博 士 ( 経 済 学 ) 川 瀬雄 也
学 位 論 文 題 名 公 共 部 門 と 経 済 的 厚生
学 位 論 文 内 容 の 要旨
本 論 文 に お い て は , 公 共 部 門 の 活 動 の 効 率 性 に 関 わる 歳出 ,歳 入 の諸 点に つい て 考 察 , 検 討 を 試 み る も ので ある 。第1章で は歳 出や 規制 ,割 り当 て 政策 等に よる 市 場 への 効果 を測 定 する 概念 にっ いて 論述 する 。通 常そ れは まず 消費 者余 剰 概念を用 い て, 観察 され る 需要 関数 から 計測 され る。 しか し消 費者 余剰 は, 径路 依 存性とい う問題が あり一義的捕捉|ま困難で,この点ではむしろHicksの補整的,等価的変差概 念の方が 優れているといえる。しかし,この補整的,等価的変差は直接的に観察可能で はない。llllilligは或る条件の下で消費者余剰と補整的,等価的変差とを限定された範 囲 内で の関 係で と らえ ている。この消費者余剰での近似の実用 的意義は大きい。そこ で更に簡 単な1財ケースながら,支出 関数の偏微分式と需要関数の均等性を利用,微分 方程式か ら補整的,等価的変差をもとめるHausmanの考え方や支出関数をべースとして 等価的変 差をもとめるllcKenzieとPearce等の他の計算方法との比較,検討を行うと概 ね 妥当 な結 果を 得 る。 従って多数財市場では市場の調整速度の 差等から径路依存性の 誤差は大 きくならないのか,問題は残るものの,差し当たり信頼できる方法と思われる。
この方法 はRandallとStoll,Hanemannによって量制約や連続且つ即応的供給が出来ない 公共財等 の場合への拡張が試みられているが,どちらかといえばRandallとStollでは,
すでに或 る量が供給され次いで量制約的供給がなされる場合に妥当し,Hanemannでは,
初 めて 公共 財や 公 共的 サ― ビス が提 供さ れる 際の 測定 によ り適 合す ると 思 われる。
また他の 計測方法にっいては,例えばLaspeyres指数和形式で等価的変差,Paashe指数 和 形式 で補 整的 変 差を それぞれ近似出来るが,この場合ときに 指数と経済的厚生変化 の方向と の関係において,両指数間のくい違いの生じる点に留意しなけれぱならない。
他にも価 格,数量のどちらかの変化は分かっている時の消費者余剰を確率微分方程式を 用 いて 測定 する 方 法や 環境水準の評価の際の或る私的財との間 に弱代替或いは弱補完 的関係を 認め計量する方法にっいて吟味がなされている。
第2章では代替的プ口グラム聞での効 率性比較の為の費用ー便益分析にっいて,その測 定概念, 公共投資基準に関する諸問題にっいて考検している。すなわち市場価格が分かっ ても,市 場の特性や税,補助金を含んでいる場合や外部性の存在,また市場の存在しない
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場合等,機会費用や陰の価格等からの評価が必要となる。公共投資基準としては,まず割 引要 因として 社会的 時間選好 率そして機会費用率が考慮されねばならない。市場が完全 で且つ世代問の市場も存在しているのなら,そこでの利子率を使用出来ようが,これらの 条件 が満たさ れず将 来世代に っいての配慮が求められる時には何らかの集合的乃至政治 的過 程による 時間選 好率選択 が余儀なくされる。公共部門の資金調達は税であれ公債で あ れ民間経 済に影響 を与え る訳であ って, この分の 機会費 用に配慮 する必要 がある 。 プロ ジェクト 選択に 現在価値 割引基準と内部収益率基準が使用される事が多いが,適用 され る基準によってプ口ジェクト間選択の順位逆転が生じ得る。l{ishanの方法はこの問 題を 解決し得 るが, しかしそ れは実は内部収益率法を規準化し現在価値割引法へ調整し てい るのであ る。従 って,こ こでは逆に現在価値割引法を規準化し内部収益率法へ調整 する 方法を考 察した 。同様に 順位逆転は生じないが,どちらかの基準の優位性は消える ので実際的には多根問題,割引率選択等を考慮し,どちらかの基準を選択する事になろう。
危険,不確実性下のプロジェクト選択にっいては,その基本的考え方が研考されるが実践 的方法共々なお検討の余地が残されている。
第3章では ,まず課税の帰着過程をHarberger‑Ilieszkowskiモデル(以下ではH―Mモデル と称する)で吟味し,その微小,連続的な税率変化に代えて不連続,大幅な税率変化ケース をKrauss―Johnsonモデルを基礎とする図解的分析で検校がなされる。多くの場合分けが 生じるが,H‑IIモデルの結論も支持される。またH‑llモデルでは政府は税収入を常に私的支 出減 少調整乃 至取り 込まれた 需要要素として扱っている。そこで政府部門の役割を鮮明 にす べくKellerモ デルを手 掛かりと して考察がなされる。一般均衡分析のいわば外生的 組み込みとしてはともかく,内生的有機的関連をもつ政府部門の位置付けとしては,ナょお 問題は残されてL、る。また超過負担の測定概念や捕捉にっいての展開から,計測の厳密さ はと もかく第1章で みた如 く一応の 目処と して有用 であり ,税の組み合わせや税制改革 を考 慮する際 ,課税 の経済的 厚生の損失という点で重要視されるべきである事が指摘さ れる。
第4章 で は , 公 共 部 門 に よ る 経済 政 策 のい わ ば 規範 的 ア プ ロー チ と してTinbergen 命 題の静態 ,動態下 の確率 要因の扱 いや手 段の安定 性,調 整費用等 にっいて 吟味, 検 討 が なさ れ , 次い で 政 策へ の 政 治的 関 わ りを も つ 諸主 体 のひとっ としての 官僚行 動 と 予 算に つ い て考 察 が なさ れ る 。官 僚 組 織が 非 効 率的 な のは組織 自体の問 題もさ る こ と なが ら イ ンプ ッ ト とし て の 予算 に 強 い関 心 が 集中 し 過ぎる点 も指摘さ れよう 。 し か し予 算 の 最大 化 や 漸増 分 主 義の 傾 向 は基 本 的 には み られるが ,我が国 の場合 そ れ の みで は な く, い わ ば政 治 的 官僚 と し て大 蔵 官 僚は 議 会の予算 決定勢カ を勘案 し な が らも 主 導 的行 動 を 取っ て い る様 子 がBanzhaf−Colemanのパ ヮ―イ ンデック ス,
Shapley値と一 般会計 伸び率と の関係 から推察 される。 この点 はBrito−Intriligator の ゲ ―ム 理 論 援用 モ デ ルの 結 果すなわ ち短期 には議会 が,長 期にはOHB主導 の予算と
なっている点とほぼ一致してく る。
第5章では簡単なモデルを用いてスピルオーバ―,スピルイン効果が生じる際の地方 財政と広域性にっいて考察した 。結諭としては概ね現状肯定的である。すなわち両 地域で漏出効果を認め,応分の 負担を考慮する場合には,部乃至複合的事務組合が 望ましい。もし漏出効果の存在から合併となる場合に1まより経済カのある団体との 合併が目指される事になる。勿 論,現実的には制度の問題にも関連する複雑な要因 が 存 在 す る が , 分 権 化 を 考 え る と き 広 域 性 も 重 要 な 視 点 とk、 え よ う 。 補助金の経済的効果については 制度に応じて種々の補助金が存在し,またその効果 も異なる。周知の如く無条件一 般補助金はその地域の経済的厚生を高めるが,或る 特定の公共財等の提供が求めら れる時には,使途特定補助金の方がよりその目的を 達成する。しかし条件付特定補助金の総額,単価補助の場合,却って経済的厚生を低 めてしまう事がある。従って自 治体がどの様な選好過程で如何なる補助金の選択を するかが重要となろう。分権化の中で財源問題との関わりでは,補助金交付の代わり に地域的減税の方向も検討され てよいと思われる。
付論ではHendersonモデルを修正,援用して北海道の市町村財政の比較を,歳出歳入 構造 に っい て地 域所 得, 人口,団体間歳入との関連で計測,検討を行っ ている。
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
公共部門と経済的厚生
本 論 文 に お い て は 、 公 共 部 門 の 活 動 の 効 率 性 に 関 わ る 歳 出 、 歳 入 の 諸 点 に つ い て 考 察 、 検 討 を 試 み る も の で あ る 。 第1章 で は 歳 出 や 規 制 、 割 り 当 て 政 策 等 に よ る 市 場 へ の 効 果 を 測 定 す る 概 念 に つ い て 論 述 し て い る 。 通 常 そ れ は ま ず 消 費 者 余 剰 概 念 を 用 い て 、 観 察 さ れ る 需 要 関 数 か ら 計 測 さ れ る 。 し か し 消 費 者 余 剰 は 、 径 路 依 存 性 と い う 問 題 が あ り 一 義 的 捕 捉 は 困 難 で 、 こ の 点 で は む し ろHicksの 補 整 的 、 等 価 的 変 差 概 念 の 方 が 優 れ て い る と い え る 。 し か し 、 こ の 補 整 的 、 等 価 的 変 差 は 直 接 的 に 観 察 可 能 で は な い 。Willigは 或 る 条 件 の 下 で 消 費 者 余 剰 と 補 整 的 、 等 価 的 変 差 と を 限 定 さ れ た 範 囲 内 で の 関 係 で と ら え て い る 。 こ の 消 費 者 余 剰 で の 近 似 の 実 用 的 意 義 は 大 き い 。 そ こ で 更 に 簡 単 な1財 ケ ー ス な が ら 、 支 出 関 数 の 偏 微 分 式 と 需 要 関 数 の 均 等 性 を 利 用 、 微 分 方 程 式 か ら 補 整 的 、 等 価 的 編 差 を も と め るHausmanの 考 え 方 や 支 出 関 数 を ぺ ー ス と し て 等 価 的 変 差 を も と め るMckenzieとPearce等 の 他 の 計 算 方 法 と の 比 較 、 検 討 を 行 う と 概 ね 妥 当 な 結 果 を 得 る 。 従 っ て 多 数 財 市 場 で は 市 場 の 調 整 速 度 の 差 等 か ら 径 路 依 存 性 の 誤 差 は 大 き く な ら な い の か 、 問 題 は 残 る も の の 、 差 し 当 た り 信 頼 で き る 方 法 と 思 わ れ る 。 こ の 方 法 はRandallとStoll、Hanemannに よ っ て 量 制 約 や 連 続 且 つ 即 応 的 供 給 が 出 来 な い 公 共 財 等 の 場 合 へ の 拡 張 が 試 み ら れ て い る が 、 ど ち ら か と い え ばRandall とStollで は 、 す で に 或 る 量 が 供 給 さ れ 次 い で 量 制 約 的 供 給 が な さ れ る 場 合に 妥当 し、
Handemannで は 、 初 め て 公 共 財 や 公 共 的 サ ー ビ ス が 提 供 さ れ る 際 の 測 定 に よ り 適 合 す る と 川 瀬 氏 は 判 断 す る 。 ま た 他 の 計 測 方 法 に つ い て は 、 例 え ぱLaspeyres指 数 和 形 式 で 等 価 的 変 差 、Paashe指 数 和 形 式 で 補 整 的 変 差 を そ れ ぞ れ 近 似 出 来 る が 、 こ の 場 合 と き に 指 数 と 経 済 的 厚 生 変 か の 方 向 と の 関 係 に お い て 、 両 指 数 間 の く い 違 い の 生 じ る 点 に 留 意 す る 必 要 が あ る こ と を 氏 は 示 す 。 他 に も 価 格 、 数 量 の ど ち ら か の 変 化 が 分 か っ て い る 時 の 消 費 者 余 剰 を 確 率 微 分 方 程 式 を 用 い て 測 定 す る 方 法 や 環 境 水 準 の 評 価 の 際 の 或 る 私 的 財 と の 間 に 弱 代 替 或 い は 弱 補 完 的 関 係 を 認 め 計 量 す る 方 法 に つ い て 吟 味 が な さ れ て い る 。
第2章 で は 代 替 的 プ 口 グ ラ ム 間 で の 効 率 性 比 較 の 為 の 費 用 一 便 益 分 析 に つ い て 、 そ の 測 定 概 念 、 公 共 投 資 基 準 に 関 す る 諸 問 題 に つ い て 考 察 レ て い る 。 す な わ ち 市 場 価 格 が 分 か っ て も 、 市 場 の 特 性 や 税 、 補 助 金 を 含 ん で い る 場 合 や 外 部 性 の 存 在 、 ま た 市 場
の存在しない場合等、機会費用や陰の価格等からの評価が必要となる。公共投資基準 としては、まず割引要因として社会的時間選好率そして機会費用率が考慮されねぱな らない。市場が完全で且つ世代間の市場も存在しているのなら、そこでの利子率を使 用出来ようが、これらの条件が満たされず将来世代についての配慮が求められる時に は何らかの集合的乃至政治的過程による時間選好率選択が余儀なくされる。公共部門 の資金調達は税であれ公債であれ民間経済に影響を与える訳であって、この分の機会 費用に配慮する必要がある。プ口ジェクト選択に現在価値割引基準と内部収益率基準 が使用される事が多いが、適用される基準によってプロジェク卜間選択の順位逆転が 生じ得る。Mishan の方法はこの問題を解決し得るが、しかしそれは実は内部収益率法 を基準化し、現在価値割引法ヘ調整しているのである。そこで氏は、逆に現在価値割 引法を基準化し内部収益率ヘ調整する方法を考察した。同様に順位逆転は生じないが、
どちらかの基準の優位性は消えるので実際的には多根問題、割引率選択等を考慮し、
どちらかの基準を選択する事になることを示した。
第3 章では、まず課税の帰着過程をHarberger‑Mieszkowski モデル(以下ではH ―M モデルと称する)で吟味し、その微小、連続的な税率変化に代えて不連続、大幅な税 率変化ケースを Krauss −Johnson モデルを基礎とする図解的分析で考察がなされる。多 くの場合分けが生じるが、H 一M モデルの結諭も支持される。またH ーM モデルでは政府 は税収入を常に私的支出減少調整乃至取り込まれた需要要素として扱っている。そこ で政府部門の役割を鮮明にすべく Keller モデルを手掛かりとして考察がなされる。ま た超過負担の測定概念や捕捉について、税の組み合わせや税制改革を考慮する際、課 税の経 済的厚生の損失という点で重要視されるぺきである事が指摘されている。
第4 章では、公共部門による経済政策のいわば規範的アプローチとしてTinbergen 命題の静態、動態下の確率要因の扱いや手段の安定性、調整費用等について吟味、検 討がなされ、次いで政策への政治的関わりをもつ諸主体のひとっとしての官僚行動と 予算について考察がなされる。官僚組織が非効率的なのは組織自体の問題もさること ながらインプットとしての予算に強い関心が集中し過ぎる点が指摘される。しかし、
予算の最大化や漸増分主義の傾向は基本的にはみられるが、我が国の場合それのみで はなく、いわば政治的官僚として大蔵官僚は議会の予算決定勢カを勘案しながらも主 導的行動を取っている様子が Banzhaf −Coleman のパワーインデックス、Shapley 値と 一般会計伸び率との関係から推察される。この点はBrito −Intriligator のゲーム理論 援用モデルの結果すなわち短期には議会が、長期にはOMB 主導の予算となっている点 とほぼ一致してくることが示されている。
第5 章では簡単なモデルを用いてスピルオーバ一、スピルイン効果が生じる際の地 方財政と広域性について考察している。結諭としては概ね現状肯定的である。すなわ
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