原 著
大津市瀬田丘陵の蝶類の季節消長
遊磨正秀・太田真人・満尾世志人
龍谷大学理工学部
(受領 2013 年7月 26 日;受理 2013 年 11 月7日)
Seasonal changes in density and species richness of a butterfly assemblage in a hilly area in Seta, Otsu City, Japan. Masahide Yuma, Masato Ota and Yoshito Mitsuo. Faculty of Science and Technology, Ryukoku University, Seta-Oe, Otsu 520-2194, Japan.
Abstract
Seasonal changes in butterfly density and species richness were analyzed based on census surveys undertaken at three hilly sites in Seta in Otsu City, western Japan, from 2006 to 2011. Similar seasonal trends were observed over six years studied. Average density peaked in late April and from late September to late October with the latter peak being higher than the former. Average species richness peaked in late May to late June(later than the peak in average density)and in early and late September(earlier than the peak in average density), being approximately 1.5 times greater in autumn than spring. Such seasonal fluctuations in butterfly assemblages were considered to be typical for butterflies in the lowland areas of the Kinki District in western Japan. The average butterfly densities were considerably higher in the open zone(including farmland)in autumn compared to spring. Those were a little higher in autumn than spring in the forest edge zone, and showed only one peak in spring in the forest interior zone. The average species richness in autumn in open zone was twice that in spring, 1.5 times that in spring in the forest edge zone, and the same as that in spring in the forest interior zone. These suggest the seasonal fluctuation pattern in density and species richness may relate with the openness of different forest zones.
Key words:butterfly assemblage, density, forest edge zone, forest interior zone, open zone, Otsu City, seasonal prevalence, species richness
滋賀県大津市瀬田丘陵の3調査地(龍谷の森,文化公園,瀬田公園)における 2006 〜 2011 年の蝶類センサス結果か ら蝶類の個体数と種数の季節消長を比較した.各調査地の6年間の蝶類の個体数や種数の季節消長はよく類似していた. 蝶類の平均密度は4月下旬と9月下旬〜 10 月下旬にピークが見られ,秋の方が高密度であった.平均種数は平均密度の ピークより遅れて5月下旬〜6月下旬にピークが,秋は平均密度のピークより早く9月上・下旬にピークが認められ, 秋の平均種数は春・初夏のものの約 1.5 倍であった.このような蝶類の密度や種数の季節消長は近畿地方平野部〜丘陵 部の共通の特徴と考えられる.龍谷の森の異なる景観の3区間における蝶類の密度,種数の季節消長を比較すると,田 畑を含む開放的な環境(区間Ⅱ)では秋の平均密度は春のピーク時に比べて大きく増加していた.林縁部環境(区間Ⅰ) では秋の密度の増加は区間Ⅱに比べて小さく,さらに林内環境(区間Ⅲ)では春だけに密度のピークがあった.平均種 数は開放的環境では秋のピークは春〜初夏のピークの種数の約2倍に,林縁環境では約 1.5 倍に増加していた.林内環 境では秋のそれは春のものとほぼ同等のものであった.このように,蝶類の平均密度と平均種数の春秋のピークの関係 は環境の開放性と関連していることが示唆された.
はじめに 都市化や里山林の放置により近郊緑地の衰退がすすむ なか,調査しやすい蝶類を用いた自然環境評価が多く 行われている(今井・今井,2011a, b;青柳,2012;松 本・井上,2012 など).蝶類の多様性や群集構造を評価 するためには,その個体数や種数の季節消長について検 討しておく必要がある(今井・今井,2011b など).蝶 類の季節消長については近畿地方平野部〜丘陵部での 報告が多く,その多くのもので個体数や種数が春〜初 夏と秋にピークがあるとしている(森下,1967;関谷, 1999,2003; 青 柳・ 吉 尾,2002; 青 柳,2004;Tojo et al.,2007;東條・桜谷,2008;今井・今井,2011b). 滋賀県大津市東部の瀬田丘陵にある「龍谷の森」(龍 谷大学瀬田キャンパス隣接地)は龍谷大学が保有する約 38 ha の林地である.そこはかつて里山林として利用管 理されていたが,事実上放置林となってから半世紀近く を経ている(横田,2009).その林地は現在,里山研究・ 教育のフィールドとして,さらに生態系保全や環境教育, 市民参加の里山活動に供する場として活用されている (丸山・宮浦,2007,2009).龍谷の森を含む大津市東部 瀬田丘陵の 3 箇所の緑地における蝶類群集に関して,遊 磨ほか(2013)において6年間の調査結果から蝶類群集 の全種数の推定を行い,それぞれの調査地においてほぼ 全種が記録されていることを報告した.本稿では,これ ら3箇所の緑地における 2006 〜 2011 年の6年間の蝶類 センサス調査から,蝶類の季節的出現パターンを分析し, 既存報告と比較する. 方 法 調査地の概要および調査方法 調査対象地は,滋賀県大津市東部の瀬田丘陵にある龍 谷大学瀬田キャンパス隣接地(以下,龍谷の森;センサ スルート長,2,450 m),びわこ文化公園(以下,文化公園; 2,850 m)および瀬田運動公園(以下,瀬田公園; 940 m) の3箇所(標高 120 〜 170 m)とした.調査地の詳細お よび調査方法は遊磨ほか(2013)に記述した. 解 析 蝶類のセンサスは大津市瀬田丘陵の3箇所の調査地に おいて,石井(1993)が提唱する月2回の調査を目標に, 2006 〜 2011 年の3〜 11 月の間,月に1〜3度,6年 間で龍谷の森では合計 108 回,文化公園では 104 回,瀬 田公園では 105 回行った(Table 1).蝶類の季節消長 を比較するために, 6年間に記録された密度(/km)お よび種数の平均を半月ごとに算出し,平均密度および平 均種数とした. 各調査地における6年間の月ごとの個体数,種数の変 動パターンを比較のために Kendall の一致係数(W)を 求めて,調査地間ならびに龍谷の森における区間間の 半月ごとの平均密度と平均種数の変動の比較のために Spearman の順位相関係数(ρ)を求めた.これらの統 計演算にはエクセル統計 ver. 6(株式会社エスミ)を用 いた. 結 果 瀬田丘陵における蝶類の個体数,種数の季節消長 瀬田丘陵の3調査地における 2006 〜 2011 年の6年間 に記録された蝶類個体数の季節消長を Fig. 1 に示した. 龍谷の森における6年間の個体数の季節消長は全体とし ては類似しており(Kendall’s W=0.917,n=8,p<0.01), 4〜5月に一つ目のピーク(50 〜 100 個体)が,9〜 11 月に大きなピーク(100 〜 200 個体)が認められ,6 月頃に小さなピークが見られる年もあった(Fig. 1a). 文化公園や瀬田公園においても6年間の個体数の季節消
長は類似しており(Kendall’s W=0.536 および W=0.710, ともに n=7,p<0.01),その季節消長は龍谷の森の場合 と類似していた(Figs. 1b, c). 瀬田丘陵の3調査地における6年間の蝶類種数の季節 消長を Fig. 2 に示した.龍谷の森における6年間の蝶 類種数の季節消長は類似しており(Kendall’s W=0.659, n=8, p<0.01),5月に一つ目のピーク(10 〜 17 種)が, 9月に大きなピーク(15 〜 24 種)が認められ,7月頃 に小さなピークが見られる年もあった(Fig. 2a).文化 公園や瀬田公園においては調査年間の変動がやや大きい ものの全体としては類似しており(Kendall’s W=0.644 および W=0.638,ともに n=7, p<0.01),また龍谷の森の 場合と類似の季節変動を示していた(Figs. 2b, c). これら6年間の蝶類個体数,種数の季節消長が3調査 地それぞれにおいて類似の変動パターンを示しているこ とから,半月ごとに6年間のセンサス結果の平均を算出 し,Fig. 3 と Fig. 4 に示した.半月ごとの平均密度の季 節消長では,龍谷の森においては4月下旬に一つ目の ピークがあり,6月下旬〜8月上旬は少なく,10 月下旬 に4月下旬の約2倍の密度のピークがみられた(Fig. 3).
Fig. 1 Seasonal changes in the abundance of butterflies at three sites(a − c)in a hilly area of Seta, Otsu City(2006 to 2011).
Fig. 2 Seasonal changes in the species richness of butterflies at three sites(a − c)in a hilly area of Seta, Otsu City(2006 to 2011).
文化公園や瀬田公園においても龍谷の森の場合と類似の 平均密度の季節消長が認められた(Spearman の順位相 関,龍谷の森 vs 文化公園 ρ =0.782,龍谷の森 vs 瀬田 公園 ρ =0.890,文化公園 vs 瀬田公園 ρ =0.797,いず れの組み合わせも n=17,p<0.01). 半月ごとの平均種数の季節消長では,龍谷の森におい ては5月下旬に一つ目のピークが,9月上旬〜9月下旬 には5月下旬の約 1.5 倍の平均種数のピークがみられ, 6月下旬〜7月上旬の平均種数は少なかった(Fig. 4). 文化公園や瀬田公園においては6〜7月の種数の減少は 不明瞭であったが,龍谷の森の場合と類似の平均種数の 季節消長がみられた(Spearman の順位相関,龍谷の森 vs 文化公園 ρ =0.689,龍谷の森 vs 瀬田公園 ρ =0.889, 文化公園 vs 瀬田公園 ρ =0.788,いずれの組み合わせも n=17, p<0.01). 蝶類の密度,種数の季節消長の区間間比較 記録個体数の多かった龍谷の森のセンサス結果につい て,景観の異なる3区間に分け,蝶類の密度,種数の季 節消長を比較した(Figs. 5,6). 蝶類の平均密度は,区間Ⅱでは4月下旬に一つ目の ピークがあり,10 月上旬に春の約4倍の大きなピークが みられた(Fig. 5).区間Ⅰでも春と秋の同じ季節に平均 密度のピークがみられたが,秋のピークは春の約2倍で あった.これに対し区間Ⅲでは,区間Ⅰや区間Ⅱよりも 早く4月上旬と8月下旬に平均密度のピークがみられ,
Fig. 4 Seasonal changes in the average species richness of butterflies per census at fortnightly intervals in a hilly area of Seta, Otsu City(2006 to 2011).
Fig. 6 Seasonal changes in the species richness of butterflies per census at fortnightly intervals in three zones of Ryukoku Forest, Otsu City(2006 to 2011).
Fig. 3 Seasonal changes in the average density of butterflies per census at fortnightly intervals in a hilly area of Seta, Otsu City(2006 to 2011).
Fig. 5 Seasonal changes in the average density of butterflies per census at fortnightly intervals in three zones of Ryukoku Forest, Otsu City(2006 to 2011).
晩夏のピークは春のものよりも平均密度が低かった.な お,区間Ⅰと区間Ⅱおよび区間Ⅰと区間Ⅲの平均密度の 変動には有意な相関が認められた(Spearman の順位相 関,ρ =0.607 およびρ =0.463,ともに n=17,p 0.01)が, 区間Ⅱと区間Ⅲの間には相関が認められず(Spearman の順位相関,ρ =0.224,n=17,p>0.1),平均密度の季 節変動が異なっていたことが示された. 平均種数の季節変動は,区間Ⅰと区間Ⅱでは5月上・ 下旬に一つ目のピークが,9月上・下旬に春の約 1.5 倍 のピークがみられた(Fig. 6).これに対し,区間Ⅲで は平均種数の季節変動が不明瞭であるが,区間Ⅰや区 間Ⅱよりも早く4月上旬と8月下旬〜9月上旬に平均 種数のピークがみられ,秋のピークは春のものとほぼ同 等の種数であった.なお,区間Ⅰと区間Ⅱおよび区間Ⅰ と区間Ⅲの平均種数の変動には有意な相関が認められ た(Spearman の順位相関,ρ =0.786 およびρ =0.612, ともに n=17,p 0.01)が,区間Ⅱと区間Ⅲの間には 相関が認められず(Spearman の順位相関,ρ =0.275, n=17,p>0.1),平均種数の季節変動が異なっていたこと が示された. 平均密度の季節消長は個体数の多い優占種の消長に依 存すると考えられる.そこで区間Ⅰ〜Ⅲのそれぞれに おいて優占上位の3種について,その季節消長の比較 を行った(Fig. 7).区間Ⅰにおける優占上位3種はキ タキチョウ Eurema mandarina(de l’Orza),ツバメシジ ミ Everes argiades(Pallas),キタテハ Polygonia c-aureum (Linnaeus),区間Ⅱにおける上位3種はモンシロチョウ
Pieris rapae(Linnaeus),キタキチョウ,ヤマトシジミ Zizeeria maha(Kollar),区間Ⅲにおける上位3種はキタ
キチョウ,テングチョウ Libythea lepita Moore,ルリタ テハ Kaniska canace(Linnaeus)であった. 区間Ⅰでは,もっとも個体数の多かったキタキチョウ (区間Ⅰにおける記録個体数の 53%)は4月下旬と 10 月 下旬に多く,とくに秋には春の約 1.5 倍の平均密度に達 していた.ツバメシジミ(同8%)は4月上・下旬,7 月下旬および9月上,上旬に平均密度のピークがみられ, キタテハ(同3%)は3月下旬と 10 月上旬にピークを 示したが,区間Ⅰ全体の平均密度の季節消長(Fig. 5) はほぼキタキチョウの季節消長に左右されていた. 区間Ⅱでは,もっとも個体数の多かったモンシロチョ ウ(区間Ⅱにおける記録個体数の 26%)は4月上・下旬 と6月上旬,10 月下旬に平均密度のピークがあり,秋の ピークは4月のものの約 2.5 倍の平均密度に達していた. キタキチョウ(同 18%)は4月下旬に小さなピークがあ り,10 月下旬にはその約6倍の平均密度に達していた. ヤマトシジミ(同 10%)は5月上旬と7月上旬に小さな ピークがあり,10 月下旬にはそれらの約6倍の平均密 度に増加していた.これらの種の季節消長に依存して, 区間Ⅱ全体の蝶類密度は4月下旬〜5月上旬に一つ目の ピークが,10 月下旬に大きなピークが生じたと考えら れる. 区間Ⅲでは,もっとも個体数の多かったキタキチョ ウ(区間Ⅲにおける記録個体数の 41%)は4月上・下旬 に平均密度のピークがあり,8月下旬以降に微増するも のの春の平均密度に比べるとはるかに少ないものであっ
Fig. 7 Seasonal changes in the density of three dominant butterfly species per census at fortnightly intervals in three zones(a − c)of Ryukoku Forest, Otsu City(2006 to 2011).
た.テングチョウ(同 14%)やルリタテハ(同7%)は, 3月下旬〜4月上旬に多く,以後,平均密度の増加はほ とんど見られなかった.これらの種の季節消長に依存し て,区間Ⅲ全体の蝶類密度が変動していたと考えられる. 考 察 蝶類密度の季節消長 大津市瀬田丘陵の調査地における蝶類個体数は4月下 旬および9月下旬〜 10 月下旬にピークが見られ,秋の 方が平均密度は高かった(Fig. 3).近畿地方平野部〜 丘陵部における蝶類個体数の季節消長は概ね5〜6月と 9月にピークがみられる二峰型であり,個体数は秋の方 が多い傾向にある(森下,1967;関谷,1999,2003;青 柳・吉尾,2002;青柳,2004;今井・今井,2011b).こ のような蝶類個体数の季節消長は,盛夏に蝶類が多く なる信州の高地(中村・田中,2001 など)や,ゼフィ ルスなどの1化性種の種数が多く蝶類個体数のピークが 6月に出現する大阪北部のやや標高の高い里山林(石井 ら,1995)とは異なる現象であり,春と秋に密度のピー クをもつシロチョウ科やシジミチョウ科(今井・今井, 2011b)が優占する近畿地方平野部〜丘陵部の共通の特 徴と考えられる. 龍谷の森における最優占種は区間Ⅰと区間Ⅲではキ タキチョウであり,区間Ⅱではモンシロチョウであっ た.近畿平野部におけるキタキチョウの季節消長に関し ては,秋に増加する結果を示しているものとして森下 (1967),関谷(1999)があるが,モンシロチョウに関し ては森下(1967)が春に多いことを示している一方,青 柳(2004)は調査地により異なる季節消長の結果を示し ている.このように,同じ種でも調査地の条件により季 節消長が異なる可能性がある(福田・高橋,1988). このことに関して東條・桜谷(2008)が奈良市郊外で の調査から興味深い結果を示している.すなわち,開け た環境では蝶類個体数は4月と9〜 10 月にピークを示 し,林縁部では5月にピークとなり,以後徐々に減少 し,林内部では5月にピークがあり,以後かなり減少す るというものである.また,Tojo et al.(2007)は開放 的な環境である河川堤防付近において春と秋に個体数 ピークがある傾向を示している.これらの結果はいずれ も,龍谷の森における優占上位種とは種組成が異なり, また秋に個体数が増加しない点でも異なっているが,龍 谷の森の田畑を含む開放的な環境である区間Ⅱでは秋の 平均密度は春のピークに比べて大きく増加しており,林 縁部環境である区間Ⅰでは秋の平均密度の増加は区間Ⅱ に比べて小さく,さらに林内環境である区間Ⅲでは春だ けに平均密度のピークがあるという,環境の景観的開放 性との関係の傾向は類似していた.ただし,関谷(1999, 2000,2003)が指摘している林内など暗い環境において 夏期に蝶類が増加するという傾向は本調査では認められ なかった. 蝶類種数の季節消長 大津市瀬田丘陵の調査地において,蝶類の平均種数は 平均密度のピークより遅れて5月下旬〜6月下旬に一つ 目のピークが,また秋には平均密度のピークより早く9 月上・下旬にピークが認められ,秋の平均種数は春・初 夏のものの約 1.5 倍となっていた(Fig. 4). 近畿地方平野部〜丘陵部における蝶類種数の季節消 長に関しては,春〜初夏と秋にピークがある二峰性で あるという報告が多い(青柳・吉尾,2002;Tojo et al., 2007;東條・桜谷,2008;今井・今井,2011b).したがっ てこのような蝶類種数の季節消長は近畿地方平野部〜 丘陵部の共通の特徴と考えられる.なお,大阪北部三草 山においては蝶類種数のピークが6〜8月にあると報 告されている(石井ら,1995)が,これはやや標高の高 い里山林ではゼフィルスなどの一化性の蝶類が6〜8 月に多く出現するためであろう(今井・今井,2011a). また,信州の高地では盛夏に蝶類種数が多くなると報告 されており(中村・田中,2001 など),標高が高い場所 では本稿の結果と異なる種数の季節消長がみられると 考えられる. 龍谷の森においては,景観的に開けた環境である区間 Ⅱでは秋のピークの平均種数は春〜初夏のピークの約2 倍に,林縁環境の区間Ⅱでは約 1.5 倍に増加していた. また林内環境の区間Ⅲでは秋のそれは春のものとほぼ同 等のものであり,景観的開放性が下がるにつれ,秋のピー クの種数が少なくなっていた.ただし,関谷(2003)が 指摘するような,比較的暗い環境で7〜8月の夏期に蝶 類種数が増加する現象は認められなかった. 個体数と種数の季節消長を比較すると,龍谷の森では 春の個体数のピークより少し遅れて種数のピークが現 れ,秋には個体数のピークより前に種数のピークが現れ ていた.これは優占種の個体数が多くない時期に,全体 の個体数に影響を与えない,優占種でない蝶種が出現す ることにより種数を増加させていたためと考えられる. 本稿では,蝶類全体の密度や種数の季節変動を扱った. その中で,それら密度や種数の変動パターンが景観的開 放性と関連することが示唆された.蝶類の環境選好性な どについてはその指標化も含め田中(1988)をはじめと する多くの研究があり,また生息場所の照度との関係に ついても関谷(2000)の報告がある.瀬田丘陵における 蝶類各種の場所利用や環境の開空性との関係についてさ らに詳細に検討し,これらの既往研究との比較をする必 要がある.
謝 辞 本研究を進めるにあたって龍谷大学里山学・地域共生 学オープン・リサーチセンター(文部科学省私立大学学 術研究高度化推進事業,2004 〜 2008 年)および龍谷大 学里山学研究センター(2009 〜 2012 年)から助成をう けるとともに,スタッフの方々に多大なる協力をいただ いた.また,龍谷大学理工学部環境ソリューション工学 科の研究室諸氏には調査を通じて多大な協力をいただい た,あわせて感謝申し上げる. 引用文献 青柳正人(2004)大阪府北部の住宅団地におけるチョウ 類相.環動昆 13:203 − 217. 青柳正人(2012)淀川中流河川敷におけるチョウ類群集. 環動昆 23:1 − 8. 青柳正人・吉尾政信(2002)大阪府北部の都市環境にお けるチョウ類群集の多様性.環動昆 15:273 − 284. 石井 実(1993)チョウ類のトランセクト調査.「日本産 蝶類の衰亡と保護 第 2 集」矢田 脩・上田恭一郎編, pp. 91 − 101,日本鱗翅学会,大阪. 石井 実・広渡俊哉・藤原新也(1995)「三草山ゼフィル スの森」のチョウ類群集の多様性.環動昆 7:134 − 146. 福田晴夫・高橋真弓(1988)蝶の生態と観察.築地書館, 東京. 今井健介・今井長兵衛(2011a)京都西加茂における 1989 − 1990 年と 2006 − 2007 年のチョウ類群集の 定量的比較.環動昆 22:59 − 66. 今井健介・今井長兵衛(2011b)京都西加茂における 1989,1990,2006,2007 年のチョウ類群集の季節消長. 環動昆 22:67 − 80. 丸山徳次・宮浦富安編(2007)里山学のすすめ,昭和堂, 京都. 丸山徳次・宮浦富安編(2009)里山学のまなざし,昭和 堂,京都. 松本和馬・井上大成(2012)森林総合研究所赤沼実験林 のチョウ類相.蝶と蛾 63:151 − 163. 森下正明(1967)京都近郊における蝶の季節分布.「自 然,生態学的研究」森下正明・吉良竜夫編,pp. 95 − 132.中央公論社,東京. 中村寛志・田中綾子(2001)小黒川流域のチョウ類群集 の季節変動とトランセクト調査による環境評価の試 み.環境科学年報(信州大学) 23:107 − 113. 関谷善行(1999)調査コースの日陰の割合から見た神 戸周辺のチョウ類群集の季節消長.環動昆 10:30 − 41. 関谷善行(2000)照度から見た神戸市内照葉樹林地域の チョウ類群集の季節消長.環動昆 11:99 − 108. 関谷善行(2003)神戸市太山寺照葉樹林地域周辺におけ るチョウ類群集の季節消長の再調査.環動昆 14: 75 − 85. 田中 蕃(1988)蝶による環境評価の一方法.「蝶類学 の最近の進歩」三枝豊平・矢田脩・上田恭一郎編, pp. 527 − 566.日本鱗翅学会,大阪.
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