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上 村 雄 一

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(1)

経 営 と 経 済 第 七 四 巻 第 四 号 一 九 九 五 年 三 月

︽ 判 例 研 究 ︾

出 向 と 懲 戒 処 分

− 勧 業 不 動 産 販 売

・ 勧 業 不 動 産 事 件 判 決

︵ 東 京 地 平 判 四 ・ 一 二

・ 二 五 判 タ 八 三 二 号 一 一 二 頁 ︑ 労 判 六 五

〇 号 八 七 頁 ︶

上 村   雄 一

一 ︑ 本 判 決 の 位 置

出向︵在籍出向︶は︑労働者と出向元会社の二者関係から︑労働者︑出向元︑出向先の三者関係への労働関係の存

在形式ないし権利義務関係の変動をもたらす点に特徴がある︒この当該三者間の法的関係の理論的整序が出向法理の

固有の課題である︒ただ︑二者関係から三者関係への﹁変動﹂といっても当該出向によって内容は多種多様であり︑

(2)

経 営 と 経 済

当該出向にともない労働契約関係のどの側面がどのように変更するのかを分析することは必ずしも容易ではない︒本

研究で検討する出向中の懲戒処分権の帰属先(処分権者は出向元か出向先か︑あるいは両者か︑両者であるとすれば︑

懲戒権はどのように分担・行使されるべきか)の問題も例外ではない︒

出向先の行為を理由とする懲戒処分事件はこれまでにも若干みられる︒いずれも出向元による懲戒解雇処分の効力

を争った事件である︒これに対して︑本件は︑出向元と出向先の両者が同時に同一行為に対して懲戒解雇以外の懲戒

処分(役付罷免︑降格処分︑出勤停止)をおこなった事例である︒判決は結論として出向元・出向先の両者による処

分をともに有効であると判断している︒

本判決を理論的にみるとき︑第一に︑出向元と出向先の就業規則の適用関係について判断している点︑第二に︑出

向元と出向先の両者がともに懲戒処分権者になる理由を明示している点︑第三に︑出向元と出向先の両者がともに懲

戒処分権を行使しても不当に過酷とはいえないとする理由を明示している点が注目される︒いずれも︑これまで本格

的に検討されることの少なかった論点である︒以下︑この三点を中心にして本件判決を検討してみたい︒

一 一

︑ 事 実 の 概 要 と 判 旨

︿ 事

実 の

概 要

v u は不動産売買・仲介・鑑定等を主たる目的とする会社である︒もは同じく不動産関係を主たる業務とする会社で︑

ものいわゆる親会社である︒

X は昭和六二年四月にも(出向元)に採用され︑平成二年四月にもに総務部係長として在籍したまま︑

V U

(

出向先)

に出向し︑同年六月頃よりもの A 支庖の庖長代理として勤務していた︒しかし︑同じくもから出向している上司の訴

(3)

経 営 と 経 済

外 B との折り合いが悪く︑ B の指示に対し﹁そんなことは自分でやれ︑ばかやろう﹂と発言するなど B に侮辱的言動

等をくりかえしたため︑平成二年一一月に︑もどもの両者はそれぞれ懲戒処分(もが庖長代理罷免処分および一 0 日

間の出勤停止︑もが主事補から書記への降格処分および係長罷免処分)をおこなうとともに︑

v u

は X

の 出

向 を

解 き

︑ X にもの﹁本部業務付﹂を命じたところ︑ X はもを退社し︑両懲戒処分の無効等を主張して本件提訴に及んだもので

あ る

本 ︒

件 判

決 は

︑ X の B に対する一連の侮辱的言動がもの就業規則に定める懲戒事由に該当すると認定するとともに︑

次のように判決している︒

︿ 判

旨 ﹀

一部却下一部棄却(控訴)

﹁ も

は ︑

X に対して︑出向先であるもにおける行為について本件懲戒処分二︹降格処分および役付罷免]をした

が ︑ X のもへの出向は在籍出向であり︑ X ともとの聞の雇用関係はなお継続しているから︑

v u

は︑出向元会社の立

場 か

ら ︑

v u

における行為について︑もの就業規則に基づいて懲戒処分を行い得ると解すべきである︒﹂

同本件事情を考えると︑﹁

VU

からもの A 支庖に出向した原告を含む三名の従業員は︑もにおいても︑親会社である

もの就業規則の適用について同意しているものと解されるから︑もはもの就業規則を適用して懲戒処分を行い得る

ものと解するのが相当である︒﹂

X は︑本件各懲戒処分は︑出勤停止︑役付罷免及び降格という何重もの不利益を科したものであって︑ X

の 行

為に比し過重な処分であると主張するが︑もともは︑出向元会社と出向先会社として︑それぞれ異なる立場から X

に対して本件各懲戒処分を行ったものであること[等]に照らせば︑

v u が出勤停止︑役付罷免を︑もが役付罷免及

出向と懲戒処分

(4)

経 営 と 経 済

四 び降格を X に付したことをもって︑何重もの不利益を科したとか︑ X の行為と比して過重な処分であるということ

は で

き な

い ︒

*本件では︑懲戒処分無効確認の訴えの場合の確認の利益の存否も争点になっている︒判決は︑結論として︑本件の場合には確

認の利益は存在しないとして X の請求を却下している︒重要論点であるが︑主題から離れるので省略することにする︒したが

って判旨としても引用していない︒﹁一部却下﹂はこれに関する判断である︒

三︑研

一︑出向元の懲戒権の根拠(就業規則の適用関係)

ハ円判旨付は︑本件出向が在籍出向であり X ともとの間の雇用関係が継続していることを理由に︑﹁もは︑出向元会

社の立場から︑もにおける行為について︑

v u の就業規則に基づいて懲戒処分を行い得る﹂と説示してい氏︒簡単な

説示にとどまっているためその意味するところは必ずしも明確ではないが︑直ちに問題になるのは︑判旨付のいう

﹁在籍出向﹂と﹁

VU

の就業規則﹂の関係である︒在籍関係があるときには出向先

(VM)

の就業規則は当然に継続適

用されるというのが判旨の自然な理解と思われるが︑そうだとすると解釈論としてはいささか粗雑である︒

出向と懲戒処分

ω 法人格の区別を前提にするかぎり︑出向中は︑出向元に対する出向労働者の労務提供の義務は全面的または部分

的に免除されている︒労務提供義務が免除されていないのであれば︑出向期間中も︑就業規則の定める就労義務の

すべてを出向労働者は負担していることになり︑出向中の労働関係の説明として明らかに不当である︒出向は第三

のもとで就労することについての第三者(出向先)を含めた出向当事者の合意を基礎にする会社間労 者(出向先)

(5)

働移動にほかならず︑出向元における就労義務の全部または部分的な免除を当然の前提にしている︒したがって︑

在籍関係にあったとしても︑出向元

(VU)

の就業規則の全体が出向労働者

( X

)

に対して全面的に適用されること

はありえないのであるから︑懲戒処分の根拠を就業規則に求めるかぎり(これは本判決の立場である)︑就業規則

の適用関係について判旨はもっと厳密であるべきであった︒

すなわち︑就業規則に懲戒権規定が存在しないときには懲戒権を行使できないとの立場(本判決の立場)に立脚

しつつ︑出向元による懲戒権行使を正当化するためには︑就業規則の懲戒権規定が出向中も継続して適用される理

由を積極的に提示する必要がある︒この場合に︑不用意に﹁在籍関係﹂をもちだすべきではない︒﹁在籍関係﹂は︑

それ自体では︑かならずしも有効な根拠とはいえないのであって﹁在籍関係﹂があれば︑なぜ︑第三者(出向先)

のもとでの就労にかかわる行為について就業規則の懲戒規定を適用できるのかにそもそも論点があ足︒

分析的には︑出向先での就労は出向元との雇用関係を基礎に実行されているのであるから︑出向先に対する労務

の提供は同時に出向元に対する労務の提供の意味を有していると把握し︑それ故に︑就業規則(懲戒権規定)は出

向中も適用されると説明する方向が考えられる︒実際︑出向元の就業規則(懲戒権規定)の適用を肯定するために

は︑観念的であれ︑出向中も出向元への労務提供は継続していると構成するほかないように思われる︒しかし︑﹁観

念的﹂といっても労務提供の事実を肯定する以上︑それに対応する﹁現実﹂が存在していなければならない︒そう

でなければ︑右の構成は出向元の懲戒権を肯定するための目的的な技術操作の意味をもつにすぎない︒たとえば︑

出向元が使用者としての責任の一切を負担しない出向形態の場合であっても︑かかる構成を認めてよいかは疑問で

ある︒これを認めるとすれば︑労働契約の双務性が問われる︒

この点について︑労務提供に対する対価の意味を厳格に解する必要はなく︑出向中に賃金を支払うなど使用者と

出向と懲戒処分

(6)

経 営 と 経 済

しての責任を具体的に負担していないとしても︑出向期間を在職期間として通算しそれを退職金などに反映させる

措置がとられているときには︑労働契約の双務性は最終的には担保されていると考えてよいとする見解があるかも

しれない︒事実︑出向事例の多くがこのような在職通算制度を採用しているところであり︑考慮に値する論点であ

る︒しかしこれを認めるとしても︑それは︑出向元が出向労働者に対して使用者としての最終責任を負担する旨を

明示的に約束している場合に限定されると考えるべきであろう︒自己(出向元)に対する労務の提供(雇用関係の

当事者としての義務履行)を求めつつ︑使用者としての責任は負担しないというのは背理であり︑そのような方法

での就業規則の選択的適用は衡平の原則︑労務提供の対価性に反する︒他方︑出向元が使用者としての責任を出向

元にゆだね︑出向労働者もそのことについて同意しているときには︑両者の聞に﹁在籍関係﹂が存在するとしても︑

出向元は就業規則(懲戒権規定)を当該労働者に適用できないと考えるべきであろう︒使用者としての責任を負担

しない旨を当事者が確認しているのであるから︑それは当然の結論である︒これを本件についてみると︑もがもの

人事・給与等の管理をおこなっていると認定されている︒したがって︑労務の対価性の観点からみるとき︑

が懲 v u

戒権を有していることにはそれなりの合理性があるといわなければならない︒

伸しかしながら︑対価支払の事実から︑出向元

(VU)

の就業規則(懲戒規定)の継続的適用を直ちに肯定すべきと

の結論にいたるわけではない︒出向中に︑就業規則中のどの規定が継続適用され︑どの規定が適用を停止されるに

至るかは労務の対価性の観点からは説明できないのであって︑結局︑それについては︑当該出向の目的に適応した

出向元︑出向先︑労働者の三者の合意によって判断するほかない︒対価支払の事実があれば︑自動的に懲戒権が認

められるというものではなく︑実際︑当事者の合意により出向元の就業規則(懲戒権行使)を制約している例が多

数みられる︒こうした出向制度の多様性は当事者の当該出向についての合音山内容の相違に起因するものである︒も

出向と懲戒処分

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経 営 と 経 済

とより︑現実に紛争になるのは当事者が就業規則の適用関係について明示的に合意していない場合であろうから︑

どのような出向形態のときに︑出向元の就業規則(懲戒規定)の適用を肯定してよいのかの基準設定が法解釈学に

おける課題になるが︑出向労動関係の法的基礎はあくまでも当該出向に関する当事者の合意(出向合意)にある︒

出向実態は当事者の意思が不明なときにそれを推定するための素材(ただし︑重要な素材)にとどまる︒

これに対して︑就業規則は︑労働条件・職場ル l ルの定型的処理を目的にしているのであるから︑就業規則の適

用対象は当事者の主観的意思から離れて客観的に定まり︑その適用関係(懲戒権の所在)を当事者合意により判断

するのは適切ではないとの反論があるかもしれない︒これは就業規則の本質理解にかかわる論点であり︑たしかに︑

一般論としてみれば︑就業規則の法規的側面は否定できないように思われる︒しかしながら︑出向中に︑出向元と

出向先の就業規則の両者が︑それぞれに︑全面的に適用されることはなく︑少なくとも出向元の就業規則について

は部分的に適用されなくなることを考慮すれば︑その適用関係については当事者の合意が支配すると考えるのが妥

当である︒別言すれば︑就業規則の適用関係を当事者の合意によって決定することによって︑当該出向の内容も特

定されるにいたるのであり︑就業規則の適用関係についての当事者の合意は当該出向の内容を特定する意味を持つ︒

出向内容(出向実態)は︑当事者の合意を論理上当然に前提にするのであって︑その逆ではない︒

右と関連して︑﹁就業規則は︑本来使用者が作成・変更するものであり︑法規範的な効力があるとされているの

で︑最終的には使用者において︑適用関係を定めてさしっかえない﹂とする見解がある︒また︑その見解は︑﹁使

用者とは出向元会社と出向先会社の双方をいうものであるから︑出向社員の就業規則の適用をどうするかというこ

( )

とは︑出向元と出向先の両使用者間で協議し決定し得ることになる﹂とする︒しかしながら︑当該出向により︑労

働者の義務(使用者の権利)のみならず労働者の権利(使用者の義務)の変動もともなう事情(ほとんどの出向が ( 五 ) ( 六 )

出向と懲戒処分

(8)

経 営 と 経 済

1

これに該当する)を考えるならば︑労働者の同意のないかぎり︑必ずしも当然にこれを実行できるものではない︒

たとえば︑出向元の賃金支払義務を出向先に免責的に移転させる合意は︑債務引受の論理により︑債権者である労

働者の同意がないかぎり許されないはずである︒就業規則の作成義務者が使用者であることを理由に︑就業規則の

適用関係についても使用者に判断権があるとは当然にはいえないのである︒向︒し結論は労働者に重大な不利益を与

える出向についても指摘できる︒たとえば︑本件で問題になっている懲戒規定は典型例である︒後でも説明するよ

うに︑当該出向により︑出向元と出向先の両者に二重に懲戒権が発生するときには︑当該出向労働者は一般の労働

者に比較して重い負担を引き受けることになるのであるから︑労働者において︑このことについての明示の合意が

存在していなければならないと考えるべきである︒

仙川本件の場合︑この種の合意があったかは不明である︒既述のとおり︑判旨は在籍出向であることを理由に出向元

就業規則(懲戒規定)の適用を自明視しているが︑自明でないことはすでに説明したとおりである︒くりかえし指

摘しているように︑出向により出向元

(VU)

の労務提供義務は全面的または部分的に免除されているのであるから︑

就業規則の適用関係を変更することなく︑もの就業規則を X に全面適用できないことはきわめて当然である︒判旨

を合理的に説明するためには︑労務提供義務にかかわる規定を選択的に排除する一方︑懲戒規定については継続適

用するとの合意にもとづき︑もは就業規則(懲戒規定)を X に適用したと解するほかない︒しかし︑このように解

釈することは余りにも窓意的であろう︒懲戒権が労働契約の違反(債務不履行)に対する単純なサンクション以上

の意味を含んでいることを考慮すると︑このように解釈するのではなく︑むしろ︑当事者の明示の合意がないかぎ

り︑懲戒権規定の適用は排除されていると推定するのが妥当である︒その意味において︑本件は︑そもそも出向中

の労働関係(就業規則の適用関係)について︑当事者の問題意識が欠如している(そのために︑懲戒規定が整備さ

出向と懲戒処分

(9)

れていなかった)事例であると評価することも可能である︒もとより︑黙示の合意の技術を利用して出向中の労働

関係を事後的に確認する操作は可能である︒しかし︑懲戒処分については︑その性格に照らし︑かかる推定操作は

原則として否定すべきであろう︒本件では︑この点について当事者の明示の合意は存在しないのであるから︑結論

として︑出向元と出向先の両者は懲戒権の根拠を獲得していないと解さざるをえない︒

この部分は︑正確には︑傍論である︒判旨は︑在籍出向の場合には︑出向元の就業規則(懲戒規定)の適用を当然と考えている︒

﹁在籍﹂出向を強調する論理は︑岳南鉄道事件(静岡地沼津支判昭和五九・二・二九労民集三五巻一号二三頁)︑松下産業事件(大阪

地判平二・五・二八労判五六号六四頁)などの先例の採用するところである︒ただし︑いずれも簡単な説示にとどまっている︒付言す

ると︑これまでの裁判例で出向元の懲戒処分権を否定したものはない︒出向元の懲戒権の根拠に言及せず出向元の懲戒権を当然視する

例に守谷商会事件判決(大阪地判平元・三・六労判五三六号三一頁)がある︒もっとも︑同判決は懲戒手続違反を理由に処分無効と判

断している︒このほか︑メガネの田中チェーン懲戒解雇事件(広島地判平五・五・一七労民集四四巻三号四四五頁)が注目される︒同

事件は︑就業規則の﹁従業員﹂規定で﹁取締役﹂を排除していた(つまり︑就業規則の適用対象外であった)にもかかわらず︑取締役

在任中の懲戒処分対象行為を理由に︑債務者会社の﹁従業員﹂になった時点で債務者の就業規則に基づいて懲戒解雇処分をおこなった

事例である︒債権者は訴外 A 社の従業員としての身分を保有したまま債務者の取締役に出向していた︒裁判所は︑債務者と訴外 A 社の

関連性(同一企業グループに属していること)︑従業員としての地域の相互互換性︑就業規則の共通性︑債権者が繊務者(出向先)の

当時おける従業員の採用教育担当の責任者であったことを理由に︑債権者は︑﹁当該行為においても︑債務者会社の従業員と同視され

ることを拒みえないというべきである︒﹂と判示して懲戒解雇処分を有効とした︒企業グループにおける会社間移動問題を考えるうえ

で重要な判例であるが︑支持しがたい︒就業規則で適用対象外と明記している以上︑訴外 A 社が出向元として懲戒解雇処分をおこなう

のはともかく︑債務者がこれをおこなうことは許されないというべきである︒なお︑以上はこの事件の多数にわたる債権者のうちの一

名についてのものであり︑また︑懲戒解雇処分当時︑債権者が訴外 A 社と雇用関係にあったかは不明である︒

出向と懲戒処分

(10)

経 営 と 経 済

(三)出向元の就業規則の適用の可否を度外視して︑在籍関係が継続しているかぎり出向元は当該雇用関係を基礎に懲戒権を当然

に有するという見解もありえないわけではない︒その場合には︑出向元に﹁籍﹂が残っている以上︑就業規則の適用の有無に

関係なく︑出向元は出向労働者に対し固有の権利として懲戒権を有する旨の説明論理が用意されることになろう︒しかし問題

は︑﹁籍﹂の意味であって︑これを説明しないかぎり説得的な議論とはいえない︒

(四)安西愈﹃企業間人事異動の法理と実務﹄(中央経済社一九九一年)一一一一頁︒

一 一

︑ 出 向 先 の 懲 戒 権 の 根 拠 と 懲 戒 処 分 権 の

﹁ 調 整 ﹂

判旨は︑出向元

(V)

の懲戒権については︑当事者合意(出向合意)にこの根

拠を求めている︒すなわち︑①設立経緯︑役職構成などからみてもがもの実質的な子会社であること︑①業務内

容・人事管理の方法に照らしもが実質的にもの営業一部門の体をなしていること︑① A 支庖の X を含む三名の従業

員すべてがもからの出向者であること︑①

v u に就業規則が存在しないことの各事実に照らし︑出向労働者

( X )

の就業規則が出向先

(VU)

でも適用されることについて同意していると解されると判示している(判 の場合とは異なり︑出向先

(VU)

出向元

(V

M)

旨 ω )

仁j

たしかに︑認定事実に照らすとき︑ X は出向中ももの就業規則が適用されることを承認していたと考えるのが妥

当である︒しかし問題はその合意である︒判決は︑もにおけるむの就業規則の適用についての合意があったと判断

することによりもの懲戒権行使を当然のごとく認めているが︑もの懲戒権を肯定する合意まで成立していたかは疑

わしい︒判旨を肯定するためには︑

v u の就業規則がもと

において別個独立にそれぞれ同時に適用される旨につい v u

ての合意が成立していなければならないが︑認定事実をみるかぎり︑かかる合意はなく︑むしろ︑

v u の就業規則が

(11)

出向中も引きつづいて適用される旨の合意のみがあり︑これとは別に︑もは独自に懲戒権を行使する旨(もともの 就業規則は内容は同一であるが︑形式的には別のものであり︑それぞれ X に対して適用がある旨)の合意は存在し

ていなかったと推測される︒ X としては︑出向中の自己の地域について明瞭に意識することなく︑まさに判決のい

う﹁もの営業一部門﹂への配置転換といった意識でもに出向に応じたと思われる︒事実認定にかかわることなので

詳述することは避けざるをえないが︑本判決の右事実記述には相当の疑問が残る︒

同他方︑判旨がもにおいて巴の就業規則が適用される旨の合意の存在を︑当事者の意思解釈の結論として提示して

いる点は不当ではない︒本件事実のもとでも︑もの就業規則が︑自動的に︑もにおよぶわけではなく︑出向中の就

業規則の適用関係は当事者の合意を基礎にするとの論理を採用している点は評価できる︒その理由については先に

説明したとおりである︒ただし判旨が厳密な方法でこれをおこなっているかは別問題である︒たとえば︑右の事実

認定についての疑問のほかに︑判旨からは出向合意の当事者を確認できないという問題がある︒ X ともの合意に止

まるときには︑もの懲戒権を導き出すことはできないし︑ X とも聞の合意の場合及び三当事者間の合意の場合には︑

もの懲戒権を肯定してきしっかえないことになり︑結論に大きな差が生じる︒加えて︑先に指摘したように︑懲戒

処分について︑右のような当事者意思の推定の方法をもちいることが妥当であるかという問題も残る︒仮に黙示の

意思表示の理論にしたがい懲戒処分権者を確認できるとしても︑慎重にこれをおこなうべきことは当然であるが︑

本件の場合︑かかる合意の成立を認めてよい特別の理由はみあたらない︒

制私見のように︑出向中の懲戒権の帰属先(処分項目を含む)決定の根拠を当事者の合意(出向合意)に置き︑契

約自由の原則を強調するときには︑労働者を含めた当事者の合意に基づき︑出向元と出向先の両者が︑相手方の保

持する懲戒権との調整をおこなうことなく︑ともに懲戒権を全面的に行使することも可能という結論になる︒また︑

出向と懲戒処分

(12)

経 営 と 経 済

出向元か出向先のいずれかに懲戒権を集中し︑他方はこれを有しない(行使しない)旨の約定を締結することも可

能ということになる︒実際には︑出向元と出向先で懲戒権を分属させている例が大多数であり︑この点について判

旨は︑もともの懲戒権行使を肯定したのち︑もともは出向元と出向先としてそれぞれ異なる立場から懲戒権を行使

しているから︑本件懲戒処分は過酷ではないと判断している(判旨同)︒したがって︑私見の場合にも︑判旨の場

合にも︑結論としては出向元と出向先の両者による懲戒権の行使を肯定するという点では一致する︒構成は異なる

がこのような結論は︑同一行為に対する過重な懲罰に該当しないのが一応問題になる︒

この点︑判旨が︑もともの別個の人格としてみている点は不当ではない︒しかしながら︑出向は労働者︑出向元︑

出向先の個別的関係として存在しているのではなく︑三当事者関係として成立しているのであるから︑同一行為に

ついて出向元と出向先とが別個独自の懲戒権を全面的に有すると考えるのは適切ではない︒むしろ︑当該非違行為

を三当事者関係における一個の行為と把握し︑これに対応して懲戒権も︑当事者の合意に基づき出向元と出向先に

おいて合理的に配分されていると推定するのが妥当であろう︒したがって︑特別の留保をつけることなく︑出向元

と出向先は独自に完全な懲戒権を有すると考える見解(本件判決の見解)には賛成しがたい︒無論︑かかる旨を認

める明示の合意が成立しているときに︑当該合意の効力を積極的に否定すべき理由はなく︑私見は︑出向元と出向

先の両者が懲戒権を行使する場合のあることを否定するものではない︒ただし︑同一行為についての出向元と出向

先の両者から懲戒処分を受ける危険は出向労働者にとって重大な不利益であることは疑いないのであるから︑その

趣旨の合意は明示の合意でなければならないと考える︒本件の場合︑その旨の明示の合意は存在せず︑判決は黙示

の合意の存在を推定する方法(判旨

2 )

を採用しているが︑懲戒処分については黙示の合意の推定は許されないと

いうべきである︒したがって︑もともの両者がそもそも懲戒処分の根拠を獲得しているのかという問題があるが︑ ( . l i )  

(13)

それは別にしても︑少なくとも︑もまたはものいずれかの処分は過重であったと評価せざるをえない︒

三︑本件非違行為の懲戒処分該当性

本 件

の 場

合 ︑

v u が独自に懲戒権を行使することはない︑もの就業規則が継続して適用されるというのが当事者の

合意(出向合意)であったと推測される︒仮に︑そうであるとし︑また当事者意思の推定の方法が許容されると解

するとき︑本件非違行為の懲戒処分該当性が問題になる︒肯定すべきであろう︒判決によれば︑ X は︑①訴外 B が

業者からの案内依頼の対応方について電話で相談をもちかけたところ﹁そんなことは自分でやれ︑ばかやろう︒﹂

と発言するとともに︑ A 支庖で﹁裏取引は厳禁だ﹂と B が裏取引をおこなっているように発言している︒また︑ X

作成の票議書に B がコメントを付したところ﹁コメントをつけるとは失礼ではないか﹂と発言している︒さらに︑

①もともが共同で分譲住宅販売の登録受付をおこなったさい︑ X ともの職員(当日業務の副責任者)の間でトラブ

ル が

発 生

し た

た め

︑ B ( 当日業務の責任者)が聞に入ったところ﹁あなたには関係ないでしょう﹂と発言している︒

① B がそこで X の日頃の言動等について上司(もの代表取締役)に相談をもちかけたところ︑ B に対して﹁余計な

ことはいわないでくれ︒これからは訴外 C と二人でやるから︒﹂とか﹁貴方は営業部長として入ってきたかもしれ

ないが︑うちの会社は古い者の方が偉いのだから︑相談してやりなさい﹂などと発言している︒① X の一連の言動

等について事情聴取がおこなわれたのちに︑﹁お前を勧業不動産にいられないようにしてやる︒興信所で全部調べ

て︑一長をとってやる︒どこどこの学校出身といっているのは嘘だろう︒車を買ったのは︑裏金で買ったのであろう﹂

と発言している︒判決は︑これらの X の言動は︑もの就業規則四条の﹁従業員は︑信義に従い誠実に勤務し︑お互

いに協力して能率の向上︑業務の改善をはかり︑会社の業務発展に務めなければならない︒﹂に違反し︑懲戒規定 ← )  

出向と懲戒処分

(14)

経 営 と 経 済

である就業規則六八条一項の﹁法令︑就業規則その他諸規則に違反したとき﹂に該当すると認定している︒ ω 懲戒処分については︑それについての当事者(労働者を含む)の明示の合意が必要であると理解し︑この論理を

厳格に維持するとすれば︑本件では︑もともの両者はともに懲戒処分権行使の根拠を獲得していないことになり︑

本件懲戒処分はすべて無効という結論になる︒これをどう考えるべきであろうか︒一般的にいうならば︑ X の非違

行為が明白なだけに︑この結論は著しく不当であるようにみえる︒しかしながら︑この結論は実のところ出向中の

労働関係についてのもともの配慮不足(注意不足)に起因するともいえるのであって︑結論の不当性を理由に本件

出向の制度上の不備を免責することは許されない︒労務管理手段として出向制度が社会的に相当に一般化している

のは周知のとおりであるが︑出向中の労働関係の整備は意外なほどに進んでいない︒本件はその典型である︒出向

中の労働関係を整序し︑出向労働者を法的に不安定な位置におかないようにする(たとえば︑出向中の懲戒処分権

者を明確にする)ことは出向制度を自らの利益のために利用する出向元と出向先の課題にほかならない︒この課題

を実行してはじめて︑出向は合理的な会社間労働移動制度として許容できるものとなる︒そのさい︑労働者が当該

出向労働関係の当事者としてその地位を明確に認められなければならないことはいうまでもない︒懲戒処分の場合︑

出向しなかったとするならば︑出向元と出向先の両者によって処分を受けることはないのであるから︑労働者にと

っては重大な利益問題である︒本件を考察するとき︑これらの事情にも十分に留意すべきであ氏︒

(一)本判決については︑土田道夫﹁出向元・出向先両者による懲戒処分の効力﹂労働判例六五一号六頁︑小西園友﹁出向社員と

懲戒処分﹂労働研究会報一九七 O 号一頁︑小川賢一﹁出向労働者に対する出向元・出向先会社の懲戒権とその効力﹂法律時報

六 七 巻 一 号 一 O 二頁がある︒土田論文は︑出向元が人事管理や賃金支払をおこなっているときには︑出向元との労働契約関係

のみを肯定すべきであるとの立場から︑本件では X ともの間においてのみ労働契約が成立し︑懲戒権は本来的にはものみが行

(15)

使できるとする見解である︒この見解からみるとき巴による懲戒権行使は当然に認められない︒小西論文は

v u

の固有の懲戒権

を肯定する趣旨︑および︑

v u の法人格の独立性を強調する趣旨から︑判旨相当としている︒小川論文も結論として判旨相当と

している︒ただし︑根拠は不明である︒特に出向期間中は出向元の懲戒権は停止されていると考えるべきであるとしつつ︑本

件判旨を相当とする理由は理解しがたい︒このほか︑安枝英諦・西村健一郎﹁ディアロ l

グ 労 働 判 例 こ の

1 年の争点﹂日本

労働研究雑誌四一七号二七頁以下がある︒問題の所在と論点を的確に整理した有益なディアロ l

グ で

あ る

出向と懲戒処分

一 五

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