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MRSA による偽膜性腸炎の 1 例 川崎医科大学附属川崎病院内科

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Academic year: 2021

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(1)

メ チ シ リ ン・セ フ ェ ム 耐 性 黄 色 ブ ド ウ 球 菌

( methicillin cephem resistant staphylococcus aureus;以下 MRSA)による腸炎は消化管手術後 の発症が多く,激しい水様下痢や小腸の麻痺性イ レウスを来たし,敗血症や多臓器不全を呈すると 重症化,致死的な転帰をたどることが知られてい る

1)

.しかし,報告の多くは術後感染例で,それ以 外の原因による症例の報告は少ない

2)3)

.今回私ど もは,尿路感染症の治療終了後 6 日目に水様下痢 で発症,麻痺性イレウス,敗血症を合併し,急激 な転帰をたどった MRSA による偽膜性腸炎の 1 例を経験したので文献的考察を交え報告する.

症例は 47 歳女性.精神発達遅滞,うつ病のため 紹介医に長期間入院中であった.今回は 2001 年 5 月 21 日から 39℃ の発熱が出現,尿路感染症とし て levofloxacin(LVFX)300mg ! 日の投与を受けた が解熱しないため,5 月 25 日治療目的で当院紹介 入院となった.入院後,尿検査において白血球が 100 以上 ! HPF と多数で,末梢血検査でも白血球 数 11,600 ! µ l,CRP 19.19mg ! dl と炎症反応の亢進 を 認 め た こ と か ら,尿 路 感 染 症 と 診 断 し,

imipenem ! cirastatin(IPM ! CS)1g ! 日の投与を開 始,6 日間の投与で尿所見と炎症反応の改善を認

めたため,IPM! CS 投与を中止した.しかし,投与 中止 6 日目の 6 月 6 日から突然の水様性下痢と 39℃ 以上の高熱が出現した.理学所見では軽度の 腹部膨満が認められるのみであった.尿路感染症 に対し抗菌薬投与を行った病歴があるため,抗菌 薬起因性腸炎を疑い,咽頭ぬぐい液と便の培養を 行うと共に便中 Clostridium difficile 抗原(以下 CD 抗原) 検査を行ったが CD 抗原は陰性であった.血 液検査(Table 1)で白血球数 17,400 ! µ l,CRP 1.53 mg! dl と炎症反応の亢進を認めたため,細菌性腸 炎を考え補液と fosphomicin(FOM)4g ! 日の経口 投与を開始した.しかし,翌 6 月 7 日(第 2 病日)

朝には腹部膨満の増悪,腸蠕動音の亢進が出現,

炎症反応は白血球数 7,100 ! µ l と低下傾向を示し たが,CRP は 27.61mg ! dl と悪化を認めていた

(Fig. 1).また,腹部単純写真(Fig. 2A)では小腸 の拡張像を,腹部 CT(Fig. 2B)では腸管の拡張と 壁の肥厚,腸管内の液体貯留を認め,麻痺性イレ ウスを示唆する所見であった.急激な症状の悪化 と麻痺性イレウスを呈していることから MRSA 腸炎を疑い,便培養の結果を待たずに vancomy- cin(VCM)経口投与を開始した.しかし第 2 病日 夜から血圧低下,意識レベル,尿量の低下など ショックを呈し,昇圧剤,補液などの全身管理に もかかわらず回復せず,第 3 病日の 6 月 8 日に死 亡された.ご家族の同意を得て病理解剖を行った ところ,小腸全体は偽膜に覆われ (Fig. 3A) ,病理 組織像では偽膜の付着とその表面には H-E 染色

MRSA による偽膜性腸炎の 1 例

川崎医科大学附属川崎病院内科

藤田 和恵 本多 宣裕 栗原 武幸 大場 秀夫 沖本 二郎

(平成 16 年 7 月 6 日受付)

(平成 16 年 7 月 23 日受理)

別刷請求先:(〒700―8505)岡山市中山下 2―1―80 川崎医科大学附属川崎病院内科

藤田 和恵

pseudomembranous enterocolitis, MRSA

Key words:

(2)

Table  1 Laboratory data on June 7

Electrolytes Blood chemistry

Peripheral blood

  Na  137 mEq/l

  TP  5.5 g/dl

  WBC  7,100 /µl

  K  2.9 mEq/l

  Alb  2.9 g/dl

  Neut.  95.7 %

  Cl  100 mEq/l

  T.Bil.  0.6 mg/dl

  Lym.  1.7 %

Urinalysis  Sugar  (−)

  γ -GTP  19 U/l

  Eo.  0.8 %

  Protein (−)

  ALP  153 U/l

  Mono.  1.6 %

  WBC  5―9 /HPF

  LAP  34 U/l

  Baso.  0.1 %

  RBC  1―4 /HPF

  GOT  37 U/l

  RBC  446 × 10

4

 / µ l

Culture

  GPT  36 U/l

  Hb.  11.6 g/dl

  Throat  MRSA 1 +

  LDH  284 U/l

  Ht.  36.9 %

  Stool  MRSA 2 +

  ChE  75 U/l

  Plt.  37.8 × 10

4

 / µ l

  Blood  MRSA 1 +

  Crn  0.71 mg/dl

  CRP  27.61 mg/dl

  BUN  20.5 mg/dl

  BS  121 mg/dl

で球菌の存在が認められた (Fig. 3B) .その後,生 前行った咽頭ぬぐい液と便培養から MRSA が培 養され,また剖検時に行った小腸偽膜,心臓血か ら の 培 養 で も MRSA が 検 出 さ れ た こ と か ら,

MRSA による偽膜性腸炎と診断した.その他の臓

器には明らかな異常は認められなかった.

本症例は抗菌薬投与終了後 6 日目に突然の発

熱,水様下痢を来たし,画像上麻痺性イレウスを

認めたことから,MRSA 腸炎を疑い VCM 経口投

Fig. 1 Clinical course

(3)

与を開始したものの敗血症性ショックを呈し死亡 され, 病理解剖にて MRSA による偽膜性腸炎と確 定診断された症例である.

MRSA 腸炎は抗菌薬関連腸炎として C. difficile と共に重要な起炎菌のひとつである

3)

.MRSA は 主として第 3 世代セフェム系抗菌薬投与後の小腸 に増殖,エンテロトキシンや TSST-1 などの毒素 を産生して病変を形成,胃切除後などの腹部手術 後の男性に多くみられるとされる

1)

.本邦におけ る MRSA 腸炎の報告は片山ら

4)

や加藤ら

5)

による 1986 年の報告が最初で,その後同様の報告が多く なされたが,その多くは手術例に発症した症例の 報告である. しかし松尾ら

2)

は内科領域の疾患を有 する患者にも MRSA 腸炎患者が多く存在するこ とを指摘し, 稲松ら

3)

による内科系病棟入院中に発 症した抗菌薬関連腸炎 88 例の検討では,MRSA 単独検出例は 18.2% で,基礎疾患は悪性腫瘍,神 経疾患,血液疾患などが多く,抗菌薬投与理由は 呼吸器感染症が最も多かったと記載されている.

しかし,これらはすべて抗菌薬投与中に腸炎を発 症しており,本症例のような抗菌薬投与終了の後 に発症した例の報告は認められなかったが,抗菌 薬投与終了後に重篤な下痢を診た場合にも,抗菌 薬投与中と同様,MRSA 腸炎の可能性を考えるべ きと思われた. また稲松ら

3)

は内科症例と開腹手術 症例との比較検討を行っており,内科症例では下 痢と共にイレウス徴候やショックに陥った例はな く,下痢症状や全身症状の軽い例が多かったと述 べている.しかし,本症例は下痢発症後急激な転 帰をたどっており,開腹手術を行っていない例で も,重症化する可能性があることに注意を要する と考えられた.

MRSA 腸炎の原因として ! 口腔もしくは鼻腔 を含む上気道に定着・増殖した MRSA の胃への

侵入, " H2 ブロッカー投与などにより胃酸 pH

が上昇し,MRSA が増殖・腸へ侵入, # 抗菌薬投 与による腸内細菌叢の変動および MRSA の選択,

増殖などの機序が考えられている

6)

.上気道への

(A)

Fig. 2 (A)Abdominal radiograph on the day severe watery diarrhea and pyrexia de- veloped shows small bowel dilatation.(B)Abdominal CT scan on the same day shows thickening of the ileal wall and intra-abdominal fluid.

(B)

(4)

MRSA の定着について松尾ら

2)

や渡辺ら

6)

は検討 した症例の多くに,上気道,喀痰から MRSA が検 出されたことを, また Watanabe ら

7)

は同一患者の 気 道 と 便 中 か ら 分 離 さ れ た MRSA に お い て 92.3% が pulsed-field 電気泳動法による分子学的 タイピングの相同性が認められたと報告してい る.本症例では,発熱出現時採取した咽頭ぬぐい 液から MRSA が検出されており, 気道から侵入し た MRSA が原因となり MRSA 腸炎を発症した可 能性が考えられた.

また胃酸と MRSA 腸炎発症の関連について, 松 尾らの検討

2)

では H2 ブロッカー投与もしくは胃 ゾンデ挿入例が 76% に,渡辺らの検討

6)

では 9 例 中 7 例に抗潰瘍剤投与がなされており,その関連 性が示唆されたことを,また鈴木ら

8)

は胃液 pH4 以下で MRSA の発育はなかったことを報告して おり,胃切除後や抗潰瘍剤投与中で低酸状態にあ ると考えられる患者に対して注意を要すると考え られた.しかし本症例では H2 ブロッカーや制酸 剤などの投与はなされておらず関連は認められな

かった.

治療は,投与されている抗菌薬の中止と VCM 経口投与が第一選択とされる

1)

.早期に適切な診 断, 治療が行われれば予後は良好とされるが

3)

,本 症例のように,急激な転帰をたどる症例もあり,

輸液などの全身管理を行いながら厳重な管理が必 要な場合があると考えられた.

謝辞:本稿を終えるに当たり,貴重な御指導・御助言賜 りました,当院病理部 物部泰昌先生,消化器・肝臓病セ ンター 吉田展啓先生に深謝いたします.

1)吉岡政洋,鈴木紘一:抗生物質起因性腸炎―診断 の ポ イ ン ト と 対 策―.Medical Practice 1997;

14:1109―12.

2)松尾収二,相原雅典,高橋 浩:便よりメチシリ ン耐性黄色ブドウ球菌が検出された 34 患者の臨 床的および病理学的検討.感染症誌 1991;65:

1394―402.

3)稲松孝思,巨島文子,増田義重,深山牧子,安達 桂子,竹島寿男,他:MRSA 腸炎.日本臨床 1992;50:1087―92.

4)片山隆市,桜井健司,西満 正:胃癌手術後の多

(A)

Fig . 3 ( A )Macroscopic appearance of pseudomembranous enteritis . Scattered plaques are seen.(B)Microscopic specimen showing pseudomembranous enteritis.

The pseudomembrane was composed of mucus, fibrin, necrotic epithelial debris and inflammatory cells.(H-E stain, B×100)

(B)

(5)

剤耐性黄色ブドウ球菌による下痢症.日消外科誌 1986;19:1333.

5)加藤一彦,滝口 進,片山憲侍,森 潔,久代裕 史,趙 茂,他:MRSA による術後重症腸管感染 症.日臨外会誌 1986;48:1544.

6)渡辺 浩,佐藤哲史,栗田伸一,佐藤晃嘉,吉嶺 裕之,田中宏史,他:MRSA 便培養陽性 18 例の臨 床的検討―特に腸炎発症例と定着症例の比較に ついて―.感染症誌 1996;70:1170―5.

7)Watanabe H, Masaki H, Asoh N , Watanabe K , Oishi K, Kobayashi S,

et al.

:Enterocolitis caused by methicillin-resistant

Staphylococcus aureus

: molecular characterization of respiratory and di- gestive tract isolates. Microbiol Immunol 2001;

45:629―34.

8)鈴木章一:胃液酸度と MRSA の発育に関する研 究.日医大誌 1994;61:563―71.

A Case of Pseudomembranous Enterocolitis Caused by Methicillin-resistant Staphylococcus aureus

Kazue FUJITA, Yoshihiro HONDA, Takeyuki KURIHARA, Hideo OHBA & Niro OKIMOTO Department of Internal Medicine, Kawasaki Medical School, Kawasaki Hospital

A 47-year-old woman was hospitalized because of urinary-tract infection. She was treated with antibiotics for 6 days. However, severe watery diarrhea and pyrexia developed 6 days after stopping administration of antibiotics. Stool, throat and blood cultures were positive for methicillin-resistant Staphylococcus aureus (MRSA)and negative for Clostridium difficile DI toxin. In spite of administration of VCM, she died of septic shock. At autopsy, macroscopic observation revealed a pseudomembrane in the ileum. MRSA enterocolitis can occur in patients with antibiotic-related diarrhea, and physicians should be aware of its rapid clinical course and possible lethal outcome.

〔J.J.A. Inf. D. 78:905〜909, 2004〕

Table  1 Laboratory data on June 7 ElectrolytesBlood chemistryPeripheral blood   Na  137 mEq/l  TP 5.5 g/dl  WBC  7,100 /µl   K  2.9 mEq/l  Alb 2.9 g/dl  Neut. 95.7 %   Cl  100 mEq/l  T.Bil. 0.6 mg/dl  Lym. 1.7 % Urinalysis  Sugar  (−)  γ -GTP  19 U/l  Eo.
Fig. 2 (A) Abdominal radiograph on the day severe watery diarrhea and pyrexia de- de-veloped shows small bowel dilatation.(B)Abdominal CT scan on the same day shows thickening of the ileal wall and intra-abdominal fluid.
Fig . 3 ( A )Macroscopic appearance of pseudomembranous enteritis . Scattered plaques are seen.(B)Microscopic specimen showing pseudomembranous enteritis.

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