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源泉徴収制度に関する一考察 ―誤納額及び過納額の精算の観点から―

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《論 説》

源泉徴収制度に関する一考察

―誤納額及び過納額の精算の観点から ― 斉 木 秀 憲

1 はじめに ... 1 2 源泉徴収の意義 ... 3

(1) 源泉徴収制度の趣旨 ... 3

(2) 源泉徴収の法律関係 ... 4

(3) 源泉徴収と確定申告との関係 ... 7

(4) 小括 ... 11

3 主な見解等 ... 11

(1)  源泉徴収の対象と所得税の課税対象との乖離が及ぼす 影響を危惧する見解 ... 11

(2) 所得税法 120 条1項5号の規定に反するとの見解 ... 13

(3) ネット課税方式の位置づけの変化を指摘する見解 ... 15

(4) 本件判示を支持する見解に対する意見 ... 16

4 結びに代えて ... 18

1 はじめに

被相続人を保険者及び保険料の負担者、相続人を保険金受取人とす る年金払特約付きの生命保険契約に基づき、相続人が受け取った被相 続人の死亡日を支給日とする年金が、所得税法(以下「所法」ともいう。)

9条《非課税所得》1項 15 号により非課税所得となるか否かを主な争 点として争われたのが、いわゆる長崎生保年金二重課税事件である。

そして、本件においては、当該年金から、所得税が源泉徴収されてい たため、当該年金が非課税所得に当たるならば、所得税の申告等の手

(2)

続において上記徴収金額を算出所得税額から控除し又はその全部若し くは一部の還付を受けることは、許されるか否かも争点とされている。

最高裁(1)においては、「本件年金受給権は,年金の方法により支払を 受ける上記保険金のうちの有期定期金債権に当たり,また,本件年金 は,被相続人の死亡日を支給日とする第1回目の年金であるから,そ の支給額と被相続人死亡時の現在価値とが一致するものと解される。

そうすると,本件年金の額は,すべて所得税の課税対象とならないか ら,これに対して所得税を課することは許されないものというべきで ある。」とした上で、「なお,所得税法 207 条所定の生命保険契約等に基 づく年金の支払をする者は,当該年金が同法の定める所得として所得 税の課税対象となるか否かにかかわらず,その支払の際,その年金に ついて同法 208 条所定の金額を徴収し,これを所得税として国に納付 する義務を負うものと解するのが相当である。したがって,B生命が 本件年金についてした同条所定の金額の徴収は適法であるから,上告 人が所得税の申告等の手続において上記徴収金額を算出所得税額から 控除し又はその全部若しくは一部の還付を受けることは許されるもの である。」と判断した。そして、本論で重視するのは、この判断の前提 として、課税庁が、控訴審(2)において、総額主義の観点から「仮に本 件年金に係る所得が非課税所得に当たるとすれば,そもそも上記の源 泉徴収自体が誤りであったことになり,被控訴人は,上記源泉徴収税 額の全部又は一部の還付を受けることができない(最高裁判所平成4 年2月 18 日第三小法廷判決・民集 46 巻2号 77 頁参照)。」との予備的主 張をしていることである。

すなわち、本件判決は、本件年金が非課税所得であるとした上で、

その支払の際の源泉徴収の過不足の精算について、確定申告によるこ とを認めたことになり、従前の判例(3)で示された、受給者の確定申告 において「源泉所得税の徴収・納付における過不足の清算を行うこと は、所得税法の予定するところではない。」旨の判断との齟齬が生じて

(3)

いるのではないか。

そこで、本論においては、源泉徴収制度の法律関係等を再確認した 上で、誤納額と過納額の精算の観点から、源泉徴収と確定申告の関係 を明確することを目的とする。

2 源泉徴収の意義

(1) 源泉徴収制度の趣旨

源泉徴収制度の趣旨は、「納税義務者の納税を容易ならしめるた め、所得が納税義務者の手中に帰する以前の段階で徴収して税金 の概算前払させることにより、国が一応これを収納し、他日所得 金額が明らかになつてから、改めて納税義務者から納税せしめる 代りに既に源泉徴収によつて納付した右税額をもつてこれに充 て、もし不足があれば追加納付させ、余剰があれば還付して、納 税義務者の事後納税によつて生ずる煩雑な事務を軽減すること、

他面、源泉徴収の方法でないと容易に捕捉できないような各人の 収入金額も容易に捕捉して、その支払の段階で支払者をして捕捉 徴収せしめ、これによつて国の所得調査の手数を省略し、徴収事 務の簡素化能率化を計ることを目的とするもの」(4)とされている。

したがって、源泉徴収制度は、租税への意識を阻害する等の問題 があるとしても、①納税者の納税の便宜及び納税義務履行手続の 軽減並びに②国にとって収納の確保及び徴税コストの削減など、

「徴収方法として、能率的、かつ、合理的であつて、公共の福祉 の要請にこたえる」(5)制度とされている。

また、「源泉徴収にかかる所得税については、所得の支払の時に 納税義務(源泉徴収所得税の納税義務)が成立し、それと同時に特 別の手続を要しないで納付税額が確定するとされているから、源 泉徴収の対象は、当該給付の際に、右給付にかかる所得が源泉徴 収の対象となるかどうか及び徴収納付すべき税額が幾許であるか

(4)

についての認定判断が一義的に明確に、かつ容易になされ得るも のであることが望ましいことはいうまでもない。」(6)とされてい る。したがって、③源泉徴収義務者の適正な源泉徴収義務の履行 にとって、源泉徴収の対象及び徴収税額についての判断の明確か つ容易性が求められる。

(2) 源泉徴収の法律関係

源泉徴収に関する国、支払者及び受給者の関係は、次のとおり である。なお、論点を明確とするため、本論においては、居住者 に対する源泉徴収についてのみ言及する。

イ 国と支払者

所得税法上、居住者に対し国内において給与所得や報酬又は 料金等及び生命保険契約等に基づく年金等一定の支払をする者

(支払者)は、その支払の際、その支払について所得税を徴収し、

原則として、その徴収の日の属する月の翌月 10 日までに、これ を国に納付しなければならない(所法 183 条《源泉徴収義務》等)。

これを源泉徴収義務といい、当該支払者は、受給者から所得税 を徴収する義務と徴収した所得税を国に納付する義務を負うこ ととなる。そして、源泉徴収義務者である支払者がその所得税 を納付しなかったときは、税務署長(国)は、その所得税をその 支払者から徴収する(所法 221 条《源泉徴収に係る所得税の徴 収》)。そして、支払者は、その徴収をしていなかった所得税の 額に相当する金額を、その徴収をされるべき者に対して当該徴 収の時以後若しくは当該納付をした時以後に支払うべき金額か ら控除し、又は当該徴収をされるべき者に対し当該所得税の額 に相当する金額の支払を請求することができる(所法 222 条《不 徴収税額の支払金額からの控除及び支払請求等》)。したがって、

支払者が源泉徴収に際し、所得税を誤って過大に徴収し、国へ 納付した場合は、その支払者は、国に対して、その誤納額の還

(5)

付を請求することができることとなる(7) ロ 支払者と受給者

源泉徴収義務者である支払者は、受給者から所得税を徴収す る義務を負うことから、受給者は、当該所得税を徴収される受 忍義務を負うとされ、これらの者の関係は、国と支払者との関 係が公法上の関係であるのに対し、私法上の債権債務関係と解 されている。したがって、支払者が源泉徴収に際し、所得税を 誤って過大に徴収した場合は、債務の一部不履行であるとして、

その過大に徴収された部分に相当する債務の不履行として、請 求することができると考えられる(8)

ハ 国と受給者との関係

(イ)納税義務と誤納額還付

上述のとおり、所得税法上、源泉所得税の納税義務と誤納 額還付について、受給者と国との間には、直接的な関係を示 す規定は、存在せず、受給者は、国に対して直接的な納税義 務を負わないし、国が直接的に受給者に対し誤納額を還付し ない仕組みとなっている。

(ロ)過納額還付

ただし、給与所得の源泉徴収制度には、他の所得の源泉徴 収規定にない所法 190 条《年末調整》が存在する。そして、年 末調整規定による手続等が、所得税の確定申告手続に替わっ てその納税額を確定し、源泉徴収された所得税を精算するこ と(以下「年末調整過納額精算機能」という。)となる。

すなわち、給与所得者の多くは、この年末調整の規定によ り、申告所得税の申告及び納税義務が不要となることから、

納税義務履行手続の軽減が図られることになる。

なお、給与所得に係る源泉徴収に関しては、年末調整過納 額精算機能があるため、源泉徴収の規定に基づく正当な徴収

(6)

税額と年税額との差額である過納額の精算が必要となる。そ こで、過納額については、所法 191 条《過納額の還付》及び所 法施行令 312 条《年末調整による過納額の還付の方法》の規定 により、給与等の源泉徴収すべき所得税に充当、すなわち、

相殺して支払者から受給者へ還付することとなるが、一定の 場合に、「所轄税務署長は、法第百九十一条(過納額の還付)

の規定により還付すべき金額のうちまだ還付されていない金 額を同条に規定する居住者に還付する。」(所法施行令 313 条

《給与等の支払者が還付できなかつた場合の処理》)とされ、

過納額の精算については、国と受給者との間には直接の法律 関係を生じることがある。

具体的には、次の場合に「源泉所得税及び復興特別所得税 の年末調整過納額還付請求書兼残存過納額明細書」を所轄税 務署長に提出し、税務署(国)から年末調整により過納額が生 じた給与等の受給者が還付を受ける。実際には、年末調整に より過納額が生じた給与等の受給者各人から過納額の請求及 び受領の権限の委任を受けている旨の「委任状」を添付し、支 払者を通じて還付されることが多い。なお、給与等の受給者 本人が直接還付を受けることとする場合には、「請求書(兼残 存過納額明細書)」を各人別に作成し、提出することになる。

① 解散、休業等の事由により給与等の支払者でなくなった こと、又は徴収すべき税額がなくなったことにより、その過 納額の全部又は一部を還付することができなくなった場合

② 過納額を還付すべきこととなった日の属する月の翌月1 日から起算して2月を経過してもなお還付すべき過納額が 残っている場合

また、「法第 191 条に規定する過納額がその給与等の支払者 の徴収して納付すべき税額よりも著しく過大であるため、当

(7)

該過納額を還付することとなった日の属する月の翌月1日か ら起算して2月を経過する日までの間にその支払者において その全額を還付することが極めて困難であると認められると きは、当該2月を経過する日前においても、令第 313 条第1 項《給与等の支払者が還付できなかった場合の処理》の規定に 準じ、還付すべき金額について同条第2項に規定する書面を 提出させて還付することができる」ものとされている(所基通 191 2《過納額が著しく過大である場合の還付の特例》)。

(3) 源泉徴収と確定申告との関係

イ 支払者の源泉徴収義務と受給者に係る申告所得税の納税義務 支払者の源泉徴収義務は、「当該所得の受給者に係る申告所得 税の納税義務とは別個のものとして成立、確定し、これと並存 するものであり」、「源泉所得税と申告所得税との各租税債務の 間には同一性がなく、源泉所得税の納税に関しては、国と法律 関係を有するのは支払者のみで、受給者との間には直接の法律 関係を生じないもの」とされている(9)。すなわち、支払者の源泉 徴収義務と受給者の受給者に係る申告所得税の納税義務とは別 個に成立、確定し、並存するものであり、そして、源泉所得税 の納税に関しては、国と法律関係を有するのは支払者のみで、

受給者との間には直接の法律関係を生じないものとしている。

この判示からは、源泉徴収義務と申告所得税の納税義務の個別、

併存性から国と支払者との関係及び受給者と国との関係を導き 出していると捉えることができる。

ロ 源泉徴収税額と確定申告との関係

そして、源泉徴収税額と確定申告との関係については、「所得 税法によれば、居住者に対して課される所得税の額(以下『算出 所得税額』という。)は、一暦年間におけるすべての所得の金額 を総合して課税総所得金額等を計算した上、これに所定の税率

(8)

等を適用して算出するものとされ(第二編第一章ないし第三 章)、同法一二〇条一項の規定により確定申告をする居住者は、

総所得金額若しくは退職所得金額又は純損失の金額の計算の基 礎となった各種所得につき同項五号の「源泉徴収をされた又は されるべき所得税の額」(以下『源泉徴収税額』という。)がある 場合には、これを算出所得税額から控除して納付すべき所得税 の額を計算し,その結果納付すべき税額があるときは、これを 国に納付しなければならないものとされ(同号、一二八条)、ま た、右の計算上控除しきれなかった金額があるときは、その金 額に相当する所得税の還付を受けることができるものとされて いる(一二〇条一項六号、一三八条)。

右の一二〇条一項五号にいう『源泉徴収をされた又はされる べき所得税の額』とは、所得税法の源泉徴収の規定(第四編)に 基づき正当に徴収をされた又はされるべき所得税の額を意味す るものであり、給与その他の所得についてその支払者がした所 得税の源泉徴収に誤りがある場合に、その受給者が、右確定申 告の手続において、支払者が誤って徴収した金額を算出所得税 額から控除し又は右誤徴収額の全部若しくは一部の還付を受け ることはできないものと解するのが相当である。」とされてい (10)。したがって、所法 120 条《確定所得申告》1項5号の源泉 徴収税額の規定は、①源泉徴収の規定に基づき正当に徴収をさ れた又はされるべき所得税の額と②居住者に対して課される算 出所得税額との調整を図るものであり、①と②の課税対象が一 致しないことがあることを前提に、課税対象額において①が② を超える部分の金額は、過納額(課税対象額が異なることによ り生じるものという意味であり、実際には、税率等が異なるた め、還付金が生じない場合が多いと考える。)として、確定申告 を通じて、国から受給者に還付されること(以下「確定申告過納

(9)

額精算機能」という。)が予定されているものと考えられる。す なわち、源泉徴収の誤納額は、この関係では精算されず、支払 者の国への還付請求を通じて支払者から受給者に還付されるこ とが予定されていることになる。

そして、当該過納額の発生の理由の一つとして、源泉徴収税 額が、一定の所得の「支払額」を基礎として源泉徴収額が算出さ れ、その支払について必要経費等の実費を控除することとなっ ていないし、また、正確な控除ができないことによるものと考 えることができる。

ハ 給与所得とそれ以外の所得との源泉徴収の対象の差異 一方で、給与所得の源泉徴収額については、原則として、確 定申告過納額精算機能による精算ではなく、年末調整過納額精 算機能により過納額が精算され、源泉徴収による納税額と所得 税の算出税額が一致することになる。そうすると、年末調整過 納額精算機能を前提とする給与所得に係る源泉徴収の対象は、

確定申告における課税所得と同様であることが求められるもの と考えらえる。すなわち、給与所得の源泉徴収義務を規定する 所法 183 条においては、「第二十八条第一項(給与所得)に規定す る給与等(以下この章において『給与等』という。)の支払」が源 泉徴収の対象となり、非課税所得は除かれることとなる。

そして、例えは、報酬、料金等に係る源泉徴収を規定する所 法 204 条《源泉徴収義務》においては、「報酬若しくは料金、契約 金又は賞金の支払」が源泉徴収の対象となり、「毎年確定申告に おいて、その前年中の総収入から必要経費を差引いて申告しな ければならず、その際、前年度に支出した一切の実費は必要経 費として控除の対象となり得るのであり、仮に、源泉徴収によ つて既に収納された所得税額につき,その対象とされた交付金 のうちに、たまたま幾分かの実費が含まれていたとしてもこれ

(10)

を調整する機会をもつことができるのである。してみれば、右 にみた源泉徴収制度の趣旨から考えるならば、本件のような事 情の下で実費と報酬とが区分されず『一切の費用として』との名 目で授受された金員については、その全額を所得税法二〇四条 二号にいう『報酬』と解して、これを源泉徴収の対象とするのが 相当である。」(11)と判示されているなど、適正な源泉徴収義務履 行の判断の明確・容易性の観点から、その支払が課税所得を構 成するかどうかに関係なく、源泉徴収の対象となると考えるこ とができる。

ただし、実務においては、報酬等の支払者から交通機関、ホ テル、旅館等に直接支払われるものについては、報酬の支払の 基因となる役務提供者が把握して、所得を算出することが困難 であるとして、その金額が、通常必要であると認められる範囲 内であるものに限り、例外的に源泉徴収を要しないとされてい る(所基通 204 4《報酬又は料金の支払者が負担する旅費》)。

また、生命保険契約等に基づく年金については、雑所得に区 分され、支払保険料等が必要経費とされることから、源泉徴収 税額の計算(所法 208 条《徴収税額》)において、これが考慮され ネット課税になるとしても、当該年金の源泉徴収義務を規定す る所法 207 条《源泉徴収義務》において、「年金の支払」と規定さ れ、その支払がすべて課税所得を構成するかどうかに関係なく、

源泉徴収の対象となると考えることができる。むしろ、過納額 が常に多額になるようであれば、納税の便宜や収納の確保とい う趣旨から逸脱してしまうことになるため、支払者において把 握できる支払保険料部分を源泉徴収の対象の支払額から控除す ることは、源泉徴収制度の趣旨に合致しているものと考える(12)

(11)

(4) 小括

年末調整過納額精算機能を前提とする給与所得に係る源泉徴収 の対象は、確定申告における課税所得と同様であることが求めら れるものと考えらえる。一方、報酬、料金等については、その源 泉徴収規定には、過納額精算機能はなく、確定申告において確定 申告精算機能により精算確定することが前提とされているため、

その支払がすべて課税所得を構成するかどうかに関係なく、源泉 徴収の対象となると考えることができる。

そして、支払者の源泉徴収義務と当該所得の受給者に係る申告 所得税の納税義務とは別個のものとして成立、確定し、これと並 存するものであり、誤納額については、国と支払者の間で精算さ れる。ただし、給与所得に係る過納額については、その源泉徴収 規定の年末調整過納額精算機能を前提として、国と受給者間での 精算もあり得る。

3 主な見解等

本判決の源泉徴収に関する主な見解等は、次のとおりである。

(1)  源泉徴収の対象と所得税の課税対象との乖離が及ぼす影響を危 惧する見解

吉村典久教授(13)は、「最判平成 22・7・6(民集 64 巻5号 1277 頁〔本書 32 事件〕。以下、『平成 22 年判決』という)は、年金払特約 付き生命保険契約に基づき納税者が支給を受けた第1回目の特約 年金の金額は、相続税の課税対象となる経済的価値とほぼ同一で あるため所得税の課税対象とはならないとしつつも、『所得税法 207 条所定の生命保険契約等に基づく年金の支払をする者は、当 該年金が同法の定める所得として所得税の課税対象となるか否か にかかわらず、その支払の際、その年金について同法 208 条所定 の金額を徴収し、これを所得税として国に納付する義務を負うも

(12)

のと解するのが相当である』と述べ、結果的に、納税者による確 定申告時における源泉所得税の徴収・納付に係る過不足額の精算 を認めた。この平成 22 年判決は、支払者にとって源泉徴収の対象 となるものと受給者にとって所得税の課税対象となるものとの間 における乖離を認めた上で、支払者が正しく所得税法 207 条にし たがって源泉徴収している金額は、それが受給者にとって課税所 得となるか否かを問わず、『所得税法の源泉徴収の規定(第4編)

に基づき正当に徴収をされた又はされるべき所得税の額』である という論理にしたがって、 確定申告時における源泉所得税の徴 収・納付に係る過不足額の精算を認めたものであって、判決の判 示を否定するものではない。もっとも、平成 22 年判決が判示する 源泉徴収の対象と所得税の課税対象との乖離に関する当否判断は ひとまず措くとしても、この判示によって、当該事件の結論にも かかわらず、支払者に係る源泉所得税と受総者の申告所得税との 別異性はさらに高まったというべきであろう。」と述べられておら れる。

したがって、本判決は、支払者にとって源泉徴収の対象となる ものと受給者にとって所得税の課税対象となるものとの間におけ る乖離を認めた点についての当否判断は別として、昭和 45 年判決 の源泉徴収税額と確定申告との関係論理に従ったとすると解され ておられる。

そして、本判決が支払者にとって源泉徴収の対象となるものと 受給者にとって所得税の課税対象となるものとの間における乖離 を認めた点については、これらの別異性はさらに高まったとし、

さらに「所得税法 120 条1項5号の 『源泉徴収をされた又はされる べき所得税の額』を、所得税法の源泉徴収の規定に基づき『正当に 徴収をされた又はされるべき所得税の額』と解するとしても、納 税者が実際に徴収された源泉徴収税額と『正当に徴収をされた又

(13)

はされるべき所得税の額』 とが相違すると考える限り、納税者は、

確定申告において実際に徴収された源泉徴収税額とは異なる金額

(『正当に徴収をされた又はされるべき所得税の額』)を記載するこ とを余儀なくさせられる。しかし、納税者が、簡単に『正当に徴 収をされた又はされるべき所得税の額』を計算することができな い場合も希ではない。また、税務行政庁にとっても、確定申告書 に配載された源泉徴収税額とは異なるその金額が、真実、『正当に 徴収をされた又はされるべき所得税の額』であるかどうか容易に 判断できない場合もありうるであろう。結局、確定申告に『正当 に徴収をされた又はされるべき所得税の額』の記載を求めること により、かえって源泉徴収制度の簡便性と利便性が損なわれる場 合がありうることにも留意する必要があろう。」として、当該乖離 の影響を危惧しておられる。

確かに、非課税所得に基因して、支払者にとって源泉徴収の対象 となるものと受給者にとって所得税の課税対象となるものとの間に おける乖離を認めたことは、管見するに、初めての判決であると 解される。しかしながら、源泉徴収制度として、年末調整過納額 精算機能のない給与所得以外の所得に係る支払の源泉徴収税額は、

そもそも、当該乖離が存在していることが前提であるから、確定 申告において、控除等をして、精算することになると考えらえる。

ただし、当該乖離により、過納額が常に多額になるようであれば、

納税の便宜や収納の確保という趣旨から逸脱してしまうことにな るため、ご指摘の影響が生じる可能性があるものと考える(14)

(2) 所得税法 120 条1項5号の規定に反するとの見解

佐藤孝一税理士(15)は、「所得税法 138 条1項は、源泉徴収税額の 還付に関し、確定申告書に同法 120 条1項4号若しくは6号に掲 げる金額の記載があるときは当該金額に相当する所得税を還付す る旨規定し、同号は、『前号に掲げる金額の計算上控除しきれな

(14)

かった源泉徴収税額がある場合には、その控除しきれなかった金 額』と規定し、そして、ここにいう『前号』である所得税法 120 条 1項5号は、(確定申告書の記載事項に関し)1号に掲げる総所 得金額若しくは退職所得金額又は純損失の金額の計算の基礎と なった各種所得につき源泉徴収された又はされるべき所得税の額

(源泉徴収税額)がある場合には3号に掲げる所得税の額からその 源泉徴収税額を控除した金額を記載する旨規定しており、これら の規定上、控除し又は還付を受けることができる源泉徴収税額は、

『総所得金額若しくは退職所得金額又は純損失の金額の計算の基 礎となった各種所得』に係る源泉徴収税額に限られているから、

所得税の課税対象にならない(Xの総所得金額の計算の基礎とな らない)とした本件年金の額 230 万円に係る源泉徴収税額(B生命 が徴収したもの)につき控除し、還付を受けることができるとす ることは、これらの規定に反すると考えられるからである。」と指 摘される。

確かに、文理上「総所得金額・・・計算の基礎となった各種所得」

から、非課税所得となるものは含まれないと解することができる。

しかしながら、例えば、税理士報酬等については、「その支払の際、

その報酬若しくは料金・・・について所得税を徴収」(所法 204 条 1項)と規定し、所得を構成する支払か、又は必要経費を構成す る支払かに関わらず、源泉徴収の対象となり、当該確定申告にお ける控除し、還付を受けることができる源泉徴収税額になる。し たがって、非課税所得まで、当初から予定されていたかどうかは 別して、当該規定は、「所得」を構成するものだけでなく、源泉徴 収の対象となる「支払」に係る源泉徴収税額を意味するものと解さ れる。ただし、「総所得金額・・・計算の基礎となった各種所得」が、

申告所得税の計算上、非課税所得を除いたものであるとの見解で あれば、非課税所得が除かれることになるが、その場合は、必要

(15)

経費等に該当する部分の支払(支払を受ける者にとっての収入)に ついても対象外となってしまう。

(3) ネット課税方式の位置づけの変化を指摘する見解

藤谷武史教授(16)は、「法 207 条・208 条の解釈論として本件の源 泉徴収が適法であると言えるのであれば、平成4年最判の射程が 本件に及ばないという結論は、当然の結論に過ぎない。本件判示 部分は、平成4年最判の判例法理に何かを付け加えたものではな い。」としつつも、「しかし、本件判示部分の核心が法 207 条・208 条の解釈論であるならば、平成4年最判の事案との区分に成功し ていることのみで論拠として十分であるかは、なお、慎重な検討 を要するように思われる。」と指摘されている。加えて、「確かに、

法 208 条の文言は、『支払われる年金の額』から(政令に基づいて計 算された)『払い込まれた保険料』を控除した金額を機械的に課税 標準とすべき旨を要求するのみであるから、本件判決によって年 金の支払額に非課税所得部分が含まれるとされたことは、同条の 適用関係には影響しない。 本件判示部分の第1段落はこの趣旨に 立つものであろう。 その限りで、従来はネット課税方式と理解さ れる仕組みが採られてきたことが、法 208 条の解釈論を直ちに左 右するものではない。

しかし同時に、本件判決が法 208 条の位置づけを大きく変化さ せたことも看過されてはならない。本件判決によって、法 208 条は、

グロスの支払額ともネットの所得金額とも異なる『年金支払額か ら支払保険料は控除するが、非課税所得部分を除外しない』金額 を課税標準とすべき旨を定めた規定、という位置づけを与えられ たことになる。このような中途半端な算定方法には、 従来のネッ ト課税方式の利点を見いだすことはできず、さりとてグロス課税 方式の簡便さを認めることもできない。

結局、本件判決と法 208 条の文言を整合的に読むならば、ネッ

(16)

ト課税方式は放棄されなければならず、本件判決を踏まえつつ ネット課税方式を今後も維持したいのであれば、法 208 条を改正 する必要がある、ということになろう。本件判示部分の第1段落 は、あえて形式的な文言解釈に徹することによって、以上の論理 関係を明確にした、という理解が可能であるように思われる。」と 指摘される。

確かに、208 条は、確定申告による精算を前提としながらも、

支払者にとって源泉徴収の対象となるものと受給者にとって所得 税の課税対象となるものとの間における乖離をできるだけ縮小さ せることが、源泉徴収制度の趣旨からも当然であり、支払者が把 握する必要経費となる保険料を控除するネット課税方式を採る所 以であると考える。そして、非課税所得を基因として当該乖離が 拡大することから、源泉徴収の簡便性に問題がなければ、改正の 必要があるものと考える。

(4) 本件判示を支持する見解に対する意見

古田孝夫判事(17)(当時本件担当最高裁判所調査官)は、「給与等 の受給者が支払者により誤って所得税の源泉徴収をされた場合で も申告所得税の額からその誤って徴収された金額を差し引いて確 定申告等をすることはできず、また、課税処分の取消訴訟におけ る実体上の審判の対象は、当該課税処分によって確定された税組 が租税法規によって客観的に定まる税額を総額において上回るか 否かであるとされている(最三小判平成4・2・18 民集 46 卷2号 77 買参照)。そこで、Y は、仮に本件年金に所得税を課すことが できないとした場合には、生命保険会社が本件年金についてした 源泉徴収は誤りであったことになり、Xの申告所得税の計算に当 たってその誤って後収された金額を差し引くことはできない(X としては生命保険会社に対して誤徴収額相当の未払年金の支払を 請求すべきである)から .  このことを前提として計算をし直せば

(17)

本件更正処分は結果的に適法なものとなると主張した。

この主張に対し、本判決は、所得税法 207 条所定の生命保険契 約等に基づく年金の支払をする者は、当該年金が申告所得税の課 税対象となるか否かにかかわらず、その支払の際、その年金につ いて同法 208 条所定の金額を徴収し、これを源泉所得税として国 に納付する義務を負うとの判断を示し、生命保険会社が本件年金 についてした源泉徴収は適法であって、Xの申告所得税の計算に 当たりその微収金額を差し引くことは許されるとした。

これは . ①給与所得等に関する所得税法 183 条1項等の規定が 源泉徴収の対象を同法の定める課税所得に限る旨を明示している のに対し、同法 217 条の規定がその旨を明示していないという文 理上の理由と、②本判決の考え方によれば、生命保険契約等に基 づく年金の中に所得税が課税される年金とそうでない年金とがあ り、更に1つの年金の中にも所得税の課税対象となる部分とそう でない部分とがあることになり、これらを細かく仕分けさせるこ とが支払者の手間と費用を増大させる結果にもなりかねないこと から、一律に所得税法 207 条、208 条を適用し . 確定申告において 個別に精算させるのが相当であるとの実質上の理由によるものと 考えられる。」と指摘されている。

佐藤孝一税理士(18)は、この点について、「『確定申告において個 別に清算させるのが相当である』とする法的根拠(上記所法 120 ① 五・六、138 ①の規定内容との関係)についての説明が欠落してい る。」として指摘されている。また、浅妻章如教授(19)が、「手続面 の結論は妥当といえようが、本件における源泉徴収がなぜ所得税 法 207 条、208 条に照らし適法であるかについて、最高裁は何も 論じていない(省略)。このため源泉徴収の適法性の射程を見極め るのは困雄である。」と述べられておられることも同様の指摘と考 えられる。

(18)

確かに、源泉徴収義務の履行の簡便性を理由としているようで あるが、法定根拠が示されていないようにも受け取れる。しかし ながら、生命保険契約等に基づく年金に係る源泉徴収の徴収税額 を規定する所法 208 条は、「前条の規定により徴収すべき所得税の 額は、同条に規定する契約に基づいて支払われる年金の額から当 該契約に基づいて払い込まれた保険料又は掛金の額のうちその支 払われる年金の額に対応するものとして政令で定めるところによ り計算した金額を控除した金額に百分の十の税率を乗じて計算し た金額とする。」とされており、当初から非課税所得を想定してい たかは別として、すべてが所得を構成するかどうかにかかわらず、

「契約に基づいて支払われる年金の額」から一定の保険料又は掛金 の額を控除した金額に税率を適用した金額とされている。そして、

当該年金の源泉徴収規定には、精算機能の規定は存在せず、確定 申告において、控除又は還付されることが予定されていると考え られる。

4 結びに代えて

源泉徴収制度は、①納税者の納税の便宜及び納税義務履行手続の軽 減並びに②国の収納の確保及び徴税コストの削減などから、徴収方法 として、能率的、かつ、合理的な制度とされる。そして、所得の支払 の時に納税義務(源泉徴収所得税の納税義務)が成立し、それと同時に 特別の手続を要しないで納付税額が確定するとされているから、③源 泉徴収義務者の適正な源泉徴収義務の履行にとって、源泉徴収の対象 及び徴収税額についての判断の明確かつ容易性が求められる。

これらの趣旨等を前提として、支払者の源泉徴収義務と当該所得の 受給者に係る申告所得税の納税義務とは別個のものとして並存するも のとしている。そして、源泉徴収の誤りによる誤納額については、国 と支払者の間で精算される。また、①源泉徴収の適正な徴収税額と②

(19)

居住者に対して課される算出所得税額との調整との差額は、過納額と して、確定申告によって精算されることとなる。

ただし、給与所得ついては、原則として、年末調整過納額精算機能 により、当該過納額についても精算させることとしているため、給与 所得に係る源泉徴収の対象は、確定申告における課税所得と同様であ ることが求められるものと考えらえる。すなわち、給与所得の源泉徴 収義務を規定する所法 183 条においては、「第二十八条第一項(給与所 得)に規定する給与等(以下この章において『給与等』という。)の支払」

が源泉徴収の対象となり、非課税所得は除かれることとなる。

なお、それ以外の所得については、適正な源泉徴収義務履行の判断 の明確・容易性の観点から、その支払が課税所得を構成するかどうか に関係なく、源泉徴収の対象としているため、確定申告による精算が 必要になるものと考えることができる。ただし、非課税所得まで含む ことを予定していたかどうか別として、過納額が常に多額になるよう であれば、納税の便宜や収納の確保という趣旨から逸脱してしまうこ とになるため、立法としての対応が必要になるものと考える。

ところで、源泉徴収制度は、①納税者の納税の便宜及び納税義務履 行手続の軽減、②国の収納の確保及び徴税コストの削減、③源泉徴収 義務者の適正な源泉徴収義務の履行にとっての判断の明確かつ容易性 のバランスによって成立しているものと考える。そして、特に、巨額 な財政赤字の現状おいて、この制度による国の収納の確保及び徴税コ ストの削減は、有効に機能しているが、その裏側で、国民主権に基づ く納税の義務意識の希薄化と源泉徴収義務者の負担の増加が進行して いるものと考えらえる。そこで、先ずは、電子申告等が①納税者の納 税の便宜及び納税義務履行手続の軽減や②国の収納の確保及び徴税コ ストの削減効果を果しているように、特に源泉徴収義務者の負担と なっている年末調整事務の電子化等の検討が急務であると考える。

(20)

 

(1) 最判平成 22 年 7 月 6 日民集 64 巻 5 号 1277 頁。 

 

(2) 福岡高判平成 19 年 10 月 25 日税資 257 号順号 10803。 

 

(3) 最判昭和 45 年 12 月 24 日民集 24 巻 13 号 2243 頁。 

 

(4) 東京高判昭和 49 年 9 月 26 日税資 76 号 823 頁。 

 

(5) 最判昭和 37 年 2 月 28 日税資 32 号 550 頁。 

 

(6) 東京高判昭和 55 年 10 月 27 日税資 115 号 269 頁   

(7) 大阪高判昭和 52 年 3 月 30 日税資 91 号 648 頁。 

 

(8) 最判昭和 45 年 12 月 24 日民集 24 巻 13 号 2243 頁。 

 

(9) 最判平成 4 年 2 月 18 日民集 46 巻 2 号 77 頁。 

 

(10) 最判平成 4 年 2 月 18 日民集 46 巻 2 号 77 頁。 

 

(11) 東京高判昭和 49 年 9 月 26 日税資 76 号 823 頁。 

 

(12) 最判平成 22 年 3 月 2 日民集 64 巻 2 号 420 頁「ホステス報酬に係る源泉徴 収制度において基礎控除方式が採られた趣旨は, できる限り源泉所得税 額に係る還付の手数を省くことにあったことが、立法担当者の説明等か らうかがわれる」。 

 

(13) 吉村典久「源泉徴収と確定申告」『租税判例百選[第 6 版]』別冊ジュリ 228 号 218 頁(2016)。 

 

(14) 平成 25 年 1 月 1 日以降、年金の支払を受ける者と保険契約者とが異なる 契約等一定の契約に基づく年金についても源泉徴収を要しないものとさ れた(所法 209 条二号)。 

 

(15) 佐藤孝一「所得税法 207 条所定の年金の支払者は源泉徴収義務を負う旨 判示した最高裁(年金二重課税事件)‑ 源泉徴収との関係からの検討 ‑」税 務事例 43 巻 4 号 7 頁(2011)。 

 

(16) 藤谷武史「生保年金二重課税最判の租税手続上のインパクト - 源泉徴収・

還付を中心に」ジュリ 1410 号 28 頁(2010)。 

 

(17) 古田孝夫「判批」『最高裁時の判例Ⅶ(平成 21 年〜平成 23 年)』ジュリ増 刊 131 頁(2014)。 

 

(18) 佐藤・前掲注(15)7 頁。 

 

(19) 浅妻章如「①相続税が課された生命保険年金への所得課税の可否、②源 泉徴収の適否と受領者の還付請求の可否」金融事情 71 頁(2010)。 

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