判例研究
破産管財人の源泉徴収義務
− 「支払をする者」 の意義−
松 川 剛 直
はじめに
第1 本判決の判旨等 第3 学説等の状況
1 事案の概要 1 必要説
2 争点と当事者の主張 2 不要説
3 裁判所の判断 第4 破産管財人の源泉徴収義務の存否 第2 従来の実務上の取扱い 1 「支払をする者」 の意義
1 破産債権に対する配当 2 必要説の不当性 2 源泉徴収が不要と解されてきた根拠 おわりに
はじめに
最高裁平成
年1月日判決民集巻1号1頁(1) (以下 「本判決」 と いう。) は、 破産管財人の源泉徴収義務の有無について初めて判断を下し た。破産管財人が給与・退職金に対する配当を行うに際し源泉徴収義務を負 うかについては、 かねてより議論があるが、 源泉徴収義務を負わないとい
評釈等として、 稲葉孝史 「破産管財人の源泉徴収義務」 号9頁 ()、 山本和彦 「破産管財人の 源泉徴収義務−最高裁判決への所感」 金法号頁 ()、 長尾憲一 「倒産家の立場から−最二判平 1を契機として」 同号頁、 若林元伸 「破産管財人の源泉徴収義務」 ジュリ号頁 ()、 垂井英 夫 「破産管財人の源泉徴収義務」 税理巻6号頁 ()、 森稔樹 「破産債権者たる退職手当等債権に対 する配当につき、 破産管財人は源泉徴収義務を負うか」 ローライブラリー速報判例解説租税法 () 1頁、 橋本浩史 「破産管財人の源泉徴収義務の有無について、 破産管財人報酬の支払いについては肯 定し、 退職金の配当については否定した事例」 税経通信巻7号頁 ()、 池本征男 「破産管財人の源 泉徴収義務」 税務事例巻6号1頁 ()、 末崎衛 「未払退職金の配当に対する破産管財人の源泉徴収義務 の存否」 税務号頁 ()、 近藤隆司 「破産管財人の源泉徴収義務」 明治学院大学法律科学研究所 年報 巻頁 ()、 野村秀敏 「破産管財人の源泉徴収義務」 金判号8頁 ()、 古田孝夫 「弁護 士である破産管財人は、 自らの報酬の支払について、 所得税条1項2号所定の源泉徴収義務を負うかほか」
ジュリ号頁 ()、 松下淳一 「破産管財人の源泉徴収義務」 別ジュリ号頁 () などがあ る。
う不要説が破産実務上は大勢を占めていたようである(2)。 ところが、 本 判決の第1審大阪地裁平成年月日判決民集巻1号 頁 (以下 「1 審判決」 という。) および控訴審大阪高裁平成
年4月日判決民集巻 1号頁(3) (以下 「控訴審判決」 という。) はともに、 破産管財人に源泉 徴収義務を認める判断をした。 この1審判決および控訴審判決の判断は、破産実務に大きな影響を与えるものとして関心を呼び、 本判決がどのよう な判断をするのか注目を集めていたが、 本判決は、 従来の大勢であった不 要説を採った。
本判決は、 破産管財人報酬に係る源泉徴収義務の要否と、 退職配当に係 る源泉徴収義務の要否の2つが問題となったが、 本稿ではこのうち後者の 問題 (退職金などの労働債権に対する配当における源泉徴収の要否) のみ を検討する。 また、 本稿では、 源泉徴収義務を負う者である 「支払をする 者」 (所得税法6条、 条1項、
条1項、 条1項等) の意義 (要件) を検討し、 この点から上記の問題を考察する。なお、 本判決は、 平成
年法律第号による改正 (廃止) 前の破産法下 での事件である (以下、 この改正前の旧破産法を 「旧破産法」、 改正後の 現在の破産法を単に 「破産法」 という。)。第1 本判決の判旨等
1 事案の概要
A社は、 大阪地方裁判所において破産宣告を受け、 弁護士X(原告・控 訴人・上告人、 以下 「X」 という。) が破産管財人に選任された。 XはA
全国倒産処理弁護士ネットワーク 「破産管財人の源泉徴収義務に関する実務の扱いについて」 事業再生と 債権管理号頁 ()。
評釈等として、 桐山昌巳 「破産管財人の源泉徴収義務」 銀法号頁 ()、 中西正 「破産管財人の源 泉徴収義務」 同号頁、 佐藤英明 「破産管財人が負う源泉徴収義務再論」 税務事例研究 号頁 ()、
山本和彦 「破産管財人の源泉徴収義務に関する検討−大阪高判平成4に対する疑問を中心に」 金法 号頁 ()、 岡正昌 「破産管財人の源泉徴収義務に関する立法的検討」 同号頁 ()、 石井教文
「労働債権の配当・弁済に伴う破産管財人の源泉所得税の徴収・納付義務」 自由と正義巻号頁 ()、
品川芳宜 「破産管財人の源泉徴収義務と徴収しない場合の 正当な理由 」 税研号頁 ()、 片山正史
「破産法における配当等と源泉徴収制度−労働債権の配当と破産管財人の管財人報酬を中心として−」 税大論 叢巻 頁 ()、 金井恵美子 「破産管財人の源泉徴収義務について」 税法学巻3頁 ()、 伊藤雄 太 「破産管財人の源泉徴収義務」 税法学 巻 頁 () などがある。
社の破産手続において、 破産管財人として、 ①裁判所の許可を得て破産管 財人報酬をX自身に支払い (以下、 この報酬を 「本件報酬」 という。)、 ま た、 ②破産宣告の日をもって退職したA社の元従業員ら
名に対し、 未 払退職金の配当をした (以下、 この配当を 「本件退職金配当」 という。)。Xは、 これらの支払および配当の際に源泉徴収をしていなかった。
所轄税務署長は、 上記①の支払には所得税法条1項2号が、 また② には同法
条が適用されるとして、 Xに対し、 これらの支払および配当 に係る各源泉所得税の納税告知処分、 ならびに、 各不納付加算税の賦課決 定処分をした (以下、 これらの処分を総称して 「本件各処分」 という。)。これに対しXは、 国 (被告・被控訴人・被上告人、 以下 「Y」 という。) を相手方として、 上記各源泉所得税の徴収義務は存在しないことの確認等 を求めて本件訴訟を提起した。
本件報酬に係る源泉徴収義務については、 1審判決から本判決までのす べての判決が必要と判断し、 Xの請求を退けた。 一方、 本件退職金配当に 係る源泉徴収義務については、 1審判決と控訴審判決が必要と判断してX の請求を退けたのに対し、 本判決は、 本件退職金配当に対するXの源泉徴 収義務が存在しないと判断して、 Xの請求を認めた。
2 争点と当事者の主張
本件の争点は、 以下のとおりである。
① 本件報酬が、 所得税法
条1項2号にいう弁護士の業務に関す る報酬または料金に当たるか否か。② A社またはXは所得税法上源泉徴収義務を負うとされる 「支払を する者」 に該当するか否か。
③ A社が本件退職金配当または本件報酬について、 「支払をする者」
に当たるとした場合、 破産管財人であるXは源泉徴収義務を負うか 否か。
④ 本件退職金配当および本件報酬について、 Xが源泉徴収義務を負 うとした場合、 本件各処分に基づく租税債権が財団債権 (旧破産法
本稿は、 上記で触れたように、 ①および④の争点には触れず、 ②および
③の争点のみを論じていく。 なお、 以下で引用するX・Yの主張は、 特に 断らない限り1審での主張である。
ア Yは、 所得税法
条および条1項にいう 「支払をする者」 とは、「支払に係る経済的出捐の効果が最終的に帰属する者」 であれば足りる と主張した(4)。 その理由は以下の2つである。
① 「支払には、 実質課税の原則にかんがみ、 現実に金銭を交付する 行為のほか、 給与等の支払義務を消滅させる一切の行為が含まれる。
このように、 支払とは必ずしも、 事実行為としての支払に限られな いのであるから、 支払をする者とは、 債務消滅の効果の帰属する者 と解すべきである。」
② 「源泉徴収制度の趣旨は、 徴収の確保、 徴収手続の簡便さ、 徴税 費等の節約とともに源泉徴収義務者に著しい煩わしさを掛けること なく、 源泉納税義務者にとっても申告等の煩雑さを避けるという納 税の便宜上の利点にあるから、 支払をする者は、 源泉徴収の法律関 係の当事者になるのに適した者であ る。 」
①の主張は、 所得税基本通達〜 共−1が根拠になっている(5)。 この通達は、 「法第4編《源泉徴収》に規定する 支払の際 又は 支 払をする際 の支払には、 現実の金銭を交付する行為のほか、 元本に繰 り入れ又は預金口座に振り替えるなどその支払の債務が消滅する一切の 行為が含まれることに留意する。」 としている。
②の主張は、 ①の解釈を前提に、 源泉徴収の法律関係の当事者となる のに適した者すなわち 「支払をする者」 は 「支払に係る経済的出捐の効 果が最終的に帰属する者」 であれば足りるとする。 また、 後述するよう に、 Xが主張する 「現実に支払という行為ができる者」 という限定を加
「出捐」 とは、 自己の損失において相手方に財産上の利益を提供することをいう (広辞苑第6番)。
頁。
える必要はないと反論している。 このような限定を加えることは、 徴収 の確保および源泉納税義務者の納税義務の便宜を図るという源泉徴収制 度の趣旨に反するとしているのである。
イ Yは、 上記主張を述べた上で、 破産者 (A社) が 「支払をする者」 に 該当するとしている。 なぜなら、 本件退職金配当は、 破産宣告前に成立 していた雇用関係あるいはその終了によって生じた債務であり、 破産財 団の負担となるべき債務で、 この債務が破産財団から支払われることに より当該債務は消滅し、 当該支払の効果は破産財団の権利主体である破 産会社に帰属するからである。
ウ さらにYは、 破産管財人は財産処理権限の一部として源泉徴収義務を 負うと主張した。 この主張は、 最高裁平成4年
月日判決判時号 頁に依拠している。 Yは、 同判決が、 破産宣告がなければ破産者が 負うべき租税の申告・納付義務について、 これが破産宣告後に発生した 場合には、 破産管財人に帰属することを明らかにしたものであると指摘 し、 このような同判決の趣旨に照らせば、 破産宣告がなければ破産者が 負うべき源泉徴収義務も、 破産宣告後は破産管財人が負うべきことが明 らかであると主張する。「支払をする者」 はA社であるが、 破産財団の管理処分権を行使する 上で、 Xが自己の事務として源泉徴収および納付義務を負うと主張して いる。
ア これに対しXは、 「支払をする者」 とは、 「支払に係る経済的出捐の効 果の帰属主体」 であると同時に 「自らの権限で支払行為をなしうる者」
でなければならないと主張した。 その理由は以下の2つである。
① 「源泉徴収義務は、 本来の納税義務者 (担税者) 以外の第三者に 租税を徴収させ、 これを国に納付させる義務であり、 源泉徴収制度 は、 源泉徴収義務者の負担の下に、 租税債権者である国及び本来の 納税義務者の負担を軽減するものである。 源泉徴収義務違反に対し ては, 不納付加算税の賦課だけでなく、 刑事罰による制裁まで規定
されている (国税通則法条、 所得税法条1項)。 このような制 度趣旨に照らせば、 源泉徴収義務を課すことが許される第三者の範 囲は、 本来の納税義務者との間に特に綿密な関係があり、 上記のよ うな義務を課すに足りる合理的な理由のある者に限定されなければ ならない。」
② 「源泉徴収に関して規定する法律の規定 (所得税法6条、 国税通 則法
条2項2号等) は、 いずれも支払という行為に着目し、 支払 という行為をする者に源泉徴収義務を課している。 これは、 当該給 与、 退職金、 報酬等の支払をする者は、 徴収すべき税額を容易に算 定することができ、 かつ、 支払の原資 (源泉) から税金を徴収して 納付することが可能であって、 この者に源泉徴収義務を課しても酷 ではないからである。」Xは、 源泉徴収制度について、 本来は課税庁が負担すべき徴税事務の 労力と費用とを、 行政上・刑事上の法的制裁を課してまで本来の納税者 以外の私人に強いる制度であると考えており、 源泉徴収義務者の範囲を 限定すべきとしている。 これは、 最高裁昭和 年2月日大法廷判決刑 集巻2号頁 (以下 「最高裁昭和 年判決」 という。) の判旨を意識 したものであろう。 現に控訴審でのXの主張を見てみると、 「特に密接 な関係」 という言葉がでてきており、 最高裁昭和 年判決に依拠して源 泉徴収義務者の範囲を限定すべきと考えていると思われる。
Xは、 控訴審でさらに 「支払」 という文言に着目し、 「源泉徴収義務 に関する所得税法・国税通則法の規定 中略 も、 支払 という文言 を用いるのみならず、 支払をすべき者 ではなく 支払をする者 と 規定しており、 現実に 支払 という行為をし、 又はこれをすることが できる者、 すなわち 自らの権限で支払をすることができる者 」 とい う要件が必要であると主張している。 実際に天引きが可能な者でなけれ ば 「支払をする者」 には該当しないというわけである。
イ 上記主張を述べた上で、 Xは、 破産者 (A社) は破産宣告時に自己の 財産に対する管理処分権を失っているため自らの権限で支払行為をなし える者にあたらないので、 「支払をする者」 に該当しないと主張した。
また、 破産管財人 (X) も、 経済的出損の効果の帰属主体でない以上
「支払をする者」 に該当しないと主張した。 このようなXの主張によれ ば、 「本件退職金配当については源泉徴収義務者が存在しない」 という ことになるであろう。
3 裁判所の判断
1審判決と控訴審判決の基本的な考え方は同じであるので、 控訴審判決 をみていく。
控訴審判決は、 本件退職金配当についてXが源泉徴収義務を負うと述べ、
Xに対する本件各処分を適法と判断した。
ア 控訴審判決は、 次のとおり判示し、 「支払をする者」 とは経済的利益 移転の一方当事者であって、 本件においては破産会社が該当すると判断 した。
「源泉徴収制度が、 一定の所得等に係る金員の支払者から受給者に移 転する経済的利益を課税対象と捉え、 これに対する税金を、 本来の納付 義務者である受給者に代えて支払者に徴収・納付させようとする制度で あることに照らすと、 上記 支払をする者 とは、 経済的利益移転の一 方当事者、 すなわち、 本件退職金の場合は、 その経済的出捐の効果の帰 属者である破産会社であると解されるから、 破産会社は、 上記 支払を する者 として同条に基づく源泉徴収義務を負担するものということが できる。」
イ 前述のとおりXは 「支払」 の意味を 「現実に支払行為ができること (実際に支払う権限があること)」 としたが、 この点について控訴審判決 は、 「文理解釈上、 支払をする者 にいう 支払 を現実の 支払行為 の意味に限定して解すべきまでの根拠に乏しいといわざるを得ない」 と し、 Xの主張を退けた。 そして控訴審判決は、 Yの主張と同様に、 「支 払」 の意味を 「債務が消滅する一切の行為」 と解した。
A社 (破産者) について控訴審判決は、 一般論としては天引きの機会 がないような者にまで源泉徴収義務を負担させることには疑問が残ると
述べたものの、 本件では管理処分権を専有する破産管財人が存在するの で、 法律的性質論はさておき、 天引きすることが全く不可能ではないと した。 源泉徴収をすることが可能な者 (破産管財人) が存在するので源 泉徴収をせよ、 というわけである。
ウ また、 Xは、 「破産会社が本件退職金の支払に関し源泉徴収義務を負 担するとしても、 破産管財人は、 破産会社の代理人でも機関でもないか ら、 上記義務を引き継ぐべき根拠はない」 と主張したが、 控訴審判決は、
破産財団に対する管理処分権が破産管財人に専属することについて 「破 産宣告時点の破産者の積極的財産によって破産宣告前に原因の生じた破 産者に対する債権 (消極的財産) を弁済又は配当するという破産的清算 の目的を実現する限りで」 のものと指摘し、 その上で以下のように判断 した。
「破産管財人において、 自己の専有する管理処分権に基づいて上記原 資を用いて本件退職金債権についての配当を実施したものである以上、
破産会社自体がこれを行うのと実質的に異なるところはなく、 法的には 破産会社自体が自ら支払をしたのと同視できるし、 また、 その場合、 破 産管財人は、 破産法7条の管理処分権に基づき、 上記配当を本来の管財 業務として行ったのであるから、 これに付随する職務上の義務として、
国に対して本件退職金に係る所得税の源泉徴収義務を負うと解するのが 相当である。」
このように、 控訴審判決は、 破産管財人が破産者に代理 (または代表) して配当をするのではなく、 管理処分権に基づいてなされる配当は破産 者自身による支払と同視することができるものであると述べている。
これに対し、 本判決は、 本件報酬については控訴審判決と同様に、 Xに 源泉徴収義務があると判断した。 しかし、 本件退職金配当に係るXの源泉 徴収義務は否定し、 控訴審判決を破棄して、 Xの請求 (源泉所得税の納税 義務の不存在確認請求) のうち本件退職金に係る部分を認めた。
ア 本判決は、 最高裁昭和年判決を引用して、 「所得税法条の規定が、
退職手当等 (退職手当、 一時恩給その他の退職により一時に受ける給与 及びこれらの性質を有する給与をいう。 以下同じ。) の支払をする者に 所得税の源泉徴収義務を課しているのも、 退職手当等の支払をする者が これを受ける者と特に密接な関係にあって、 徴税上特別の便宜を有し、
能率を挙げ得る点を考慮したことによるものである」 と述べ、 支払をす る者に源泉徴収義務を課すためには支払者と受給者の間に 「特に密接な 関係」 が必要であるとした。
この考えを前提にして、 本判決は、 「破産管財人は、 破産手続を適正 かつ公平に遂行するために、 破産者から独立した地位を与えられて、 法 令上定められた職務の遂行に当たる者であり、 破産者が雇用していた労 働者との間において、 破産宣告前の雇用関係に関し直接の債権債務関係 に立つものではなく、 破産債権である上記雇用関係に基づく退職手当等 の債権に対して配当をする場合も、 これを破産手続上の職務の遂行とし て行うのであるから、 このような破産管財人と上記労働者との間に、 使 用者と労働者との関係に準ずるような特に密接な関係があるということ はできない。」 と述べ、 破産管財人と元従業員に 「特に密接な関係」 が ないと指摘した。
イ さらに、 本判決は、 「破産管財人は、 破産財団の管理処分権を破産者 から承継するが (旧破産法7条)、 破産宣告前の雇用関係に基づく退職 手当等の支払に関し、 その支払の際に所得税の源泉徴収をすべき者とし ての地位を破産者から当然に承継すると解すべき法令上の根拠は存しな い。」 とした。 これは、 控訴審判決が破産管財人の管理処分権を根拠に 源泉徴収義務を認めていたことを否定し、 管理処分権が源泉徴収義務を 承継する根拠にはならないということだと思われる。
ウ そして、 本判決は、 「破産管財人は、 上記退職手当等につき、 所得税 法
条にいう 支払をする者 に含まれず、 破産債権である上記退職 手当等の債権に対する配当の際にその退職手当等について所得税を徴収 し、 これを国に納付する義務を負うものではないと解するのが相当であ る。」 と判断した。このように本判決は、 本件退職金配当においてXが 「支払をする者」
には該当しないとしたが、 破産者 (A社) が 「支払をする者」 に該当す るか否かは明示していない。 言い換えれば 「支払をする者」 がどういっ た者なのか、 また、 本件における 「支払をする者」 が誰に該当するのか を判断していない。
第2 従来の実務上の取扱い
給与等や退職手当等の支払に際しては、 支払をする者に源泉徴収義務が 課されることになるはずである (所得税法条、
条)。 しかし、 前述 したとおり、 従来の破産実務では、 破産債権に対する配当に関して、 それ が給与等や退職手当等の労働債権に対するものであっても源泉徴収を不要 とする見解が、 大勢を占めていたといわれている。 実際にも、 複数の裁判 所の破産担当部が、 未払給与や退職金の配当に関しては、 破産管財人の源 泉徴収義務を不要とする見解を採ってきており(6)、 反対に、 破産管財人 の源泉徴収が必要とする見解を示す裁判所は見当たらない。 ここでは、 そ の根拠をみておくことにする(7)。1 破産債権に対する配当
事業者が破産すると、 破産の時点でその事業者 (破産者) が有している 財産が破産財団とされ (旧破産法6条、 破産法条)、 その管理処分権は 裁判所が選任する破産管財人に専属する (旧破産法7条、 破産法
条)。破産者の従業員に対する未払給与や未払退職金がある場合、 これらの債権 は原則として破産債権にあたり (旧破産法条、 破産法2条5号)、 破産 財団を売却等して形成した金額の範囲内で従業員に 「配当」 がなされる (旧破産法 条、 破産法
条以下)。
全国倒産処理弁護士ネットワーク・前掲注頁。
末崎・前掲注頁の記述を参考にした。
2 源泉徴収が不要と解されてきた根拠
民事執行法に基づく個別的強制執行において裁判所が配当を実施する場 合 (同法
条等)、 一般に、 裁判所がその配当に際して源泉徴収をする必 要はないと解されている。通常の強制執行では債務者の個別の財産が対象とされ、 債権者の中でも 強制執行を申し立てた者など一定の条件を充たす者に対してのみ、 その財 産の競売等による売却代金から配当が行われる。 これに対し破産手続では、
破産者の財産全体が対象とされ、 破産者の債権者全体に対し、 その債権の 優劣や額などに応じて公平に配当が行われる。 このように、 破産手続は、
集団的・包括的手続である点で通常の強制執行とは異なる。
しかし、 債務者 (破産者) の財産を換価し、 それを原資として配当する 手続である点において、 基本的な性格は共通している(8)。 このような共 通性から、 通常の個別的な強制執行での配当と同様に、 包括的な強制執行 である破産手続での配当においても、 源泉徴収は不要と考えられてきたと みられている(9)。
もう一つの理由としては、 源泉徴収に要する費用の問題が挙げられる。
仮に源泉徴収が必要と仮定した場合、 当然ながら配当の対象となる破産 債権について、 源泉徴収の要否の検討や税額の計算が必要となる。 これら の事務負担に見合う報酬 (破産管財人報酬または税理士報酬) は、 破産財 団の管理等に関する費用として財団債権に当たり (旧破産法条3号、 破 産法条1項2号)、 破産財団から支出するべきことになる。 この場合、
財団債権は破産債権より優先して弁済されるので (旧破産法
条、 破産法 条)、 財団債権となる費用の額が増える分、 破産債権者への配当額が減 少することになる。裁判所が源泉徴収を不要と解していた背景には、 「配当に係る源泉徴収
桐山・前掲注 頁。
永島正春 「破産管財人の源泉徴収義務」 税務弘報巻9号頁 ( )。
は、 破産債権者の共同の利益のために行われるものではなく、 したがって、
これに要する費用を破産債権者に負担させる (配当額を減少させる) こと は適切でない」 という考えがあったと理解されている()。
第3 学説等の状況
破産管財人が給与等や退職手当等の労働債権を配当するに際し源泉徴収 を要するかについては、 源泉徴収を必要とする見解 (必要説) と、 源泉徴 収を不要とする見解 (不要説) がある。 それぞれの見解の根拠をみていく。
1 必要説
必要説には、 破産管財人が破産者の地位を引き継ぐ (したがって破産者 の負う源泉徴収義務も引き継ぐ) ことを理由とする見解と、 破産管財人の 管理処分権の一環として破産管財人が破産者の負う源泉徴収義務の手続を 行う義務を負うと主張する見解とがある()。
この理由を述べるものとして、 佐藤英明氏の主張を挙げることができる だろう()。
ア 配当される経済的利益が退職手当等にあたること
佐藤氏はまず、 以下のとおり述べて、 元従業員に配当される経済的利益 が給与等または退職手当等にあたり、 元従業員のこの所得が給与所得また は退職所得に該当する以上 (所得税法
条1項または条1項)、 これに 対して源泉徴収義務が発生することは、 現行法の解釈としては自然である と主張する()。「元従業員がすでに提供した 非独立的・従属的労務 の対価たること にある以上、 それを受け取った元従業員にとって、 これらの金銭が給与所
同旨、 桐山・前掲注頁、 中西・前掲注頁。
立法論として破産管財人の源泉徴収義務を認めるべきとする見解として、 岡正昌 「破産手続と租税に関す る近時の重要問題」 金子宏編 租税法の発展 頁 (有斐閣、 )、 岡・前掲注頁などがある。 解釈 論として破産管財人の源泉徴収義務を認めるべきとする見解として、 片山・前掲注頁がある。
佐藤英明 「破産手続きにおいて支払われる賃金と所得税」 税務事例研究 号頁 ()。
佐藤・前掲注頁。 同旨、 片山・前掲注 頁。
得や退職所得の性質を失うとは考えがたいと思われる。 (中略) さらに、
所得税法は、 支払を受ける側において所得の性質決定をしており――所得 分類は飽くまでも受領者に関して意味を持つものである――それにもとづ いて源泉徴収制度を組み立てていると考えられるから、 これらの金銭が、
給与所得 退職所得 に該当する以上、 それを支払う者に源泉徴収義務 が発生すると考えることが現行法の解釈として最も自然である。」
イ 個別的強制執行と破産手続との相違
後述するように (本項2)、 不要説は、 個別的強制執行の場合に、 配 当を行う裁判所が源泉徴収することはないことを指摘している。 そして、
破産手続は包括的強制執行ではあるが、 債務者 (破産者) の財産を換価し、
それを原資として配当する手続である点において、 個別的強制執行と同様 な性質を持っているので、 破産管財人は配当において源泉徴収義務を負わ ないとしている。
これに対して、 佐藤氏は次のとおり述べ、 ①個別的強制執行の場合には、
裁判所は源泉徴収義務を負わないが、 雇用主は 「支払をする者」 に該当し 源泉徴収義務を負うと主張し、 そのことを前提として、 ②包括的強制執行 (破産手続) の場合は、 個別的強制執行の場合と異なり破産管財人は源泉 徴収義務を負うと主張する()。
① 「賃金不払いがあり、 個別執行が行われた場合には、 賃金債権に対 応した金銭を現実に債権者 (従業員) に渡しているのは執行機関であ るが、 その所得税法上の支払者は別に存在する雇用主と考えるのが自 然である。 したがって、 個別執行により (換言すれば、 個別執行とい う方法で) 支払われた給与等につき、 雇用主は源泉徴収、 納付義務を 負うことになる。」
② 「包括執行たる破産手続においては、 雇用主に代えて破産財団 (破 産財団法主体説をとる場合) または破産管財人 (破産管財人法主体説 をとる場合) が存在することになる。 したがって、 執行機関として賃 金債権に配当を行ったと解しても、 給与の支払がなされたことにより、
佐藤・前掲注、頁。
事業主の地位に付着する義務として破産財団 (ないし破産管財人、 以 下同じ。) に源泉徴収義務、 納付義務が発生することとなる。 これは ちょうど、 破産財団に売掛債権が帰属している場合に、 破産財団があ たかも事業主の契約上の売主の地位を引き継いだように扱われ、 たと えば瑕疵担保責任を負うのと同じである。 したがって、 国に対して納 付義務を免れることはできず、 個別執行に関する説明と同様の手続の 繰り返しを避けるためには、 源泉徴収、 納付義務を履行せねばならな い。」
佐藤氏は、 破産手続の場合に誰が 「支払をする者」 に該当するかを明確 には述べていないが、 おそらくは、 個別的強制執行の場合と同様に、 雇用 主が 「支払をする者」 に該当し、 雇用主の地位に付着する源泉徴収義務を 破産管財人が引き継ぐと考えているのであろう。
ウ 支払済給与の場合との不均衡
さらに、 佐藤氏は、 以下のとおり述べ、 不要説を採ると給与等が支払済 の場合と不均衡となると指摘する()。
「支払済給与に関する源泉徴収所得税は、 現行破産法はもとより、 立法 論においても強い保護の対象となると考えられているのに対して、 同様に 提供された労務の対価であっても、 給与が未払のままで破産宣告がなされ ると、 それに関して成立する源泉徴収、 納税義務が破産手続上、 まったく 無視される結果となるのでは、 両者の間にあまりに大きな不均衡が生じる ことになり、 適当だとは考えられない。」
源泉徴収義務がないとする不要説の立場に立っても、 破産手続開始前に 給与・退職金を支払っている場合であれば、 すでに雇用主の元で源泉徴収 義務は発生しているので、 これを破産手続において、 破産管財人が財団債 権として弁済することになる()。 この場合は、 国にとって徴収の機会が 確保されているといえるであろう。 これに対し、 給与が未払の状態で破産 手続を開始してしまう場合だと、 破産管財人が未払給与・未払退職金の配
佐藤・前掲注頁。
この場合の徴収権は、 旧破産法ではすべて財団債権にあたる (旧破産法 条2号)。 現行破産法では、 納期 限の時期と破産手続開始決定の時期との関係によって、 財団債権になる場合 (破産法条1項3号) と優先 的破産債権になる場合 (破産法条) とがある。
当をしても、 その配当に対して源泉徴収義務を負うことはないから、 国と しては徴収が困難になるであろう。 同じ労働の対価としての給与・退職金 を支払うはずであるのに、 破産手続開始までに支払済か未払かの違いだけ で源泉徴収義務の有無が異なってくるのは不均衡である、 というのである。
必要説のもう1つの根拠は、 破産管財人の管理処分権の一環として、 破 産者の負う源泉徴収義務に関する手続を破産管財人が行うべきというもの である。
国税不服審判所裁決平成
年2月日裁決事例集巻頁は、 「支払を する者」 は破産者にあたるが、 管理処分の一環として破産管財人が源泉徴 収義務を負うと判断した。① 「所得税法第条第1項は、 報酬等の支払をする者が源泉徴収 義務を負う旨規定しているところ、 同項にいう支払者とは、 報酬等 の支払に係る経済的出捐の効果が最終的に帰属する者を意味するも のと解される。」
② 「破産管財人の報酬は財団債権 (破産法第 条第3号) として破 産財団から支払われるが、 この破産財団は破産者の財産であること には変わりがないことから、 破産管財人の報酬の支払に伴う経済的 出捐の効果が最終的に帰属する者は破産者であり、 この意味におい て所得税法第
条第1項にいう支払をする者とは、 破産者を指す ものといわざるを得ない。」③ 「破産宣告により破産財団に対する管理処分権は破産管財人に専 属することになるところ、 租税の申告納付は破産財団の管理処分の 一環とみることができるのであるから、 破産者の源泉徴収義務及び 納付義務に関する手続は、 破産管財人が負うものと解するのが相当 である。」
上記裁決は、 弁護士の破産管財人報酬に関する源泉徴収義務の争いであ るが、 本件の控訴審判決は、 この上記裁決とほぼ同様の判断( )をしてお
これに賛成する見解として、 品川・前掲注頁、 片山・前掲注頁など。
り、 この見解から本件退職金配当の破産管財人の源泉徴収を要するという 結論を導いたと思われる。
2 不要説
これに対し、 不要説には、 ① (仮に破産者が源泉徴収義務を負うとして も) 破産管財人が破産者の源泉徴収義務を破産者に代わって (または引き 継いで) 行う義務を負わないとする見解、 ②そもそも破産者自身が源泉徴 収義務を負わない (したがって破産管財人も負わない) とする見解、 ③破 産管財人自身が源泉徴収義務を負うことはないとする見解、 および、 ④
「配当」 について源泉徴収義務は生じないとする見解がある。
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ア 破産管財人が破産者の代理人 (代表者) ではないこと
まず、 第1に挙げられるのは、 破産管財人の法的性格から源泉徴収義務 を否定する見解である。 この見解に立つ永島正春氏は、 以下のように述べ ている()。
① 「破産管財人が破産会社の代表者あるいは代理人であるとすれば、
破産管財人の行う労働債権配当は、 代表又は代理関係に基づき、 破 産会社自身による給与等の支払としての効果を生ずるから、 破産管 財人はその地位に基づいて破産会社のために源泉徴収をしなければ ならない。 しかし、 破産管財人の法的地位については、 破産者代理 説あるいは破産者・破産債権者代理説が過去に唱えられたことはあ るものの、 現在この見解に立つものはいない。」
② 「国税徴収法2条号は、 執行機関 の定義として、 滞納処分 を執行する行政機関その他の者 (以下 行政機関等 という。)、 裁 判所、 執行官及び破産管財人をいう。 と規定し、 破産管財人を明 確に執行機関すなわち国家機関としている。 中略 所得税法が、
破産管財人の執行機関としての地位を否定する規定を有しない以上、
破産管財人は源泉所得税の徴収・納付の関係においても執行機関と
永島・前掲注頁。
しての地位を有するべきである。」
永島氏は、 ①の主張で破産管財人は破産会社の代表者 (代理人) とする ことができないとして破産者からの源泉徴収義務の引継ぎを否定し、 さら に②の主張で破産管財人を執行機関とみなすことができるとして、 執行機 関である破産管財人に源泉徴収義務は存在しないと結論づけている。
破産管財人と破産者の関係 (破産管財人の法的地位) については様々な 見解があるが()、 少なくとも、 永島氏がこの主張を述べている当時にお いても現在においても、 破産管財人を破産者の代表者 (代理人) とする見 解は皆無であるとされている()。 この破産法学説上の一般的な考え方を もとに永島氏の主張がされていると思われる。
イ 破産者からの地位の承継がないこと
次に、 破産者の地位を承継する根拠がないとする見解が挙げられる。 こ の見解に立つ山本和彦氏は、 以下のように述べている()。
「一般に破産者の契約関係は、 特段の定めがない限り破産管財人に承継 される (最一小判平
民集巻号 頁・本誌号 頁参照)。
しかし、 源泉徴収義務は、 国と徴収義務者との間に成立する公法関係に基 づくものであり、 徴収義務者自身の固有の義務である (最三小版平42
民集巻2号頁参照)。 そのような義務については、 契約上の義務と は異なり、 当然に破産管財人が承継するものとは解されず、 そのような承 継を認めるには法律上の特別の根拠を必要とするが、 この場合にそのよう な根拠はないといえよう 。 」本判決も、 理由は明示していないものの、 結論についてはこの見解と同 じく、 破産者の源泉徴収をすべき者としての地位を破産管財人が当然に承 継すると解すべき根拠がないと判断している。
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末崎衛氏は、 以下のように述べ、 労働債権に対する破産配当について、
そもそも破産者自身も源泉徴収義務を負わないと主張する()。
① 「源泉徴収義務は、 他人 (受給者) の所得税をその他人に代わっ て徴収し、 国に納付する制度です。 所得税法は申告納税制度を採用 し (通法①一・②一、 所法①)、 自己の所得税を自らが申告し 納税することを原則としています。 そうであれば、 他人の所得税の 徴収義務を課すことが許される者の範囲も限定的に解されるべきで しょう。」
② 「そうするとまず、 自らの権限で支払をする者であってはじめて 徴税上特別の便宜 を有する者といえるのではないでしょうか。
そうでなければ、 支払う金銭の中から源泉所得税を天引きすること は困難であるからです。」
末崎氏は、 源泉徴収制度は他人の所得税の徴収義務を課されるという例 外的な制度 (原則は申告納税制度) であると指摘した上で、 「支払をする 者」 の範囲も限定的に解すべきであるとし (①)、 自ら支払う権限がない ならば、 天引きも困難になるので、 破産者自身にも源泉徴収義務は存在し ない (②)、 と主張している。 末崎氏のこの見解に立つ場合、 破産管財人 の法的地位や管理処分権の範囲をどのように解そうとも、 破産管財人が破 産者に代わって (または引き継いで) 行うべき源泉徴収義務自体が存在し ないことになり、 破産管財人が源泉徴収を行う必要はないことになろう。
この見解は、 と異なり、 破産者ではなく破産管財人自身がその固 有の義務として、 配当について源泉徴収義務を負うかを問題とし、 これを 否定する見解である。
ア 破産管財人にとっては 「給与等 (または退職手当等)」 の支払で はないこと
末崎・前掲注、頁。
永島正春氏は、 未払給料が所得税法条1項の 「給与等」 に当たるのは、
破産会社と労働債権者の関係においてであって、 破産管財人と労働債権者 との間の配当金支払の債権関係においては 「給与等」 に当たらないと主張 し、 その理由を以下のように述べる()。
「配当金の支払をする破産管財人と労働債権者との間には、 上記判例・
学説が 給与等 のメルクマークである雇用関係又はそれに類する法律関 係及びそれに基づく労務の提供が全くないからである。」
「給与等」 とは、 雇用関係またはそれに類する法律関係に基づく労務の 提供の対価であり、 破産管財人と労働者の間にはその法律関係はないので、
源泉徴収義務はないと考えている。 受け取った元従業員にとっては給与だ が、 支払った破産管財人にとっては給与ではないと考えていると思われる。
イ 受給者との間に 「特に密接な関係」 がないこと
山本和彦氏は、 以下のように述べ、 ①破産管財人と破産者の元従業員 の関係および②破産債権者団と破産者の元従業員の関係のいずれの関係 においても 「特に密接な関係」 が見出せないので、 源泉徴収義務は存在 しないと主張している()。① 「破産管財人は賃金債権者等からの労務の給付を受けたわけでは なく、 また破産者等に対して説明請求をする権限 (破産法
条) を 有するものの、 それによって情報を取得することには限界も大きい。少なくとも所得税法が定型的に想定している、 支払を受ける者と源 泉徴収義務者との間に直接の契約関係がある場合に比べ、 その関係 が大幅に希薄化していることは疑いないであろう。」
② 「 元従業員と 破産債権者は明らかにそのような関係 (「特別な 関係」) を欠いていると言っていいように思われる。 そうだとすれ ば、 そのような者に対して、 一方的に徴税の便宜という観点から、
源泉徴収費用を強いることは正当化できないであろう。」
永島・前掲注 頁。 同旨、 金井・前掲注 9頁。 なお、 引用箇所の 「上記判例」 とは、 岐阜地裁昭和 年2月日判決判時 号頁を指す。 また、 引用箇所の 「学説」 とは、 金子宏 租税法 頁 (弘文堂、
第2版、 ) の 「勤労性所得 (人的役務からの所得) のうち、 雇用関係またはそれに類する関係において 使用者の指揮・命令のもとに提供される労務の対価を広く含む観念である。」 との記述を指す (同書第版 () では、頁に同様の記載がある)。
山本・前掲注 、頁。 同旨、 伊藤・前掲注頁。
山本氏は、 前掲最高裁昭和年判決を引用し、 破産管財人と賃金債権 者等 (元従業員) との間で、 「特に密接な関係」 (「特別な関係」) が認め られないならば、 破産管財人に源泉徴収義務を負わせることには疑問が あるとした上で、 上記①のように主張している。 源泉徴収制度が成立す る前提には、 支払者と受給者との間に特別な関係が必要とし、 この 「特 別な関係」 が希薄化している場合においてまで、 源泉徴収を強要すべき でないとしている。
次に、 山本氏は、 破産手続の場合に源泉徴収の費用を実質的に負担す ることになるのは破産債権者であるから、 破産債権者団と元従業員の間 にも 「特別な関係」 が必要であろうと言及し、 上記②のように主張して いる。 元従業員の労働債権 (未払給与あるいは未払退職金) は、 他の債 権より優先的に配当される()。 破産管財人がこの配当に関して源泉徴 収義務を負うのであれば、 これに要する費用 (破産管財人報酬または税 理士費用等) が生じる結果、 元従業員以外の破産債権者ら (破産債権者 団) への配当が減少することになると思われる。 このような費用負担の 問題を考慮して、 山本氏は、 破産債権者団と破産者の元従業員にも 「特 別な関係」 を要すると解していることがうかがえる。
末崎衛氏は、 以下のように述べ、 ①破産管財人と元従業員との関係お よび②破産管財業務の実情の2つから、 破産管財人の源泉徴収義務は存 在しないとしている()。① 「破産管財人は、 その職務の中立性を保つため、 破産した事業者 とは利害関係のない弁護士が就任するのが通例であって、 その事業 者 (破産者) の従業員との間に何ら 特に密接な関係 などありま せん。」
② 「破産管財業務の実情を考えても、 破産管財人が破産者の元従業 員の未払給与等について 徴税上の便宜 を有するとはいえないと
旧破産法では、 破産宣告前の原因に基づいて生じた労働債権はその全額が優先的破産債権にあたる (旧破 産法 条)。 現破産法では、 未払給料については破産手続開始前3ヶ月間、 退職手当については退職前3ヶ月 間の給料の総額に相当する額が財団債権にあたり (破産法 条)、 それ以外のものが優先的破産債権にあた る (同法 条2項)。
末崎・前掲注 頁。
思われます。 破産者の従業員は、 破産手続開始までに解雇されるの が一般的であり、 未払給与等の金額の計算も、 破産管財人 (または その補助者) が、 破産者の帳簿やタイムカードといった資料から推 計して行うことが少なくありません。 事業者が通常の業務を行う中 での、 給与などを支払う場合とは、 状況が異なるといえるでしょう。」
末崎氏の①の主張は、 従業員と利害関係のない弁護士が破産管財人に 就任するので、 破産管財人と労働債権者との間の法律関係に、 雇用者と 従業員のような 「特別な関係」 はみられないとしている。
末崎氏の②の主張は、 上で述べている給与・退職金の額の算出以外に も、 給与所得者の扶養控除等申請書 (所得税法
条) の提出の有無や 勤続年数等の確認が生じ、 そうした確認が容易ではない破産管財業務の 実情を考慮したものと思われる。最後に、 個別強制執行での配当について源泉徴収がされていないことを 指摘し、 破産配当についても源泉徴収を要しないとする見解をみておく。
ア 永島正春氏は、 労働債権に対する配当が、 執行機関にとって給与の支 払に該当しないとした上で、 以下のように述べている()。
① 「執行裁判所及び執行官に源泉徴収義務があれば、 それは同時に 源泉徴収権限を導くが、 上記のように、 これら執行機関には源泉徴 収義務はない。 また、 民事執行法、 所得税法及び国税徴収法のいず れにも、 これらの執行機関の源泉徴収権限を定める規定はない。」
② 「国税徴収法のレベルにおいては、 執行裁判所及び執行官と破産 管財人とは同位の執行機関であるから、 これらの執行機関相互の間 に源泉徴収義務の有無について差異を設けるべき根拠は見出せない。」
永島氏は、 前述アでも述べたように、 破産管財人は裁判所と同位の執 行機関とみなすことができるので、 裁判所および執行官に源泉徴収義務 がないならば、 同様に破産管財人にも源泉徴収義務がないと考えてい
永島・前掲注 頁、頁。 同旨、 竹下重人 「税務処理」 自由と正義巻6号頁 ()。
る()。
イ 桐山昌巳氏は、 破産債権に対する配当が個別執行における配当と同質 性があるとし、 さらに、 未払給与・未払退職金配当に対してなぜ源泉徴 収義務が存在しないのかについて、 以下のように述べている()。
「破産配当も個別執行と同様、 実体的法律関係にかかわりなく、 単に 配当加入資格のある債権に手続法上の満足を与えるものにすぎないと考 えられる。 確かに配当加入債権が実体法上も存する限り、 破産配当実施 は実体債権消滅の効果を生じるが、 破産配当は、 実体債権の存否にかか わらず実施されるものであるから、 配当手続それ自体は、 実体債権の満 足を直接の目的とするものではない。 そうだとすれば、 破産管財人が配 当加入債権の実体法上の法的性質を考慮して源泉徴収納付を行うことは、
配当手続の本質に背馳するものであると考えられる。 このように考える と、 破産配当は所得税法条の 支払 に該当せず、 破産者および破 産管財人は源泉徴収義務を負わないとの結論が導かれ得る。」
桐山氏は、 破産配当において、 その配当の対象となる債権の実体法上 の法的性質は考慮されないと述べ、 その点を根拠に、 破産配当手続は、
通常の債権の支払とは異なる手続であると指摘している。 桐山氏は、 破 産配当の 「支払」 を所得税法にいう 「支払」 には該当しないとして、 破 産管財人の源泉徴収義務を否定すべきと考えている。
ウ 山本和彦氏も、 破産という手続の特殊性を考慮されるべきとし、 破産 管財人に源泉徴収義務はないとして、 以下のように述べている()。
「破産手続における配当は、 破産手続上確定された債権に対してその 確定された内容に従ってなされるべきものであり、 確かに実体法上は、
それが破産者と債権者との関係で賃金債権等の弁済という法律効果を生 じるものであるとしても、 手続上はそれと切り離した形で行われる性質 のものであることは否定し難いように思われる。」
同旨、 永石一郎 「破産処理と税務」 園尾隆司=中島肇編 新・裁判実務大系 破産法 頁 (青林書院、
)。
桐山・前掲注 頁。
山本・前掲注 頁。