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3.戦後国際経済モデルと為替レート ... 6

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(1)

1

ケインズの為替レート概念と均衡為替レート分析 学説史的・計量的分析

目次

はじめに ... 2

Ⅰ.購買力平価説とその展開 ... 2

1.古典的購買力平価説 ... 3

2.相対的購買力平価説とその修正 ... 5

3.戦後国際経済モデルと為替レート ... 6

4.新しい開放マクロ経済学と購買力平価説の復活 ... 15

Ⅱ.J. M.

ケインズによる購買力平価説批判 ... 21

1.

『貨幣改革論』における購買力平価説批判 ... 21

2.

『貨幣論』における購買力平価説批判 ... 25

3.

『一般理論』における購買力平価説批判 ... 28

Ⅲ.ケインズから均衡為替レートの実証分析へ ... 31

1.均衡為替レートの計量分析:BEER

FEER ... 31

2.FEER

による若干の計量分析 ... 33

おわりに ... 42

図 1 基本的なマンデル=フレミング・モデル ... 7

図 2 物価水準の変化を考慮したマンデル=フレミング・モデル ... 9

図 3 ドーンブッシュ・モデルにおける名目為替レートの経路 ... 10

図 4 ドーンブッシュ・モデルの位相図 ... 11

図 5 ドーンブッシュ・モデルにおける拡張的金融政策の効果 ... 12

図 6 ドーンブッシュ・モデルにおける拡張的金融政策と諸変数 ... 13

図 7 ドーンブッシュ・モデルにおける拡張的財政政策の効果 ... 13

図 8 ドーンブッシュ・モデルにおける拡張的財政政策と諸変数 ... 14

図 9 アメリカの潜在

GDP ... 35

図 10

EU

の潜在

GDP ... 36

図 11 日本の潜在

GDP ... 36

図 12 イギリスの潜在 GDP ... 37

図 13 アメリカの均衡経常収支 ... 38

図 14

EU

の均衡経常収支 ... 38

(2)

2

図 15 日本の均衡経常収支 ... 38

図 16 イギリスの均衡経常収支 ... 39

図 17

4

通貨のミスアライメント ... 41

表 1 基本統計量(経常収支) ... 33

表 2 基本統計量(GDP) ... 33

表 3 基本統計量(実質実効為替レート) ... 34

表 4 パネル計量分析推定結果 ... 34

表 5 固定効果 ... 35

表 6 パネル計量分析推定結果 ... 40

はじめに

本稿は、現代における購買力平価説の復活等いう状況を踏まえ、経済学における為替レ ート理論をどのように為替安定に利用するか考察することを目的にしている。そのために 第Ⅰ章では、購買力平価説とそれを取り巻く為替レート理論を学説史的に考察する。カッ セルに始まり、多くの修正が加えられ、代替的理論が提起されていたはずの購買力平価説 が、現代の新古典派マクロ経済学の隆盛とともにどのようにして復活してきたかが詳細に 分析され、内的連関において叙述されている。

第Ⅱ章は、この購買力平価説に当初から一貫して反対を続けていたケインズの為替レー ト観に文献考証的に詳細な検討を加える。ケインズ

3

部作の最初である『貨幣改革論』、ケ インズの初めての本格的理論書『貨幣論』、ケインズが独自の経済学を確立した『一般理論』

での購買力平価説批判が、順番に取り上げられる。ケインズは確かに明示的な為替レート 理論を残してはいないが、これらの文献を読み解くことによってかなり明確にその輪郭を 捉えることができるだろう。

第Ⅲ章では、ケインズの為替レート理論に最も近いと思われる均衡為替レート概念、

FEER

を用い、計量分析を行っている。明らかになったのは、均衡為替レートからの乖離、

あるいは、ミスアライメントが、リーマンショック以降、各国ともに急激に増大している という事実である。これに対して、一国的、あるいは、国際的にどのような政策的対処を 行えるかは答えを出すのがたいへん難しい問題であるが、最後に若干の示唆を示した。

Ⅰ.購買力平価説とその展開

本章では、次章でケインズの為替理論を扱う前提として、グスタフ・カッセルから現在に

(3)

3

至る購買力平価説の展開過程をフォローしておきたい。

1.古典的購買力平価説

古典的な購買力平価説がスウェーデン学派の経済学者グスタフ・カッセルによって提起 されたというのは、あまりにも有名な話である

1

。ただ、その実態についてこれまであまり 取り上げられることはなかったように思われる。最初に購買力平価説という言い方が現れ るのは、カッセルの

1918

年論文「国際為替の異常な偏移」においてである。この論文では 冒頭でいきなり購買力によって為替レートが決められるということが宣言される。そして、

1

次世界大戦後に各国で進んだインフレーションであったが、その程度が国ごとに異な るため、戦前の平価から戦後の為替レートが大きくずれる結果になったのだとしている

2

すべての瞬間において二国間の実質平価は、一国そして他国の購買力の比率によっ て表現される。私はこの平価のことを「購買力平価」と呼ぶことを提案したい。商品 の自由な移動、二国間の包括的な貿易活動といったような何らかの条件が成り立つ限 り、実際の為替レートは購買力平価から大きく離れることはできない。貿易制限であ っても、それが貿易を両方向に等しく動かす限り、為替レートが購買力平価から外れ る原因にはなりえないだろう。しかしながら、私が著書『不足と紙幣量』(ストックホ ルム、1917)で示したように、もし、二国間の貿易が他方に比べて一方によりひどく 妨害されるようなことがあれば、その場合は為替レートが購買力平価から外れるであ ろう。もし一国の輸入が輸出に比べてひどく制限されれば、結果的に外貨が獲得しや すくなる一方、使いにくくなるので、外貨の価値が下がることになる。輸入があらゆ る面で制限されているのに輸出が相対的に自由な国は、このようにして、その貨幣価 値が国内の購買力によって表現される内在的価値に対応する為替レートよりも海外で はるかに上昇することになる。

カッセルはこの具体的な議論を、自国スウェーデンを念頭に行っている。1916年、スウ ェーデン造幣局は金貨の鋳造を中止し、同時にスウェーデン中央銀行リクスバンクは兌換 の義務から解放された。こうして金本位制から離脱したスウェーデン通貨は外国通貨に対 する相対的購買力だけによって価値が支配されるようになった。ところが、その内在的価

1 もっとも、16世紀スペインのサラマンカ学派が購買力平価説をすでに唱えていたということもまたよく 言われる。狭義のサラマンカ学派という場合には、サラマンカ大学のサン・エリアス神学院にカルメル会士 によって形成された学派を指すが、同大学のサン・エステバン神学院でドミニコ会士が中心となって形成し た学派の方が経済学では重要である。1535年、ドミニコ会士のフランシスコ・デ・ビトリアがキリスト教で も禁止されていた利子の徴収に関する講義を行ったことをきっかけに経済的な議論が発展した。彼らはヨ ハネス・ドゥンス・スコトゥスの公正価格を批判し、市場価格こそが自然な価格であるとした。マルティン・

デ・アスピルクエタ・ナバロは当時の価格革命を背景にしながら、貨幣数量説、さらには購買力平価説と同 様の議論を展開したのであった。

2

Cassel (1918), 413.

(4)

4

値が、1917年以降、他国での為替レートにはうまく対応しなくなる。スウェーデンの通貨 高状態が長く続くようになったのである。1918年になると一転して通貨安になって、カッ セルが論文を執筆している時点で、イギリス・スターリングよりも安いと評価されている。

そんななか、当時イギリスのインフレーションはスウェーデンと同様に加速していた

3

それにも関わらず、スウェーデン通貨が金本位離脱前の平価に比べてイギリスでか なり高く評価されているという事実は、科学的な観点から極めて興味深い。現在の条 件下でそれを正しく解釈することは実践上高い重要性を有している。上で述べたこと を踏まえれば、説明は次のようになるだろう。今スウェーデンに輸入には極めて深刻 な障害があり、その障害の重さにおいて輸出のそれをかなり上回っているということ である。これら、スウェーデンの国際貿易が置かれた条件の帰結は、在外資産の未だ かつてない蓄積ということが、スウェーデンへの外国証券の大規模な輸入と相俟って 起きるということである。このことはまた、スウェーデンからの資本輸出がその経済 力をはるかに上回るかたちで起こるということでもある。海外および自国内の資本へ の需要が両者相俟ってスウェーデンの資本蓄積能力を上回っている。結果、スウェー デン・クローネの新しい信用は、通貨発行を増進し、貨幣を原因とするインフレーショ ンを加速することによってしか生み出せないということになる。

だから、カッセルは、クローネ高に不満を言う諸外国は、その原因が、彼ら自身がスウ ェーデンの輸入に課している制限にあるということを知るべきだと言う。諸外国はクロー ネ高を目の前にしてスウェーデンから信用を引き出し、それをスウェーデンからの輸入の 支払いに充てようとする。しかし、財の輸入は財の輸出で支払われるのが通常であって、

こうした信用依存の構造は結果としてスウェーデンの輸入に対する障害となっているので ある。いずれスウェーデン国内のインフレーションはクローネ高を是正することになるか もしれないが、それは信用増発の結果としての高インフレにスウェーデン国民が苦しむと いう代償を伴うものになる

4

もしスウェーデンが需要する財が通常のやり方どおりに財でもって支払われるなら ば、スウェーデンから信用を引き出す必要は全くない。これは経済的逆説であって、

全世界がスウェーデンという一国から信用を引き出すなら、この国は輸出の対価とし て輸入を切り詰めることを余儀なくされるので、現実には飢餓状態の縁に立たされる ことになるのである。

このようにカッセルは、現実に当時のスウェーデンが置かれた危機的な状況への対処を

3

Ibid., 414-415.

4

Ibid., 415.

(5)

5

考えるために購買力平価説を主張したのであって、それ自体を不変の原理と考えていたわ けではない。むしろ、当時は内在的価値を決める購買力平価水準がクローネに関して成り 立っていなかったことが問題の根源であった。こうした実践的課題のなかで生まれた購買 力平価説であったが、これが形式的に理論化していく過程で一種の規範としての意味を持 ち始める。

2.相対的購買力平価説とその修正

カッセルによって打ち出された購買力平価説が、各国が金本位制から一斉に離脱するな かで、新たな為替レートの平価を決める理論として求められていたということは明らかで ある。金本位制の下での金平価で各国為替レートは、兌換レートから地金輸送費の上下方 向への幅の分だけの狭いレンジに収まることになる。この金平価が外れたとき、何らかの 平価基準が必要とされたのであった。

無論カッセルが購買力平価説を最初に提示したのは歴史的な事実であるが、購買力平価 自体は常識的な一物一価の法則の応用に過ぎない。

p 𝑡 𝑖∗ − 𝑠 𝑡 = 𝑝 𝑡 𝑖 (1)

式(1)で

p

t

期の財

i

の国内価格を表し、

s

t

期の外国通貨建て為替レートである。ア スタリスクは外国の変数であることを示し、以後同様である。変数はすべて対数値である。

このように、個々の財に関して一物一価が成り立つのであれば、それらを集計した物価 水準についても同形の関係が成立するはずである。

𝑝 𝑡 = ∑ 𝛼 𝑖 𝑝 𝑡 𝑖 , 𝑝 𝑡 = ∑ 𝛼 𝑖 𝑝 𝑡 𝑖∗

𝑛

𝑖=1 𝑛

𝑖=1

(2)

式(2)において

α

は各国に共通の物価計算で使われる各財のウェイトであり、財は一般に

n

種類あるとしている。式(1)において式(2)を考慮することで、絶対的購買力平価説の関係 式(3)を得ることができる。

𝑠 𝑡 = 𝑝 𝑡 − 𝑝 𝑡 (3)

この絶対的購買力平価説の下では、実質為替レートは常に一定となるため、その対数値

q

は必ずゼロになる。

𝑞 𝑡 = 𝑠 𝑡 + 𝑝 𝑡 − 𝑝 𝑡 = 0 (4)

しかしながら、絶対的購買力平価説が成立するためには、その導出過程から明らかなよ うに各国の物価指数を構成する財が同一であることと各財のウェイトが均一であることが 必要である。しかし、実際にはその条件は満たされていない。ということは、絶対的購買 力平価説が理論上のものに過ぎず、実際のデータを見るときには他の購買力平価概念を用 いなければならないということである。それは相対的購買力平価説と呼ばれている。

相対的購買力平価説では、両国の物価の 2 時点間の変化率の間に購買力平価的な関係が

(6)

6

成り立つという想定をする。

∆𝑠 𝑡 = ∆𝑝 𝑡 − ∆𝑝 𝑡 (5)

式(5)において

Δ

は差分を表す。相対的購買力平価説は、両国で財のウェイトが異なって いたとしても、各国での財の相対価格が時間を通じて一定であれば成立する。

比較的近年の実証研究になるが、ロゴフ(1996)は現実の為替レートが購買力平価に回 帰する期間が、3年から

5

年と非常に長いことを見出し、それを

PPP

パズルと呼んだ。そ のような為替レートの購買力平価からの乖離を説明する理論として、古くから知られてい るのがバラッサ=サミュエルソン効果である。バラッサ(1964)とサミュエルソン(1964)

は現実の為替レートが購買力平価から乖離する原因として、貿易財と非貿易財の存在をあ げた。貿易財では一物一価の法則が成り立っている。また、生産要素のうち、資本は国家 間を自由に移動できるが、労働の移動は大きく制約されている。そんななか、ある国で貿 易財の生産性に上昇が見られたとすると、国際価格は変化しないので国内的な調整が賃金 上昇というかたちで行われることになる。労働は国際移動しないから非貿易財の生産部門 でも貿易財部門と同様に賃金が上昇するが、これは国際価格に固定されて価格が上昇しな い貿易財に比べて非貿易財の国内価格を相対的に上昇させる。これは当該国の物価水準の 上昇であるから、物価の変化しない外国に対して実質為替レートを減価させる。こうして 現実の為替レートは購買力平価から乖離していくのである。

右上添え字

T

で貿易財を、

NT

で非貿易財を表し、貿易財のウェイトを

α

とすれば、自国 と他国の物価水準に関して式(6)が成立する。

𝑝 𝑡 = 𝛼𝑝 𝑡 𝑇 + (1 − 𝛼)𝑝 𝑡 𝑁𝑇 , 𝑝 𝑡 𝑇∗ = 𝛼𝑝 𝑡 𝑇∗ + (1 − 𝛼)𝑝 𝑡 𝑁𝑇∗ (6)

これを絶対的購買力平価説の下での実質為替レートの式(4)の真ん中の辺に代入すると、

式(7)が得られる。

𝑞 𝑡 = (𝑠 𝑡 + 𝑝 𝑡 𝑇 − 𝑝 𝑡 𝑇∗ ) + (1 − 𝛼)[(𝑝 𝑡 𝑁𝑇 − 𝑝 𝑡 𝑇 ) − (𝑝 𝑡 𝑁𝑇∗ − 𝑝 𝑡 𝑇∗ )] (7)

式(7)の第

1

項は貿易財の国際的な相対価格である。バラッサ=サミュエルソン効果の仮 定通り、貿易財について一物一価が成り立っていれば、したがって、ゼロになる。第

2

は非貿易財の貿易財に対する相対価格が自国と他国でどれだけ乖離しているかを表してお り、バラッサ=サミュエルソン効果を表す項である。非貿易財の貿易財に対する相対価格 が国内で外国に比べて相対的に上昇すると、自国通貨は実質為替レートで増価することに なる。

3.戦後国際経済モデルと為替レート

戦後、マクロ経済学が主な対象としたのは、購買力平価が成立すると考えられた長期的 な均衡であるよりは、均衡からの短期的な乖離であった。このため、為替レートの決定理 論も購買力平価説とは相対的に独立した短期の理論として考えられる傾向があったと言え

(7)

7

よう。そうしたモデルは静学的なものと動学的なものとに大別できるが、前者はマンデル

=フレミング・モデル、後者はオーバーシューティング・モデルと呼ばれる。

マンデル(1963)とフレミング(1962)によって提起されたマンデル=フレミング・モデルは 以下の三つの式から成る。

Y = C(Y − T) + I(r) + G + NX(e) (8) 𝑀

𝑃 = 𝐿(𝑟, 𝑌) (9)

r = 𝑟 (10)

以下で登場するものも含めて、変数の記号は下記の通りである。

Y

:国民所得,

C

:消費,

I

:投資,

G

:政府支出,

T

:租税,

NX

:純輸出,

M

:マ ネーサプライ,

P

:物価水準,

L

:貨幣需要,

i

:名目利子率,

i *

:外国の名目利子 率,

r

:実質利子率,

r *

:外国の実質利子率,

e

:自国通貨建て名目為替レート,

ε

自国通貨建て実質為替レート。

式(8)は財市場の均衡、式(9)は貨幣市場の均衡を表しており、式(10)は国内の実質利子率 が外国の実質利子率と常に等しいという条件である。マンデル=フレミング・モデルでは物 価水準は一定とされるので、実際には、利子率、為替レート、マネーサプライの名目値と 実質値に違いはない。

縦軸に為替レートを、横軸に国民所得を測った平面上にマンデル=フレミング・モデル を表示すると図

1

のようになる。右上がりの曲線は式(8)を表現する

IS

曲線であり、垂直な 曲線は式(9)を表現する

LM

曲線である。

IS

曲線は名目為替レートの減価に対して純輸出が 増加し、これが国民所得水準を増加させる関係にあるので右上がりとなる。他方、

LM

曲線 は、式(9)を見れば明らかなように名目為替レートからの影響を受けないことから垂直とな る。

図 1 基本的なマンデル=フレミング・モデル

e

Y LM

IS

(8)

8

ここで拡張的財政政策が実施された場合の為替レートへの影響を考えてみよう。まず、

財政支出の増加、ないしは減税によって国内名目利子率の水準が上昇するが、開放経済で あれば即座に資本流入が生じることになる。結果、国内名目利子率は物価水準に変動がな い限り外国の名目利子率から変化しない。一方、資本流入は名目為替レートを上昇させる ので純輸出が減少する。純輸出の減少は一度増加した国民所得を再び減少させるので、最 終的に元の国民所得水準に戻る。一連の経過は、IS 曲線の右方シフトと元の水準への復帰 として表現されることになる。

次に拡張的金融政策が為替レートに与える効果を考えてみる。まず、中央銀行によるマ ネーサプライの増加は物価水準を一定として実質マネーサプライを増加させる。これによ って国内名目利子率は低下傾向を見せるが、資本流出が国内名目利子率を維持させること になる。一方で資本流出は名目為替レートを低下させるので、純輸出が増え、国民所得が 増加する。一連の動きは

LM

曲線の右方シフトによって表現される。

ちなみに輸入割り当てや関税引き上げといった貿易政策は均衡国民所得水準に影響を与 えない。なぜなら、貿易政策によって生じる純輸出の増大とともに国内名目利子率が上昇 し、資本流入が促される。結果、為替レートが増価するため、純輸出の増加がキャンセル されることになる。一連の変化は、図的には拡張的財政政策の場合と同じである。

ここまでのところ、国内物価水準が名目為替レートの変化に対して一定であるとして議 論を進めてきた。この仮定は物価水準が国内財価格にのみ依存していると考えることに等 しい。しかし、明らかに国内物価水準は輸入財価格からも影響を受ける。このことを考慮 した場合に議論がどう変化するかを考察する。物価の決定式は次のように表される。

P = λ𝑃 𝑑 + (1 − 𝜆)𝑒𝑃 𝑓 (11)

ここで変数の記号は

λ:国内財のウェイト、P d

:国内財価格、P

f

:輸入財価格である。式

(9)と式(11)を考慮すれば、図 1

LM

曲線は右下がりになることがわかる。まず、式(11)

より、名目為替レートが増価すれば国内物価水準が低下する。式(9)から国内物価水準の低 下は実質マネーサプライを増加させるので実質利子率が低下しなければならない。だが、

式(10)から実質利子率は外国の実質利子率水準に固定されているから、国民所得が増加した ときに初めて貨幣市場の均衡が回復する。このため、図

2

のように

LM

曲線が右下がりに なるのである。

(9)

9

図 2 物価水準の変化を考慮したマンデル=フレミング・モデル

2

のケースで経済政策が為替レートに与える効果を確認する。まず、拡張的財政政策 であるが、国内名目利子率の上昇は資本流入を生じさせて名目為替レートを増価させる。

ただし、それ以前に国民所得の増加は純輸出を減少させて国内物価水準を高めているはず なので、実質マネーサプライが減少して実質利子率一定の下で国民所得の増加は抑制され ている。つまり、先ほどのケースとは異なり、拡張的財政政策は若干の国民所得上昇効果 を持つとともに、名目為替レートも若干増価させることになる。これは貿易政策の場合も 同じである。なお、拡張的金融政策の効果は先ほどの例と大差はない。

これまでは小国の仮定の下でマンデル=フレミング・モデルを見てきたが、大国の場合、

式(12)が加えられねばならない。なお、ここで

NFI は対外純投資である。

NX(e) = NFI(r) (12)

式(12)を式(8)に代入すると下式が得られる。

Y = C(Y − T) + I(r) + G + NFI(r) (13)

小国の場合、式(10)のように国内実質利子率は外国の実質利子率に固定されていたが、大 国では式(13)と式(9)から実質利子率自体がモデルのなかで決定される。

この想定で拡張的財政政策が実施された場合、国民所得が増加し実質利子率が上昇する。

実質利子率の増加は対外純投資を減少させるので、名目為替レートが増価して純輸出が減 少する。

拡張的金融政策の場合、名目マネーサプライの増加によって実質利子率が低下する一方、

国民所得が増加する。実質利子率の低下は対外純投資を増加させて名目為替レートを減価 させる。名目為替レートの減価は純輸出を増大させる。

マンデル=フレミング・モデルのような静学モデルを動学化したオーバーシューティン グ・モデルにはいくつかの種類があるが、代表的なものとしてドーンブッシュ・モデルを取

e

Y

LM IS

(10)

10

り上げたい。ドーンブッシュ・モデルはドーンブッシュ(1976)によって提起されたものであ り、次の

6

本の方程式によって記述できる。

𝑝̇ = 𝜋(𝑦 − 𝑦̅) (14)

r = i − 𝑝̇ (15)

q = s + p − 𝑝 (16)

y = μg − σr − δc (17)

m − p = αy − λi (18)

𝑠̇ = 𝑖 − 𝑖 (19)

変数の記号は下記の通りである。ただし、

π

μ

σ

δ

α

λ

は正の定数であり、利子率 以外は自然対数値である。ドットは時間微分を表す。

p

:国内物価,

y

:実質国民所得,

y

:実質国民所得長期均衡値,

i

:名目利子率,

r

実質利子率,

s : 外国通貨建て名目為替レート, q

:外国通貨建て実質為替レート,

g

:財政支出,

m

:名目マネーサプライ。

式(14)はフィリップス・カーブの関係を表していると考えられる。すなわち、物価水準の 時間的変化が実質国民所得とその長期均衡値の差によって決められている。式(15)はフィッ シャー方程式そのものであり、式(16)は実質為替レートの定義式である。式(17)は

IS

曲線 の関係を、式(18)は

LM

曲線の関係を表している。式(19)はカバーなし金利平価であるが、

背景にあるのは合理的期待

5

であって、名目為替レートの時間的変化が内外の名目利子率の 差によって決定されている。

モデルの詳細の前に、式(19)だけから導かれる、自国の恒久的な利子率引き下げが為替レ ートに与える変化を確認しておく。式(19)から直ぐにわかるように、自国と外国で名目利子 率が異なっている限り名目為替レートは変化を続けることになる。また、合理的期待の仮 定から恒久的な利子率引き下げが認識された段階で為替レートはジャンプする。

図 3 ドーンブッシュ・モデルにおける名目為替レートの経路

5 動学的マンデル=フレミング・モデルが静学的期待を仮定しているのに対し、ドーンブッシュ・モデルで は合理的期待が仮定されている。

(11)

11

ドーンブッシュ・モデルでは自国の物価水準と名目為替レートが状態変数である。図

3

見たように名目為替レートはジャンプできるが、物価水準はジャンプできない。ドーンブ ッシュ・モデルを解くために、式(17)と式(18)に式(15)と式(16)をそれぞれ代入し、国民所得 と名目利子率について解いて

2

本の式を求める。それらを式(14)と式(19)に代入すると

2

の線形微分方程式が得られる。この連立微分方程式は、状態変数の時間的変化を状態変数 と外生変数のみで表したものである。

𝑝̇ = 𝐹(𝑝, 𝑠, 𝑔, 𝑚, 𝑦̅, 𝑖 , 𝑝 ) (20) 𝑠̇ = 𝐺(𝑝, 𝑠, 𝑔, 𝑚, 𝑦̅, 𝑖 , 𝑝 ) (21)

まず、定常解を導出する。最初に

p

が一定という条件を式(14)に代入して

y=y

となる。

次に

s

が一定という条件を式(19)に代入して

i=i *

となる。これらを式(18)に代入すると

p

値が定まり、それを式(17)に代入すると

s

の値が定まる。

ドーンブッシュ・モデルにおいて

p

s

からなる解の経路を追うために位相図を作成する と図

4

が得られる。

図 4 ドーンブッシュ・モデルの位相図

i

s

i*

(12)

12

4

において直線

p

=0

と直線

s

=0

の交点が定常解である。ドーンブッシュ・モデルの解

(p, s)

は右上がりの直線上にある場合、定常解に向かって収束していく。しかし、それ以外の場 合は必ず発散する。これは解

(p, s)

が鞍点解であることを意味している。

拡張的な金融政策によって名目マネーサプライ

m

が増加した場合、直線

p

=0

と直線

s

=0

とが共に下方にシフトすることで新しい定常解において、国内物価

p

が上昇し、名目為替 レート

s

が減価する。

図 5 ドーンブッシュ・モデルにおける拡張的金融政策の効果

s

p s

p

=0 =0

s

<0 s

>0 p

<0

p

>0

s

45

度線

p s

=0

s

=0 p

=0

p

=0

(13)

13

拡張的金融政策がとられた場合の各変数の動きは図

6

に示されるとおりだが、名目為替 レートにオーバーシュートが見られることが特徴的である。名目為替レートは政策実行と ともに大幅に減価した後に以前より低い値へと価値を回復していく。実質国民所得は一時 的に増加するが、やがて元の水準へと逓減的に戻っていく。つまり、ドーンブッシュ・モデ ルにおいて拡張的金融政策は経済を実質的に拡張させる効果を持たない。この点がマンデ ル=フレミング・モデルとの大きな違いの一つであるが、理由は単純であり、定常状態にお いて

y=y

となることがモデルの仮定であるからである。

図 6 ドーンブッシュ・モデルにおける拡張的金融政策と諸変数

次いで拡張的財政政策の効果を確認するならば、図

6

にあるように直線

p

=0

と直線

s

=0

が同じ幅で上方にシフトする。このため、新しい定常解においても国内物価

p

は以前と変 わらず、名目為替レート

s

のみが瞬時に増価する。つまり、拡張的金融政策の場合と異なり、

オーバーシュートを是正する移行過程が見られない。

図 7 ドーンブッシュ・モデルにおける拡張的財政政策の効果

i

s m

y

p

(14)

14

図 8 ドーンブッシュ・モデルにおける拡張的財政政策と諸変数

なお、ドーンブッシュ・モデルのまとめとして、解を代数的に導出して鞍点解になること を確認しておこう。まず、式(17)から式(22)が導かれる。

y = μg − σ[𝑖 − 𝜋(𝑦 − 𝑦̅)] − 𝛿(𝑠 + 𝑝 − 𝑝 ) (22)

これと式(18)を連立させて

y

i

について解くために行列形式で表したものが式(23)であ る。

[ 1 − 𝜎𝜋 𝜎 𝛼 −𝜆 ] [ 𝑦

𝑖 ] = [ −𝛿 −𝛿 0 −1 ] [ 𝑠

𝑝] + [ 𝜇 0 0 1

−𝜎𝜋 𝛿 0 0 ] [

𝑔 𝑚 𝑦̅

𝑝 ]

(23)

式(23)を解くと式(24)を得る。

s

p s

=0

s

=0 p

=0

p

=0

i

s g

y

p

(15)

15 [ 𝑦

𝑖 ] = [ 1 − 𝜎𝜋 𝜎 𝛼 −𝜆 ]

−1

[ −𝛿 −𝛿 0 −1 ] [ 𝑠

𝑝] + [ 1 − 𝜎𝜋 𝜎 𝛼 −𝜆 ]

−1

[ 𝜇 0 0 1

−𝜎𝜋 𝛿 0 0 ] [

𝑔 𝑚 𝑦̅

𝑝 ]

(24)

したがって、式(25)を経て式(26)のように解くことができる

6

[ 𝑦

𝑖 ] = 1

Δ [ −𝜆 −𝜎

−𝛼 1 − 𝜎𝜋 ] [ −𝛿 −𝛿 0 −1 ] [ 𝑠

𝑝] + 1

Δ [ −𝜆 −𝜎

−𝛼 1 − 𝜎𝜋 ] [ 𝜇 0 0 1

−𝜎𝜋 𝛿 0 0 ] [

𝑔 𝑚 𝑦̅

𝑝 ]

(25)

[ 𝑦 𝑖 ] = 1

Δ [ 𝛿𝜆 𝛿𝜆 + 𝜎 𝛼𝜆 −1 + 𝛼𝜆 + 𝜎𝜋 ] [ 𝑠

𝑝] + 1

Δ [ −𝜆𝜇 −𝜎

−𝛼𝜇 1 − 𝜎𝜋

𝜆𝜎𝜋 −𝜆𝛿 𝛼𝜎𝜋 −𝛼𝛿 ] [

𝑔 𝑚 𝑦̅

𝑝 ]

(26)

式(26)を式(14)と式(19)に代入すると式(27)を得る。

[ 𝑒̇

𝑝̇ ] = 1

Δ [ −𝛼𝛿 1 − 𝛼𝛿 − 𝜎𝜋 𝛿𝜆𝜋 (𝛿𝜆 + 𝜎)𝜋 ]

−1

[ 𝑠 𝑝] +

1

Δ [ 𝛼𝜇 −1 + 𝜎𝜋

−𝜆𝜇𝜋 −𝜎𝜋

−𝛼𝜎𝜋 𝛼𝛿 1

𝜆𝜎𝜋 2 − 𝛿𝜋 −𝜆𝛿𝜋 0 ] [

𝑔 𝑚 𝑦̅

𝑝 𝑖 ]

(27)

式(27)において右辺第

1

項にある逆行列の行列式は式(28)である。

−αδ(δλ + σ)π − (1 − αδ − σπ)δλπ (28)

このとき、式(28)の第

2

項の括弧内がプラスであれば、行列式の値が負になり、鞍点解の 存在条件が満たされる。

4.新しい開放マクロ経済学と購買力平価説の復活

既に見たような第

2

次世界大戦後のマクロ経済学の理論における為替レートの扱いは、

マクロ経済学全体の大きな変化の影響を受け、1990年代に大きな転換を遂げた。その嚆矢 となったのは、オブストフェルド=ロゴス(1995)によって、新しい開放マクロ経済学と呼ば れることになる、独占的競争を取り入れた動学的一般均衡モデルが提案されたことである

7

このモデルの利点として、消費者の効用最大化や企業の利益最大化というミクロ的基礎の 基づいていることで、経済の外的ショックや政策変更によって経済主体の行動が変化する ことを明示的かつ厳密に分析できることがあげられる。また、後に本稿でも確認するよう に、経済厚生に関する分析も可能となっている。

新しい開放マクロ経済学のなかでのオブストフェルド=ロゴス・モデルの修正点として

6 ここで

Δ

は逆行列の行列式である。

7 オブストフェルド=ロゴス・モデル先駆となるのが、スベンソン=ワインベルゲン(1989)である。後者は 前者と同じく、独占的競争や消費者の効用最大化といったミクロ的基礎を持ち、価格が硬直的な

2

カ国モ デルである。しかし、彼らのモデルは動学的ではないため、オブストフェルド=ロゴス・モデルと異なり、

異時点間の資源配分の分析ができない。

(16)

16

は、当初想定されていた一物一価の仮定を緩和し、企業の価格設定行動を明示化したとい うことがある。オブストフェルド=ロゴス・モデルでは企業は自国での販売価格をそのまま 外貨換算した価格で輸出するので、常に一物一価が成り立っていた。しかし、現実の輸出 企業は為替レートが変化しても外貨建て輸出価格をそれほど変化させないことが知られて いる。こうした企業の価格設定行動を前提にすると、一国の金融政策の国際的波及効果や 最適な金融政策ルール、および望ましい為替制度が影響を受けることが明らかになってき た。このため、企業の価格設定行動をどのように考えるかは政策判断をする上で、死活的 に重要であるという認識が共有されている。

オブストフェルド=ロゴス・モデルでは、世界は自国と外国からなり、どちらも差別化さ れた製品を生産する生産者兼消費者と政府から構成されている。自国の生産者兼消費者が 生産する財は

0

から

n

の範囲に、外国の生産者兼消費者が生産する財は

n

から

1

の範囲に 分布している。

自国の代表的個人は式(29)で示される効用関数を持つ。ここで

β

は割引率、

C

は財の消費 に関して合計された

CES

型の消費指標であり、式(30)のように定義される。

𝑈 𝑗 = ∑ 𝛽 𝑡 [log 𝐶 𝑡 𝑗 + 𝜒 log 𝑀 𝑡 𝑗 𝑃 𝑡 − 𝜅

2 𝑦(𝑗) 𝑡 2 ]

𝑡=0

(29)

C 𝑗 = (∫ 𝑐 𝑗 (𝑖) 𝜃−1 𝜃

1 0

𝑑𝑖)

𝜃

𝜃−1 , 𝜃 > 1 (30)

ここで

i

は消費財の、

j

は生産者兼消費者のインデックスであり、財の代替の弾力性

θ

一定である

8

。式(29)の右辺大括弧内の対数の真数は、代表的個人が

t+1

期の初めに保有し ている実質貨幣残高であり、同じく最後の項の

y(j)

は生産のための労働投入に伴う不効用で ある。

式(30)の消費指標に対応する物価指数は式(31)のように表される。この物価指数は実質消 費一定の下で名目消費支出

Z

を最小化する問題の解として与えられ、

PC=Z

の関係が成立し ている。

P = (∫ 𝑝(𝑖) 1−𝜃 𝑑𝑖

1 0

)

1

1−𝜃 (31)

既述のとおり、オブストフェルド=ロゴフ・モデルでは、個別の財について一物一価が成 立することが前提にされている。したがって、自国財

i

の国内販売価格を

p(i)

、外国財

j

国内販売価格を

p * (j)

、自国通貨建て名目為替レートを

e

としたとき、自国財の外国での販

売価格は

p(i)/e

、外国財の自国での販売価格は

ep * (j)

となる。したがって、自国と外国の物

価水準はそれぞれ式(32) と式(33)で示される。

P = [∫ 𝑝(𝑖) 1−𝜃 𝑑𝑖 + ∫ 𝑒𝑝 (𝑖) 1−𝜃 𝑑𝑖

1 𝑛 𝑛

0

]

1

1−𝜃 (32)

8 代替の弾力性

θ

は独占的供給者が直面する需要の価格弾力性でもあるが、限界収入が負にならず均衡生 産量が正の範囲にあるために

θ>0

を仮定している。

(17)

17 P = [∫ ( 𝑝(𝑖)

𝑒 )

1−𝜃

𝑑𝑖 + ∫ 𝑝 (𝑖) 1−𝜃 𝑑𝑖

1 𝑛 𝑛

0

]

1 1−𝜃

(33)

式(32)と式(33)とを比較すれば明らかなように、オブストフェルド=ロゴフ・モデルでは、

P=eP *

という購買力平価説が常に成り立っている。

続いて政府の予算制約式であるが、シニョリッジ収入がすべて国民に移転されるとすれ ば、式(34)が成り立つ。

𝐺 𝑡 = 𝜏 𝑡 + 𝑀 𝑡 − 𝑀 𝑡−1 𝑃 𝑡

(34)

ここで

G

は政府支出であり、

τ

は一括人頭税である。後にそう仮定するように、政府支出 がゼロであるとすれば、シニョリッジの移転分と人頭税収入が等しくなる。

オブストフェルド=ロゴフ・モデルは代表的個人モデルである。個人が、国際金融市場で 取引される無リスク債券の売買が可能であるとした場合、代表的個人の予算制約式は式(35) で表される。

𝑃 𝑡 𝐵 𝑡+1 𝑗 + 𝑀 𝑡 𝑗 = 𝑃 𝑡 (1 + 𝑟 𝑡 )𝐵 𝑡 𝑗 + 𝑀 𝑡−1 𝑗 + 𝑝(𝑗) 𝑡 𝑦(𝑗) 𝑡 − 𝑃 𝑡 𝐶 𝑡 𝑗 − 𝑃 𝑡 𝜏 𝑡 (35)

ここで

B

は個人の期初における債券保有量であり、消費財で表示された実質値となって いる。なお、

r

は当期初までの実質金利である。

個別の財に関する個人の需要量は、式(30)から式(36)になる。

𝐶 𝑗 (𝑖) = ( 𝑝(𝑖) 𝑃 )

−𝜃

𝐶 𝑗 (36)

ここで財

i

に関して、すべての個人の合計を計算すると、式(37)のような財

i

に関する需 給均衡式が得られる。

y(i) = ( 𝑝(𝑖) 𝑃 )

−𝜃

𝐶 𝑊 (37)

なお、

C W

は世界全体の財

i

の消費量である。

代表的個人

j

は式(35)を制約条件として、効用を最大化するように消費量、生産量、債券 保有量、貨幣保有量を決定する。つまり、代表的個人

j

の解くべき最適化問題は次のように 定式化される。

max

𝐶

𝑡𝑗

,𝑦(𝑗)

𝑡

,𝐵

𝑡+1𝑗

,𝑀

𝑡𝑗

𝑈 𝑗 = ∑ 𝛽 𝑡 [log 𝐶 𝑡 𝑗 + 𝜒 log 𝑀 𝑡 𝑗 𝑃 𝑡 − 𝜅

2 𝑦(𝑗) 𝑡 2 ]

𝑡=0

(38)

この問題を解くと、最適化のための

1

階の条件が、式(39)、式(40)、式(41)として求めら れる。なお、式(41)の導出には式(37)を用いた。

𝐶 𝑡+1 = 𝛽(1 + 𝑟 𝑡+1 )𝐶 𝑡 (39)

𝑀 𝑡

𝑃 𝑡 𝜒𝐶 𝑡 ( 1 + 𝑖 𝑡+1

𝑖 𝑡+1 ) (40)

(18)

18 𝑦 𝑡

𝜃+1

𝜃 = 𝜃 − 1

𝜃𝜅 (𝐶 𝑡 𝑊 ) 𝜃 1 1 𝐶 𝑡

(41)

式(40)の導出には、フィッシャーの金利裁定式(42)が使われている。

1 + 𝑖 𝑡+1 = (1 + 𝑟 𝑡+1 ) 𝑃 𝑡+1 𝑃 𝑡

(42)

横断性条件は、

R t,t+T

t

期から

t+T

期までの

1

プラス実質金利の逆数として、式(43)と なる。

𝑇→∞ lim 𝑅 𝑡,𝑡+𝑇 (𝐵 𝑡+𝑇+1 + 𝑀 𝑡+𝑇 𝑃 𝑡+𝑇

) = 0 (43)

以上の結果から、オブストフェルド=ロゴフ・モデルについて、消費と生産が一定となる 定常状態を導出する。以下、文字の上のバーは定常状態における内生変数の値を表すと約 束しよう。まず、式(39)はオイラー方程式であるが、ここから、定常状態での実質金利が主 観的割引率によって決定されることが示される。

𝑟̅ = 1 − 𝛽

𝛽 ≡ 𝛿 (44)

また、定常状態では実質消費と実質所得が等しくなるため、自国と外国について、それ ぞれ式(45)と式(46)が成立する。

𝐶̅ = 𝛿𝐵̅ + 𝑝̅𝑦̅

𝑃̅

(45)

𝐶̅ = − ( 𝑛

1 − 𝑛 ) δ𝐵̅ + 𝑝̅ 𝑦̅ 𝑃̅

(46)

オブストフェルド=ロゴフ・モデルでは、定常状態でも経常収支が均衡するとは限らない。

したがって、式(45)と式(46)の右辺第

1

項は経常収支の黒字または赤字から生じる利子収入 または利払いを、第

2

項は財の生産から得られる収入の実質値を示している。

以下の分析では、ショック発生前に経常収支が均衡していると仮定する。このとき、モ デルのパラメーターを使って式(41)から、式(47)のような解析的な解が得られる。なお、右 下添え字の

0

はショック発生前の値を意味している。

𝐶̅ 0 = 𝐶̅ 0 = 𝑦̅ 0 = 𝑦̅ 0 = √ 𝜃 − 1 𝜃𝜅

(47)

同様に貨幣需要関数は、式(40)から、式(48)のように表すことができる。

𝑀 ̅ 0 𝑃̅ 0 = 𝑀 ̅ 0

𝑃̅ 0 = 𝜒(1 + 𝛿)

𝛿 𝑦̅ 0 (48)

さて、ショックが内生変数に与える影響を分析しよう。オブストフェルド=ロゴフ・デモ ルでは、当期の価格は

1

期前に決まってしまうというかたちで価格硬直性を導入している。

したがって、ショックに関して今期は短期であり、新しい定常状態が達成される来期以降

(19)

19

が長期ということになる。

以下、具体的に、自国の予期されない永続的なマネーサプライの増加が自国と外国の生 産と消費、為替レート、経済厚生に与える影響を確認していこう。まず、短期において自 国の消費は増加する。このことが起きるのは、自国通貨安がもたらす交易条件の悪化から 来るマイナスの効果を、実質金利の低下と実質所得の増加がもたらすプラスの効果が補っ て余りあるからである。ただし、異時点間で消費を平準化する行動が見られるため、実質 所得の増加ほどには消費は増大せず、経常収支は黒字化することになる。外国の消費であ るが、実質金利の低下と外国通貨安による交易条件の改善とによって増加する。

次に、自国の生産は自国と外国両方の消費の増大に加え、自国財の相対価格の低下に伴 って外国財から国内需要がシフトすることで増大する。これに対して、外国の生産は、外 国財の相対価格の上昇が、自国と外国の消費の増大からのプラスの効果を上回ってしまう ため減少する。

続いて、長期の効果を確認しよう。まず、オブストフェルド=ロゴフのオリジナルのモ デルでは、貨幣の中立性が成立していないため、金融政策が名目変数だけでなく実質変数 にも影響を与える。短期の効果として、自国の経常収支が黒字化する一方、外国の経常収 支が赤字化していたが、これらは自国の利子収入の増加と外国の利払いの増加を意味する ので、長期的に自国の消費が増加するのに対して、外国の消費は減少する。生産であるが、

自国では労働から余暇への代替によって減少する一方、外国では逆の代替が起こるので増 加することになる。

為替レートについて、既に見たドーンブッシュ・モデルのようなオーバーシュートは、オ ブストフェルド=ロゴフ・モデルでは見られない。オブストフェルド=ロゴフ・モデルでは、

式(49)、式(50)、式(51)の関係が成立する。ここで、ハットが付いた変数は短期の変化率を、

ハットとバーが付いた変数は長期の変化率を表す。

𝐶̂ − 𝐶̂ = 𝐶̅̂ − 𝐶̅̂ (49) (𝑀 ̂ − 𝑀 ̂ ) − 𝑒̂ = (𝐶̂ − 𝐶̂ ) − δ(𝑒̅̂ − 𝑒̂) (50) 𝑒̅̂ = (𝑀 ̅ ̂ − 𝑀̅̂ ) − (𝐶̅̂ − 𝐶̅̂ ) (51)

最初に確認したように、オブストフェルド=ロゴフ・モデルでは常に

PPP

が成立してい る。今、カバーなしの金利裁定式(52)に式(42)と

PPP

の関係式を代入すると、常に自国と 外国の実質金利が均等化していることがわかる。オイラー方程式(39)を自国と外国について 考え、それらを対数線形化したものに実質金利均等の条件を代入すれば、式(49)が得られる。

また、貨幣需要関数(40)を自国と外国、短期と長期について考え、それらを対数線形化した ものに短期と長期の

PPP

の条件

9

をそれぞれ代入すれば、式(50)と式(51)が導出できる。

9 短期と長期の

PPP

の条件とここで呼んでいるものは、具体的には下記のとおりである。

𝑒̂ = 𝑃̂ − 𝑃̂

, 𝑒̅̂ = 𝑃̅̂

𝑃̅̂

(20)

20

マネーサプライの変化は永続的であるとしているため、式(49)、式(50)、式(51)から、為 替レートの短期の変化率は長期のそれと等しくなるという結論が得られる。つまり、為替 レートが金融政策を受けて、オーバーシュートすることなく即座に長期の均衡水準へとジ ャンプすることがわかるのである。

オブストフェルド=ロゴフ・モデルのこの結論は、しかしながら、現実の大きな為替変動 とはイメージが背反していると言わざるをえない。同モデルでは、式(51)に示されるように、

為替レートの変化率が長期でのマネーサプライと消費の変化率の、自国と外国での格差に よって決定される。そして、貨幣の中立性が成り立っていないため、自国のマネーサプラ イの増加が自国の消費を増価させる一方、外国の消費を減少させ、式(51)の右辺第

2

項がプ ラスとなる。このため、オブストフェルド=ロゴフ・モデルでは、いかなる場合でも為替レ ートの変化率がマネーサプライの変化率よりも小さくなるので、現実の大幅な為替レート の変動に関して説明力を持たないことになるのである。

オブストフェルド=ロゴフ(1995)は、貨幣保有から得られる効用が無視できるほど小 さいとしたうえで、金融政策が経済厚生に与える影響についても考察を行っている。その 結果、式(52)で表されるように、金融緩和がどちらの国で行われようと、自国および外国の 経済厚生は世界全体のマネーサプライの変化率に比例して大きくなるという結論を得た。

dU = 𝑀 ̂ 𝑊 𝜃

(52)

このため、自国のマネーサプライの増加に伴う自国通貨の減価が自国に経常収支黒字を 発生させたとしても、近隣窮乏化効果を生じさせることはない。だから、通貨切り下げ競 争の動機も政策協調の必要も一切ないのである。

こうした結論になる理由は単純明快である。オブストフェルド=ロゴフのオリジナルの モデルでは独占的競争が仮定されているため、元々生産水準が社会的に望ましいそれより も低く抑えられている。したがって、自国の金融緩和が世界的に需要拡大につながれば、

自国だけでなく外国にも生産の拡大が波及して経済厚生が上昇することになるのである。

もちろん、既に言及したように、自国の金融緩和は自国通貨を減価させ、需要の外国財 から自国財へのシフトを生じさせる。このため、生産を巡って労働投入が変化するととも に、交易条件の変化で消費も変化する。しかし、個人は常日頃から労働の追加投入に伴う 不効用の増大と消費の追加による効用の増加とを比較考量しながら最適化行動をとってい るため、ミクロ的な変化は二次的な影響しか持ちえない。この結果、マクロ的な意味での 需要増加が独占的競争の歪みを是正する効果の方が優越する結果になるわけである。

さて、オブストフェルド=ロゴフのオリジナルのモデルでは、金融政策が短期的に経常 収支の黒字や赤字をもたらし、これが長期的にも影響を与えて生産と消費を動かすのであ った。つまり、貨幣の中立性が成り立っていないということである。そのために、オブス トフェルド=ロゴフ(1995)は、ショックが与える効果を分析するのに均衡値の周りで対 数線形化するという迂回を余儀なくされたのである。コルセッティ=ペゼンティ(1997)

(21)

21

は財の代替の弾力性を

1

とすることで経常収支が常に均衡し、金融政策が長期的な効果を もたらさない貨幣の中立性が成り立つことを示した。理由は簡単であり、CES 型の消費指 標である式(30)を自国財と外国財に分けて書き直した式(53)において、

θ

1

とすれば、単 純なコブ=ダグラス型の消費指標である式(54)になるためである。

C = [𝑛 1 𝜃 (𝐶 𝑑 ) 𝜃−1 𝜃 + (1 − 𝑛) 1 𝜃 (𝐶 𝑓 )

𝜃−1 𝜃 ]

𝜃

𝜃−1 (53)

C = (𝐶 𝑑 ) 𝑛 (𝐶 𝑓 ) 1−𝑛 (54)

さて、オブストフェルド=ロゴフ・モデルの登場が現代における

PPP

復活の大きなきっ かけとなったことは間違いないと思われるが、そこに同モデルの限界があることもまた事 実であろう。実証研究が示しているところによれば、肝心の貿易財において一物一価が成 立していないため、

PPP

が成り立たないのだということがわかっている。それでは、なぜ、

一物一価ではないのだろうか。

有力な仮説は、貿易財を生産している企業が価格支配力を背景にして、市場ごとに異な る価格を設定しているというものである。国境による市場の分断が各市場の需要の価格弾 力性に違いをもたらしているとすれば、企業は当然市場ごとに異なった独占価格をつける ことになる。

元々、オブストフェルド=ロゴフ・モデルは独占的競争モデルであるから、企業がプライ ス・セッターとして行動するのはむしろ当然である。したがって、差別価格を前提として一 物一価が不成立になるという想定に不自然さはないはずなのである。だから、一物一価か

PPP

の成立を導くことは、価格の市場横断的な一律性を大前提とした新しい古典派モデ ルの特徴を顕著に示すものと言わなければならない。

Ⅱ. J. M.

ケインズによる購買力平価説批判

前章では、購買力平価説を軸として展開してきた主流派経済学の為替レート理論を、カ ッセルから現代まで追ってきた。本章では、当初から一貫して購買力平価説を批判し続け

J. M.

ケインズの主張を、彼の代表的著作を詳細に検討することで明らかにしたい。そ

して、ケインズの死後出版の論文のなかに、ケインズ的な為替レート・モデルの萌芽を見出 せないかを考察する。

1.

『貨幣改革論』における購買力平価説批判

ケインズが出版した

8

冊の本のなかで、

1923

年の『貨幣改革論』

1930

年の『貨幣論』

1936

年の『雇用・利子および貨幣の一般理論』は特にケインズ三部作の名を以って呼ばれて

参照

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