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エコミュージアムにおける口伝による文化継承に関する研究 ―長野県阿智村全村博物館を例として―

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Academic year: 2021

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(1) エコミュージアムにおける口伝による文化継承に関する研究 -長野県阿智村全村博物館を例として-. 17RA136 山本 奈生 指導教員 大原一興教授 藤岡泰寛准教授. 1.背景と目的. 2.言葉の定義. 現在、日本では少子高齢化が進んでおり、地方や農. 2-1.出づくり. 山村ではその問題は顕著であり、これは集落の人によ. 阿智村教育委員会が著した『わたしたちの阿智村』. って受け継がれてきた固有の文化遺産が失われること. において出づくりは「農作業のために集落の中心にあ. にもなる。このような状況を脱するきっかけとして、. る自宅を離れ、一家揃って畑のある出づくり小屋であ. 地域全体を屋根のない博物館と見立て地域を活性化さ. る『山の家』に移り住むこと」であると定義されてい. せるエコミュージアム等のまちづくりの活動を行うと. る。本論文においても同じく、二拠点居住による農業. ころも増えている。その中でも『語り部』による口伝. 形態を「出づくり」と定義する。. 継承が、地域固有の文化を継承するための有効な手段. 2-2.語り部. のひとつである。. 語り部とは「①古代,古伝承を儀式の際に語ること. 長野県下伊那郡阿智村清内路も前述した少子高齢化、 を職掌とした人。② 転じて,自ら体験伝聞したことを 人口減少の傾向にある農村である。阿智村では 2003. 後世に語り継ぐ人」(スーパー大辞林「語部」より)で. 年に「全村博物館構想」と題するエコミュージアム活. ある。本論文は後者の意で「語り部」を定義する。. 動が始まって以来、6つの地区ごとに独立した活動が. 2-3.口伝. 行われてきた。行政は自発的な住民活動を重視してい. 口伝とは情報伝達方法の一つで、口頭で伝えること. るため、名前だけが先行することのないように、活動. である。本論文では、地域住民が対面または、映像を. を義務付けたり厳密に組織化することはなく進めてき. 媒介として、聞き手に対し地域の文化や歴史、自身の. た。. 経験を伝える文化継承の方法のことを指す。口伝を特. また、清内路にはかつて「出づくり」と呼ばれる特. 徴付ける要素は「語り手」 「聞き手」 「手段」の三要素. 殊な二拠点居住の農業形態が見られたが、現在では高. であると考える。それぞれについて、. 齢化により行われておらず、実際に出づくりを経験し. ①語り部 (ⅰ)実際に文化を体験した人. て、その実体験を伝えられる人も年々減少している。. (ⅱ) 歴史や文化を学び知識として伝える人. 本研究では、出づくりを継続させる世帯と出づくり. ②手段(い)対面(ろ)録音(は)文章. を口伝で継承していく語り部が存在する阿智村を対象. ③聞き手(A)身内を含めた村内の次世代. に、その①出づくりの現状を正確に把握し、また、②. (B)村外の人 (C)AB どちらも. 全村博物館構想の実態として実際に全村博物館構想に. と分類でき、例えば清内路における出作りの語り部. 関わっている方の人生史を聞き書きし、全村博物館構. は(ⅰ)実際に文化を体験した人が(い)対面の手段. 想への取り組み方や重要なキーワードを抽出した。ま. で(C)次世代+村外に伝えるものである。 (以下【ⅰ. た、特に③語り部として口伝継承の活動を類型化し、. い C 型】とする。 )本論文では、4章にて、 【ⅰい C 型】. それぞれの特徴を分析した。これらより今後の阿智村. である出作りの語り部を取り上げ、 第3章では主に 【ⅱ. 全村博物館構想やエコミュージアムの可能性を探るも. い C 型】の方に活動内容についてのインタビューを分. のとした。. 析する。. Title :A study on inheritance of cultures with oral history in ecomuseum -Case study on Achi EcomuseumName:Nao Yamamoto(Supervisor:Prof.Kazuoki OHARA,Assoc Prof.Yasuhiro FUJIOKA) KeyWords: ecomuseum,oral history,inheritanze of cultures.

(2) 3.全村博物館構想の現状と参加者意識. る単語が多く出てきたことがわかる。また「一緒」と. 3-1.調査概要. いう言葉が上位に入っていることも特徴的である。全. 行政と阿智村全村博物館構想参加者それぞれの視点. 村博活動を語る上で、 「人」と「一緒」に行うことが重. から全村博物館構想の現状とその活動に関わる自分史. 要という文脈で多く語られた単語である。. をヒアリングした。ヒアリング内容をまとめ、またテ. また、 「阿智」 「清内路」という固有名詞も上位に入. ※1. キストマイニング. による文脈分析を行う。. っている。さらに「歴史」も多く出てきていることか. (1)2018 年 6 月 12 日. ら、自身の活動について語る際に特に興味のある地域. 対象者:阿智村役場協働活動推進課職員 O 氏. や興味のある分野について語られたことがわかる。. (2)2018 年 7 月 22 日 対象者:全村博物館活動参 加者7名(敬称略) 3-2.調査結果まとめ ヒアリングの結果、行政と住民がともに後継者問題 や次の世代への継承に関して課題を感じていることが わかった。そしてそのための対応策として、小・中学 生への文化継承であったり、 より広く活動を周知し 『面 白い』と多くの人に思ってもらえる活動をすべきだと いう意見が見られた。それらの活動を起こしやすくす 図 1 頻度分析(全村博参加者). るためにはきちんと依頼を受けられる窓口やどのよう な形態で文化継承を行うかなど、体制作りを固める必. (2)ネットワーク分析. 要がある。. 図 2 のネットワーク分析では、丸の大きさは頻度の. 行政が担うことができるのは意見の吸い上げのみで. 量、矢印の太さは関連の強さを表す。. あり、全村博物館構想は住民自身の意思決定で動くべ きであるとの思いは行政と住民で共通しているため、 足並みをそろえ体制作りを固めるためには、阿智村の 各地域で行われている活動同士が連携し互いに情報交 換を行うことが必要であると感じた。住民の中からそ の取りまとめ役が出てくることが理想ではあるが、現 状では全員が遠慮しあって二の足を踏んでいる状態で あると思われる。 とはいえ O 氏が全村博物館構想の担当になってか 図 2 ネットワーク分析. ら定期的に行われるようになった連絡会の存在が、各. 地域の連携に今後繋がっていくのではないかと考えら. 「人」 の丸が大きく矢印がたくさん向いている他、 「話」. れる。さらに全村博だよりやマップ、パンフレットが. という言葉にも多く矢印が向かっていることがわかる。. 村に増えて行くことで若い人を取り込むことも、活動. 「神様」 「仏教」など、日本人の古くからある信仰に根. の勢いづけには重要である。. ざした言い伝え、 「いわれ」について住民の興味・関心. 3-3.テキストマイニングによる分析. があることがわかる。. (1)頻度分析(単語). (3)評判分析. 頻出単語のうち上位 20 語を図 1 に示した。なお、. ここでは、評判分析※2 を用い、全村博物館構想参加. 頻度とは全体の中での単語の登場回数を指す。 特に 「人」 者のヒアリングを行う中で 頻出する単語にどのよう が最も多く登場した言葉となった。また、 「村」 「地域」. な印象を持っているかに関して調査した。文脈の中で. 「人たち」 「自分たち」など、コミュニティーを示唆す. 好評・不評と解釈できる表現(以降それぞれ、 「好評語」.

(3) 「不評語」 )をその回数とともに抽出し分析した。図 3. っている。また、 「キミオさん」や「家内」など、特定. はそれをネットワーク図にしたものである。. の人物を示す単語が 2 単語見られ、さらに 20 位以外 のところでも人物名の固有名詞が多く見られた。 また、 「山の家」という単語は見られないものの「本 宅」という単語が上位となっている。これは、お話を 伺った場所自体が山の家であったために「ここ」 「この 家」などの表現で「山の家」が語られたからであると 考えられる。とはいえ、 「本宅」という単語は二拠点居 住という独自の文化を表す特徴的な表現であるといえ る。また頻度の高い単語の一つに「花」がある。対象 者は現在花の出荷で生計を立てているため、生業であ る花作りに絡めた話も多く見られた。. 図 3 評判分析ネットワーク図. 図 3 について、 「人」に対し多くの矢印が集まって いるが、中でも「好き」という言葉からの矢印が一番 印象が強い。阿智村の住民にとって全村博物館構想は 「好き」という気持ちがあるからこそ行う活動である という認識がわかる。 また、 「活動」に対して「面白い」 「楽しい」 「新しい」 「気軽」などの矢印が伸びている中、 「重要」という言 葉との繋がりが最も強いことがわかる。全村博活動を 行う中で、興味の有無だけではなく、特に歴史的、文 化的に重要度の高いものや消失可能性が高いものに関. 図 4 頻度分析(語り部). して積極的に活動を行なっていると考えられる。 また、. (2)ネットワーク分析. 「話」に対して「貴重」という表現が繋がっているこ. ネットワーク分析結果を図 5 に示す。. とも印象的である。. ⅰ)場所性・歴史. また、 「きれい」という表現から「星」 「村」に太い. 左上の話題は、主に出作り小屋の建物としての特性. 矢印があるところから、全村博物館構想に関わる人の. に関する話題である。建物としての特性を説明するた. 村やその資源への愛着がうかがえる。. めに、その歴史に遡って話題を広げている。 「タバコ」. 4.テキストマイニングによる口伝の分析. の「火乾燥」をしていたところ、 「養蚕」が「流行った」. 4-1. 調査概要. ため「慌てて」 「蚕室」に「改造」したという話題展開. 2016 年 9 月 17 日、阿智村下清内路の出作り小屋に. が行われている。. て、当時出作りに関する語り部活動をされていた S 氏. ⅱ)自身と家族. に語り部として、出づくりの歴史や生活についてお話. また、左下の「来る」という言葉は、出作り小屋に. を伺った。その文字起こしを行い、テキストマイニン. 里の家から「来る」という文脈で最も多く用いられて. グにてその頻出語や文脈を抽出・分析し、その特性を. いる。それに対し繋がりの深い言葉として「疲れる」. 探る。. が紐付いていることから、自身のライフスタイルや体. 4-2.テキストマイニングによる分析. 調の変化によって山の家に来ることが難しくなってき. (1)頻度分析(単語). ていることがわかる。また、お話の中に「家内」が病. 頻出単語のうち上位 20 語を図 4 に示した。 「人」 「み. 気をした、という言葉が数回見られた。それゆえに、. んな」という、 “人”に関わる単語が上位 2 単語とな. 山の家の環境では「家内」が「疲れ」てしまう、とい.

(4) う文脈で語られていた。口伝の中で、自身や家族のラ. 5.結論. イフスタイルや生活のバックグラウンドにも言及して. 現状では、録音など、映像や肉声による文化継承の. いることがわかる。. 手段を取っている団体が存在しない。さらに【ⅰい C. ⅲ)地域との繋がり. 型】の語り部は、特に出作りに関しては一名しかおら. 「サダオさん」-「骨折る」、「税金」-「集める」な. ず、体調の変化などからいずれは語り部活動を行うこ. どの、 地域との繋がりに言及する話題も多く見られた。. とは困難になると思われる。また、 【ⅱい C 型】の語. また、右上のまとまりでも、 「組合」という言葉も出作. り部が現在多くを占めるものの、その活動を今後に繋. りの使い方の話題と結びついている。. げることができるかが課題となっている。まだ取られ. ⅳ)外部との繋がり. ていない口伝の形としては【ⅰろ C 型】 【ⅱろ C 型】. 「NHK」と「出作り」という単語が紐付いている。こ. などが考えられ、特に実際に文化を経験した語り部が. のほか、新聞の取材が頻繁にやってくるなど、マスメ. 現状している今、 【ⅰろ C 型】の口伝を残すことが重. ディアとの繋がりに関する話題も多く見られた。. 要であると考える。 また、ヒアリング内容や語り部のお話のテキストマ イニング分析から、住民同士の繋がりが非常に強いこ とが明らかになった。全村博に現在関わっている方の 中では住民が主体性を持って結束を強め、次世代に文 化を残していきたいという共通認識があることがわか る。また、現在は阿智村の中で各地域に別々の活動を 行なっているが、互いに情報交換をしあいたいという 声も多く見られた。. 図 5 ネットワーク分析(語り部). (4)好評語・不評語ネットワーク 図 6 より、 「学校」や「組合」 「まとまり」 などの 地域コミュニティを示す言葉に対しての評価が 「多い」 「良い」など高いことがわかる。 また、 「良い」—「気候」の矢印の太さから、地域の 気候環境を高く評価していることがわかる。自身の住 んでいる地域に根ざした農業という生業を持っている ため、気候環境は重要な要素であることがわかる。. 図 6 評価分析ネットワーク図(語り部). [注釈] ※1 テキストマイニングとは、テキストデータを文字 や単語、フレーズ等の単位に分解し、これらの関係を 定量的に分析する手法である(金,2009) 。テキストデ ータの持つ曖昧さを処理することに限界がある一方で、 統計的な分析という視点からの新たな発見の可能性が あるとされている(藤井ら,2005)。従来、定性的な 手法でしか分析を成し得なかったテキストデータに対 し、言葉の出現頻度や言葉同士の関連を数量化し客観 的な分析結果を示すことができるという点が大きな特 徴と言える。 ※2 評判分析では予めテキストマイニングスタジオが 用意した評価を与える単語(何かを良いイメージまた は悪いイメージで語る時に使用する単語)の一覧を使 用しそれらの単語により評価を与えられている単語を 抽出する。 [参考文献] 1.権藤史子 大原一興 藤岡泰寛「エコミュージアムの 住民参加と次世代への継承についての研究—長野県下 伊那郡阿智村の全村博物館構想を例にして—」2012 年 修士論文 2.和田千緩 大原一興 藤岡泰寛「出作り文化における 生活形態の変遷に関する考察—長野県下伊那郡阿智村 清内路(旧清内路村)を例にして—」2015 年 3.金明哲(2009)『テキストデータの統計科学入門』岩 波書店 4.藤井美和,李政元,小杉孝司(2005)『福祉・心理・看護 のテキストマイニング入門』中央法規出版 [謝辞] 本研究におけるヒアリング調査にご協力いただいた阿 智村協働活動推進課の大石氏、住民の皆様にこの場を お借りしてお礼申し上げます。.

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図 2 ネットワーク分析 3.全村博物館構想の現状と参加者意識 3-1.調査概要   行政と阿智村全村博物館構想参加者それぞれの視点から全村博物館構想の現状とその活動に関わる自分史をヒアリングした。ヒアリング内容をまとめ、またテキストマイニング※1による文脈分析を行う。 (1)2018年6月12日 対象者:阿智村役場協働活動推進課職員O氏(2)2018年7月22日 対象者:全村博物館活動参加者7名(敬称略) 3-2.調査結果まとめ  ヒアリングの結果、行政と住民がともに後継者問題や次の世代への継承に関して課

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