博 士 ( 理 学 ) 猶 原 秀 夫
学位論文題名
Electrochemical Epitaxial Growth of Platinum and Palladium on Gold Single Crystal Surface ‑ Growth Process , Structure and Electrocatalytic Activity
(金単 結晶表面へ の白金およびパラジウムの電気化学的 エピタキシャル成長ー成長過程,構造および電極触媒活性)
学 位 論 文 内 容 の 要旨
固体表面に高度に構造制御した表面物質層を構築する事によって新しい機能を付与 したり、反応活性を制御することができる。この様な研究は表面・界面化学の基礎的な 知見を得る上で非常に重要であるだけでなく、電子デバイス、触媒、センサーなどの高 機能性材料の開発とぃった応用面においても非常に興味深い。金属あるいは半導体の構 造制御は、これまで主として真空中で蒸着法、分子線結晶成長法(MBE) あるいは有機金 属気相成長法(MOCVD) などの手法を用いて行われており、成長過程の原子・分子レベル での追跡や析出層の構造評価は真空中での種々の測定法を組み合わせて行われてきた。
これまでの研究で析出層の厚さが非常に薄い(数層)場合、その物理的あるいは化学的 な特性はバルク物質の特性とは全く異なることが知られている。一方、電気化学的な金 属の析出(めっき)は、非常に簡単な装置を用いて行えることから工業的には広く使わ れてきたが、原子・分子レベルでの構造制御とぃう点で真空系に比べ大きく遅れてい た。しかし近年、溶液中への清浄表面の露出法の確立と原子・分子レぐルでのIn situ 表 面測定法の発達によって、原子・分子レペルでの構造・配向を制御した金属や半導体層 の電析に関する研究が行われるようになった。電気化学的に貴金属薄層の異種金属電極 上への 析出については、燃料電池への応用を目的とした電極触媒の観点から Ru/Pt 、 Rh/Pt 、Pd/Pt など幾っかの系で報告されている。しかし析出層のナノスケールでの観察 や構造制御は全く行われていなかった。また基板のPt 自身の電極触媒活性が高いことか ら、析出した金属超薄層の特性評価は困難である。
本研究は、構造規制された金属電極表面への異種金属の超薄層の電析過程を原子レ ベルで明らかにするとともに、析出薄層の構造・特性・反応性をバルク単結晶表面と比 較し、新物質相創製の指針を与えることを目的として行った。具体的には金単結晶基板 上へのPt とPd 超薄層の析出過程の原子・分子レベルでのその場追跡と超薄層表面での電 極触媒活性と構造や電子状態との関係について検討した。
本論文は七章から構成されている。
‑184
第1章 では 、本 研究 の 位置 づけ を示 し た後、本研究で 用いた抽situ測定法(水晶 振 動 子マ イク ロ バラ ンス 法(QCM)、走 査型 ト ンネ ル顕 微鏡(STM)、 高感 度反射赤外分光 法 (IRRAS))の 原 理・ 実験 法に つい て 概説 し、 貴金属電極表 面におけるSTMを用いた研究 例 について総括した。
第2章 では、電析法によるAu(lll) 電極上へPt(lll)層の構築 とその構造について検 討した。ま ず、STM測定により反応物で あるPtCl。 錯体がAu(lll)基板および析出したPt 層上に(7xV7)R19.1゜構造で吸着して いること、また、錯体を含まない電解質に交換して 表面観察を行うと各々Au(lll)−(lxl)或いはPt(lll)―(lxl)構造が得らることを明らかに し た。 さら に 、XRD測定 、HとCuの アン ダー ポテ ンシ ャ ル析 出の ボル タモグラムのピ ー クからPt(lll)層の形成を確認した。 これらの結果に基づぃてPtの成長における吸着錯体 の役割について論じた。
第3章 では ー第2章で得ら れた知見を生かし、Au(lll) 上にPd(lll)層の構築を目 指 し た。 成長 過 程と その構造、 表面吸着種が析出層の成長様 式に及ぼす影響についてよ り 詳細に検討 した。in situ STMにより反 応物であるPdClユ 錯体がPt錯体の場合と同様に、
Au(lll)基 板と析出したPd層上に(V7xV7)R19.1°構造で吸着していることを示し、またPd がlayer‑by‑layer成長する様子をその 場観察することに成功した。さらに吸着錯体が脱離 す る電 位で 析 出を 行うと、Pdは三次元的に成長することを 示した。この様な成長様式 の 変 化は 、吸 着 したPd錯体がPdの三次元的な成長を抑え、二 次元的な成長を促進させる と いうモデルの妥当性を支持する結果である。
第4章 で は 、 成 長 過 程 に 対 す る 基 板 の 表 面 構 造 の 影 響 につ いて 検討 す るた め、
Au(100)電 極上へのPd薄層の構築を試み た。STMによりAu(100)基板 上にもPdClユ゜錯体は 規 則構 造で 吸 着し てい るこ と、Pdの析 出はAu(100)表面に 存在する一原子層高さの島 構 造 のエ ッジ 部 分と テラス部分 から始まり二次元的に成長す ること、また次の層の核発 生 はAu基 板の 島 構造 が存 在す る場 所 で起 こる こと を見 出 した 。こ れら の結果から核の 発 生 、成 長機 構 を議 論し た。XRD測定 とCuの アンダーポテン シャル析出のボルタモグラ ム のピークよ りPd(100)層の形成を確認し た。fcc金属で最も安定な(111)以外の結晶面でも 電 析 法 に よ っ て エ ピ タ キ シ ャ ル 超 薄 層 を 構 築 可 能 で あ る こ と を 示 し た 。 第5章 では 、構 築し たPd層 にお ける 種 々の電極触媒活 性の膜厚・構造依存性につ い て 検討 した 。Au(100)基 板 上のPd単 原子 層 は、二層以上の 場合に比べ正電位側まで酸 化 物 が形 成さ れ ず、 また形成し た酸化物は二層以上の場合に 比べ正電位側で還元される こ と が判 った 。 この 酸化 挙動 の違 い は、HCHOの酸 化反 応 に大 きな 影響 を与え、一層のPd で は比 較的 正 電位 側ま で大 きなHCHOの 酸化 電流 が流 れ た。 これ らの 結果は、一層目 の Pdの電 子構 造 がバ ルク とは 異な っ てい るこ とを示唆する 。またAu(100)上のPd層にお い てCuのアン ダーポテンシャル析出/脱 離を繰り返すことにより、そ のピークはPd(100)単 結 晶上 で得 ら れる 特徴的なピ ークと同じになった。これら の結果は、Pd析出の初期過 程 で 、Auの格 子 間隔 に影響されPd本来の格子間隔より僅かに 広がった新たな(100)相の 形 成を示唆している。
第6章 では 、STMの 探針 を利 用 したAu(lll)上へのナノ スケールでの場所選択的なPt やPdの 析出 に 成功 し、探針が 電極表面の局所的な電位変化 を引き起こした結果である と いう機構を提案した。
第7章では、以上の結果をまとめた。
―185ー
学位論文 審査の要旨
主 査 教 授 魚 崎浩 平 副 査 教 授 中 村義 男 副 査 教 授 市 川 勝
副 査 助教授 嶋 津克明(地 球環境科学 研究科)
学位論文題名
Electrochemical Epitaxial Growth of Platinum and Palladium on Gold Single Crystal Surf ,aCe ‐GrOWthPrOCeSS , StruCtureandEleCtrOCatalytiCACtiVity
(金単結 晶表面への 白金およびパラジウムの電気化学的 エピタキシャル成長―成長過程,構造および電極触媒活性)
固体 表面 に 高度 に構 造制御した表 面物質層を構築する事によっ て新しい機能を付与し た り、 反応 活 性を 制御 することがで きる。金属あるいは半導体の 構造制御は、これまで 主 と し て 真 空 中 で 蒸 着 法 、 分 子 線 結 晶 成 長 法(MBE)あ る い は 有 機 金 属 気 相 成 長 法 (MOCVD)な ど の手 法を 用い て 行わ れて おり 、 成長 過程 の原 子・ 分 子レ ベル での 追跡 や 析 出層 の構 造 評価 は真 空中での種々 の測定法を組み合わせて行わ れてきた。析出層の厚 さ が非 常に 薄 い( 数層 )場合、その 物理的あるいは化学的な特性 はバルク物質の特性と は 全く 異な る こと が知 られている。 申請者は本研究において構造 規制された金属電極表 面 への 異種 金 属の 超薄 層の電析過程 を原子レベルで明らかにする とともに、析出薄層の 構 造・ 特性 ・ 反応 性を バルク単結晶 表面と比較し、新物質相創製 の指針を与えることを 目的とし て行っている。
具体 的に は まず 、電 析法によるAu(lll)電極上へPt(lll)層の構 築とその構造について 検 討し た。STM測定 に より 反応 物で あるPtCl62‑錯体がAu(lll)基 板および析出したPt層 上にc.r7xV7)R19.1°構造で吸着して いること、また、錯体を含ま ない電解質に交換して 表面観察 を行うと各々ALI(III)―(lxl)或いはPt(lll)−(lxl)構造 が得らることを明らか に した 。さ ら に、XRD測定 、HとCL1のア ン ダー ポテンシャル析出 のポルタモグラムのピ ークからPt(lll)層の形成を確認した 。
次い で、Au(lll)、Au(100)上 にPd層 の構 築を 目 指し た。 成長 過程 と その構造、基板 の 表面 構造 、 表面 吸着 種が 析出 層 の成 長様 式に 及 ぼす 影響 につ いて よ り詳細に検討し た。in situ STMにより反応物であるPdCl。2.錯体がPt錯体の場合と同様に、Au(lll)基板 と 析出 したPd層上 に(V7x/7) R19.1° 構造で吸着していることを 示し、またPdが1ayerー by−layerでェピタキシャルに成長す る様子をその場観察すること に成功している。さら に 吸着 錯体 が 脱離 する 電位で析出を 行うと、Pdは三次元的に成長 することを示した。こ
186ー
の様な成長様式の変化は、吸着したPd 錯体がPcl の三次元的な成長を抑え、二次元的な成 長を促進させるというモデルの妥当性を示している。また、ALI(IOO) 表面においても同 様な成長過程で析出が進むことを示した。
さらに、構築したPd 層における種々の電極触媒活性の膜厚・構造依存性について検討 した。Pd 単原子層は、二層以上の場合に比ベ正電位側まで酸化物が形成されず、また形 成した酸化物は二層以上の場合に比べ正電位側で還元されることを明らかにした。この Pd 層の酸化挙動の違いは、電極触媒反応に大きな影響を与え、Pd 単層が多層とは異なっ た特性を持つことを明らかにした。これらの結果は、一層目のPd の電子構造がバルクと は異なっていることを示唆している。
本研究は、電析法により高い触媒活性を持つ貴金属超薄層を固体基板上に構造を制御 して析出することにより、バルクの金属にはない物理的・化学的特性を持つ機能性表面 の創製の可能性を示したものとして大きな価値を有する。関連原著論文は6 編あり、い ずれも英文で国際誌に掲載または掲載予定である。
以上,審査員一同は申請者が博士(理学)の学位を受けるに十分な資格を有するもの と判定した。
―187ー