中川教授,宗田教授のご退職にあたって
著者 京藤 哲久
雑誌名 明治学院大学法科大学院ローレビュー = Meiji
Gakuin University Graduate Law School law review
号 16
ページ 1‑2
発行年 2012‑03‑31
その他のタイトル Dedication
URL http://hdl.handle.net/10723/1091
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2011年度末で,中川明先生と宗田親彦先生がご退職になる。
中川先生も宗田先生も第一級の実務家で,2004年4月から8年間,明治学院大学法科大学院でご一緒で きたことは,私にとっては大変な幸運で,尊敬する人生の先輩として,実務家として,教師として,実に 得るものが多かった。
中川先生と宗田先生の実務家としての活躍は深い学識に裏付けられてもいる。今回,両先生の履歴,業 績を拝見して,その感を強くした。
両先生の発表された業績は,量から見ても質から見ても,理論家である一般の大学研究者のそれをはる かに超えるもので,研究者としても第一級の存在であることに深い感慨を覚えた。しかも,両先生とも,
多くの業績があるなかでも,さらに専門といえる領域を持っておられる。
中川先生はこどもの権利について論じる際には避けて通れない大きな存在で,その業績と識見から,
1997年から4年ほど北海道大学大学院法学研究科教授として教育法を担当されている。子供の権利に関す る業績は多く,そのどれもが若い世代に対する優しさにあふれた視点で書かれている。
中川先生は,1966年に京都大学の法学部を卒業され,司法試験に合格後,京都大学の大学院修士課程で 法理学を専攻された後,1970年に弁護士登録をされている。今回,はじめて知ったが,先生の修士論文は 法哲学の観点からM・E・マイヤーを扱ったものである。マイヤーは主観的違法要素を見いだした深い学識 のある学者としてよく知られているが,私もドイツ留学中に代表作をコピーして持ち帰ったこともあり,
大変に懐かしい思いがした。
日本弁護士連合会や第二東京弁護士会での,こどもの権利に関する委員会の委員長としての活躍をはじ め,中川先生のご活躍は数え上げればきりがなく,人権派の弁護士として,社会貢献をされてきた。日本 国憲法は,その精神を担う人が育つ限り,その不滅の価値は受け継がれて行くと私は信じているが,先生 とお話していると,自分が中川先生から日本国憲法のバトンを渡されこれを引き継いで走る次の走者にな っているような気がしてくる。
中川先生は,この社会が失ってはいけない大切な価値のバトンを同世代,後生に託するべく歩んでこら れたし,4月からも,弁護士として,また,本学の非常勤講師としての授業を通じて,歩みを止めること なく,活躍されることになっている。
宗田先生は破産法,会社更生法を専門とする実務家,理論家として,破産法の基本書とともに,夙に知 られた存在であるが,業績目録を拝見して,先生の否認権についての深い研究が,幅広いご研究のバック グラウンドとなっていることがよく理解できた。
宗田先生は,1966年に慶應義塾大学の法学部を卒業され,慶應義塾大学大学院法学研究科修士課程,続 けて博士課程へと進学され,博士課程に在学中に,司法試験に合格され,1972年に弁護士登録をされ,そ の後,1979年に法学博士の学位を取得されている。慶應義塾大学法学部等で非常勤講師として長きにわた
『明治学院大学法科大学院ローレビュー』第16号 2012年 1−2頁
中川教授,宗田教授のご退職にあたって
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り破産法の授業を担当してこられた。破産法分野の実務家,理論家としてのご活躍は,まさに目を見張る もので,日本リースの会社更生案件を手がけたり,国会では公述人,参考人として出席するなど,立法過 程にも関与されている。
宗田先生からは,実務家として,数々の修羅場を経験され,解決困難な問題を解決してきた人がもつ,
包容力,信頼感が伝わってくる。そう感じない人はいないであろう。円熟という言葉は宗田先生のために 用意されているような言葉である。言うべきことは言い,行動すべきときには行動するというのも,宗田 先生である。いつもその理由と根拠が明確で,周りが頷かざるを得ない。先生のなかに,理論と実務が見 事に架橋された,法律家の一つの理想が息づいている。理論家と実務家が別々にいるというだけでは理論 と実務の架橋の実現はおぼつかないのであって,理論と実務の架橋が可能であるとすれば,本当は,一人 の法律家のなかにおいてである。そんな法律家と出会えたという経験は,後進にとっては自分を磨く糧に なる。宗田先生とご一緒に教育に携わるなかで得られた経験は,私には大変な財産となっている。
宗田先生とお話していると,先生には闘う実務家としてのもう一つの姿があるのではないかと感じるこ とがある。良い実務家は,皆,こうしたもう一つの姿をもっているのはよく考えれば当然のことなのだが,
先生の魅力である,相手の立場に配慮する包容力,信頼感と矛盾しないのだろうか。闘いは収束させる必 要があるから,良い解決のためには,公正な眼をもって,相手を思いやる優しさ,包容力というもう一つ の自分も求められるのであるのだろうか。宗田先生が破産法の基本書を執筆され,改訂を重ねてこられて きていることも,このような,簡単には実現できない矛盾の統一を高いレベルで可能にしているのではな いだろうか。
教育は優しく,実務は厳しくという使い分けは処世術としてはたやすい。しかし,それでは人を本当に 変えることはできない。人を変えて,法曹としてご自身の後継者を育てて行くという大きな使命を抱く以 上,全人格でぶつかる必要がある。宗田先生は,学生にも,同僚にも,全人格でぶつかってこられた。そ のひたむきで一途な姿勢から学ぶものは多い。
宗田先生は,4月からも,弁護士として,また,本学の非常勤講師としての授業を通じて,活躍される ことになっている。
中川先生も宗田先生も,実務家でありそして理論家である。草創期でなければ,両者を兼ね備えた先生 にはなかなか出会えない。
中川先生,宗田先生のご退職にあたって,両先生に出会えたことの幸せをかみしめつつ,先生のこれか らのご活躍をお祈りしたい。
2012年3月
明治学院大学大学院法務職研究科 研究科長 京 藤 哲 久