• 検索結果がありません。

津波常習地における東日本大震災前後の防災意識の変化

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "津波常習地における東日本大震災前後の防災意識の変化"

Copied!
6
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

津波常習地における東日本大震災前後の防災意識の変化

-岩手県釜石市唐丹町における継続調査から-

熊谷 誠

筆者は 2004 年と 2018 年に岩手県釜石市唐丹町本郷地区と小白浜地区を対 象に,地域防災の課題や防災意識に関する調査を行っており,それらの調査結 果から,東日本大震災前後の防災意識の変化や課題について検討した.その結 果,防潮堤と津波被害への意識では,震災後には津波被害への不安があるとの 回答率が両地区とも 1 割程度上昇したこと,両地区とも「洪水」,「山崩れやが け崩れ」の経験が少ないものの,震災後にはこれらの災害への意識が高まって いることなどが明らかになった.また,小白浜地区では災害公営住宅や高所へ の住宅移転により災害へのリスクが低減したことで,防災訓練への参加や災害 への備えなど,一部の防災への取り組みに鈍化が見受けられた.一方,本郷地 区では,今後心配な災害への意識や避難訓練への参加率に高まりがみられ,避 難場所についても現状に「不十分」とする傾向が強く,災害に対する課題が強 く認識されていることがうかがえた.

アンケート調査,津波災害,土砂災害,災害リスク

1.はじめに

岩手県沿岸部では,東日本大震災で被害を受け た世帯の再建が2019年末までに完了し,本稿で 取り上げる釜石市唐丹町本郷地区と小白浜地区で も新たな造成地で居住が始まっている.両地区と も昭和三陸津波(1933年)後の復興事業でも宅地 が造成された地区で,当時は谷あいの斜面を切り 開いて宅地を得たため,地区全体では今なお土砂 災害や内水氾濫等の危険性を抱えている.

今回の新たな盛土や居住地造成による住宅移転 で津波の危険性が低減されるなかで,現在(住居 再建完了後)の地区住民が懸念する災害や防災に

関する意識について変化が生じていると考えられ る.本稿は,アンケート票による調査を行うとと もに,一部の質問については,筆者が震災前に行っ た2004年時のアンケート調査結果と比較し,住 民の防災に関する意識が震災や生活再建の経験を 経てどう変化したかを把握することを目的として いる.

2.調査の概要・方法

(1)対象地域の概要

この調査は,唐丹町で隣接する本郷地区と小白 浜地区を対象に行った.図1に両地区の位置と概 要 旨

キーワード

岩手大学地域防災研究センター 〒020-8551 岩手県盛岡市上田4-3-5

(2)

総合政策 第22巻(2021)

形を示す.本郷地区は漁村集落として発達した地 域で,かつてはイカ釣り漁やホタテ,ワカメ養殖 が盛んな地域であったが,漁師の高齢化や跡継ぎ 不足により,漁業集落としての側面は薄れてきて いる.小白浜地区は唐丹町の中心部であり市の地 区生活応援センターのほか,唐丹漁協や郵便局,

市の拠点避難所ともなる唐丹小・中学校が立地し ている.

両地区は明治三陸津波,昭和三陸津波で大きな 被害を受けており,2004年の調査当時は昭和三陸 津波(1933年)から71年が経過した時点であっ た.昭和三陸津波後,これらの地区では高台等に 住宅地が整備され,津波浸水範囲から住家を移転 する施策が行われたが,2004年当時には再度,過 去の津波浸水範囲に住家が立地しており,これら の住家を中心に津波による被害が生じた.

図 1.釜石市唐丹町小白浜,本郷の概形

(地理院地図に筆者加筆)

(2)2004 年の調査

2004年の調査では,唐丹町本郷地区,小白浜地 区の両地区において住民の居住歴や過去の津波の 被害に関する認識,防災意識や地域の防災上の課 題を把握するためにアンケート調査を行った.調 査の概要は,比較対象とする2018年調査の内容 とともに表1に示す.

本稿では,2004年の調査項目の中から,2018 年調査の調査項目と比較可能な「避難訓練の参加」,

「防潮堤と津波被害への意識」,「避難場所の満足 度」を分析対象とする.2004年調査では自治会と 地元有志による「唐丹の歴史を語る会」の協力の もとアンケート票の配布,回収を行っており,本 郷での配布数172票に対して回収数104(有効回

収率60.4%),小白浜での配布数214票に対して 回収数157票(有効回収率73.3%)であった.回 答は各世帯の世帯主か,不在の場合には世帯主に 準じる方にお願いした.

(3)2018 年の調査

2018年の調査は,本郷地区,小白浜地区ともに 災害復興住宅や新規造成地への転居がひと段落す る時期に合せて,東日本大震災における避難行動 や住家の被害,震災前後の防災の備え等について アンケート調査を行った.配布,回収は2004年 の調査と同様,自治会と地元有志による「唐丹の 歴史を語る会」協力を得て地区の全世帯を対象に 行った.回答も同様に各世帯の世帯主か,不在の 場合には世帯主に準じる方にお願いした.

表 1.震災前後の調査実施概要

(筆者作成)

①調査内容

本稿で用いる質問項目は以下の通りである.

(a)防潮堤整備による津波被害への意識 防潮堤整備による津波災害への懸念については

「津波被害は心配ない」,「津波被害に不安がある」

「津波被害は考えたこともない」の3つの選択肢 の中から1つを選択してもらった.

(b)過去の災害と今後地域で懸念される災害 過去の災害経験と今後地域で懸念される災害,

それぞれについて「川や沢の洪水」,「高潮」,「山 本郷

小白浜

総合政策 第22巻(2021)

崩れ,がけ崩れ」,「山火事」の中から該当するも のを全て選択してもらった.

(c)(津波)避難訓練への参加

釜石市では毎年,津波避難訓練が行われており,

2004年時点では昭和三陸津波があった3月3日 に行われていた.東日本大震災後には毎年9月に 津波避難訓練が行われるようになっており,避難 訓練への参加については「毎回かならず参加」,「と きどき参加」,「参加したことはない」の中から 1 つを選択してもらった.

(d)指定避難場所の満足度

指定避難場所の満足度については「満足してい る(十分だと思う)」,「満足していない(不十分,

不都合な部分がある)」のうち,どちらかを選択し てもらい,「不十分,不都合な部分がある」を選択 した場合には,その理由についても記述を求めた.

(e)災害への備え

災害への備えについては,震災前,震災後に分 けて普段の防災対策として「家具の固定」,「家屋 の耐震診断や補強」,「地震保険等の加入」,「非常 持出し品の準備」,「食料・飲料等の備蓄」,「住居 の移転・引越し」,「避難場所や連絡手段を家族で 確認」,「避難(防災)訓練への参加」,「防災マッ プを見て地域の危険性を確認」の中から,該当す るもの全てを選択してもらった.

なお,(a),(c),(d)については2004年調査 と2018年調査において同様の質問を行っており 結果について比較が可能である.(b),(e)は2018 年調査の質問において「震災前」,「震災後」それ ぞれの時点での防災の備えを尋ねているため,こ ちらも比較が可能である.

②実施結果

2018年調査では,11月末日までに本郷地区で 127票(有効回収率72.9%),小白浜地区で146 票(有効回収率65.1%)の有効回答票を回収した.

このうち本郷地区の10世帯,小白浜地区の26

世帯は,震災後に新しく造成された復興地や災害 復興住宅等へ他地区から転入してきた世帯であっ た.先に挙げた質問項目は,震災前後の両地区の 状況や取り組みの比較を目的とするため,2018年 調査の両地区の母数は震災後に転入してきた世帯 数を除いた世帯数として,本郷地区:n=117,小 白浜地区n=120を用いることとする.

3.防潮堤と津波災害への意識

図2に,防潮堤と津波災害への意識について問 うた結果を示す.本郷地区,小白浜地区とも「防 潮堤があっても津波避難は心配」との回答がもっ とも多く2004年時で6~7割程度だった割合が 2018年時には約8割にのぼっている.また,「防 潮堤があり津波は心配ない」との回答は,2004年 時には両地区で1割程度を満たしていたのに対し て,2018年時では1割にも満たなくなっている.

「津波被害は考えたこともない」は,いずれの時 期,いずれの地区でも3~6%程度の回答率にとど まっている.

図2.(a)防潮堤と津波災害への意識(筆者作成)

2018 年時の回答において「防潮堤があっても 津波被害は不安」の回答率が,2004年時の回答率 を上回っている点について,東日本大震災以前か 2004年調査 2018年調査

対象地域

対象世帯数 本郷:172 小白浜:214

本郷:174 小白浜:224 配布方法

配布時期 2004年1月~2月 2018年11月5日

~11月21日 回収方法

回収数 本郷:104 小白浜:157

本郷:127 小白浜:146 有効回収率 本郷:60.4%

小白浜:73.3%

本郷:72.9%

小白浜:65.1%

釜石市唐丹町本郷地区、小白浜地区

町内広報と一緒に配布

町内会役員による回収および戸別訪問

2004年調査 2018年調査 対象地域

対象世帯数 本郷:172 小白浜:214

本郷:174 小白浜:224 配布方法

配布時期 2004年1月~2月 2018年11月5日  ~11月21日 回収方法

回収数 本郷:104 小白浜:157

本郷:127 小白浜:146 有効回収率 本郷:60.4%

小白浜:73.3%

本郷:72.9%

小白浜:65.1%

釜石市唐丹町本郷地区、小白浜地区

町内広報と一緒に配布

町内会役員による回収および戸別訪問

小白浜 本郷

総合政策 第 22 巻(2021)

(3)

形を示す.本郷地区は漁村集落として発達した地 域で,かつてはイカ釣り漁やホタテ,ワカメ養殖 が盛んな地域であったが,漁師の高齢化や跡継ぎ 不足により,漁業集落としての側面は薄れてきて いる.小白浜地区は唐丹町の中心部であり市の地 区生活応援センターのほか,唐丹漁協や郵便局,

市の拠点避難所ともなる唐丹小・中学校が立地し ている.

両地区は明治三陸津波,昭和三陸津波で大きな 被害を受けており,2004年の調査当時は昭和三陸 津波(1933年)から71年が経過した時点であっ た.昭和三陸津波後,これらの地区では高台等に 住宅地が整備され,津波浸水範囲から住家を移転 する施策が行われたが,2004年当時には再度,過 去の津波浸水範囲に住家が立地しており,これら の住家を中心に津波による被害が生じた.

図 1.釜石市唐丹町小白浜,本郷の概形

(地理院地図に筆者加筆)

(2)2004 年の調査

2004年の調査では,唐丹町本郷地区,小白浜地 区の両地区において住民の居住歴や過去の津波の 被害に関する認識,防災意識や地域の防災上の課 題を把握するためにアンケート調査を行った.調 査の概要は,比較対象とする2018年調査の内容 とともに表1に示す.

本稿では,2004 年の調査項目の中から,2018 年調査の調査項目と比較可能な「避難訓練の参加」,

「防潮堤と津波被害への意識」,「避難場所の満足 度」を分析対象とする.2004年調査では自治会と 地元有志による「唐丹の歴史を語る会」の協力の もとアンケート票の配布,回収を行っており,本 郷での配布数172票に対して回収数104(有効回

収率60.4%),小白浜での配布数214票に対して 回収数157票(有効回収率73.3%)であった.回 答は各世帯の世帯主か,不在の場合には世帯主に 準じる方にお願いした.

(3)2018 年の調査

2018年の調査は,本郷地区,小白浜地区ともに 災害復興住宅や新規造成地への転居がひと段落す る時期に合せて,東日本大震災における避難行動 や住家の被害,震災前後の防災の備え等について アンケート調査を行った.配布,回収は2004年 の調査と同様,自治会と地元有志による「唐丹の 歴史を語る会」協力を得て地区の全世帯を対象に 行った.回答も同様に各世帯の世帯主か,不在の 場合には世帯主に準じる方にお願いした.

表 1.震災前後の調査実施概要

(筆者作成)

①調査内容

本稿で用いる質問項目は以下の通りである.

(a)防潮堤整備による津波被害への意識 防潮堤整備による津波災害への懸念については

「津波被害は心配ない」,「津波被害に不安がある」

「津波被害は考えたこともない」の3つの選択肢 の中から1つを選択してもらった.

(b)過去の災害と今後地域で懸念される災害 過去の災害経験と今後地域で懸念される災害,

それぞれについて「川や沢の洪水」,「高潮」,「山 本郷

小白浜

崩れ,がけ崩れ」,「山火事」の中から該当するも のを全て選択してもらった.

(c)(津波)避難訓練への参加

釜石市では毎年,津波避難訓練が行われており,

2004年時点では昭和三陸津波があった3月3日 に行われていた.東日本大震災後には毎年9月に 津波避難訓練が行われるようになっており,避難 訓練への参加については「毎回かならず参加」,「と きどき参加」,「参加したことはない」の中から1 つを選択してもらった.

(d)指定避難場所の満足度

指定避難場所の満足度については「満足してい る(十分だと思う)」,「満足していない(不十分,

不都合な部分がある)」のうち,どちらかを選択し てもらい,「不十分,不都合な部分がある」を選択 した場合には,その理由についても記述を求めた.

(e)災害への備え

災害への備えについては,震災前,震災後に分 けて普段の防災対策として「家具の固定」,「家屋 の耐震診断や補強」,「地震保険等の加入」,「非常 持出し品の準備」,「食料・飲料等の備蓄」,「住居 の移転・引越し」,「避難場所や連絡手段を家族で 確認」,「避難(防災)訓練への参加」,「防災マッ プを見て地域の危険性を確認」の中から,該当す るもの全てを選択してもらった.

なお,(a),(c),(d)については2004年調査 と2018年調査において同様の質問を行っており 結果について比較が可能である.(b),(e)は2018 年調査の質問において「震災前」,「震災後」それ ぞれの時点での防災の備えを尋ねているため,こ ちらも比較が可能である.

②実施結果

2018年調査では,11月末日までに本郷地区で 127票(有効回収率72.9%),小白浜地区で146 票(有効回収率65.1%)の有効回答票を回収した.

このうち本郷地区の10世帯,小白浜地区の26

世帯は,震災後に新しく造成された復興地や災害 復興住宅等へ他地区から転入してきた世帯であっ た.先に挙げた質問項目は,震災前後の両地区の 状況や取り組みの比較を目的とするため,2018年 調査の両地区の母数は震災後に転入してきた世帯 数を除いた世帯数として,本郷地区:n=117,小 白浜地区n=120を用いることとする.

3.防潮堤と津波災害への意識

図2に,防潮堤と津波災害への意識について問 うた結果を示す.本郷地区,小白浜地区とも「防 潮堤があっても津波避難は心配」との回答がもっ とも多く2004年時で6~7割程度だった割合が 2018年時には約8割にのぼっている.また,「防 潮堤があり津波は心配ない」との回答は,2004年 時には両地区で1割程度を満たしていたのに対し て,2018年時では1割にも満たなくなっている.

「津波被害は考えたこともない」は,いずれの時 期,いずれの地区でも3~6%程度の回答率にとど まっている.

図2.(a)防潮堤と津波災害への意識(筆者作成)

2018年時の回答において「防潮堤があっても 津波被害は不安」の回答率が,2004年時の回答率 を上回っている点について,東日本大震災以前か

本郷 n=117 転入除 117 小白浜 n=120 転入除

回答 度数 回答 度数

本郷 /2004 n=104 防潮堤あるから津波 10 8.547009 防潮堤ある 11 9.166667 防潮堤あり津波 14.0 防潮堤があっても津 93 79.48718 防潮堤あっ 95 79.16667 防潮堤があって 64.0 津波被害は考えたこ 8 6.837607 津波被害は 7 5.833333 津波被害は考え 3.0

無回答 6 5.128205 無回答 7 5.833333 無回答 19.0

total 117 total 120

14.0 8.5 11.0 9.2

64.0 79.5 70.0 79.2

3.0

6.8

5.0 5.8

19.0

5.1 14.0 5.8

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

本郷/2004 n=104

本郷/2018 n=117

小白浜/2004 n=157

小白浜/2018 n=120 無回答

津波被害は考えたこともない 防潮堤があっても津波被害は不安 防潮堤あり津波心配ない

(4)

総合政策 第22巻(2021)

ら,防潮堤があるにも関わらず津波による被害の 不安を抱えていた住民が一定数いたことに加え,

実際に,東日本大震災による防潮堤の破壊と津波 被害を目の当たりにしたことで,防潮堤への信頼 性よりも津波被害への不安が上回った住民が増え た可能性がうかがえる.

4.過去に発生した災害と今後心配な災害 図3に,過去に地域で発生した災害と今後の発 生が心配な災害について質問した結果を示す.過 去に発生した災害は本郷地区,小白浜地区ともに

「山火事」がもっとも多く,次いで「洪水」が多 くなっている.「高潮」と「山崩れ・がけ崩れ」は ともに1割程度の回答にとどまっている.一方,

今後,心配な災害では両地区とも「山火事」,「山 崩れ・がけ崩れ」の回答が5~6割程度となって いる.特に本郷地区では「山崩れ・がけ崩れ」と

「洪水」で約6割の回答があった.

図 3. (b)過去の災害と今後心配な災害 (筆者作成)

本郷地区における今後の心配な災害での「洪水」,

「山崩れ・がけ崩れ」,小白浜での「山崩れ・がけ 崩れ」の回答は,過去の災害の回答率が低いにも 関わらず,高い回答率となった.これに関連して 2004年調査時の自由意見などをみると,地震や大 雨による宅地付近の土砂災害,斜面災害を心配す る記述がいくつもあり,以前から災害の懸念材料 となっていたことがうかがえた.

また,釜石市は2012年度から2018年度の期 間に市のほぼ全域で,住民も参加しての「洪水・

土砂災害緊急避難地図」の作成に取り組んでおり,

本郷地区,小白浜地区では2017年3月に完成し た地図が配布された.配布にあたり,唐丹地区生 活応援センターが作成した地図の案内・説明と一 緒に全戸配布され,周知の工夫も取られた.この 地図を見ると,本郷地区ではごく一部の住宅を除 いてほぼ全ての住宅地が,岩手県による土砂災害 の危険性を示す範囲に含まれていることが分かる.

一方,小白浜地区は一部分が,がけ崩れの発生す る恐れのある地域として示されており,これらの 地図が住民の土砂災害の危険性の認識に影響を及 ぼした可能性が考えられる.

5.避難訓練への参加

図4には,避難訓練への参加について尋ねた結 果を示している.本郷地区では2004年調査時に は「毎回,参加」と「ときどき参加」の回答を合 わせて約7割であったものが,2018年調査時に は「毎回,参加」のみで70.9%,「ときどき参加」

を含めると9割を超えるなど訓練参加者の増加傾 向がうかがえた.一方,小白浜地区でも2004年 調査時には「毎回,参加」と「ときどき参加」の を合わせた回答が約7割であったが,2018年調 査時には約6割と,参加者の減少傾向が見られた.

これらの地域の避難訓練について,釜石市では 昭和三陸津波の経験から毎年3月3日に津波避難 訓練を実施しており,2004年調査時には年中行事 としてすでに定着していた.2018年調査時には,

釜石市が東日本大震災の経験を踏まえ,防災月間 である9月に津波避難訓練の時期を変更しており,

災害公営住宅や復興住宅といった新たな生活環境 が整備された中での訓練が行われていた.

津波避難訓練では,住居の位置や階数等によって は自宅の方が安全という場合もあり,小白浜地区 の訓練参加者の減少については,災害公営住宅や 高所への移転など,新たな場所での生活再建の結 果,津波や災害からの避難行動の必要がないと考 える人達が生じた可能性がある.

本 郷:n=117 小白浜:n=120

総合政策 第22巻(2021)

図4.(c)避難訓練への参加 (筆者作成)

また,2018年調査時の本郷地区において「毎回,

参加」の比率が高くなったことについては,2017 年に前出の「洪水・土砂災害緊急避難地図」の配 布に併せて市が,本郷地区を会場に洪水・土砂災 害避難訓練を実施しており,これらを受けて住民 の意識が高まったのではないかと考えられる.

6.避難場所の満足度

図5は避難場所の満足度について尋ねた結果を 示したものである.両地区とも2004年時,2018 年時の比較では,回答の傾向は大きく変わらず,

本郷地区では「十分」が3~4割,「不十分」が約 5割の回答率となっている.一方,小白浜地区は 本郷地区と回答の傾向が異なり,「十分」の回答が 6~7割を占め,「不十分」は1~2割となってい る.

避難場所について,小白浜では緊急避難場所と 市の拠点避難所を兼ねる唐丹小・中学校が指定さ れている.一方で,本郷地区では津波避難の際と 火災,台風等風水害等で身を寄せられる安全な避 難場所がそれぞれ異なり,さらに火災の際の消防

図5.(d)指定避難場所の満足度

(筆者作成)

屯所以外の場所には施設はおろか,屋根もないた め,露天での避難となる.そのため,2004年,2018 年調査時ともに,自由記述等では避難場所に施設 がないことの不安や不便についての意見が多く寄 せられていた.これらのことが影響して,本郷地 区と小白浜地区の避難場所の充足感に差異が生じ たと考えられる.

7.災害への備え

図6は災害への備えについて尋ねた結果である. 震災前後での比較でみると小白浜地区では大きな 差異は生じていないのに対して,本郷地区では「食 料・飲料の備蓄」,「避難場所や連絡手段を家族で 確認」,「防災マップを見て地域の危険性を確認」 が震災後に増加しており,一方で「地震保険等へ の加入」は減少傾向が見られた.また,両地区を 比較すると震災前後を通じて「地震保険等への加 入」,「避難(防災)訓練への参加」で,本郷地区 の回答が小白浜地区の回答を大きく上回っている.

災害への備えについては,既述のように,小白 浜地区では災害公営住宅への入居や,高所への居 住地移転によって災害リスクが低く見える場所で の生活がはじまり,災害への備えについても横ば いで推移しているようにうかがえる.一方で,本 郷地区は前出の地区内に避難施設がないことや, 新たに「洪水・土砂災害緊急避難地図」の配布で

本郷 n=117 小白浜 n=120

Q18過去の災害過去災害%Q19今後災 今後災害 Q18過去の 過去災害%Q19今後災 今後災害

過去の災 本郷

今後心配 な災害 本郷

過去の災 小白浜

今後心配 な災害 小白浜

洪水 40 34.2 69 59.0 41 34.2 45 37.5 洪水 34.2 59.0 34.2 37.5

高潮 13 11.1 20 17.1 14 11.7 21 17.5 高潮 11.1 17.1 11.7 17.5

山崩れ・が 13 11.1 76 65.0 15 12.5 55 45.8 山崩れ・が 11.1 65.0 12.5 45.8

山火事 74 63.2 63 53.8 90 75.0 64 53.3 山火事 63.2 53.8 75.0 53.3

分からない 17 14.5 6 5.1 10 8.3 20 16.7 分からない 14.5 5.1 8.3 16.7

その他 1 0.9 3 2.6 5 4.2 4 3.3 その他 0.9 2.6 4.2 3.3

34.2 11.7

12.5

75.0 8.3

4.2

37.5 17.5

45.8 53.3 16.7

3.3

34.2 11.1

11.1

63.2 14.5

0.9

59.0 17.1

65.0 53.8 5.1

2.6

0 10 20 30 40 50 60 70 80

洪水 高潮 山崩れ・がけ崩れ 山火事 分からない その他

今後心配な災害 本郷

過去の災害 本郷

今後心配な災害 小白浜

過去の災害 小白浜

本 郷:n=117 小白浜:n=120

総合政策 第 22 巻(2021)

(5)

ら,防潮堤があるにも関わらず津波による被害の 不安を抱えていた住民が一定数いたことに加え,

実際に,東日本大震災による防潮堤の破壊と津波 被害を目の当たりにしたことで,防潮堤への信頼 性よりも津波被害への不安が上回った住民が増え た可能性がうかがえる.

4.過去に発生した災害と今後心配な災害 図3に,過去に地域で発生した災害と今後の発 生が心配な災害について質問した結果を示す.過 去に発生した災害は本郷地区,小白浜地区ともに

「山火事」がもっとも多く,次いで「洪水」が多 くなっている.「高潮」と「山崩れ・がけ崩れ」は ともに1 割程度の回答にとどまっている.一方,

今後,心配な災害では両地区とも「山火事」,「山 崩れ・がけ崩れ」の回答が5~6割程度となって いる.特に本郷地区では「山崩れ・がけ崩れ」と

「洪水」で約6割の回答があった.

図 3.(b)過去の災害と今後心配な災害 (筆者作成)

本郷地区における今後の心配な災害での「洪水」,

「山崩れ・がけ崩れ」,小白浜での「山崩れ・がけ 崩れ」の回答は,過去の災害の回答率が低いにも 関わらず,高い回答率となった.これに関連して 2004年調査時の自由意見などをみると,地震や大 雨による宅地付近の土砂災害,斜面災害を心配す る記述がいくつもあり,以前から災害の懸念材料 となっていたことがうかがえた.

また,釜石市は2012年度から2018年度の期 間に市のほぼ全域で,住民も参加しての「洪水・

土砂災害緊急避難地図」の作成に取り組んでおり,

本郷地区,小白浜地区では2017年3月に完成し た地図が配布された.配布にあたり,唐丹地区生 活応援センターが作成した地図の案内・説明と一 緒に全戸配布され,周知の工夫も取られた.この 地図を見ると,本郷地区ではごく一部の住宅を除 いてほぼ全ての住宅地が,岩手県による土砂災害 の危険性を示す範囲に含まれていることが分かる.

一方,小白浜地区は一部分が,がけ崩れの発生す る恐れのある地域として示されており,これらの 地図が住民の土砂災害の危険性の認識に影響を及 ぼした可能性が考えられる.

5.避難訓練への参加

図4には,避難訓練への参加について尋ねた結 果を示している.本郷地区では2004年調査時に は「毎回,参加」と「ときどき参加」の回答を合 わせて約7割であったものが,2018年調査時に は「毎回,参加」のみで70.9%,「ときどき参加」

を含めると9割を超えるなど訓練参加者の増加傾 向がうかがえた.一方,小白浜地区でも2004年 調査時には「毎回,参加」と「ときどき参加」の を合わせた回答が約7割であったが,2018年調 査時には約6割と,参加者の減少傾向が見られた.

これらの地域の避難訓練について,釜石市では 昭和三陸津波の経験から毎年3月3日に津波避難 訓練を実施しており,2004年調査時には年中行事 としてすでに定着していた.2018年調査時には,

釜石市が東日本大震災の経験を踏まえ,防災月間 である9月に津波避難訓練の時期を変更しており,

災害公営住宅や復興住宅といった新たな生活環境 が整備された中での訓練が行われていた.

津波避難訓練では,住居の位置や階数等によって は自宅の方が安全という場合もあり,小白浜地区 の訓練参加者の減少については,災害公営住宅や 高所への移転など,新たな場所での生活再建の結 果,津波や災害からの避難行動の必要がないと考 える人達が生じた可能性がある.

本 郷:n=117 小白浜:n=120

図4.(c)避難訓練への参加 (筆者作成)

また,2018年調査時の本郷地区において「毎回,

参加」の比率が高くなったことについては,2017 年に前出の「洪水・土砂災害緊急避難地図」の配 布に併せて市が,本郷地区を会場に洪水・土砂災 害避難訓練を実施しており,これらを受けて住民 の意識が高まったのではないかと考えられる.

6.避難場所の満足度

図5は避難場所の満足度について尋ねた結果を 示したものである.両地区とも2004年時,2018 年時の比較では,回答の傾向は大きく変わらず,

本郷地区では「十分」が3~4割,「不十分」が約 5割の回答率となっている.一方,小白浜地区は 本郷地区と回答の傾向が異なり,「十分」の回答が 6~7割を占め,「不十分」は1~2割となってい る.

避難場所について,小白浜では緊急避難場所と 市の拠点避難所を兼ねる唐丹小・中学校が指定さ れている.一方で,本郷地区では津波避難の際と 火災,台風等風水害等で身を寄せられる安全な避 難場所がそれぞれ異なり,さらに火災の際の消防

図5.(d)指定避難場所の満足度

(筆者作成)

屯所以外の場所には施設はおろか,屋根もないた め,露天での避難となる.そのため,2004年,2018 年調査時ともに,自由記述等では避難場所に施設 がないことの不安や不便についての意見が多く寄 せられていた.これらのことが影響して,本郷地 区と小白浜地区の避難場所の充足感に差異が生じ たと考えられる.

7.災害への備え

図6は災害への備えについて尋ねた結果である.

震災前後での比較でみると小白浜地区では大きな 差異は生じていないのに対して,本郷地区では「食 料・飲料の備蓄」,「避難場所や連絡手段を家族で 確認」,「防災マップを見て地域の危険性を確認」

が震災後に増加しており,一方で「地震保険等へ の加入」は減少傾向が見られた.また,両地区を 比較すると震災前後を通じて「地震保険等への加 入」,「避難(防災)訓練への参加」で,本郷地区 の回答が小白浜地区の回答を大きく上回っている.

災害への備えについては,既述のように,小白 浜地区では災害公営住宅への入居や,高所への居 住地移転によって災害リスクが低く見える場所で の生活がはじまり,災害への備えについても横ば いで推移しているようにうかがえる.一方で,本 郷地区は前出の地区内に避難施設がないことや,

新たに「洪水・土砂災害緊急避難地図」の配布で

無回答 19 2 18 4 2 1.709402

total 104 117 157 120

本郷/2004 n=104

本郷/2018 n=117

小白浜/2004 n =157

小白浜/2018 n=120

毎回,参加 37.5 70.9 24.8 22.5

ときどき参加 34.6 23.1 47.1 39.2

参加したことはない 9.6 4.3 16.6 35.0

無回答 18.3 1.7 11.5 3.3

37.5

70.9

24.8 22.5

34.6

23.1

47.1

39.2 9.6

4.3

16.6 35.0

18.3

1.7

11.5 3.3

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

本郷/2004 n=104

本郷/2018 n=117

小白浜/2004 n =157

小白浜/2018 n=120 毎回,参加 ときどき参加 参加したことはない 無回答

無回答 14 11.96581197 無回答 14 11.66666667 無回答 17.3 12.0 25.5 11.7

total 117 total 120

34.6 39.3

61.1 69.2

48.1 48.7 13.4

19.2

17.3 12.0

25.5 11.7

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

本郷/2004 n=104

本郷/2018 n=117

小白浜/2004 n =157

小白浜/2018 n=120 十分 不十分 無回答

(6)

総合政策 第22巻(2021)

図 6. (e)災害への備え (筆者作成)

風水害や土砂災害のリスクが示されることで,住 民の意識にもいく分か災害リスクの認識が生じ,

「食料・飲料の備蓄」,「避難場所や連絡手段を家 族で確認」,「防災マップを見て地域の危険性を確 認」といった取組みにつながった可能性がある.

8.まとめ

過去,2004年に筆者が行った調査結果と2018 年に新たに行った調査結果の比較から以下のこと が明らかになった.

・防潮堤と津波被害への意識について,震災後に は津波被害への不安があるとの回答率が両地区と も1割程度上昇した.

・過去の災害と今後心配な災害では,両地区とも

「洪水」,「山崩れやがけ崩れ」の経験が少ないも のの,震災後には災害への懸念が高まっていた.

・避難訓練への参加について,震災前後で小白浜 地区では参加率が減少傾向にある一方,本郷地区 では増える傾向にあった.

・避難場所の充足感では,震災前後で顕著な比率 の変化はないが,震災後の小白浜では約2割,本 郷地区では約5割が「不十分」と考えていた.

・災害への備えについては,震災後に本郷地区で

「食料・飲料の備蓄」,「避難場所や連絡手段を家 族で確認」,「防災マップを見て地域の危険性を確 認」の取組みが増えていた.

全体を通じて,小白浜地区では災害公営住宅や 高所への住宅移転により災害へのリスクが低減し たと考えられたためか,「防災訓練への参加」や「災 害への備え」の取組みが鈍化して見受けられた.

一方,本郷地区は「今後心配な災害」への意識や

「避難訓練への参加」に高まりがみられ,避難場 所についても現状で「不十分」と感じる傾向が強 く,災害に対する課題が強く認識されていること がうかがえた.

謝辞

本調査は本郷町内会,小白浜町内会,唐丹の歴 史を語る会,釜石市唐丹地区生活応援センターの 協力を得て行った.ここに厚く御礼申し上げる.

【参考文献】

熊谷 誠・南 正昭(2018)釜石市唐丹町本郷に おける昭和津波による家屋流失後の居住地形成 過程について,津波工学研究報告35,pp. 117- 125

諫川 輝之,大野隆造, 村尾修(2017)東日本 大震災体験後における住民の津波避難に関する 意識-軽微な津波を体験した千葉県御宿町にお ける震災前後のアンケート調査から-,地域安 全学会論文集No.30,pp. 103-110

釜石市(2017)『住宅再建・まちづくりの復興事業 に係る目標(工程表)』

熊谷 誠(2016)三陸地方の津波災害と高地移転,

東北学07,pp. 88-103

内務大臣官房都市計画課(1934)三陸津波に因る 被害町村の復興計画報告書,p. 38

(2020年12月11日受理)

本郷 n=127 小白浜 n=146

Q10震災前準備 本郷震災前% Q11震災後準備 本郷震災後 Q10震災前 小白浜震災Q11震災後 小白浜震災後 本郷震災前本郷震災後小白浜震災小白浜震災後

家具の固定 27 21 29 23 44 30 22 15 家具の固定 20.5 23.1 15.1 17.5

家屋の耐震 6 5 16 13 14 10 9 6 家屋の耐震 4.3 12.0 6.2 3.3

地震保険等 59 46 45 35 47 32 39 27 地震保険等 48.7 36.8 26.7 23.3

非常持出し 39 31 48 38 47 32 40 27 非常持出し 32.5 37.6 27.4 28.3

食料・飲料 23 18 37 29 27 18 43 29 食料・飲料 18.8 29.9 29.5 27.5

住居の移転 0 0 5 4 1 1 7 5 住居の移転 0.0 3.4 4.8 0.8

避難場所や

21 17 40 31 19 13 31 21

避難場所 や連絡手 段を 家族で確

17.1 32.5 21.2 20.8

避難(防災

71 56 64 50 40 27 28 19

避難(防 災)

訓練への

参加 57.3 50.4 19.2 19.2

防災マップ

21 17 35 28 30 21 39 27

防災マッ プを見て 地域の危

険性確認 16.2 28.2 26.7 27.5

特にない 20 16 20 16 32 22 26 18 特にない 14.5 15.4 17.8 17.5

その他 2 2 1 1 4 3 4 3 その他 0.9 0.0 2.7 2.5

15.1 6.2

26.7 27.4 29.5 4.8

21.2 19.2

26.7 17.8 2.7

17.5 3.3

23.3 28.3 27.5 0.8

20.8 19.2

27.5 17.5 2.5

20.5 4.3

48.7 32.5 18.8 17.1

57.3 16.2

14.5 0.9

23.1 12.0

36.8 37.6 29.9 3.4

32.5

50.4 28.2

15.4

0 10 20 30 40 50 60

家具の固定 家屋の耐震診断・補強 地震保険等への加入 非常持出し品の準備 食料・飲料の備蓄 住居の移転・引越し 避難場所や連絡手段を

家族で確認 避難(防災)

訓練への参加 防災マップを見て 地域の危険性確認 特にない その他

本郷震災後 本郷震災前 小白浜震災後 小白浜震災前

本 郷:n=117 小白浜:n=120

総合政策 第 22 巻(2021)

参照

関連したドキュメント

参加者には学習会の終了後にアンケート調査を行った。調査内容は1満足度、2学習程

地震後の 3 月下旬~5 月、現地での瓦礫撤去が

修論抄録 87 結果 調査対象者のうち、 69 名(回収率 100%)から回答 が得られた。臨地実習前後の比較するため、前後のデ ータが得られた

表1.1は、前述ア~ウの手法別に図上型訓練の概要・特徴等を整理し

後者は復興に際しての住民の意向を調べるものであった。大震災を契機に人と人とのつ

4.まとめ

で機能していると言えます。 浅利 確かにおっしゃるように、震災を受けた日米間の強固な協力体制は、今までの 日米合同の協力、訓練、努力の積み重ねの結果だと言えるのではないかと思います。 ブルックス そうです。合同訓練、合同計画、相互協力。人々が認識していない日米 の軍事力のきわめて細かくて見えにくい面での協力の成果です。私は2009年まで15年

 2005年調査は官公庁・一般企業の危機管理に携わる人を