日本における機械耕作の地域的展望
石 井 泰 義
1.序
蛮 日本における機械耕作に関する諸条件 機械耕作と地形
機械耕作と社会的土地条件 機械耕作と資金面
皿.機械耕作と営農 機械耕作と兼業化
機械耕:作と役畜との代替関係 IV.日本における機械耕作の地域的概観
V.む す び
1.序
戦後,日本農業の変貌には著しいものがあり,特に,農地改革が土地利用や営農に与えた影響は きわめて大きい。一方,農業技術面における大きな変化の1つとして,機械耕作①の導入「があげら れ,これが,中間項として日本農業に果しつつある役割もみのがしえない。
更に,機械耕作が,今後の土地利用や営農の変化に影響を与ふる中間項として,かなり大きな役 割を果す一要素であることを予想し,ここに,日本における機械耕作の導入過程の概況をのべ,一 応その地域的展望をこころみることとした。
亜.日本における機械耕作に関する諸条件 〔機械耕作と地形〕
地形的に,山がちで,急傾斜地の多い日本では,機械耕作の導入に対して,きわめて不利な条件 を示し,更に,分散的な土地所有も,また,導入化を遅滞せしめた要因の1つをなしている。従っ て,機械耕作の先駆地は,地形的に平坦で,かつ集団的な土地所有の条件をもった干拓地が,先づ 導入対象の地域として選ばれている。児島湾の干拓地である興除村の藤田農場が,先づその導入を こころみ,1919年,米国製大型トラックターを輸入使用している②。しかし,干拓地の軟弱な地盤 条件と重粘な土壌条件には適合せず,広汎な導入がもたらされなかった。こうした特殊な土地条件 に適合する耕転機の創案と製作(1926〜1928年)にっとめ,日本型耕転機を最初に発明した(1929 年)のは,興除村の農….民で,1938年には,興除村を中心に,1038台の耕転機が使用され,興除村が 機械化農村として注目を集めたのは,周知の事実である。長崎県下では,局地的ではあるが,同じ 1938年,北松浦郡佐々町干拓地の「大新田」に,「小浦」の福田氏によって導入されている③。
(9)
日本における機械耕作の地域的展望
このように,機械耕作は,児島湾の干拓地を先駆的地域として,佐賀平野やその他の干拓地を申 心に,地帯的に,あるいは,局地的に,導入されたが,第2次大戦によって,その伸度は,停滞的
というより,むしろ後退的であった。戦後になって,農地改革による農業所得の増大は,耕転機 に対する需要を高め,一方,日本工業の再建に伴う農機具の量質両面における生産力の増強によっ て,機械耕作は急速な伸度を示している。しかし,1950年現在においては,その伸展は未熟で機耕
凡 例
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第1図 日本にお ける機耕導入度の
分布(都道府県別)
(1960年度)
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導入度④が1%以上の府県は,秋田(6.6
%)福岡(4.5%)岡山(3.5% )の3県を あげうるにすぎない。さらに,1960年現在 では,機械導入度が,50%以上を示す府県 として,青森,秋田,山形,埼玉,新潟,
富山,石川,福井,香川の9県があげら れ,30%以上の府県が過半数を占めるに到 っている。 (第1図)このことは,戦後か ら1950年までにおける機械耕作の伸展は,
未だ戦時中における停滞期の延長に相当 し,1950年〜1960年間が,機械耕作伸展の 先駆期ともよばるべき時代に相当するもの
と考えられる。
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第2図高田(新潟県)附 近における機耕度の分布 (1960年度)
凡例
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N一直江津:市街地,
点線内一調査範囲
a赤倉山(2141m)
b重倉山(1026m)
c菱ケ岳(1290切 d黒倉山(1269m)
e丈ケ山(5ワ21n)
f唐1ノ山(2ワ1m)
9尾神岳(ワ571n)
(10)
日本における機械耕作の:地域的展望
さて,1960年を時点とする機械誹作の地域的伸展模様は,前述の干拓地や四国,北陸の諸平野や 武蔵野台地のフラットな畑作地帯などに高度な伸展をみせ,九州,四国の山地や紀伊山地,飛騨高 原など起伏の大きい山岳地帯では,きわめて低位で,未だ,機械耕作の伸展が,地形の制約をうけ ていることをうかがわしめるのに十分野ある。 さらに,ここで,地形的制約の著しい地域例とし て,新潟県高田附近を示さう。 (第2図)高田平野では,保倉川,飯田川の合流点附近を申心に,
機械町歩⑤70%以上の集団的地域が指摘され,海岸部の砂丘地帯では,60%以下に低下している。
さらに,妙高山東麓の火山性扇状地の地帯では,40〜60%の一地区を形成し,ほぼ地形的単元と一一 致している。また,高田平野と中頸城丘陵との境界線では,機耕度の分布にも,断層的変位がみら れ,丘陵末端では10%台を示すが,丘陵地帯では急に10%以下に低下している。この丘陵地帯は,
水田度が高く,急傾斜の山腹に棚田の発達している地域で,しばしば地すべり現象のみられところ
である。
1960年の時点においては,地形的制約が,未だ十分に解消されていない地域的事例である。長崎 県北松浦郡の地すべり地域においても棚田が多く,土地所有も分散し,1960年現在では,10%以下 が広範にわたっているところである。
機械耕作の伸展と地形面の制約とについてのべたが,1960年以後は,機械の改良化によって,地 形面の制約は,漸次弱まりつつあることを附記する。
(機械耕作と社会的土地条件〕
機械耕作と自然的土地条件としての地形面との相関関係について,その概要をのべたが,機械耕 作の導入に当っては,土地の自然的側面としの地形面と共に,土地に附帯する社会的条件もまたき わめて重要である。土地に附帯する社会的条件のなかで,機械耕作導入に最も制約を与えるものと しては,土地所有の条件と道路施設とが最も重要なモメントとしてあげられよう。長崎県下におけ る機械耕作と社会的条件としての土地所有ならびに道路との関連についての1,2の事例をあげよ
う。
福江島(五島列島)の中須川流域では,「雨年しゃ食わずも,日年は食える」と言われるほど申 須川流域では,早ばつに対してはきわめて強靱な,水に恵まれた地域であるが,河床面からかなり 高い丘陵地の「幾久山(いつくやま)」は,例外的に早ばつ常習地帯をなしている。 ここでは,
1961年早ばっ地帯緊急救農土地改良工事として,幾久山農道⑥がっくられ,農民は農道新設の賃金 労働に従事したが,農道完成後には,農道新設をモメγトとして,機械耕作が導入されており,島 原半島北部の千々石断層崖下の集落では,出作りによる愛野扇状地上の耕作のために,耕転機が導 入され,新たに,県の補助事業として,断層崖を越える農道が薪設されつつある(1963年)が,当 該事業には,農地の交換分合が附帯条件をなしている。このことは,機械耕作の効率による所有耕 地の団地形成が主要な条件をなすことを示しているものであり,それが県の指導によって行われて いる事例である。
(11)
日本における機械耕作の:地域的展望
〔機械耕作と資金面〕
戦後,農家所得の相対的増加は,購買力を増大し
、ているとはいえ,地域によっては,i耕転機導入に困 難性が示される。長崎県の島原半島北部と北松浦郡 の地域を例にとって,機耕導入度と階層との相関関 係をみると,(第3図),各町村共に,5反未満の 零細農への機耕導入度は,5%以下,北松浦郡の江 迎町や佐々町では,1町未満の階層でもなお10%以 下で,2町以上の階層になって,20%以上が示され
るにすぎない。
機耕導入度の比較的高位な島原半島でも,1町以 上の階層で,50%以上が示されるにすぎない。この
ことは,1960年現在における機耕導入には,なお,
いちぢるしい階層性が所在していることを示してい る。しかし,1960年以後,農協等の公共的な金融機 関の融資による資金面の解決や最近の機械の相対的 低廉化は,次第に機耕導入の階層性を不明瞭なもの
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にしている。また,一方北松浦郡佐々町の「木場」集落では,
て,古い融資形態での資金面の解決が計られている事例もあげられる。
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第5図 機耕導入度と経営規模との相関関係
横軸は経営耕:地面積
縦軸は機耕導入度
Ch 千々石町 A 愛野町 0 小浜町 Sa佐世保市 S 佐々町 E 江迎町 Se世知原町
「機械講」とよばれる「講」をたて
皿 機械耕作と営農
〔機械耕作と兼業化〕
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第4図 兼業進行度と機耕進行度との相関関係による類型化
x軸は機耕進行度(ユ950〜工960)
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(都道府県別)
, y軸は兼業進行度(1950〜エ960)
(12)
1950〜1960年の10年間の日本にお ける農家の兼業化は著しく進行して いる。この間における兼業化の進行
と機械耕作の導入との相関関係に直 接的・密接的なものは予想されない が,機械耕:作の導入が,間接的に は,兼業化の進行を支える1つの要 素となっている地域の所在を予想し て,その相関関係による諸類型を分 類(第4図)して地域区分(第5図)
をこころみると次の通りである。
A型(富山型地域)・兼業進行度⑦ (y)が20%以上を示し,機耕
日本における機械耕作の地域的展望 、
進行度⑧(x)も55%以上を示す地域で,この
地域では,瀦の関麟y≒告xで示され
る。富山県をはじめ埼玉・秋田両県もこれに属 している。
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B型(近畿型地域)・兼業進行度は,20%以上を 示すが,機耕進行度は20〜40%の地域で,両者
の蘇はy≒Xとy≒争の欄に位
する。近畿地方と岐阜県がこれに属する。
C型 (群馬型地域)・礫耕:進行度が低位である が,兼業進行度は20%以上を示す特異な型式で y≒5xの関係にある。ひとり群馬県のみが, ダ これに属している。
ご講 D型(北陸・東灘地域)・A型と同じくy≒去x
の関係にあるが・専業進行度も機耕進行度もA 。〃
型地域に比して小さく・20%≧y≧10%・55% 第5図兼業進行度と機械進行度との相関によ る諸類型の分布(府県別)
≧x≧35% を示す地域で,北陸・東海・南関
A:富山型 B:近畿型 C:群馬型 D:四国型 東・東申国・四国・北九州の諸県がこれにふくE:東奥羽型F:北海道型 G:鹿児島型 (A〜Gは第4図による類型)
まれる。
E型(東奥羽型地域)・兼業進行度は,D型と同位であるが,機耕進行度がD型より小さく,
y≒争の関係が示される・九州(麟・熊本・大分・宮崎の諸県)酢国顛羽・それ
に,愛知・滋賀両県の加わる地域である。
F型(北海道型地域)
・機耕進行度はE型と同じく20〜30%を示すが,兼業の進行が停滞乃至後 退している地域で,北海道,宮城がこれに属する。
G型(鹿児島型地域)・兼業進行度・機耕進行度共に低く,C型と共に日本の府県では例外的な 孤立性を有している地域で,鹿児島県がこれに属する。
以上,兼業,機耕両者の進行度の相関から地域区分を行ったが, 日本における両者の相関は,
(群馬・北髄・宮城をのぞけば)y≒巷Xを車由としてy一}Xとの鞭の間に位乱
ている。
(機械耕作と役畜との代替関係〕
機械と役畜との代替関係については,岡山市附近で,ほぼ役畜1頭が動力耕転機1台に,玉島附 近では,3頭が1台におきかえられていることが指摘されている⑨。しかし,この関係についての 全国的な概況をうることは,現在のところきわめて困難である。全国的なセンサスでは,役牛と肥 育牛との区分を行っておらず,かりに役牛の減少があっても,一方には肥育牛肉牛の増加がある場 合には,統計的に変化を見出し得ないからである。1950〜1960年における府県別に役肉牛の飼育 (13)
白本における機械耕作の地域的展望
度⑩ならびにその変化をみると,
本に限られていた(1950年)が,1960 年には,北関東および青森・秋田をの ぞく奥羽諸県がこれに加わっている。
D型の府県がこれに該当し,10年間に 飼育変化度⑪十5〜十20%を示してい
る。これらのうち,山形は機耕進行度 も高い。従来から35%以上を示した西 日本諸県のうちで,大分・宮崎は,更 に飼育度を伸ばしたA型で,章章進行 度の高い岡山および四国の諸県は,飼 育度の低下(一5〜一10%)したC型 で,中国の牧牛地帯や九州(長崎・佐 賀・福岡・鹿児島)の諸県は飼育度の 変化にとぼしいB型である。1960年現 在,飼育度35%以下でその変化度の停 滞(十5〜一5%)している地域(E 型)は,中部・南関東の地区で,機耕 度の高い新潟,埼玉もこれに含まれ
る。飼育度(1960年)15%内外で,変 化度一5〜一10%を示すF型地域に は,機耕進行度の高い石川,福井が該 当している。もともと飼育度がきわめ て低位(10%以下)で,変化度も少い G型には馬耕を主体とする北海道や機 耕進行度の高い富山,青森,東京がふ
くまれている。
1950〜1960年間における乳牛飼育度 の変化(第8図,第9図)をみると,
2.5を最も小さな指数として数倍に 伸びていることが示される。特に,飼 育度が高く,変化度も高いA型ならび にB型地域は,北海道を筆頭に,東日 本に偏在し,西日本では鳥取,徳島が
B型,岡山,樹立,香川のC型地域を のぞけば,広汎なD型地域に該当して
(第6図,第7図)役肉牛の飼育度35%以上を示す府県は,西日
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第6図 役肉牛の飼育度変化(1950〜1960)による類型化 (都道府県別)
x軸は1950年度の役肉用牛の飼育度(都道府県別)
y軸はユ960年度の役肉用牛の飼育度(都道府県別)
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第ワ図 役肉用牛の飼育度変化(1950〜1960)
による地域類型(A〜G型)の分布 (都道府県別)
(A〜Gは第6図による類型)
(14)
日本における機械耕作の地域的展望
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第8図 乳牛飼育度の変化(1950〜
196のによる類型化 (都道府県別)
x軸は1950年における乳牛飼育度 (都道府県別)
y軸は1960年における乳牛飼育度 (都道府県別)
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第9図 乳牛の飼育度変化(ユ950〜1960年)によ る:地域類型(A〜D型)の分布
(都道府県別)
(A〜Dは第8図による類型)
いる。乳牛導入と機耕導入とは共に伸びている点では相関があり,特に,A, B, C, D各類型地 域の順に,機耕との相関の強さが想定されるが,府県別に概観する場合には,明確な相関を指摘す
ることは困難な段階である。
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馬の飼育度の変化(1950〜1960)は 第10図,第11図をみると,飼育度の高 い(67%)北海道はA型で,例外的に
5%増加しこれをのぞいては全国的に 減少し,飼育度がこれにつぐ(15〜20
%)地域では変化率(一5〜一20%)
で大きく減少している。このB型地域 は,東北日本に限られ,飼育度10%以 下で変化度(一5〜一20%)を示すC 型地域は,中部,北日本,九州,南四 国に該当し,近畿,中国,北四国はも
ともと馬の飼育が低調(5%以下)な地 域で,変化度も一一5%にとどまってい
るD地域である。馬耕の著しい減少が 想定される地域はB型,C型地域で,
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第10図 馬の飼育度の変化(1950〜1960年)による 都道府県別類型化
横軸は1950年の馬の飼育度 縦軸は1960年の馬の飼育度
(15)
日本における機械耕作の地域的展望
かえられる可能性が考えられるが,その相関 は府県別分布には顕著に表現されていない。
〔機耕導入と土地利用の変化〕
アメリカを初めとする大陸における機械耕 作は,土地利用の粗放化と関連しているが,
日本の場合,機械耕作の導入は,一般に土地 利用の集約化をはかるといわれ⑫,岡山県高 松町薪池では,経営集約化が指摘されてい
る。長崎県島原半島の千々石町でも,機耕導 入は,柑橘園拡大による経営集約化ならびに 出作り地である愛野扇状地における野菜栽培 への土地利用集約化をもたらす一要因をなし ている。この項に関する地域的研究は今後に 残された課題である。
以上,機械耕作と地形的条件ならびにその 他の諸条件についての概観をこころみ,局地 的事例を添えた。最:近地理学研究が局地的な 探査に終始し,
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馬の飼育度変化(1950〜ユ960)による :地:域的類型の分布(都道府県別)
A型:北海道型 B型:東北型 C型:申部型 D型:中国型 (A〜Dは第ユ0図による類型)
しばしば広範な視野を失いがちである点や,地理的事象を解明するに当って,しば しば時点の明確さを欠ぐ点を反省し,ここで1960年を時点とする日本における機械耕作の地域的展 望をこころみ,日本における機械耕作の地理学的研究の序説とする。
IV 日本における機械耕作の地域的概観⑬
北海道・広大な耕地を有する北海道では,トラクターを導入し,局地的に大規模な機械耕作がす すんでいる。この景観は,パ・でロットファームなどの,限られた農場に展開されるもので,1960年 現在における北海道の機耕導入度はわずかに23%で,機耕度も14%を示すにすぎない。全国的にみ ると機械耕作の低位な地域として指摘される。北海道で,機耕導入度の最も高い地域は,天塩川下 流の留萌地方で,ここでの兼業度は89.6%から52。6%(1950〜1960年)へと低下している。
また,開田も行われ,水田度は2.2%から13.2%へ変化したところで,乳牛飼育度は49%から73
%に伸び,根釧地方に次ぐ酪農地域となり,また豚飼育度も7%から33%へ上昇している。これに 隣接する頓別平野も,機耕導入度30%台を示し,水田に乏しいが,留萌と同じような家畜飼育構造 の変化のみられる地域である。ほかに30%台を示す地域としては,石狩平野や十勝平野それに旭川 盆地が指摘される。その他の広汎な地域で30%以下となり,宗谷岬附近や積丹半島,渡島半島南部 および室蘭から襟裳岬にかけての海岸低地は,10%以下の低位地帯としてあげられる。
奥羽・管理導入度50%以上を示す西奥羽と40%以下を示す東奥羽とが奥羽山脈を境界線として明 瞭に区分される。冷害の分布図と対照的で,冷害が農家経済に及ぼす影響の一表現として予察され る。西奥における高位地帯は,青森平野,津軽平野および横手盆地を中心とする雄物川流域で,60 (16)
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第12図 日本における,機械耕作・度の分布(1960年現在)
日本における機械耕作の地域的展望
%以上が示され,水田卓越地域で,馬の飼育度の激減した地域に相当している。次に40〜60%地帯 としては,仙台平野南部と山形盆地および庄内平野を良心とでる雄物川流域とが一地区を形成し,
その南に会津盆地と福島盆地を伴っている。東畑の下北半島や北上山地および阿武隈山地では,30
%以下の低位地帯を形成,特に両山地の浜通りでは,20%以下が示され,下閉伊は,乳牛飼育度20
%台,役肉用牛,馬の飼育度共に10%台で養畜構造は停滞し,林業兼業度が高いところで,阿武隈 の浜通りは,準平原を刻む開析谷に棚田の発達したところである。
関東・利根IIIを境として南関東では機耕導入度40%以上を示し,30%以下を示す北関東と大きく 区分される。南関東では,武蔵野台地で50%以上が示され,下総台地で40%台,九十九里浜では30
%に低下している。関東山地や房総半島先端部では30%台が示され,加茂川地溝帯では20%以下に 低下している。
北関東では,那須野扇状地で40%台が示され,両毛の桑園地帯では20%台,三国山脈の山村地帯 では10%以下で,鹿島浦の砂丘地帯や水郷地帯も10%以下の低位地帯を形成している。
中部・機屋導入度は北に高く漸次南に低下している。北陸地方では富山平野から金沢平野にかけ て60%以上の高位地帯が形成され,さらに,新潟平野や高田平野も60%以上の地帯形成が行われて いる。新潟,富山,石川の三県は,古くから(特に明治以後)耕転に関しては,地域的な連鎖関係 を有し,黒部川扇状地の馬は,「たてうま」として新潟県へ貸付され,能登の馬は「田馬」として 砺波扇状地へ,福井の馬は,手取川扇状地へと貸出され,関係地域の馬は田植えの転転作業に年2 回使用される慣行があった。機耕導入はこれらの慣行の解消に大きな役割を果し,機耕卓越地域が 形成されたものと推定される。中部山岳地帯では30%台が示され,卓越地域との境界線は,富山の 東では黒菱断層崖,高田の西では鉢巻山断層崖,新潟の東では東北一西南に走る一連の断層崖の地 形的変調線とほぼ一致している。さらに,フォッサマグナの地帯では40%以上が示され,長野盆 地,諏訪盆地,佐久平や甲府盆地では50〜70%の卓越地域を形成している。
また,上信越高原では,40%台が示され高田平野との間に,東頸城山地の10%以下の特徴的な低 位地帯を有している。
東海地方では,フォッサマグナに相当する東部では40〜60%台を示し,浜名湖以西の西部では30
%以下で,東西の地域区分が可能である。東部の伊豆半島附近では,半島先端部と基部から富士川 下流の海岸低地にかけて60%台が示され,日本平附近では50%台さらに西方の牧ノ原ブ盤田原,三 方ケ原にかけては40〜30%へと低下し,更に西部の美濃三河高原では,広範な20%以下の地域が指 摘される。渥美半島や知多半島では20%台で,濃尾平野では30%台が広がり,木曾川の輪申地帯で は20%台で機耕導入度が低い。
近畿・濃尾平野につづく伊勢平野も30%台で, これにつづく布引山脈の東麓では40%台が示さ れ,平野面よりも山麓部に高位地帯がみられる。近畿地方で機耕導入度の最も高い地域は,豊岡盆 地と淡路島の南部で60%台が示され,紀ノ川下流および海岸段丘の発達する御坊附近で40%台,京 都盆地から大阪平野にかけては30%台が示される。琵琶湖周縁の野洲川下流の砂質地帯は,比良断 層崖…下の扇状地と共に10%以下の低位地帯をなし,湖北では20%台,湖東平野では30%台となる。
笠置山地から大峯山列にかけての山地では10%以下が示され,紀伊山地の西南部および東部のリア (17)
日本における機械耕作の地域的展望
ス海岸では20%台が示される。淡路島では,裏作度が高く酪農経営のすすんだ南部に高く,役牛の 多い北部は20%台を示すにとどまっている。
中国・四国 機械耕作の先駆地である興除村を有する中国地方としては,その伸展は他の卓越地 域(北陸や四国)に比較して停滞的である。瀬戸内沿岸では,児島湾を中心として,東は赤穂,西 は玉島に至る地域が60%を示す卓越地帯で,芸備沿岸では30%台,広島湾岸および山口県の西部で は10%台で,山陽筋では東高西低の傾向を有する。背後の牧牛の盛んな準平原面上では,吉備高 原,芸北山地で30%内外を示し,四丁山地では10%台に低下している。申国の山間盆地のうちで卓 越地帯を形成しているのは三次盆地のみで,局地的な60%台が示される。
山陰筋でも,東高西低の傾向を有ち,出雲以東では40%以上の地域が広範で,鳥取砂丘地帯では 50%台,大山の火山性扇状地面でも40%台が示されるが,宍道湖周辺では30%内外に低下し,「鞍 下牛」の慣行が残存した出雲の山村では40%台が示される。大田以西の偽砂丘の発達する石見海岸 では20%以下となり,秋吉台を詩心とする長門山地につづいている。
四国の瀬戸内側は高位地帯を形成し讃岐平野,庶出沿岸および高縄両岸で60%台が示される。
徳島平野では50%内外となり,南四国では2期作の盛んな高知平野も卓越地域として指摘され る。また,四国山地では20%以下の広汎な低位地帯をなし,石槌山断層崖が機耕度の変調線と一致 している。また,祖谷地方は10%以下で,急傾斜地農業を営む西部のリアス海岸一帯と共に機械導 入度の最も低い地帯を形成している。
九州・筑後川流域および佐賀平野の平坦な米作地域で60%以上の卓越地域が形成され,多良岳周 辺および島原半島で50%内外を示し・入代平野の干拓堆で局地的な50%内外の地区が指摘され・大 分平野で40%台が示される以外に,九州では機耕度40%以上の地域を見出し得ない。古い干拓地を 有する豊前平野でも10%以下,筑豊農業地域で10%内外,九州北西部の松浦半島および対馬,平 戸,五島の離島群では10%に満たない。また緑川断層および五ケ瀬川以南の九州山地でも10%以下 で,人吉盆:地で20%台が介在するにすぎない。 海岸段丘と沖積面からなる宮崎平野では20%内外 で,霧島火山北麓の小林附近では30%台がみられるが,広汎なシラ入台地からなる薩摩半島や大隅 半島では10%以下の最も低位な地帯形成がなされ,鹿屋附近でわずかに10%台が示されるにすぎな
い。
V むす び 以上,日本における機械耕作に関する概括的な展望をこころみ,機械耕作研究 の序説としたが,その地域的差異の生ずる地域的諸要因に関する分析的研究一(特に,1960年以後 における伸展模様を申心としての)〜こそ今後に与えられている地理学的課題である。
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口本における機械耕作の:地域的展望
註
①ここではトラクター,耕転機,テーラーなど型の大小を問わず機械の使用によって耕作する手段を機械耕 作とよび,牛馬による耕作や人力による耕作と区分することとした。
②新池調査委員会・日本農業機械化の分析,P.20〜P.2ユ1960年6月
③ 長崎県佐々町教育委員会・佐々町郷土誌 P.54〜P.361956年ワ月
④機械耕作を行う農家戸数の全戸数に対する百分比
⑤ 機械耕作を行う耕地面積の総耕地面積に対する百分比
⑥ 石井泰義・五島の産業基盤 P.20〜P.21五島地域総合開発振興計画 ユ963年11月
⑦ 1960年の兼業率と,1950年の兼業率との差
⑧ユ960年の機耕度とユ950年の機耕度との差
⑨新池調査委員会・日本農業機械化の分析 P.56〜P.571956年7月
⑩役肉牛飼育戸数の全戸数に対する百分比
⑪ 1960年の飼育度と1950年の飼育度との差
⑫ 新池調査委員会・日本農業機械化の分析 P.29〜P.502ユ956年ワ月
⑬ 1960年農林業センサス農業地域・経済地帯別報告書(農林省統計調査部) 1962年5月 によって機械耕 作導入度の日本における地帯別分布図(第12図)を作成し,これに基いて概観をこころみた。
(昭和58年10月29日受付)
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