ラス活動内で4 歳児の表出に向き合う保育者の語り
の分析
著者
宮本 雄太
雑誌名
福井大学教育実践研究
号
45
ページ
43-52
発行年
2021-03-26
URL
http://hdl.handle.net/10098/00028641
実践論文 福井大学教育実践研究 2020,第45号,pp.43-52 1.問題と目的 幼児教育は、学校教育法において「義務教育及びその 後の教育の基礎を培うもの(第 22 条)」であり、「集団 生活」を通して「自主、自律及び協同の精神並びに道徳 意識の芽生え(第 23 条)」の態度を養う場であることが 明示されている(文部科学省,2019)。その中でも、幼 児期は安定した情緒の下で自己発揮することを通して、 幼児同士の個性が響き合う保育集団を形成していくこと が意識されている(文部科学省,2018)。 保育集団に対する関心は国内外において高く、保育集 団のあり方は、現在、クラス運営との関連で検討されて いる。例えば、国立教育政策研究所(2020)は、2018 年に 216 園 1,616 人の保育者を対象にクラス運営の意識 に関する保育の実態調査を実施した。結果、保育者の研 修内容のうち、「クラスやグループの運営」に関する内 容は 47.6% 含まれており、上記項目に対する保育者のニー ズは 56.0% と半数以上を占めていた。また、クラス集団 の規模に関して、日本の保育者は「自分のクラス人数が 多い」と感じている割合が 22.9% と OECD 参加国の半分 以下であること、また「クラスの子どもの行動に対処す ること」は 35.7% と各国に比べて若干低くなっていた(図 1参照)。現在、日本の保育の設置基準で示される[保育者: 子ども]の比率は、4 歳以上で[1:30]程度と諸外国(欧 米圏は[1:10 未満])に比べて日本の保育者が一人で クラスの子どもを見る人数が多い。この点を踏まえると、 日本の保育のクラス運営は、クラス単位の人数が多いも のの、個々の子どもよりも集団への働きかけを意識して いることが分かり、諸外国とは異なる視点でクラス運営 を捉えていることが示唆される。その中でも、日本国内 のクラス運営に関する保育者の意識は、保育者主導にな りがちであるが、クラス活動注1)の内容に応じて、幼児 の主体的な参加が多い活動、保育者の主導性が強い活動、 幼児と保育者の相互作用が働きやすい活動があり、保育 者の振る舞い方は活動内容で異なる点が指摘されている (宮本,2020)。このように、保育者のクラス運営の視点 は日本に固有な特徴があり、保育者のあり方は保育の展 開を左右する重要な位置づけになっている。 保育者は幼児の個々の活動やクラス活動など多様な場 面に応じて必要な環境を設置しているが、そこでは、実 践を省察する中で日々の出来事や関わりを批判的に検討 し、幼児が次の展開でより豊かな経験に出会えるよう 試みている(榎沢 , 2016)。そのため、幼稚園教育要領 (2018)には、保育者は日々の振り返りをもとに自身の 専門性の向上に努めなければならない点が記述されてい る。保育の専門性は、知識や技能だけでなく、職業的倫 理観を踏まえて、一人一人の子どもや保育集団の実態に 合わせた即興的な判断を重ねていくことで高まっていく という(秋田 2009)。このように、保育者の専門性は子 ども理解に通じていると言える。この子ども理解は、① 個人記録や事例研究を通して時系列で子どもの育ちを捉 える「進行形の子ども理解」、②多様な目で保育を観察 し協議する中で子どもの育ちを捉える「多面的子ども理 解」、③[担任-保護者]、[予想する子どもの姿-保育 後の子どもの姿]、[保育者-子ども]の往還の中で子ど
クラス運営における保育者の意識や振る舞い
― クラス活動内で4歳児の表出に向き合う保育者の語りの分析 ―
福井大学大学院連合教職開発研究科 宮 本 雄 太
本研究は、保育のクラス活動において、「幼児の視点への配慮」と「クラス活動に生じる混乱」の二点 に関する保育者の省察に着目して、保育者が4歳児の表出をどのように受け止めているのかについて検討 した。保育者一名の1年間の保育実践を対象に、学期ごとにクラス活動を振り返る形で聞き取り調査を実 施した。聞き取り調査から収集データの分析までの一連の過程は、Riessman(1993)のナラティブ分析 の手続きを参照した。結果、「幼児の視点への配慮」と「クラスに生じる混乱への対応」における保育者 の4歳児の表出への意識や振る舞いの視点には、①集団の難しさや分からなさを引き受ける「集団の不明 瞭性」に向き合っていこうとする視点、②「集団内の保育者主導性」への留保を意識的に行う視点、③「個 と集団の二項対立図式」を乗り越える視点、の三点の特徴が見られた。その中で、クラス活動での保育者 の意識や振る舞いは、幼児の表出や参加姿勢を通して保育者が持つクラス活動の枠組み自体を変容させて いた。このように、クラス活動内での幼児個々の表出を捉えるために、保育者は揺れながら向き合ってい る姿勢が見られた。 キーワード:4歳児、クラス運営、保育者の省察、幼児の表出、ナラティブ分析もの育ちを捉える「循環型子ども理解」があることが指 摘されている(永井 , 2012)。その中でも、保育者の子 どもへの介入は、子どもの発達時期やクラスの雰囲気の 深まり度合いによってもまた変わることから、保育者は 多様な人的物的資源との関連で保育実践を省察していく ことで子ども理解を深めていると言える。 以上の観点から、保育においては、保育集団をクラス 運営から捉える視点や、クラス運営の中で見せる子ども の実態を踏まえた子ども理解が重要であることがわかる。 図1 保育者のクラス運営に関する視点 保育のクラス運営に関する研究群 保育のクラス運営は、(a) 構成主体や (b) 人数規模の違 いがそれぞれ集団形成に影響を与えている。構成主体に 関しては、保育者がクラスに意図的に働きかける度合い や、幼児が主体的に関与できる度合いの違いが、クラス 活動の展開を左右することが指摘されている。その中で も、大人数が集まるクラス活動になると、保育者が自身 の管理のもとで場を主導する傾向にあり、子どもが主体 的に参加する視点を確保することが難しいことが指摘さ れている(丸尾,1967; Emilson, 2007)。 ただし、杉山(2011a, 2011b)は、保育者は 4 歳児に 対して直接的な提示や方向付けを行う傾向にあるが、5 歳児に対しては子どもが意見を引き出しやすい援助を行 う傾向があることを明らかにしている。つまり、構成主 体の年齢の違いによっても展開が異なると言える。また、 佐々木(2012)は、絵本「そらいろのたね」の読み方の 違いを 3 園の 4 歳児クラスで検討している。そして、3 園ともに物語の展開を楽しむだけでなく、幼児自身の体 験を重ねながら新たな物語を構築することで、幼児の主 体的な関わりに基づく活動が展開されていたことを指摘 している。利根川(2016)は、5 歳児がエルマーのぼう けんを劇遊びの中で演じる際に、個々のイメージを共有 し合いながら、幼児が物語と役の本物らしさを探究し協 同して活動に向かっていく過程を詳述した。このように、 クラス活動の構成主体は、集団規模とともに、幼児の年 齢や活動内容に応じても主体者が変化することが明らか になっている。その中でも、保育者が幼児の活動の展開 を捉え、その後の展開を支えていることが示されている。 ただし、従来のクラス活動における保育者の関わりの 分析は、クラスの子どもがクラス集団として形成されて いく過程で見られるやりとりの実態を、1 年間というス パンで検討する研究が多い(齋藤・無藤,2009;中島・ 大森,2016 など)。しかし、これらの研究では、時期や 学期ごとに保育者はどのような援助や関わりをしている のかについて検討はなされていない。保育者は時期や学 期に応じて援助や関わりを変えていることから、時期や 学期単位で保育者の関わりを検討する必要がある。 保育における省察の位置付け 日本の保育において、省察の重要性を指摘した第一人 者である倉橋(1936, 2008)は、省察を通して保育者は 真の保育者になると指摘した。省察が保育の中でより注 目されるようになったのは、倉橋の思想を展開させた津 守真の役割が大きい。津守(1980)は、省察は「体験の 認識に何度も立ち返り、体験を意識化し、体験の意味を 問い直すこと」と説明した。そして、省察は、一回限りの 不可逆的な現象である保育実践を補完する、保育者の本 質的な子ども理解や保育理解の方略である点を指摘した。 保育の省察は、前述した永井(2012)の子ども理解 の視点の他にも、これまでに多様な方法が提示されてき た。( ⅰ ) 文字記録をもとにした省察(鯨岡 , 2005 など)、 (ⅱ ) 写真をもとにした省察(秋田・安見,2013 など)、(ⅲ ) 幼児の遊びや表現を園環境マップに落とし込む環境マッ ピングや、遊びと表現をクモの巣状につなげマッピング するウェブ型省察(阿部・前原,2009;河邉,2005 など)、 (ⅳ ) ビデオ映像をもとにした省察(岸井,2013 など)、 (ⅴ ) 外部講師等と行う省察(中山,2016 など)がある。 これら保育者の省察の目的は、子どもの体験世界と保 育者の体験世界に迫る中で、子どもと保育者が協働して 保育の生活を刷新していくことである(榎沢,2016)。し たがって、子どもと保育者のやりとりや関係の中で保育 実践の意味を読み取るために、保育者は自分自身の実践 を丁寧に振り返る必要がある。その際、省察は視点を絞っ て検討することが保育者の気づきや学びを効果的にする という(秋田,2009)。特に、「幼児の視点 / 理解」と「停滞・ 混乱」という二つの観点は保育者が保育実践で悩みを抱 えやすいと言われている(高濱,2000)。したがって、「幼 児の視点 / 理解」と「停滞・混乱」に焦点化して、保育 者の省察に立ち会うことは保護者の困難感についての言 語化過程を知る上で有用であると考えられる。 本研究の目的 上記の研究動向を踏まえて、本研究は、保育者はクラ ス活動にみられる幼児の表出を学期別にどのように受け 止めているのかについて、「幼児の視点 / 理解」と「停滞・ 混乱」の二つの観点から明らかにする。なお、本稿で取 り扱う幼児の表出は、クラス活動の中で見せる幼児の語 り、仕草、振る舞いなど、外見に生じる幼児の様子に対 して保育者が見取っているものとする。
クラス運営における保育者の意識や振る舞い また、本研究は 4 歳児に焦点を当てる。4 歳児は活動 に向かう過程で、集団の中の自己や他者と出会い、育ち ながら、個と個のつながりを深め、クラスのつながりを 築いていく時期である(石井,1963)。つまり、4 歳児期は、 クラス活動への興味・関心を深める探究的姿勢や、集団 の中で一つの目的に向かって展開する協働的活動への取 り組みを培う導入期であると考えられる。4 歳児のクラ ス活動を検討することは、幼児が自他の違いに出会い、 クラス活動を展開し始めるという揺籃期において、保育 者はどのように捉え向き合っているのかを明らかにでき ると考えられる。 2.方法 研究協力園 協力園の理念・保育カリキュラムは、遊びを中心とし た保育哲学に基づいている。また、クラスの子ども同士 が関わりあうクラス活動にも意識が向けられている。こ のように、協力園は生活の連続性を踏まえて、幼児が遊 びや活動に自ら取り組めることや、クラスでの仲間との 対話や活動などの協働的な時間を意識している。その中 で、クラス活動は、保育者と幼児それぞれが主体的に参 加できる雰囲気づくりが意識されている。 対象クラス・期間・内容 4 歳児クラス 1 クラス 27 名(男児 16 名、女児 11 名、 観察開始時の平均年齢 4 歳 6 ヶ月)のクラス担任にイ ンタビューの協力を得た。対象クラスの担任保育者(以 下、「保育者」とする)は、保育経験 7 年目(観察当時) の女性保育者であった。調査期間は、201X 年 4 月から 201X+1年 3 月で、調査内容は、対象クラスの 1 年間の クラス活動に対する保育者の省察についてである。なお、 インタビューは各学期の終わりに実施し、それぞれ約 2 〜 3 時間行った。また、毎回途中 10 分程度の休憩をとっ た。インタビューは、保育者の了解を得た上で、IC レコー ダーを用いて録音をした。 クラス活動の省察は、CLASS スケールの評価項目の 大項目である 9 項目をもとに行った(表 1 参照)。本調 査では、そのうちの 2 項目で語られた内容を取り上げ ている。CLASS スケールは、保育室の保育の質評価ス ケール『Classroom Assessment Scoring System(CLASS)』 の略称であり(Pianta et al., 2008)、保育室における幼 児と保育者の相互作用に重点を置いた国際的に信頼性の 高いスケールであるため、本研究で参照した。 分析枠組み・分析方法 本研究は、クラス活動における 4 歳児の表出に対する 保育者の意識や振る舞いを検討するために、個別面接法 を実施した。この質的方法では、保育者がクラス活動で 主観的に持つ意識や振る舞いの視点などを詳細に同定す ることができると考えた。 イ ン タ ビ ュ ー は、Riessman(2008) の ナ ラ テ ィ ブ 分析の手続きを参照して、以下の5点に従って実施し た。第一に、クラス活動に対する保育者の「注意/関与 attending」は、研究目的に沿って「クラス活動における 4 歳児の表出」とした。第二に、保育者の「語り telling」は、 インタビューの中で自由に引き出されるために、保育者に は学期ごとの振り返りを半構造化面接の形で実施した(表 1参照)。なお、語りを引き出すために、保育者が毎週出 しているドキュメンテーションや週・月の振り返りを視覚 的な補助資料として用いた。第三に、インタビューで得 られた保育者の語りの「転記 transcribing」は、IC レコー ダーの記録をすべて文字起こしすることで、語りの全体 像を描き出すとともに、文脈を構造化する手がかりとし た。第四に、データの「分析 analyzing」は、語られた語 りの文脈を崩さないことを意識して、発話内容の確認・ 明確化・再確認といった繰り返しの中で語りの構造化を 試みた。第五に、データの「読みとり reding」は、第一 で焦点化した「4 歳児の表出」と、本研究で検討する「幼 児の視点への配慮」と「クラスに生じる混乱への対応」 の二点の視点に対応する語りを学期ごとに検討した。 倫理的配慮:観察に際して、研究協力園の園長、主任、 研究協力クラスの担任保育者に対して、研究の目的や調 査内容と方法、個人情報の保護に関して文書及び口頭に よる説明をした。そして、調査への協力はいつでも中止 できること、それによる不利益は一切生じないことを説 明した。また、調査と研究成果の公表に際しては、研究 に協力いただくクラスの個人名や保育者が特定されるこ とのないように配慮して掲載する点も含めて了承を得 た。研究協力クラスの保護者に対しては、園長、主任か ら説明いただき、承諾を得た。 領域 大項目 質問 情動 支援 雰囲気作り ○学期のクラス 活動について、A 先生は「〜大 項 目〜」について どうでしたか? 例) 1学期のクラス活 動について、A先 生は「幼児の視 点への配慮」っ てどうでした? 保育者の敏感性 幼児の視点への配慮 クラス 運営 基本的生活習慣や決まりの獲得 方法や学びの型の提示 クラスに生じる混乱への対応 教育 支援 思考過程の深まり 振り返りの質 言葉のモデル 表1 振り返り項目および半構造化面接の問い 3.結果及び考察 3-1.「幼児の視点への配慮」に関する語り 1学期の振り返り:担任保育者の語り(7月23日) 1学期は、子どもたちの視点に関して、私、大反省 です。集まりの時間に、(1)私が話の流れをつい進め たくなちゃったんですよね。私、ずっと 5 歳児の担 任をしてたでしょ? だからつい「これ位はできる よね」みたいな視点が強かった。だから、(2)年長の 感覚というか、ペースが体に染みついていて。子ど
保育者は、1 学期のクラス活動の展開に関して「(1) 私が話の流れをつい進めたくなっちゃった」と、幼児の 視点ではなく、保育者主導になりがちであった点につい て語っている。保育者はその理由を「(2) 年長の感覚と いうか、ペースが体に染みついていて」と、年長担任の 経験軸をもとに行動していたことを振り返っている。た だし、「(3) 年長と年中は違うって頭で分かっていても、 いざ子どもたちと集まりをしていると、アップテンポに なってる私がいました」と、思考と行動の不一致につい て悩みを吐露する様子が見られている。この思考と行動 の不一致について、保育者は「(4) 子どもたちも、これ がやりたい、ができないと、その場にいてもつまらない ですよね。だから、話を聞いてくれないし、面白くな い。そうなって、はじめて「あ、違った。そうだよね、 違うよね」って、子どもの視点で立ち返る」と語ってい る。これは、保育者主導になりがちな視点や活動の展開 で、保育者と幼児の思いの不一致に気づく語りである。 Lester & Maudsley(2006)は、子どもの好きな場の視 点と大人が教育的意図を込める場の視点には明らかな不 一致があることを指摘している。これは、場についての 議論であるが、クラス活動において保育者が「このよう な活動をしたい」と思う教育的意図と幼児が「こうした い」と思う視点の不一致には類似した構造があると考え られる。この保育者は、幼児が表出する「つまらない」 態度からクラス活動での思いの不一致を振り返ること で、幼児の視点からクラス活動を捉える必要性に気づい ている。 また、幼児の視点に立ってクラス活動を展開すること の大切さを実感する一方で、「(5)「あー、この子何か考 えてるな」って思っても、そこまで待てなくて、つい意 見をポンと出してくれる子に応答することが多かった」 というような語りも見られている。これは、幼児が思い を表出するタイミングと保育者が活動を進行していくス ピードのズレが示されている。これは、幼児の視点に立 つことが必要であると気づいたからこそ、普段は即興的 に意見を出してくれる幼児の発言や活動の文脈にタイミ ングよく合う子どもの語りや意見を優先しがちであった ことを振り返ることにつながっている。このように、省 察を通して視点が広がることで、その時の判断の妥当性 を問う保育者の心の揺れ動きが表出したと考えられる。 以上、1 学期は、保育者がこれまでの経験知に頼って しまう傾向があったという自覚とともに、眼前の子ども たちの表出によって幼児の視点に立つことの必要性に気 づく語りがなされている。しかし、幼児と保育者の思い のズレが埋まらないことから、幼児の視点に立つことの 困難感が語られた。このように、1 学期のクラス活動に 対する保育者のクラス活動の意識や振る舞いは、活動が 保育者主導になりがちであるが、幼児の視点と保育者の 視点の間で揺れている点が示された。 2学期の振り返り:担任保育者の語り(12月21日) 2 学期においても、引き続き「(1) 保育者から声をか けたり流れを進めたりすることが多かった」と、担任保 育者は語っている。しかし、「(2) 行事が子どものやる気 で進んだし、だから私の中でも話の流れが揺らいでも、 なんとかなるか、って思えるようになって」と、保育者 の意識が変化してきている語りもまた見られている。こ こでは、保育者主導であっても、また保育者の進め方に もたちが四方八方に行動したり、話し出すと、つい 流れの方向を守りたいと思ってしまった。(3)年長と 年中は違うって頭で分かっていても、いざ子どもた ちと集まりをしていると、アップテンポになってる 私がいました。やってる時も、やっぱそうやっちゃ うことが多くて、「あ、しまった!」って思っても、 もう後の祭りですよね。だって、(4)子どもたちも、 これがやりたい、ができないと、その場にいてもつ まらないですよね。だから、話を聞いてくれないし、 面白くない。そうなって、はじめて「あ、違った。 そうだよね、違うよね」って、子どもの視点で立ち 返る。で、子どもたちの視点を大事にしようと思っ ても、子どもから「これがいい」とか、出る子は出 るんですけど。出ない子もまだ多くて。(5)「あー、こ の子何か考えてるな」って思っても、そこまで待て なくて、つい意見をポンと出してくれる子に応答す ることが多かったです。まぁ、意見を出してくれる のは嬉しいんですけど、全然噛み合わないから、そ して、曲げないからすごく大変でした。 2 学期は、行事が多くて、(1)保育者から声をかけ たり流れを進めたりすることが引き続き多かったで す。ただ、子どものやる気が大きかったのに救われ たと思っています。子どもの中で「運動会やりたい」 とか、「動物園の遠足に行く時のお約束を守るぞー」 とか。あ、動物園に行く前に、子どもたちが団体行 動とか一切できるような状況じゃなくて。で、遠足 は、貸切じゃなくて、普通に一般のお客さんもいる でしょ?だから、これはまずいってことになって。 子どもたちが遠足をすごく楽しみにしているから、 ちょっとみんなに考えてもらったんですよね。動物 園にはお約束があるってことを。そしたら、「遠足に 行くまでにみんなで頑張ってお約束を守れるように なるぞ!」ってことになって。(2)行事が子どものや る気で進んだし、だから私の中でも話の流れが揺ら いでも、なんとかなるか、って思えるようになって。 逆にそうなったからこそ、(3)声が出ない子の思いを 聴きたいって思いました。だから、遊びながら色々 と呟いてくれるのを聴く中で、(4)あ、こんな面白い こと思ってたんだ、集まりでは言わないけどちゃん と考えてたんだって発見したら、その子に「すごく 大事だと思うから後でみんなの前でそれ伝えてみよ う」と話をしたりしています。
クラス運営における保育者の意識や振る舞い 迷いが生じても、幼児の思いや気持ちが活動に向いてい る様子が見られる場合は、クラス活動の展開が多少揺ら いでも保育者は「なんとかなる」と考えるようになって いる。これは、クラス活動における幼児の参加姿勢と保 育者の納得感や手応えとが関連していることを示唆して いる。 また、1 学期に引き続き、保育者は「(3) 声が出ない子 の思いを聞きたいって思いました」と語るように、クラ ス活動の中で発言や声が前面に出て来ない幼児に配慮す る必要がある点に触れている。これは、先ほどのクラス 活動での保育者の納得感や手応えが、クラスの多様な子 どもの表出を捉えようとする心のゆとりにつながってい ると考えられる。具体的には、1 学期は集まりの時間の 中で「待つことができない」ことの苦しさが語られてい たが、2 学期には「(4) あ、こんな面白いこと思ってたん だ、集まりでは言わないけどちゃんと考えてたんだって 発見したら、その子に「すごく大事だと思うから後でみ んなの前でそれ伝えてみよう」と話をしたりしています」 と語っている。これは、保育者の心のゆとりによる視点 の変化や気づきが幼児理解や活動のアプローチを広げる ことにつながったとも考えられる。クラス活動の時間だ けで子どもの思いを聴こうとするのではなく、クラス活 動以外の生活時間などを活用しながら、「声が出ない子」 の思いを拾い、クラス活動で子どもたち全員に還元して いけるような関わりを見出していることが語られた。 以上、2 学期においても、クラス活動は保育者主導に なりがちであるが、活動内で幼児同士が思いを表出し、 共通の目標を意識しあうようになることで、保育者は、 保育者主導の展開であっても問題がないと思えるように なっている。これは、幼児の参加姿勢が保育者のクラス 活動の意識変容につながるといった、[保育者-幼児] の関係性のあり方に言及するものであった。その中で、 クラス活動では思いを表出することが難しい幼児や、活 動内で取り上げることができない幼児の声を引き出そう とする保育者の姿勢が示された。このように、保育者は 活動時間に縛られることなく、幼児の気持ちを多様な保 育場面の中で聴き取ることでクラス活動の展開をより多 くの子どもに開こうとする工夫に意識が向くようになっ ている点が示された。 3学期の振り返り:担任保育者の語り(3月21日) 3 学期になると、保育者は「(1) 幼児のやりたい思い がクラスの中に声として届くようになった」や「(2) 子 どもたちの「こうしたい」が方向付けてくれるから、私 が話の流れを方向付ける必要もなくなって」と語るよう になっている。ここでは、幼児の語りや提案に沿ったク ラス活動の展開が増えることで、保育者主導で活動を展 開する必要性が少なくなった点が示されている。これ は、2 学期の[保育者-幼児]の参加姿勢の関連と同様 の構造が見てとれる。また、担任保育者は、そのように 受け止めることができた経験として「(6) 生活発表会に 向かうまでの経験がすごく大きかった」ことを挙げ、行 事を通して得た幼児個々の自信がクラス活動の参加に肯 定的な影響を及ぼしているという保育者の見取りについ て語っている。この点から、幼児の発達とともに活動に 対する達成感の共有が幼児間でなされていくといったク ラスの 1 年間の育ちを通して、クラス内の関係性や雰囲 気が深まっていることが示されている。また、クラスの 関係性の深まりが保育者主導の活動展開を抑制すること につながるといった関連が指摘されている。 一方、保育者はクラス活動の中でみせる幼児の変化 を、「(7) 嬉しいんだけど、手放しで喜べない時もあった」 と省察している。それは、「別の話で盛り上がっている」 と保育者が語るように、クラス全体で共有されている内 容と幼児同士のやりとりの内容が一致していないことに 対する保育者の困り感であると考えられる。これは、ク ラス全体で一つの内容を考えたいという視点と共有した 内容から派生する幼児の発想を大切にしたいと思う視点 3 学期は、(1)幼児のやりたい思いがクラスの中に 声として届くようになった。だからこそ、(2)子ども たちの「こうしたい」が方向付けてくれるから、私 が話の流れを方向付ける必要もなくなって。それも また、ここまできて「やっぱ子どもたちがやりたい 方が、展開が面白いよね」ってなるんですよ。でも、 (3)この時期だからこそ、そう思えるというか。この 場で話していて、じゃあ 1 学期とかって何ができた かなってすごく思います。(4)みんなのゴールが何と なくボヤッとでもあるからこそ、話していて楽しい と思うし。だとすると、1 学期は同じようにすれば 楽しめるかというと、ほとんどの子がポカーンとな るし。そう、だから、すごく(5)子どもたちの視点に 立つってすごく良いことだとは思うけど、すごく難 しいなって改めて思っています。すみません、話が 大きくなっちゃった。えっと、3 学期はさっきも言っ たけど、子どもたちの「やりたい」が多くて。可愛 い衣装を作ったら、集まりの時間にショーをみんな に見せたいとか、絵本を作ったから見てほしい、とか。 それは、(6)生活発表会に向かうまでの経験がすごく 大きかったと思います。自分たちのやることに自信 を持っているから、まずは友達に見せたい!ってなっ て。それがまた自信になって。正直嬉しいんですよ。 (7)嬉しいんだけど、手放しで喜べない時もあった (笑)。子どもたちには行事に向かう過程も楽しめる ようにしているし、で、行事が近いからその話をし たいんだけど、別の話で盛り上がっているからでき ない時もあって。でも、もう限界かな、という時に は「ちょっと話をしてもいい?」とかになって。さっ きも言った、(8)子どもの視点に立つってどこまで を、ってすごく悩ましいし、これからもずっと悩み ながらやっていくと思います。
の間で生じる保育者の気持ちの葛藤が見られており、幼 児の視点に配慮するクラス活動に対して、1,2 学期とは 異なる保育者の思いが表出していると考えられる。 幼児の視点に関して、担任保育者は「(3) この時期だか らこそ、そう思えるというか。この場で話していて、じゃ あ 1 学期とかって何ができたかな」と振り返っている。 ここでは、3 学期だからこそ見られる幼児の発達やクラ スの雰囲気の深まりを踏まえて、1 学期に幼児の視点に 配慮したクラス活動のあり方を保育者は自問自答してい る。その中で、「(4) みんなのゴールが何となくボヤッと でもあるからこそ、話していて楽しいと思う」という点 に触れて、クラス活動で全員が共有できる視点を持つこ とが大切であると結論づけている。だからこそ、保育者 は「(5) 子どもたちの視点に立つってすごく良いことだ とは思うけど、すごく難しい」と語り、1 学期に幼児の 視点に基づいたクラス活動を展開することが難しいこと を再度振り返っている。保育者は最後に、「(8) 子どもの 視点に立つってどこまでを、ってすごく悩ましいし、こ れからもずっと悩みながらやっていくと思います」と語 り、幼児の視点に配慮することとクラス活動のあり方を 両立させることの困難感とともに、常に直面する課題が 異なるからこそ、この結論の出ない問題を引き受けなが ら、今後の実践に向うことの決意表明がなされていた。 これらの語りを通して、保育者の省察は[過去に受け 持ったクラスの幼児の姿-今のクラスの幼児の姿]と[今 のクラスの幼児の過去の姿-今のクラスの幼児の現在の 姿]といったように、学期に応じて参照する対象が変容 していることが分かった。また、幼児の視点に配慮する クラス活動は、3 学期までに幼児とクラスの確かな育ち を保育者が感じとり、そこに 4 歳児に対して望む理想像 や保育者の願いが加味されることで、常にクラスとして の可能性を探り続ける保育者の姿勢が示されている。し かし、現在の育ちから過去のあり方を問うことは、「で きなかった自分」を顕在化することにもなるため、自己 肯定感を低下させてしてしまう危険性をもまたある。こ のように、保育者は一年を通して幼児の視点からクラス 活動のあり方を考える中で、「1 学期に同じようにする とポカンとなる」と語るように、現在の姿から過去に出 来たこと(すべきであったこと)を問うのは、子どもに とっても適切な支援のあり方ではないことを結論づけ、 今の幼児の姿を肯定的に受け止める姿勢の必要性に言及 している。 3-2.「クラスに生じる混乱への対応」に関する語り 1学期の振り返り:担任保育者の語り(7月23日) 1 学期のクラス活動の混乱に関して、保育者は、「(1) 集まりの時間の中で喧嘩がほとんど起こらなかった」点 を語っている。具体的には、保育者は「(2) 以前、年中 を持った時に比べて、全然喧嘩が起こらないから、えっ、 なんで?って思った」と語っていることから、過去の年 中クラス担任としての経験と比較して現在の幼児の状態 を捉えようとしていることが分かる。これは、「幼児の 視点への配慮」と同様に、1 学期は保育者自身の経験に 依拠しながら、現在の幼児との関わりを模索するといっ た保育者の視点が示された。また、保育者にとって喧嘩 が少ないと思っても、観察者から見たら多かったと捉え られるかもしれないと、保育者は自分の見方を留保して いる。ここでは、クラス活動の実態に対する見方を客観 的に捉えようとする保育者の姿勢がうかがえる。 その中で、保育者は気になる点として「(3) 子どもた ちは何かあると常に私にアピールする」ことを挙げてい る。そして、「(4) 子どもたちの目はいつも大人に向いて いるから、もっとお互いにぶつかって!」という気持ち を吐露している。これは、クラスの子どもたちが、[保 育者-幼児]の関係の中で思いを表出しようとするだけ で、[幼児-幼児]のやりとりの中で相手を知ろうとす るまでには至っていないといったクラスの状態に対する 保育者のもどかしい思いが語られている。これは、「(5) もっと「自分」がぶつかり合えば良いなって思ったんで すけど、すごく難しかった」という語りをみてもわかる ように、保育者は同じ 4 歳児であっても、年度が違えば 4歳児の特徴は異なる。そのため、過去と同じやり方が 通用しないといった、保育者の経験や願いとクラスの実 態の乖離がこの保育者の困難感につながっていると考え られる。 ただし、「(6) 年中になったばかりで難しい時期だから こそ、1 学期はまあそうだよねと思うところはありつつ も、バラバラすぎて焦っていたりもしていたなと思う自 分がいます」と語っており、保育者が理想とする幼児の 1 学期は、(1)集まりの時間の中で喧嘩がほとんど 起こらなかったです。[観察者]から見たら、多かっ たと思うんですけど(笑)。私は(2)以前、年中を持っ た時に比べて、全然喧嘩が起こらないから、えっ、 なんで?って思った。うん。気になったのは、(3)子 どもたちは何かあると常に私にアピールするんです。 (4)子どもたちの目はいつも大人に向いているから、 もっとお互いにぶつかって!って思った。喧嘩はな かったけれど、子どもたちはそれぞれに自分の軸が あって。もう、ひっちゃかめっちゃかなの(笑)。分 かりますよね?まだ周りを見ることができないのか な、とも思ったけど、でも「自分」なんですよね、 彼らは。そう私は関わっていて感じた。だから、(5)もっ と「自分」がぶつかり合えば良いなって思ったんで すけど、すごく難しかった。それ、私じゃなくて周 りの友達に向けてあげて!って。もう。ただ、そん なことを言っても、(6)年中になったばかりで難しい 時期だからこそ、1 学期はまあそうだよねと思うと ころはありつつも、バラバラすぎて焦っていたりも していたなと思う自分がいます…。
クラス運営における保育者の意識や振る舞い 姿と実際にクラスで表出する幼児の姿との不一致や、保 育者が受け止めようとする幼児の姿と実際に表出される 幼児の姿を保育者が受け止め切れていない実態がクラス に生じる混乱として生じており、保育者の認識とクラス の実態のズレを意識していることがわかる。 2学期の振り返り:担任保育者の語り(12月21日) 2 学期に関して、保育者は冒頭に「(1) クラスもまだ 騒がしいんだけど、運動会の時にヨウタが「なんで勝て ないの?」って呟いた言葉が子どもたちに響いたんです よね。あれが大きかった」と語っている。このことから、 クラスに生じる混乱は 1 学期から継続的に起こっていた けれども、運動会の時に一つの転機があったことに触れ ている。またその時に、ヨウタが呟いた場面から、「(2) みんな、ちゃんと聞いてるんだなぁー、ってあの時ほど 実感したことはない」と語っている。ここでは、幼児の 言葉が他の幼児に伝わるという実体験を通して、子ども の育ちを確認するとともに、保育者自身の意識や振る舞 いが変化していることが確認できる。具体的には、クラ スの子どもは「もともと自分を持っている子ども」であ り、ヨウタと同様に勝てないことに対して引っかかる気 持ちがあったからこそ、ヨウタの語りが他児にとって「意 味ある呟き」としてクラスに位置付いたと保育者は考え ている。クラス活動は、保育者の意識の中で保育者主導 になりがちではあると捉えているが、子どもの語りや声 が持つ可能性に目を向けようとする保育者の視点の変化 が見られている。 しかし、子どもたちの変化を感じる一方で、保育者は 「(3) 雑談は子どもたち同士でするけど、みんなに対して 気持ちを伝えることはまだ難しい」と語っているように、 保育者は、(1) の冒頭にも触れている課題に立ち返って いる。その中で、幼児が保育者を介して自分の気持ちを 相手に伝え始めるようになったことで「(4) 自分の気持 ちを出すって、大人でも難しい」という語りもまた見せ ている。ここで保育者は、幼児に求めていることは実際 に大人にとっても課題である点に触れている。そして、 子どもたちの行為を単に幼児の育ちの変化と捉えるだけ ではなく、幼児の行為の変化が持つ素晴らしさを大人と の対比の中で語っている。このように、保育者は自分 がこれまで幼児に求めていた関わりを問い直すことで、 「(5) 私を介してですけど、伝えようとしてるんだ」や「(6) ちゃんと相手のことを聞いて、自分で考えてるってこと でしょ?ちゃんと考えてるからこそ気持ちのズレって起 こるし、それをどうでもいいや、じゃなくて、ちゃんと 伝えようとする。あー、育ってるなって思った」と語っ ている。ここでは、冷静に状況を振り返って、子どもの 変化の意味について考察することで、少しでも変容して いる幼児の姿が、保育者の中で肯定的に捉えられるよう になるといった保育者の変化が示されている。ただし、 その直後に「(7) 正直、2 学期もすごいワチャってなっ ていたし、でも一方ではちゃんと気持ちを伝えようとし てくれる子もいるし。もうどっちもが大事で、ないがし ろにできないからこそ、もう私の頭はパンクしっぱなし でした」と語っており、子どもたちの成長を受け止めた いけれど、クラス活動で自己主張し合う幼児の表出を受 け止めきれないことに、保育者は難しさを感じているこ とがわかる。 このように、保育者自身が眼前の子どもたちの振る舞 いや表出によって、自分の関わりの在り方に揺れ動きな がらクラス活動に向き合っている様子が示された。 3学期の振り返り:担任保育者の語り(3月21日) 2 学期は、(1)クラスもまだ騒がしいんだけど、運 動会の時にヨウタが「なんで勝てないの?」って呟 いた言葉が子どもたちに響いたんですよね。あれが 大きかったと思う。もともと、「自分」を持っている 子たちだから、うすうすみんなそう思っていたんだ と思います。シーンとなった。だから、ヨウタの呟 きは意味ある呟きだと今振り返るとすごく思う。っ てか、(2)みんな、ちゃんと聞いてるんだなぁー、っ てあの時ほど実感したことはないですよ(笑)。ほん と、ゴーイングマイウェイだから、あの子たち。で、 確か、私、1 学期の時、もっとぶつかり合ってほし いとか言ったと思うんですけど。合ってます? で、 (3)雑談は子どもたち同士でするけど、みんなに対し て気持ちを伝えることはまだ難しいみたいで。でも、 子どもたちは保育者を介して気持ちを伝え始めたか なって。ようやくですけど。なんか、すごいなって 思った。だって、正直、(4)自分の気持ちを出すって、 大人でも難しいじゃないですか。それをあの子たち は(5)私を介してですけど、伝えようとしてるんだっ て。それって、(6)ちゃんと相手のことを聞いて、自 分で考えてるってことでしょ?ちゃんと考えてるか らこそ気持ちのズレって起こるし、それをどうでも いいや、じゃなくて、ちゃんと伝えようとする。あー、 育ってるなって思った。はい。でも、これは一面的 で。(7)正直、2 学期もすごいワチャってなっていたし、 でも一方ではちゃんと気持ちを伝えようとしてくれ る子もいるし。もうどっちもが大事で、ないがしろ にできないからこそ、もう私の頭はパンクしっぱな しでした。 3 学期は、癇癪を起こすってことはほとんどなく なった…と私は思いました。(1)冷静に相手に思って いることをぶつけるようになった…うん。私にだけ 向いていた視点が、2 学期に緩やかになって、での 今。長かったなぁって思います。相手の思いを受け 止めるようになって、意見が出てくることが多くなっ た。「じゃあ、こうってことは?」って、お互いに気 持ちを伝え合うことが増えてきました。友達やクラ スの関係が深まったなって。(2)障害児のダイに対し ても、何かやらかしても、単なる注意でも、マスコッ
3 学期になると、保育者は「(1) 冷静に相手に思って いることをぶつけるようになった…うん。私にだけ向い ていた視点が、2 学期に緩やかになって」と語っている。 これは、クラス活動における幼児の視点が保育者から他 児に向かうようになり、気持ちを伝えるようになってい るクラスの変化について触れられている。また、保育者 は「癇癪を起こすことがなくなった」と語っているよう に、問題解決に向けて幼児が双方向的なコミュニケー ションをとり始めたことにも言及している。このような 変化は、クラス関係の深まりとの関連で指摘されており、 「(2) 障害児のダイに対しても、何かやらかしても、単な る注意でも、マスコットみたいに可愛がるでもなくて、 「〜したかったのかな?」とか考える子もいて、「あ、そ うなの?」ってなって。そういう雰囲気が集まりの時間 に出てきたのはすごいなって正直思う」と振り返ってお り、保育者は幼児が気持ちをぶつけ合うことと他児のこ とを考えられるようになることの関連の中で混乱の実態 を捉えていることがわかる。その中でも、保育者は、ク ラスの混乱はクラスの関係性と幼児の発達が相互に関連 し合う中で変化していった過程に言及していた。 また、3 学期になると「(3) 一応集まりの時間だから 「おーい、みんなー、戻ってきて」って思うこともたく さんありました」という保育者の語りからも分かるよう に、クラス活動に対する保育者の焦りは 1,2 学期ほど見 られず、クラス活動に対して保育者が持つ主導性の意識 もまた 1,2 学期ほど強くないと言える。これは、「幼児 の視点への配慮」でも触れたように、[保育者-幼児] の参加様式の変化が肯定的な保育者の意識や関わりの変 化を引き出していると考えられる。そのような中で、保 育者は、「(4) 思いの交通整理をしてあげることが大事 だった」や「(5) 何て言えばよかったかなぁって反省は いつもありました」として保育者の意識や振る舞いにつ いて振り返っている。ここでは「クラスの混乱」に対し て、保育者は、適時適切な言葉かけや振る舞いのあり方 の妥当性を自身に問いかけている。これは、1 学期から の援助の手立てとは異なっており、保育者は、幼児のニー ズや実態に応じて日々の関わり方を模索する中で、混乱 に対応しようとする保育者の姿勢が示されたといえる。 以上の点について、保育者は「(6)1 学期から 3 学期まで こう見てみると、クラスの混乱って、私の混乱もそうだ けど、子どもの混乱もぶつかり合いも、変わったなって。 うーん、何というか混乱の質?が違うというか」と表現 している。つまり、「クラスの混乱」は学期ごとに多様 に見られたが、時期に応じて幼児が表出する姿やその姿 を受け止める保育者自身の混乱もまた異なっており、保 育者はそれを「混乱の質」という言葉で示している。ま た、「クラスに生じる混乱への対応」に関して、保育者 は「一人でクラスに向き合っているわけではない」と語 るように、幼児同士の関わり合いなどにみられる互助関 係が保育者のクラス活動への意識を変化させていると言 える。つまり、保育者が問題を一人で抱え込む必要がな いという意識の転換もまた、保育者が感じる「混乱の質」 の変化につながっていると考えられる。 4.総合考察および課題 本研究は、保育のクラス活動において、「幼児の視点 への配慮」と「クラス活動に生じる混乱」の二点に関す る保育者の省察に着目して、保育者が幼児の表出をどの ように受け止めているのかを検討した。 そして、以下の三点の特徴が見られた。第一に、保育 者は集団の難しさや分からなさを引き受け、また幼児と 対話をしながら、「集団の不明瞭性」に向き合っていく 姿勢を構築していた点である。 第二に、保育者は「集団内の保育者主導性」への留保 を意識的に行っている点である。保育者は、クラス活動 で保育者主導にならないようにするのではなく、保育者 主導を意識してしまうこともまた仕方がないこととして 受け入れながらも、その中で幼児が主体的に参加可能な 活動展開の在り方を模索するといった、保育者の葛藤が 示された。これは、諦念ではなく、保育者がクラス活動 を幼児とともに味わい楽しむ中で、その都度生じる出来 事を面白さに変えていくといった視点の転換や工夫が示 されていた。 第三に、保育者は、「個と集団の二項対立図式」を乗 り越える視点をもってクラス活動に向き合っていた点で ある。保育者はクラス活動の中で幼児の個々の語りや声 をクラスに返していくことで多様な幼児の参加を意識す るようになっていった。そこでは、クラス活動だけで個々 の幼児を捉えることの限界があることから、クラス活動 以外の時間で幼児の思いを汲み取っていくことで、クラ ス活動が幼児の参画のあり方を模索するといった保育者 トみたいに可愛がるでもなくて、「〜したかったのか な?」とか考える子もいて、「あ、そうなの?」ってなっ て。そういう雰囲気が集まりの時間に出てきたのは すごいなって正直思う。でも、(3)一応集まりの時間 だから「おーい、みんなー、戻ってきて」って思う こともたくさんありましたよ。だって、みんながそ のことを話しているわけじゃなくて、これまでの話 を聞いてる子は「早くして」って言うし、まだホワー ンとしている子もいるし。だから、(4)思いの交通整 理をしてあげることが大事だった。それは、「ナント カちゃんがこう言ってたよ」とかじゃなくて、その 雰囲気が伝わるように。だから、(5)何て言えばよかっ たかなって反省はいつもありました。今思うと、ほ んと、(6)1学期から 3 学期までこう見てみると、クラ スの混乱って、私の混乱もそうだけど、子どもの混 乱もぶつかり合いも、変わったなって。うーん、何 というか混乱の質?が違うというか。私は一人でク ラスに向き合っているわけではないんだ、って思い ます。
クラス運営における保育者の意識や振る舞い の工夫や、その難しさからの葛藤が示されていた。つま り、幼児の「個」と「集団」がクラス活動の中で共存す ることで、4 歳児がお互いに刺激や影響を受け合いなが ら育つ姿を捉えようとしていたといえる。 以上、「幼児の視点への配慮」と「クラスに生じる混 乱への対応」の観点からクラス活動の変容を示した展開 をまとめたのが、図 2 である。4 歳児の発達や眼前の子 ども理解との関係で、保育者の現状の捉えもまた変容す ることが示された。例えば、保育者は眼前の子どもを捉 える際に、4 歳児の発達的特徴よりも、保育者の経験を もとに比較検討をしながらクラス活動内の幼児の表出を 捉えようとしていた時期から、幼児の発達を踏まえてク ラスの幼児の表出に目を向けようとしていく時期などを 経ていた。しかし、眼前の子どもたちを的確に捉えるこ とは不確定な要素が多いことから、保育者の語りには揺 れがみられた。その中でも、クラス活動に見られる保育 者の三つの特徴は、保育者がクラス活動に持つねらいや 視点が幼児の表出や参加姿勢に出会い、混乱する中でク ラス活動の枠組みを脱構築し、保育者の意識や振る舞い を変容させていくことで幼児の視点を配慮していくと いった変化を生じさせていた。そこでは、保育者自身が 学期ごとに意識や振る舞いを変化させながらその手応え や難しさを実感していくことで、常にクラス活動のあり 方を問い続け、向き合い続ける姿勢が示された。 最後に本研究の課題を示す。本研究結果を受けて、保 育者や小学校教員の子ども理解に対する視点の違いを検 討する必要がある。今回、クラス活動における 4 歳児の 表出の変化に対する保育者の意識や姿勢を語りから検討 したが、本文の保育者の語りは幼児の小さな変化を肯定 的に語る中で、保育者の意識や関わりもまた変容してい く動性を示していた。しかし、4 歳児で望まれる姿、5 歳児で望まれる姿、児童期に望まれる姿は異なる。本研 究で示されたように、保育者や小学校教員の経験と子ど も理解が関係しているとすれば、実際に今回検討した保 育者の実践内容の映像記録を異なる年齢の担当や校種の 先生に見てもらうと、そこで語られる内容もまた異なる ことが想定される。また、保育所や認定こども園のよう に 0 歳から集団を経験してきた 4 歳児と、幼稚園のよ うに 3 歳から集団に入った 4 歳児では経験の量が異な るため、乳幼児期の施設形態の違いによっても、保育者 の語りは異なることが考えられる。今後、施設形態や学 校種を超えた聴き取り調査を行っていくことで、保育観・ 教育観に通じる子ども理解のありかたを検討していく必 要がある。 [注釈] 注1 本稿で用いるクラス活動とは、朝や帰りの会、お 昼前にクラス全員が集まる活動で、話し合い、絵 本、ゲームなどの活動の全てを指す。 【引用文献】 阿部和子・前原寛(編) (2009). 保育課程の研究,萌文 図2 クラス活動における保育者の関わりと意識の不一致からみた学期別の形態の変容
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Yuta MIYAMOTO