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群馬大学大学院工学研究科 物質創製工学領域

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平成26年度博士学位論文

DSC- ラマン分光同時測定法の開発と応用に関する研究

群馬大学大学院工学研究科 物質創製工学領域

鈴木 俊之

(2)

目 次

第1章 諸言

1.1 熱分析 1

1.2 同時測定法 4

1.3 ラマン分光法 5

1.4 研究の目的 7

1.5 本論文の構成 8

第2章 熱分析-ラマン分光同時測定法の開発

2.1 熱分析-ラマン分光法(DSC-Raman)同時測定装置の開発

2.1.1 序論 16

2.1.2 DSC-ラマン分光同時測定装置の設計及び最適化

2.1.2.1 DSC-ラマン分光同時測定の装置の設計 17

2.1.2.2 インターフェース部 17

2.1.2.3 示差走査熱量計(DSC)部 18

2.1.2.4 ラマン分光法部 19

2.1.2.5 試料容器 21

2.2 DSC-ラマン分光同時測定のデータ解析手法の開発

2.2.1 序論 22

2.2.2 レーザー照射DSCの解析手法 23

2.3 ポリ乳酸へのDSCラマン分光同時測定応用

2.3.1 測定条件 26

2.3.2 DSC-ラマン分光同時測定法とM-DSCの比較 26

2.3.3 ラマンスペクトルの解析 27

2.4 結論 28

第3章 医薬品結晶多形の転移

3.1 序論 55

3.2 実験

(3)

3.2.1 試料 55

3.2.2 等速昇温DSC測定 56

3.2.3 DSC-ラマン分光同時測定 56

3.3 結果と考察

3.3.1 カルバマゼピンのDSC 56

3.3.2 カルバマゼピンの一次昇温時の結晶多形転移 57

3.3.3 カルバマゼピンの二次昇温時の構造転移 59

3.4 結論 60

第4章 ポリ乳酸およびポリ乳酸/シクロデキストリン混合物の構造及び物性

4.1 序論 82

4.2 実験

4.2.1 試料 83

4.2.2 TG-DTA測定 83

4.2.3 延伸測定 84

4.2.4 粘弾性測定 84

4.2.5 等速昇温DSC測定 84

4.2.6 DSC-ラマン分光同時測定 84

4.3 結果と考察

4.3.1 熱的性質 85

4.3.2 引張試験とDMA 86

4.3.3 PLLA,メチルβシクロデキストリン(PLLA-MeCD)の構造の 87

温度依存性

4.4 結論 89

第5章 総括 106

関連論文 108

謝辞 109

(4)

1 第1章 緒言

1.1 熱分析

熱分析は国際熱測定連盟(ICTAC)により定義されており,“物質の温度を一定のプログラム に従って変化させながら,その物質の物理的性質を温度の関数として測定する手法”の総称 である.熱分析は19世紀のHenry Louis Le Chatelierによる平衡の温度計測から始まり,様々 な分析法が先達により確立されてきた.

現在の熱分析の基本形は1899年にRobert Austenにより試料と基準物質の間の温度差を 読み取る方式の示差熱分析(DTA)として開発された.Austen はこれを用いて金属合金の融 点,変態点などの研究をおこなった.更に,本多光太郎により熱天秤(TG)1)が開発され,また,

1955 年に熱量変化をジュール熱で補償する示差走査熱量計(Differential enthalpy analysis, 後のDifferential scanning calorimeter: DSC)がC. Eyraudらにより発表された.

その後,様々な物理量と温度の関係,たとえば,試料の線膨張,変形を測定する熱機械測 定(TMA),試料の変形性や粘弾性を測定する動的粘弾性測定(DMA),電気分極を測定す る熱刺激電流測定(TSC)などの手法の開発がなされてきた.現在,これらを原型とした熱分析 が利用され,温度に対する特性の解析に用いられている.

1980 年代には熱分析をコンピュータ制御させたシステムが登場し,その制御の向上に伴い 測定結果がより精度よく得られるようになった.コンピュータの進歩に伴いフーリエ変換や多変 量解析など様々な解析法も容易になり,複数の次元を持ち合わせる実験結果から特定の情 報の抽出を短時間で行えるようになった.これにより,試料全体の情報を包括して出力する熱 分析においても,反応速度解析を用い寿命解析 11)や半結晶化時間解析 12),温度変調 DSC の結晶化の可逆・非可逆成分の抽出 13)など特定の成分を抽出する測定法とコンピュータによ る解析方法の組合せにより,特定の特性情報が迅速に得られるようになった.

DSC で 得 ら れ る 熱 流 は 時 間 あ る い は 温 度 の 関 数 で あ り , 測 定 法 と し て は 入 力 補 償 DSC(Fig.1-1)と熱流束 DSC(Fig.1-2)がある.Fig.1-1 に示したように入力補償 DSC は試料側 電気炉(Fig.1-1①) とリファレンス側電気炉(Fig.1-1②)の2つの電気炉から構成されている.こ れらの電気炉にはそれぞれ温度センサーとヒーターが接続されている.入力補償DSCでは昇 温,等温,降温など温度制御を試料およびリファレンスに対して行う.その際,試料とリファレン スの温度が等しくなるように試料に加える熱を制御する.例えば一定の昇温速度での測定を 考える.設定に従って各電気炉を加熱する(Fig.1-3①).試料,リファレンスともに熱容量が同じ であるとすると同じ熱量を加えることにより,リファレンス(Fig.1-3②),試料(Fig.1-3③)ともに同じ 速度で昇温する.印加熱量は測定対象とリファレンスで同じであるので,測定対象に吸熱ある

(5)

2

いは発熱の転移が生ずるとリファレンスの温度(Fig.1-3 ②)に対して試料温度(Fig.1-3 ③)

に差異が生じ③から外れて④の点線のように変化する.入力補償DSCでは常にリファレン ス温度と同一の温度を示す様(Fig.1-3 ②とFig.1-3 ④が同じになる様)試料側の電気炉に電 流⑤を印加する.例えば,融解による吸熱または結晶化による発熱による変化がある場合に は測定対象の温度(Fig.1-3 ④)を参照温度(Fig.1-3 ②)に保つために要する過剰または過 小電流(Fig.1-3 ⑤)が印加される.電流をエネルギーに変換した後,印加されたエネルギー が熱流変化として吸熱あるいは発熱ピークの形式で出力(Fig.1-3 ⑥)される.入力補償 DSC の結果は測定対象物の温度が設定したプログラム通りに変化し,測定対象とプログラムの温 度差が常に一定を示す特長を持つ.

入力補償 DSC では電力変化と時間の関数が得られ,温度は時間の関数であるため結果と して温度出力と電力変化(熱流)の関係が得られる.このとき,熱流は試料の質量 m,比熱容 量Cp,温度Tおよび時間tを用いると次の式に基づき表現される.

dt C dT m Flow

Heat   p 1)

式 1)では転移など異常比熱を示さない温度域において比熱容量と昇温速度 dT/dt に依存し

て熱流が得られることを意味する.

これに対して熱流束 DSC は Fig.1-2 に示した様に電気炉(Fig.1-2 ①)内に試料(Fig.1-2

③)とリファレンス(Fig.1-2 ④)が設置され,更に試料とリファレンスの温度差を測定するセンサ

ー(Fig.1-2 ②)から構成される.熱流束DSCでは昇温,等温,降温など温度制御を電気炉に

対して行う.この際,電気炉温度のみ制御温度プログラムと等しくなる様,制御する.例えば,

一定の昇温速度を考える(Fig.1-4①).電気炉温度(Fig.1-4②)はプログラム温度(Fig.1-4①)

に等しくなる様,熱を加える.電気炉内の試料温度(Fig.1-4 ③)とリファレンス温度(Fig.1-4

④)は電気炉温度変化に対しそれぞれの熱容量に由来する遅れを持ちながら追従する.この

とき,測定対象試料と参照試料が共に一定の温度変化を示すと温度差が一定となり,DSC の ベースラインとなる.熱流束 DSC において測定対象で融解,結晶化などエンタルピー変化が 現れると,測定対象温度のみ電気炉のプログラム温度から逸脱し,試料温度(Fig.1-4 ③)とリ ファレンス温度(Fig.1-4 ④)に温度差(Fig.1-4⑥)が生じ,参照試料と測定対象の温度差

(Fig.1-4⑤)が示差熱(DTA)として出力される.熱流束 DSC の結果は測定対象物の温度とプ ログラムの温度差を測定し,DTA(Fig.1-4⑤)で得られた面積値が既知の試料である純金属の 融解熱,たとえば金属インジウムの融解熱量(28.45 J g-1)になる様,定量化することで得られる.

(6)

3

熱流束DSCの追従の遅れは測定対象及び試料容器の熱容量,および測定対象が電気炉 温度に達する時間遅れ,つまり熱抵抗に起因する.したがって,その熱流は試料温度を TS,リ ファレンス温度をTRとしたとき,試料温度の検出までの熱抵抗RS,リファレンス試料までの熱抵 抗RRを用いて,関数F(T)により定量化することで得られ,次の式に基づき表現される.

dt R dT T R T F m

H  ( SSRR)

2)

比熱異常のない温度域では電気炉温度,測定対象温度,参照試料温度が同一の温度変化 速度を示す.このとき, 2)式は0を示し,ベースラインを意味する.また,転移など比熱異常が 見られる温度域では電気炉温度,参照試料温度は同一の温度変化を示すが,測定対象温度 は転移による温度変化速度が加減する.このTSTRの差が転移ピークを示す.この関係を用 いて温度差を熱流に変換することで入力補償DSCと同じ結果を得ることができる.

入力補償DSCと熱流束DSCで得られる結果は似た結果を示すが,入力補償DSCのエン タルピーが電力値の積算で得られるのに対し,熱流束DSCがDTAとして得られたピーク面積 の積分値の定量化を行う点で異なる.吸熱など比熱異常を示す温度域で入力補償DSCでは 測定対象温度がプログラム温度に追従するが熱流束 DSC では追従しない.熱流束 DSC は 時間を基準とした温度と熱流変化であり,入力補償DSC は時間と温度に対する熱流変化とな り,得られる結果の基準が異なる.

DSCで得られる試料の熱量変化は熱力学第二法則に従う.ギブズエネルギーG,エンタル ピーH,温度T,およびエントロピーSとするとギブズエネルギー変化は3)式で表される.

ΔG = ΔH – TΔS 3)

3)式はΔG<0であれば反応は自発的に進行する.対してΔG>0であれば外的要因のエネ

ルギーを受けない限り反応は進行しない.反応の自発的進行可能な状態はΔH-TΔS < 0 の場合であり,例えば融解においてΔH > 0であり,ΔS > 0であるため,Tが融点以下ではΔ G > 0となり,融解は生じない.融点以上になるとΔG < 0となり,ΔH > 0として融解ピークが 観測される.熱分析では結晶化は発熱ピーク,融解は吸熱ピークとして発現する.ガラス転移 では比熱容量の変化として発現する.他の状態変化に伴う変化をTable1-1に示した.

熱分析測定法により異なるが,DSCから得られる結果は次の特長を持つ.

(1) 結果を得るために必要な試料量が数ミリグラムと少ないにもかかわらず,試料全体の

(7)

4 情報が短時間で得られる

(2) ガラス転移,結晶化,融解等の情報が得られ,試料の正確な転移と熱量の温度依存 性が得られる

(3) 試料の状態の熱履歴による差を明示できる.

(4) 昇温過程,降温過程あるいは等温過程における熱物性の変化を連続的に解析でき る.

(5) 非平衡下でのエンタルピー変化を時間や温度の関数として解析でき,反応速度が 得られる.

熱分析は,一部のガス分析法を除きガス以外の状態の物質において,試料の変化と温度の 関係を得ることが可能である.一方で,赤外分光(IR),核磁気共鳴(NMR),X線回折(XRD) 等で得られる試料の構造情報については得ることができない.

1.2 同時測定法

分析化学の中で同時測定法は現在,一般的な手法であり,多岐に渡る同時測定法が存在 する.たとえば,GC/MS は測定対象物をガスクロマトグラムで分離し,分離された試料を質量 分析計で定性する手法であり,LC と組合せた LC/MS なども一般的な方法として定着してい る.同時測定の特長は一回の測定から試料に関する異なる見地からの情報が得られる点にあ る.そのため,試料濃度や試料の状態,その他測定機器の機差などの考慮を必要とせず,複 数の機器を用いた解析と比較して,条件の統一などを考慮しなくとも,試料情報を簡便に得る ことができる点で有用である.

熱分析における同時測定において,古くは TG-DTA として熱重量測定(TG)と示差熱分析

(DTA)の同時測定が存在する.TG-DTAはTGで分解温度とその量を判断でき,DTAから吸 熱・発熱を判断できる.これにより DTA の発熱と TG の減量を示すことにより,空気中あるいは 酸素中での試料の燃焼等(Table 1-1)についての解析を容易に行うことができる.

TG-DTA も同時測定であるが,現在は,熱分析に構造解析的な手法を組合せた方法のみ

を同時測定法と呼ぶことが多い.たとえば,TG と質量分析(Mass)を組合せた熱重量-質量同

時測定(TG-MS)である.これらは熱分解過程で発生するガス種を同定する方法 3)として発生

ガス分析(EGA:evolved gas analysis)と呼ばれる.TG では発生ガス種は不明であるが,減少 量の温度依存性が得られる.TG-MS により,発生したガスはMass により,分子量に関する情 報がえられる.これにより,例えば空気中での燃焼反応進行過程の燃焼機構を解析 4)すること ができ,TGのみのデータ解析とは異なるアプローチが可能となる.TG-MS 以外のEGA には

(8)

5

発生ガスの官能基情報を透過法FT-IRなどで得るTG-IR5)などがある.これらEGAでは試料 の分解で発生したガスが再吸着,TGA と定性分析の接続部で二次分解を極力少なくする考 慮がなされている.

TG-MS などの発生ガス分析は,試料後に発生ガスに対して逐次的に別の測定を行ってい

る.すなわち,同時測定というよりは逐次測定と表現する方が正確である.一方で材料の温度 変化においてはその性質が分解を伴わず構造転移によって変化することがある.試料の分解 を伴わない転移解析にはDSCとX線回折装置を組合せ,X線回折-示差走査熱量同時測定 装置(XRD-DSC)を用いた測定6)が知られている.XRD-DSCでは DSCで得られる測定対象 のエンタルピー変化を XRD で得られる構造情報と共に取得でき,結晶構造の時間あるいは 温度変化を連続的に測定できる.このような分解を伴わない熱分析と他の方法による測定で は熱物性と同時に構造変化に関する情報を測定している点で真の同時測定と考えることがで きる.

これら同時測定に用いる装置は単に異なる装置を接続するだけでなく,接続された機器が それぞれ単独の結果と等しい情報を与え,かつ互いの結果の相関を与える必要がある.これ には同一の測定対象の同一条件における分析結果を得ることが重要であり,例えば,連続で 変化するガス種を分析する場合には発生時間とガス種の分析時間が異なると目的とする結果 が得られないばかりか,誤った解析の要因となる.したがって同時測定における機器接続部は 測定経過時間などを基準として接続される必要がある.

また,複数の測定法を組み合わせた同時測定は,そのデータ量から装置構造や得られた 結果の解析が複雑になるため,構造の正確性は元より,コンピュータを用いた解析を行わなけ れば,膨大な時間を要する問題点も持ち合わせる.

1.3 ラマン分光法

分子分光法は 18 世紀のプリズム分光に始まり,光源から発せられた光の吸収,反射,ある いは試料の発光を測定する手法である.その後,1940 年代になり主に天文学者の Fellgett ら によるフーリエ変換法を用いた解析法が分光法のスペクトル解析に利用されるようになった.

それまでの分光法は分散型であり,光源をプリズムやスリットを用い特定波長に分光し,この干 渉強度を得る手法であった.一方,フーリエ変換を用いる手法は測定中に可変な光路を用い,

光路長を変更し,インターフェログラムで得られた結果をフーリエ変換し,多波長から特定の信 号を抽出する.このフーリエ変換を用いた手法では多波長,高エネルギーをインターフェログ ラムで同時検出かつ,積算することによりS/Nを高くできるため,分光法は大きく発展した.

(9)

6

これら分光法では入射光が反射,あるいは透過する際に試料と相互作用(吸収,反射,干 渉等)することにより試料の構造に由来するミクロな情報を得ることができ,このとき用いる電磁 波の種類により異なる構造情報を得られる.例えば赤外光(IR)を用いると分子の振動状態に 関する情報が得られ,可視・紫外光では電子状態に関する情報が得られる 7).様々な分子分 光法の中で構造解析に用いられるのは官能基に関する情報を与えることのできる赤外分光法 及びラマン分光法である.近年,コンピュータの発達に伴い分光法にフーリエ変換を用いた解 析法(FT-IR,FT-Raman)が主流となった.これらの手法では観測時間がかなり短縮されるため,

従来の周波数を掃引する方法に比べて短時間で高感度に測定することができる.

ラマン分光法は測定可能な波数範囲が広く,赤外光を吸収するガラスを通しても測定可能 であり,固体,液体など様々な状態での測定が可能である.また IR に比べて感度が高く短時 間での測定が可能である.また,散乱により測定できる点が特徴である.

ラマン分光法はChandrasekhara Venkata Raman により20世紀初頭から行われた散乱スペ クトル解析法である.ラマン分光法では,物質に振動数νの入射光を加えると物質と相互作用 することで,入射光と振動数の異なるストークス散乱(線)とアンチストークス散乱(線)のラマン 散乱(ラマン効果)を生じる(Fig.1-5).このストークス散乱とアンチストークス散乱は分子振動 に伴う分極率の変化により生じるため,物質の結晶性,配向等の状態に関する情報を与える.

ラマン分光法は簡便で,かつ正確な構造情報を得られる点が有効である.例えば,高分子 に用いる場合には次の利点がある.

(1) 官能基の情報が得られる.

(2) ラマンシフトから結晶,非晶の情報が得られる.また,一般にピークの幅が結晶性を 示し,半値幅が小さいほど結晶性が高い.

(3) 圧縮された物質など密度が高いほどピークが低波数に検出される.

(4) コンプレックスなど複合材料であっても,各々のスペクトルが得られ,主な波形の干渉 が少ない.

(5) 散乱光の測定のため,試料と光源が非接触で測定できる.

以上のような利点があることから,DSC との同時測定が可能であれば精度の高い熱物性と構 造情報を直接結び付けることのできる強力な手法となりうる.

ラマン分光法において測定対象の温度をコントロールすると温度に対しての連続的なラマ ンスペクトルを得られるが,励起レーザーにより測定対象の温度上昇が起き,試料の正確な温 度検出が難しい.さらに励起レーザーの連続照射を長時間行うと試料の温度上昇に伴い試料 が分解し,解析を困難にする.一般に光照射を伴う分光分析測定の温度は熱分析と比較する

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7

と,温度精度が劣り,数 ˚C 以上の温度の不正確性が生じる.これに対し,温度精度を確保し た熱分析と分光分析の同時測定では,熱分析の温度の正確さと分光分析による構造の特定 がその試料自身の持つ熱特性の判断を容易にし,且つ分光分析に正確な温度の情報を追加 するため,各々の手法の利点を損ねることなく解析を可能にする点に利点がある.

1.4 目的

各種材料は温度に依存して構造,物性が変化する.これは実際に材料を使う際に重要であ るが,材料を加工する際にも最終製品の性能に影響することを考慮する必要がある.そのため,

構造の温度依存性を精度よく解析することは重要である.ラマン分光法は固体,液体,結晶,

非晶など測定対象の状態に依存せず測定が可能であり,DSC 法も同様に固体から液体まで 解析可能な法である.一方,DSC の結果からは構造に関する情報が得られず,ラマン分光法 からは正確な温度の情報が得られない.つまり,動的な温度の計測が最も精密とされるDSCと ラマン分光を組合せ同時測定(DSC-ラマン分光同時測定)すると,エンタルピー変化とその温 度,構造変化を同時に得られる.これにより,固体,液体など結晶構造,非晶構造などを DSC で解析可能な温度範囲で解析でき,単独で測定したこれまでと異なる次元の情報を追加した 解析手法とすることができる.

これまでDSCとラマン分光法を組合せたDSC-ラマン分光同時測定装置を利用した報告は Sprunt8),Ali9) ,Merad10)によりなされている.Spruntはsn-1,3-distearoyl-2-oleoylglycerol

(SOS)の結晶多形の構造解析にDSC-ラマン同時測定を用いている.この測定ではDSC中で 目的の結晶形を生成し,ラマン測定は等温に維持して行っている8).これにより,SOSの5種類 の結晶多形のラマンスペクトルを得ている.Aliらはsulfathiazoleの結晶多形についてDSC-ラマ ン分光同時測定を行っている.Sulfatiazoleらは室温ではⅢ型の結晶形であるが約160℃でⅠ 型の結晶形に転移する.Aliらは昇温に伴うラマンスペクトルの変化を測定し,Ⅰ型とⅢ型の帰 属を行っている9).この測定では実際には目的の温度に昇温後にその温度を維持し,等温状 態でラマン測定を行っている.Meradらは,エポキシ樹脂Bisphenol A ((4-(2,3 epoxypropoxy)

phenyl) propane)の硬化反応を,DSCで長時間等温保持した試料のラマンスペクトル変化から

解析できることを報告している10).つまり,これまでのDSC-ラマン分光同時測定ではラマン測 定の温度制御のためにDSC装置を利用していただけであり,本当の意味での同時測定になっ ていない.高精度で得られる熱的性質に関する情報を無駄にしている.前節で述べたようにラ マン分光法とDSCの本当の意味での測定が可能なれば,熱的な変化と構造変化を直接結び つけることができる.また,ラマン測定に用いるレーザー照射に伴う試料の温度変化を利用す

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8

るとM-DSCで得られるTgにおけるCp変化など可逆転移と低温結晶化など非可逆転移の情報

が同時に得られる可能性がある11-13).さらに結晶状態だけでなく,非晶や融解温度以上でもデ ータ取得が可能であるDSC-ラマン分光同時測定による解析は物性研究に重要な情報を与 え,材料の性質の解析のみならず最終製品の材料設計にも役立つ手法である.そのため,

DSC-ラマン分光同時測定の装置開発,解析法を確立する必要がある.

本研究ではDSC,ラマン分光法で

1) 新測定法であるDSC-ラマン分光同時測定装置の開発と解析法の確立

2) DSC-ラマン分光同時測定の応用に関する研究.

を行うことを目的とする.

1.5 本論文の構成

本研究では熱分析の新法の確立,つまり,DSC-ラマン分光装置の開発及びその応用によ る熱物性と構造情報を利用することによりいくつかの物質の構造解析を行った.

本論文の各章の構成を次に示す.

第1章では,本研究の背景,目的並びに研究概要を示す.

第2章では,熱分析法DSC,ラマン分光同時測定装置ならびに解析法を開発し,その適用性 について検討した.

第 3 章では,DSC-ラマン分光法を構造情報が明確な低分子の医薬品の融解,ならびに結 晶化に応用し,構造変化の温度依存性解析を行い,DSC-ラマン分光同時測定の有用性を確 認した.

第 4 章では,一般的な DSC 法と DSC-ラマン分光の相互のデータ関連性を求めるため,ポリ 乳酸(Poly(-L-lactic acid),PLLA)及びシクロデキストリンとの混合物の融解,冷結晶化挙動を 検討し,熱挙動および構造変化が熱特性に与える影響の知見を得ることを目的とした.

第5章では結論として博士論文の総括を行った.

参考文献

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9

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13) Wunderlich, B., Prog. Polym. Sci., 28(3), 383 (2003)

(13)

10 Table 1-1 TG-DTAにおけるTGとDTAの関係

TG DTA 転移及び変化の種類 減量 吸熱 脱水(自由水,100˚C付近),蒸発 減量 吸熱 脱水(200˚C付近),蒸発,昇華,分解,脱離

減量 発熱 燃焼

変化なし 吸熱 融解,相転移

変化なし 発熱 結晶化,硬化

増量 発熱 酸化

増量 発熱 吸着

(14)

11

Fig.1-1 入力補償DSCの構造,①試料側電気炉,②リファレンス側電気炉,③試料,④リファレン

① ②

③ ④

(15)

12

Fig.1-2 熱流束DSCの構造,①電気炉,②センサー,③試料,④リファレンス

③ ④

(16)

13

Fig.1-3 入力補償 DSC の①電気炉温度,②リファレンス温度,③試料温度,④転移の電力補正

ない場合の試料温度変化,⑤電力供給補正量(矢印)および⑥電力出力

(17)

14

Fig.1-4 熱流束 DSC の①プログラム温度,②電気炉温度,③参照温度,④試料温度,⑤温度差

出力,および⑥転移よる温度変化

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15

Fig.1-5 ν in : 励起光振動数,νvib : 分子振動数,νR : レイリー散乱,ν in + νvib:アンチスト ークス線,ν in + νvib: ストークス線

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16 第2章 熱分析-ラマン分光同時測定法の開発

2.1 熱分析-ラマン分光法(DSC-Raman同時測定)同時測定装置の開発 2.1.1 序論

物質の特性解析において,DSC は測定対象の状態,たとえば固体,液体などに影響を受 けず,精密な温度とエンタルピー変化を高感度で解析1)できる点で有用な手法である.例えば,

医薬品はその結晶形に依存して,薬効に差が生じるため DSC により,融点,融解エンタルピ ーを測定することで品質管理を行っている 2).また,高分子材料は成形温度,成形時間に依 存して結晶性が変化するため最終的な物性が影響を受ける.その結晶化度,結晶サイズは DSCを測定することで確認することができる.しかしながら,DSCは試料のエンタルピー変化と 正確な温度が得られる 3)反面,試料の転移に伴う原子,分子レベルでの構造変化の情報を得 ることはできない.

構造情報を得る手法は様々あるが,これらは等温での分析に優れているものの,昇温,降 温など温度が時々刻々変化する非平衡条件下では正確な温度は得られず,転移過程の解析 においては温度のあいまいさが存在する.つまり,物質の温度と構造情報の関係を得るため には熱分析の温度の正確さに構造解析の組合せが重要となり,DSC と構造解析手法を同時 測定できる装置の開発が必要である.DSC に構造解析可能な手法を組み合わせ,同時測定 とする場合,各々の手法がお互いの結果に影響を与えないか,または影響が最小限である測 定手法の選択が重要である.ラマン分光法は構造や結晶の情報を試料に非接触のラマン散 乱光から得られる4)点でDSCとの組み合わせは妥当5)である.ラマン分光法では信号は試料 にレーザー照射し,その散乱光から信号が得られる.このため,レーザー照射による温度変化 以外はDSCの本体の温度分布に影響を与えず,試料の熱挙動をDSC検出部に熱抵抗なく 正確に伝え,DSC として解析することができる.DSC-ラマン分光同時測定においては両測定 法のデータを得られる可能性があり,この点においてもこの組み合わせは妥当である.

これまで DSC 法とラマン分光法の同時測定 6-8)の報告は多くはない.その要因として,ラマ ン分光法に用いる励起レーザーの照射が測定対象の温度に影響9,10)し,正確な転移温度との 相関を判断することが困難であったことがあげられる.これまでの報告 7,8)では主に DSC は温 度制御のために用いられており,一定温度まで昇温した後,等温でラマン測定を行いDSC の 情報は利用されなかった.そのため,本当の意味での同時測定はなされてこなかった.レーザ ー照射が試料温度に与える温度上昇の影響を最小限にとどめ,ラマン分光測定を行うことが できれば同時測定が可能となる.これにより,DSC の非平衡状態での動的エンタルピー変化

(20)

17

の解析に加え,ラマン分光法の構造情報からエンタルピー変化をもたらす転移を解析できる.

さらに,光照射に伴う温度変調成分から可逆,非可逆反応を抽出できれば,ラマン分光で得ら れる構造変化と可逆,非可逆性を同時に解析できる.つまり,DSC-ラマン分光同時測定法は 熱的挙動を解析に加え,ラマンスペクトルを得られるだけでなく,転移に伴う動的情報も得られ る.

そこで,本章では DSC 法,ラマン分光法装置開発を目的とし,装置構成,接続部,測定条 件,解析法,適用可能性について検討することを目的とする.

2.1.2 DSC-ラマン分光同時測定装置の設計及び最適化

2.1.2.1 DSC-ラマン分光同時測定の装置の設計

設計したDSC-ラマン分光同時測定装置構成を Fig.2-1に示す.DSC-ラマン分光同時測定

装置は DSC 装置部,ラマン分光装置部,インターフェース部で構成される.また,DSC 内部 に試料部,ラマン分光装置部内に光源部(励起レーザー発生部),ラマン散乱光検出部が含 まれる.インターフェース部はプローブ部,レンズ部,位置調整部,シャッター部で構成した.

次項で構成の詳細を記載する.

2.1.2.2 インターフェース部

インターフェース部(Fig.2-2a,b)は励起レーザー照射用グラスファイバーおよびラマン散乱 光検出用グラスファイバーを束ねたグラスファイバープローブ部(Fig.2-3),レーザー遮断用シ ャッター,レンズ部(Fig.2-4)で構成した.励起レーザー照射用には 90 μm のグラスファイバー を採用した.レンズ部内部には偏光ガラスを設け,励起レーザーと散乱光がラマン散乱光検 出用ファイバーに対して迷光の影響を少なくした.更に励起レーザー光とラマン散乱光の光路 は分離独立させ,ラマン散乱光検出用には減衰の影響を少なくするため,励起レーザーと比 較して大径の200 μmのグラスファイバーを採用した.

これらのプローブ部を介してラマン分光装置部とDSC装置部を接続(Fig.2-1)する.一般的 な DSC に用いる試料は 6 mmφ 以下である.十分なラマン散乱を得るためには試料全体に 励起レーザーを照射する必要がある.光の照度は試料とレンズの距離が大きくなるほど低下 することから,励起レーザーの照射位置調整機構(Fig.2-5)を設け,レンズ先端と試料の距離

を最短18 mm まで調整可能な機構を設けた.一般的にラマン分光法では励起レーザーの強

度を上げると得られるラマン散乱強度が上がり,ピーク強度が強くなる.しかし,試料の一部に 励起レーザーを照射すると照射された部分のみ温度上昇が考えられる.DSC では試料の底

(21)

18

面で温度を検出するのでレーザー照射面でレーザーの集光による温度分布が生じると温度 検出の精度が低下する.これを防ぐため,DSC-ラマン分光同時測定に用いたレンズ部先端か ら試料設置位置の間で焦点を設けず3.5 mmφ の円形に照射することで,試料全体を照射で きる機構を用いた(Fig.2-6).この位置調整機構およびインターフェースレンズ部は測定対象 の中心にレーザーを照射でき,温度分布を小さくできるため,DSC で得られる転移の解析に おける温度精度を上げることができる.

励起レーザーが連続的に照射された場合,試料は常に外来エネルギーを受けており,測定 時間が長くなると印加するエネルギー総量が大きくなり,温度が上昇し,温度制御が不可能に なる.励起レーザーによる印加エネルギー量を抑え,かつ測定対象の温度上昇の影響を抑え る目的で,ラマン分光法の測定中のみ励起レーザーを試料に照射するため,レーザー照射時 間を制御するシャッターを設け,レーザー光照射を間欠的に行うことで試料の温度を一定に 保つ機構を設けた.

2.1.2.3 示差走査熱量計(DSC)部

1 章で説明したように DSC-ラマン分光同時測定に用いる DSCには熱流束 DSC および入 力補償DSCが存在する.これらは同じDSCであっても制御方法に違いがある.入力補償DSC は転移に伴うエンタルピー変化(Fig.1-3 ⑤)を補償し,一定の昇温,降温あるいは等温となる ようにプログラムされた温度(Fig.1-3 ①)にリファレンス(Fig.1-3 ②)を制御し,試料の温度が リファレンスと同一の温度(Fig.1-3 ②)になる様,制御したヒーターへの供給電力をジュール 熱(Fig.1-3 ⑤)として出力する.一方,熱流束 DSC は電気炉の温度(Fig.1-4 ②)を一定の昇 温,降温あるいは等温となるようプログラムされた温度(Fig.1-4 ①)によってコントロールし,こ のときリファレンスの示す温度(Fig.1-4 ③)と試料の示す温度(Fig.1-4 ④)の差を測定し,

DTA 出力を得る(Fig.1-4 ⑦).この DTA 出力を既知なエンタルピーで定量化し,最終的に DSC出力を得る.

これら熱流束,入力補償の両方式のDSCの結果は通常のDSC測定では大きく変わらない が,試料を一定の温度に保つことができる入力補償DSCはレーザー照射などがあった場合で あっても外来信号に依存しない出力を得られ,温度を一定に保持できると考えられる.これに 対して,熱流束DSCでは単に温度を計測しており,温度を制御するための機構は存在しない ため,レーザー照射をしても温度変化は入力補償に比べて遅くなり精密な温度制御は難しい と考えられる.このため,入力補償DSCの方が光照射を用い構造解析手法との同時測定に適 していると考えられる.

(22)

19

このことを確認するために設計した DSC-ラマン分光法のインターフェース,およびラマン分 光機を入力補償DSC,熱流束DSCのそれぞれに接続し,レーザー照射による温度変化につ いて検討する.測定試料として試料径4 mmφ,厚さ0.15 mmのポリエチレンを用い,出力100

mW,785 nmの励起レーザーが試料全体照射される様,調整し,励起レーザーを30 sに1回,

5 s照射した.熱流束DSCでの結果をFig.2-7に示した.励起レーザーが照射されると温度が 上昇していることがわかる.温度変化は最大で3.3 ˚C 上昇している.また,レーザー照射が終 了後は温度が元に戻ろうとするが,次の照射直前に温度が元に戻っている.同様の実験を入 力補償DSCで行った結果をFig.2-8に示した.入力補償DSCでは温度が最初,急に上昇す るが制御されることでレーザー照射の最後には温度上昇がほぼなくなっている.最終的に

0.021 ˚Cの上昇となり,入力補償DSCの温度変化が小さいことがわかる.また,温度回復の時

間は次の照射までの時間の半分以下で回復している.このように入力補償DSCの方がレーザ ー照射による温度上昇が小さく,その後の回復時間が短時間である.これはDSCの温度制御 方法の違いに起因しており,狭い温度範囲でも詳細な転移の熱的,構造変化を解析するうえ で温度を一定に保つことのできる入力補償DSCがDSC-ラマン分光同時測定法に有効である ことがわかる.そこで同時測定には入力補償DSCを用いることとする.

2.1.2.4 ラマン分光法部

本研究におけるDSC-ラマン分光同時測定のラマン分光測定には波長785 nmのレーザー を用いた.ラマン分光法では光源から試料に照射した特定の波長のレーザーの照射時間,積 算 5)に伴い,ラマン散乱強度が変化する.一方で照射強度,照射時間に伴い DSC データへ の影響は大きくなる.また,どの程度の間隔でラマン測定を行うかでラマンスペクトルの温度分 解能が決定される.そこでDSC-ラマン分光同時測定におけるレーザー照射条件について検 討する.

まず,レーザー照射時間について検討するためにレーザー照射により入力補償 DSC の温 度,熱流がどの程度変化するかを検討した.Fig.2-9に100 mWで 30 s照射した場合の温度 と熱流の変化を示した.レーザー照射が始まると温度は上昇し,熱流は減少する.約 3.2 s で 熱流の変化による制御が作用して温度が一定になり,その時の温度上昇は 0.032 ˚C である.

つまり,レーザーを3.2 s以上照射すると平衡状態に達することが分かる.平衡状態でラマン測 定を行うことで DSC とラマンスペクトルの両方の情報を得ることができる.一方で,照射開始か

ら3.2 s までの非平衡状態を利用すると M-DSC と同様に転移の可逆,不可逆成分の分離が

可能となる.これは単に DSC-ラマン同時測定を行うことで DSC とラマンスペクトルを得るだけ

(23)

20

でなく,+α のデータを得ることにつながる.そこで,レーザー照射時間に関しては試料量に依 存するが,平衡状態に達するより短い時間とする.例えば,Fig.2-9の場合では3.2 s以下の照 射時間とする.

インターフェース部の設計においては励起レーザーによる試料の温度上昇を防ぐためにシ ャッターを設け,間欠的にレーザーを照射するようにした.Fig.2-10 に励起レーザー強度の試 料温度に与える影響を示した.測定では厚さ0.5 mmのPLLAをDSC用アルミニウム製容器 に入れ,26 s間隔で100 mW,4 s連続照射(Fig.2-10a),100 mW,2 s✕2回照射(Fig.2-10b),

50 mW,4 s連続照射(Fig.2-10c) 50 mW,2 s✕2回照射(Fig.2-10d)で測定した結果である.

尚,ここで 2 s✕2 回照射はレーザーを切った後,間隔をおかず,すぐにレーザー照射を自動 で行った.励起レーザー50 mW照射(Fig.2-10c,d)で得られた温度上昇幅は最大 0.016 ˚Cで あり,励起レーザー光100 mWで得られた0.027 ˚Cと比較して小さいことがわかる.更に 100

mW,50 mWともに4s連続照射より2 s✕2回照射の温度上昇が小さいことがわかった.

温度上昇の挙動を見てみると,100 mW,4 s照射では温度は単調に増加して,単調に低下 している.これに対して,100 mW,2 s✕2回照射では一旦上昇した後にレーザー照射切断に より温度が低下し,更に再び照射が始まることで上昇している.間欠照射による温度の挙動は 2 つの周期(2 s 二回と非照射)の温度変化を試料に加えることになるので,レーザー光照射 時の変化と非照射の変化を解析できM-DSC 測定と同様な測定に最適な温度変化である.ま た,照射を短時間に集めることにより,ラマンスペクトル測定中,DSC の昇温プログラムによる 温度変化量が少なくなり,ラマンスペクトルの温度分解能を上げることにもつながる.

Fig.2-11にレーザー強度のラマンスペクトルのS/Nへの影響を示した.100 mW照射した場

合には S/N が連続照射,間欠照射がそれぞれ26.6,25.6 であったが 50 mW ではそれぞれ 9.0, 11.9となり,照射強度は強いほうがスペクトルのS/Nは向上することが分かる.

Fig.2-12に照射方法(連続,間欠)によるスペクトルのS/Nへの影響を示した.4 s連続照射 (a)と2 s✕2回照射(b)を比べるとS/Nはそれぞれ,26.6と25.6であり,ほとんど差はなかった.

6 s連続照射(c)と2 s✕3回(d)ではそれぞれ,17.8と26.1であり,間欠照射のS/Nが向上して いる.8 s連続照射(e) と2 s✕4回(f)においても間欠照射のS/Nは向上している.原因は不明 であるが間欠照射法を用いると得られるスペクトルのS/Nは同程度もしくは向上することが分か る.また,照射回数が 2 回-4 回と積算回数が増すと徐々に S/Nが向上するが,照射回数を 増すとラマンスペクトル測定中にDSC の温度プログラムによる温度変化が大きくなり,ラマンス ペクトルの温度分解能が低下するのでこれらを総合的に考えると2回で十分である.

(24)

21

以上より,温度変動を抑え,ラマンスペクトルのS/Nをある程度良く得るためには,照射時間 を短く,間欠照射すればよいことがわかる.また,間欠照射することで M-DSC と同様の情報も 得ることができる.本研究で用いた DSC-ラマン分光同時測定に用いるラマン分光法の測定に

は100 mWのレーザー光を2 s✕2回の間欠照射が適切である.

DSC-ラマン分光同時測定法で得られた結果は,時間,温度,熱流およびラマンスペクトル によって構成される.ここで DSC-ラマン分光同時測定結果の熱挙動を解析するためには,デ ータの温度分解能について検討する必要がある.ラマン分光法は積算時間を大きくし,照射 時間を長くとると,ラマンスペクトルの強度が増し,解析を容易にする.一方でDSC-ラマン分光 同時測定において積算回数を増加する,あるいは照射時間を延長するとレーザー照射中に 試料が加熱されると同時に,一回のラマン測定で得られる温度範囲が広くなり,温度分解能は 低下する.例えば試料を5 ˚Cmin-1で加熱したときに6 sのレーザー照射を行うと,昇温速度と 照射時間から5[˚C min-1 ]× 6 [s]/60[s-1],つまり,DSC-ラマン分光同時測定で得られたラマ ンスペクトルの温度分解能は 0.5 ˚C となる.ラマン分光スペクトルの温度分解能を向上させる ためには加熱速度を遅くするか,あるいは照射時間を短くする必要がある.例えば,DSC-ラマ ン分光の結果のラマンスペクトルで温度分解能0.1 ˚C を得るためには2 ˚Cmin-1で照射時間 3 sに設定すればよいこととなる.

これまでの結果から 100 mW 照射でラマンスペクトルは十分な強度が得られた.照射時間 は先の議論より間欠照射2 s✕2 回で待ち時間 6 sに設定すれば,5 ˚Cmin-1の昇温速度で

DSC-ラマン分光同時測定で得られたラマンスペクトルに対し 0.83 ˚C の温度分解能が得られ

る.Fig.2-13にこの温度と熱流の変化を示した.レーザーによる温度上昇も 0.026 ˚Cに抑えら れている.更にその条件でのラマンスペクトルも十分な強度を得ることができた.温度分解能を 向上させるためには,昇温速度を下げることで更に向上させることができる.

2.1.2.5 試料容器

DSC,ラマン分光法は共に試料の状態が固体から液体と適応範囲が広い.DSC-ラマン分光 同時測定を行う場合,試料が固体から液体に状態が変わるとき体積変化が生じるために,測 定対象の厚さが変わり,インターフェースレンズ部から測定対象までの距離が変わる.例えば DSCにおいて試料の形状が変わると,励起レーザーから受ける外乱要因である熱伝導が変わ り,DSCのピーク勾配が変化する.さらに試料の厚さ変化はラマン分光法の強度にも影響する.

そこで,DSC-ラマン分光同時測定に用いる容器(Fig.2-14)には熱分析用のアルミニウム製試 料容器に石英製蓋を用い試料表面の変化や融解による試料形状が変化しない様,考慮した.

(25)

22

また,粘性の低い液体試料に用いる試料容器には 10μL の試料の上面に石英蓋が載せられ

る構造(Fig.2-15)を用いた.これらを用いることで,DSC 結果の容器の熱伝導,形状変化の影

9)を軽減した.

2.2 DSC-ラマン分光同時測定のデータ解析手法の開発

2.2.1 序論

DSC-ラマン分光法において励起レーザーの連続照射を用いると,DSC の試料は励起レー ザーから常に一定の外来エネルギーを受け,DSCの結果は通常の定速昇温DSCの結果とし て取得できる.これまで報告されてきた DSC とラマン分光法同時測定は励起レーザーの連続 照射法5-7)を採用している.この連続照射法を用いたDSC-ラマン分光法で得られるDSCは単 体の DSC の結果と似た結果を示し解析が容易である.また,ラマン分光において励起レーザ ーの焦点を合わせ,高強度なエネルギーを測定対象に加えるため,ラマンスペクトルの強度 が高く解析が容易であった.しかし,励起レーザーによる外来エネルギーを受ける試料の転移 への影響は無視できず試料の照射を受ける表面とセンサー底面に温度分布を与え,DSC の 正確な結果が得られない.さらに,この焦点位置の温度上昇は転移,分解を進行させ,得られ るラマンスペクトルが目的でない温度や転移の情報となる.結果としてDSC-ラマン分光のDSC とラマン分光法各々で得られた結果を不正確にする.

本研究では DSC-ラマン分光法同時測定法においては試料の温度上昇を抑えたまま,ラ マンスペクトルが得られるようにレーザーを一定周期,一定照射時間で間欠的に照射する方 法を開発した.DSC-ラマン分光同時測定法のラマンスペクトルは一定周期にて連続的に取り 込まれ,DSC で得られた温度,および時間と組み合わせることで得られた結果を単独測定の ラマン分光法と同様にピーク帰属が可能である.このときの DSC の結果は励起レーザーの間 欠照射による外来信号が観察される.周期的な間欠照射はこの周期に対応した温度の変動 を生じる.このような周期的な温度変動は M-DSC と同様の影響を試料に与える.そのため,

DSC-ラマン分光同時測定から得られるDSCデータもM-DSCと同様の解析が可能と考えられ

る.この変動から M-DSC で実施されていると同様に可逆成分,非可逆成分を抽出できれば,

連続照射を用いるDSC,ラマン分光の結果に M-DSCの非可逆な転移の情報を追加すること ができ,DSC で得られる非可逆な転移を構造とともに解析できる.そこでまず,DSC の変調成 分を除いたDSCデータの解析法を検討する.試料本来のDSCデータを取得するにはレーザ ーによる外来ノイズを DSC 法の出力と分離する技法を開発する必要がある.本節ではこの手 法を検討する.

(26)

23

2.2.2 レーザー照射DSCの解析手法

DSC 法において等速昇温,降温の温度に変調を加える Modulated DSC 法(M-DSC)11)や 熱容量測定法であるStep Scan法(M-DSCあるいはMT-DSC)が1990年初頭から実施されて いる.また,熱容量解析において保持温度間の温度幅を1 ˚C以下で測定するエンタルピー法 はさらに古くから行われており,M-DSCの温度変調方式に数Hzから数10 Hzで光を照射す

る技法 12)は M-DSC と共に行われてきた.一般的な M-DSC は電気炉温度の変調に対する

DSC出力変動の位相差から可逆成分と非可逆成分に分離13)する,あるいは等温の定常状態 から昇温,あるいは降温の非定常状態へ移行する時に現れる熱流変化から反応の進行を伴う エンタルピーの時間依存成分と温度により決まる熱容量成分に分離する技法である.本研究 における DSC-ラマン分光同時測定法は入力補償 DSC を用いたことから温度変調を用いた M-DSC と似た結果を得る.DSC-ラマン分光同時測定におけるポリ乳酸(PLLA)の DSC 出力

結果を Fig.2-16b に示す.この図から,レーザー照射により熱流が振動することが分かる.この

熱流の振動から DSC成分を抽出しなければならない.

M-DSC と DSC-ラマン分光同時測定における変調方式の異なる点は M-DSC が試料の温

度変動をプログラムに従ってファーネス制御するのに対し,DSC-ラマン分光同時測定では温 度の変調がレーザー照射に起因する外来信号による温度の変調である点である.DSC-ラマン 分光同時測定においてこの外来信号は定速昇温における熱流にDSCの振幅を与えるため,

DSC-ラマン分光同時測定の外来信号を含む熱流から DSC の結果を抽出する必要がある.こ

こで DSC-ラマン分光同時測定におけるレーザー由来の温度変動と試料から影響を受ける熱

量変化を分離すれば,熱流変化そのものが得られる.DSC-ラマン分光同時測定において外 来変動による温度変化は0.026 ˚Cと単独のラマン分光法と比較して極めて小さく抑えられてい る.光照射による温度変動は試料を介し,センサーへ到達するため,レーザー照射 Off から On への変化は試料の熱伝導に依存する.DSC の結果から直接的に熱伝導は求められない ため,外的要因に伴い変化する熱容量を勘案し,DSCの熱流を求める.

DSC-ラマン分光同時測定の DSC の結果はレーザー照射開始により発熱変動を示すが照

射から変動が収まるまでの時間が熱伝導に依存する.したがって,M-DSCの解析手法を用い ると熱容量成分変化を考慮する必要がある.そこで,この熱容量成分を考慮した一般的な DSCの結果と同等な結果が得られる解析法14)を考える.

入力補償DSCの熱流は熱容量と熱抵抗を用いて1)式のように表すことができる.

(27)

24 dt

C dT m R flow

Heat1  p 1)

ここで試料の熱抵抗R1,試料質量m,熱容量Cpである.この式よりわかるように昇温速度が 一定であれば熱流は一定であり,この熱容量成分はDSCのベースラインに寄与する.熱容量 の変化がなければベースラインは一定であるが,ガラス転移点などで熱容量の変化が生じると ベースラインに変化が生じる.

レーザー照射を行った時にはレーザーによるエネルギーは試料表面から熱拡散を伴い試 料底面を経由しセンサーで発熱として感知し,ベースラインが発熱側に移動する.そのため,

転移のない温度域ではDSC中での熱流は2)式による熱伝導R2,励起レーザーにより印可さ れるエネルギーJを用いて次式で表すことができる.

J dt R

C dT m R flow

Heat1  p2 2)

ここでR2は試料と温度センサーの間の熱抵抗であり,Jはレーザーにより加えられた単位時間 あたりの熱エネルギーである.レーザー照射は間欠的に行うために,2)式の第 2 項は時間依 存性分である.間欠的にレーザー照射を行うと第 2 項もその周期に依存して変化するため熱 流の変化も周期的になる.相転移がない領域においてはレーザー照射による変化は同じ振 幅で変化する.Fig.2-17 にインジウムの DSC-ラマン分光同時測定の熱流変化を示した.レー ザー照射は10 s間に2 s✕2回行った.観測された熱流はインジウムの融点以下のところでは 周期的変化は同じ振幅で変化しており,2)式の変化を確認することができる.

相転移領域においては 2)式に加えて相転移による吸熱,発熱の項が加わり,熱流は3)式 のように表すことができる.

dt Hd J dt R

C dT m R flow

Heat

2 p

1 3)

ここでΔH は転移のエンタルピーであり,αは転移の割合である.転移が生じると 3)の第2 項 で表される周期的な熱流の変動に加えて第 3 項が寄与するため,熱流の最大値,最小値に 差が生じる.

Fig.2-18はDSC-ラマン分光において励起レーザーを2 s✕2回を繰り返し,このとき得られ る熱流変化(Fig.2-18a),試料温度変化(Fig.2-18b),励起レーザーシャッター開閉(Fig.2-18i, 上方向:開,下方向:閉)を模式的に示した.DSC-ラマン分光同時測定では DSC の試料の 熱流は励起レーザー照射によるエネルギーJ が印可され,シャッターの開閉(Fig.2-18i)に連 動し変動する.シャッターが閉から開へ変わると,励起レーザーが試料に照射され,DSC は温

(28)

25

度上昇を抑えるため温度制御し,例えば Fig.2-18c,Fig.2-18e の発熱が発現する.発熱過程 のショルダーは励起レーザーの2 s✕2回の初回2 sと続く2 s照射の間にシャッターが閉じる ことに起因する.このショルダーは励起レーザー積算回数に依存し,([照射回数]-1)回発現 する.シャッターが開から閉へ状態が変わると,励起レーザーの照射が終了するため,試料の 熱容量のみのベースラインに戻るため Fig.2-18d,Fig.2-18f の吸熱へシフトを示す.間欠照射 ではシャッター開閉が繰り返されるため,Fig.2-18c,Fig.2-18eに示した発熱ピークと Fig.2-18d, Fig.2-18fの吸熱ピークを繰り返す.

等速昇温 DSC であれば,Fig.2-18c, e は熱容量差として求められるが,外来信号が入る DSC-ラマン分光同時測定では適用できない.DSC-ラマン分光同時測定では励起レーザ ーにより DSC に与える外来エネルギーは等しく,熱容量に変化のない十分に狭い温度範囲 では 2)式の第2 項 R2·J は等しいとみなせる.このとき,DSC の面積Fig.2-18c およびFig.2- 18e は等しく,かつ,励起レーザー照射のない時間の熱流差 Fig.2-18h ,および照射 2 回の

熱流差 Fig.2-18g は等しい.また,DSC のベースラインは試料の熱容量容量に変化のない場

合,Fig.2-18h と Fig.2-18g の差に等しい.熱抵抗 R1R2を直接得ることはできないから,R2·J 項の影響を排除するためにFig.2-18hとFig.2-18gの差分からベースラインを得ることができる.

ガラス転移など熱容量容量が変わる場合を考える.2)式第2 項R2·J 項においてR2が熱伝 導の遅れが発生する.外来熱流を受けたDSCはベースラインが安定するまでにR1R2による 遅れを示し,Fig.2-18hとFig.2-18gに影響する.R1に影響を受ける Fig.2-18d,R2に影響を受 けるFig.2-18cの差分を得ることで熱流を求めることができる.

転移のある温度では熱流は2)式に加えてDSCの転移によるピーク(エンタルピーΔH)と変 化率αで表すことのできる第3項が加わっている.この項は吸熱量,発熱量に影響を与えるた めg≠hとなる.これを考慮して解析を行うことでDSCの結果を得ることができる.以上をまとめ ると,データ処理を以下の手順で行う.

1)Fig.2-18の面積差c-e,d-fを計算し,Cpの温度依存性とする.

2)Fig.2-18の高低差h-gを用いて1)の結果を補正する.

Fig.2-17において上述の手法を用いて変換したものがdのDSC曲線である.これから融解

のエンタルピーを計算すると26 J g-1(文献値28.45 J g-1)が得られた.文献値と実測値には約

10 %の差がある.これは金属融解が非常に狭い温度範囲で起きるために,Fig.2-17 のサンプ

リング点数が不足しているためである.昇温速度を5 ˚Cmin-1以下にし,照射のインターバルを 短くし,サンプリング数を増した場合の結果をFig.2-19 に示す.ここでは昇温速度2 ˚Cmin-1, 3 sに1回の間欠照射を用いた.DSC解析結果(Fig.2-19b)は5 ˚Cmin-1(Fig.2-17d)と比較し

(29)

26

て,明確なピーク形状を示し,かつ,融解のエンタルピーは28 J g-1となり,文献値と良く一致し ている.この結果は DTA として吸熱や発熱の温度が得られるだけでなく,間欠の励起レーザ ーを用いるDSC-ラマン分光法同時測定のDSCであっても正確な熱量が求められること示し ている.

この解析手法を用いると DSC-ラマン分光同時測定で得られた熱流を DSC の結果として得 ることができ,外来信号を含む熱流変化から試料由来の熱流を分離することができる.

2.3 ポリ乳酸へのDSCラマン分光同時測定応用 2.3.1測定条件

M-DSC

装置にはDSC 8500 (PerkinElmer製)を用い,試料量2 mg,昇温速度5 ˚Cmin-1,窒素 気流化で測定した.M-DSCの等温保持間隔を0.8 ˚Cとし,このときM-DSCで得られる平均 昇温速度は1.8 ˚Cmin-1であった.

DSC-ラマン分光法

DSCにDSC 8500(PerkinElmer製),ラマン分光法にRamanStation 400(PerkinElmer製)

を2.1.2.2のインターフェースで接続した.ラマン分光法に用いる励起レーザーは785nmと

し,3200cm-1~200cm-1の範囲で測定した.DSCの昇温速度を2 ˚Cmin-1とし,DSCとラマン 分光法を同時に測定した.

2.3.2 DSC-ラマン分光同時測定法とM-DSCの比較

Fig.2-16に示したPoly lactic acid(PLLA)の等速昇温DSC(Fig.2-16a)において,等速昇温 DSCの60 ˚CにTg,120 ˚CにTc,160 ˚Cに融解が見られる.一方,DSC-ラマン分光法の DSC(Fig.2-16b)のDSCでは昇温に伴い振幅が徐々に増大する.このとき,60 ˚C付近,130

˚C付近では振幅が変化し,等速昇温DSCのTgTcと一致する.160 ˚C付近のTmでは

光照射M-DSCで議論されている15)熱伝導や熱抵抗に影響され振幅が変調する.金属イン

ジウム融解(Fig.2-17a, Fig.2-19a,)では融解に伴い振幅が減少するが,一方,PLLAでは160

˚Cの融解で振幅が増加する.これは融解と同時に結晶化が同時に進行していることを示唆す る.

Fig.2-20にPLLAの DSC-ラマン分光同時測定の結果に前項2.2.2の解析法を適用した 結果(Fig.2-20a, b),ラマン強度変化(Fig.2-20c)およびM-DSC測定から得られた可逆成分,

(30)

27

トータルフローおよび非可逆成分(Fig.2-20d, e, f)を示す.熱容量(Cp)の変化から計算された 熱流(Fig.2-20a)ではTgに相当する60 ˚CでCpが増加している.更に130 ˚C以上でCpは 徐々に増加し,160 ˚Cで吸熱を示し,融解が現れている.Cpの変化と間欠照射による周期 的変化の差分による補正の結果をFig.2-20bに示した.Fig.2-20aと比較するとTg, Tmがより 明確に現れている.一般に非晶を示すPLLAは120 ˚C前後で低温結晶化16)を示すが,本 研究に用いたPLLAでのM-DSCのトータルヒートフロー(Fig.2-20e)にはTcが見られず,

100 ˚C以上で不明瞭な吸熱,発熱を示す.これはM-DSCの熱容量成分変化(Fig.2-20d)で は130 ˚Cから融解に伴う吸熱が開始するため,トータルヒートフロー(Fig.2-20e)においても吸 熱と発熱が同時に進行し,相殺されていることによるものと推測できる.一方,DSC-ラマン分光 同時測定で得られたDSC(Fig.2-20b)では100 ˚C以上で微小な発熱ピークを示す.ラマン分 光法では転移に伴い強度が変化し,同時に得られるラマンスペクトル強度(Fig.2-20c)は60 ˚ C,100 ˚Cで強度の勾配が変わり,Fig.2-20b のTgTcと一致する.

M-DSCの非可逆成分(Fig.2-20f)の170 ˚CにM-DSCを融解に用いる場合に問題とされ る吸熱を示すものの,150 ˚Cと160 ˚CにTcの発熱ピークを示す.DSC-ラマン分光同時測 定法では一次転移,二次転移を熱分析で得られた結果とラマン分光法から明確に示すことが できる.次節ではこの特長を用いラマン分光法の結果を検討した.

2.3.3 ラマンスペクトルの解析

Fig.2-21 およびFig.2-22に25 ˚C,Tg温度付近の75 ˚C,Tc温度付近の130 ˚C,および Tm温度付近の160 ˚C,165 ˚C,175 ˚CでPLLAのラマンスペクトルを示す.測定は785 nm

の励起光100 mW,2 s✕2回で行った.積算回数が2回にも関わらず,スペクトルのS/Nは高

く,本研究で用いたDSC-ラマン分光同時測定法の測定条件の妥当性が示された.

Table.2-1に得られた帰属17,18,19)結果を示す.PLLAの強度の高いラマンピークは2945 cm-

1が(νCH, νCH3), 870 cm-1が(νCEster–Ca, νC–Ca)に帰属される.Fig.2-23にDSC-ラマン分光 で得られた DSC(Fig.2-23a)と 2945 cm-1(Fig.2-23b),870 cm-1(Fig.2-23c),750 cm-1(Fig.2- 23d)のピーク強度と温度の関係を示す.この 2945 cm-1, 870 cm-1の強度変化はFig.2-20cに 示したラマン散乱強度と似た挙動を示す.60 ˚C 以下ではこれらは一定の強度を示し,60 ˚C 以上で増加する.この強度変化は DSC(Fig2-23a)で得られる Tg と一致する.Tg 以上では非 晶の分子運動が活性化するのでラマンスペクトル強度の変化は非晶中の分子運動の早さの 目安になると考えられる. Fig.2-23bに示した2945 cm-1の強度は100 ˚C以上で強度増加の 勾配が小さくなっている.Fig.2-23aの DSC の結果から100 ˚C 以上で低温結晶化が生じ,こ

Table 3-1   一次昇温のラマンピーク位置とⅠ形,Ⅲ形の帰属

参照

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