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北太平洋におけるプラスチック汚染と海鳥への      影響に関する研究

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Academic year: 2021

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     博士(水産科学)山下   麗 学位論文題名

北太平洋におけるプラスチック汚染と海鳥への      影響に関する研究

学位論文内容の要旨

  【背景】

プ ラス チッ クは1850年代 に発 明さ れて 以来、 その 生産 量は 増加 の一 途を たどっている。

プラスチックは「軽い」、「耐久性に富む」、「熱に強い」など多くの利点を持つ反面、自然分 解 しな いた め、 焼却や埋め立てによって廃棄処理されており、適切に処理されないものは 最 終的 に海 洋へ と流出する。海洋へ流出したプラスチックは長期間にわたって環境中に残 留 する が、 その 分布や現存量に関する知見は限られている。また、プラスチックは様々な 海 洋生 物の 胃内 容物中から見出されるが、中でも海鳥からの報告例が最も多い。海洋環境 中 のプ ラス チッ クか ら残 留性 有機 汚染 物質(Persistent Organic Pollutants,POPs)が検 出 され る。 その ため、海鳥はプラスチックを摂食することによって生理的な影響を受ける だ けで なく 、プ ラスチックを介したPOPs毒性の影響を受けることが予想される。しかし、

プ ラス チッ ク摂 食に よるPOPsの生 物体 内への 移行 とそ の影 響に つい ては 検討されていな い。

【目的と方法】

  本 研究 では 、北 太平 洋におけるプラスチック汚染の現状を把握し、プラスチック摂食に よる 海鳥 への 生理 学的 、毒 性学 的影 響に つい て調査 する こと を目 的と した 。は じめに、

1993‑1996年 と2000‑2005年 にか けて 、北 太平 洋の亜 寒帯 海域 、移 行領 域お よび 亜熱帯海 域において、二ユース卜ンネッ卜を用しゝたプラスチック採集を行い、これらの海域におけ るプ ラス チッ クの 分布 と現存量を調査した。次に、北部北太平洋およびべーリング海中央 部に おい て、 サケ ・マ ス流 し網 調査 で混 獲さ れた海 鳥(ミズナギドリ科3種とウミスズヌ 科4種) の胃 内容 物を解 析し 、プ ラス チッ ク摂 食の 有無を調べた。さらに、これらの海鳥 のプ ラス チッ ク摂 食量 と海 鳥の 体重 、お よびPOPsの 中で も特 に毒 性が 強い ポリ 塩化ピフ エニ ル(Polychlorinated biphenyls,PCBs)の 残留 濃度との関係性について検討した。ま た 、 北 太 平 洋 で 混 獲 さ れた ウ ミ ス ズ メ 科6種 、 ミ ズ ナギ ド リ 目2科7種 ( 合 計30個 体)

の尾 腺ワ ック スと 腹腔 内脂 肪中 の総PCBs濃度 を測定 した 。加 えて 、生 体か ら採 取できる 尾腺 ワッ クス と、 腹腔 内脂 肪中 のPCBs濃 度と の関係 を調 ぺる こと で、 尾腺 ワッ クスが今 後の 海鳥 のPOPs汚 染の 非侵 襲的 モ二 夕リ ング 手法と して 有効 であ るか を検 証し た。最後

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に 、飼育実 験によっ てオオミ ズナギド リCalonectris leucomeぬsの雛にプラスチックを摂 食 さ せ 、生 理 学的 影 響 によ る 成長 阻害とプラ スチック に吸着し ているPCBsが 海鳥へ移 行 す る毒性学 的影響に つしゝて 調査した 。

  【結果と考察】

  本 研究 に おい て 、 調査 全 域 を平 均 した プ ラ スチ ッ クの個 数および 重量は、1990年代が 32174 pieces km‥ 、344gkm‑2であ り、それ に比べて2000年代は61541 pieces km‥ 、580 g km‑2と 有意差は なかった ものの増 加傾向にあ った。ま た、海域 間で比較 すると、1990年 代 と2000年代の どちらも 、亜寒帯 海域に比べ て移行領 域と亜熱 帯海域で プラスチ ックの個 数 、重量と もに多く なる傾向 が見られた 。これは 海流等の 物理的影 響により 、北太平洋に 漂 流するプ ラスチッ クが亜熱 帯海域に収 束するた めと考え られた。 本研究で 採集されたプ ラ スチック の種類は 、レジン ペレット、 製品破片 、発泡ス チ口ール 、繊維お よび薄膜状プ ラ ス チ ック で あり 、 個 数で 見 た場 合 、 製品 破 片 が最 も多 く(1990年代 、2000年代と も全 体の>50%)、レジンベレットが最も少なかった(く―2%)。陸上由来のプラスチック汚染の指 標 と な るレ ジ ンベ レ ッ トは 、 亜寒 帯 海 域と 移 行 領域 で1990年 代に比べ て2000年代は 減少 し ていたが 、亜熱帯 海域では 増加してい た。また 、海洋投 棄の指標 となって いる繊維も、

1990年代よりも2000年代で増加傾向を示した。

  北 部北太平 洋および べーリン グ海中央部 において 、サケ・ マス流し 網調査で 混獲された 海 鳥7種 ( 合計137個体 ) の うち 、 プラ ス チ ック を 摂食 し て いた 個 体 は全 体 の77% (105 個 体)であ った。サ ンプル数 が多かったハシポソミズナギドリPuffinus ten uirostrisのプ ラ スチック 摂食頻度(87.4%)と1個 体あたりの 摂食個数 および重 量(15 pieces,0.27g) を 同 海 域で1970年 代に 報 告 され て いる デ ー 夕( 摂 食頻 度 く60% ; 個数 く5 pieces;重量 く0.15g)と比較 したとこ ろ、増加 傾向にあっ た。これ は海洋環境中のプラスチック量の増 加 を反映し ていると 考えられ た。また、 ハシポソ ミズナギドりはプラスチック破片(59%)

に 次 い でレ ジ ンペ レ ッ ト(26% )を多く 摂食してお り、海洋 環境中の プラスチ ック組成 と 比 較してレ ジンベレ ットの割 合が高かっ た。ハシ ボソミズ ナギドり はニュー ジーランド周 辺 で繁殖し 、亜寒帯 海域およ びべーリン グ海で越 冬する。 渡りの間 に索餌を 行うことは稀 で ある。本 研究の結 果から、 亜寒帯海域 およびべ ーリング 海におけ るレジン ペレッ卜の割 合 は極めて 低いこと が明らか となってい る。既往 の知見で は、北半 球に比べ て南半球では 海 洋環境中 のレジン ペレット の割合が高 く、南半 球で周年 生活する 海鳥のレ ジンペレッ卜 の 摂食頻度 が高いこ とから、 ハシボソミ ズナギド りはレジ ンベレッ トを南半 球で摂食して いると推察された。

  プ ラスチッ ク摂食が 海鳥の栄 養状態に与 える影響 を評価す るため、 混獲個体 の胃内容物 中のプラスチック個数および重量と海鳥の体重、Body condition index(体重/ふしょ長2)、

お よび体重 に対する 肝臓重量 比との関係を調べたが、明確な傾向は見られなかった。また、

海 鳥 体 内中 のPCBs濃度 に つ いて も 検討 し た が、 プ ラス チック を多く摂 食してい た個体の PCBs濃度が必ずしも高いわけではなかった。

  尾 腺 ワ ッ ク ス 中 のPCBsの 各 同族 異 性体 濃 度 と、 腹 腔内 脂 肪 中の 総PCBs濃度 を 用 いて

(3)

重回帰分析を行った結果、尾腺ワックス中の3つの同族異性体濃度を調べることによって、

腹 腔 内 脂 肪 中 の 総PCBs濃 度 が 精 度 良 く 推 定 で き る こ と が 明 ら か と な っ た 。   オオミズナギドりの雛を用いてプラスチック摂食実験を行ったところ、本研究で与えた レジンベレット量では、雛の成長やBody condition indexについて、対照群とプラスチソ ク摂食群との間で顕著な違いは見られなかった。しかし、実験7日目にプラスチック摂食 群の 尾腺ワックス中の総PCBs濃度が上昇し、中でも低塩素数のPCBs濃度は対照群と比 べて有意に高くなったことから、プラスチック摂食が低塩素数のPCBs濃度を一時的に上 昇させることが明らかになった。

  本研究の結果から、北太平洋ではプラスチック量が長期的に増加しており、同海域にお けるプラスチック汚染が進行していることが推察された。また、本研究では、海鳥へのプ ラスチック摂食の生理学的影響と毒性学的影響は認められなかったが、摂食したプラスチ ック からPCBsの一部が海鳥体内へ移行することを初めて明らかにした。生体内のPCBs 濃度の上昇によって、生殖機能の阻害や免疫能カの低下が指摘されていることから、プラ スチックを摂食する海鳥を含めた海洋生物への影響が危惧される。海洋におけるプラスチ ック汚染の進行を防止するためにも、プラスチックの海洋への流入経路、海洋中での挙動、

残留期間について今後も詳細な調査を継続する必要がある。また、海洋生物の保全の面か らも、プラスチックを介した海洋生物へのPOPs汚染の蓄積を定量的に見積もるために、

海 洋 生 物 の プ ラ ス チ ッ ク 摂 食 とPOPsの モ 二 夕 リ ン グ が 不 可 欠 と 考 え ら れ る 。

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学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主査   教授   桜井泰憲 副査   教授   齊藤誠一 副査   准教授   綿貫   豊

副査   教授   高田秀重(東京農工大学)

学 位 論 文 題 名

北 太 平 洋 に お け る プ ラ ス チ ッ ク 汚染 と 海 鳥 への      影 に 関 す る 研 究

【 背 景 と 目 的 】

  プ ラ ス チ ッ ク は1850年 代 に 発 明 さ れ 多 く の 利 点 を 持 っ た め 、 そ の 生 産 量 は 増 加 の 一 途 を た ど っ て い る 。 し か し 、 プ ラ ス チ ッ ク は 自 然 分 解 し な い た め 、 焼 却 や 埋 め 立 て に よ っ て 大 量 に 廃 棄 処 理 さ れ て い る が 、 適 切 に 処 理 さ れ な い も の は 最 終 的 に 海 洋 へ と 流 出 す る 。 海 洋 ヘ 流 出 し た プ ラ ス チ ッ ク は 長 期 間 に わ た っ て 海 洋 環 境 中 に 残 留 す る が 、 そ の 分 布 や 現 存 量 に 関 す る 知 見 は 限 ら れ て い る 。 プ ラ ス チ ッ ク は 、 様 々 な 海 洋 生 物 の 胃 内 容 物 中 か ら 見 出 さ れ る が 、 中 で も 海 鳥 か ら の 報 告 例 が 最 も 多 い 。 し か し 、 プ ラ ス チ ッ ク 摂 食 に よ る 生 体 へ の 影 響 に っ い て は 未 だ 不 明 で あ る 。 海 洋 環 境 中 の プ ラ ス チ ッ ク か ら 高 濃 度 の ポ リ 塩 化 ビ フ ェ ニ ル(PCBs)が 検 出 さ れ る 。 そ の た め 、 海 鳥 は プ ラ ス チ ッ ク を 摂 食 す る こ と に よ っ て 生 理 的 な 影 響 を 受 け る だ け で な く 、 プ ラ ス チ ッ ク を 介 し たPCBs毒 性 の 影 響 を 受 け る こ と が 予 想 さ れ る 。 し か し 、 プ ラ ス チ ッ ク 摂 食 に よ るPCBsの 生 物 体 内 へ の 移 行 と そ の 影 響 に つ い て は 検 討 さ れ て い な い 。

  そ こ で 本 研 究 で は 、 北 太 平 洋 に お け る プ ラ ス チ ッ ク 汚 染 の 現 状 を 把 握 し 、 プ ラ ス チ ッ ク 摂 食 に よ る 海 鳥 へ の 生 理 学 的 、 毒 性 学 的 影 響 に つ い て 調 査 す る こ と を 目 的 と し た 。

【 材 料 と 方 法 】

  1993‑1996年 と2000‑2005年 に か け て 、 北 太 平 洋 の 亜 寒 帯 海 域 、 移 行 領 域 お よ び 亜 熱 帯 海 域 に お い て 、 ニ ュ ー ス ト ン ネ ッ ト を 用 い た プ ラ ス チ ッ ク 採 集 を 行 い 、 こ れ ら の 海 域 に お け る プ ラ ス チ ッ ク の 分 布 と 現 存 量 を 調 査 し た 。 次 に 、 北 部 北 太 平 洋 お よ ぴ べ ー リ ン グ 海 中 央 部 に お い て 、 サ ケ ・ マ ス 流 し 網 調 査 で 混 獲 さ れ た 海 鳥 ( ミ ズ ナ ギ ド リ 科3種 と ウ ミ ス ズ

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メ 科4種) の胃内容 物を解析し 、プラス チック摂 食の有無 を調べた 。さらに 、これらの 海 鳥 のプ ラ スチ ッ ク 摂食 量 と 海鳥 の体重 、およびPCBsの残留濃 度との関 係性にっ いて検討 し た。最 後に、飼 育実験によ ってオオ ミズナギ ドりCalonectrisんucomelasの 雛にプラ ス チ ック を 摂食 さ せ 、生 理 学 的影 響によ る成長阻 害とプラ スチック に吸着し ているPCBsが 海 鳥ヘ 移 行す る 毒 性学 的 影 響に つ いて 調 査 した 。

【結果と考察】

  調査 全域を平 均したプ ラスチック の個数は 、1990年代が32,174 pieces /kD12であり、

それ に比べて2000年代は61,541 pieces /krri2と有意差はなかったものの増加傾向にあっ た 。 また 、 海域 間 で 比較 す ると 、1990年 代と2000年代 のどちら も、亜寒 帯海域に 比べて 移行 領域と亜 熱帯海域 でプラスチ ックの個 数が増加 する傾向 が見られた。これは海流等の 物理 的影響に より、北 太平洋に漂 流するプ ラスチッ クが亜熱 帯海域に収束するためと推定 され た。本研 究で採集 されたプラ スチック の種類は 、レジン ペレット、製品破片、発泡ス チロ ール、繊 維およぴ 薄膜状プラ スチック であり、 製品破片 が最も多く(1990年代、2000 年 代 と も 全 体 の>50% ) 、 レ ジ ン ベ レ ッ ト が 最 も 少 な か っ た (<2% ) 。   北部 北太平洋 およびべ ーリング海 中央部に おいて、 サケ・マ ス流し網調査で混獲された 海 鳥7種 (合 計137個 体 ) のう ち 、プラス チックを 摂食して いた個体 は全体の77%であっ た。サンプル数が多かったハシボソミズナギドリPuffinus tenu丘.〔鳩な活のプラスチック摂 食頻 度(87.4% )を、同 海域で1970年代に報告されているデータ(摂食頻度く60%)と比 較し たところ 増加傾向 が認められ た。これ は近年の 海洋環境 中のプラスチック量の増加を 反映していると考えられた。

  プラ スチック 摂食が海 鳥の栄養状 態に与え る影響を 評価する ため、混獲個体の胃内容物 中のプラスチック重量と海鳥の体重、肥満度(体重′ふしょ長2)、および体重に対する肝臓 重 量 比と の 関係 を 調 べた が 、明 確な 傾向は見 られなか った。ま た、海鳥 体内中のPCBs濃 度 に っい て も検 討 し たが 、 プラ スチ ックを多 く摂食し ていた個 体のPCBs濃度 が必ずしも 高いという傾向は認められなかった。

  オオ ミズナギ ドりの雛 を用いてプ ラスチッ ク摂食実 験を行っ たところ、本研究で与えた レジ ンベレッ ト量では 、雛の成長 や肥満度 について 、対照群 とプラスチック摂食群との間 で 顕著 な違いは 見られなか った。し かし、実 験7日目に プラスチ ック摂食 群の尾腺ワ ック ス 中 の総PCBs濃 度が 上 昇 し、 中 でも 低 塩 素数 のPCBs濃度 は 対 照群 と 比べ て 有 意に 高 く な っ てい た こと か ら 、プ ラ スチ ック 摂食が低 塩素数のPCBs濃度を一 時的に上 昇させるこ とが明らかになった。

  本研 究では、 北太平洋 ではプラス チック量 が依然と して増加 しており、同海域における プ ラ スチ ッ ク汚 染 が 進行 し てい るこ とが推察 された。 また、摂 食したプ ラスチック から

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PCBs

の 一 部 が 海 鳥 体 内 に 取 り 込 ま れ る こ と を 初 め て 明 ら か に し た 。

  

上記の内容は、いずれも新知見であり、特に海鳥のプラスチック摂食を通したPCBs 汚 染の研究に大きく貢献したものとして高く評価される。よって審査員一同は申請者が博士

(水産科学)の学位を授与される資格のあるものと判定した。

参照

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