福祉現場における介護人材不足の背景
土 田 耕 司
A Background for the Labor Shortage in Care Workplace Koji TODA
キーワード:介護人材不足,雇用の受け皿,雇用のセーフティーネット
概 要
介護現場における人材不足の原因には,介護労働の現場が抱える低賃金,労働環境の悪さ,仕事のやりがいの低さ,介 護労働のイメージの悪さ等の要因が挙げられる. もう一方では,介護サービスの利用者の急激な増加という社会構造の変 化に介護現場への労働者の供給が追い付けていないという側面がある.この二つの側面が複雑に入り組んで, 介護の人材 不足を引き起こしている.
しかし, 政府はこれらに対する対策を図るよりも,介護人材不足を景気低迷からくる雇用状況の悪化への対応策に利用 し,介護現場と介護の専門資格取得を失業者対策として位置付けた施策が行われている.国が介護現場を雇用のセーフテ ィーネットとして位置付けることは, 介護労働者イコール仕事のない人たちの就労先というようなマイナスイメージが植 え付けられ,より介護人材不足の問題を複雑にし,悪化させる危険性を含んでいることを明らかにした.
1. はじめに ( 問題の所在 )
わが国の経済は,1990年代に起こったバブル景気崩 壊後の長引く不況から抜け出せず景気の長期低迷が続 く影響下で雇用状況は悪状況に至っている.これに追 い打ちを掛けるかのごとく,2008(平成20)年9月ア メリカの大手証券会社・投資銀行リーマン・ブラザー ズの破綻を引き金とした世界的な金融危機,および世 界同時不況の影響は,わが国の雇用状況を,さらに悪 化させ労働者市場は労働者を持て余しているといって も過言ではない状況である
注1.しかし,福祉現場にお いては介護労働者の人材不足が深刻な問題として取り 上げられているという逆の現象が起きている.
高齢社会への対応として,高齢者の介護をその家族 だけで担うのではなく,介護の負担を社会全体で担う 介護の社会化という目的で,2000(平成12)年4月の 介護保険法の施行により,公的な介護保険制度が導入 された.この介護保険制度の導入後,年月が経つにつ れて福祉現場での介護労働者の人材不足に関する問題
がマスメディア等で取り上げられるようになっていっ た.
そこで本研究においては,労働者市場が低迷してい る今日,なぜ福祉現場においては介護労働者の人材不 足が問題となっているのかを,福祉現場における介護 人材不足の背景を考察することから検証をおこなうこ とによって,安定した介護労働者の人材確保に繋げら れる提言を試みたい.
2. 介護労働者とは
介護労働者とは, 「介護労働者の雇用管理の改善等に 関する法律」第2条によると,身体上又は精神上の障 害があることにより日常生活を営むのに支障がある者 に対し,入浴,排せつ,食事等の介護関係業務を介護 事業所で,専ら介護関係業務に従事する労働者と定義 している.
次に,介護労働者の資格としては,介護福祉士と訪 問介護員(ホームヘルパー)が一般的である.介護福 祉士は,「社会福祉士及び介護福祉士法」 を根拠法とす る国家資格のである.この資格を取得するには,介護 福祉士養成校を卒業するか,福祉系の高校を卒業して 国家試験に合格するか,または介護現場での3年以上 の実務経験後に国家試験に合格するという三つの方法