特集◎留学という文化留学生政策のフロンティア
留学生三十万人計画が発表されたのは二〇〇八年︑福田内閣のとき︒目標達成にははるかに遠いが︑当分中国からの留学生が大きな比重を占めるのは変わらないだろう︒今日︑中国に事務所を構えている日本の有力大学は多い︒その所長の皆さんに︑各大学の留学生政策を中心に語っていただいた︒また︑学生の半数が留学生という立命館アジア太平洋大学の留学生政策についてもうかがった︒
早稲田大学の取り組み
早稲田大学北京教育研究中心所長大谷俊昭氏︑同副所長向虎氏に聞く
1 中 国 現 地 事 務 所 を ま ず 北 京 に ︑ そ の 後
上海に設置された経緯をお教えください︒
早稲田と中国の大学とは非常に古くか
ら関係がありまして︑一九〇五年に清国
留学生部という清国からの留学生を受け
入れる部署を作り︑そこにたくさんの中
国人学生が学んでいました︒その後︑中国
との関係は一時切れてしまいましたが︑
二〇〇〇年ごろから世界での中国の地位 というものが非常に上がってきて︑関係
をまた復活させようという動きが出てき
ました︒中国との関係︑特に北京大学と
の関係を復活させようということにな
り︑日本から中国に出張するようになっ
たのですが︑回数が増えるに従っていっ
そ中国に出て来てしまった方がよいので
はないかということになり︑北京大学の
方からも新しいビルにどうかというお話 があって︑二〇〇五年のビルの完成と同
時に︑まず北京に事務所を置きました︒
II事務所設置の理由をお教えください︒
早稲田大学では国際化においてアジア
を非常に重視しており︑これまでアジア
の学術機関︑大学︑企業などとの教育︑
研究における協力関係を築いてきまし
た︒その中で︑中国との協力関係につい
てはすでに多くの蓄積がありますが︑分
類すれば次の三つになります︒一つは共
同教育プログラムで︑そのうち一番関係
が深いのが北京大学で︑上海の復旦大学
ともやっております︒二〇〇五年にダブ
ルディグリープログラムが正式にスター
留 学 生 政 策 の フ ロ ン テ ィ ア 217
トするにあたって︑業務連絡とか︑学生
の管理︑トラブルの対応︑さらに留学前
や帰国後の学生教育の場所が必要となっ
たわけです︒二つめは︑共同研究の場所
を確保することです︒早稲田大学と中国
の各大学との共同研究では︑分野も複数
にまたがっており︑教員の行き来も非常
に頻繁で︑その間には言葉の壁の問題も
出てきて︑国際部に手配とか教員のサ
ポートを求める声が上がっていました︒
こうした共同研究をサポートする場所が
現地に必要だったわけです︒また︑ちょ
うどその時に産学連携の共同研究を行っ
ており︑事務所を大学に構えるよりは︑
企業が入っているところにという要望も
ありました︒北京大学は中国政府や企業
と頻繁に交流があり︑早稲田大学でもそ
ういった機関や企業との交流を促進する
ために︑現地にスタッフが常駐したほう
がより展開しやすいということがありま
した︒つまり︑共同教育︑共同研究︑産
学連携の三本柱のもとで︑北京事務所が
開設されたわけです︒
1 北 京 事 務 所 を 開 設 さ れ る に あ た っ て ︑
会社組織にされた理由は何でしょうか︒日本の大学は今︑北京を中心に三〇ぐ
らいが現地事務所を構えていますが︑会
社形式になっているのは早稲田大学だけ
です︒最大の理由は︑中国には海外の大
学が事務所を開設することに関する法律
がないので︑一般的には認められていな
いことです︒メリットとしては︑現在︑
東京大学と創価大学だけが例外的に正式
な事務所として認められているわけです
が︑開設に非常に苦労されたと伺ってお
ります︒私たちは単なるコンサルティン
グ会社ということでしたので︑設立が簡
単でした︒それにお金の出し入れが簡単
です︒当然それなりの税金を払わなけれ
ばなりませんが︑うまくいけば税金の節
約にもなります︒逆に︑会社組織でした
ので︑大学内の例えばどこかの研究室を
登記場所にすることはできなかったわけ
です︒
lI事務所の主な活動を教えてください︒
私たちはコンサルティング会社として
早稲田大学から仕事を受託しておりま
す︒内容は︑大学間交流のサポート︑学 生募集などです︒また︑愛知大学が行っ
ているような︑日本から学生を呼んでき
てこちらで教育を受けさせるいくつかの
プログラムもあります︒通年では四〇名
ほどの学生が中国に来ていますが︑その
半分近く︑今年は一六名が︑北京大学と
のダブルディグリi制度を利用した学生
です︒他には︑テーマを持った留学︑T
SQ(ThematicStudiesAbroad)という
プログラムが二四名です︒TSAプログ
ラムの学生たちは北京大学の対外漢語教
育学院に在籍して︑午前中︑集中的に中
国語を勉強し︑午後なり週末はこの事務
所に併設された教室で勉強します︒その
他にも︑フィールドトリップ︑さらには
インターンシップなど︑いろんな分野で
の中国理解を深めるためのプログラムに
なっています︒今は春と夏に短期プログ
ラムもあり︑こういった短期︑長期のプ
ログラム運営もしています︒
TSAプログラムなどで留学する学生
は増えていますか︒
これは早稲田に限ったことではないと
思うのですが︑留学希望自体が随分減っ
ています︒今︑本学全体で八〇〇人ぐら
いが一年間のプログラムで海外へ出るの
ですが︑大多数がアメリカ︑イギリスな
どの英語圏です︒実際に就職などを考え
ている学生や︑中国がこれから発展する
ことを視野にいれている学生は︑割と中
国に来ていると思います︒
ー 中 国 で の 留 学 生 募 集 に つ い て ︑ 重 点 地
域などあればお教えください︒
早稲田大学には現在約三二〇〇名の留
学生がおり︑その四〇%ほどが中国から
の留学生です︒本学では今後留学生を八
千人にするという目標があり︑今その実
現に向けて努力しています︒また少し古
いデータですが︑日本全体では︑一二万
人の留学生のうち七万人ぐらい︑つまり
六〇%ぐらいが中国からです︒中国から
の留学生だけを増やすのは決していいこ
とではありませんが︑日本全体に比べる
と︑本学の中国人留学生の割合はまだ低
く︑中国には優秀な学生がたくさんいま
すので︑そういう学生をもっと受け入れ
たいと考えています︒本学では︑二〇〇
四年に国際教養学部という英語で授業を 行う学部を創設しましたが︑そこであれ
ば外国の高校を卒業した後︑日本語を学
ばなくてもそのまま入学することができ
るようになりました︒おかげで︑中国や
他の国々に対しても学生募集がしやすく
なりました︒受け入れ地域は︑学部レベ
ルですと上海地域が圧倒的です︒大学院
レベルですと︑北京等も含めて︑割と中
国全土から受け入れていますが︑経済的
なことも考えると︑その中心はやはり大
都市になると思います︒
ー 北 京 ︑ 上 海 の 事 務 所 に 続 い て 南 京 の 連
絡所も設けておられますが︑そこでの具体
的な募集活動を教えてください︒
中国の学生は英語圏への留学希望者が
多いですし︑日本に関心を持つ学生もい
ますが︑ただ来てくださいと言ってもな
かなか難しい︒日本に興味があるけど留
学はちょっととか︑他の大学を考えてい
る人に早稲田大学にどうやって来てもら
うのかは︑本当に難しいです︒また︑数
だけ集めるのは簡単ですが︑質を求めな
ければいけません︒中国には仲介業者の
ようなものもありますが︑それらに頼ら ず地道に高校回りなどをして︑日本をそ
して早稲田をPRしています︒南京の連
絡所ではもっぱらそういう活動をしてお
り︑それらを通して人的関係を築くこと
が大切だと思います︒今︑北京事務所に
は六人のスタッフがいて︑うち二人は日
本から来ておりますが︑日本人スタッフ
が常駐していることが非常に効いている
と思います︒例えば︑教育部の方などに
対しても︑受験生に対しても︑事務所に
常駐の日本人スタッフがいることで︑早
稲田は本気だとわかっていただけるから
です︒お金はかかりますが︑お金で計る
ことのできない大事なことです︒次にP
Rのやり方ですが︑早稲田と中国の大学
とどこが違うかをはっきり学生に伝える
必要があります︒いろんな国籍の学生を
集めるだけで国際化になるわけではな
く︑早稲田は国際化を求めてより多くの
留学生を増やしたいので中国人の優秀な
学生もどうぞというだけではあまり効果
がない︒親のそばで︑しかも安い学費で
中国の大学に行けるのに︑さらに優秀な
学生であれば中国の名門大学に行けるの
2[g‑一 留 学 生 政 策 の フ ロ ンテ ィ ア