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一中・高等部で実践した保健指導の試み一 石川弘容・飛田比呂子

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Academic year: 2021

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(1)

自己の健康に主体的にかかわれる生徒の育成をめざして 一中・高等部で実践した保健指導の試み一

石川弘容・飛田比呂子

(1980年11月15日受理)

は じ め に

保健指導のねらいが,健康な生活を営むために必要な事項を理解させ,毎日の生活の中で主体的 に実践する態度や能力を育てることにあるといわれるが,自己の健康について他律的・非主体的傾 向にある本校生徒の実態や,生徒たちの社会的自立を考え合わせると,ことさらにその必要性を痛 感する。

本校では,保健に関する指導を全教官の共通理解のもと,日常生活の可能な場をとらえて指導に あたっている。最近は,障害の重度化,多様化に伴い,生徒ひとりひとりの個性や能力に即応した 指導でないと有効な学習の成立が期待できない状況にある。従って,保健の指導においても,生徒 の実態をふまえ,意欲や興味・関心を考慮した指導のあり方を求めていかなければならはいと考え

る。

ここでは,これまでの日常生活における場面解決的な保健指導に加えて,自己の健康に主体的に かかわれる生徒の育成をめざして,中・高等部で実践した特設の保健指導を例に,,その一端を述べ

たい。

1.研究の目的

本研究の目的は,特設の保健指導の場を設定して,生徒の実態に応じ,興味や関心を考慮した意 図的,計画的な集団プログラムで,自己の健康に主体的にかかわる生徒を育成することができるか どうかを,実践を通して考察するものである。次の4点を具体目標としておさえる。

(1)児童生徒の健康問題について実態をは握する。

(2)生徒の保健意識の変容を促す,保健指導内容を検討する。

(3)生徒の保健行動の変容を促す,教師のかかわり方について吟味する。

(4)生徒の実態に即した年間計画を検討し,教育課程の改訂につなげる。

2.研究の方法

中・高等部では,それぞれ月例身体計測後,保健指導を計画し養護教諭を中心にして実践を試み

た。

ここでは,日常生活の場面での保健とのかかわりあいのある内容を十分考慮し,保健指導として の独自のねらいと形態を具備している。

(1)基本的な観点

ア.指導のねらいは,具体的な健康問題を考え合うことを通して,自己の健康に主体的にかかわ

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162      茨城大学教育学部教育研究所紀要13号特集(ユ980)

る生徒を育成することにある。

イ.指導の内容は,生徒の日常生活と密着した事項を,大きく4つの領域(自分の健康状態に関 すること,からだのしくみや働きに関すること,病気の予防と治療に関すること,基本的衛生 習慣に関すること)に分け,季節的行事も配慮して選んでいる。

ウ.指導形態は,学部全体を一つの集団として,一斉指導している。

エ.資料の収集として,V・T・R録画,スライド映写,テープレコーダーを使用した。

② 年間指導計画

年間指導計画の立案にあたっては,その年の生徒達の理解力や思考力を考慮し,身近な問題の中 からさらに指導内容を精選し,主題を決定した。今まで,行ってきた保健指導の主題は,表1に示 す通りである。

実際の保健指導にあたっては,教材,教具を具体的で現実的な物を用意するように工夫し,生徒 達の興味や関心を持続させる指導法を心がけた。また,月毎に主題は変るけれども,年間を通し,

基本的な教師のかまえとして,なるべく多くの生徒達に課題意識を持たせるようにすること,から だのつくりや働きを通し生命の営みの不思議さに気付かせ,自己の健康を大切にする心を持たせる ようにすることの2つをおさえて,指導場面に臨んだ。

特設保健指導 年間指導計画表

(領域別にみた指導主題)      (表1)

領    域 主  題  名(実施した月)

自分の健康状態に ・健康診断の結果(5月)  ・からだの発育と変化(9月)

関すること ・男らしさ・女らしさ(7月) ・健康生活のまとあ(3月)

からだのしくみと ・身体の名称と働き一見える部分(9月) ・食べ物の通り道(3月)

働きに関すること ・耳・鼻のしくみと働き(11月)     ・息の通り道(2月)

病気の予防と治療 ・むし歯の予防(6月) ・近視の予防(10月) ・かぜの予防(1月)

に関すること ・病気やけがの予防(10月) ・けがの手当(3月)

基本的衛生習慣に ・身体・衣服の清潔(4月) ・つゆ時の健康(6月)

関すること ・夏休みの反省 汗のしまつ(9月) ・冬の健康(12月)

3.指導の方法

(1)児童生徒の健康問題と保健行動(実態の把握)

本校児童生徒の健康問題は,表2にみられるように多種多様で,1人でいくつもの問題をかかえ ている児童生徒が多い。

また,言語・コミュユケーションの確立されていない小学部低学年や障害の重度児の場合,健康 診断の各種検査で測定が困難である。検査に対する反応があいまいで,判定しにくいことが多い。

(特に教師による視力,色覚,聴力検査等)

児童生徒の健康問題の改善のためには,日常生活の改善や教育上の配慮の他,専門医による精密

検査や治療を推進している。

(3)

しかし・対象児の実態から・検査        本校児童生徒の疾病異常.障害率 不可,矯正不可という診断や,処置

不可能のたあ放置される例があり, 昭.55,6.1現在      (表2)

期待する処置率を得られない現状に   ゜(在籍数)

瘧Q・疾

ハ学部

i20)

中学部

i16)

高等部

i29)

合 計

i65)

ある。

@    日常よくみられる健康問 言語 障 害 1。(5。箔 12(75警 8(27多 3。(46野

さらに,

題として,表には現われない個人の 情 緒 障 害 2(10) 4(25) 3(10) 9(14)

生理機能の不順による訴え,体質,罹 運 動 障 害 5(25) 2(13) 3(10) 10(15)

病傾向等があげられる。例えば便秘 視 力 障 害 i裸眼α1以下) 1(5) 3(19) 1(3) 5(8)

遺尿,腹痛,頭痛,皮フ疾患,かぜ 聴 力 障 害 0(0) 0(0) 1(3) 1(2)

をひきやすい等である。 て ん か ん 3(15) 5(31) 2(7) 10(15)

一方,日常生活の保健的行動にも

ダ ウ ン 症 10(50) 5(31) 4(13) 19(29)

問題は多い。幼児期に当然躾られな

ければならない基本的衝生習慣が身 心ぞう疾患 4(20) 1(6) 0(0) 5(8)

についていない。技術面でうまくで 耳鼻科疾患 8(40) 2(12)° 5(17) 15(23)

きないというだけでなく,情緒的, 眼 科 疾 患 10(50) 6(20) 23(35)

感覚的にいやがる,逃げるという状 う歯(未処置) 19(95) 11(69) 22(75) 52(80)

態で,親や教師の介助を要している。

特異 脂満 2(10) 0(0) 0(0) 2(3)・

保健的行動を支える基本的条件の一

つである清潔観念が乏しいこと,場 裸眼視力0.9以下の者は(D70%㊥56%⑬55%

に応じた適切な行動がとれないこと,

非主体的であること等も共通してみられる問題点であろう。

(2)保健意識の変容をうながす保健指導

健康に問題をもつ児童生徒達の行動も,小・中・高等部の発達段階に応じた日常生活指導や,家 庭との連携によって,少しずつ変容している例が認められる。

こうした生徒達の行動を注意深く観察していくと,一っの行動の変容は何かのきっかけによっ てなされている。例えば,痛い恐いという観念だけで,むし歯治療を長いこと拒否していたA子が 納得して歯の治療を受けられる状態になるまでには,「むし歯は治さないとどんどん悪くなる」→

「歯がなくなったらおばあさんのようになっていやだ」→「先生の紙(う歯治療勧告書)に○をもら いたい」→「痛いけどがまんして歯医者さんで治そう」という意識の変容がA子の中におこったこ とが予想される。そのきっかけには,健康診断後の事後措置通知書や保健指導があり,親や担任の 機会をとらえた言葉による働きかけがあったと考えられる。

精薄児教育における保健指導は,日常生活場面で,より具体的,実践的な方法で,行なわれてき た。これらの場面解決的な日常指導に加え,発達段階に応じた,意図的,計画的な保健指導を特設 することが,生徒達の保健認識の変容を促す有効な場になるのではないかと考え,月1度の保健指 導を中・高等部において試みたのである。

保健指導を特設した当時と現在の生徒達を比べてみると,自己の健康に主体的にとりくむ生徒が 多くなったこと,全体的に清潔になり,生徒達の表情が明るく活動的になったこと等が感じられる。

学校病の一つであるう歯の処置率は,養護学校の場合,児童生徒側の治療に対する恐怖心が強い

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164       茨城大学教育学部教育研究所紀要13号特集(1980)

こと,医療機関の理解が得られないこと等から,一般に低率であることが多い。本校では,52年度 19%,53年度43%,54年度41%である。53年度から処置率が高くなったのは,中・高等部において 自主的に治療する生徒が増えた結果である。

54年度,学校給食開始と同時に歯みがき実施の場を,給食後に位置づけた,この「給食後の歯み がき」も,保健指導時間の意図的な指導や,歯みがき場面の具体的な指導によって,自主的にとり くむ生徒が多くなり,黄色い歯や口臭の強い生徒が多かった以前に比べ,生徒達の口腔衛生状態は かなりよくなってきた。

また,日常の学部教官の健康に対する積極的な指導もあって,運動,汗の処理,栄養,身辺の清 潔など,健康・安全な生活に必要な事柄を自分で判断し,生活のしかたを変える生徒も多くなって

きた。

保健指導後の家庭からの連絡によって,「テレビの見方に注意するようになった」「コーラをや めて牛乳を飲むようになった」「いくら母親が言っても治さなかったのに,自分から進んで歯医者 に行き全部治してきた」「進んで食後の歯みがきをするようになった」等,保健指導が,当日ある いは時間を経て生徒達の意識の変容を促す,一つのきっかけになっていることが確認できた。

特設の保健指導は,学部全体を一つの集団として一斉指導する形態をとってきた。生徒達の保健 に対する認識は,事前の簡単な調査や,生活行動,会話等を通しては握するよう努めた。個々の能 力によって,認識の程度も様々である。生徒達の持っている知識に課題を持たせる指導場面を構成 すること,保健指導の時間だけでなく可能な場をとらえてかかわりを持つこと等,能力による個人 差には充分配慮し指導にあたった。

意識の変容は行動となって現われる,自己の健康に無関心だった生徒が関心を持つようになる,

衝生習慣が定着する,自分の考えで場に応じた適切な行動がとれるようになる等,長い時間の中で少 しずつ自己の健康を主体的に管理できる生徒が増えてきた。

㈲ 保健行動の変容を促す教師のかかわり方

健康・安全に対する意識の変容は,生徒達のよりよい保健行動となり態度化されるであろう,

という仮説のもとに,意識の変容を促す保健指導を実践してきたが,現実には,知識としてわかっ ていてもよい保健行動がとれない生徒もいる。

S男は,むし歯を予防するには歯に食べかすを残さないこと,歯の食べかすをとるには正しい歯 みがきをすること,歯みがきは,食べた後すぐすること等,歯みがきに対する知識は持っていても,

朝は忙しく時間がない,めんどうだという理由で長いこと朝食後の歯みがきをしていない。

このようにわかっていても行動化されない生徒の行動を主体的に変えるために,さらには,保健 意識の変容で現われた保健行動の習慣化や定着化のために教師はどのように指導すればよいのだろ

うか。

養護学校の場合,特に重要な位置をしめる日常の生活指導場面での指導の強化が考えられる。こ の場合,どこをどうやるかという技術的な指導でなく,こうしなければならないという行動化への 意欲・関心・心情をよびおこす,働きかけの具体策である。

親や教師の言葉かけ,友達同志の励まし,Ox式のチェック表による点検等,行動の変容を促す きっかけの場を日常の生活場面に積極的に設けることにより,自主的な行動が期待できる。

また,すべての教育活動に共通して言えることだが,家庭との連携を密にし協力を得ることも,

変容を促す,大事な手だてと考えられる。特に母親の保健に対する認識や,子供の健康に対する物

(5)

の見方や考え方は,子供の保健行動に大きな影響を及ぼす要因と考えられる。時間がないという理 由で朝食後の歯みがきが習慣化されないS男の場合も,母親が歯みがきの意義を正しく認識してい れば,それなりの努力があり,主体的な行動の変容が現われるはずである。

家庭との連携が必要な事項は,学部だより,保健だより,教育相談等を通し家庭への啓蒙をはか り,学校と家庭が共通した意識で指導にあたる体制をとってきた。

こうした実践の中で,行動の変容を促す教師のかかわり方の条件が,いくつか確認された。

①生徒の保健行動をよくみつめ,受容的な態度で接すること。つまり,様々な保健行動をうむ 生活背景を深く観察し,指導の手がかりを求め,生徒の立場に立って根気よく指導していくこ

と。

②生徒の小さな変化も認めて励ますこと。生徒によっては教師に認められたことが,自信とな って次の行動へ意欲づけになる場合が多い。

③ 教師自身がよりよい行動を示すこと。生徒達の目の前で,健康・安全に必要な事柄を,教師 自身が進んで実行することが,言葉以上の教育的活動であった。

生徒に保健行動の変容を求めて指導してきたことをふりかえってみると,教師自身も大きく変容 していた。教師も共に実践しながら具体的な指導にあたる必要にせまられる養護学校では,教師 の熱意や姿勢が,生徒の保健的行動を左右する大きな要因の1つになると考えられた。

4.結果と考察

(1)精神薄弱養護学校にあっても,特設保健指導において,指導内容の精選,教材の工夫,指導 方法等の研究があれば,そのねらいを達成できる見通しを得た。

② 保健指導の時間は,自己の健康問題を考えさせる時間として,生命の営みの不思議さに気付 かせ自分の命を大切にする心を育てることを基本におさえて指導してきた。生徒達の興味関心 の多かった内容は「からだのつくりや働きに関すること」であった。

③ 保健指導の時間は,意識の変容を促す直接的な一つの場となり得るが,行動の変容を一層促 すためには,日常生活における指導の強化,家庭との連携による親や教師の共通した指導がなけれ ば,効果を挙げることはむずかしいと思われた。

14)保健行動を促す教師のかかわり方として,児童生徒の保健行動をよくみつめること,わずか な変化も認めて励ますこと,共に行動し,教師がよい保健行動を示す等,教師自身の姿勢が生 徒達の保健行動を促す大きな要因になる確信を得た。

⑤ 障害の重い生徒達の特設保健指導への参加は,心身の状態から困難であることが多かった。

これらの生徒達については,個別に,家庭生活や学校生活で心身の健康について配慮する必要 を痛感した。

5,ま と め

本校では「生活力を高める学習指導法の探究」一教師のかかわり方と子どもの変容一をテーマに 各学部,全職員が研究にとりくんで2年めになる。本研究は,そのテーマをうけて,生活力を支え

る保健指導のあり方を求め,中・高等部で試みた特設保健指導の実践報告書である。

本校の研究が実践から理論へという方向で研究を積み重ねてきたように,保健指導も日々の指導

が即研究という意識で実践してきた。

(6)

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特設保健指導をはじめた当時に比べ,自己の健康に主体的にかかわる生徒が増えたことは,

実践の成果であった。高等部においても,今後,障害の重度化,多様化が予想されるが,社会自立 を目前にした生徒達にとって,必要な指導内容の精選を重ね継続していきたい。

そして,行動の変容を促す具体的なかかわりの中で,教師自身の行動の変容が確認された。この ことは,教師自身の保健指導に対する意識の変容がなければ,真に充実した保健指導は展開されな いといえるのではないだろうか。

最後に次の2点は,今後に残された課題として,引き続き研究していきたい。

① 性に関する指導内容の検討

当然のことながら,高等部になると,第二次性徴に伴う性に関する問題が多くなる。異性に 対する興味・関心を,将来にむけて健全に発展させるため,いつ,どんな内容を指導すべき規 保健指導だけに課せられた問題ではないが,検討をせまられている課題である。

② 集団保健指導の限界と可能性の研究

特設保健指導の成果は,対象集団児の障害や能力の程度によって大きく左右されると考えら れる。今後,中・高等部においても重度児の増加が予想されるが,精薄児に対する集団保健指 導が内容・方法等の工夫でどこまで可能か,成果が得られるか,実践研究の課題としたい。

尚,今回紙数の関係で触れられなかった具体的事例については後日,機会があればまとめていき

たい。

参照

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