松 村 直 道
1「制度改革」の背景と現代社会の危機 働戦線の続一激育蹴に対応するわけであり・
「戦後政治の総決算」のシステマティックな展開 ここ数年来,社会福祉の「見直し」ないし「再 の中で,第二臨調は,中核的な位置づけを与えら 編成」という考え方に代わって,より抜本的な社 れていたことがわかる。
会福祉の制度的改勒犠論されるに至ってし・壇 5年3ケ月にわたる第二翻は,この間冷計 そこで最初にその政治経済背景について,行政改 13の答申と約2,300の改革課題を提案し,その間 革,四全総,高齢化社会のイデオロギー等との関 600余は制度的に対応済みであり,約800の重点 連性から述べてみたい。 課題が継続事項になっている。今年4月以降をさ
(イ)行政改革の新展開と21世紀戦略 して「行政改革は第三の段階に入った」と言われ 今年4月21日,第二臨調の答申をさらに具体化 る背景には新行革に対する政財界の非常な意気込 し,積み残された課題を継承するために大槻文平 みが感じられる。
日経連会長を中心にして,新たな行政改革の推進 第二臨調の下での社会福祉制度への対応は第一 機関が設置された。政府・財界によるこうした熱 に戦後40年間にわたる社会保障と社会福祉面での 意の背景には現代日本経済社会の危機状況を, 施策の充実と体系的整備に対して,第二に国民の
「保守革命」(瀬島竜三)とも呼ばれるラジカル 生存権・福祉権要求をおし進めてきた民主的な国 な方法によって打開しようとする意図がある。 民諸運動に対して,「危機の先取り」という形で,
現在の社会福祉制度改革の直接的端緒は第二臨 具体的には「福祉の見直し」「福祉の再編成」そ 調第一次答申に求めることができるが,そもそも して「日本型福祉社会」というイデオロギー攻勢 第二臨調とは,どの程度の射程を範囲として論議 でもって進められてきたが,現在姐上にのぼりつ が進められたのか,若干の整理をしておきたい。 つある「社会福祉の制度改革」は,従来の改革論 水島透の指髄齢ば・第二醐の射程1ま次の 議とは一線を画しており,それは,「行政改革の ようにかなり広い。氏は1970年代の前半に,日本 新展開」と対応するものと考えてよい。
資本主義の構造的危機が石油資源の不安定化と公 つまり,第二臨調,とりわけて第一次答申に見 害反対運動の激化という形で現われ,ここに資本 られる「福祉の見直し」は,「80年代の戦略」と 側の戦後の三大ターゲットであった新憲法,独占 いう枠組の中で,「当面の改善策」が検討されて 禁止法,労使関係の改革が急に浮上してきたとい きた。これに対して現在の福祉改革は,そうした う。 10年規模の短期的な戦略ではなく,「21世紀に向 第二臨調のブレーンであった瀬島竜三は,かつ けての戦略」であるといわれるように,かなり構 てこの点に関して,現代の最も重要な改革は,第 造変革的な長期的な展望の下に打ち出されている。
一に行政機構の改革,第二に政治機構の改革,第 なぜ,「21世紀戦略」という考え方が,現時点 三に国民意識の改革にある,と述べているが,こ において重要視されねばならないのかについて,
れらの改革は具体的にはそれぞれ,第二臨調,労 昭和61年4月に,国民生活審議会総合政策部会政
策委員会報告「長寿社会の構図」は,その冒頭で 的である地方社会の振興を遅らせ,新しい過疎過 次のように述べている。 密問題や都市農村問題を,従来以上に大規模な形
「現在から21世紀に至るまでの十数年間は,働 で発生させる可能性がある。
き盛り世代の人口の割合が高く,国民の貯蓄率も 計画によると,15年間に約一千兆円の国土基盤 高いという経済的潜在力が豊かな時期に当たって 投資が行なわれ,高速道路や空港等の産業基盤と おり,新しいシステムを構築していく貴重な期間 してのネットワークが主要な開発戦略として優先 であると考えられる。」 的に位置づけられているが,国民生活にとって最
つまり,政府・財界からみると,次項で考察す も必要不可欠な生活基盤への公共投資の方策は,
る日本経済のソフト化への大転換を前にして,社 あまり具体性がない。その結果,新たな生活環境 会保障や社会福祉の需要の拡大を最少限におさえ 問題の発生や不安の増幅の中で生活の質そのも
るために,「社会的諸制度の発展に対する歯止め」 のが絶対的相対的に悪化する懸念が大きい。
の措置を多角的に打ち出しているわけであり,そ 第二は,貿易摩擦や異常な円高対策として進め の一つが,戦後40年にわたって蓄積されてきた られている産業構造調整の下での地場産業の解体
「権利としての社会保障」の視点と運動のスクラッ ないし産業の空洞化との関係である。1987年版の プ化であり,抜本的な社会福祉の自由化と民間主 労働白書は「経済構造調整と労働経済の課題」と 導主義化であるといえる。そして,制度改革のス いう副題をかかげ,産業構造調整下の雇用問題に ローガンとして「再構築」という表現が,各省庁 焦点をあてている。白書の中で重視すべきは,産 を越えて共通に使用されるに至っている。 業構造の早期転換のために1993年までに220万人
現在,政府は新しい国家機構のビルトインをめ の労働力を第二次産業から第三次産業に移転させ ざして,新国家主義的な集権の論理の下で,間接 る必要があること。第二に,海外直接投資の急増 税の導入による国家財政構造の安定化,軍備力増 によって1986年から95年までの間に45万人の雇用 強や国家秘密法による国家危機管理体制の強化を 機会が失なわれると推計していることである。
進めようとしているが,新しい国家機構の再建と その結果として,例えば野村総合研究所の予測 戦後福祉制度のスクラップ化は,表裏一体のもの として,87年度の平均失業率3.3%,200万人,
として把握する必要がある。 に対して1990年には完全失業率が4%を越えると 回四全総と国民不在の産業構造調整 予測され,「大失業時代」が危惧されると述べて (注3)
。年6月,第四次全国総合開発計画が策定され, いる。
21世紀に向けての日本経済と国土計画の基本方針 これに対して四全総は,各地方ごとの大規模長 が明らかにされた。この四全総は,従来の計画以 期滞在型のリゾート基地建設を重点施策として提 上に,社会保障・社会福祉との関係を密接にもつ 示しているが,これは決して地域経済活性化の中 ように思われる。 軸になるものではなく,結局,地方社会の雇用不 四全総の最大の特徴は,「多極分散型国土」開 安,産業空洞化への対策はきわめて弱いものにな 発・「一極集中の是正」という表現をとりながら っている。
も,現実的には,日本経済の再活性化のために, 以上の結果,多様な形態の潜在的失業者が急増 国際化・金融化・情報化をいっそう進あ,東京を することも明白であり,社会保障的機能の代替補 ロンドンやニューヨークと並ぶ世界の金融センター 完的役割を社会福祉,とりわけて地域福祉の領域 として整備することにある。いわゆるウォーター で,大きな社会的期待を担わされることが予想さ フロント作戦と呼ばれる東京湾開発はその中心軸 れる。
をなすと考えられている。 ハ 「高齢化社会」をめぐるイデオロギー 大都市中心の拠点開発は,国土計画の本来の目 社会福祉の制度改革の必要性を,「絶対不可欠
のもの」として,国民に納得させようとする論理 危機」説を支える統計的数字には,必らずしも論 (注4>
ノ「高齢化社会の危機説」がある。 拠が明らかでないまま使用されたり,限定つきの
その第1は,全人口に占める高齢者比率が21世 条件を無視して利用されている場合が多い。我々 紀の初頭に向けて急速に上昇しているが,人口構 は政策的中心概念とりわけ新しい用語法には十分 造の高年齢化が必然的に「高齢者問題」を発生さ の注意をはらう必要があろう。
せるという誤まった理解である。この論理の特徴
2 社会福祉制度改革の論理と展開は,高齢者が増加するにつれて,老人問題が多様
な形で増大しているという現代日本の状況を,高 (イ}社会福祉の「再編成」から「再構築」へ 齢化社会の一般的状況として,さらには自然史的 1985年9月,中央社会福祉審議会,身体障害者 な過程として理解をしていることである。 福祉審議会,中央児童福祉審議会の第一回企画部
高齢者の諸問題が人口の高齢化に伴なって自然 会合同会議が開催され,制度改革に向けての本格 発生的・必然的に現われるのではなく,労働・社 的な討議が開始された。ここでの検討事項は,社 会政策,地域・家族政策,保健医療政策等の貧困 会福祉の範囲,生活保護と社会福祉の関係,施設 性に起因していることは,よく知られた事実であ 福祉と在宅福祉の関係,国と地方の役割分担,公 り,「人口の高齢化」さえもが高齢者の絶対増と 私の役割分担,福祉財源と費用負担のあり方,福 いうより,年少人口の急減少によってもたらされ 祉従事者養成等かなり広範囲にわたっており,88 (注5)
トいることに,より多く注目する必要がある。つ 年夏を目標にして改革案がまとめられ,順次,法 まり・「人口の高齢化最煮れ自体が高齢者問題を生 案化されていくといわれる。
み出しているのではない。 制度改革に至る最近10年間余の動向については,
第二に,「危機」の把握が十分に統計的な信頼 「第6回地域福祉問題研究全国交流集会」のr基 性,科学性に裏打ちされないで,一人歩きをして 調報告』(林博幸)に詳細に述べられているので,
いる場合があまりにも多い。この点については大 以下では改革の論理と最近における「改革の先取 阪府立大の里見賢治氏が詳細に論証してし・繍そ り状況」について検討したい。
の一例として,氏は「公的年金制度解体」という 社会福祉の現代的な制度改革は,レーガン政権 イデオロギーの論拠として,将来における国民所 下のアメリカ,サッチャー政権下のイギリスにお 得に占める年金給付総額の推計に際して,GNP いて,新保守主義的な観点から非常に急進的に進 の成長率に人口増加率推計値をあてはめるという められており,それらに比較すると日本のそれは 全く非現実的な統計方法がとられてきたことを指 遅れているという見解もある。
(注8)
Eしている。 日本の制度改革は,80年代に入って個別領域の その結果は当然のことながら,一国民所得の伸び 中で,先にみた第二臨調の第一次答申以降に急速 率は著しく低くなり,それに占める年金給付額の に展開されている。当初は,保育料における国の 比率は著しく高くなり,「公的年金解体」の危機 負担問題に典型視されるように,制度の改革を伴 論に連動することになる。 なわない行政側の裁量によって,総体としての国 さすがにこうした事実は,87年版の厚生白書で の負担軽減をはかるといった手法が中心であり,
はやや修正されているが(6.5%および5%とい 次第に制度改変へと進んでいった。
う二つの推計値に基づいて試算がされている), その第一歩は,1982年に成立し,翌83年に実施 四全総では全体として4%というGNP成長率を された老人保健制度の創設である。国庫の財政負 使用しながら,年金給付推計では別の数値を用い 担の最大要因の一つである老人医療費の軽減対策 るという,推計値の「使いわけ」がみられる。 として,別建の老人保健制度が創設され,医療保
このように,政府財界が唱える「高齢化社会の 険制度の各保険者からの負担強化によって,国庫
負担を軽減するものであった。 ないので,総体的にみると,前節で若干指摘した 84年10月には,健康保険制度等の改正により, ように,社会福祉の「再編成」から「再構築」へ 被用者本人の一割負担が導入され,85年には,基 の転換,換言するなら,社会福祉の論理(生存権 礎年金制度の導入により,年金保険制度の一元化 の確保と公的福祉サービスによる対応)を配慮し
(それによる国庫負担の軽減)への本格的な第一 た短期的な視野での制度の手直しの時代は終わり,
歩が始まった。 21世紀の安定した経済社会システムの強固な建設 生活保護の領域では,80年代に入ってから「保 という長期的国家的な目標とプログラムの下で,
注9)
護の適正化」指導がさらに強化され,84年度から 産業資本の論理に直結した制度改革が志向されて
(注10)
は,保護基準の算定方式が,一般国民との消費実 いるといえる。
態との均衡上,ほぼ妥当な水準に達したという理 付言すると,従来,産業資本の活動にはなじま 由で,従来の格差是正方式から水準均衡方式へと ないと見られていた領域への資本の論理の導入は,
改訂され,保護基準の引き上げ率が一段と圧縮さ 福祉や保健医療のみでなく,教育や文化の領域で れるに至っている。 もすでに進行している。
社会福祉サービス面では,施設福祉からいわゆ (ロ)改革の視点と福祉理念の不在
る在宅福祉へと施策の重点が移行し,経費面では 以上みたように,福祉改革への社会的要請は21 応能負担主義の強化,民間福祉サービスへの肩代 世紀における,経済社会システムの危機という国 わり,さらには福祉産業の振興や助成が,前節の 家的視点から提起されているが,社会福祉の内部 国の政策を背景にして,実施されつつある。 からはどんな福祉理念に基づいて新たな改革が要
また,87年版「厚生白書」は,その前文で「未 請されているのかを検討してみたい。
曽有の超高齢化社会」を前にして,「人口の高齢 最初に,従来の「福祉見直し論」の社会福祉観 化・長寿化の急速な進行は,個人の人生設計に対 を整理しておきたい。
してばかりでなく,増大する高齢者の扶養や介護, 第一の特徴は,社会福祉のカテゴリーを,その 年金や医療費の負担,住宅や雇用問題等,わが国 背景や原因となっている生活問題や社会問題,そ の経済社会システム全体に対して根本的な課題を れらとの因果連関を切り離して,きわめて現実的・
提示しており,今また私たちは新しい時代,新し 現象的な視野の中で,政策科学的な,したがって,
い社会の入口に立っている」と述べ,第一章では 機能主義的操作主義的な方法を用いて規定してい
「制度再構築の基本方向」と「新しいサービス」 ることである。
について,次のように述べている。 第二は,そうした認識を導びく背景として,現 制度再構築の基本方向としては,経済社会の活 代社会を「高度に発達した産業社会」として把握 力の維持,自助・互助・公助の役割分担,社会的 し,この中で生起する社会的諸問題に対しては,
公平の確保,公私の役割分担と制度の効率的運営。 近代合理主義的な発想と新たなテクノロジーの駆 社会サービスについては,保健医療福祉の各分野 使によって,対応と処理が可能であるという,歴 の枠を越えた「社会サービス」という観点に立っ 史社会的な立場がある。
て,地域の自主性を生かしたサービスの供給,各 第三は,こうした立場は,公的福祉の守備範囲 種サービスの連携と総合化,施設サービスと在宅 を狭くとらえ,国家社会の経済的危機に対しては,
サービスの総合化,新しい施設体系の創設と施設 国家・社会。国民生活の整合性論という立場から,
の地域偏在是正,治療から予防・健康づくりへの 社会も国民も「共に忍ぶのが当然」といった,き サービスの流れ,民間活力の導入が必要である, わめて安易な軽卒ともいえる福祉サービス観を生 と。 み出している。
ここでは各項目について個別に検討する余地は 第四は,「多様な福祉ニーズに応じた多様な福
祉サービスの提供」が主張される時,現実には, 関的に検討する際には,第一に社会経済的・国家 供給可能なサービスの範囲においてしかニーズは 論的視点,第二に生活連関的・地域福祉的視点と 充足されないから,民間福祉サービスを考慮の外 いう,二つの視角が不可欠であるが,これらに加 におくと,ニーズの充足論(福祉サービス供給論) えて,「人権としての生存権保障」という基本的 は成立しないことになる。結論的には,現代の福 視点(福祉ミニマム基準)をふまえた上で,ノー 祉二一ズ論は・無限の民間福祉サービスの広がり マライゼーシ・ン原腱藩つく旧常生活1こおけ とその現実的な利用の可能性を大前提にしており, る参加・発達権の獲得」という価値視点から,制 全くの非現実的な,その意味ではきわめてイデオ 度的改革を問う必要があると思われる。こうした
ロギー的な考え方と言わざるをえない。 視点の設定により,「改革」論の焦点である民間 21世紀戦略としての現代の社会福祉「再構築」 活力の利用や福祉産業の振興の限界性が明確にな 論では,以上のような,「福祉見直しや再編成」 ると思われる。
の考え方が,一歩前進して強調されているが,新 い)措置制度の「改革」と契約福祉
しい福祉理念については,厚生白書の61年版を見 福祉制度の再構築が論議される中で,従来の
(注11)
骭タり,明確ではない。 「福祉」サービスが,「社会」サービスという新 r社会福祉研究』 (第40号)は,「社会福祉 しいカテゴリーの中で把握されるに至ってい(禦曽 r改革』の理念・課題・方向」について特集を組 そして,カテゴリーの再編成を先取りするような んでいるが,その中の主要な論調をみると以下の 事態がすでに生じている。そうした事態の主要論 とおりである。 点は,第1に福祉サービスの「適正化」,第2に
小倉嚢二氏は,社会福祉概念の「再検討は必要 福祉サービスの供給システム,第3に福祉サービ だろうが,結論は急ぐ必要はない。むしろ現況で スの利益産業化,等をめぐる問題である。以下,
の改革概念の提示を先取り型で急ぐことは福祉の これらの論点についてふれてみたい。
今後の思考にとって禍根を残すのではないか」と 福祉サービスの適正化については,従来,財政 (注12)
qべて,現行の改革方式に懸念を表明している。 支出の抑制の立場から種々の対応がなされている
田村和之氏は措置制度の改革にふれて,「これ が,その典型は生活保護をあぐる適正化である。
までの措置制度について,十分な法的制度的検討 123号通達以来,生活保護費の引き締めをはかる を行なったうえで提唱されているというよりも, 「適正実施」の強化がいっそう強まり,現在では 昨今の政治的,社会的情勢を背景にして,政策論 生保措置の請求権が実質的には否定される程の措 に力点をおいて提唱されている感が強い」として, 置制度運用の「改革」が進んでいる。
(注13)
ュ治力学的な論理の下での改革を批判している。 例えば,今春の札幌市における二人の子供をか
また仲村優一氏も,現行の社会福祉サービスは, かえた母子世帯の母親餓死事件は「改革」をめぐ
「公的扶助の動きとの関連なしに考えることはで る象徴的な出き事といえよう。この事件は疾病の きない」こと。「公的扶助にまつわる選別主義か ために生活保護の申請をした母親に対して,福祉 ら社会福祉を脱却せしめるところにまで至ってい 事務所が再三にわたって,その受理を拒否したた ない」こと。「普遍主義的社会福祉というとき, めに,不信と失望のあまり寝こむという事態から
これらのことばには,福祉サービスの利用者たる 発生したものである。
クライエントが,サービスを欲するだけ自由に選 この過程には,いわゆる「水際作戦」とも呼ば 択して利用することを可能にするかの如き幻想が れる,申請以前の相談段階での強い自立化指導,
伴ないがちである」として,現行の「改革論」の 個人資産の運用や処分を徹底的に促すことによっ 拙速性とイデオロギー性を批判している竜14) て,生活扶助の支出を少しでも切りつめようとす
社会福祉の「制度改革」を科学的・全体社会連 る厚生省側の強い姿勢がある。
適正化指導の結果,昭和59年は12.2%であった ると,福祉産業の総売上額は,近い将来,自動車 保護率は60年には11.8%に低下し,失業率が上昇 産業を凌駕し,2020年頃には約200兆円余の産業
しているにもかかわらず,61年11月以降は11.0% 規模になることが見込まれるといわれる。
を下回るに至っている。その結果,福祉事務所の さらに,シルバー産業界の最先端経営者の見解 ケースワーカーは,生活自立の指導をするという によると,日本のシルバー産業の序曲は昭和56年 より,専ら生活の管理と監視を,非人道的とも思 の武蔵野市福祉公社による有料在宅福祉サービス える方法でせざるをえなくなっており,保護受給 の開始と,翌57年の公的ホームヘルプサービスへ 者とのトラブルが増大しているという報告が多い。 の有料制度の導入にあり,第ニラウンドは,61年
今年の6月に厚生省監査指導課がまとめた「生 11月の社団法人「シルバーサービス振興会」の設 (注18)
活保護の不正受給謂査」によると,福祉事務所の 立によって開始されたという。この振興会には厚 職員以外の者による「通報や投書」による不正の 生省の指導の下に,62年春現在,建設,不動産,
発見が20%と,次第に増えており,不正受給の総 保険,証券,商社等の大手企業150社以上が加入 件数が増大している主な要因は「第一線の職員が しており,近いうちに日米貿易摩擦の改善もかね 厳しく対応している結果である」というコメント て,米国の老人病院やナーシングホーム業界の日 をつけている。この調査は,暴力団による不正受 本への参入もあるという。
給の事実があるとはいえ,生保対象者がますます 以上,福祉サービスの「適正化」,供給システ 国民やワーカーの「監視」の対象と化し,疎外さ ム,利益産業化について最近の動向を概観してみ れたケースワークが生活自立や人格の発達の道す たが,公的責任原則の解除と市場原理導入の方向 じとは無縁の方向で進行していることを示してい が明白になっており,近い将来,福祉産業振興の る。 ための「福祉ニーズの開発」といった本末転倒の
第二に,福祉サービスの供給システムについて 事態も予想される。
は,ますます多様な組織形態が生み出されつつあ に)社会福祉協議会の改革と福祉士法案
(注17)
る。例えば,埼玉県上福岡市の福祉バンクのよう ここ数年来,社会福祉協議会の「改革」は法人 な行政組織型,横浜市ホームヘルプ協会のような 格の取得による,寄付行為受け入れの条件整備や 行政による住民活動まきこみ型,世田谷区のふれ ボラントピア計画の推進による基本財産の造成等,
あいセンターにみられる社会福祉協議会への委託 どちらかといえば,財政環境の整備に重点がおか 型,武蔵野市福祉公社のような第三セクターによ れてきた。
る資産活用型等がある。これら四つの類型に共通 しかし,最近,社会福祉制度の再構築との関係 しているのは,福祉問題の背景や福祉の施策形態 で,新しい動きが生じている。今年6月に全社協 について,社会的認識の視野が狭く,応能負担的 の地域福祉特別委員会が提出した「社協のあり方 な有料サービスを展開していることである。 に関する研究委員会の中間報告」(そのサブタイ これに対して,杉並区の社団法人型の友愛ボラ トルは「今日求められる新たな社協をめざして」
ンティア組織や,灘・神戸生協が実施しているコー となっている)から,主要な動向をみると,次の プ暮らしの会等は,福祉の両当事者の主体性を重 ようになる。
視するという点で,「住民主体の地域福祉活動」 この委員会の設立の背景としては「社会福祉の (注19)
ニいう性格が強く,こうした組織形態の将来性が 構造変化と法制度の改革」をあげ,具体的には,
注目される。 第一に「社会福祉の基本法的性格をもっている社 第三に,福祉の利益産業化は,産業構造の転換・ 会福祉事業法の抜本的改正が日程にのぼっている サービス産業化を背景にして,産業界から特に注 こと」,第二に行政改革の中で,自治体における 目されている。三菱総合研究所の最近の資料によ 福祉の役割が重要になっていること,第三に福祉・
医療・保健の一元化の促進や福祉の領域へのシル けて,職員養成カリキュラムや養成施設,試験内 バー産業の進出,第四に普遍的社会福祉の推進の 容等について,具体的な検討が進むわけであるが,
方向が明確になったこと,をあげている。 この過程については,充分に注視しておく必要が そうした上で,「新しい社協」は「新しい公共 あろう。
の立場」,具体的には行政と住民と企業の三者の
3 国民生活における生活不安の拡大と福祉協力としての「公」の領域を中心にして,責任や
問題の集中と拡散役割の分担が考えられるべきであるとして,21世
紀をめざしてた社協の将来構想を打ち出している。 (イ)国民生活における階層間格差の拡大 この構想の中で,最も重要視されているのは, 私たちの周囲をみると,現象的には生活が全体
「在宅福祉サービスの供給としての社協」であり, 的に豊かになっているように見えるが,その根底 (注20)
アれは「必須機能である」と表現されている。 には借金漬けにされた生活,悪質ブローカーによ 第二に注目されるのは,シルバー産業との関係 る財テク被害,家族関係の解体による親子心中等,
において,公共の立場から組織化をはかり,市区 新しい生居の貧困が広がりつっある。
町村社協の新たな構成員として期待していること 今や日本社会全体が都市型の生活様式に包摂さ である。 れ,すべての生活行動,生活時間において,商品 以上,この中間報告では,社会福祉において在 やサービスを購入してそれを消費する以外には生 宅福祉が重要視される中で,民間企業を含めた福 活できないというシステムが強固に成立し,シス 祉サービス供給とコーディネート業務の中枢機関 テム内での生活を余儀なくされている。
として,社会福祉協議会を位置づけようとしてい さらに,マスコミによる宣伝や流行の下で「水.
ることである。この点については,昭和37年に民 ぶくれ的」に大量消費を強制され,そのための収 主的な英知の結晶として策定された「住民主体の 入を補填するために家族員の多就業化や預貯金の 原則」,即ち,住民の地域福祉組織化を援助し, 取り崩しが一般に行なわれるようになっている。
その自主的問題解決能力を高めてゆく,という方 最近,円高により今や日本の賃金水準は欧米水 向性とは全く異なっていることに改めて注意する 準にあるとも言われるが,OECDの試算によれ 必要がある。さらに社協が現行の組織形態を否定 ば,購売力単価によって測定された日本の消費水 し,第三セクター的な組織へと大転換されてしま 準(1984年時)はOECD主要加盟国の90%,ア う懸念もある。この点については慎重な研究と調 メリカの66%にすぎないともいわれ,生活実態か 査が必要であろう。 らみた円の実力は1ドル=197円前後と報告され
ている。
次に,福祉サービスの充実や在宅福祉の重視, 今年1月3日の朝日新聞は,豊かさ意識につい シルバー産業の振興等との関係で,今年5月26日, て,「将来に不安,3人に2人」の見出しの下で,
社会福祉士・介護福祉士法案が国会で成立し,法 「日本人の生活は豊か」56%,「そうは思わない」
律第30号として交付された。社会福祉の専門職資 34%,自分の生活は「中流と思う」49%,「そう 格については,10数年前に,大きな制度化要求運 は思わない」47%,と報じている。現在のみでな 動があり,その後も福祉関係団体から地道な要求 く将来への生活不安感がかなり高くなっており,
活動が続けられてきた。しかし,今回は日本ソー 高度成長期以降70−80%の高水準にあった中流意 シャルワーカー協会の会報15号が語っているよう 識が大きく低下している。これらは生活の真の姿 に,「あれよあれよと思ううちに,半年足らずの であり豊かさの実態をよく示している。
間に陽の目をみるに至った」わけである。 総務庁の家計調査年報によると,最近11年間の 今後は,来年4月に予定される同法の施行に向 収入は1.9倍に増大しているが,可処分所得は,
わずかに10.5%増にすぎない。さらに国民の所得 直化がいっそう進行していること。第二に,所得 階層を5つに分類した場合,最高階層(第V分位 階層別には,その硬直化が,低所得層において,
層)に対する最低階層(第1分位層)の収入割合 特に顕著になっていることである。江口氏は,教 の動向は,1963年3α8%,72年3&3%,79年3&4 育費,住宅費,保健衛生費,医療費,水道光熱費
%,83年3α8%,85年34.9%,となっており,高 等の社会的固定費の上昇は,近年における公共料 度成長期に平準化傾向をみせたものの,1980年以 金の個人負担率や額の強化,公的福祉サービスへ 降,ふたたび貧富の差が拡大しつつあることを実 の受益者負担原則や応能負担原則の導入による所 証している。 が大きいと述べている。
生活理念の基底をなす住宅事情を,建設省の 以上の結果,第一に可処分所得の割合が年々減
「建築着工統計」から見ると,貸家では1980年を 少することにより,家計の硬直化が進行し,非常 境にして50㎡以下,とりわけ30㎡以下のシェアが 時における経済的対応能力が低下している。つま 急増加している。この原因は都市部の地価の異常 り家計構造が不安定化,脆弱化している。第二に,
な上昇に負う所が大きいが,政府の住宅政策の貧 低所得層では共働らき等による家族員の多就業に 困性も見逃せない。1978年版の建設白書では,大 よって,家族内に余剰の労働力が少なくなり,生 都市の借家世帯では最低居住水準以下の世帯が1 活上の諸問題に対する対応の幅が非常に狭くなっ 割以上あり,住空間のゆとりの拡大の必要性を課 ていることである。これらを総体的に表現するな 題としているが,その方策は専ら自助努力に求め ら,経済的にも家族関係的にも,自助努力の可能 られている。公共住宅の建設については,第5期 性それ自体が著しく狭められ,もはや限界点に達 住宅建設5ケ年計画(1986〜90年)の公営・公団 しているということである。
の建設計画戸数が共に前期の計画を下回っている ハ 生活・福祉問題の集中と拡散
(注21)
実情にある。昨年以降の地価の再上昇,今年夏以 最近の生活問題・福祉問題の現われ方は,先に 降の建築材料の高騰をあわせて考えると当面,住 みたように階層間の所得の拡大によって低所得層 宅問題の改善は望めそうにない。具体的には,住 や生業不安定層,具体的には,老人世帯や母子世 宅をめぐる階層格差も拡大するものと予想される。 帯,中小零細企業の勤労者や小自営業者層に集中 ロ 家計不安と自助努力の限界 している。他方,応能原則の導入による福祉の有 最近のいくつかの生活調査に共通に見られるの 料化により,福祉サービスを受けにくい階層の人々 は,有給休暇を未消化のままに働らき,住宅ロー が広範囲に形成されつつあり,同時に,産業の空 ンを利用して持家を取得したわりには住宅への不 洞化等による特定地域全体の雇用不安の侵透といっ 満が残り,子供の教育費に四苦八苦している勤労 たように,問題の階層的地域的な拡散が幅広くみ 者の姿である。果して勤労者の家計はどうなって られる。
いるのであろうか。 これらの問題について,今や事態は拡大発展の 江口英一は,最近の論文の中で低成長化と人口 途上にあり,集中と拡散のメカニズムは,21世紀 高齢化の狭間にある,現代日本の勤労者家計を分 戦略および四全総の政策が具体化されるにつれて,
(注22)
ヘして,次の様に総括している。 さらに広がるものと想定される。本稿では,これ 第一に実収入の伸びが停滞しているのに,税金 らについて詳述する余裕がないので,後日の課題 や社会保険料等の非消費支出が急増しており,さ としたい。
(注23)
らに消費支出面においても,「社会的強要費目」 〈付記〉 本稿は,1987年8月28日(金)〜29日 や「社会的固定費の割合が急増しており,その結 (土)に東京都社会福祉総合センターで開催さ 果,自由に消費できる個人的生活の再生産費の割 れた第7回地域福祉問題研究全国交流集会(大 合が二重に狭められて少なくなり,家計構造の硬 会テーマ「住民・福祉労働の立場から地域福祉
への提案」)における筆者の基調報告「『社会 (注8)具体的には0.57%という数値がGNP成長率と 福祉制度改革』の動向と地域福祉の創造・発展」 して採用されてきた。いくら低成長下の現在と
の一部分に若干の修正をしたものである。 はいえ,この数値の非妥当性は論をまたない。
(注9)例えば「生活保護の適正実施の推進について」
注 1981年11月17日 社保123号通知参照。
(注1)この点については,第6回地域福祉問題研究全 (注10)こうした状況の下では,従来,国民的な福祉要 国交流集会の基調報告「社会福祉改革と地域福 求運動にそれなりに対応してきた「厚生行政の 祉」において,林博幸氏が詳細にまとめている 論理」の相対的な独自性は大きく後退し,新サ ので,改革論議の内容については,それらを参 一ビス産業立国日本のめさす「新しい産業分野」
照のこと。 として,専ら関心が注がれていることになる。
(注2)水沢透「保守革命としての行政改革」r賃金と したがって,上記の論理に代わって「一般資本 社会保障』Nq 960 の論理」がより直接的に福祉を支配することに
(注3)中曽根内閣は,雇用対策の中心に「30万人雇用 なろう。
開発プログラム」をおいているが,他方,第五 (注11)61年版の厚生白書はその冒頭(「厚生白書の刊 世代コンピューターやセラミックス,バイオテ 行にあたって」)で,次のように述べている。
クノロジー等のハイテク技術による新産業分野 「人日の高齢化,長寿化の急速な進行は,個人 の開発と同時に,福祉や保健医療産業の「新た の人生設計に対してばかりでなく,増大する高 な展開」の中に雇用創造が期待されていること 齢者の扶養や介護,年金や医療費の負担,住宅 に,注目する必要がある。福祉はもはや「生存 や雇用問題等,我国の経済社会システム全体に 権と文化的生活の確保の論理」ではなく,「産 対して根本的な課題を提示しており,今また私 業変革と雇用創出の論理」の下におかれようと たちは新しい時代,新しい社会の人口に立って
している。 おります。
(注4)最近は,「超高齢化社会」という用語を用いて, (注12)小倉裏二「今,なぜ社会福祉概念の再検討か」
21世紀戦略としての福祉制度改革を,もはや自 r社会福祉研究』40号7頁
明のものとする動向が急速に広がっている。例 (注13)田村和之「措置体系はどうなるのか」同上,34 えば87年版r厚生白書』参照。 頁
(注5)ここで明らかなように,「高齢化社会」は,産 (注14)仲村優一「社会福祉r改革』の視点とは何か」
業・地域・社会政策の所産であり,何ら高齢者 同上3頁
人口を中心において課題化されるべき性格のも (注15)この点については,武田宏「社会福祉サービス のではない。つまり,「高齢化社会」という用 と公共性の論理」『賃金と社会保障』Na 955号 語自体は何ら本質的な意味を有していないのだ。 43頁参照。
(注6)「高齢(化)社会」という用語については,国 (注16)「社会サービス」の定義について,厚生白書 連の概念規定を基本にして,我国では現代の社 (61年版)は次のように定義している。「国民 会構造の特徴を示す用語として使用されている 生活に密着し,又は国民生活の基盤を成すサー が,イギリスやスウェーデンではあまり使用さ ビスで,公的部門が供給主体となり,又は何ら れていないようだ。なぜそうなのか,社会政策 かの制度的な関与を行うことによって,民間部 の性格との関係で一考すべきであろう。 門における供給と併せ,サービスの安定的供給
(注7)例えば氏の次の文献を参照せよ。rr日本型福 や質の確保を図っていく必要のあるサービスを 祉社会』論の福祉政策」『社会問題研究』第31 指す」(同書38頁)
巻第2,3,4合併号,1982年1月 (注17)ここでは,ボランティアが作業の実績を点数化
して委託し,将来に具えるという方式がとられ (注20)同上 5頁
ている。 (注21)『赤旗』1987年7月11日号
(注18)佐藤直人「シルバーサービスの展望」rAGI (注22)江口英一「国民生活構造と高齢者の位置」r経 NG』1987年5月号参照。 済』1987年9月号
(注19)全社協・地域福祉特別委員会,社協のあり方に (注23)ここで「社会的要費目」とは,家庭用耐久財,
関する研究委員会r社協のあり方に関する研究 自動車関係費,交際費,教養娯楽費,理美容サ 委員会中間報告(案)』1頁 一ビス,一般外食,こづかい等をいう。
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