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日本感性工学会論文誌

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(1)

1.

は じ め に 色は私たちに様々なイメージや連想を与えるだけでなく, 感情的な働きかけをも行う.例えば,黄色には「明るい」「軽 い」「暖かい」といったイメージ,黒色には「暗い」「重い」 「冷たい」などのイメージがあるように,色彩とイメージの 関係においては,個々の色がそれぞれ異なるイメージと結び ついている.そして,この色彩とイメージの関係には,共通 性と個人差が共存していることが知られている[

1

].この ような色彩の感情効果に関する研究は古くから行われてお り,これまで様々な視点からの研究が多数行われてきたが, 特に

Osgood

らが

Semantic Differential

法(以後

SD

法と略

記する)を提案してからは[

2

],色彩の感情効果について の多次元的解析がこの

SD

法を用いて頻繁に行われた[

3

] [

4

].

SD

法を使用することにより,どのような尺度を用い て色彩の感情効果を捉えるかという尺度の検討や,単色の感 情効果と

2

色の感情効果,また色彩と形,材質が共存すると きに,どのような効果が生ずるかといった検討などがなされ た.近年の感性工学の分野における色彩と感情を扱った研究 例においても,

SD

法を用いたものが数多く見られる[

5

] [

6

].その一方で,色彩とイメージの関係を扱ったシステム としてカラーコーディネートシステム等の開発に関する研究 が盛んに行われている[

7-11

].製品の色彩デザインをサポー トするこのシステムは,ほとんどが前述の

SD

法や心理尺度 構成法などのアンケート調査と因子分析によって,色彩とイ メージ語の関係を定量化した結果(イメージスケール等) [

12

13

]を応用して構築されている.しかしながら,これ らの手法から得られる結果はいわゆる平均値処理に基づいて おり,一般性を重視している.つまり,個々の感性・嗜好に 沿った配色提案を行うことが困難であるという問題点も持っ ている.これらの問題に対処するために,近年では対話型遺 伝的アルゴリズム(

Interactive Genetic Algorithm

IGA

) 等の学習方法を利用して,配色デザインに被験者自身の主 観・好みを反映させる研究も行われている[

14

].この手法 は個人にあった配色事例を提案できる一方で,被験者自身が 選択を行うことによって配色の評価を行うため,被験者の負 担が増大するという欠点もある.前述のように,色彩と感情 の関係において,具体的にどの色がどんな感情と結びついて いるかについては,個人差はあるものの,ある程度の普遍性 があるとされている.例えば,

Birren

15

]や木村[

16

]の 文献を見ても,表

1

に示しているように,色相,彩度,明度 といった色の属性から感情の性質を分類している.しかしな がら,これらの結果はあくまでも一般的なものであるため, 個人によっては当てはまらない場合もある.そして,この個 人特性に着目し,イメージごとに詳細な分析を行っている研 究例は少ないのが現状である.個人ごとに詳細な分析を行う ことによって,個々がイメージを判断する際に注目する色彩 パラメータは何か,どのような色属性をイメージの判断基準 にしているのか,そしてその判断基準は個人によって異なる

個人特性を考慮した

GA

による色彩イメージ分類とその分析

佐藤 敬子*,満倉 靖恵**

*立命館大学‚ **東京農工大学

Classification and Analysis of Color Impression Using Genetic Algorithms

Considering Individual Characteristics

Keiko SATO* and Yasue MITSUKURA**

* Ritsumeikan University, 56-1 Kitamachi, To-jiin, Kita-ku, Kyoto 603-8577, Japan

** Tokyo University of Agriculture and Technology, 2-14-26 Naka-cho, Koganei, Tokyo 184-8588, Japan

Abstract : It has often been pointed out that each color has a particular impression and that there are certain similarities and

individual differences in the relationships between a color and its impression. We now present a few examples of individual studies that have focused on color impression. In this paper, in order to examine the individual characteristics of color impressions, we propose a method that combines GA, PCA, and CA. GA is used to select suitable parameters from color attributes -namely, RGB, HSI, and L*a*b*. PCA is used to extract characteristics data from the selected parameters. Furthermore, CA is used to classify the data set into groups. In order to demonstrate the effectiveness of this proposed method, computer simulations are performed and the results are analyzed using data gathered from 6 individuals. As a result, characteristics data that were obtained by using GA differed for each subjects. Moreover, classification accuracy, which is the ratio classified same impression data into same groups, was more than 80% for all subjects. It is considered that the proposed method could be one of the effective methods for analyzing individual characteristics of color impression.

Keywords : Color Impression, Individual Characteristics, Genetic Algorithms, Multivariate Analysis

(2)

のかを明確にすることができると考えられる. 本論文では,これらの現状を踏まえて,次の

4

点に着目し た分析を行う.まず,第

1

に専用の実験プログラムを用いた 色彩印象調査法である.色彩イメージの調査を行うためには 大量のデータを獲得する必要があり,その際の実験者と被験 者の労力は多大なものとなる.本論文では,イメージの調査 における労力低減のためにイメージ調査用の実験プログラム を作成し,これを用いることによって被験者からイメージの データを収集することにした.第

2

に数種類の色属性の使用 である.色を表現する体系,つまり表色系(

Color

specifica-tion system

)には様々なものがあり,その用途によって使い 分けられている.本論文では,色データから得られる

RGB

データに加えて,

CIE-XYZ

表色系をより知覚的にした

CIE-L*a*b*

表色系,そしてマンセル表色系などの顕色系で使わ れる

HSI

表色系を使用して分析を行う.第

3

に遺伝的アルゴ リズム(

Genetic Algorithms

,以後

GA

と略記する)の導入 である.人間が色のイメージ判断を行う際,どの属性に注目 するかには個人差があると考えている.本論文では,

GA

を 用いてその個人差を特定することができないかと考えた.

GA

を用いた特徴選択法はこれまでにも提案されており,そ の有用性も報告されている[

17

18

].

GA

を用いた属性選択 による結果,被験者がどの色属性に注目してイメージ判断を 行っているのかという情報を得ることができると考えられ る.最後に多変量解析手法の導入である.本論文では主成分 分析(

Principal Component Analysis

,以後

PCA

と略記する) と

k-means

法によるクラスター分析(

Cluster Analysis

,以 後

CA

と略記する)を用いる.

GA

による属性選択のみでは, 被験者が注目している属性について判断できるものの,その 後のイメージのグループ分類が困難であると考えられる.そ こで,

GA

によって選択された属性(変数)を

PCA

により 圧縮して,主成分得点を算出する.この主成分得点を用いて,

CA

によりイメージのグループ分類を試みる.

PCA

を用いる ことにより,できるだけ情報の損失なしに,変数を互いに独 表1 色と感情の関係 属性 色の例 感情の性質 色相 暖色 赤 激情・怒り・歓喜・活力的・興奮 黄赤 喜び・はしゃぎ・活発さ・元気 黄 快活・明朗・愉快・活動的・元気 中性色 安らぎ・寛ぎ・平静・若々しさ 紫 厳粛・優えん(婉)・神秘・不安・やさしさ 寒色 青緑 安息・涼しさ・憂鬱 青 落着き・淋しさ・悲哀・深遠・沈静 青紫 神秘・崇高・孤独 彩度 明 白 純粋・清々しさ 灰 落着き・抑鬱 暗 黒 陰鬱・不安・厳めしい 明度 高 朱 熱烈・激しさ・情熱 中 ピンク 愛らしさ・やさしさ 低 茶 落着き 立な少数個の総合的指標として集約することができる. 本論文では,個々が色のイメージを判断する際に着目する 色属性について,そこに個人差が存在するかについての分析 を行うことを目的とする.また,本論文では

2

色配色を対象 にして分析を行う.

2

色配色は左右の色の関係性が得やすく, 配色の基本で非常に重要な部分である.そして,

2

色配色に ついて分析することで,複数の配色にも応用できると考えて いる.

2

色配色のデータに対して,

GA

PCA

CA

を組み合 わせた分析手法を用いることによってイメージの分析を試み る.そして,分析結果から配色パターンのイメージのグルー プ化を行うことによって,提案手法の有効性の検証を行う. 次節以降では,まず,色のイメージ調査に使用する実験プ ログラムの概要と,その調査方法について述べる.そして次 に,使用する表色系について説明する.さらに,提案する分 析手法について述べ,提案手法を個人のデータに適用させた 分析結果について記述し,さらに考察を行う.最後に本論文 をまとめる.

2.

色彩印象調査 本論文では,被験者の労力を考慮したアンケート調査を実 施するため,アンケート専用の実験プログラムを用いる.将 来的に,個人によって異なる色彩への印象を考慮した配色提 案システム,具体的には,被験者が簡単な評価を行うだけで, 個人が求めるイメージに合う配色やデザインなどをコン ピュータが提案するようなシステムの構築を考えた場合,パ ソコン上で簡単な配色に関するアンケートを行うことが前提 となる.本論文では,パソコン上で動作する実験プログラム を使用してデータの収集を行う.本節ではその色彩印象調査 の方法について述べる.

2.1

 使用するイメージ語と配色データ 色彩の印象評価アンケートには

23

個のイメージ語を使用 する[

12

].表

2

に使用するイメージ語の一覧を示す.また, アンケートに使用する

2

色配色は参考文献[

12

]の配色デー タより,上述の

23

個のイメージから,

1

つのイメージにつき, それぞれ

3

パターンずつ選出し,合計

69

パターンの配色を 用いる.本論文では,被験者

1

名につき,

69

個の

2

色配色に ついてそのイメージを選択してもらう.その後の分析には,

69

個の

2

色配色のデータを使用する.

2

色配色のデータを

RGB

空間上にマッピングしたものを図

1

に示す.

2.2

 被験者と実験環境

20

歳から

30

歳までの被験者

6

名(男性

2

名,女性

4

名) 表2 使用するイメージ語 ロマンチック,エレガント,ナチュラル,プリティ,クリア, カジュアル,フレッシュ,スポーティ,ダイナミック, アバンギャル,ゴージャス,セクシー,エスニック,ワイルド, モダン,ノーブル,シック,クール,フォーマル,ダンディ, クラシック,地味な,悲観的な

(3)

に対して調査を実施した.

6

名は,視力が両目で

0.5

以上あり, かつ標準色覚検査表(第

3

部検診用)[

19

]により一般色覚 者と確認されている.実験には雑音のしない実験室を使用し た.実施した部屋の北側には窓があったが,カーテンを引い て影響を少なくした.実験プログラムは

19

型液晶ディスプ レイを用いて提示した.ディスプレイ付近の照度はおおむね

700

から

750lx

程度であり,また照明等の映りこみは見られ なかった.被験者とディスプレイの距離は

40

から

50cm

であ り,被験者はマウスを用いて実験プログラムを操作した.

2.3

 実験プログラム 実験プログラムは,アンケート開始とともに

2

色配色のデー タを順に提示する.

2

色配色の刺激サイズは,

3cm

×

4cm

の 単色が横に

2

色並んだもので,枠はない.背景色はグレー(

R

225

G

225

B

225

,マンセル

N9

近似色)を使用してい る.被験者は上述の形容詞で表現される

23

個のイメージ語 の中から,提示された配色から受ける印象を

1

つ選択する. この試行を被験者の自由な速度で行ってもらった.実験前 に,被験者に対して,あまり考え込まずに直感でイメージを 選択するよう教示した.実験にかかる平均時間は

15

分程度 であり,長くても

20

分以内には終了した.実験環境と画面 上に提示される

2

色配色の刺激サイズを図

2

に示す.

3.

使用する表色系 色を表示する体系は表色系と呼ばれるが,表色系には,実 験に基づいて色を心理物理量として定量的に扱う混色系と, 人間が知覚した色を記号や色票などで定性的に扱う顕色系が ある.色データから得られる

RGB

値はそれ自体が絶対的な 色彩を表すわけでないため,異なる表色系への変換が必要と なる.本論文では,

CIE

が均等知覚色空間の標準化のために 推奨した表色系である

CIE-L*a*b*

表色系と,顕色系である

HSI

表色系を分析に使用する.

3.1

CIE-L*a*b*

表色系

CIE-L*a*b*

表色系は,

3

刺激値である

X

Y

Z

で均等色 空間を近似することを目的に設計され,

L*a*b*

の直交座標 系で定義されている.図

3

CIE-L*a*b*

表色系の概念図を 示す.

a*

軸と

b*

軸は直交し,交点は無彩色を示している. 以下に

RGB

色データから

CIE-L*a*b*

表色系への変換式を 示 す[

20

]. ま ず,

CIE-XYZ

表 色 系 に 変 換 し て か ら

CIE-L*a*b*

表色系へ変換するので,(

1

)−(

3

)式により, となる.次に,算出された

X

Y

Z

を用い,(

4

)−

6

)式によっ て

CIE-L*a*b*

表色系への変換を行う. ここで,

X

0

= 98.04

Y

0

= 100

Z

0

= 118.12

とする.

3.2

HSI

表色系

RGB

色データでは,人間の感覚に合った色彩に関する処 理を行うことは難しい.そこで,本論文では人間が直感的に 分かりやすく,またマンセル表色系に近い,色相(

H

Hue

),彩度(

S

Saturation

),明度(

I

Intensity

)の

3

属性 を用いる.

RGB

色データから

HSI

表色系への変換は図

4

に 示す,双

6

角錐モデルを用いて行う[

20

21

].

4.

色属性選択法 本論文では,

GA

により色属性を特定し,

PCA

によってそ の中から特徴ベクトルを抽出し,

CA

によってイメージの分 19型液晶 40~50cm 3cm 4cm 8cm モニタ 図2 実験環境と配色の刺激サイズ White Yellow Cyan Green Red Blue Magenta Black 図1 使用する配色パターン(RGB空間上) (

1

) (

2

) (

3

) (

4

) (

5

) (

6

) Green Yellow b* L* a* Blue a Red 図3 CIE-L*a*b*表色系

(4)

類を行う分析手法を提案する.図

5

に提案分析手法の構造 を,図

6

GA

による色属性特定方法の流れを示す.

GA

に おいては,図

6

に示すように,まず初期化(

Initialization

) として決められた数の個体が生成される.各個体の染色体は 図

7

に示されているように,

0

1

2

値記号列となっており, 各遺伝子は表

3

に示すように,使用する各表色系の色属性に それぞれ割り当てられている.遺伝子の値が

1

であれば対応 する表色系の色属性がその後の分析に使用され,

0

であれば 使用されない.次に

GA

によって選択された色属性のみを用 いて変数の圧縮,特徴ベクトルの抽出を行う.本論文では寄 与率を考慮し,値の高い主成分から順に採用した主成分得点 (

Principal component score

)を

CA

に使用する.最後に,

CA

によって配色パターンのグループ分類を行う.グループ 数は

4

とし,

CA

の分類手法は最も一般的な

k-means

法を採 用する.なお,

GA

における個体の適応度は,この

CA

によ るグループ分類結果の分類率を主として決定される.以上の 操作を現世代すべての個体に対して行う.最後に現世代すべ ての個体の適応度から,選択,交叉,突然変異を経て,次世 代の個体を生成する.これらの操作を終了条件が満たされる まで行い,終了条件が満たされた世代の個体の中で,適応度 の最も高い個体が示す染色体を最適解とする.

4.1

 適応度の計算方法

PCA

によって算出された主成分得点を用いて,使用した データに対して

k-means

法により,

4

つのグループに分類を 行う.

4

つの初期点はランダムに設定される.分類後,アン ケート調査によって同じイメージと判断された配色パターン が別々のグループに分類されていないかを調べ,別のグルー プに分類されている場合は誤分類として分類率(

Recog

)の 計算を行う.分類率は全データ(

Number of data = 69

)中, 正確に分類されたデータ(

Number of correct data

)の割合

となる.(

7

)式は,適応度の計算式である. I White I Yellow Green Yellow Red Mazenta Blue Cyan Green Blue H Black H S 図4 HSI表色系(双6角錐カラーモデル)

Color feature (

RGB, HSI, Lab…

)

Gene�c Algorithm

0 1 0 1

1 0 1

Cluster Analysis

Principal Component Analysis

. . . .

図5 提案手法の構造

Ini�aliza�on

Principal Component Analysis

Cluster Analysis Fitness Fitness < 0.99 Genera�on < 1000 End Selec�on Crossover Muta�on 図6 GAによる色属性特定の流れ 0 1 0 1 0 0 1 0 1 1 2 9 10 12 18 19 22 27 Le� Color Right Color Difference

. .

. .

. .

. .

. .

. .

図7 染色体の構造 表3 遺伝子に対応する色属性 Left Color Right Color Difference 1 R-Value 10 R-Value 19 Difference of R-Value 2 G-Value 11 G-Value 20 Difference of G-Value 3 B-Value 12 B-Value 21 Difference of B-Value 4 H-Value 13 H-Value 22 Difference of H-Value 5 S-Value 14 S-Value 23 Difference of S-Value 6 I-Value 15 I-Value 24 Difference of I-Value 7 L*-Value 16 L*-Value 25 Difference of L*-Value 8 a*-Value 17 a*-Value 26 Difference of a*-Value 9 b*-Value 18 b*-Value 27 Difference of b*-Value

(5)

ここで, とする

.

CA

によるイメージの分類率のみで適応度を設定した場 合,より多くの変数(色属性)を用いた方がより良い分類率 を得ることができると考えられる.この場合,最も必要な色 属性の選択ができない恐れがある.そこで,分類率を重視し つつも,

GA

によって選択された変数によって算出された主 成分数が少ないほど適応度が高くなるように式を設定した. これにより,より少ない主成分で良い分類率が得られた個体 に対して高い適応度を与えることができ,

CA

の分類率が同 じとなった場合に,主成分数が多い方の個体を淘汰するペナ ルティとなる.α,βは

CA

によるイメージの分類率と主成分 数のどちらを重視するかを決定づける重みである.設定値 は,予備のシミュレーションを行った結果をもとに,それぞ れ

0.8

0.2

としている.

4.2

 選択・交叉・突然変異 本論文では,選択方法として適応度比例戦略(ルーレット・ モデル)を用いる.これは,個体ごとに適応度(

Fitness

) を求め,これに比例した確率で親を選択する方法である.ま た,本論文ではエリート保存戦略(

Elite preservation

)を併 用する.これは,現世代すべての個体に対して最も適応度の 高い個体を

1

つ選択し,エリート個体として次世代に残して おく手法である.なお,初期の遺伝子(第

1

世代)はランダ ムに生成する.交叉(

Crossover

)は

2

つの親の染色体をあ る部分で分断し,入れ替えて子供の遺伝子として構成するこ とである.本論文での交叉方法は

2

点交叉を採用する.また, 突然変異(

Mutation

)は適当な位置のビットを反転すること によって実現される.

5.

実 験 本節では,

2

節で記述した実験プログラムを用いて,

2

色 配色についてのイメージ調査を行い,収集された被験者

6

名 分のデータに対し提案手法を適用することよって本手法の有 効性を検証する.本論文では,個人差があるかどうかの検討 を行うため,個人別に分析を行う.まず,

GA

の設定パラメー

タを表

4

に示す.遺伝子のビット長(

The length of

chromo-some

)は図

7

と表

3

に示すように,各遺伝子が表色系の各色 属性に対応しており,全部で

27

である.本論文ではその中 から選択された,遺伝子が

1

に対応する色属性を用いて

PCA

を行い,

50%

以上の寄与率を満たす主成分を採用する.そ のため,

CA

に使用される変数は可変である.また,交叉率 については,設定値によって被験者のそれぞれの結果に多少 のばらつきがあったため,

0.6

から

0.8

まで

0.05

刻みで

5

回 のシミュレーションを行い,最も適応度が高かった結果を採 用した.なお,その他のパラメータ(個体数,世代数,突然 変異率)は予備実験の結果をもとに設定した. まず,図

8

に,

GA

によって選択された色属性を被験者ご とに示す.塗りつぶされた部分が選択された色属性であり, 選択された色属性は被験者ごとに異なっていることが分か る.例えば,被験者

1

の結果を見てみると,左右の

RGB

値 や左右の差から選択されている一方で,被験者

2

について は,左右の差の部分からはあまり選択されていない.さらに, (

7

) Number of 1;s

Number of principal component ®, ¯ (®=0.8, ¯ =0.2)

Number of correct data Number of data(=69) 遺伝子の1の数 使用する主成分数 重み 正しく分類されたデータ数 データ数

R G B H S I L* a* b* R G B H S I L* a* b* R G B H S I L* a* b*

Subject 1

Subject 2

Subject 3

Subject 4

Subject 5

Subject 6

Le�

Right

Difference

図8 GAによって選択された色属性

表4 GAのパラメータ The number of generation 1000 The number of individuals 100 The length of chromosome 27

Crossover rate 0.6∼0.8 Mutation rate 0.01

表5 分類率

Subject Classification accuracy

Subject 1 80% Subject 2 83% Subject 3 84% Subject 4 87% Subject 5 81% Subject 6 83%

(6)

5

CA

による分類率の結果を示す.これを見ると,全て の被験者において,

80%

以上の分類率が得られていること から,本手法の有効性がある程度得られたと考えられる. 次に,選択された色属性(エリート個体)を用いた主成分 分析結果の分析を行う.全ての被験者において,寄与率

50%

以上を満たす主成分の数は

2

3

であった.本論文では 紙面の都合上,被験者

3

名分(被験者

2

4

5

)の結果のみ 記す.まず,被験者

2

(女性,

20

代)についての結果につい て説明する.数直線上に第

1

,第

2

主成分の因子負荷量をプ ロットしたものを図

9

に示す.第

1

主成分の因子負荷量を見 ると,左右の色の

L*

値と

B

値,そして右の色の

R

値の係数 が正の高い値を示している.このことから,第

1

主成分は主 に色の明るさと青色成分が重要な特徴を示していると考えら れる.次に,第

2

主成分の因子負荷量を見ると,右の色の

a*

値の係数が正のやや高い値を示していることから,第

2

主成 分は右の

a*

値(赤−緑成分)が特徴を持っているといえる. さらに,図

10

に被験者

2

CA

による分類結果を示す.これ を見てみると,

Group A

のデータは,第

2

主成分のかなり高 い部分に分布していることから,右の色の赤色成分が高いグ ループといえる.

Group B

は第

1

主成分が高いことから,明 るく,青色成分の強いグループと考えることができる.また,

Group C

のデータは第

1

主成分が低く,第

2

主成分がやや高 い位置に分布していることから,暗くて右の色の赤色成分が 強いグループといえる.そして,

Group D

は第

1

主成分も第

2

主成分も比較的低い位置に分布していることから,暗くて 緑色成分の強いグループと位置付けることができる. 次に,被験者

4

(女性,

20

代)の因子負荷量を図

11

に示す. 被験者

4

において,寄与率

50%

以上を満たす主成分数は

3

で あった.まず,第

1

主成分の因子負荷量を見てみると,左右 の

B

値,右の色相,そして左の

G

値の係数が正の高い値を示 しており,さらに,右の

b*

値(黄−青成分)とその差分が やや高い負の値を示している.この結果から,第

1

主成分は 主に,左右の色の青色成分,左の緑色成分などが特徴を持っ ているといえる.次に,第

2

主成分の因子負荷量を見ると, 右の

a*

値の係数が正の高い値を示し,

B

値と明度の差の係 数が負の高い値となっている.つまり,右の

a*

値(赤−緑 成分)と明るさの差が特徴を表しているといえる.さらに, 第

3

主成分の因子負荷量では,

L*

値の差の係数が正の高い 値を示していることから,明るさの差が重要な特徴を持って いると考えられる.図

12

に分類結果を示す.これを見ると,

Group A

は,第

1

主成分が高く,第

3

主成分が低いところに 位置していることから,青色成分と緑色成分が強く,そして Right B Right R Le� L* Le� B 1st factor loading -1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0 -1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0 Right L* Right a* 2nd factor loading 図9 因子負荷量(Subject 2) 5 3 4 5 1 2 -1 0 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 1st component 2nd componenn t -3 -2 -5 -4 Group A -- スポーティ Group B -- ロマンチック,エレガント,ナチュラル,プリティ,クリア,フレッシュ,クラシック Group C -- アバンギャルド,セクシー,エスニック,ワイルド,地味な Group D -- モダン,シック,クール,ダンディ 図10 分類結果(Subject 2) Right H Le� G Le� B Difference b* Right b* Right B 1st factor loading

Difference B Difference I Right a*

2nd factor loading Difference L* 3rd factor loading -1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0 -1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0 -1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0 図11 因子負荷量(Subject 4) -4 -2 0 2 4 -4 -2 0 2 4 -3 -2 -1 0 1 2 3 3rd component 1st component 2nd component Group A -- ロマンチック,エレガント,ナチュラル,クリア,カジュアル,地味な Group C -- ダイナミック,エスニック,ワイルド Group B -- プリティ,フレッシュ,スポーティ Group D -- ゴージャス,セクシー,モダン,シック,クール,フォーマル,クラシック 図12 分類結果(Subject 4)

(7)

左右の明るさに差がないグループといえる.

Group B

は,全 体的に第

2

主成分が低いところに分布しており,右の緑色成 分が強いグループといえる.

Group C

は第

1

主成分が低く, 第

2

主成分はやや高いことから,左右の青色成分が低く,右 の赤色成分が強いグループと考えられる.さらに

Group D

は最も第

3

主成分が高く,左右の明度差が大きいグループと 位置づけることができる. 最後に,被験者

5

(男性,

20

代)の分析結果について記す. 被験者

5

において,寄与率

50%

以上を満たす主成分数は

2

で あった.被験者

5

の因子負荷量を図

13

に示す.第

1

主成分の 因子負荷量は,右の

L*

値,明度,

RGB

値全ての係数が正の 高い値を示している.総合すると,第

1

主成分は右の色の明 るさが重要な特徴を持っていると考えることができる.次 に,第

2

主成分の因子負荷量を見ると,

G

値,

L*

値と明度 の差分と右の

b*

値(黄−青成分)の係数が高くなっている. このことから,第

2

主成分は,左右の明るさの差が特に重要 な意味を持っていると解釈できる.図

14

に被験者

5

の分類 結果を示す.ここで,被験者

2

4

の結果と比較してみると,

Group C

に多くのデータが分類されており,分類が偏ってい る.これは,被験者

5

が多くの配色パターンについて,

Group C

に含まれるイメージと判断したため(特に「地味な」 というイメージに判断された配色が多かった)という原因が 一つとして考えられる.しかしながら,

k-means

法による初 期値の設定をランダムに設定していることがこの結果に影響 を与えたとも考えられるため,このパラメータの設定方法, さらに分類方法については,今後検討が必要である.分類結 果としては,

Group A

のデータは少ないが,第

2

主成分が特 に高い値を示している.

Group B

は第

1

主成分が高く,また 比較的第

2

主成分も高いため,右の色が明るく,左右の明る さに差がある配色のグループと判断できる.

Group C

のデー タは第

1

主成分の低い位置に分布しているものが多く,右の 色が暗いグループといえる.さらに,

Group D

は,第

1

主成 分は正の部分に,第

2

主成分は負の部分に分布していること から,特に右の色が明るいが,左右どちらも明るい色を持つ グループといえる. すべての被験者の因子負荷量の結果を見たところ,第

1

主 成分では,主に右側の色の明るさを示す係数が高くなってい る被験者と,右側の色の色合いを示す成分の係数が高い被験 者の

2

グループが見られた.さらに,第

2

主成分では,色合 いを示す係数が高いグループと,左右の色の明るさの差を示 す係数が高い被験者とのグループに分けられた.

GA

PCA

によって選択,抽出された色属性は,特に色のイメージを決 定する際に重要となる特徴が表れている部分である.つま り,これら特徴には個人差があり,また,特徴の組み合わせ も個人特性を表していると考えられる.

6.

お わ り に 本論文では,

2

色配色に対する印象に着目し,色彩イメー ジを判断する際に要因となる色属性は個人によって異なると いうことを検証するとともに,個人ごとに配色パターンのイ メージ分類を試みた.具体的には,被験者の労力を考慮した アンケート調査,数種類の色属性の使用,そして

GA

と多変 量解析手法を導入して新しい分析方法の提案を行なった.そ して,数種類の色属性の中から,

GA

によって個人ごとにイ メージを判断する要因と考えられる成分の特定を行った.さ らに,

GA

によって特定された色属性を用いて,

PCA

により 特徴データを抽出し,さらに

CA

により,アンケート調査に よって得られた配色パターンを

4

つのイメージに分類した. その結果,

GA

によって特定された色属性は個人ごとによっ て違いが見られた.また,

CA

による分類結果もすべての被 験者で

80%

以上と良好な結果を得ることができ,提案手法 の有効性を確認することができた.その後,さらに

PCA

の 結果について,被験者ごとに分析を行った.因子負荷量によ る主成分軸の解釈及び

CA

の分類結果から,個人が着目して いると考えられる色属性とイメージグループとの関連性を得 ることができた.被験者によっては,分類に偏りが見られた ため,分類手法の更なる改良が必要であると考えられるが, 今後,この関係性をより詳細に分析することによって,色彩 とイメージとの関係に存在する個人差がどのようなものか分 かるだけでなく,カラーコーディネートシステム等への応用 の一環として,個人の感性・嗜好に沿った配色提案が可能と なると考えられる. Right I Right L* Right G Right R Right B 1.0 0.5 0.0 0.5 1.0 1st factor loading

Right b* Difference L*Difference G

Difference I 2nd factor loading 1.0 0.5 0.0 0.5 1.0 図13 因子負荷量(Subject 5) 6 7 3 4 5 0 1 2 5 4 3 2 0 1 2 3 4 5 1st component 2nd component -3 -2 -1 -5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5 -6 -5 -4 -7 Group A -- ワイルド Group B -- プリティ,カジュアル,フレッシュ Group C -- ロマンチック,ナチュラル,ダイナミック,セクシー,エスニック,シック,クール,地味な,悲観的な G Group D -- クリア 図14 分類結果(Subject 5)

(8)

参 考 文 献

[1]日本色彩学会(編):新編 色彩科学ハンドブック,東京大 学出版会,1998.

[2] C.E. Osgood, G.J. Suci, P.H. Tennenbaum: The measure-ment of meaning, University of Illinois Press, 1967. [3] Tadasu Oyama, Ichiro Soma, Tadashi Tomiie & Hideaki

Chijiiwa: A Factor Analytical Study of Affective Respons-es to Colors, Acta Chromatica, pp.164-173, 1965.

[4]中川正宣,富家直,柳瀬徹夫:色彩感情空間の構成,日本 色彩学会誌,Vol.8,No.3,pp.147-158,1985. [5]坂田哲夫,堤陽子,鶴鉄雄,芳西崇,大本晴夫:デザイン 用語を用いた配色の印象,日本色彩学会誌,Vol.27, No.3,pp.176-187,2003. [6]伊藤久美子,大山正:異色相間の二色配色の感情効果,日 本色彩学会誌,Vol.29,No.4,pp.291-302,2005. [7]柳生智彦,久森芳彦,八木康史,谷内田正彦:配色支援シ ステムにおける好みの獲得と迷いの解消,電子情報通信学 会論文誌,Vol.J79-A,No.2,pp.261-270,1996. [8]市野順子,田野俊一:デザイン描画を支援するユーザイン タフェース,電子情報通信学会論文誌,Vol.J82-D-ll, No.10,pp.1693-1709,1999. [9]鈴木健嗣,橋本周司:ニューラルネットワークを用いた感 性情報の数量化,電子情報通信学会論文誌, Vol.J82-D-ll,No.4,pp.677-684,1999. [10]徳丸正孝,山下一美:ファジー推論を用いた配色のイメー ジ判定システムの構築,電子情報通信学会論文誌,Vol. J83-D-ll,No.2,pp.680-689,2000. [11]徳丸正孝,村中徳明,今西茂:配色イメージ判定における 個人差を考慮したシステム構築の試み,電子情報通信学会 論文誌,Vol.J83-D-ll,No.4,pp.688-698,2001. [12]南雲治嘉:カラーイメージチャート,グラフィック社, 1999. [13]小林重順:カラーイメージスケール,講談社,1999. [14]鈴木香奈,長嶋孝好:対話型遺伝的アルゴリズムを用いた 配色支援システムの開発,鈴鹿技術大学紀要,Vol.39, pp.81-86,2006.

[15] Fabor Birren: Color Psychology and Color Therapy,

Mc-Graw-Hill Books Co., New York, 1945.

[16]木村俊夫:応用視感覚論,日本応用心理学会編,心理学講 座,第4巻,1953. [17]福見稔,大松繁:遺伝的アルゴリズムによる硬貨認識用 ニューラルネットワークの設計,電気学会論文誌D, Vol.113,No.12,pp.1403-1409,1993. [18]伊藤征嗣,満倉靖恵,福見稔,赤松則男:実数値GAを用 いたデータマイニングによるニューロ降雨予測システムの 設計,電気学会論文誌C,Vol.123,No.4,pp.817-822, 2003. [19]深見嘉一郎,田辺詔子,市川一夫(編):SPP 標準色覚検査 表(第3部検診用),医学書院,1993. [20]奥富正敏(編):ディジタル画像処理,CG-ARTS協会, 2006. [21]高木幹雄,下田陽久:画像解析ハンドブック,東京大学出 版会,1991. [22]北野宏明(編):遺伝的アルゴリズム,産業図書,1993. [23]平野廣美:応用事例でわかる遺伝的アルゴリズムプログラ ミング,パーソナルメディア,1995. 佐藤 敬子(正会員) 2005年3月岡山大学教育学部総合教育課程情 報教育コース卒業.2007年3月同大大学院修 士課程了.2008年3月東京農工大学生物シス テム応用科学府生物システム応用科学専攻博 士後期課程中途退学.同年,立命館大学文学 部人文学科心理学専攻助手,現在に至る.主に感性工学の研究 に従事.電気学会会員. 満倉 靖恵(非会員) 1999年4月徳島大学工学部知能情報工学科助 手.2001年9月徳島大学大学院工学研究科博 士後期課程短縮修了.博士(工学).2003年 4月岡山大学教育学部技術科教育講師,2006 年1月東京農工大学大学院准教授,現在に至 る.画像処理,脳波解析,信号処理分野の研究に従事.電気学会, 計測自動制御学会,信号処理学会会員.

図 5  提案手法の構造
表 4   GA のパラメータ The number of generation 1000 The number of individuals 100 The length of chromosome 27
表 5 に CA による分類率の結果を示す.これを見ると,全て の被験者において, 80% 以上の分類率が得られていること から,本手法の有効性がある程度得られたと考えられる. 次に,選択された色属性(エリート個体)を用いた主成分 分析結果 の分析を行う.全ての被験者において,寄与率 50% 以上を満たす主成分の数は 2 〜 3 であった.本論文では 紙面の都合上,被験者 3 名分(被験者 2 , 4 , 5 )の結果のみ 記す.まず,被験者 2 (女性, 20 代)についての結果につい て説明する.数直線

参照

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