一189一
資 金 フ ロ ー 接 近 法 に 関 す る一 考 察
R.G.ホ ー ト レ イ の 所 説 を 中 心 に し て
鈴 木 満 直
1.は し が き
RG・ ホ ーtト レイ の 研 究 は,あ らた め て 指 摘 す る まで も な く,現 在 で は 傷 だ らけ の 研 究 の 一 つ に な っ て い る。 しか し,な され た 批 判 お よ び 紹 介 の ほ と ん ど は 景 気 変 動 の 観 点 に た っ た も の で あ る。 これ は,景 気 変 動 論 の 研 究 者 と して,特 に そ の ユ ニ ー ク な 非 妥 協 的 純 貨 幣 的 景 気 変 動 論 の 出張 者 と して 有 名 で あ る と こ ろ か ら,当 然 の こ と と思 わ れ る。 批 判 の 代 表 はG・ ハ ー バ ラ ー著
くい
「景気 変 動 論 』 に求 め られ る。
と ころで,他 の観 点 に た つ と き,彼 の研 究 は注 目に値 しない とい え るで あ ろ うか 。 否,注 目す べ き研 究 が,彼 の 『資 本 と雇 用 』 に おい て な され て い
く
る。 そ れ は,資 本 市 場 を資 金 の経 済 循環 の なかで 位 置 づ け,資 本市 場 の経 済 的 お よび金 融 的 役割 を も論 じた もので,こ の よ うな観 点 か ら資本 市 場 を取 り 上 げ た研 究 は,残 念 なが らきわ め て少 な く,私 の知 るか ぎ りで は,ケ イ ソズ
(3)
の 『貨 幣 論 』 と 『一 般 理 論 』 だ け で あ る。 こ の よ うな 意 味 か ら,R・G・ ホ ー
(1)G・Haberler,ProsperityαndDepression,(3rded.1946)・
松 本 達 治 ・加 藤 寛 孝 ・山 本 英 太 郎 ・笹 原 昭 五 訳 。 『景 気 変 動 論 」(東 洋 経 済,昭 和41年)
(2)RG.Hawtrey,CapitalandEmplayment,(Longmans,1937).
(3)J・M・Keynes,ATreatiseonMoneツ,(London:Macmillan,1930).
鬼 頭 仁 三 郎 訳 。 「ケ イ ン ズ 貨 幣 論 』(同 文 論,昭 和8年) J.M.Keynes,TheGeneralTheoryofEmPloyment,lnterestandMoney, (]Lρndon,1936).
塩 野 谷 九 十 九 訳 。 『雇 用 ・利 子 お よ び 貨 幣 の 一 般 理 論 」(東 洋 経 済,昭 和16年) 資 本 市 場 だ け に 関 す る 分 析 上 の ホ ー ト レ イ と ケ イ ン ズ の 最 大 の 相 異 点 は,ブ ロ ー
カ ー に 対 す る 貸 付 金(ブ ロ ー カ ー ズ ・ ロ ー ン)に 関 し て で あ っ て,ホ ー ト レ イ は 重 視 し て い る の に 対 し ケ イ ン ズ は ほ と ん ど 無 視 し て い る 。
一190‑一 商 学 討 究 第19巻 第2号
ト レイ の 研 究 を 検 討 し,問 題 点 を 指 摘 して み る こ と に した 。
2.資 金 の経 済 循 環 モ デ ル
ホ ー トレイ の資 金 の経 済 循環 モ デ ル を紹 介 す る。 モ デル の 内容 に 入 る まえ に,モ デ ル そ の もの に関 す る若 干 の前提 も し くは 仮定 を解 説 してお く。
(1)国 民 経 済 を4グ ル ー プ,す なわ ち産 業(資 本 財 お よび 消費 財 産 業), 個 人 消費 者,証 券 業 者(個 人 の純 投 機 家 を 含 む),お よび銀行 組織 に分 け る。
② 消費 者所 得 を貨 幣 単 位 で表 わ され た社 会 の 全所 得,す なわ ち純 国民 所 得,消 費 者 支 出 を所 得 か らの全 支 出(金 融 的 投 資 を 含む)と 定 義 し,消 費 者 の現 金 残 高 は所 得 か ら供 給 され た通 貨(Currency)と 銀 行 信 用 か らな る現 金 残 高 と考 え る。
賃金 の現 物 給 与,お よび企 業 か ら引 出 され ず 企業 に再 投 資 され た所 得 と し て取 扱 わ れ る利 潤 な どの現 金 で 支払 われ な い所 得 は,所 得 の受 取 りと支 払 の
結 合 と して処 理 され る。 消 費 者現 金 残 高 は 所 得 以外 の証 券 お よび 財産 の販 売,贈 与 な どに よっ て も供 給 され るが,こ れ は 外 部 受取 と して処 理 され る。
企 業 の現 金 残 高 は取 引 目的 の た め に のみ保 有 され,企 業 の費 用 はそ れ に よっ て 支 払 われ るが,そ れ は 資本 の た ん な る形 態 移転 にす ぎな い。 別 個 の企 業 現 金 残 高 を保 有 して い ない企 業 者 は,彼 らの個 人 現金 残 高 は常 に ゼ ロ と して 処 理 され る。
(3)企 業 も し くは 消費 者 が銀 行 組 織 か ら信 用 を供 与 され た と き,そ の 負債 額 を マ イ ナ ス の現金 残 高 と して処 理 し,あ る集 団 の対 銀 行 負債 額 を こえた現 金 残 高 の超 過 分(プ ラス も し くは マ イ ナス)を 純 現 金 残 高 と よぶ 。
モ デル の紹 介 に 入 る。
A… …産 出高(国 民 総 生 産 額GNPに 相当 す る) A'… …最 終 購 入 者 に 対 す る売 上 高
(4)企 業利潤は企業者個人の消費者所得の一部 とみなされるか ら,企 業貯蓄は ケイ ンズと同様に事実上無視 される。
資金 フロー接近法 に関す る一考察(鈴 木) 一191一 B… …消 費 者所 得
B'… …消 費 者 支 出
C… …全 産 業(証 券業 者 も含 む)の 現 金残 高 . C'… …消 費 者 の現 金 残 高
D… …全 産業(証 券 業 者 も含 む)の 対 銀行 負債 額 D'… …消 費 者 の対 銀行 負債 額
(5)
M・=C‑D… … 全 産 業(証 券 業 者 も含 む)の 純 現 金 残 高 M'=C'‑DO… … 消 費 者 の 純 現 金 残 高
t期 間 中 にC,C',D,D',M,M'がc,c',a,a',m,m'だ け 増 加(若 干 の もの は マ イ ナ ス)し た と し よ う。
消 費 者 所 得 の 消 費 者 支 出 を こ え た 超 過 分(B‑‑B')tは,c'‑d'も し くはmt, す な わ ち 消 費 者 純 現 金 残 高 の 増 加 に 等 しい 。
産 出 高 の 最 終 購 入 者 に 対 す る売 上 高 を こ え た 超 過 分(A‑A')tは,経 営 資 本(WorkingCapital)に 対 す る 追 加 分 に 等 しい 。 貨 幣 単 位 で 表 わ され た 経 営 資 本 をEと し,t期 間 中 の経 営 資 本 の 増 分 をeと す れ ぽ,EはE+eと
な り,
(A‑A')t・ ・e
な お,最 終 購 入 者 とは,消 費 財 の場 合,消 費 の た め に そ の 財 を 購 入 す る経 済 主 体,設 備 も し くは 資 本 財 の 場 合,設 備 と し て 使 用 す る た め に そ の 財 を
ゴ ナ
購 入 す る 経 済 主 体 の ことで あ る。 したが っ て,最 終 購 入 者 に 対 す る売 上 高 A'は そ れ ら最 終 購 入 者 に対 す る販 売総 額 を意 味 す る。くり
'
(5)以 下,全 産 業は証券業 者を含 み,産 業は資本財産業 と消費者産 業のみ とす る。
㈲ 自己 の生産 物を 消費 もし くは使用す る経 済主体 は彼 ら自身か らの最終購入者 と して 処 理 され る。
(7)ホ ー トレイは,国 民所得 の計算に あた って,中 間生 産物お よび原料 の企業間 取 引に よる所 得 の重複 を避け るために,そ れ らの仕入 れを コス トと考 えず,産 出高 AをGNPと して定義 す る。 しか し,中 間生産物 お よび原料 の企業間 取 引の結果
として表 われ る経営資 本 の増 減は所 得に 関係を有 す るので, 産 出高A一 最終購入者 に対 す る売上 高A'=e
とし,θ が経営資 本変動 の調整項 目と しての役割 を果 してい る。 したが って,ホ*
一192一
商 学 討 究 第19巻 第2号
A'の なか に含 まれ る 最終 購 入 者 に販 売 され る資 本 財 は,一 部 分 は消 費 者 に も販売 され るが,大 部 分 は 企業 に対 して販 売 され る。 これ ら資本 財 は,前 提 に よ り,所 得 か ら購 入 され る もの で は な く,消 費 支 出 の一 部 で もな い。 資
本 か ら 購 入 され る ので あ る。 企 業 の資 本 資 源 は,証 券 の 資本 市 場 へ の 販 売 (新 規 発 行 も し くは 保 有 して い る既 発 行 証券 の販売)に よ って増 大 す る。
資 本 市場 の資 本 資 源 を産 業 の資 本 資 源 か ら区別 す る必 要 が あ る。 資本 市 場 の特 性 は,資 本 資 源 が もっぱ ら証 券 の売 買に活 用 され る こ とに あ る。 資本 市 場 の資 本 は 証券 に のみ 投 資 され るのに対 し,産 業 は証 券 を資 本 市場 に販 売 す る こ とに よ って 資本 を調 達 し,資 本 財 の最終 購 入者 に な るので あ る。 した が って,資 本 市場 は,貯 蓄 す る個 人 投 資 家 と資本 支 出 をす る企 業 を 結 ぶ チ ャ ン ネ ル と して機 能 す るの で あ る。
個 人投 資 家 は 消費 者 で あ り,彼 らの金 融 的 投 資 は 消費 者 支 出 の 一 部 で あ る。1を そ の投 資 額 と し,Hを 財 お よびサ ー ビスに 向け られ る消費 者 支 出 と す れ ば,
B'=H十1
金 融 的投 資1は,株 式,社 債,抵 当証 書 な どの通 常 の意 味 で の証 券 の購 入 ばか りで な く,企 業 の あ る権 利 の 獲 得 な ど も含 む 。企 業 の 未 処 分利 潤 は,企 業 家 に よって金 融的 投 資1を 経 由 しそ の企 業 に再 投 資 され る所 得 と して考 え
る。 個 人投 資 家 は証 券 を売 買す るか ら,金 融 的 投 資1は,純 額,す なわ ち販 売 され た 証 券 を こえ る購 入 され た 証 券 の超 過 分 と して示 され る。
産 業 に よって調 達 され た 資 本 を1'に よって 示す 。 資本 調 達 額1'は,証 券
*一 トレイ 方 式 に よれ ば ,純 国 民 所 得 は(A'+の も し くは(A)‑K'に よ っ て 求 め られ る 。
ケ イ'ンズ 「一 般 理 論 」 に お い て は,使 用 者 費 用Uは,U=(G'‑B')一(G‑A')
と し て 定 義 さ れ る 。 これ は,(他 企 業 に 対 す る 支 払)一(経 営 資 本 の 増 減 分+新 設 備 資 本)+(減 価 償 却 費),す な わ ち(他 企 業 に 対 す る 支 払)一(資 本 の 純 増)と して 理 解 で き る の で,経 営 資 本 の 変 動 は 使 用 者 費 用 お よ び 生 産 物 の 売 上 高Aを 経 由
し て 純 国 民 所 得(A‑U)に 影 響 を 与 え る 。
生 産 物 金 融 を 一 部 門 と す る 金 融 論 の 立 場 か ら は,ケ イ ン ズ 方 式 の 方 が 望 ま し い こ と は い う ま で も な い 。
資 金 フ ロー接近法 に関す る一考 察(鈴 木) 一一一193‑一 の新 規 発 行 お よび 既発 行証 券 の 資本 市 場 へ の販 売 ば か りで な く,金 融 的 投 資 の なか に含 まれ る再 投 資 され た 利潤 も含 む 。 もっ とも,再 投 資 され た 利潤 は 市 場 を経 由す る もので は ない 。 資 本 調達 額 も金 融 的投 資 と同様 に純 額,す な わ ち販 売 され た証 券 マ イ ナス 購 入 も し くは 償還 され た 証 券 に よって 示 され る。 な お,企 業 が消 費 者 に 信 用 を供 与 した と き,彼 は あ る証 券,た とえ ば
「消 費 者 負債 」 とい う証 券 を購 入 した もの と して 処 理 され る。 と ころで,資 本 調達 額1'は,設 備 資本,経 営 資 本 お よび 現金 に分 割 され るゆ え,そ れ に 対 応 して,企 業 者 資本 は,設 備 資 本,経 営 資本 お よび現 金 か ら構 成 され る と す る。
資 本 市 場 は1を 受 取 り,1'を 支 出す る。 そ の 結 果,1と1'と の 差 に 等 し い純 現 金 残 高 の変 化 が 資 本 市場 に 表 わ れ る。 しか し,こ れ は資 本 市場 の全取 引 を 網 羅 す る もの で は な い。 証 券 は企 業 お よび 消費 者 だ け で は な く銀行 に よ
って も売 買 され る。 銀 行 が 企業 に 信 用 を供 与 した と き,全 産 業 の対 銀行 負債 額Dと 全 産 業 の現 金 残 高Cは 同額 だ け増 加 し,全 産 業 の純 現 金 残 高(C一 D),も し くはMに は変 化 はみ られ な い。 しか し,銀 行 が証 券 を購 入 す る とゆ
き,資 本 布場,す なわ ち証 券 業 社 は結 果 的 に は 信用 を供 与 され た こ とに な り Cは 増 大 す る。 他 方,全 産 業 の対 銀行 負債Dに は対 応 した 変 化 は み られ な
いか ら,Mは 同額 だ け増 大 した こ とに な る。
Mの この増 加 は,資 本 市場,す なわ ち証券 業 社 に おけ る 純 現 金 残 高 の増 大 とい う形 を と る。借 入 資金 に よ って証 券 売 買 を営 む 一般 的 慣 習 か らみ て, 証 券業 社 の純 現金 残高 は マ イ ナ ス で あ る。Fに よっ て 証 券 業 者 の対 銀行 負 債 額 を示 す と,証 券 業 者 の純 現 金 残 高 は 一Fと な る。 全 産 業 の純 現 金 残 高 はMで あ るか ら,証 券 業 者 を 除 く産 業,す なわ ち資本 財 お よび消 費 財 産 業 の純 現 金 残 高 はM+Fに な る。 銀行 組 織 に よ って 保 有 され て い る証券 をS
と し,FとSが 彦期 間 中にF+fとS+sに な る とす れ ば,
(8)も し くはDが 減 少 し,Cに 対 応 し た 変 化 が み られ な い か ら,Dの 減 少 だ けM は 増 大 す る 。
一194一
商 学 討 究 第19巻 第2号 (1'‑1)=f+s
資 本設 備 と して使 用 す るた め に,産 業 に よ って購 入 され た 資本 財 をKと し,こ れ か ら 減 価 償 却 分 を 差 引 くと,産 業 の 資本 設 備 の 純 増 加 分 が え られ る。 そ れ を設 備 され た 資 本 と名 付 け れ ば,
設 備 され た 資本=K‑K'
.なお,購 入 され た 資 本 設 備Kは 広 い意 味 に 理 解 され ね ば な らない 。 生 産 設 備 の直 接 費 用 だけ で は な く,資 本 勘 定 に 帰せ られ るべ きす べ て の 支 出,た と
え ば証 券 発 行 に 伴 な う引 受手 数 料 な ど も含 むべ きで あ る と して い る。 他 方, 企 業 に よ って購 入 され た 資 本設 備 と して使 用 す るた め の 資本 財 以外 の財 は, Kで は な くE,す なわ ち経 営 資 本 の なか に 含 まれ る。Kに 関 しては購 入 し
た企 業 は 最終 購 入 者 で あ るが,Eに 関 して は 最終 購 入 者 で は な い。
最 終 購 入 者 に 対 す る売 上 高A'‑K+H
企 業 は,資 本 調 達 額1'と 減価 償 却 額K'と に よっ て 資 本 財 を 購 入 す る。
い ま,Jを 産業 の資 本 財 購入 の た め の利 用 可 能 資金 総 額 とす れ ば, J‑1'+K'
Rを 粗 利 潤,R'を 純 利 潤(仮 定 に よっ て再 投 資 され る)と す れ ば,
R=R'十K'
再 投 資 され る純 利潤 は金 融的 投 資に も資本 調 達 額 に も表 わ れ るか ら,こ の共 通 部 分 を両 者 か ら差 引 くと,1‑R',す なわ ち 資本 市場 が 投 資家 に売 った 証 券,1'‑R',す なわ ち産業 に よ って売 られ た 証 券 が え られ る。 また,r
I'‑R'=J‑RB‑R'=A‑R
あ る企 業 に と って どの程 度 の減 価 償却 額 が適 当 で あ るか は,評 価 の問題 で あ る。 そ れは 各 資 本 設 備 の残 余 期 間 に 関す る予 測 に依 存 す る。 資 本設 備 が廃 棄 され る時 期 は不 確 定 で あ る し,い わ ん や例 外 的 な廃 用 とか災 害 に よ る破 壊 とか の如 き非 自発 的 に してか つ 予 見 不可 能 な原 因 に も とつ く設 備 の価 値 変 化 は計 算 不可 能 で あ る。 そ の結 果,RのR'とK'へ の分割,も し くはJの 1'とK'へ の分割 は 客観 的事 実 の 問題 で は な い とい え る。Kの 減 価 償却 と設
資 金 フ ロー接近 法に関す る一考 察(鈴 木) 一195‑一
備 され た 資 本 へ の 分割 に対 して も,同 じよ うな 問題 が お こ る。 いず れ に せ よ,減 価 償却 額 に誤 算 が あれ ぽ,そ の結 果 と して再 投 資 され る純 利 潤 が 不 正 確 な もの とな る。
産 出高 マ イ ナ ス減価 償却 を産 出高 の純 売 上 高 と名づ け れ ば,そ れ は 消費 者 所得す なわ ち純国民所 得に等 しい。
A̲K'==B
最終購入者に対す る売上高 マイナス減価償却 を最終購入者 に対す る純売上高 と名づければ,そ れ は消費者に売 られた財 プラス設備 され た資本 に等 しい。
ALKLH十K‑K'
産 業 に よって 資本 財 購 入 の た め に使 用 され なか った 資 本 財 購 入 の た め の利 用 可 能 資 金総 額Jの 部分 は,産 業 に お い て他 の資 本 に追 加 され る。 他 の資 本 とは 経 営 資 本 と純 現 金 残 高 か ら構成 され,そ れ を流 動 資 本Lに よっ て表 わ す と,t期 間 中 のLの 増 分1は,
(J‑K)t・=l L=・E十M十F・
1・・e+m+f
消 費 者 支 出 の 一 部Hは,た だ ち に 同 額 の 財 の 販 売 額 に 結 び つ くが,残 余 の 金 融 的 投 資1は,は る か に 迂 回 した ル ー一トを 通 る。 最 初 に 資 本 市 場 に 行 き,そ こで 純 現 金 残 高 の 変 化,す な わ ちf+Sに よ っ て 修 正 され,産 業 に よ っ て 調 達 され た 資 本1'と し て 表 わ れ る 。1'は 減 価 償 却K'と 総 合 さ れ,産 業 の 資 本 財 購 入 の た め の 利 用 可 能 資 金 総 額Jに な る 。 最 後 に,流 動 資 本 の.
増 減 分Lが 決 定 され,Kが 資 本 財 に 支 出 され る。
H十K…A'
H十1=B'
そ れ ゆ え,
B'.̲・A'.‑1.̲K
K'=J‑1'
一196‑‑b商 学 討 究 第19巻 第2号
(B'‑A'十K,)t==(J‑K)t十(1‑1ノ)t
‑1‑f‑‑s
か くて,最 終 購 入 者 に 対 す る純 売 上 高(A'‑K)を こえ た 消 費 者 支 出 の 超 過 分,す な わ ち 需 要 に 結 び つ か な か っ た 消 費 者 支 出 の 部 分(B'一 一A'+K')t は,資 本 調 達 額 と金 融 的 投 資 額 と の 差(1‑1')tと 資 本 調 達 額 と設 備 さ れ た 資 本 と の 差(」‑K)eか ら構 成 され る。
各 種 グ ル ー プ,す な わ ち 産 業,個 人 消 費 者,お よ び 証 券 業 者 も し くは 資 本 市 場 の 純 現 金 残 高,流 動 資 本 お よ び経 営 資 本 を プ ール も し くは ス ト ック と し,消 費 者 所 得 と支 出,産 出 高 と最 終 購 入 者 に 対 す る売 上 高,金 融 的 投 資 額,お よ び 資 本 調 達 額 と設 備 され た 資 本 を 上 述 の 各 種 プ ー ル を 結 び つ け る流 れ,す な わ ち フ ロ ー と し て 考 え る。
≠期 間 中 の あ る プ ー ル に お け る水 準 変 化 は,流 入 と流 出 の 差 で あ る。 あ る グ ル ー プ の 支 払 が 受 取 を 超 過 した と き,彼 らは 現 金 を 放 出 した と い わ れ る 。 逆 に,受 取 が 支 払 を 超 過 した と き,現 金 を 吸 収 した とい わ れ る。
消 費 者 に 関 して は,現 金 の 吸 収 は 消 費 者 所 得 と消 費 者 支 出 の 差 で あ る 。ゼ
吸 収 は,彿'一(B‑B')t 放 出 は,‑m'・=(B'‑B)'
資 本 市 場 に 関 して は,現 金 の 放 出 は ∫ 銀 行 組 織 の 証 券 購 入 に よ る現 金 の 放 出 はS・
f+s・=(1'‑1)̀
銀 行 組 織 と資 本 市 場 に よ る現 金 の 放 出 は,金 融 的 投 資 を こ え た 資 本 調 達 額 の 超 過 分 に 等 しい 。
産 業 に 関 し て は,現 金 の 放 出 は 最 終 購 入 者 に 対 す る売 上 高 を こ え た 産 出 高 の 超 過 分(A‑A')と 資 本 調 達 額 を こ え た 設 備 され た 資 本 の 超 過 分(K‑J) か らな る。
(A‑A')t十(K‑J)t==e‑‑1
す な わ ち,現 金 の 放 出 は,流 動 資 本 の 増 分1を こ え た経 営 資 本 の 超 過 分 βに
資金 フ ロー接近法 に関す る一考察(鈴 木) 一197一 等 しい 。 流 動 資 本 は 経 営 資 本 と現 金 に 関 し て 産 業 に よ っ て つ く られ る 準 備 で あ る。 経 営 資 本 と し て使 用 され な い 部 分 は 現 金 に 追 加 され る 。
産 業 に よ る現 金 の 放 出 は 他 の 方 法 に よ っ て も 示 す こ とが で き る。 産 業 の 現 金 受 取 は,消 費 者 に 対 す る売 上 高Hと 資 本 調 達 額1'か ら な る 。 他 方,支 出 はBで あ る。 現 金 の放 出 は,(B‑H‑1)も し くは(B‑B'+1‑1')。 した が っ て,現 金 の 放 出 は,消 費 者,資 本 市 場,お よ び 銀 行 に よ る現 金 の 吸 収,
ゆ し
す な わ ちm'‑f‑Sに 等 し い 。 A‑B…1(LJ‑lt
B'‑1==H,,.Atdl(か ら (A‑A')一(B‑B')十(JLI)一(J‑‑K)=・o e‑‑m'十f一 トs‑1‑‑O
か く て,
e‑1===m'・ 一一f‑‑s
資 本 市 場 を 含 め た 全 産 業 に 関 し て は,現 金 の 放 出 は,
‑m・=e‑1+f
こ れ は,消 費 者 と 銀 行 に よ る 現 金 の 吸 収 す な わ ちm'‑Sに 等 し い 。
最 後 に 銀 行 組 織 に よ る 現 金 の 放 出 は,消 費 者 と 全 産 業 に よ る 現 金 の 吸 収 に 、 等 し い 。
ε=隅 十 勉'
以 上 述 べ た こ と を 資 金 循 環 を 中 心 に して 整 理 し,図 で 示 す と 第1図 に な る。
く り
第2図 は,ケ イ ン ズ 『一 般 理 論 』 の 資 金 循 環 図 で あ る 。 前 述 した よ うに, 銀 行 の 金 融 的 投 資 と ブ ロ ー カ ー ズ ・ロ ー ンが ホ ー トレイ と比 較 して 欠 如 して
(9)消 費 者が現 金を放 出 して も,そ れ以上 に資本市 場 お よび銀行組織が 現金 を吸収 した場 合,お よび資 本市場が現 金を放 出 して も,そ れ以上 に 消費者 お よび銀行組 織が 現金 を吸収 した場 合 に も,こ の等式 は成 立す る。
ω ホー トレイに よれば,一 部 門の現金残 高の変化は他部 門 の現 金残 高がすべ て逆 変化す るこ とを前提 に してい るが,こ れ は誤 りで あ る。
(1D小 泉 明編著 『マネ ー ・フ ロー』(至 誠 堂,昭 和35年)26‑32頁 参 照。
第19巻 第2号 商 学 討 究
一198一
策1図 ホー トレイの資 金循環 図
︒夢釦梱λーロe︾τ↑ゆ躯友以韓線幕環輔珂八ーロ・寂i映iロト(轍)
↓
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趣 下 命 ト口
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〜
喪福終鼠 笹爆献渥 房翻
資金 フ ロー接近法に 関す る一考察(鈴 木) 一199一
第2図 ケイ ンズ 『一 般理 論」の資金循 環 図
資本市 場(貯 蓄 ・投 資)"
企 業(生 産)
使用者費用u 企業 へ の売上 げAl 一 因 子 費 用F
散 者への売上げA‑Af
A
騨 利 潤 」弛 = ■
竃A
噛 [
投資⊥
圭
貯蓄三皇
家 計 貯蓄S
消費三Σ
因子 費用F ユド お ヘ
エ
い る 。
ま た,以 上 述 べ た 各 種 の 方 程 式 は つ ぎ の よ うに 示 す こ と もで き る。 資 本 市 場 を 含 む 全 産 業 に よ っ て 保 有 され て い る 全 証 券 をU・ 新 規 発 行 額 をNと
し,そ れ ら産 業 の 全 流 動 資 本 をV(V==E+M‑L‑F)と し,t期 間 中 の 増 分 を 彿 お よ び 砂 とす れ ば,
(N‑1)t==u十s (N‑K十1ぐ)t===u十v (1‑K十K')t==v‑s
Fは 資 本 市 場,す な わ ち証 券 業 社 が 銀 行 信 用 で 保 有 して い る全 証 券 で あ る か ら,(u‑F)は 資 本 市 場 を 含 む 全 産 業 が 彼 等 の 自 己 資 本 で 保 有 し て い る全 証 券 に 等 しい 。 した が っ て,
(N‑1')t・=.u‑f
3.銀 行 信 用 と資 本 市 場 の 役 割
こ こでは,ホ ー トレイ理 論 に お け る上 述 の資 金 循 環 モ デ ル を背 景 に した 銀 行 信 用 と資本 市場 の役割 を取 り上 げ る こ とに す る。
一一200一 商 学 討 究 第19巻 第2号
まず,分 析 手 法 に つ い て で あ る が,二 つ の 特 徴 を指 摘 す る こ と が で き る。
(1)資 金 フ ロ ー分 析
す で に 説 明 済 で あ る が,ホ ー ト レイ は イ ギ リス に お け る最 初 の 資 金 フ ロ ー
く ラ
分 析 の 研 究者 で あ る。
(2)事 前 的 ・事 後 的分 析
ホ ー トレイの分 析 は ス 汚 一デ ン学 派 の 事 前 的 ・事 後 的 分 析 に 酷 似 して い る。 投 資 を 「意 図 され た」 あ るいは 「能動 的 」 投 資 と 「意 図 しなか った」 あ るいは 「受動 的 」投 資 とに 区別 す る。 なお,彼 の研 究 に は,「 能 動 的」 貯 蓄
ほめ
と 「受 動 的 」 貯 蓄 と の 区 別 は な い 。 上 述 の 式, (BLA'十K」)t・=(J‑K)t十(1‑1')̀・ ・1‑f‑s を 参 照 さ れ た し。(B」A'+K')一(1・‑K+K)。
つ い で,利 子 論 お よ び 利 子 と投 資 と の 関 係 に つ い て ふ れ る。
彼 の 利 子 論 は 素 朴 な 貸 付 資 金 説 で あ り,し か も利 子 論 の 中 心 は 短 期 利 子 率
ロの
と 長 期 利 子 率 と の 関 係 に お か れ て い る 。
長 期 利 子 率 が 決 定 さ れ る の は 資 本 市 場 に お い て で あ り,均 衡 は 純 金 融 的 投 資 と 資 本 調 達 額 と の 均 等 を 意 味 す る と す る 。 資 本 調 達 額 が 純 金 融 的 投 資 に 比 較 し て 不 足 し て い る と き に は,証 券 デ ィ ー ラ ー は 購 入 以 上 に 販 売 し,保 有 証 券 を 減 少 さ せ る が,証 券 価 格 は 上 昇 す る か,も し く は 利 子 率 は 下 落 す る 。 逆 に 資 本 調 達 額 が 過 大 の と き に は,証 券 デ ィ ー ラ ー は 保 有 証 券 を 増 加 さ せ る が,証 券 価 格 は 下 落 す る か,も し く は 利 子 率 は 上 昇 す る 。 し た が っ て,ホ ー
ト レ イ に よ れ ぽ,
個 人 投 資 家 の 金 融 的 投 資+投 機 家 に 対 す る 銀 行 貸 付+ジ ョ バ ー お よ び デ ィ ー ラ ー に 対 す る 銀 行 貸 付 一 資 本 調 達 額+現 金 残 高 の 増 加
働A.G.HartandP.Kenen,Moner,ヱ)ebtandE60730編 ρActivity,(Prentice‑
HallInternational,1961),P.183.
吉 野 昌 甫 ・山 下 邦 男 訳 。 「現 代 金 融 論 』(日 本 評 論 社,昭 和42年)205頁 。 (1のG.Haberler,Opcit.,p.192.
G.ハ ー パ ラ ー 「景 気 変 動 論 』165‑168頁 参 照 。
(ID一 谷 藤 一 郎 著 「現 代 利 子 論 の 展 開 」(有 斐 閣,昭 和38年)6頁 。
資 金 フ ロ ー 接 近 法 に 関 す る 一 考 察(鈴 木)‑201‑
〈15)
が 長期 利 子 率 につ い ての均 衡条 件 とな る。
この 等式 か ら,長 期 利 子 率 と短 期 利子 率 との 一つ の接 点 が え られ る。 彼 に よれ ぽ,長 期 利 子 率 の 変 動 は きわ め て小 で あ る。1914年 まで の半 世 紀 に お い て,コ ン ソル 公 債 の 利 回 りが7年 移 動 平 均 か ら去 ・・一 ・ ン ト燗 変 動 した の は た だ一 回で あ り,そ れは1866年 で あ って,イ ソグ ラ ソ ド銀 行 の公 定 歩 合 が3ヵ 月 間10パ ーセ ン トに と ど ま って いた危 機 の年 で あ った と して い る。
長 期 利 子 率 は 短 期利 子 率 とほ とん ど同 じ方 向 に変 動 す る とされ るが,こ れ は 前 者 も し くは後 者 の影 響 と考 え るべ きで な く,二 つ の 利子 率 に共 通 な原 因 に も とつ くもの とす る。 しか し,し い て い え ぽ,影 響 は 小(短 期 利 子 率 の変 動 は まった く一 時 的 な事 情 に よ って変 動す るか ら)で あ るが,長 期 利 子 率 の変
(16)
動 は 短 期 利 子 率 の 変 動 に も とつ く もの と主 張 し て い る と理 解 で き る。
利 子 率 と投 資 の 関 係 で あ る。
(イ)資 本 設 備 投 資
資 本 設 備 投 資 を 資 本 の 拡 張(CapitalWidening)投 資 と,資 本 の 深 化 (CapitalDeeping)投 資 と に 区 別 し,両 者 は い ず れ も利 子 率(長 期)に 非 感
ゴ ア
応 的 で あ ると す る。 い ま,年 年 の 減 価 償 却 費 を 投 資 の20パ ー セ ン トと し,
「資 本 の 深 化 」 投 資 か ら予 想 され る 費 用 節 約 能 力 を 投 資 の25パ ー セ ン トとす れ ば,そ の 投 資 か らえ られ る利 潤 率 は5パ ー セ ン トで あ る。 と こ ろ で,予 想 に は 誤 差 が 伴 な うか ら,誤 差 率 を10パ ー セ ン トとす れ ば,投 資 か らえ られ
11 パ ー セ ン トの 範 囲 に 入 る 。 した が っ て,利 子 率 の 変 動 は る 利 潤 率 は 〜9
22
「資 本 の 深 化 」 投 資 に は 影 響 を 与 え な い と す る 。 い わ ん や,「 資 本 の 拡 張 」 投 資 は 費 用 節 約 的 で は な い か ら,利 子 率 に 非 感 応 的 で あ る と 主 張 す る6
(ロ)消 費 設 備 投 資
㈲ 銀 行 組 織 の 証 券 保 有 量 の 変 動 は 明 示 され て い な い が,証 券 デ ィ ー ラ ー の な か に 含 め られ て い る と考 え れ ば,問 題 は 解 決 す る 。
㈹ 一 谷 著 『現 代 利 子 論 の 展 開 」243頁 参 照 。
(切E・Schneider,E伽 ヲ膨加%%8indieVairtschaftstheo7ie,III・Teil・P・222‑223・
山 川 義 雄 ・大 和 瀬 達 三 訳J『 経 済 理 論 入 門 」233頁 。'
一202‑一 商 学 討 究 第19巻 第2号
消 費 設 備 投 資,た とえば 家屋 の建 設 な どは 利 子 率(長 期)に 感 応 的 で あ る。.家賃 は利子 率 の変 動 に大 いに 左 右 され るた め,利 子 率 が 下 落 す る と きに は家 賃 も低 下 し,そ の 結 果,よ りす ぼ ら しい家 屋 に対 す る需要 が増 大 し,家 屋 の建設 が 進 展す る とす る。
の 農業 生産 は利子率(短 期)に 非悪応 的であ る。収獲時期 の市場 の事情 お よび作 物 の収 獲 量 に つ いて 不確 実 性 が大 きい の が,そ の 理 由 で あ る。
←)経 営資 本 は 利子 率(短 期)に 感 応 的 で あ る。
ケイ ンズ は 『貨 幣 論 』 に おい て,利 子 費 用 の変動 は持 越費 用 に比 較 して小
く う
で あ るか ら,経 営 資 本 は 利 子 率 に 非 感 応 的 で あ る と して い る。 これ に 対 し, ホ ー トレイ は反 駁 し,原 料 や 腐 敗 しや す い 財 に つ い て は 妥 当 す るが,多 くの 中 間 生 産 物 や 完 成 財 に つ い て は,生 産 者 や 小 売 業 者 は 彼 ら 自 身 貯 蔵 設 備 を 保 有 して い る の で,貯 蔵 費 用 は きわ め て 小 で あ る と主 張 す る 。
か くて,ホ ー トレイ に よれ ば,利 子 率 に 感 応 的 な 投 資 は 消 費 設 備 投 資 お よ び経 営 資 本 投 資 に な る が,経 済 変 動 と の 関 係 で 彼 が 特 に 重 視 す るの は,い う
まで も な く経 営 資 本 投 資 で あ る。 そ こで,経 営 資 本 の 所 有 が 相 対 的 に 非 常 に 多 い 商 人 が,彼 の 貨 幣 理 論 に お い て は 戦 略 的 地 位 を 占 め る の で あ る。
以 上 の こ と を 前 提 に し て 彼 の 理 論 に お け る銀 行 信 用 と 資 本 市 場 の 役 割 を 論 ず る こ と に す る。
銀 行 信 用 の 役 割
「事 業 家 の な か に は,利 子 率 の わ ず か な 変 化 に 対 して さ え も きわ め て 敏 感 な反 応 を 示 す1階 層 が あ る。 商 人 が これ で あ る 。 商 人 は 自己 の 資 力 に 比 し て 大 き な 商 品 を 売 買 し,彼 が 購 入 額 に 付 加 す る の は,商 業 利 潤 を 示 す 比 較 的 わ ず か な額 に と ど ま る。 利 子 負 担 の1パ ー セ ン トか,2パ ー セ ン トの 変 化 は 製 造 業 に と っ て は 問 題 に な らな い だ ろ うが,商 人 に と っ て は そ うで は な い 。 も
ち ろ ん,商 人 を 借 入 増(減)と 在 庫 の 増 大(減 少)に さ そ う要 因 は,利 子 率
㈹J.M.Keynes,Treatise,voLII,PP.131‑‑134・
鬼頭訳 「ケイ ソズ貨 幣論」第4分 冊177‑188頁 。
資金 フ ロー接近法 に関す る一考察(鈴 木) 一203一 のほ か に も存 在 して い る。 た とえ ば,物 価 の上 昇 が期 待 され る場 合 に は,利 子 率 の 引下 げ は 不 必 要 で あ ろ う し,逆 に物 価 の低 落 が 予想 され る場 合 には, 利 子 率 を 引下 げ て も十 分 で は な いで あ ろ う。 しか しなが ら,利 子 率 のわ ず か
な変 化 に関 係 な く,大 半 の商 人 の借 入 れ を増 大 させ た り,減 少 させ た りす る の に十 分 な物 価 の 一一般 的 な騰 落 とい うの は,信 用 の拡 大 も し くは収 縮 の結 果 と して しか お こ りそ うに ない の で あ る。 … …
こ うして,ホ ー トレイに従 うな らば,商 人 は戦 略 的地 位 を 占め て い る。 も し利子 率 が十 分 に引 下 げ られ る な らぽ一 通 常 の条 件 の も とで は,わ ず か な 引 下 げ で 十分 で あ る 商 人 は在 庫 増 に さそ わ れ る。 そ の結 果 は生 産 に対 す る発 注 の増加 で あ る。 生 産増 は 消 費 者 の所 得 と支 出の増 大 を結 果 す る。 この こ とは商 品一般 に対 す る需要 増 大 を意 味 し,商 人 はそ の在 庫 が 減 少 しつ つ あ るの を 見 い だす 。 こ うして,生 産 者 に対 す る注 文 は増 大 し,生 産活 動,消 費 者所 得 と支 出,需 要 の一段 の増 大 が結 果 され,在 庫 は さ らに い っそ う枯渇 す る。 経 済活 動 の拡大 は需 要 増 を意 味 し,需 要 増 は経 済 活 動 の拡 大 を意 味 して い る。 悪 循環 が 開始 され,生 産 活 動 の累 積 的 な拡大 が始 め られ る。 そ れ は信
ユの
用 の 継 続 的 拡 大 に よ っ て つ ち か わ れ,推 進 され る こ と と な る 。」
以 上 の 資 金 フ ロ ー は,前 述 の 等 式 を 用 い て 示 す とつ ぎ の よ うに な る 。 い ま,利 子 率 が 低 下 し,商 人 は 財 庫 増 に さそ わ れ,生 産 に 対 す る発 注 が 増 大 した と し よ う。 銀 行 組 織 の 信 用 供 与 額 が 増 大 し,資 本 市 場 を 含 む 全 産 業 は DとCが 同 額 だ け 増 大 す る。 純 現 金 残 高Mは 不 変 で あ る が,信 用 供 与 の 増 加 額 の 一 部bが 消 費 者 所 得Bの 一 部 に 追 加 さ れ た と き,Cはbだ け 減 少
し,MはM‑bに な る。 逆 に,消 費 者 の 現 金 残 高C'と 純 現 金 残 高M'は C'+δ お よ びM'+わ'に 増 大 す る。bの 一 部b'は 消 費 者 支 出B'に 追 加 さ れ, 放 出 され る。 た だ し,ホ ー ト レイ に よれ ぽ 現 金 残 高 は 所 得 に 依 存 す るた め, う〉δ'で あ る 。 こ う して,生 産 活 動 は 拡 大 して い く。
⑲G.Haberler,Op6鉱,pp.18‑19.
G・ ハーパ ラー 「景気変 動論』17頁 。
一204一
商 学 討 究 第19巻 第2号 資 本市場 の役割
消費 者 支 出が わ'だけ 増 大 す る と,う'は 消 費 者 に よ る財 の購 入 乃 と金 融 的 投 資 づに二 分 され る。 乃は 直接 消 費財 お よび資 本 財産 業 に入 り,そ れ らの純 現 金 残 高 を増 大 させ,経 営 資 本 を減 少 させ る。 他 方,づ は最 初 資本 市場 に入
の
り,資 本市場 の対 銀行 負債 額 を減 少 させ る。 そ の結 果,資 本 市場 は証 券 の新 規 発 行 に とっ て有利 に な り,一 ・定 期 間 の経 過 の後,資 本 調 達 額 お よび設 備 さ れ た 資 本 は,そ れ ぞれ ゴお よび ん だけ 増 大 す るに い た る。
証 券 業 者(個 人投 機 家 を含 む)に 対 す る効 果 は複 雑 で あ る。 銀行 信 用 の緩 和 は個 人 投 機 家 に借 入 を うな がす で あ ろ う。 この種 の借入 は利 子 率 に非 感 応 的 で あ るが,銀 行 組織 は借 入 制 限 を緩 和 す る こ とに よ って,借 入 を増 大 させ る こ とが で き る。 そ の効 果 はす で に 金 融 的投 資 の 追加 分 づに反 映 され て い る。 づは 乃の よ うに 消費 者所 得 の増 加 に 必 ず しも依 存 す る もので は な い。 信 用緩 和 に よ って多 少 左 右 され るか らで あ る。
個 人 投 機 家に 対 す る借 入制 限 の緩 和 は,資 本 市場 の デ ィー ラ ーの対 銀 行借 入 額 を増 大 させ るで あ ろ う。 しか し,彼 らの借 入 意 欲 は,資 本 財 お よび 消費 財 産 業 が 資本 調 達額 を 増 大 させ,彼 らに よ り 多 くの証 券 を 供 給 しな い か ぎ
り,効 果 が ない。
この よ うな投 機 的借 入 に対 す る金 融 的 便宜 は,消 費 者所 得 の 増大 に よ る金 融 的投 資 に 追加 され,資 本 市場 を 資 本 調達 に とっ て有 利 に す るが,そ れ は資 本 調達 額 の増 大 が 実 現 した と きに お い てで あ る。 そ の とき まで は,投 機 家 達 は デ ィー ラ ーの 保 有 分 か ら 証 券 を購 入 し,保 有 証 券 を 増 加 させ るだ け で あ る。 他 方,デ ィー ラ ーは,借 入 意 欲 が どの よ うに あ ろ うと も,彼 らの対 銀 行 借 入 金 を減 少 させ る こ とに な る。
よって,ホ ー トレイ に よれ ば,資 本 市場,す なわ ち証 券業 者 の経 済 的役 割 は,資 本 市場(広 義)に おけ る資金 調整,お よびそ こで成 立 す る長 期 利 子 率
⑳ ホー トレイは資本市場を狭義の意味に理解 してい る。彼によれば,資 本市場は 証券業社(個 人投機家を含む)の ことである。
資 金 フ ロー接近法 に 関す る一考 察(鈴 木) 一205一 の 調 整 とい う受 動 的 も し くは 消極 的活 動 と して評 価 され,積 極 的役 割 を演 ず る とされ る銀行 組 織 とは対 照 的 な立場 に立 って い る とい え る。
4.む す び に か え て
主 と して資 金 フ ロー分 析 の観 点 か ら主 要 な問題 点 を指 摘 す る。
(1)経 営 資 本 に 戦 略 的地 位 を与 え る ことは 妥当 で あ ろ うか
ケ イ ンズは 前述 した よ うに経 営 資本 は 利 子率 に非 感 応 的で あ る と してい る が,そ の後 の オ ックス ホ ー ド調 査(OxfordInquiry)な どの実 証 的 諸 研 究 も
く わ
いず れ も同一 の結 論 に達 して い る。
また,か りに経 営 資 本 が 利子 率 に感 応 的 で あ る と して も,経 営 資本,し た が って商 人 に 戦略 地 位 を与 え る こ とは 妥当 で あ ろ うか 。
「ホ ー トレイ氏 は,企 業 者 が前 日の規 模 と異 な る産 出高 の規 模 を 日 々決定 す るのは,彼 等 の売 られ ざ る財 の手 持 の変 化 に顧 み て で あ る と見 る。 た しか に,消 費 財 の場 合 に は,こ れ が彼 等 の決 意 を 左右 す る うえに 重 大 な役割 を 演 ず るで あ ろ う。 しか し私 に は彼 の決 意 に対 す る他 の要 因 の作 用 を排 除す る 目
的 が判 らない 。 した が って,私 はそ れ よ りは む しろ有 効 需 要 の全 体 的変 化 を 強 調 しよ うと思 うの で あ って,た だ有 効 需要 の変 化 の うち前 期 に売 れ なか っ た財 の手 持 の増減 を反 映 す る部 分 の みを 強 調 し よ うとは しない ので あ る。 の み な らず,固 定 資 本 の場 合 に は,使 用 され ざ る能 力 の 増減 が 生 産 の決 意 に 対 して売 られ ざる 財 の手 持 の 増減 とま さに 対 応 的 な 影響 を お よぼす ので あ っ て,私 は ホ ー トレイ氏 の方 法 が このす くな くと も同等 に 重要 な要 因 を いか に
⑳ オ ッ ク ス ホ ー ド調 査 の 結 果 は1938年10月,OxfordEconomicPaper,No.1, 1938に 発 表 。
そ の 他,
H.F.Lydall,"TheImpactofthecreditSqueezeonSmallandMedium‑
SizedManufac七uringFirms,".EconomioJournal,September1957.
W.H.White,̀・InterestInelasticityofInvestmentDemand,"American EconomicReview,September1956.
A.G.HartandP,Kenen,op.cit.,p.227.
吉 野 ・ 山 下 訳 「現 代 金 融 論 」255頁 。
一206一 商 学 討 究 第19巻 第2号
(22)
取 扱 い うる か を 知 らな い 」。
以 上 は ケ イ ン ズ が 『一 般 理 論 』 に お い て述 べ た もの で あ る。 ケ イ ン ズ の 主 張 が 妥 当 で あ る と考 え る 。
よ っ て,ホ ー ト レイ 理 論 を 支 え る一 大 支 柱 は 倒 壊 した こ と に な る。
(2)貨 幣 の 不 活 動 残 高,い わ ゆ るM2の 需 要 に つ い て
ホ ー ト レイ は 投 機 的 動 機 に も とつ く貨 幣 需 要 を 重 視 して い な い 。 前 述 の ホ ー ト レイ 理 論 の 説 明 に お い て も,し ば しば 指 摘 して お い た よ うに,貨 幣 需 要 の 大 部 分 は 取 引 的 動 機 に も とつ く もの と し て い る。
第1の 理 由 と して,ホ ー ト レイ は ケ イ ンズ と 同 様 に,投 機 的 動 機 に も とつ く不 活 動 残 高 は 当 座 預 金 で は な く定 期 預 金 と い う形 で 保 有 され るの で,投 機 的 動 機 に よ る貨 幣 保 有 で は な く し て 中 お よび 短 期 証 券 の 保 有 も あ り うる か ら
と して い る。 第2の 理 由 は,資 本 市 場 に と っ て 重 要 な 投 資 家 層 は 資 本 の不 確 実 性 よ りは 所 得 の 不 確 実 性 を 恐 れ る こ とで あ る。
た しか に,こ の よ うな 要 因 は ケ イ ンズ に よ っ て 軽 視 され て い た もの で あ り,重 要 な 指 摘 で は あ る と思 うが,だ か ら とい っ て,M2÷oと い う論 理 は, ホ ー トレイ が 他 の 貨 幣 論 も し くは 金 融 論 の学 者 よ り も資 本 市 場 を 重 視 し て い る だ け に 納 得 で き な い 。M2の 存 在 を 重 視 す れ ば,消 費 者 貯 蓄 の 金 融 的 投 資 と現 金 保 有 の配 分 に あ た っ て,興 味 あ る事 実 が 見 出 され,よ り有 意 な 理 論, た とえ ぽ 予 想 を 導 入 した 理 論 が 展 開 で き た も の と思 わ れ る 。 ま た,こ の こ と か ら,ホ ー トレイ の 金 融 理 論 は 貨 幣 数 量 説 的 で あ る とい え る。
(3)銀 行 信 用 の 資 金 源 泉 に つ い て
銀 行 信 用 の 資 金 源 泉 に つ い て ほ と ん ど説 明 が な され て い な い が,こ れ は 金 融 理 論 と し て 大 き な 欠 点 の 一 つ と い え る。 当 時 の 金 融 制 度 が 未 整 備 と い う 背 景 もあ る が,主 た る理 由 の 一 つ と し てM、 の 軽 視 を あ げ る こ とが で き る 。
働J・M・Keynes,GeueralTheory,P.76・
塩 野谷訳 「一般理 論」95‑96頁 。
L.R.Klein,TheKaynsianRevolution,(Macmillan,1947)p.53.
篠原三代平 ・宮 沢健一訳 「ケイ ンズ革命 」57頁 参照。
資 金 フ ロー接近法 に関す る一考 察(鈴 木) 一207一
「弱 気 」 が定 期 預金 とい う 形 で保 蔵 した 現 金 は 「強 気 」 に 貸 付 け られ るはず で あ る し,そ の よ うな認 識 が あ れ ぽ,銀 行 組 織 を中央 銀行 と商 業 銀 行 に 区分 す るで あ ろ うと思 うか らで あ る。
以上 指 摘 した よ うに,ホ ー トレイの金 融 論 に は い くつ か の重 要 な 欠点 が 存 在 す るが,資 本 市場 を 資金 の経 済 循 環 の なか で 位 置 づ け,ブ ロー カ ーズ ・ロ
ー ンを も考慮 に入 れ た こ とは ,今 日の マ ネ ー ・フ ロー表 か らみ れ ば単 純 な も の で あ るに して も,資 金 フ ロー 分 析 に対 し 重 要 な 貢 献 を な した もの とい え る。 また,資 本 市 場 の機 構 を詳 細 に 検 討す る こ とに よって,資 本市 場 は個 人 投 資家 も し くは 証 券 業 者 に よって 主 と して支 配 され,貨 幣 市場 は 銀行 組 織 に よって 支 配 され る ことを 明 示 した こ とは,金 利 体 系 の研 究 に とっ て も,ケ イ ソズの流 動性 選 好 表 の適 用 に と って も重要 な意 義 を有 す る もの と考 え る。