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Japanese Journal of Endourology(2013)26: 原著論文 CJapanese Society of Endourology 2013 小林将行滑川剛史今村有佑齋藤允孝小丸淳深沢賢市川智彦植田健 前立腺癌におけるロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術 : 単

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前立腺癌におけるロボット支援腹腔鏡下前立腺全

摘除術:単一施設における初期120例の経験

小林将行  滑川剛史  今村有佑  齋藤允孝  小丸 淳  深沢 賢  市川智彦  植田 健

要旨 【目的】ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術 (RALP)の初期治療成績につき検討を行った.  【対象】2011年9月より2012年12月までにRALPを行った 120例を対象として検討した.  【結果】平均出血量は85ml,輸血は自己血のみが2例, 術中に開腹手術への移行は認めなかった.平均手術時間は 273分,平均コンソール時間は204分,術者のラーニング カーブは良好であり20例ほどの経験で安定した手術を行え るようになった.pT2の断端陽性率はdorsal vein complex の無結紮法導入前は40.9%に認めたが,導入後は8.7%と改 善を認めた.全体の95.2%がクリティカルパス通りに退院 可能であった.尿の禁制率もsafety pad(0-1枚/日)の確 率が術後3月,6月で82.1%,100%と良好であった.  【結論】腹腔鏡下前立腺全摘除術の経験はなくともス ムーズにRALPの導入,移行ができると考えられた.合併 症も少なく,患者にとっても利益の大きい治療であると考 えられた.

Abstract Objectives:To analyze initial treatment re-sults for robot-assisted laparoscopic radical prostatec-tomy(RALP).

 Subjects:Patients(120)who underwent RALP from September 2011 to December 2012.

 Results:Mean hemorrhage volume was 85 ml. Two

patients received only transfusion of autologous blood. There was no switch to laparotomy during surgery. Mean duration of surgery and mean console time was 273 and 204 minutes, respectively. The operator learn-ing curve was good, with surgery becomlearn-ing more stable after handling approximately 20 cases. The positive margin rate of pT2 before non-ligation of the dorsal vein complex was 40.9%, but was 8.7% after RALP introduc-tion. According to the clinical pathway, 95.2% of patients were successfully discharged. Three- and 6-month post-operative urine prohibition rates were also good(82.1%, 100%, respectively).

 Conclusion:Even without experience of laparoscopic radical prostatectomy, the switch to RALP was success-fully conducted. No complications were recorded, and this treatment is considered more beneficial to patients. Key words:前立腺癌,ロボット支援手術,ラーニングカー

緒 言

 手術支援ロボットda Vinci S Surgical SystemTM (Intui-tive Surgical社.以下,da VinciTM)は2000年から米国食 品医薬品局(FDA)の薬事承認のもと本格的に使用が開 始された.ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術(robot-assisted laparoscopic prostatectomy,以下RALP)は2001 年にFDAで承認され,Binderらにより初めて報告されて 以来1),欧米を中心に急速に普及が進み,2006年,2007年, 2008年で前立腺全摘におけるRALPの割合は全体の42%, 63%,85%と指数関数的に増加している2).2012年9月の時 点で米国では1789台,欧州400台,アジアでは178台が稼 働している.アジアでは韓国を中心に導入が急速に進み, 本邦においても2009年11月に正式な認可を受け,2012年4 小林将行・滑川剛史・今村有佑・齋藤允孝・小丸 淳・深沢 賢・ 植田 健:千葉県がんセンター前立腺センター・泌尿器科 千葉県千葉市中央区仁戸名町666-2 TEL 043-264-5431, FAX 043-262-8680 市川智彦:千葉大学大学院医学研究院泌尿器科 千葉県千葉市中央区亥鼻1-8-1 TEL 043-226-2134, FAX 043-226-2136 代表者名:植田 健 E-mail: urolccc@yahoo.co.jp 論文受領日, 2013年2月5日 ; 論文採用日, 2013年4月19日

原著論文

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月にRALPが保険適用となって以来急速に普及が進んでい る.2012年12月時点で69施設75台が稼働しており,アジア では韓国を抜いて最も導入が進み今後も普及していくと考 えられる.欧米では数千例単位の手術経験の報告がなされ ているが,本邦での報告は少ない.今回,当施設での手術 成績,周術期の検討を行い,導入初期の経験の報告及び検 討を行った.

対象と方法

 当施設では2011年9月よりロボット支援腹腔鏡下前立腺 全 摘 術(robot assisted laparoscopic prostatectomy: 以 下RALP)を開始した.開始から2012年12月まで施行し た120例を対象として後方視的に検討した.全例,手術前 に針生検にて組織学的に前立腺癌であることを確認し, Gleason scoreの判定を行った.臨床病期診断は直腸指診, 骨シンチグラフィー,CT,およびMRIを撮影した上で放 射線専門医との合同カンファレンスにより行った.手術適 応は原則として臨床病期T1c-T2N0M0,PSA50ng/ml未満, 前立腺容積60cc未満(極端な中葉突出症例を除外),年齢 75歳以下,良好なPerformans Status(0-1)を対象症例と した.虫垂切除,鼠径ヘルニアの手術以外の下腹部・骨盤 手術の既往例,閉塞隅角緑内障の合併,頭蓋内・頸部血管 疾患の既往例,TUR-P既往例,他院紹介例などで内分泌 療法を既に3か月以上施行している症例は手術対象外とし た.  手術方法はPatelらの方法を基準として一部工夫を加 えて行っている3).全身麻酔下に載石位とし,臍上部に 2-3cmの正中切開を加え直視下に腹腔内を確認しカメラ ポートを挿入した後,鉗子用ポートを5本挿入.助手用 ポートは右側,4th アームは左側としている.25度の頭低 位とした後,da VinciTMをドッキングし,コンソールを開 始.Montsouris法を参考にして4),直腸上面で腹膜に切開 を加え,精嚢,精管,前立腺後面を剥離(18例目より), 腹膜を縫合閉鎖.前腹膜を切開してレチウス腔を展開,内 骨盤筋膜を切開した後,深陰茎背静脈を結紮(途中より 無結紮法)する.前立腺を膀胱頸部より離断し,精嚢,精 管を引き出したのちDenovier筋膜を切開し,前立腺後面 を剥離し外側血管茎を処理する.背側静脈束(dorsal vein complex:以下DVC)を切断(無結紮法では気腹圧を12-15mmHgにあげた後,DVCを鋭的に切断し断端を縫合). 尿道を離断して前立腺を摘出.Rocco stichで後壁補強を 行い5),連続縫合で膀胱尿道吻合を行い,さらに前壁も補 強.バルンカテーテルを留置し,150ml生理食塩水を注入 し吻合不全の有無を確認する.その後,原則として左右閉 鎖リンパ節の郭清を実施し,気腹圧を6mmHgほどに下げ て止血確認後,標本を袋に入れて回収,ペンローズタイプ 陰圧ドレーンを1本留置し埋没縫合で閉創しドレッシング して終了している.なお,当初は従来の開放手術に準じて 硬膜外麻酔を併用していたが,術後疼痛は比較的軽度であ ることより現在は当日のみフェンタニルの持続静脈注射を 行っている.術前から退院までの管理は全例クリティカル パス(以下パス)を用いておこなっている(Fig. 1).生 検,手術検体の病理診断は本邦の前立腺癌取扱い規約に基 づき,病理専門医により評価された6)  対象症例の背景,症例数とコンソール時間,病理所見, 内容 手術前日 手術当日 第1病日 第2病日 第3病日 第6(-8)病日*3 第7(-9)病日*3 緩下剤投与 食事制限 ● 抗菌剤投与*1 ● 飲水開始 ● 歩行開始 ● 食事開始 ● インジゴカルミン投与*2 ● 腹部ドレン抜去 ● 被覆材除去 ● 創洗浄(シャワー浴) ● 尿道造影(火or木) ● バルン抜去 ● 退院 ● Fig. 1 ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術のクリティカルパス *1 ユナシンS™(1.5g)を手術開始30分前と手術終了直後に投与  *2 第2病日のインジゴカルミン投与で腹腔への尿漏出の有無を確認 *3 尿道造影ができる日が火曜日と木曜日のため手術日により変動 前立腺癌におけるロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術:単一施設における初期120例の経験

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解析は回帰分析,カイ二乗検定,t検定を用いた.P値が0.05 未満を統計学的有意差有りと判定した.パスのバリアンス 解析はセンチネル方式で分析を行い,術後入院期間,飲水 開始,歩行開始,食事開始,ドレーン抜去,シャワー浴開 始,尿道カテーテル抜去時期,術後入院期間(退院時期) をクリティカルインディケーターとして評価した.周術 期合併症に関してはClavien-Dingo 分類による評価を行っ た7)

結 果

 Table 1に患者背景を示した.術前内分泌療法が6例あっ た.ヘルニアと虫垂炎の合併例が2例あったため全体では 30例(25%)に腹部手術の既往を認めたが術中に開腹へ移 行した症例はなかった.   手 術 成 績 をTable 2に 示 す. 術 者 ①( 植 田 ) が ま ず RALPを導入および手術開始し,順次術者番号の若い順に 開始しており,現在は4名で手術を行っている.現在まで のところ術者は全員泌尿器腹腔鏡技術認定医が行ってい る.平均出血量は85ml(5-500)であり,輸血例は自己血 輸血2例(1.7%)のみで同種血輸血はない.術前,術翌日 のヘモグロビン変化量の平均は1.7(0-4.8)であり,大き ソール時間は204分,Fig. 2A,B,Cに術者①~③のコン ソール時間の推移を示すが,いずれの術者も症例を重ねる ごとに有意にコンソール時間の短縮を認めた.症例数の多 い術者①,②に関して症例数ごとのコンソール時間と出血 量の比較では,コンソール時間は両者ともに1-20症例目と 21-40症例目では有意に経験症例が多くなるほど改善を認 め,出血量に関しては術者②では有意差はないものの,改 善傾向であり,術者①では有意に改善を認めた.21-40症 例目と41-59症例目の比較では術者①において両方ともほ ぼ同等の成績であった(Fig. 3A,B).尿の禁制に関して Table 1 患者背景 症例数 120 年齢(歳) 66.3±6.0

Body Mass Index 23.5±2.7

術前PSA(ng/ml) 9.2±6.5 median6.9 前立腺体積(㎤) 30.23±9.6 (mean±SD) 上腹部手術既往 5例(4.2%) 下腹部手術既往 鼠径ヘルニア 11例(9.2%) 虫垂炎 16例(13.3%) 術前ホルモン療法あり 6例(5.0%) 臨床病期 T1c 53例(44.2%) T2a 54例(45.0%) T2b 7例(5.8%) T2c 5例(4.2%) T3a 1例(0.8%) 生検 Gleason sum 6 6例(5.0%) 7 82例(68.3%) 8以上 32例(26.7%) NCCN risk low 5例(4.2%) intermediate 80例(66.7%) high 35例(29.2%) Table 2 手術成績 術者別症例数 術者1 59例 術者2 35例 術者3 22例 術者4 4例 手術時間(分) 273±54(175-470) コンソール時間(分) 204±48(119-400) コンソール以外(分) 69±16(26-133) 出血量(ml) 85±104(5-500) ヘモグロビン値 術前(mg/dl) 14.2±1.1(11-17.2) 術翌日(mg/dl) 12.6±1.1(9.5-15.1) 変化量(術前-術翌日)(mg/dl) 1.7±0.9(0-4.8) (mean±SD/range) 輸血 あり 2例(自己血のみ) なし 118例 神経温存 片側温存 5例 なし 115例 Table 3 病理所見 症例数 断端陽性症例数 病期 pT0 1 0 pT2 90 29 (32.2%) pT3 28 12 (42.9%) pT3N1 1 1 (100%) Gleason sum 6以下 7 0 (0%) 7 88 31 (35.2%) 8以上 20 9 (45.0%)   不明(術前内分泌療法) 5 2 (50.0%) DVC*結紮 有 pT2 67 27 (40.3%) pT3 24 13 (54.2%) DVC*結紮 無 pT2 23 2 (8.7%) pT3 5 0 (0%)

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は 術 後1月,3月,6月,12月 でsafety pad(0-1枚/日 ) が 43.9%,82.1%,100%,100%.pad freeが16.3%,47.2%, 81.0%,100%であった.  Table 3に手術検体の病理所見を示す.断端陽性率は pT2では32.6%,pT3では42.9%であった.最近ではDVC を無結紮法で切除している.無結紮法導入前はpT2で断端 陽性率が40.9%,pT3で54.2%であり,その内訳はpT2に おいて前立腺尖部で20例(74.1%),膀胱側で3例(11.1%), 両方が4例(14.8%).pT3ではそれぞれ9例(69.2%),3例 (23.1%),1例(7.69%)であった.いずれも尖部で断端陽 性率となる確率が高かったが,無結紮法導入後はpT2で 8.7%(尖部1例,膀胱側1例),pT3で0%と著明な改善を認 めた.  周術期合併症は麻痺性イレウスが最も多く全体の5%に 認めた(Table 4).またClavien-Dingo分類8)でgrade III以 上の合併症として肺血栓塞栓症,腹腔内出血,麻痺性イレ ウスを認めたが,これは全て同一症例であり,当施設にお ける第1症例目であった.全体で合併症は22症例(18.3%) に認めた.パスのバリアンス解析の結果をTable 5に示す. 第1症例目は歩行と,飲水開始以外全てのバリアンスに該 当した.それ以外の退院延期となった原因としては麻痺性 イレウスが2例,麻痺性イレウスと尿路感染の合併が1例, カテーテル抜去後の一時的な尿閉が1例であった.カテー テルの抜去に関してはバリアンスとなった他の2例はいず れもイレウスによる入院の延長に伴うものであり,膀胱尿 道吻合不全により抜去ができなかった症例は現在までのと ころ1例も認めていない.パスの予定通り退院できなかっ A B C y = -1.674x + 242.97 R² = 0.3424 p<0.01 0 50 100 150 200 250 300 350 400 0 20 40 60

コンソール時間(分)

症例数

術者①

y = -3.9241x + 289.81 R² = 0.6988 p<0.01 0 50 100 150 200 250 300 350 400 0 10 20 30 40

コンソール時間(分)

症例数

術者②

y = -3.8001x + 249.52 R² = 0.3716 p<0.01 0 50 100 150 200 250 300 350 400 0 10 20 30

コンソール時間(分)

症例数

術者③

Fig. 2 症例数とコンソール時間 Table 5 パスバリアンス 設定項目 設定日(日) バリアンス(例) 歩行開始 1 0 (0%) 飲水開始 1 0 (0%) 食事開始 2 2 (1.7%) ドレーン抜去 3 1 (0.8%) 被覆材除去・シャワー浴開始 3 1 (0.8%) カテーテル抜去 6~ 8 4 (3.3%) 退院 7~ 9 5 (4.2%) Table 4 周術期合併症 合併症 Clavien-Dindo分類 症例数 肺血栓塞栓症 IVa* 1 (0.8%) 腹腔内出血 Ⅲb* 1 (0.8%) 麻痺性イレウス Ⅲa* 1 (5%) Ⅱ 5 発熱 Ⅱ 4 (3.3%) 接触性皮膚炎 Ⅱ 3 (2.5%) 肩の痛み Ⅱ 2 (1.7%) 嘔吐 Ⅱ 2 (1.7%) 硬麻によるめまい Ⅱ 1 (0.8%) 尿閉 Ⅱ 1 (0.8%) 起立性低血圧 Ⅱ 1 (0.8%) せん妄 Ⅱ 1 (0.8%) 尺骨神経麻痺 Ⅱ 1 (0.8%) 鼻閉 Ⅱ 1 (0.8%) 心房細動 Ⅱ* 1 (0.8%) 無気肺 Ⅰ 1 (0.8%) 胸痛 Ⅰ 1 (0.8%) めまい Ⅰ 1 (0.8%) 高ビリルビン血症 Ⅰ* 1 (0.8%) * 第1症例目 全体では22症例 前立腺癌におけるロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術:単一施設における初期120例の経験

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た症例は全体の4.8%であった.

考 察 

 限局性前立腺癌に対する開放手術(retropubic radical prostatectomy:以下RRP)は長期成績,根治性の面から も標準的な治療法として広く行われている8)  欠点として10~ 15cm程度ではあるが皮膚切開を置かな ければいけない点,出血量がやや多い点,そして膀胱尿道 吻合を結節縫合で行っているため吻合部縫合不全などが見 られることがあげられる.開放手術の欠点を克服するも のとして1997年に腹腔鏡下前立腺全摘除術(laparoscopic radical prostatectomy:以下LRP)が報告されて以来9) 本邦でも多施設で開始された.手術創が小さく,内視鏡の 拡大視野が得られること,気腹圧により出血が少ないなど 利点も多いが,狭い骨盤内で自由度の少ない鉗子を用いて 手術を行うため難易度が高く,また施設認定基準などもあ るため開放手術に代わるほどの普及は見られていない.da VinciTMによる手術では術野が10倍に拡大された3次元立体 視野で手振れなく直感的な手術操作を行うことができるた め,LRPに比べてラーニングカーブの大幅な短縮に寄与し ている.Patelら3)やAhlering10)らの報告ではおおよそ12~ 25例前後の症例数でLRPの経験がなくともラーニングカー ブは良好であると報告している.当施設においても,術者 全員LRPの経験はないが20例ほど症例を重ねたのちは,コ ンソール時間,出血量ともに安定した手術を行えるように 0 100 200 300 400 500 出血量 (m l) 1-20症例目 21-40症例目 41-60症例目 症例数 p=0.02 p=ns

術者①

0 50 100 150 200 250 300 350 出 血 量( m l) 1-20症例目 21-40症例目 症例数 p=0.07

術者②

B 出血量の比較 150 200 250 300 350 コ ン ソ ー ル 時 間 1-20症例目 21-40症例目 症例数 p<0.01

術者②

100 150 200 250 300 350 400 コ ン ソ ー ル 時 間 1-20症例目 21-40症例目 41-60症例目 症例数 p=ns p<0.01

術者①

Fig. 3 症例数別の手術成績

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なっている.RALPを行うに当たりLRPの経験は必須では ないと考えられるが,トロッカーの挿入に関してのみ,挿 入予定部位に大網や腸管の癒着を認めた場合に状況によっ てはトロッカーを追加して癒着を剥離して安全を確保す る必要があるため,ある程度の腹腔鏡手術の技術は必要で あると考えられる.現在までのところ当施設では執刀医は 全員泌尿器腹腔鏡技術認定医が行っており,手術創がカメ ラポートにかさならない上腹部手術,虫垂炎,鼠径ヘルニ ア等の既往のため腹腔内癒着を認めた症例に対しても開放 手術に移行することなく行えている.今後腹腔鏡技術認定 医以外のものが執刀するケースも出てくると考えられるた め,少なくとも手術に参加するメンバーに腹腔鏡手術の経 験があるものが参加したほうがより安全に行えるものと考 えられる.  当院において神経温存症例は片側が5例と少ないがこれ はRALP導入初期で神経温存の症例を低リスクかつ70歳以 下に絞っていた影響もあると考えられる.導入当初より神 経温存の適応範囲を広げていた場合でもラーニングカーブ はやや遅くなる可能性はあるが大きな影響はないのではな いかと考えている.なお,現在は中リスク症例においても 症例によっては対象としている.  当施設では導入期にPatelらの方法3)を基準として手術を 開始し,現在はいくつかの工夫を加え行っている.当初は 膀胱頸部を離断したのちに精嚢,精管を剥離していたが, 現在はMontsouris法を参考にして最初に直腸上で腹膜を 切開して,精嚢,精管を剥離している.このアプローチの ほうが初心者にも容易に精嚢,精管を剥離することができ ると感じている.またRALPの手術のポイントとして膀胱 と前立腺の離断があげられるが,あらかじめ剥離しておく ことでそのゴールが容易に確認でき,層を誤ったときにも わかりやすい利点もあると考えている.後壁補強は多くの 文献,最近のメタアナライシスでも短期失禁の改善にその 有用性が確認されているため当初より採用している11).前 壁補強は失禁の改善には賛否両論だが,Sammonらの無作 為比較試験で吻合部リークが減ったとする報告もあること より施行している12).尖部の処理に関してはDVCの集束結 紮を行わずに鋭的に切断した後に,縫合を行う方法があ り,Guru,Leiらにより断端陽性率の低下,手術時間の短 縮,早期の尿の禁制に有用であると報告されている13, 14) 当初はRRPに準じてDVCを集束していたが,現在は無結 紮法で行っている.断端陽性率は無結紮法導入前でpT2, pT3いずれにおいても高い結果であり,また断端陽性とな る部位はpT2,pT3いずれにおいても尖部で多かった.ま だ手術手技に慣れていなかったため,DVCを結紮した後, 結紮糸が外れるのをおそれて前立腺寄りで切除していたの もあると考えられる.断端陽性率は無結紮法導入後,pT2 のみならず症例数は少ないがpT3症例においても著明な改 善を認めおり,手術手技の習熟ももちろんあると考えら れるが,無結紮法導入による改善効果も大きいのではない かと考えている.また,膀胱側で断端陽性となる症例も無 結紮法導入前ではpT2で7例(10.4%),pT3で4例(16.7%) に認めたが,導入後の統計ではpT2で1例(4.3%)認める のみであった.RALPにおいて膀胱と前立腺の離断は一つ のポイントであると考えているが,症例を重ねることによ り尿道周囲の解剖学的構造の認識が良好になり,また,こ の離断の手技も習熟してきているものと考えられた.  RRP,LRPに対するRALPの優位性はすでに結論が出 ているといっても過言ではない.TrinhらはNationwide Inpatient Sampleから抽出したデータをもとにRALPと開 腹手術の合併症を比較して輸血率 術中合併症 術後合 併症いずれにおいてもRALPが有意に低かったと報告して いる15).Tewariらのメタアナライシスにおいて,RALPで 術中合併症,周術期合併症,pT2における断端陽性率いず れもRALPがよく,出血量,輸血の確率,入院期間はLRP とRALPでは差がないが,RRPに対してはよいと報告して いる16).Novaraらのメタアナライシスでは出血量,輸血 の確率に対するRRPに対するRALPの優位性,LRPに対し ては輸血の確率の優位性を報告しており,それ以外の項目 では差はないが少なくとも劣るものはないと報告してい る17, 18).当施設においても最初の1例目の症例以降は重篤 な合併症はなく,入院中はパスを用いているがバリアンス も少なく95.2%が予定通り退院できている.クリティカル インディケーターの評価では退院のつぎにカテーテル抜去 が3.3%と多いが膀胱尿道吻合不全により抜去できなかっ た症例は認めなかった.  前立腺に対する手術療法後問題となってくるものとして 尿の禁制が重要な要因であると考えられるがこの点に関し てもFicarraはメタアナライシスで12か月後の尿の禁制率 はRRP,LRPに比べてRALPが有意に良かったと報告して いる11).当施設でも今後の症例の蓄積と経過を見る必要は あるが現在までのところ良好な成績が得られている.ま た,性機能に関してFicarraらはメタアナライシスで改善 率に関してRALPはLRPとは差がないが,RRPに比べて有 意に良いと結論している19).当施設でも今回は検討できて いないが,今後検討の課題としていく予定である.  前述してきたようにRALPはRRPやLRPに比べて手術成 績で劣るものはなく今後,本邦でも欧米と同様に手術の中 心となっていくと考えられるが,一方でRALP特有の問題 前立腺癌におけるロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術:単一施設における初期120例の経験

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蓋内圧,眼圧の上昇,da Vinciの故障リスクがあげられる. 触覚の欠如は組織の挫滅を招いたり,狭い骨盤内で無理に 鉗子を操作することで骨盤壁,周囲血管など思わぬところ を損傷するリスクがある.また当施設では緑内障,頭蓋内 疾患のある症例は長時間の頭低位に対する安全性が担保で きないことより原則適応外としており,著明な前立腺肥大 症があり中葉突出が強い症例,TUR-Pの既往症例,他院 紹介例などで内分泌療法を既に3か月以上施行している症 例も現時点では手術時間が長時間に及ぶ可能性があるため 適応外としている.装置の故障に関してLaveryらは8240 例中34例(0.4%)で故障を認め,そのうち24例は手術前 であったので手術を中止したが,残り10例は手術中であっ たため8例が開腹に移行,2例は従来の腹腔鏡で行われたと 報告している20)  今回の検討では120例と欧米の報告に比して少ない症例 数ではあるが,ラーニングカーブ,周術期の成績ともに諸 家の報告と同様に良好な結果が得られ,スムーズにRALP の導入,移行ができると考えられた.パスのバリアンスも 少なく,ほとんどの症例でパス通りに進めることができる ため,患者にとっても治療の予定がたてやすく,利益の大 きい治療であると考えられた.尿禁制,性機能温存などが 欧米の報告と同様にRALPがRRPやLRPとくらべて良好か どうかは今後さらなる症例の蓄積が必要であると思われ た. 利益相反自己申告:申告すべきものなし

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参照

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