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日米同盟の歴史における東日本大震災―地震、津波

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Academic year: 2023

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日米同盟の歴史における東日本大震災―地震、津波、原子力災害

浅利 今回「大震災後の日米同盟と国際協力」を、2012年1・2月合併号のメインテ ーマとして掲げましたが、日本の専門家やジャーナリストの方々による分析に加え て、是非とも米国の視点を取り入れたいということで、本日、ブルックス先生へイ ンタビューを行なわせていただくこととなりました。ブルックス先生は、これまで 外交官として駐日米国大使館や国務省において、群を抜く情報分析・伝達力で、日 米の経済問題や安全保障政策に通じた有数の専門家として活躍してこられ、現在は 米国ジョンズ・ホプキンス大学で教鞭をとっておられます。今日は、震災への対応 で協働する経験を経た日米同盟の展望と今後の課題について、お話をお伺いしたい と思います。

ブルックス よろしくお願いします。

浅利 まず最初の質問ですが、3月11日の地震と津波は日米同盟にどのような影響を 与えたと思われますか? 日本国民として、震災発生直後から米国より寄せられた精 神的サポートと物的支援に大変感謝しています。日本にとって米国のエネルギーと協 力は大きな支えとなった。当時ワシントンの日本大使館に勤務していて、肌でそう感 じました。悲惨な災害のなかではありましたが、同時に日米同盟の強い絆を確認する

米国ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院(SAIS)兼任教授/

ライシャワー東アジア研究所上級顧問

聞き手

日本国際問題研究所(JIIA)副所長

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機会にもなった。ブルックス先生はどのように感じておられるのでしょう。

ブルックス まったく同感です。私もアメリカ人のあふれる友情、支援には驚きまし た。災害が起こればアメリカ人が支援をするとは思っていましたが、あれほどまでと は思いませんでした。震災直後から、街や学校では住民や生徒・学生らによって日本 のために募金を集めるグループがいくつも作られました。メディアでは24時間日本の 震災が取り上げられ、どこをみても人々は日本のために何かをしようとしていました。

私の妻は日本人なのですが、知り合いが訪ねて来ては、日本に住む私たちの親類や友 人を気遣って思いやりの言葉を掛けてくれました。まったく自然な形で、人と人との つながり、両国間に存在する温かい絆を再確認する結果になりました。国と国、人と 人との関係を深めたと言うことができると思います。

私がもうひとつ驚いたのは「トモダチ作戦」です。震災前、私たちにとって日米同 盟は当たり前のものになっていて、同盟はあるが、何も起こるはずがないと思う人も いたと思います。しかし、実際に不測の事態が起きてしまったのです。地震はただの 災害ではなく、まるで戦場そのものだった。さらに福島第1原子力発電所の事故が発 生しましたが、そのような緊急事態のなかで、米軍と自衛隊が一緒になって協力した。

これは本当に象徴的なことでした。米国は、艦船20隻、航空機140機、陸・海・空 軍・海兵隊2万人を救援のために派遣し、その費用は8000万米ドルに達したというこ とです。この数字は尋常なものではありません。人的支援としては、発災直後に、原 子力規制委員会(NRC)のチームと医療専門家も加わっています。こうして両国関係 は緊密であるだけではなく、極限状態でも協力して行動し、一体となって作戦を遂行 できることが証明されたのです。

このような協力体制は前例のないものです。大統領が「米国は全力を尽くして支援 を行なう」と強調したことも印象的でした。あれこそが真の友情、真の同盟です。た だの象徴的な意味合いではなく、日米同盟、米軍と自衛隊の協力体制の真の基準を示 したのです。同盟は単に紙に書いたものではなく、実体を伴うものなのです。これま で日本のメディアのなかには「本当の危機の時には米国は何もしてくれないだろう」

などという憶測が報じられたこともありましたが、日本が米国を必要とするならば、

米国はいつでも支援に駆けつけるということが証明されたのではないでしょうか。

といっても米国が日本をサポートするのは3月11日の大震災が初めてではないので す。前年の尖閣諸島沖事件後、クリントン国務長官は「尖閣諸島で軍事衝突が起こる ようなことがあれば、日米安全保障条約第5条に従う」と明言していました。この言 葉は、これ以上ないほどに明確で、重要な発言です。このクリントン国務長官の発言 は、これまで培ってきた日米同盟が真実のもので、単に形式的なものではないことを 再確認させる象徴的な出来事だったと思います。つまり、日米同盟にとって大震災は

「転機」ではなく、同盟の絆の深さを証明した出来事だったのです。同盟は現在進行形

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で機能していると言えます。

浅利 確かにおっしゃるように、震災を受けた日米間の強固な協力体制は、今までの 日米合同の協力、訓練、努力の積み重ねの結果だと言えるのではないかと思います。

ブルックス そうです。合同訓練、合同計画、相互協力。人々が認識していない日米 の軍事力のきわめて細かくて見えにくい面での協力の成果です。私は2009年まで15年 間、駐日米国大使館に勤めてきて、毎週、大使とのカントリーチーム会議に出席し、

在日米軍司令官が、その週の自衛隊との合同演習の内容を報告するのを聞いていまし た。毎回これほど多くのことをやっているのに誰も知らないのかと思ったものです。

ですが今、大震災という試練に直面することによって、日米同盟は実体を伴ったシス テムであることが公に証明されたのです。

米軍と自衛隊の協力の結果、仙台空港は異例の速さで復旧しました。それこそ本当 の貢献と呼ぶべきもので、ただ赴いて形だけの支援をすることとは違います。素晴ら しい、大事なことでした。

浅利 軍関係者のレベルだけでなく、政府レベルでも原発危機の拡大を防ぐために日 米の関係者が連携していました。連日、原子炉を冷却し、制御下に置くための方策に ついて緊密に話し合いが行なわれました。

ブルックス そのとおりです。大使館の友人が言うには、専門家の数は信じられない くらいで、70―100人ほどの専門家が米国から一度にやって来て、大使館は災害専門 家と同様、放射線の専門家を巻き込むあの作戦のいわばコントロールタワーとなった ということです。大使館は、日本語で言うと「指令塔」の機能をもったのです。それ は大変重要なことでした。繰り返しになりますが、このような親密な関係は根本がし っかりしていなければ存在しえない。システムが実際に機能していなければ無理なの です。しっかりした基礎がなければ安定した機能を果たすことはできません。日米同 盟に関して私はこう考えています。時折、問題は生じますが、いつも解決して乗り越 えてきたのです。

私は外交官として日米関係に長年携わってきて、大使館で2度、経済分野の責任者 を経験しました。貿易摩擦の問題を扱ってはいましたが、同盟関係は、そういう摩擦 とは無関係に保護すべきものであると感じていました。特に1990年代後半から小泉純 一郎首相の下での2000年代前半に、日米関係の強力な基礎が明確にされ、今年、3月 11日の大震災という大きな試練に直面したのです。小泉政権の時代に特に緊密な関係 が始まり、日本は対テロ戦争で米国を支援してくれました。だからこそ今、米国は、

支援を必要としている日本の側に立っているのです。

日米同盟の深化のために―震災からの教訓

浅利 本当に3月11日の危機後の行動と協力は目を見張るものでした。今後さらに協

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力体制を強化していくための教訓とは何だと思わ れますか?

ブルックス そうですね。私たちが目にしたの は詰まるところ、軍レベルでの協力でした。私個 人の考えとしては、政策レベルでさらに協力を強 化することができると思います。トップレベルで あれ、高官レベル、実務レベルであれ、地域だけ でなく世界的視野をもって戦略的な問題について 常に話し合うことが重要です。

もちろん、今もやっているでしょうが、戦略 についての公式的な対話が多いほど、目まぐるし く変遷する世界に、協力して迅速に対応することができると思うのです。2011年には 日本だけでなく世界のあらゆるところで危機が起こりました。中東では「アラブの春」

と言われる政治的地殻変動がありました。ウサマ・ビン・ラーデンが死亡し、リビア のカダフィ政権も倒れました。危機的状況に対処するためには、その背景についての 深い理解が不可欠です。また、日米間だけでなく、他の同盟国、例えばオーストラリ ア等、話し合いに参加すべき国を交えて、戦略についての対話を強化していくことも 必要だと思います。予測不可能な世界の変化を把握できるようにならなければなりま せん。そのためには二国間だけではなく、他の国も交えて対話を行なう態勢を整えな ければなりません。より公式な戦略的対話を増やすことによって、不測の事態に備え ることができると思います。

同盟の展望と課題

浅利 それでは、東日本大震災から少し離れて、日米同盟の現状をどう評価されてい ますか。同盟の今後の課題についてもお聞かせください。

ブルックス 日米同盟の基盤はきわめて強固です。過去に幾多の試練を乗り越え、現 在に至ります。しかし、常に根底に横たわっている課題は、同盟関係の非対称性です。

憲法上の理由から、日本には米国を防衛する義務はありません。その代わり、日本は 自国防衛のために日米同盟をサポートするのみならず、日米安保条約の枠外で支援を 提供しています。例えばアフガニスタンやイラクのケースのように、世界秩序や対テ ロ戦争にとって重要な国々への政治的・経済的支援を行なっています。日本が直接的、

間接的に支援することで同盟の軍事面での非対称性は相殺されているのです。在日米 軍駐留経費負担(HNS)はもちろん直接的な貢献の一つですが、政府開発援助(ODA)

の戦略的な活用も、地域の安定や、世界の安定に間接的に貢献しています。これは日 米同盟というグローバルなパートナーシップがもたらす一つの結果です。

ウィリアム・ブルックス 教授

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そして、同盟の価値を評価するときには、日米同盟が地域問題だけでなく、国際問 題に対応しうる同盟であり続けることの重要性を、常に念頭に置いておかなければな りません。同盟を維持していくには相当の努力が必要です。自動操縦というわけには いかないのです。日本の防衛だけでなく、もっと多様な役割を担っています。つまり、

地域の安定と平和のための抑止力という側面もありますが、同時に、経済、政治、そ して安全保障にかかわるグローバルなシステムを動かしていく力となっているのです。

その意味では、前述のような非対称性は乗り越えられるでしょう。日本が憲法を変え ればいいとは思っていませんが、もしかしたら日本でもそのうち集団的自衛権の動き が出てくるかもしれません。しかし現実的には、日本の現在の状況で、ある意味で一 方的な同盟を結んでいても、日本は米国と幅広いパートナーシップを維持し、両国の より大きな利益のために貢献することができるでしょう。

日米同盟の課題で、もう15―16年前からなかなか解決できないのは、普天間基地の 問題です。私は記憶にある限り、ずっと普天間の問題にかかわってきました。難しい 問題ですが、この棘を本気で取り除かなければなりません。特に2年ほど前、政治的 理由で2006年の「(在日米軍)再編実施のための日米ロードマップ」実施への対応が二 転三転したことは、問題の解決に悪影響を与えました。この問題を解決しなければ、

同盟関係に亀裂が入る危険性があります。

普天間問題は2つの意味で象徴的です。ひとつめは、一見単純な問題を解決できな い日米双方の無力さの象徴だということです。沖縄の基地問題は日米同盟の根底を侵 蝕する危険性を孕んでいます。2つめは、この普天間基地の移転をめぐる問題によって、

日米の信頼関係が危険にさらされたということでした。その後、両者の信頼関係は回 復しました。しかしながら、普天間の問題自体はいまだに解決していません。知恵を 絞って基地を移転する方法を見出していくべきです。

浅利 2011年6月の日米安全保障協議委員会(2プラス2会合)の際、北澤俊美防衛大臣 が記者会見で、民主党政権下で初の「2+2」が開催されたことは、大変意義がある、

と発言しました。日米同盟の過去50年間は自民党政権が中心になって行なわれていま したが、今回民主党が政権を獲得して2+2が開かれたことにより、日本の政治勢力の 80%以上がコミットしていることになります。同協議では、日米は米軍再編について の合意を推進していくことへのコミットメントを確認しました。これからも双方の努 力が必要です。

ブルックス そうです。2006年のロードマップは双方の合意、政府間の合意であって、

きわめて確固としたものです。また、合意の実施には沖縄の同意を得ることが必要で すから、そのために多くの協議が必要です。中央政府に対する信頼を取り戻し、沖縄 との関係を円滑にすることによって、50―60機のヘリコプターをA地点からB地点へ 移動させるという、とてもシンプルな図式に同意してもらうことが必要なのです。私

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が心配しているのは、この問題が長期化すると、ロードマップ合意が崩れ始めてしま うかもしれないということです。米国議会でグアム移転関連経費に削減の圧力がかか っていることは周知の事実ですし、上院議員のなかには基地を普天間から嘉手納に移 すと言っている人もいます。このような発言は、ロードマップ合意実現への懸念材料 となります。時間を置けば置くほど、政府と議会・自治体が乖離し、ワシントンと沖 縄にダメージが広がることになります。私が最も心配しているのはその点です。日米 関係にとって最大の課題は、その棘を取り除くことです。

中国の台頭とアジア太平洋地域における同盟の役割

浅利 沖縄は地域の戦略環境を考えるうえできわめて重要な役割を担っています。地 域の戦略環境と言って、多くの人がまず思い浮かべるのは中国の台頭でしょう。中国 の台頭が地域の安全保障へ与える影響についてどうお考えですか。日本と米国は台頭 する中国に対して、どう対応していくべきなのでしょう。

ブルックス 日米は「ヘッジング・ストラテジー」と呼ばれる戦略をとっていますが、

それは間違っていないと思います。沖縄は、地図をみると、軍事抑止ラインの真ん中 に位置しています。また、米国とオーストラリアは、ダーウィンとオーストラリア北 部地域に米海兵隊を駐留させ、軍事演習や訓練を行なうことで合意しました。このよ うに私たちはいかなる中国の軍事的台頭や軍事行動にも対応できる堅固な抑止ライン を形成しています。言うまでもないことですが、中国との衝突は避けるべきですし、

将来も脅威となることを望んでいません。6ヵ国協議において中国が責任ある役割を果 たしたように、将来にわたって中国が国際社会の一員としての責務を果たすよう、働 きかけていかなければならないと思います。

ヘッジング・ストラテジーのもうひとつの側面は、中国との政治的・経済的なかか わりの強化です。今から10年後を見据えると、中国を関与させていくことができなけ れば、中国を潜在的な脅威とみなさざるをえなくなるでしょう。中国とかかわってい く最もわかりやすい手段としては、政治と外交があります。加えて、日本と中国、米 国と中国の経済的相互依存が深まっていけば、二国間レベル、ひいては国際社会レベ ルで中国が協力するための大きな理由となるでしょう。ですから、米国と日本が中国 との関係を発展させ―いわゆるステークホルダーの概念ですが―、正三角形では なく、二等辺三角形のような関係を構成しながら、安全保障問題も含めて、相互に関 心をもつ分野で中国と対話する戦略をとっていく。そのようにして最終的には3ヵ国 間で信頼関係を築き上げるのです。こうすれば、対立を生むことなく米国と日本は中 国問題に関して協力することができると思います。

中国を関与させることによって、東シナ海や東南アジア海域を支配しようとする行 動を牽制することにもなるでしょう。私はきわめて楽観的に考えています。というの

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は、中国の関心は、将来的に領海の拡大よりもむしろ国内問題、自国の国民や経済を どうコントロールしていくかという点に向かわざるをえないと思ってるからです。と はいえ、尖閣諸島の時のように、前触れもなく事件が勃発することもあります。些細 な事件が火種となって事態が悪化することを防ぐためにも、抑止のシステムと優れた 外交手腕が必要とされます。

浅利 言い換えると、中国政府内でも国際社会に対して協調的な考え方と、中国的秩 序を志向し、対外的な影響力を拡大しようとする考え方があると言われるなかで、中 国との間で共通の利益を拡大する一方で適切なヘッジを行なう、そのことによって、

より合理的な思考が北京の政策当局者のなかで優勢になるようにするということでし ょうか。

ブルックス そのとおりです。状況は異なりますが、日本と米国はこれとよく似たこ とを過去に経験しています。私が米国政府に勤務し始めた頃、日本は中国の近代化を 推進し、穏健派を支援することを目的として、中国に対して円借款を始めたところで した。あれは成功したと思います。さまざまな批判がありましたが、私はこの日本の 政策によって中国が政治的に穏健路線をたどり、経済開放への道が開かれたという点 で成功だったと思います。当時米国は日本の方針を支持しました。日米が協力しなけ れば、強硬派が中国で優勢になっていたかもしれない。中国を孤立させるのではなく、

日米が協力して、協調への道を模索することが重要です。

公共財としての同盟の価値

浅利 大震災での救援活動における日米の協力は、同盟がうまく機能していることを 印象付けたのはもちろんのこと、地域の安全保障や世界の安定に資する公共財として の同盟の価値を世界に証明したと思います。これから日米同盟が国際社会において枢 要な役割を担い続けていくために、どのような進化が求められているのでしょう。

ブルックス 昨今、日米同盟のもつ役割は本来の地域的役割のみにとどめるべきであ って、世界的視点は必要ではないという議論もありますが、私の考えは違います。私 は、先ほど述べた北朝鮮、中国、その他の不測の事態と向き合うために地域に必要な 行動を継続していくとともに、日米同盟を国際的パートナーシップの基本として利用 し続けることが必要だと思います。そうすることによって、例えば南スーダンにおけ る平和維持活動(PKO)など、国際的な問題に対しても、相互に協力して対処していく ことができるでしょう。PKOに対する日本の貢献は賛辞に値するもので、まさに世界 が必要としていることです。パレスチナ暫定自治政府に対する国家建設支援のための 無償資金協力や、アフガニスタンとイラクへの支援も、もちろん大変重要です。これ らは日米の国際的パートナーシップに対する日本の最も重要な貢献だと思います。

今申し上げたようなPKOやソフトパワーは日本の伝統的な外交手段として、さらに

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強化していくべきです。朝日新聞社の船橋洋一氏はかつて、日本は「グローバル・シ ビリアン・パワー」になるべしと述べられました。現在の日本には「グローバル・ス マートパワー」があてはまるかもしれません。地域の安全保障への寄与と日本の防衛 力、さらにグローバルな問題に影響を及ぼすことのできるソフトパワーを備えている からです。日米関係を深化発展させていくことで、同盟を、日本の防衛のため、地域 の抑止力のために利用するだけでなく、世界の安定化に向けて、日米が相互に協力し て取り組んでいくための拠りどころとして活用すべきです。日本が国際連合のような 国際機関でもっと外交上の存在感を強め、世界に向けて発言していけるようになると いい。日本人の国連事務総長が国連を率いるところを見たいものです。

浅利 米国と日本は国際社会のための公共財、すなわち、グローバルなシステム、地 域の安定、ひいては世界の安定と平和への支援を提供できる力と意志をもった数少な い国です。これは、大国が提供しなければ、すぐに供給不足に陥ってしまうものです。

日米が協力して公共財を提供していくという役割も、同盟にはあると思います。

ブルックス 世界の安定を図るにも、最近は金融危機の影響で欧州に頼ることが難し くなってきています。欧州が危機から再生し、国際社会での主要なプレーヤーとして 復帰するには何年もかかるでしょう。米国にも多額の公的債務がありますが、議会が 解決しようと決断さえすれば、解決できる問題です。日米は強固な経済基盤をもって、

このような国際的金融危機のさなかにもグローバルな諸問題に対処する大きな責任が あるのです。

金融危機はこれからも起こる可能性がありますし、加えて、私たちはアフリカのよ うに飢餓、疫病、インフラの未整備など、困難に直面している国を継続して支援して いかなければなりません。これらの問題に対して、協力して政策を実行していくこと もできるでしょう。

同盟のマンネリ化の懸念と世代間継承

ブルックス 日米の相互協力が求められるなかで、懸念しているのは日米関係のマン ネリ化です。「トモダチ作戦」は輝かしい功績でしたが、もう少し長期的視野でみれば、

特に文化や教育の面では、交流はあまり盛んではなくなってきました。日米間には学 生向けの素晴らしい交換留学の制度があるにもかかわらず、定員割れしている状況で す。日本で学ぶ米国の学生は年間5000人ほどしかいません。米国で学ぶ日本人学生は

かつて5万人以上いましたが、今では2万人に減ってしまいました。10年間で半分以下

に落ち込んでいる。これはショッキングな事実です。これを危機と捉えて、日本の若 者が米国で学ぶことに興味をもってくれるよう、また、米国の若者が日本で学ぶこと に興味をもってくれるよう、行動を起こさなければなりません。なぜならお互いのこ とを知っている世代なくして、日米同盟を活発で円滑なものに保つことはできないか

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らです。このままでは「何のためにあるのか? 本当に必要なのだろうか?」と同盟 の存在意義を疑う向きすら出てくるでしょう。常にお互いを最優先事項として意識し あっておくことが、最も重要なのです。JETプログラム(Japan Exchange and Teaching

Programme〔語学指導等を行なう外国青年招致事業〕)などは大変価値のあるものです。米

国政府、民間のシンクタンク、私の行くところには必ずJET経験者がいます。プログ ラムの相乗効果には目を見張るものがあります。こういった制度は強化継続していく べきです。

浅利 人の行き来の面は、確かに強化が必要です。同盟はメンテナンスを怠ることな く、常に発展させていかなければならないと思います。

ブルックス 私は日本との関係に長年携わっていますが、シンクタンクは時には日米 同盟は無力だと言って、陰気で不吉なシナリオを考え出します。馬鹿げたことです。

日米同盟はちゃんと機能しています。駐日米国大使館、駐米日本大使館に行けば、さ まざまな組織の代表者に会うことによって、多層的な二国間関係を目にすることがで きます。たとえば、駐日米国大使館には、米航空宇宙局(NASA)、米国立科学財団

(NSF)、 その他多数の機関の駐日代表部がおかれています。日米の協力はエネルギー から地球温暖化防止まで、多岐にわたります。2010年、私の所属するジョンズ・ホプ キンス大学、日本国際問題研究所(JIIA)とカナダの代表が集まって日米加会議を開催 しました。議題は地球温暖化が北極へ及ぼす影響の問題で、活発な議論が交わされま した。私たちは、このようなトラックⅡ外交や、必要であればどんなレベルでも、熱 意をもって対話を続けるべきだと思います。

アジア太平洋国家としての日米―大統領選挙を見据えて

浅利 さてせっかくの機会ですので、最後に米国の内政に関するお話を伺いたいと思 います。2012年の米国大統領選挙の米国外交へのインプリケーションについてどのよ うにお考えでしょうか。外交・安全保障政策より国内政策のほうが選挙での争点にな っているとの印象を受けますが。

ブルックス それについてお答えする前に、ひとつ指摘しておきたいのは予算承認の 問題です。「スーパーコミッティー」(財政赤字削減両院合同特別委員会)が合意に至ら なかったので、米国の国防予算は大幅に削減されるおそれもあります。これがひとつ の問題です。さらに、あくまでも可能性ですが、共和党や民主党の意思とは関係なく、

米軍再編へのロードマップの関連予算が削減されることもありえます。大統領選挙を 目前にした、現下の課題としては、これらが挙げられるでしょう。

さて、選挙で誰が勝つかについては言及しませんが、両党は、米国と日本の同盟関 係は当然尊重されるものとして常に政策が一致していました。私はロナルド・レーガ ン大統領の時代からずっと政府に勤務してきましたが、どちらの党から大統領が出よ

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うと、日米同盟自体はいわば神聖なものでした。実際、1990年代から2000年代にかけ てそうだったように、同盟関係は縮小するよりもむしろ強化・拡大する傾向にありま す。誰が選挙に勝とうと、現状維持ではなく、同盟を発展させようとする流れは続い ていくでしょう。大統領と議会は、国の安全保障にかかわる問題では緊密に連携する ものです。日本は3つの核保有国に囲まれていますが、米国で選挙があったからとい って、この日本をとりまく地域の問題が解決するわけではありません。現在のロシア は脅威ではありませんが、核保有国であることは事実ですから、将来地域の不安定材 料となる可能性はあります。それゆえ米国は、日米が韓国やオーストラリアと連携し てアジア太平洋地域の抑止力を維持・強化しない限り、国益が損なわれうるという現 実に、長期的な視点に立って向き合わねばなりません。

オバマ大統領が言ったように、米国はアジア太平洋国家の一員です。中東での戦争 にあまりにも長い時間を費やしましたが、今私たちはこの地域に再び戻ってきて、真 の未来に向けて新たな一歩を踏み出そうとしているのです。ここにはどの大統領や、

どんな議員の枠をも超えた究極のゴールが存在します。国家の安全保障と国益です。

この価値は不変のものです。そして日本もこのアジア太平洋国家の一員として、今後 より大きな役割を果たしていくでしょう。結論を言うと、誰がホワイトハウスにいよ うと、今後も日米の伝統的な同盟関係が揺らぐことはありません。

浅利 本日は貴重なご意見をありがとうございました。

(2011年11月25日)

参照

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