児童・生徒の食物の量の把握に関する調査
野 ロ 道 子
1 緒 言
小・中学校における食物領域の学習は,児童・生徒を「栄養的なよい食:生活ができるよ う実践にまで導く1)」ことを一つの大きな目標としている。よい食生活としての食物の量 を指示する場合,児童・生徒にはどのような表現法が適切であろうか。
調理材料の分量を示すのに,教科書には小学校5年用から重量を用いているのに,一般 の調理書には中1個のような概量がかなり使われている。また,献立を簡易に表現するに は「野菜いため1皿分」のように調理食品の盛りつけの量が用いられることもある。そこ で児童・生徒の食物の量の把握のしかたを調べ,よい食生活の指針としてこれを指示する 的確な表現法を求めるたあに調査を行なった。
豆 研究方法 E−1 調査対象
表1に示した長崎市内2地区の公立小・中学校各1校の児童・生徒452人である。
表1 調 査対 象
小 学 校 中学校 学校
@ 学
@ 団 n 区 学級数
@ 性
@ 別
5 年 6 年 2 年
2 2 2
男 女
男女 女
T 38人 40人 41人 39人 76人
Y
39
36 34 33 76計
77 76 75
72
153人 147人
152人
皿一2 調査時期 昭和49年9,月〜10月 皿一3 調査方法
皿一3一(1)食品模型による量の判別
石膏で1個約309(39),509(50),1009(85),1509(138),2009(172),
2509(243),のじゃがいもの実物大の模型A(図1)と,じゃがいもを約159(15),
底面の長径3.5翻,短径2.5翻,高さ2.50刎こ切断したものの実物大め模型B(図2)を作
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長崎大学教育学部教育科学研究報告 第23号
成し,実物の色に近いように着色した。Aには小さい方から順に1〜6の番号をつけた。
()内は各模型の重量(9)である。
、2・}
昭蘇、
薮}響:
響
攣㌧
.3曼
1潔1
繋,窒51
図1 模 型 A
図2 模 型 B
1学級の児童・生徒を5〜6人のグループに分け,各グループに模型Aを1組と模型Bも を20個与え,各人に表2の調査用紙を配布し,教科担当教師が問題を読んで回答を記入し てもらった。なお,模型は手に取ってよいが重量は実物と違うことを注意した。中皿とし ては直径14.5㎝,深さ2.3傭の丸ざら1枚を全体に提示した。
表2 調 査 用 紙
(1)ふつうに「中くらいのじゃがいも」というのは,このうちのどれくらいの大きさだと思いま すか・(この6このなかでまんなかくらいのものということではありません・)[_}
(2)細駒じゃがいもはどれでし・狐[]
に もけい
(3)中くらいのさらに1さら分の煮ものの量は,この模型(切った方)何こ分くらいだと思いま
すか・ ド分
皿一3一(2) 矢口育旨
各学校で実施された教研式知能テストの結果により1(優秀)群,皿(普通)群,皿
(劣弱)群に大別した。
皿 結果および考察 皿一1 知能別各回の割合
学年別・性別・地区別にみた1〜皿群の割合は図3一ユ〜図3−3に示すとおりであっ た。それぞれの1〜皿群の人数につきゴ検定を行なった結果,小学校5年と中学校2年と の間に5%水準で有意差が認められたほかは有意差は認められなかった。
%
10090
80 70 60 50 40 30 20 105 6 20小小中
圏1皆掛II群口m群 図3−1 知能別二二の割合 (学年別)
%
100 90 80 70 60 50 40 30 2010
子 子
図3−2 知能別丁群の割合
(性別)
%
10090 80
7060
50 40 30 20 10 0 T Y地 地
区 区
図3−3 知能別各群の割合
(地区別)
皿:一2 食品の里民の判別 皿一2一(1)学年との関係 結果は図4−1のとおりであった。
調理書によると中1個のじゃがいもの重量はIOO 9から1509の範囲で使われている。本 調査では3と4がこれに該当するので,小学校5年では64.1%,6年では76.2%,中学校
2年掛は88.2%と上学年ほど妥当な回答をした者の割合が多かったことになるが,t検定 を行なった結果,小学校5年忌中学校2年の間に5%水準で有意差が認められたほかは,
170
長崎大学教育学部教育科学研究報告 第23号
%
7060
50
40
30
20
10
小5年 )(=4.06
SD=0.81 小6年 ヌ=3.98
SD=0。76 中2年ヌ=3.91 SD=0.57寸 2
3
45
6%
5040
30
20
10
0
図4−1 食品の概量の判別(学年別) 図4−2 食品の概量の判別(小5・6年,性別)
有意差は認められなかった。圏外では大きい方にはずれた者が多かった。
面一2一(2)性別との関係
小学校5・6年を性別にみた結果は図4−2のとおりであった。妥当な回答をした者は 男子64.5%,女子76.3%と女子がやや多かったが,t検定を行なった結果,両者に有意差 は認められなかった。
皿一2一③ 知能との関係
知能別にみた結果を図4−3,図4−4に示した。t検定を行なった結果,両者とも知 能別の各面間に有意差は認められなかった。
% 80
% 50
40
30
20
10
0 1
図4−3
圏1群7=4.11
SD=Q.78
図II群又=3.99SD=0.79
□m群7=3.93
SD=O.80
2 3 4 5 6z
食品の概量の判別(小5・6年,知能別)
70
60
50
40
30
20
10
0
口男子又=4.03
SD=0.84
□女子ヌ=4.01
SD=0.73
f
㌘
凹1群ヌ=4.03
SD漏O.54
囲II群灰=3.89SD=0.59
口皿群冥=3.83SD=0.54
一
1 2
34
5 6図4−4 食品の概量の判別(中2年,知能別)
皿一3 食品の重量の判別 皿一3一(1)学年との関係 結果は図5−1のとおりであった。
正解者の割合は上学年ほど多かった が,t検定を行なった結果,有意差は 認められなかった。誤答では大きい方 への誤りが多く,概量の場合と同じ傾 向を示した。本調査までに行なわれた 調理実習は,小学校5年1回,6年3 回で.ともにじゃがいもはまだ取り扱
っていない。中学校2年は小学校での
図5−1 食品の重量の判別(学年別)
5回の上に中学校で6〜7回,うちじ
ゃがいもは2回取り扱っている。献立に関しては小学校5年では学習指導要領に「それぞ れの食品群から食品を選んで,組み合わせて食べなければならないことがわかること」と あり,量にはふれていない。6年でも「献立したものについて食物のおおよその量がわか ること」の程度に取り扱われている。中学校1年になると「青少年の食品群別摂取量のめ やすを知ること」とあり,それは「単に数値のみを覚えるのでなく,献立作成の際に活用 できるように実物や模型を用いるなど理解しやすい方法ではあくさせること」2)と解説し てある。2年では1年の学習を基礎にして成人の食物について学習している。本調査にお いてこの問題を直接,学習していない小学校5・6年の正解率が低かったのはうなづける が,中学校2年の正解率も50%に満たず学年による有意差が認められなかった。これは調 査がじゃがいもを扱った調理実習からは1年以上経過して行なわれたことにもよると思わ れる。この学習を定着させることのむずかしさを示すものであろう。その題材のときだけ でなく,機会を設けて学習を繰り返すことによって定着をはかる皆労があろう。
皿一3一(2)性別との関係
結果は図5−2のとおりであった。t 検定を行なった結果,性別による有意差 は認められなかった。
皿一3一(3)知能との関係
結果は図5−3と図5−4に示した。
小学校5・6年では各群ほとんど変わら なかったのは,食品の重量に関する学習 の機会が少ないためであろう。中学校で は1群が:E・皿群に比し正解者率が高か ったが,t検定の結果は有意差が認めら れなかった。
%50
■小5哺X=3.76rD=1.03
40 囮小6一X=3.62rD=1.06
30
下中2一X=3.66 rD=1.06
20
10
O
1
23 4
5 6%40
顧男子 軸X・=3.70rD=0.99 口女子
7=3.6730
SD=1.10
20
10
0
1 2 3
4 5 6図5−2 食品の重量の判別(5・6年,性別)
172
長崎大学教育学部教育科学研究報告 第23号
%
70
60
■1群又一3.7450
SD=・1.08
%
40 閣II群
一X=・3,7SDニ1.0
30
口m群一X=3.6
SD=1.1
2010
0 1 2
ぎ
4
/5
呑図5−3食品の重量の判別(知能別,小5・6年)
皿一4 調理食品の盛りつけ量の判別 皿一4一(1)学年との関係
結果を図6−1に示した。
40
30
20
10
0
■1日工 又=3.45
SD=0.89
2[1君羊 又=3.75
SD=1.14
□旺1君羊 )ぐ=3.70
.SDニ1.05
1 2 3 4 5 6 図5−4食品の重量の判別(知能別,中2年)
%
30團小5年ヌ =6.98 SD=3.13 一
刻ャ6年 X=6.69SD=3.05
20□中2年7=7.03
SD=2.10
10
o
1 2 3 4 5 67
8 9 1011 12 13 14 15 16 17 18 19 20イ固
図6−1 調理食品の盛りつけ量の判別(学年別)
日常食としての根菜類の煮物1皿分の量としては1009〜1509が多く使われている。し たがって,ここでは6〜U個がおおよそこれに該当する。この範囲内の者の割合は小学校
5年53.6%,6年54.4%とほとんど変わらず,中学校2年は76.3%と多かったが,t検定 を行なった結果は有意差は認められなかった。調理の経験の少ない児童,生徒には調理の 材料となる食品の量よりも,でき上がった調理食品の盛りつけ量の方がわかりやすいので はないかと思ったが予想に反した結果であった。これは家庭での盛りつけ量の相違にもよ るであろうが,皿を各自に与えなかったために盛りつけ量が把握しにくかったことや,生 の食品の模型であるAに比し,Bの模型では調理食品の感じがでにくかったために,盛り
つけというより皿とのつり合いを平面的にとらえた傾向があるのではないかと思われる。
皿一4一(2)性別との関係
結果は図6−2のとおりであった。t検定を行なった結果,性別による差は認められな かった。
%
30一
。男子 X=6.82
20
SD=2.99
一
?落q X=6.86
SD=3.20
10
0 1 2 3
4
5 6 78
9 1011
1213 14 15 16 17 18 19 20イ固
図6−2 調理食品の盛りつけ量の判別(性別)
三一4一(3)知能との関係
結果は図6−3,図6−4のとおりであった。t検定を行なった結果,小・中学校とも に知能による差は認められなかった。
%
30『。1群 X=6.90
SD=2。90
20 一
スII群 X=6.69
SD=3.13
□皿群 X=7.02一
SD=3.37
100 1 2 3
4 5
6 7 8 9 10 11 12 1314 15 16 17 18 19 20個
図6−3 調理食品の盛りつけ量の判別(小5・6年,知能別)
174
長崎大学教育学部教育科学研究報告 第23号% 40
團1群7=7.21
SD=1.77
囮II群 7;6.93 SD=2.34
30□m群 又=7.02 SD=・1.94
20
●
10
0 1 2 3 4
5
67
8 9 1011 12
13 14 15個 図6−4 調理食品の盛りつけ量の判別(中2年,知能別)皿一4一(4)地域との関係 結果は図6−5に示した。
%
3020
10
0 1 2 3
図6−5 調理食品の盛りつけ量の判別(地区別)
t検定を行なった結果,両地区間に有意差は認められなかった。T地区は市の南部で工 場地帯を控え,旧来の住宅地と新興住宅地が相半ばする地域であり,Y地区は市の北部で
翻T地区ヌ=6.89
SD=2.67
[コY地区 7=6.92
SD=2.94
4 5
67
8 9 1011 12 13 14 15 16 17 18 19 20イ固
公園などの文化施設に富んだ新興住宅地である。しかし同一市内で父兄の職業も両地区と も会社員・公務員が約60%を占あており,また前述のように児童・生徒の答えが必ずしも 家庭における1皿分を示しているとは限らないところがら差が表われなかったのであろう。
以上のとおり,今回の調査では普通に使われる概念にあてはまる回答が最も多かったの は食品の概量であるが,これとてもかなり個人差があったし,食品によっては,「青菜1 わ」のように標準量がつかみにくいものもある。また,食品が調理によってどれだけの量 になるかは,調理の経験を積まないとわかりにくい。したがって食品の概量を正しく把握 できても,とるべき食物の量がわかるとはいえない。ほとんどの者が家庭の調理担当者で ない彼等に現在,正しい食生活をさせるには,でき上がった調理食品の盛りつけ量を把握 させることが必要であろう。その盛りつけ量も調理の経験の少ない児童・生徒の場合は受 け取り方がさまざまであったが,言語や文字だけでなく実物大の図や写真・模型等を使っ て具体的に示せば,標準的な量を固定化させることは,食品の概量と比べて困難ではない と思う。そこで小学校では盛りつけ量を主にして食物の量を具体的に指示し,同時に小学 校5年からの調理実習において,取り扱う食晶の重量とでき上がりの量を把握させるよう に務め,その積み重ねの上に立って重量で示されている中学校の食品群別摂取量のめやす を指導すれば,単なる数値の記憶に留まることなく,食生活への実践に役立てることがで きるであろう。これはまた調理を科学的に行なうたあの第1歩でもあ為。
w 要 約
小学校5・6年,中学校2年の児童・生徒を対象として食物の量の把握に関する調査を 行なった。結果は次のとおりであった。
(1)食品の概量・重量・調理食品の盛りつけ量の判別のうち,妥当な回答は食品の概量 にやや多かった。
(2)食品の概量については高学年ほど妥当な回答をした者が多く,小学校5年と中学校 2年との問に有意差が認められた。性別・知能による差は認められなかった。
(3)食品の重量の判別は学年,性別・知能による差は認みられなかった。
(4)調理食品の盛りつけ量の判別は学年・性別・知能・地域による差は認められなかっ
た。
(5)食品の概略は標準量に幅があり,食品の調理による量感の変化も考慮すれば,よい 食生活のための食物の量については,児童には調理食品の盛りつけ量を主とし,中学生に は食品の重量による食品層別摂取量のめやすを調理食品の盛りつけ量と関連させて指示す るのがよいと思われる。
おわりに,調査にご協力いただいた小・中学校の職員・児童・生徒の皆様に厚く御礼申 し上げます。
引 用 文 献 1) 文部省, 小学校指導書家庭篇 ,開隆堂(1969)P.22
2)文部省, 中学校指導書技術・家庭篇 ,開隆堂(1970)p.124,125