当然のことであるが、3人の幼児の言語活動に著しい個人差が見られることに、改めて注冒せざ るを得ない。A男の発言回数が僅か6回であるのに対して、C男の回数は130回であり、教師の発言 回数を100とした場合に31に相当している。B子の国数は77回であり、C男の約2分1である。
21
図3 教師および3人の幼児の発言の回数
表4 A男の言語活動
鬼
発言2、3
発言5、6
教師「ほんまや、0くん、それ、0くん、もっかい言うたげて」
0 「うん、どうして立て札をこわしたんだいって言うたらええねん」
教師「それだれ、だれに言うてもらお。だれか言える?」
K」「A言え」
教師「Aちゃん言おか。そしたら、Aちゃん言え。Aちゃん言うてみいd A男「どうして立て札をこわしたんだいd
教師「うまいな、ええぞ。ええ調子や包
教師「Aちゃん、青鬼さんねえ、大きな声でもう一回ゆうてほしいんだってd 教師「青鬼さんでえっ−と。Aちゃん大きな声でねえ匂
教師「赤鬼さんどうしたんだいq 旦男 「赤鬼さんどうしたんだいq 教師「どうやK君」
教師「どうやK君。もっかいゆうてもら…・もっかいゆうて」
K 「バー」
A男「赤鬼さんどうしたんだいq 教師「どうやこれやったら」
K 「うん、あれやったらええq
教師「Aちゃん。何か囲ったことなかった?なかった?」
A男「ない」
教師「ない」
教師「Aちゃん、どのへんあかんかったと患う?子どもの」
A男「あの、ノヾ−ノヾr−パーて」
教師「何か言うこと、やっぱりよくなかった?」
A男「うん」
表4は、A男の6回の発言の全てを文字化したものである。それによると、6回の発言の内 3回は青鬼のせりふであるが、いずれも教師に指名され、さらに教師の言ってくれたせりふを なぞって復唱するという形での発言である。他の3回は、「ない」、「うん」とそれに意味の 不明瞭な「あの、パーバーバーて」という言葉である。
また、青鬼の役のせりふで当然他の2人の青鬼役といっしょに言わなければならい場面での せりふが出てこない。教師から指名されても答えがない場面が3回あった。表情はにこにこと
して劇あそびを楽しんでいる様子であった。青鬼が登場する場面では自分から先頭になって舞 台に出て行っている。しかし、青鬼と赤鬼がいっしょに手をつないで輪になって遊ぶ場面では、
1人だけ立っていて他の青鬼に呼ばれ、あわてて輪の坤に入った。このように、A男は、この 劇づくりの活動に心理的には参加し、楽しんでいると思われる点がある反面言語活動は著しく 不活発で、言うべきせりふについても自発的な発言が出てこない。
こうしたA男に対して、教師は、発言を導くためにさまざまな配慮、個別的な働きかけを行 っている。いきなり発言を求めるのではなく、前から「Aちゃん」と予告した上で発言を求め ている。教師がせりふを言って、まねをさせる。はめて励ますなどの手だてを講じている。
このように、ワイヤレスマイクを使って録音することによって、無口で繊猷なひとりの幼児 の言語活動の実態が改めて浮き彫りにされた訳であるが、その問題点を明確にするためには、
A男の言語能力や社会性の発達の実態、背景となっている環境的要因等について具体的な検討 を行う必要があると患われる。いずれにせよ、言語活動の不活発な幼児の指導の仕方について 私たちが改めて検討してみる必要性があることを示唆しているとみることができる。
(2)B子とC男の場合
表5は、B子とC男の発言の起点、即ち誰に求められてその発言が生起したかということと 発言の対象について分析したものである。それによると、B子は教師の発言を起点にして発言
表5 B子とC男の発言の起点と対象
話 し か け の き っ か け 話 し か け の 対 象 発 言 数
B 子 C 男 B 子 C 男
B C
自 教 友 か 自 数 友 か 教 個 グ に み 自 教 個 グに み 自
か り
師
か だ か 師
や しっ
だ 師 人 !∴
】 ん
な 分 師 人 ル
l ん
な 分
子 男
しっ ち ら b ち ら に に プ に に に に プ に に
1 導 入 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 1 0
2 準 備 4 0 0 5 0 0 2 0 0 0 2 1 3 0 0 1 4 5
3 赤 鬼 2 5 2 9 14 0 1 1 0 6 1 12 5 0 3 3 9 23
4 子 ど も 2 1 0 2 4 0 0 0 0 つ 0 4 1 0 1 0 3 6
5 立 て 札 1 4 0 2 6 0 0 0 0 5 0 6 1 0 1 0 5 8
6 青 鬼 15 18 1 26 14 0 4 2 5 18 5 14 12 4 5 5 34 4 0
7 反 省 0 17 4 8 31 9 18 3 0 0 0 3 3 12 0 0 3 2 1 4 8
計 25 4 5 7 52 6 9 9 25 6 5 32 9 70 3 4 4 10 12
7 7 1 30 82) (58) (9 ) (40) 63) (7) (32) (8) (6) (41) (11) (54) ㈱ (3) (8 ) (9 )
数字は実数、ただし()内は%を示す。
山 口 満
することが多い(58%)のに対して、C男は自分から思いっいての自発的な発言が多くなって いる(40%)。特に、青鬼と赤鬼とが楽しく遊ぶ6の場面では自発的な発言が多いが、この中 には、主題活動と無関係な勝手な発言もいくつか含まれている。
発言の対象についてみると、B子の場合には学級全体に向けての発言が41%、教師への発言 が32%であるのに対して、C男の場合には教師への発言が54%、個人に向けての発言が26%、
クラスのみんなに対する発言が8%となっている。B子の発言にクラスの全員を対象にしたも のが多いのは、赤鬼役のせりふが多いという理由があるが、それにしてもB子と比較した場合 C男の発言にはクラスのみんなを対象にした発言が少なくて、教師および個々の友だちを対象 にした発言が多い。言語活動の活発なC男の発言は、1対1のコミュニケーションとしての性 格をもつものが多い訳であり、クラスの友だちみんなに話しかけるという姿勢での発言は意外 に少ないのである。
結局、B子の場合には教師の発言を起点にして、クラスのみんなに話すというケースが多く、
C男の場合には、自分から自発的に教師に話しかりるというケースが多い訳であり、発言の形 態に若干の相違があることを示している。
前述したように、この保育はグループ活動の形態を取り入れたものであるが、B子、C男の いずれの場合にも、グループの友だちを対象にした発言は意外に少ない。その意味では、教師 が期待した程にはグループ内の話し合いが行われていなかったのではないかという疑問が持た れることになる。
B子、C男のいずれの場合にも、自分自身に話している、つまり独語と判断される言葉が約 表6 B子とC男が自分自身に言っている言葉
B子
1.こんなんしらんわ、こんなん。
2.めうしのぶっこう。
3.ふふ〜、ふーん。
4.ちえんちえ、ちえんちえ。しえんしえ、しえんしえ、しえんしえ。せんせ、せんせ、
せんせ、せんせ、せんせ。
5.ビビピー。
6.マイクみたい。
7.でもさあ、これマイクみたいやなあ。
8.ほんまにマイクか、こんなちびっこいの。
9.やっぱりマイクかな。
C男
1.キュキュキュ、マキバホブ、モイメノ、ママリ二、モマママ、マイマ、ムンムンムン。
2.すわっとこ。
3.これ留めんねん。ちょっと。これ留めんねん。
4.こっからか。
5.おれだけみじめ。
6.えへ………・‥・
7.へへへ・=……。ノS、ふふ…
8.いっぺんに言おう。
9.ペケペケ、ペケペケ…・ 。
10.おさけ、おさ−、おざきがおさけに変わんねん。
11,風よ、光よ。
12.おれ、子どもちゃうけど、見てんねん。
1割程度を占めていることも、幼児の言語活動の特徴を示すものとして注目されてよい。表6 は、その全部を掲げたものであるが、B子の場合には2(「めうしのぶっこう」)と4(「ち
えんちえ………」)、C男の場合には1(「キュキュキュ………」)と9(「ペケペケ………」)
といった言葉が、突然にあらわれている。その場の活動と心理的にどうつながっているのか、
この種の発言の意味をどう考えればよいのか、興味深い問題であると思われる。
Ⅳ まとめに代えて
保育の過程で、ひとりひとりの幼児は何を考え、何を話し、友だちや教師とどのようにかか わりながら活動しているのであろうか。その実態を客観的に把握し、分析することによって、
従来行われてきた保育分析、評価とはやや観点を異にした保育の分析的研究や評価研究が可能 になるのではなかろうか。そのような問題意識に立って、前項までに、A男、B子、C男とい う3人の幼児の言語活動の分析を試みてきたのであるが、分析の視点や方法があいまいであり、
明確な結論を得ることは困難であるが、さしあたり以上の考察を通して気付いたことを次のよ うにまとめておきたい。
(1)この保育は、全体的な保育の流れとしてはきわめてスムーズに流れている。しかし、個 々の幼児の活動というレベルで見てみると、例えば、教師はできるだけグループでの話し合い をさせることを意図しており、また実際にそのように指導していたにもかかわらず、個々の幼 児の言語活動に友だちとの話し合いとしての性格をもった会話が少ないという問題点が指摘さ れる。つまり保育のねらいと実際との間に、そうしたずれがあるように思われる。そのずれが なぜ生じたかを究明することによってこの保育を反省し、改善する手がかりを得ることができ る。
(2)幼児の言語活動には著しい個人差が見られる。ひとりひとりの幼児は、それぞれに独自 な仕方でこの保育の活動にかかわっている。それだけに、個人差に対応したきめの細い指導の あり方が改めて問われなければならない。例えば言語能力の発達の遅れている幼児、あまりし ゃべろうとしない幼児等への教師の働きかけや集団内での位置づけの仕方等の問題が明らかに されなければならない。
(3)幼児の言語活動には、独語や主題活動の進展に直接的にはかかわっていないと思われる ような、、勝手な′′、それ故にまた ふざけている と見られるような発言が少なくない。この 種の発言をどのように扱っていけばよいか、いわゆる「潜在的カリキュラム(hidden,1atent
curricuIum)」を保育の活動の中でどのように扱うかといった観点からの究明が必要であるよ うに思われる。
(4)独語や一見 ふざけ合っている と見えるような言語活動が幼児の行動を生起するきっ かけになっていたり、あるいは集団での活動を発展させていくための要件になっていたりする
ことが予想される。
(5)幼児の言語活動やコミュニケーション過程を分析するための視点と方法、さらに非言語 的なコミュニケーションの分析の方法等が理論的な裏付けをもって明らかにされなければなら ない。
山 口 満
付 記
1.貴重な助言をいただいた本学の太田静樹教授に御礼を申し上げます。
2.研究に協力をいただいた附属幼稚園の福西憲太郎先生、本学の卒業生(当時は学生)である本 部広樹氏、伊与田ゆり子氏、川上幸子氏に御礼を申し上げます。
参考文献
(1)大滝ミドリ他「保育過程の分析(1ト子どもと保育のかかわりあいをとおして−」、東京家政大 学研究紀要第16集、1976年。
(2)小川博久他「保育行動分析一授業研究の方法論の確立のために−」、東京学芸大学紀要 第1 部門 教育科学 第29集、1978年。