平成30年度厚生労働科学研究費補助金(政策科学総合研究事業(政策科学推進研究事業))
「我が国の貧困の状況に関する調査分析研究(指定)」(H28-政策-指定-006)
分担研究報告書
アメリカ住宅政策における低所得者向け住宅の供給促進と家賃補助
分担研究者 岡田徹太郎(香川大学 経済学部 教授)
研究要旨
研究目的:本研究の目的は、現代の国民国家が、低所得者をはじめとする住宅困窮者向け に住環境を保障しようとする場合、“家賃補助(住宅手当)”という政策手段を持たなくて 良いかどうかを、アメリカ住宅政策を題材として明らかにするものである。
アメリカは、低所得者向け住宅政策のメニューとして、1930年代に始められた供給促進 策(公共住宅)のみならず、1965年から家賃補助政策を導入している。直接補助・間接補 助を含めたアメリカ連邦政府助成住宅の総戸数(2012年)は、834万5843戸あり、そのう ち、住宅選択バウチャー(HCV)と呼ばれる家賃補助を受けている世帯は233万9198戸、
住宅補助の28.0%を占める。
研究方法:本研究の目的を達するため、アメリカ現地調査、第1 に、ワシントンD.C. に て住宅都市開発省の幹部との会見を行ない、第2に、カリフォルニア州サンフランシスコ・
ベイエリアを訪問し、公的な援助の入った住宅の現状を調査した。
結果と考察:本研究で与えられた示唆は、住宅問題の発生状況は、都市・地方それぞれに 異なるため、地域のニーズに応じた政策選択をする必要があること。何よりも重要なのは、
各地方住宅局や地方政府が、適切な住宅政策を選択するためのメニューと財源を、連邦政 府(中央政府)が準備しておく必要があることである。
家賃補助政策がもっとも適切と思われる地域があるにもかかわらず、政策メニューに、
家賃補助政策がなく、それを実施する財源もないとしたら、地域の持続的な発展を妨げて しまうかもしれない。
連邦政府(中央政府)が、多様な住宅政策のメニューを用意しておくことの重要性を、
アメリカの住宅政策は示唆している。
A.研究目的
本研究の目 的は、 現代の国 民国家 が、
低 所 得 者 を は じ め と す る 住 宅 困 窮 者 向 け に 住 環 境 を 保 障 し よ う と す る 場 合 、
“家賃補助(住宅手当)”という政策手段 を持たなくて良いかどうかを、アメリカ 住 宅 政 策 を 題 材 と し て 明 ら か に す る も のである。
その背景として、周知のように、日本
における低所得世帯向け住宅政策は、公 営 住 宅 の 供 給 が そ の 中 心 で あ っ た こ と がある。
家賃補助(住宅手当)に類する政策は、
2008 年の 経済危 機(い わゆ るリー マン ショック)を背景として、2009年に始め ら れ た 緊 急 雇 用 創 出 事 業 の 一 環 で あ る 住 宅支援 給付事 業、2015 年 に始め られ た 生 活 困 窮 者 自 立 支 援 制 度 に お け る 住 宅確保給付金事業があるが、対象者が限 られ支給期間も短く、一般的な家賃補助
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(住宅手当)政策とは呼べない水準にあ る。
これに対し て、先 進主要国 のなか で、
低 福 祉 国 家 の 代 表 と 目 さ れ る ア メ リ カ
(1970 年 代後半 以降の 一般 政府支 出の
対 GDP比 30~36%で推移)ですら、低
所得者向け 住宅政策 のメニュ ーとし て、
1930 年代 に始め られた 供給 促進策 (公 共住宅)のみならず、1965年から家賃補 助政策を導入している。
直接補助・間接補助を含めたアメリカ 連邦政府助成住宅の総戸数(2012年)は、
834 万 5843 戸であり、全米住宅戸数の 7.3%に相当する。そのうち、住宅選択バ ウチャー(HCV)と呼ばれる家賃補助を 受けている世帯は233万9198戸であり、
住 宅 補 助 の 28.0%を 占 め る (Schwartz (2014) p. 9)。
B.研究方法
本 研究の 目的を 達す るため 、平 成 30 年度初めは、第 1に、基礎的な文献調査 によって、アメリカ住宅政策の歴史と現 状を把握し、住宅供給促進策と家賃補助 政策について整理した。第 2に、これら の 文 献 調 査 を 基 礎 に し て ア メ リ カ 連 邦 政府へのインタビュー調査を準備し、住 宅 供 給 促 進 策 と 家 賃 補 助 政 策 の そ れ ぞ れ に つ い て 現 代 的 意 義 を 尋 ね る 質 問 票 を作成した。
日本政府公式ルートを通じて、8月下 旬に、アメリカ連邦政府・住宅都市開発
省(HUD)にインタビューを行なうこと
を申し入れた。
ワシントンD.C. での会見の前段階と して、8月上旬に、国立社会保障・人口 問題研究所にて、研究代表、研究分担者、
研究協力者とともに研究会を持ち、文献 調査の成果を報告するとともに、アメリ
カ現地調査の計画について発表し、その 内容について討論を行なった。なお、ア メリカ調査計画のなかに、サンフランシ スコ・ベイエリアでの現地調査を盛り込 むこととした。シリコンバレーの好況や、
魅力的な住宅街が人びとを引き付け、家 賃が高騰し問題となっていること、そし て、住宅政策研究の一つの拠点となって い る カ リ フ ォ ル ニ ア 大 学 バ ー ク レ ー 校 が存在することがその理由である。
8 月下旬に、ワシントン D.C. にて住 宅都市開発 省の幹部 との会見 を行な い、
引き続き、 サンフラ ンシスコ を訪問 し、
公 的 な 援 助 の 入 っ た 住 宅 の 現 状 を 調 査 した。
アメリカ現 地調査 結果を終 えた後 は、
情報を持ち帰り、その整理、更なる文献 調査、統計調査を加えて、研究成果をま とめた。
研究成果は、平成 31年 3月 8 日に、
国立社会保障・人口問題研究所にて行な われた研究代表、研究分担者、研究協力 者との研究会で発表された。
その最終成果は、さらに、研究グルー プ ととも に出版 する 本の 1 章とし て執 筆され、公開される予定である。
(倫理面への配慮)
部外秘とされる情報や、個人情報を得 た場合には 、公開情 報とは別 に管理 し、
個別データについて、物理的媒体につい ては鍵のかかる保管庫で保管し、電子媒 体 に つ い て は パ ス ワ ー ド に よ る 暗 号 化 の処理を施すなど、情報管理を徹底した。
加えて、研究発表・論文執筆にあたっ ては、秘密情報・個人情報を外に出さな い よ う に す る こ と は も と よ り 、 秘 密 情 報・個人情報の特定につながらないよう 加工した形で発表する。
なお、本研究は、生命倫理・安全対策
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に対する取組や、研究機関内外の倫理委 員 会 等 に お け る 承 認 手 続 き が 必 要 と な る研究を含まない。
C.研究成果
日 本 政 府 公 式 ル ー ト を 通 じ て 申 し 入 れた、アメリカ連邦政府・住宅都市開発 省(HUD)でのインタビューは、8月 23 日に、ワシントンD.C. で、住宅都市開 発省の政策形成を担う次官補・副次官補 を 含む 5 名の幹 部と会 見を もって 成功 裡に行なわれた。
加えて、カリフォルニア州サンフラン シスコ・ベ イエリア での調査 によっ て、
低 所 得 者 向 け 住 宅 の 現 状 を 調 査 す る こ とができた。
明らかにされたことを述べれば、1930 年代の公共住宅の開始以降、他にも、さ ま ざ ま な 住 宅 供 給 促 進 策 が 取 ら れ て い る。それと同時に、家賃補助政策も継続 されている。
地域ニーズに応じた政策の選択を、住 宅 都 市 開 発 省 の 出 先 機 関 で あ る 地 方 住 宅局と地方政府(市政府)とが共同で行 なっている。住宅供給促進策を優先する か、家賃補助政策を優先するかは、地域 のニーズに基づいた政策判断による。
連邦政府は、政策メニューと財源を与 えるが、その選択には関与しない。政策 メニューと 財源は、 州政府へ 移譲さ れ、
州政府機関が方向性を決定し、地方の申 請に基づいて財源を配分する。
政 策 メ ニ ュ ー と 財 源 付 与 の 基 礎 と な る方針は、連邦政府によって定められて いる。
補助対象は、原則として、地域の所得
中央値の 50%以下の低所得層である。
補助水準は、公的助成を受けた住宅に 入居する場合も、民間住宅への家賃補助 を受け取る場合も、入居者の自己負担水
準を、家族規模で調整された調整後総所
得の 30%と定めており、公的な助成は、
それを超え た部分に 対して与 えられ る。
D.考察
住宅問題をめぐる状況は、地方地方で 異なり、一国で一律の政策を作り、各都 市 や 地 方 に そ れ を 強 制 す る こ と は で き ない。それは、各都市や地方の住宅ニー ズ が 場 所 に よ っ て 大 き く 異 な る か ら で ある。
住宅ストックが十分にあり、所得の不 足によって、家賃を負担することだけが 重荷となっている地域は、家賃補助政策 を選択するだけでよいであろう。
住宅ストックが十分になく、住宅市場 が過熱気味で、家賃や住宅価格が上昇し ているような地域では、住宅供給促進策 に補助が投じられることが望ましい。し ばしば、このような地域で、家賃補助政 策を実施す ると、住 宅需要を 増大さ せ、
家賃や住宅価格を押し上げ、住環境を悪 化させる要因にもなり、好ましくない場 合がある。
一般的に、成長する都市には、両方の 政策が必要となる。住宅を十分に供給す るための促進策と、所得が不十分なため に、適切な住宅を見付けることができな い 世 帯 に 家 賃 補 助 を 与 え る こ と の 両 面 が、住環境の改善に資する。
E.結論
本研究、すなわち、アメリカ住宅政策 の研究で与えられた示唆は、住宅問題の 発生状況は、都市・地方それぞれに異な るため、地域のニーズに応じた政策選択 をする必要があること。
そして、何よりも重要なのは、各地方 住宅局や地方政府が、適切な住宅政策を
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選 択 す る た め の メ ニ ュ ー と 財 源 を 連 邦 政府(中央政府)が準備しておく必要が あることである。
住環境を改善し、再生を図りたくても、
政 策 手 法 と 補 助 基 準 を 適 切 に 設 定 で き ないかもしれない。そして、独自財源を 開拓するこ とができ ないかも しれな い。
連邦政府は、地域コミュニティで生じ うる全ての住宅問題と、その対策につい て研究を積み重ね、政策手法と補助基準 に基づいた財源を用意する。
その政策手法と財源は、州政府に移譲 され、州政府が、地方の申請に基づいて、
計画に対する承認を与え、財源を割り当 てていた。
もっとも好 まれな い政策の 枠組み は、
選 択 し た く て も 政 策 オ プ シ ョ ン を 取 れ ないことであろう。
たとえば、家賃補助政策がもっとも適 切 と 思 わ れ る 地 域 が あ る に も か か わ ら ず、政策メニューに、家賃補助の方法が なく、それを実施する財源もないとした ら、地域の持続的な発展を妨げてしまう かもしれない。
多 様 な 住 宅 政 策 の メ ニ ュ ー を 用 意 し ておくことの重要性を、アメリカの住宅 政策は示唆している。
主要参考文献
・Office of Management and Budget, OMB (2019), “Historical Tables,” Budget of the United States Government 2020, Washington D.C.
・Schwartz, Alex F. (2014) Housing Policy in the United States, Third Edition, Routledge, New York.
・岡田徹太郎(2016)『アメリカの住宅・
コミュニティ開発政策』東京大学出版会.
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