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幼小接続期における文字教育の現状

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(1)

Ⅰ.問題の所在

我が国における小学校及び幼稚園の接続に関し ては,「小1プロブレム」に代表されるように,

長い間解消されない問題を抱えている(注1).

幼児期の教育と小学校教育の円滑な接続の在り方 に関する調査研究協力者会議(2010)で指摘され ているように,その対応については,幼小の「連 携」が意識され,児童と幼児の交流や教職員同士 による意見交換などが積極的に行われている状況 がある.

2017(平成29)年に告示された『幼児園教育 要領』では,「第1章総則」の「第3 教育課程 の役割と編成等」において,「小学校教育との接 続に当たっての留意事項」が提示されているが,

『幼稚園教育要領解説』でも具体例が示されてい るのは,幼児と児童の交流や教職員間の交流に留 まっている(文部科学省,2018,pp.90-93).

しかしその一方で,幼稚園の保育内容(五領 域)と,小学校の教育内容(各教科)の接続につ いては,経験カリキュラムと教科カリキュラムと いう大きな相違点があるとはいえ,その議論が深 まっていかないことが指摘されてきた.

たとえば,横井(2007)が提唱した連携のキー

ワードとしての「接続」については,本来の「カ リキュラムをつなぐ」という考え方が浸透してい かない現状がある.その幼小接続の取り組みの多 くが「幼児と児童の交流が中心でイベントなど形 式的な取組が多く,継続的・組織的な取組に至っ ていない場合が多く,まだ十分な成果を上げてい るとは言い難い」現状が指摘されている(国立教 育政策研究所,2017)

また,「小1プロブレム」という表現が象徴す るように,幼小接続は小学校教育が解決すべき課 題という捉え方も根強い.たとえば,前述の幼児 期の教育と小学校教育の円滑な接続の在り方に関 する調査研究協力者会議(2010)では,接続期カ リキュラムにおける小学校1年の「スタートカリ キュラム」について詳細な提言がなされているも のの,幼稚園のいわゆる「アプローチカリキュラ ム」についての具体的な記述はみられない.

そこで,本研究では,幼小の教育課程の接続に 焦点を絞り,おもに言語領域に関する「アプロー チカリキュラム」について検討することを目的と している.とりわけ,幼稚園と小学校の接続期に おいて,これまで見逃されがちであった幼児期の 文字教育について検討を行うこととする(注2).

幼小接続期における文字教育の現状

-アプローチカリキュラムにおける書字に着目して-

Current Conditions in Continuation of Literacy Education from Kindergarten to Elementary School

Focusing on Handwriting in the Approach Curriculum in Kindergarten

今野佑香

1

,鈴木貴史

2

1

習志野市立東習志野小学校,

2

帝京科学大学

Yuka KONNO

1

,Takashi SUZUKI

2

1

Higashi-Narashino Elementary School,

2

Teikyo University of Science

要約: 我が国における幼小接続に関しては,「カリキュラムをつなぐ」という考え方が浸透して いかない現状があり,幼稚園の保育内容(五領域)と小学校の教育内容(各教科)の議論が深 まっていかないことが指摘されてきた(横井,2007など).本研究は,おもに言語領域おける文 字教育に着目し,年長期の「アプローチカリキュラム」について検討することを目的としている.

その方法として,おもに東京都足立区内の幼稚園と保育所における接続期カリキュラムについて

インタビュー調査および保育の観察を行い,現状と課題の考察を試みる.その結果として,ほぼ

すべての園では,生活の中で文字に触れるような環境づくりの工夫がされており,幼児の円滑な

読字の習得に結びついていることが確認された.その一方,書字については,小学校以降の教育

という意識が根強く,接続期を意識した取り組みが不十分である傾向がみられた.

(2)

その方法として,おもに東京都足立区内の幼稚園 と保育所における文字教育に焦点を絞った接続期 のカリキュラムの実態を調査し,現状と課題につ いての考察を試みる.具体的には,言語領域にお ける①幼児の「読むこと」の実態,②書くことの 指導状況,③幼小の接続カリキュラムに対する考 え方について保育者へのインタビューを行った.

Ⅱ.研究の方法

本研究における「接続期」とは,お茶の水女子 大学附属幼稚園・小学校・中学校・子ども発達教 育研究センター(2008)に依拠して,年長の10 月から小学校1年7月までの約1年間と捉える

(注3).その前期にあたる年長10月から3月ま でのいわゆる「アプローチカリキュラム」につい て,文字教育の実態調査を行った.

2017(平成29)年に告示された『幼児園教育 要領』では,「幼児期の終わりまでに育ってほし い姿」が示されている.文字教育に関して言え ば,「(8)数量や図形,標識や文字などへの関 心・感覚」,「(9)言葉による伝え合い」に示され ている.しかし,『幼稚園教育要領』の「言葉」

の目標である「経験したことや考えたことなどを 自分なりの言葉で表現し,相手の話す言葉を聞こ うとする意欲や態度を育て,言葉に対する感覚や 言葉で表現する力を養う」と大きな差違はみられ ない.つまり,ここでは3年間の幼稚園教育を通 して育むべきこととして提示されているため,特 別に「アプローチカリキュラム」が意識されてい るわけではないことが確認できる.

一方,各自治体による取り組みの例として,東 京都足立区では,教育大綱の策定や『幼稚園教育 要領』等及び『小学校学習指導要領』の改訂を踏 まえ,乳幼児期の教育・保育の一層の充実や幼児 教育と小学校教育の接続の強化を図るため,『あ だち幼保小接続期カリキュラム』を策定してい る.

ここでは,アプローチカリキュラムとしての

「あだち5歳児プログラム」と「小学校スタート カリキュラム」に分けられており,この2つの一 体的な取り組みが示されている.

「あだち5歳児プログラム」の文字教育につい ては,「学びの芽生え〈数量や図形,標識や文字 などへの関心・感覚〉」に示されている(足立区 教育委員会,2018,p.30).

学びの芽生え〈数量や図形,標識や文字など

への関心・感覚〉」

・文字を使って,思ったことや考えたことを伝 える喜びや楽しさが味わえる体験をさせてい きましょう.

・文字は子どもが遊びの中で必要な時,書きた いと思った時にいつでも書くことができるよ うに,発達に合わせて,クレヨン,ペン,鉛 筆,消しゴム,紙などを準備しておきましょ う.

こうした『幼稚園教育要領』の内容とほぼ同様 の記載に加えて,アプローチカリキュラムとして の「年度後半からは,このような取り組みを進め ていきましょう」には以下のような記述がみられ る.

・自分の名前を読んだり,書いたりする機会を もつようにします.その際,なるべく丁寧に

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書かせるようにすることが大切です.

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文字に 興味をもち,「作品に名前を書く」「遊びに必 要な文字を書く」など必要性を感じること で,より意欲的に取り組めるようになりま す.

・鉛筆など筆記具の正しい持ち方について,

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一 人一人の状況を受け止め,丁寧に指導しま

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しょう

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.(傍点引用者)

傍点部の「なるべく丁寧に書かせる」,「筆記具 の正しい持ち方について指導する」などの記述に みられるように,「あだち5歳児カリキュラム」

は通常の幼児教育を発展させたアプローチカリ キュラムとしての性格を示している.本研究で は,こうした文字教育に関するアプローチカリ キュラムの実施状況について,足立区を中心とし た幼稚園・保育所の保育者(園長)へ図1のよう な文字教育に関するインタビューを行った.これ に加えて,文字環境整備の状況や文字教育に関す る保育の観察を行った.

その調査対象である5園の内訳は,足立区内の 私立保育所1園(A園),公立保育所1園(B園),

私立幼稚園2園(C,D園)である.加えて,公 立幼稚園の参考として文京区内の幼稚園(E園)

も調査した.

島村・三神(1994)によれば,清音および濁音

(半濁音を含む)を合わせた71文字のうち,年長

児の約70%がほぼすべてのひらがなを読めてい

ることが確認されている.本研究では,こうした

調査結果を踏まえ,最初の質問項目に年長児の読

み書きの実態を加え,その上で年長クラスの環境

(3)

整備や保育内容に関するインタビューを行った.

なお,保育内容に関して,言葉の領域において 広く行われている絵本の読み聞かせについては,

調査対象から除外した.

Ⅲ.調査結果

1.インタビュー調査

(1)どのくらいの幼児が文字を読めていますか.

【A園】11名クラスでひらがなは全員読めるが カタカナには不安のある幼児が多い.女子6人は 全員絵本が読める.男子5名のうち3名は絵本が 読める.

【B園】自分の名前は全員読める.絵本になる と,数名の幼児は文字をたどり読みできるが,わ からない幼児もいる.給食のメニューをひらがな で書いていて,日直が交代で読むようにしてい る.

【C園】25名クラスでほぼ全員ひらがなは読め ている.カタカナは少し不安な幼児が数名いる.

【D園】文字教育として「読むこと」に重点を 置いているので,全員ひらがな,カタカナだけで なく,多くの漢字を読むことができる.

【E園】28名の学級で24名程度は読めていると 把握している.特別な支援を必要とする幼児はま だ文字が読めていない.

(2)どのようなことば遊びを実践していますか.

【A園】たとえば,図3のように,ひらがな カードを散りばめて言葉集めゲームを行ってい る.

【B園】絵本の読み聞かせの他に,毎日絵本を 毎日2ページくらい,1人ずつ音読させるように している.

給食後に「にほんごかんたん!ひらがな絵カー ド」というカルタを一対一で毎日実践し,文字に 触れる活動をしている.その中で,その幼児の読 める文字と読めない文字を保育者が記録してお く.翌日からは,読める文字と読めなかった文字 を交えて出題していくことで,楽しみながら読め たという成功体験を積ませていく工夫をしてい る.

さらに,最近では,幼児同士でクイズを出し 合ったり,地球儀の中からひらがなやカタカナで 書いてある国名を探したりする遊びを楽しんでい る.

【C園】言葉集めゲームを実践している.具体 的には,文字が書いてあるカードをグループごと に置いて,「あ」と「き」を取ったら「秋」など,

いくつ言葉を集められたか,3文字の言葉はどれ かなどといったようにカードを使用した遊びであ る.

【D園】年少から毎朝,漢字表記の百人一首や 古典のフラッシュカードを実施している.フラッ シュカード形式で早いテンポで行うことで,ゲー ム感覚にもなり,子どもの集中力も高まるという 効果がある.

また,園内でカルタ大会も実施している.古典 を教材として扱っている理由は,古典のリズムが 幼児に合っているからである.意味は教えずに音 を楽しむことを目的としている.

小学校はかな文字から教えるが,文字から意味 を推測できるのが漢字表記の良いところである.

例えば,鳥よりも雀や鳩,虫よりも蜂などのよう に,具体的な対象をイメージできる方が理解しや すい.そのため,できるだけ具体的にイメージで きる漢字で示すことで本来の日本語を教えてい る.「漢字を教える」ではなく,「漢字で教える」

と考えている.最終的には漢字を将来使うから,

最初から漢字で見せてしまった方が幼児にも負担 が少ない.

【E園】絵本の読み聞かせやカルタ遊びを主に 行っている.カルタは年中のお楽しみ会のプレゼ

(1)どのくらいの幼児が文字を読めています か.

(2)どのようなことば遊びを実践しています か.

(3)文字環境で工夫している点は何ですか.

(4)どのくらいの幼児が文字を書こうとして いますか.また,それはどのような時で すか.

(5)教室にはどのような筆記具を置いていま すか.

(6)幼児が間違えた筆順で文字を書いていた 時は直しますか.

(7)指導計画の中で小学校入学(接続期カリ キュラム)を意識した指導内容はありま すか.

(8)言葉の領域における幼小の接続について 何かお考えはありますか.

図1 インタビュー項目

(4)

ントにもなっている.また,ことば集めゲームを 実践している.例えば,「うさぎ」と教師が言っ たら,3語なので3人グループをつくるといった ような遊びである.

(3)文字環境で工夫している点は何ですか.

【A園】子供が目にするものは全てひらがな表 記にしている.夏に虫や野菜を育てて,経過観察 をひらがなで書いて掲示している.給食のメ ニューも「スープ」を「すぅぷ」のようにひらが なで毎日掲示している.

【B園】年少と年中クラスではロッカーなどに シールを貼って自分の場所がわかるようにしてい る.保護者用に名前シールも貼ってある.年長に なると,名前シールのみになり,名前を自分で読 んで判断できるようになる.

文字に触れるしかけは年長の4月の段階からか ら徐々に増やしている.例えば,図6ように,小 学校のような時程をマグネットで作成したり,絵 とひらがなを使って掲示したりするようにしてい る.掲示物は全てひらがなで書いて子供たちでも 読めるように工夫している.

【C園】なるべく絵と文字を用いて掲示するよ うにしている.文字を使うと生活が豊かになると いうことを感じてもらう工夫をしている.

【D園】漢字の方が幼児に視覚的に入ってきや すいため,子どもの目に留まるものは全て漢字表 記にしている.ロッカーの名前などにも自分の マークやひらがなシールを使用せず,年少から名 前は全て漢字で表記している.名前は元来漢字で つけられているため,ひらがな表記にしてしまう とその子の名前ではなくなってしまうと考えてい る.

【E園】文字を意図的に教えてはいないが,文 字環境を整えて興味を持つような工夫をしてい る.年長からロッカーシールのマークをやめて,

幼児の名前はひらがな表記に変更する.年長の頃 から,文字と絵を併用して表記している.年長で も必要に応じて絵も活用するが,文字に触れる環 境を多くしている.

(4) どのくらいの子が文字を書こうとしていま すか.それはどのような時か.

【A園】書く指導は行っていない.1月頃から 鉛筆を始めていく.まずは線を書くことから始め ている.お絵描きの中で自分の名前やママ,パパ と書いている幼児が多い.男の子は恐竜や虫の絵 を書いたときに上にその名前を書こうとしている

姿が見られる.

【B園】「あいうえお表」を教室に掲示している のでそれを見て自分の名前を書こうとしている幼 児が多い.図2「どうぶつかけっこ」のように自 分の名前以外の文字を書ける幼児もいる.

B園では,毎朝日直の年長児を園長の横に座ら せ,一緒にホワイトボードに出欠を書かせてい る.ホワイトボードにすることで,幼児が間違え ても消せる環境を作っている.文字を間違えるこ とで書くことを嫌いにさせるのではなく,失敗を 恐れない気持ちを育もうとしている.なかには,

文字に興味ない幼児もいるが日直の時は園長先生 と一緒に書くことで文字に親しむ環境を設けてい る.日直の年長児を園長の右側に立たせるように することで,文は左から右に書いていくという法 則を体得させるようにしている.半数以上の幼児 は日にち,曜日,数字は書けている.しかし,数 字では6と9が逆向きになってしまったり,7の 書き順や,カタカナの「カ」と「か」を間違えて しまったりするなど,確実な文字の習得はまだで きていない様子が散見される.

【C園】文字指導はひらがな中心で,カタカナ や漢字の指導は行っていない.図3のように,絵 本を借りるときに「図書カード」に本の名前を書 いたり,遊びの中で書いたりしている姿を見る.

何冊も借りていくうちに,もっときれいにカード に書きたいという気持ちが芽生え,練習帳を用い て練習したがる幼児もいるという.時折,漢字を 示してルビを振っている.絵日記でも自分の思い を書ける幼児がいる.

書字に関する指導は,不定期であるが,保育時 間が余った時に『ひらがなと数字』(フレーベル 館)という練習帳を用いて行っている.

図2 B園 年長児の書字例「どうぶつかけっこ」

(5)

【D園】読みの指導が中心で書きの指導はあま り行っていないが,年長だけ1学期のうちにテキ スト使って書きの学習を少し行う.漢数字のよう に直線の多い漢字で手の練習を行ってから曲線の 多いひらがなを練習するようにしている.

【E園】ほとんどの幼児が書こうとしている.

自由時間で職員室にきて文字を書きたがる幼児も いる.友達に手紙を書くときや,劇の看板,自分 の作品に名前を書く時に文字を書こうとしている ことが多い.ただし,文字を書くという指導は 行っていない.

(5) 教室にはどのような筆記具を置いています か.

【A園】普段は色鉛筆を使用し,活動の中では クレヨンを使用している.年長の1月頃から鉛筆 を使用し始める.

【B園】年長の5月頃,全員に三角鉛筆や消し ゴムが入っている筆箱セットを配付している.ま た,遊びの中でも使えるように,色鉛筆やクレヨ ンを置いている.使いたいと言われたときにはマ ジックを貸している.

文字を書きたいという幼児には,水ペンを貸し 出すようにしている.教室内においておくのでは なく,自由時間などに幼児が文字を書きたいと 言ってきたら貸し出している.水ペンを用意して いる理由は,文字を書いて間違えたというマイナ スの気持ちを無くすために,何度も書き直しがで きるからである.幼児は,水ペンの使用時には,

書き順が示されたひらがなシートを用いて書いて いる.文字に興味ない幼児には,このひらがな シートから「自分の名前あるかな」などと声掛け をして,自分に一番身近なことから文字への関心

を高める工夫をしている.

【C園】鉛筆,マーカー,クレヨン(太いもの を書く時に使用).まずは鉛筆で書かせてからそ の後にマーカーやクレヨンで太く書かせるように している.

【D園】持ち方は教えていないが鉛筆.消しゴ ム,クレヨンを置いている.色鉛筆は置いていな い.

【E園】ペン(油性,水性),色鉛筆,必要に応 じて鉛筆を置いている.

(6) 子供が間違えた筆順で文字を書いていた時 は直していますか.

【A園】直さない.「これ何書いたの?」と聞い て書こうとした気持ちは認める.「向きをこっちに するともっと上手に見えるんじゃない?」という ような声かけはしている.年長1月から鉛筆の指 導を始めるので筆順も伝えていこうと考えている.

【B園】保育者の目の前で書いているときは直 す.出し物の看板など,作品を書いて持ってきた ときは書こうとした気持ちを尊重して直していな い.

近年3歳児になっても箸を使うことができず,

これに伴いペンの持ち方が身につかないという現 状がある.そのため,箸やペンを持ったり手先の 器用さを身につけたりするために,小さいうちか ら身体動作を大きくする活動を取り入れている.

例えば,教室内に玉入れの遊び道具や,校庭にも ネット,ゴム,ひも登りのようなしかけを設置す ることにより,幼児はこれらを活用した遊びを通 して,必然的に腕を大きく動かすようになる.

【C園】直していない.しかし,ワークをやる ときに筆順に注意して行うことで,筆順というも のがあるということを認識させている.筆順通り に書いた方が書きやすいということに気づいても らえば良い.まずは文字の形を覚えてから,筆順 通りに書く方がきれいに書けるということを知っ てもらうようにしている.

【D園】書きの指導では,子どもが文字で何か を伝えたいという気持ちを大切しているため,書 き順やいわゆる鏡文字のように文字が反転してい たりしてもあまり直していない.

【E園】筆順は直していない.間違えた筆順で も「違うよ」と否定はしない.時期,幼児の状 況,場面によって変えている.幼児から正しい書 き順を教えてと言われたら教えるようにしてい る.

図3 C園 図書カード

(6)

(7) 指導計画の中で小学校入学(接続期カリキュ ラム)を意識した指導内容はありますか.

【A園】小学校の先生方から入学前に文字が書 けるようにして欲しい等といった学習面の要望を 言われることはあまりない.しかし,年長の1月 以降になると昼寝の時間を短くして,その時間を 活用して文字に関する指導を始めていく.

【B園】幼児語に対して声掛けを工夫して修正 する.たとえば,「親指」を「お母さん指」とい う幼児に対しては,言い方を否定するのではな く,「こういう言い方もあるよ」と伝えている.

【C園】子供たちが目にするものは全てひらが なと絵で示し,文字環境が生活の中にあるように している.

【D園】かな文字や漢字の読みの指導に力を入 れている.「幼児期までに育ってほしい10の姿」

を意識している.幼児期に身につけさせたいこと として,特に道徳心,しつけを根底に置いて保育 を行っている.D園では「勉強したい」という同 じ方向を向いた幼児が多いが,小学校以降の生活 を見据えて多様性の中で生活していくためのヒン トを与えるようにしている.

【E園】文京区では全園で接続期カリキュラム を始めている.10月下旬からの指導計画の中で,

「生活する力」「人との関わり」「学びの芽生え」

と項目を立てて内容を作っている.例えば,「遊 びの中で数や文字に触れることを通して,興味,

関心をもち,遊びに取り入れるようにする」など がある.

(8) 言葉の領域における幼小の接続について何 かお考えはありますか.

【A園】春に計画内容を小学校から教えてもら い,その際に小学校からの要望に応えるようにし ている.要望としては,活動よりも集団生活にお いてのメリハリをつけられる幼児の育成に力を入 れて欲しいと言われている.

【B園】小学校では決まった順番で教えている が,幼児期には子供の興味のあることから必要に 応じて知恵を育ててあげたいと考えている.小学 校では押してだめなら引いてみるなど,子供の柔 軟な思考を引き出して欲しい.

【C園】「あ」は「あ」だよと教えずに,「これ は何?」と幼児の方から言われたらカルタ文字な どを見せて教えてあげている.そうすることで,

自分から書こうとする気持ちになってくる.C園 では,しっかりとした文字指導は小学校にあがっ

てから行って欲しいと考えている.

【D園】現代では幼稚園と小学校の接続をス ロープにしたがるが,段差は無くさない方が良い という考えている.段差があるからこそ成長でき るという.支援が必要な幼児にはスロープにして あげる必要はある.小1プロブレムでも挙げられ ている,授業中に座っていられないというのは親 の責任でもあると考える.しかし,核家族が増え ているから,幼稚園でしつけをやってあげたらそ の幼児のためにもなると考え,しつけも幼稚園の 段階から行っている.その中で,自由とわがまま とは少し違うという認識をもたせるような指導を 行っている.

【E園】幼児期に十分話を聞いてもらったり,

思い出せたりすることがとても大切だと考えてい る.気持ちを自分なりの言葉で話したり,考えた ことを伝えたいという意欲をもてたりする環境の 中で,保育を展開することが小学校入学後に繋が ると考えている.

2.保育観察記録

【A園】

自由時間の後に言葉集めゲームの時間が設けら れていた.これは,図4に示したように,1人ず つ「あ」~「ん」までのひらがなカードを自分の前 に広げ,保育者が読み上げて提示したカードと同 じ文字を取るという音声法に基づいたゲームであ る(注4).

その後,発展的な内容として,広げた文字の中 から保育者が「海の生き物を沢山見つけて横に置 きましょう」などと指示をして,幼児は「い」

「る」「か」と3枚のカードを使用して「いるか」

を完成させていく.

図4 A園「ひらがなカード」

(7)

A園の年長クラスは,クラス目標を子供たちで 話し合って決めたそうだ.教室に先生が以下のよ うにひらがなで書いて掲示していた.

①できないこともあきらめずにがんばる

②ちいさいおともだちにやさしくする

③ともだちやものをたいせつにする

自由保育では,活字の本を声に出しながら読め ている幼児がいる.また,世界の童話かるたを子 どもたち同士で読みあって遊んでいる姿もみられ た.

A園では,図5のように保育室のホワイトボー ドには「師走」の表記があり,日付や天気が全て 漢字で書かれていた.

【B園】一律に文字教育するのではなく,個々 の文字習得状況を丁寧に確認していた.

幼児に対して活動内容を文字で示すときは,全 体を集めてから大きなホワイトボードに全てひら がなで示していた.長音記号はひらがなに直して 書くようにしている.

例えば,図6のように,小学校のような時程を マグネットで作成したり,絵とひらがなを使って 掲示したりするようにしている.

文字を書くことについては,園長の目の前で書 いている時には,ペンの持ち方や字の誤りをその 場で直していた.ペンの持ち方は,6月と12月 に一人ずつ持ち方調べを行っているとのことで あった.ペンの持ち方は,幼児が理解しやすいよ うに,お父さん指とお母さん指でしっかり持つと いう指導を行っている.小学校入学までに,ペン の持ち方を習得させるため,幼児が目する保育室 内に「鉛筆の持ち方」を図示していた.

ひらがなは,「む」など曲線のある文字が多く,

カタカナに比べて手首を使って書く必要があるた め難易度が高い.そのため,年長時から数字の 6,7,8などを書いてみるなど,手首を使うこと を意識した遊びを取り入れるようにしている.

【C園】C園では,ピアノの練習をする際,図 7のように前に楽譜を貼り,小学校と同様に指番 号や音階を記して,子供たち同士で教え合いなが ら弾いている様子が見られた.

C園では文字教育に関して,生活していて文字 が読めたら生活が豊かになるという気持ちを知ら せることを意識している.そのために,教室内な ど,文字環境が周りにあるようにしている.たと えば,C園でよく採れる綿の実を玄関に飾ってい た.その際に図8のようにひらがなによる表示と,

綿の実のことを知るための本も添えて展示してい た.本は物語だけではなく,図鑑のように知識,

情報を得る役割もあるということを伝えている.

図5 A園 保育室ホワイトボード日付表記

図6 B園 時程の表記

図7 C園 ピアノ練習の楽譜

(8)

また,図9のように遠足に向けて事前に保育者 が公園の植物の写真を撮り,植物の名前をひらが なで書いて幼児が読めるように掲示していた.絵 だけではなく文字も書くことで視覚的に訴えてい るという.

C園では鉛筆の持ち方指導も練習帳を書いてい る中で直すように指導している.年少の3学期か ら持ち方指導を行っていて,持ち方は指の間にペ ンを入れて持つという指導方法を取り入れてい た.鉛筆は使いたいときにいつでも使用できるよ うにクラスの人数分用意して教室に置いていた.

練習帳の指導では「これが正しい字の形だよ」と 教えるために使用しているのであって,必ずひら がなを全部読み書きできるようにならなくても良 いという方針である.書きの指導の際には,「あ」

は「あ」だよとは教えないようにしているとい う.「これは何?」と子供の方から言われたらカ ルタ文字などを見せて教えてあげている.そうす

ることで,自分から書こうとする気持ちになって くると考えている.

【D園】前述のとおり漢字教育に力を入れてい るため,漢字で書かれた名前カードによってフ ラッシュカード形式で出欠を取っていた.漢字で 書かれた名前カードを見て,自分の名前を大声で 言った後,その日の体調も伝える.

また,フラッシュカードによって小学校で学習 する「規則」「損」「増える」などの漢字を読んで いた.ここでは日常生活での使用頻度の高い語句 から選んでいる.このように,E園では,50音図 やひらがな一字一字を意識させていくのではな く,言葉や文で指導していくといういわゆる語形 法を採用している(注4).

D園では保育の中で絵本を使用せず,保育室に 多くの絵本を置いていない.また,紹介された絵 本には図10のような漢字が用いられている絵本 を使用していた.絵本の中には小学校の常用漢字 に含まれていない漢字も使用されていた.最初は 隣で絵本を一緒に読むが,その後は読み聞かせを するのではなく2歳児でもすでに一人で全部読ん でいるという.絵本は全て拡大コピーして使用し ていた.

【E園】E園では,年長児のほとんどがひらが なと数字は読めている.出席ボードにひらがなで 表記された名前のマグネットが貼付されており,

登園してきた幼児は自分たちで出席の方へ動かし ている.また,B園の図6のように,小学校と同 様の時程の表記や声の大きさ指標を示す図表が掲 示されていた.

図8 C園「わたのみ」の展示

図9 C園 公園の植物

図10 D園 漢字が使用された絵本

(9)

図11のように,保育の活動内容を示す際にひ らがなでホワイトボードに書いていた.ここでは クラスで選んだ絵本に基づいて行う劇の内容が示 されている.

さらに教室内の言語環境として,年少からロッ カーはひらがなの名前シールを用いている.年 少,年中はマークと色を用いて文字が読めなくて も自分の場所がわかるようにしている.年長から はひらがな名前シールのみにしている.

図12のように文房具や遊具の片付けをする場 所に絵や写真と併せてひらがな表記をしておくと いった工夫がされている.

こうして自然に文字と触れることで実物とひら がなが次第に一致するようになり,文字の習得に 繋がるという.

Ⅳ.考察

以上,本研究では幼小接続のためのアプローチ カリキュラムとしての文字教育の実態について調 査してきた.インタビューの回答結果について,

(1)の回答結果は,先行研究の通り,文字(ひら がな)は小学校入学前に多くの幼児が読めている という現状だった.しかし,カタカナは読めない 幼児が多く,1園だけ漢字指導を行っている特殊 な園もあった.

こうした幼児の読字を促している要因として,

(2)での言葉遊びについての回答にみられるよう に,絵本の読み聞かせの他に言葉集めゲーム,カ ルタなどそれぞれの園で文字に親しむ工夫がなさ れていたことが挙げられる.

加えて,(3)の文字環境についての回答では,

絵とひらがなを併用して語形法に基づいて掲示す る工夫がなされていた.たとえば,ロッカーの名 前シールは,年中までひらがなの名前とマークを 組み合わせていたが,年長からはマークを取り,

ひらがな表記だけにするといった工夫が全ての園 で見られた.どの園でもひらがなの「あいうえお 表」が掲示されていたように,補助的に音声法に よって文字に親しむ文字環境を与えている.

これまでみてきたような読みの指導に比べて,

(4)の書きの指導についての回答は,各幼稚園の 指導に大きな差違が見られた.どの園でも書きの 指導は積極的には行っておらず,幼児たちが遊び の中で書きたいと思った時に書くという方針であ る.一方で,練習帳などのテキストを用いた指導 を行っているのは2園(C園,D園)のみであり,

D園では年長の1学期に少し扱う程度であった.

(5)の筆記具についての回答は,「あだち幼保 小接続期カリキュラム」において,「発達に合わ せて,クレヨン,ペン,鉛筆,消しゴム,紙など を準備しておきましょう」と示されているよう に,多くの園で多種類の筆記具が用意されてお り,幼児が自由に選べる環境が整えられていた.

また,「あだち5歳児カリキュラム」に示され た年長児の年度の後半から取り組む「鉛筆など筆 記用具の正しい持ち方について,一人一人状況を 受け止め,丁寧に指導しましょう」については,

小学校で指導するべきという意識が強く,その指 導には一律に消極的であった.

さらに,(6)の書き順の指導に関する回答は,

1つの園が気付いた時にのみ修正するという程度 であり,他の園では指導していなかった.どの園

図11 E園 劇の内容を示したホワイトボード

図12 E園 文房具の表記

(10)

でも共通しているのは,幼児が文字を書こうとし た気持ちを尊重しているため,あまり書き順には こだわっていないということである.

(7)および(8)の接続期を意識したカリキュ ラムの特徴に関する回答では,小学校を見据えた 保育の必要性を感じており,各園が意識的に年長 児から小学校へ向けた接続カリキュラムに取り組 んでいることが確認できた.しかしながら,文字 教育に限定すれば,5歳児の後期に特別なカリ キュラムを設定しているケースは少ないという結 果が得られた.

冒頭で示したように『あだち幼保小接続期カリ キュラム』では,「なるべく丁寧に書かせるよう にすることが大切」,「鉛筆など筆記具の正しい持 ち方について,一人一人の状況を受け止め,丁寧 に指導しましょう」については,これを積極的に 指導している様子は窺えなかった.

V.結語

以上みてきたように,幼稚園・保育所では,

「幼稚園教育要領」に示されているように,生活 の中で文字に触れるような環境づくりの工夫がさ れている.こうした幼稚園,保育所の取り組みが 幼児の円滑な読字の習得に結びついているといえ る.

その一方で,子どもが文字を書こうとしている 気持ちを尊重するため,C園を除くほとんどの園 で書き順や,筆記具の持ち方などの指導は小学校 で行うべきと考えている傾向がみられた.つま り,書字教育について『あだち幼保小接続期カリ キュラム』で具体的な内容が明示されているもの の,インタビューにおける「小学校にあがってか ら」という言葉に象徴されているように,書字に 関するアプローチカリキュラムが十分に意識され ていない現状が確認できた.

このように,文字教育に関して幼児教育から小 学校教育までの一貫したカリキュラムを細分化し て考える際,その間に「接続期」を設定してカリ キュラムを考えるのではなく,依然として年長児 3月までの「幼児教育」と,小学校1年4月以降 の「小学校教育」という二分法的な考え方が根強 いことが確認できた.

こうした二分法から脱却し,幼小接続問題を解 消するためには,小学校のスタートカリキュラム と同様に,幼稚園や保育所がアプローチカリキュ ラムを意識した具体的なカリキュラムの編成が求

められる.

文字教育について言えば,小学校教育を円滑に スタートするためには,アプローチカリキュラム の一環として,幼児の興味,発達段階に応じて,

筆順,筆記具の持ち方,字形に注意させることも 取り入れる必要があろう.その際,『あだち幼保 小接続期カリキュラム』が示すように,「一人一 人の状況を受け止め」つつ実践していくことが不 可欠である.

謝辞

ご協力いただいた,幼稚園および保育所にみな さまに感謝いたします.

付記

本報告は,帝京科学大学教育人間科学部学校教 育学科における令和元年度卒業論文(今野佑香

「幼小の接続期における文字教育の現状」)に加 筆,修正をおこなったものである.

1)「小1プロブレム」とは,小学校に入学した ばかりの児童が,授業中に教室を立ち歩いた り,集団行動をとれなかったり,人の話を聞 けなかったりすることが数か月以上続いて収 まらない事態のことである.

2)文字教育とは,文字を「書くこと」および

「読むこと」を指し示しているが,本研究で は「視覚的な通信活動のために言語の視覚的 表現として文字の形を実現し,また表された 字形連続を言語として理解する能力を開発し 学習を助長する支援活動」(林,1988,p822

~824)として定義しておく.

3)「あだち幼保小接続期カリキュラム」では,

年長「5歳児プログラム」において,「年度 の後半から」という記述があり,10月以降 をアプローチカリキュラムとして設定してい るとみなすことができる.

4)「 音 声 法(phonic method)」 と「 語 形 法

(wholewordmethod)」は(須田,1967)に よって紹介された文字指導の二つの理論であ る.村田(1974,p.78)によれば,音声法が,

「文字と音声の一つ一つの連合によって読み

教育を考える」立場であるのに対して,語形

法は,「語全体の文字群の構成する形態が読

みの教育・学習の単位だと主張する」立場で

(11)

ある.

参考文献

足立区教育委員会(2018).『あだち幼保小接続期 カリキュラム-幼児教育から小学校教育への 滑らかな移行のために-』

林大(1988)「文字教育」,国語教育研究編『国語 教育研究大辞典』,東京:明治図書.

国立教育政策研究所(2017).『幼小接続期の育 ち・学びと幼児教育の質に関する研究 報告 書』

文部科学省(2018).『幼稚園教育要領解説』.東 京:フレーベル館.

村田孝次(1974).『幼児の書きことば』.東京:

培風館.

お茶の水女子大学附属幼稚園・小学校・中学校・

子ども発達教育研究センター(2008).『「接 続期」をつくる』.東京:東洋館出版社.

太田静佳ほか(2018).「幼稚園年長児におけるひ らがな読み書きの習得度」.『音声言語医学』.

59,9-15.

島村直己,三神廣子(1994).「幼児のひらがなの 習得-国立国語研究所の1967年の調査との 比較を通して-」.『教育心理学研究』.42

(1),70-76.

須田清(1967).『かな文字の教え方』.東京:麦 書房.

横井紘子(2007).「幼小連携における「接続期」

の創造と展開」.『お茶の水女子大学子ども発 達教育研究センター紀要』.4,45-52.

幼児期の教育と小学校教育の円滑な接続の在り方

に関する調査研究協力者会議(2010).『幼児

期の教育と小学校教育の円滑な接続の在り方

について(報告)』.

(12)

参照

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