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消防隊員活動支援システムの開発と基礎研究

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資料Ⅶ-2-4 平成 17 年度全国消防技術者会議原稿(口頭発表)

消防隊員活動支援装置の開発と基礎研究

三浦 大(横浜市消防局) 1 . は じ め に 横 浜 市 消 防 局 で は 、 中 高 層 建 物 火 災 の 水 損 防 止 を め ざ し て 水 / 空 気 2 流 体 混 合 噴 霧 消 火 シ ス テ ム ( 以 下 「 2 流 体 消 火 シ ス テ ム 」 と い う 。) の 開 発 を 進 め て き た 。 2 流 体 消 火 シ ス テ ム に つ い て は 、 本 研 究 発 表 会 等 で 既 に 紹 介 し て い る 。 こ れ ま で の 実 験 の 中 で 、 2 流 体 消 火 シ ス テ ム の 少 放 水 量 、 水 損 低 減 効 果 に つ い て は 検 証 さ れ て い る が 、 実 火 災 に お い て は 必 ず し も 十 分 な 検 証 が な さ れ て い な い 。 ま た 、 実 火 災 に お け る 消 防 隊 の 活 動 に お い て は 、 マ ン シ ョ ン 火 災 等 の 閉 鎖 空 間 に お い て 濃 煙 に よ り 火 点 が 確 認 で き ず 熱 気 が 充 満 し て い る 場 合 に は 、 温 度 降 下 と 排 煙 の た め 必 要 以 上 に 放 水 し て し ま う 可 能 性 が 指 摘 さ れ て い る 。 一 方 、 閉 鎖 空 間 に お け る 消 火 実 験 に お い て は 、 消 防 隊 進 入 の た め の 冷 却 放 水 に つ い て も 火 点 を 正 確 に ね ら っ た 冷 却 放 水 の 方 が 、 天 井 や 壁 面 に 放 水 す る よ り も 冷 却 効 果 が 高 い こ と が わ か っ て い る 。 以 上 の こ と か ら 、 閉 鎖 空 間 進 入 以 前 か ら 火 点 を 確 認 す る こ と が 消 防 隊 の 早 期 の 適 確 で 安 全 な 活 動 、 進 入 を 助 け 、 不 要 な 放 水 を 減 ら し 、 水 損 を 軽 減 す る こ と が 確 認 で き た 。 し た が っ て 、 2 流 体 消 火 シ ス テ ム の 特 性 を 生 か し 、 水 損 を 軽 減 す る た め に も 、 火 災 現 場 の 熱 気 の 中 で 、 濃 煙 、 濃 水 蒸 気 を 通 し て 火 点 を 確 認 す る 手 段 が 必 要 で あ り 、 こ の た び 消 防 隊 員 活 動 支 援 装 置 と し て 赤 外 カ メ ラ の 有 効 性 の 確 認 、 基 礎 デ ー タ 収 集 を お こ な っ た も の で あ る 。 ま た 、 火 災 現 場 で の 有 効 な 視 力 を 得 る こ と に よ り 、 要 救 助 者 の 早 期 発 見 な ど 迅 速 有 効 な 消 防 活 動 が 図 ら れ 、 さ ら に は 隊 員 の 安 全 確 保 に つ な が る も の と 期 待 さ れ る 。 な お 、 本 実 験 に つ い て は 、 独 立 行 政 法 人 消 防 研 究 所 及 び NEC 三 栄 株 式 会 社と の 共 同 研 究 と し て 行 わ れ た も の で あ る 。 2 . 赤 外 カ メ ラ の 有 効 性 消 防 隊 は 従 来 、 火 災 現 場 で 消 火 活 動 や 、 人 命 救 助 活 動 を 行 う に 当 た っ て 、 何 ら か の 照 明 装 置 に よ り 内 部 を 見 通 す 努 力 を 行 っ て きたが、煙や水蒸気に反射し、かえって内部 が 見 づ ら い こ と は よ く 経 験 す る こ と で あ る 。 赤 外 線 は 、 煙 や 水 蒸 気 に 対 す る 透 過 性 を 持 ち 、 既 に 赤 外 カ メ ラ と し て 実 用 化 さ れ て い る が 、 消 火 活 動 時 に 使 用 す る に は 、 燃 焼 に よ り 発 生 す る 二 酸 化 炭 素 や 、 放 水 に よ り 生 ず る 水 蒸 気 を 見 通 す た め 、 こ れ ら の 吸 収 帯 を さ け た 波 長 域 の 赤 外 カ メ ラ が 有 効 で あ る と い わ れ て い る 。 そ こ で 、 こ の 赤 外 カ メ ラ を 消 防 活 動 に 最 大 限 生 か す た め 、 消 防 隊 員 の 火 災 現 場 活 動 や 、 火 災 現 場 環 境 に 耐 え ら れ る よ う 、 必 要 な 基 礎 デ ー タ の 収 集 を 目 的 に し た 検 証 ・ 実 験 を 行 っ た 。

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3 . 消 防 隊 員 活 動 支 援 装 置 と し て の 赤 外 カ メ ラ に 求 め ら れ る も の 赤 外 カ メ ラ が 火 災 現 場 の 濃 煙 、 濃 水 蒸 気 下 で も 有 効 で あ る こ と は 、 従 来 か ら 行 っ て い た 2 流 体 消 火 シ ス テ ム の 消 火 実 験 の 中 で も わ か っ て い た 。( 写 真 1 ) し か し 、 こ れ ら を 火 災 現 場 で 有 効 に 使 え る 装 置 と す る た め に は 、 次 の よ う な 事 項 を 克 服 し な け れ ば な ら な い 。 ( 1 ) 火 災 現 場 の 環 境 温 度 に 耐 え ら れ る こ と 今 回 の 実 験 の 大 き な 目 的 で あ る 、 消 火 活 動 中 の 隊 員 に 装 着 さ せ る と し て 、 隊 員 の 防 火 帽 付 近 の 温 度 に 耐 え ら れ な け れ ば な ら な い 。 さ ら に は 、 突 発 的 に 炎 に あ お ら れ る こ と や 、 火 の 粉 等 の 燃 焼 物 が 落 ち て く る こ と も 考 慮 す る 必 要 が あ る 。 写 真 1 赤 外 画 像 ・ 可 視 画 像 の 透 過 状 況 ( 2 ) 耐 水 性 消 火 活 動 に 伴 う 放 水 の 飛 沫 や 、 誤 っ て 放 水 の 直 撃 を 受 け る 可 能 性 も 考 慮 し な け れ ば な ら な い 。 ( 3 ) 耐 衝 撃 性 火 災 現 場 活 動 で は 、 狭 隘 箇 所 で 物 に ぶ つ か る こ と や 、 多 少 の 落 下 物 に は 耐 え ら れ る 必 要 が あ る 。 ( 4 ) 装 着 性 カ メ ラ ( 撮 像 部 ) は 、 肉 眼 の 視 点 に 近 い こ と が 望 ま し い こ と か ら 、 防 火 帽 付 近 に 装 着 す る こ と と な り 、 デ ィ ス プ レ ー も ハ ン ズ フ リ ー タ イ プ の 必 要 が あ る こ と か ら 、 顔 面 の 防 熱 シ ー ル ド の 位 置 に 映 し 出 す こ と が 望 ま し い 。 ( 5 ) 視 野 角 現 在 、 当 局 の 防 火 帽 に 付 け て い る 耐 熱 用 の 「 し こ ろ 」( 火 災 の 熱 か ら 顔 や 首 を 防 ぐ た め の 覆 い ( 写 真 2 )) の 視 野 角 は 、 水 平 方 向 約 106 度 、 垂 直 方 向 約 48 度 で あ っ た 。 赤 外 カ メ ラ に 同 様 の 視 野 角 を 求 め る 必 要 は な い が 、 視 野 角 が 狭 い と 、 濃 煙 、 濃 水 蒸 気 等 の 悪 条 件 の 中 で は 、 隊 員 の 不 安 が 大 き く な り 、 活 動 の 制 約 と な る 。 ま た 、 視 野 角 が 狭 い 状 態 で 歩 い た り 、 頭 を 振 る と 乗 り 物 酔 い の よ う な 状 態 に 感 じ ら れ る こ と が あ る よ う で あ る 。 ( 6 ) そ の 他 隊 員 が 、 防 火 帽 に 付 け 装 着 す る こ と か ら 、 重 量 、 大 き さ 、 形 状 な ど も 当 然 に 制 約 が あ り 、 軽 量 コ ン パ ク ト な も の に 越 し た こ と は な く 、 ま た 、 活 動 時 に バ ラ ン ス が 保 て る こ と が 必 要 で あ る 。 4 . 実 験 概 要 消 防 隊 活 動 支 援 装 置 と し て の 赤 外 カ メ ラ が 威 力 を 発 揮 す る 、 マ ン シ ョ ン 火 災 等 を 想 定 し 、 閉 鎖 空 間 に お け る 火 災 に よ る 熱 気 と 濃 煙 、 消 火 活 動 に 伴 う 濃 水 蒸 気 を 再 現 す る 実 験 を 行 っ た 。 4 . 1 実 験 条 件 消 防 研 究 所 総 合 消 火 研 究 棟 内 の 実 験 区 画 ( 6 × 6 × 2.3m ) に お い て 「 消 火 器 の 技 術 上 の 規

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格 を 定 め る 省 令 」 の 「 第 2 号 模 型 」( 以 下 「 ク リ ブ 」 と い う ) 2 基 を 2 段 積 み で 、 助 燃 剤 と し て ヘ プ タ ン 1.5 ㍑ 使 用 し た 。 着 火 後 180 秒 の 予 燃 の 後 、 区 画 外 か ら 2 流 体 消 火 シ ス テ ム に よ り 100 秒 間 放 水 し 、 そ の 後 内 部 進 入 す る 。 4 . 2 消 火 活 動 中 の 温 度 測 定 消 防 隊 員 活 動 支 援 装 置 と し て の 赤 外 カ メ ラ に 求 め ら れ る 耐 熱 性 を 確 認 す る た め 、 火 災 実 験 区 画 内 の 温 度 及 び 、 消 防 隊 員 の 防 火 帽 周 辺 の 温 度 を 調 べ た 。 放 水 隊 員 及 び 放 水 補 助 員 の 防 火 帽 に 温 度 セ ン サ を 取 り 付 け 、 防 火 帽 内 部 及 び 防 火 帽 外 部 に 密 着 さ せ 、 防 火 帽 自 体 の 温 度 の 測 定 と 、 防 火 帽 頂 上 前 部 外 側 に 浮 か せ た 状 態 で 固 定 し 、 防 火 帽 外 部 雰 囲 気 温 度 を 測 定 し た 。( 写 真 2 , 3 ) 写 真 2 温 度 収 録 写 真 3 防火帽の温度センサ 装 置 装 着 状 況 装 着 状 況 5 . 実 験 結 果 5 . 1 消 火 活 動 中 の 区 画 内 温 度 及 び 防 火 帽 周 囲 温 度 図 1 及 び 図 2 に 示 す と お り 、 区 画 内 天 井 中 央 で 750℃ に 達 し 、 ま た 入 口 1500mm の 高 さ で は 、 300℃ に 達 し て い る こ と と 、 排 出 す る 煙 の 状 況 か ら 中 性 帯 の 上 部 と 思 わ れ る 。 隊 員 は 、 100 秒 の 区 画 外 か ら の 放 水 を 行 い 、 入 口 1500mm の 高 さ で 90℃ 程 度 に 下 が っ て い る こ と が わ か る 。 0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000 0 60 120 180 240 300 360 4 着火後の経過時間 (秒) 温度 ( ℃ ) 入口1-1500mm 入口放水 100秒(66L) 天井クリブ直上 放水停止 天井中央 0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000 0 60 120 180 240 300 360 420 着火後の経過時間 (秒) こ の 後 、 放 水 隊 員 及 び 放 水 補 助 員 は 区 画 内 に 進 入 し 消 火 活 動 を 行 う が 、 こ の と き の 放 水 隊 員 防 火 帽 周 囲 の 温 度 測 定 結 果 は 図 3 、 4 の と お り で あ り 、 防 火 帽 外 部 雰 囲 気 温 度 は 、 80 ℃ 前 後 に 達 し 、 最 高 90℃ を 超 え た 例 も あ っ た 。 温度   ( ℃ 入口1-1500mm 入口放水 100秒(66L) ) 天井クリブ直上 放水停止 天井中央 図 1 区 画 内 温 度(ク リ ブ 及 び 天 井 へ 放 水 ) 図 2 区 画 内 温 度 (ク リ ブ へ 放 水 ) 隊 員 の 感 想 と し て は 、 か な り 暑 く 感 じ ら れ 、 実 際 の 火 災 現 場 で 感 じ る 限 界 に 近 い 温 度 で あ っ た 。 ま た 、 隊 員 の 防 火 帽 の 温 度 は 、 当 然 火 点 に 近 い 放 水 員 の 方 が 高 い と 予 想 し て い た が 、 図 3 、 4 の 例 で は 、 放 水 補 助 員 の 方 が 高 く な っ て い る 。 こ れ は 、 補 助 員 の 身 長 が 放 水 員 よ り 約 10cm 高 か っ た こ と と 、 放 水 員 は 腰 を 落 と し て ノ ズ ル を 構 え て い た の に 対 し 、 補 助 員 は 、 ほ

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と ん ど 立 っ た ま ま で あ っ た こ と か ら 、 上 層 の 高 温 の 対 流 に 近 か っ た た め と 思 わ れ る 。 試験NO.9-104(補助員) 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 0 60 120 180 240 300 360 420 480 540 着火後の経過時間 (秒) 温度 ( ℃) 前 上 後 横 マスク 前雰囲気 試験NO.9-104(放水員) 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 0 60 120 180 240 300 360 420 480 540 着火後の経過時間 (秒) 温 度  ( ℃ ) 前 上 後 横 マスク 前雰囲気 図 3 防 火 帽 周 囲 温 度 : 補 助 員 図 4 防 火 帽 周 囲 温 度 : 放 水 員 5 . 2 消 火 活 動 に お け る 有 効 性 の 検 証 こ れ ま で の 2 流 体 消 火 シ ス テ ム 開 発 の 中 で の 実 験 結 果 か ら 、 見 通 し の き か な い 閉 鎖 空 間 の 消 火 実 験 に お い て 、 的 確 に 燃 焼 物 に 消 火 を 行 っ た 場 合 と 、 そ う で な い 場 合 の 冷 却 効 果 の 違 い に つ い て デ ー タ が 得 ら れ た 。 区 画 外 放 水 ( 写 真 4 ) に お い て 、 ク リ ブ を ね ら っ た と き の 区 画 入 口 上 部 の 温 度 状 況 ( 図 1 ) と 、 ク リ ブ だ け で な く 天 井 等 に も 冷 却 放 水 を 行 っ た 場 合 ( 図 2 ) で 、 放 水 中 の ク リ ブ 直 上 の 天 井 温 度 に 差 は 認 め ら れ な い が 、 放 水 停 止 後 の 温 度 上 昇 に 明 ら か な 差 が 認 め ら れ た 。 し た が っ て 、 冷 却 放 水 に お い て も 火 点 を 的 確 に ね ら う こ と が 区 画 の 早 期 冷 却 、 早 期 消 火 に つ な が り 、 水 損 軽 減 に 結 び つ く こ と が 改 め て 確 認 さ れ た 。 さ ら に 火 点 進 入 隊 員 が 見 た 映 像 を 指 揮 本 部 も 同 時 に 把 握 す る こ と が で き れ ば 、 そ れ に 基 づ く 早 期 の 活 動 方 針 の 決 定 や 、 的 確 な 活 動 命 令 を す る こ と が で き 、 さ ら に は 部 隊 、 隊 員 の 安 全 管 理 に 資 す る こ と が で き る 。 写 真 4 区 画 外 放 水 6 . ま と め 赤 外 カ メ ラ の 有 効 性 に つ い て は 、 従 来 よ り 消 火 実 験 を 通 じ 充 分 認 識 し て い た が 、 今 回 の 実 験 の 中 で さ ら に 強 く 印 象 づ け る こ と が 起 き た 。 消 火 実 験 で 、 放 水 隊 員 が 消 火 後 、 実 験 区 画から退出し、点検者が消火確認を行ったが、 その際、おき火がのこっていたことがあった。 放 水 隊 員 が 赤 外 カ メ ラ を 装 着 し て い れ ば 、 微 小 な お き 火 も 見 落 と す こ と も な か っ た の で は な い か と 思 わ せ る 事 例 で あ っ た 。 こ の よ う に 、 火 災 現 場 に お け る そ の 有 効 性 は 既 に 明 ら か で あ り 、 さ ら に 迅 速 な 活 動 が 可 能 に な る こ と で 、 早 期 の 人 命 救 助 等 、 火 災 現 場 で の 活 動 に 大 き く 資 す る も の で あ る 。 さ ら に 、 同 時 に 指 揮 本 部 が 映 像 を 確 認 で き れ ば 、 大 規 模 災 害 に お い て 、 指 揮 本 部 で 多 方 面 か ら の リ ア ル タ イ ム 映 像 か ら 、 情 報 を 集 約 す る こ と に よ り 、 災 害 全 体 像 の 早 期 把 握 や 活 動 方

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針 の 決 定 が 可 能 と な る 。 地 下 鉄 火 災 や 、 地 下 街 火 災 な ど 、 早 期 の 排 煙 が 難 し い 大 規 模 閉 鎖 空 間 に お け る 消 防 隊 活 動 に 大 き く 寄 与 す る こ と が 期 待 さ れ る 。 【 参 考 文 献 】 杉 山 章 他 平 成 1 6 年 度 日 本 火 災 学 会 研 究 発 表 会 概 要 集 P 4 7 6 ~ 4 7 9 尾 川 義 雄 平 成 1 5 年 度 日 本 火 災 学 会 研 究 発 表 会 概 要 集 P 4 2 6 ~ 4 2 9 ( 横 浜 市 消 防 局 消 防 訓 練 セ ン タ ー 研 究 開 発 課 045-853-8643)

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消防隊員活動支援装置の研究開発

井野 幸夫(横浜市安全管理局) 1.はじめに 横浜市安全管理局では、中高層建物火災の水損低減を図るため開発を行った水/空 気2流体混合噴霧消火システム(以下「2流体消火システム」という。)の、少放水量、 水損低減効果を遺憾なく発揮するため、火災現場の濃煙、濃水蒸気を通して火点を確 認する手段として赤外カメラの有効性に着目し、研究、実験を進めてきた。 本実験は、横浜市安全管理局と独立行政法人消防研究所(現総務省消防庁消防大学校 消防研究センター)及び NEC 三栄株式会社との共同研究開発である。 2.これまでの実験経過 赤外線は煙や水蒸気に対する透過性を持ち、既に赤外カメラとして実用化されてお り、これを消火活動時に使用するため、これまでに、①クリブの燃焼、消火時におけ る濃煙濃水蒸気下での赤外カメラの有効性の確認、②火災現場での使用に耐えるため、 カメラ、ディスプレイを取り付ける保安帽や面体付近の消火活動時の温度測定、③ ディスプレイに必要な視野角の測定等の実験を行い、得られた有効なデータについて は昨年度の技術者会議で報告している。 3. 実験の概要 (1) 赤外カメラ、可視光カメラの、実験燃焼区画同時比較撮影 (2) 木材以外の燃焼物からの煙に対する透過性確認 (3) ウエアラブルな試作機を、消防隊員に装着させての火災実験区画進入による検証 4. 実験及び結果 4.1 赤外カメラ、可視光カメラの、実験燃焼区画同時比較撮影実験 これまで実験区画の狭い開口部から消防隊員の放水進入活動の支障にならないよう に後方からの撮影を行ってきたため、「消火器の技術上の規格を定める省令」の「第 2模型」(以下「クリブ」という。)を確認するだけの狭い範囲の映像しかなく、また、 可視光映像がなかったことから、これを撮影した。また、燃焼がすすみ、区画が高温 になると、全体が白くなってしまうことが懸念されていたことから、高温レンジでの 撮影も同時に行った。 4.1.1 実験条件 消防研究センター総合消火研究棟内の実験区画(6×6×2.3m、図1参照)にお いてクリブ2基を2段積みで、助燃剤としてヘプタン 1.5 ㍑使用した。着火後 180 秒 の予燃の後、区画外から2流体消火システムにより 100 秒間放水し、内部進入する。 資料Ⅶ-2-5 平成 18 年度全国消防技術者会議原稿(口頭発表)

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4.1.2 実験結果 図 1 の よ う な 位 置 に カ メ ラ を 置 い て 、 可 視 光 、 赤 外 同 時 撮 影 を 行 い 、 開 口 部 に 接 近 し た 1 m の 位 置 か ら 、 可 視 光 で は 見 え な い 隊 員 の 活 動 が 赤 外 に よ り 明 瞭 に と ら え る 同 時 比 較 撮 影 が で き た が 、 次 の よ う な課題も残った。 (1) 温度情報のみの表示である こ と か ら 、 同 じ 温 度 で あ る (温度差がない)と表面の凹 凸が識別できず平坦に見えて しまう可能性がある。 (2) 遠 近 感 が わ か ら ず 、 奥 行 きが分かりづらい。 (3) 火 災 区 画 内 で は 、 最 盛 期 500℃以上になっている燃焼 物と、100℃未満の床、壁下 部に至る温度分布の広がりが あり、同一画面に映すことの難しさがある。 (4) 実験区画は鋼板製で、燃焼消火実験を相当数行ってきたため、内側はさびとすす が付着し、肉眼(可視光)では全く反射しないが、赤外映像では、手前の燃焼物の 映り込みがあり、あたかも奥でも燃焼しているかのようであった。消防隊員が誤認 し、危険要因となる可能性がある。しかし、壁が木材やコンクリートなど熱吸収率 が高い材料の場合は、赤外の反射が少なく、映り込みの心配は少ないようである。 写真1 濃煙、濃水蒸気下の活動 写真2 壁(鋼板)による映り込み の映像比較 試験場所 消防研究所 総合消火研究棟主実験場 (実験区画内) 50 0 15 85 3120 73 0 2300 1585 730 60 00 6000 40 0 燃焼物 (省令2号模型) トイ 外部パン 1000×1000 70 0 730 700 10 00   第1入口温度 300 500 50 0 15 00 1800 50 0 50 第2入口温度 第2開口部(適時開) (幅820×高さ1800) 第1開口部(常時開) (幅900×高さ1800) 床から 600, 1200, 1800 区画外放水時 101~103全開       104 1/3開 ①赤外カメラ ③可視カメラ L=1000~5000 L ②赤外カメラ2 ④赤外カメラ3 可視カメラ2 高速度カメラ ① ② ③  ④ 図1 火災実験区画及び撮影位置

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4.2 木材以外の煙に対する透過性確認実験 4.2.1 実験条件 4.1.1 と同じ実験区画において、①アクリル毛布(難燃)1.09kg、②二つ折りにし た防炎布団 1.09kg、③ポリプロピレンカーペット(防炎)2.19kg、④ポリエステル カーペット(非防炎)1.43kg を、ヤシガラにメチルアルコールをしみこませた着火 剤を用いて着火し、着火後、開口部を閉止して内部に煙が充満した後、内部進入して 消火作業を行い、その様子を区画外から赤外カメラ及び可視カメラにより撮影した。 1100 1100 6000 燃焼物 (900×900パン上) 第2開口部(点火時以外閉) (幅820×高さ1800) 第1開口部(常時開) (幅900×高さ1800) ①赤外カメラ1 ③可視カメラ1 L ②赤外カメラ2 ④赤外カメラ3 (低温レンジ) ① ② ③  ④ 図2 実験4.2 におけるカメラ撮影位置 4.2.2 実験結果 実火災を想定し、家庭内のカーペッ トや、寝具による煙に対する透過性を 撮影検証したが、写真3のように、可 視光では煙により見通すことが出来な い燃焼物や、隊員を写すことが出来た。 これにより一般的な建物火災で、利用 できる目処が立ったといえる。しかし、 実験では、クリブ燃焼に比べて燃焼物 が小さく床や壁の温度が十分上がって いない(クリブ燃焼の場合、第1開口 部の床から 1.5m の位置で約 300℃程度 になるが、毛布燃焼の場合、同位置で 外気温とほぼ同じ 30℃(実験実施平成 17 年9月)である。)ことから、赤外画像でも 床と壁の区別がつきにくく、また、隊員が背景にとけ込んでいる。大規模空間等で、 火元から離れた火災熱の影響を受けていない場所まで煙が充満した場合等、同様の状 況が想定される。 写真3 実験①アクリル毛布燃焼発煙の 映像比較

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4.3 ウエアラブル試作機を、消防隊員に装着させての火災実験区画進入による検証 4.3.1 スモーク実験 ウエアラブル赤外カメラを消防隊員に装着し(写真4)、濃煙内においてHMDの 映像のみを頼りに歩行及び作業を行い、隊員の視認状況及びカメラの作動状況等を 検証した。 4.3.1.1 実験条件 4.1.1 と同じ実験区画内に、事前にお湯の入った紙コップとバケツを 12 個程度配 置し(写真5)、発煙筒2本を焚き煙で充満させる。ウエアラブル赤外カメラにて、 入口から内部を観察し、映像情報が正しくフィードバックされているか確認する。そ の後内部進入し、HMDによる映像を頼りに区画外からの音声により指示された作業 を行った。 写真4 ウエアラブル赤外カメラを装着した消防隊員 写真5 紙コップとバケツの状況 4.3.1.2 実験結果 可視に比べ、煙に対する赤外の透過は非常に良く、煙の中での歩行・目標物の確認 が行えた。写真6に煙中でコップを識別し手に取り込む瞬間の映像を示す。このよ うに、可視では見通すことの出来ない煙中においても、赤外カメラは見事に映像化し ている。さらに、煙中での歩行実験を行い、良好な結果を得た(写真7)。実験した 時のお湯の温度は 30℃であり、人間とほぼ同等の温度である。ウエアラブル赤外カ メラを使用することにより、煙中の被災者の救出、消防隊員の安全確保を容易に行う 事が可能となる。 写真6 目標物を確認し手に取り込む瞬間の赤外映像 写真7 スモーク実験風景

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4.3.2 火災実験 ウエアラブル赤外カメラを消防隊員に装着させ、火災実験区画内進入により検証を 行った。ウエアラブル赤外カメラは、試作段階であり実火災に使えるほどの耐熱、耐 水改良措置をしていないため、応急的な処理により、「どの程度見えるか」というス タンスで検証を行った。 4.3.2.1 実験条件 4.1.1 と同じ実験区画内で、実験 4.3.1 と同様の燃焼、消火実験を行った。ただし、 カメラの耐熱性を考慮し、区画内部への進入に関しては、区画入り口 1.5m の高さで 70℃以下という条件で進入し、消火作業を行った。 4.3.2.2 実験結果 区画進入以前は良好に見えていたが、進入後直ちに見えなくなる(真っ白になる) ということが連続して起こり、その原因を検討したが、火災実験区画内の水蒸気圧が 高くなることにより、ディスプレイ部に結露が発生したと推定された。 実験当日の外部気温 9.3℃の飽和水蒸気圧が約 12hPa であるのに対し、実験区画進 入時の、第1開口部床からの高さ 1.5m の温度 70℃では 312hPa もあり、放水により 内部水蒸気圧は相当高くなっていたと思われ、ディスプレイ表面温度が外部気温に近 いとすると、区画進入後、瞬時に結露したようである。 結露対策処理を施したところ、内部で隊員がディスプレイにより視認することが出 来た。消防隊員は、ウエアラブル赤外カメラからフィードバックされてくる映像情報 を頼りに、燃焼物体へ確実に近づき、ピンポイントで消火活動を行うことができた。 表2 実験区画内温度及び放水状況 0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000 0 60 120 180 240 300 360 420 480 540 600 660 時間  (sec) 温度   ( ℃ ) -18 -16 -14 -12 -10 -8 -6 -4 -2 0 2 クリブ上 クリブ中 クリブ下 天井中央 床 天井クリブ直上 入口1-1500A 入口1-1500mm クリブ中 天井クリブ直上 クリブ中 放水 クリブ上 M40  第1開口部外から放水 天井中央 床 区画内部での放水 クリブ下 クリブ上

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これにより、従来、濃煙、濃水蒸気 により全く燃焼物が見えない状況で、 事前に確認している燃焼区画と燃焼物 のイメージを頼りに行っていた消火作 業を自分の目で確認しながら行うこと が出来、的確な消火による早期の火災 区画進入や水損低減など迅速効率的な 消防活動の実現の可能性を感ずること が出来た。(表2参照) なお、ディスプレイの画像は、有線 ケーブル及び無線 LAN により外部で確 認しており、その画像が写真8である。 ウエアラブル赤外カメラで捉えた実験区画内の燃焼クリブからは高温部位が確認でき る。 4.3.3 課題 本実験により、消防活動におけるウエアラブル赤外カメラの有効性を確認すること ができたが、HMDに関して以下の課題を残した。 (1) 火災実験において、区画外放水後に内部進入する過程で水蒸気によりHMDが くもってしまった。 (2) HMDが、空気呼吸器面体の外側に配備されているため映像が小さくみづらい。 (3) HMDの使用温度は、0℃~60℃が限界であるため、長時間における高温環境で の使用に耐えられない。 各課題については、今後HMDの改良により実用化に耐えうる構造にしていく必要 がある。 5.まとめ 以上のことから、火災区画の視界が効かない場所で内部を視認するという目的を一 応実験段階では達成し、本システムの実現に向けた確かな前進を実感することが出来 た。だが、実際の火災現場で事前の情報が全くない状況でも使用できるようにするた めには、いくつもの課題があることも次第に分かってきており、今後一つずつクリア していきたい。 【参考文献】 1) 吉村 眞一 他:平成 18 年度日本火災学会研究発表会概要集, pp.6-9 2) 太田 二朗 他:平成 18 年度日本火災学会研究発表会概要集, pp.246-249 3) 吉村 眞一 他:平成 17 年度日本火災学会研究発表会概要集, pp.102-105 4) 太田 二朗 他:平成 17 年度日本火災学会研究発表会概要集, pp.348-351 (横浜市安全管理局 045-853-8632) 写真8 火災実験区画内での赤外映像

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資料Ⅶ-2-6 平成 19 年度全国消防技術者会議原稿(口頭発表)

赤外線カメラを活用した消防隊員活動支援装置の

研究と開発

井野 幸夫(横浜市安全管理局) 1.はじめに 横浜市安全管理局では火災現場の濃煙、濃水蒸気を通して火点を確認する手段として、 平成 16 年度から赤外線カメラの有効性に着目し ①ディスプレイに必要な視野角の測定、②火災 現場での使用に耐えるため、防火帽や空気呼吸 器面体(以下「面体」という。)付近の消火活 動時の温度測定、③木材、その他の燃焼物から の煙に対する透過性確認、④ウェアラブル赤外 線カメラの試作機(写真1、以下「試作機」と いう。)を用いた火災実験を行い、得られた有 効なデータについては、昨年までの全国消防技 術者会議で報告している。 本実験は、横浜市安全管 研究、実験を進めてきた。これまでに、 理局と総務省消防庁 写真1 ウェアラブル赤外線カメラ .実験の概要 用いた試作機は、ディスプレイ及びカメラを防火帽の前部分に装着し た プレイを面体内部へ取り付け、また赤外線 カ (1) クリブ消火実験による改良機のカメラ位置及びディスプレイ映像の検証 水量測定 消防大学校消防研究センター及び NEC 三栄株式 の試作機 会社との共同研究開発である。 2 過去の実験に ものであり、①防火帽の前部分に重量が集中し、バランスが悪く、カメラの焦点及 びディスプレイの位置がずれる、②ディスプレイの映像が小さく見づらい、③濃水蒸 気下でディスプレイが結露する、④ディスプレイが 60℃を超える高温環境での使用に 耐えられない等の課題が見つかっている。 これらの課題をクリアするために、ディス メラを面体右側面に取り付けたウェアラブル赤外線カメラの改良試作機(写真2~写 真4、以下「改良機」という。)を作成し、次の実験を行った。 (2) 濃煙・濃水蒸気下における改良機の性能検証 (3) 改良機を用いて消火した場合の放水量及び流下 (4) 初めて改良機を着装した隊員の活動状況

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写真3 面体用メガネとディスプレイ 写真2 ウェアラブル赤外線カメラの改良機 . 実験及び結果 による改良機のカメラ位置及びディスプレイ映像の検証 え方や、 は 50 度であり、 赤 3. ター総合消火研究棟内において、2号 ク 写真4 着装状況 3 3.1 クリブ消火実験 初めに、改良機の赤外線カメラ部分を可視カメラに入れ替え、映像の見 消火作業中のディスプレイのずれ及びカメラの軸を肉 眼の視点と比較する実験を行った。 なお、使用した可視カメラの視野角 外線カメラと同じである。 1.1 実験条件 消防研究セン リブ2基を縦に積み、助燃剤としてヘプタン 1.5 ㍑使 用した。着火後 180 秒の予燃の後、距離5m の位置から 改良機を装着し、面体を目隠しした隊員(写真5)が、 2流体消火システムにより消火作業を行った。次に、面 体の目隠しを外し、2号クリブ3基を縦に積み、240 秒 の予燃の後同様に消火作業を行った。 写真5 面体を目隠しした隊員

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3.1.2 実験結果 て、次の有効性が確認できた。 が大きく見やす い (2 消火中のディスプレイ映像 ど (3 2段積みクリ ブの消火においては、消火状況の確認をし 写真7 3段積みクリブの消火 業は、接近しすぎると足下を含めた周囲の状 3.2 煙・濃水蒸気下における改良機の性能検証 験を行い、濃煙・濃水蒸気下におけ 3. ター総合消火研究棟主実験場内の実験区画(6×6×2.3m)において 2 改良機につい (1) ディスプレイについて 目との距離が近づき映像 。面体用メガネのガラスレンズにクリッ プ留めしたことで、消火作業中にずれない。 また、クリップのため、どちらの目にも付 け替えが可能であり、隊員の利き目に取り 付けることができる。 ) カメラについて カメラ位置は、実際の視線より 15cm ほ 写真6 低いが、肉眼の視点と比べても軸のずれ は感じられない。面体は強力なゴムバンド で頭部に固定されており、顔の動きに対し て、狙い通りの正確な映像が見られる。視 野角の狭さによるストレスは感じるものの、 視点のずれは感じられない(写真6)。 ) 消火作業中の隊員の動き 不自然な動きは見られず、 ながら置き火まで消すことができた。3段積みクリブの消火では、予燃時間が 長かったことから消火開始 30 秒後に最下部のクリブから崩れ(写真7)、放水隊員 側へ倒れたが、放水隊員は目隠し無しであったこともあり、クリブ崩壊の兆候を察 知し衝突を回避することができた。 ディスプレイの映像のみでの消火作 況が見えず、不測の事態に対応するためにも一定の距離を保つ必要がある。視界の 効かない状況で、赤外線カメラの映像に頼っている場合はさらに遠近感がつかみづ らくなり、より一層の注意が必要である。 濃 改良機を装着した隊員による区画内火災消火実 るディスプレイ等の性能検証を行った。 2.1 実験条件 消防研究セン 号クリブ 2 基を縦に積み、助燃剤としてヘプタン 1.5 ㍑を使用した(図1)。着火後 180 秒の予燃の後、区画入口から 2 流体消火システムにより 100 秒間放水し(写真8、 写真9)、クリブ直上天井温度 150℃以下かつ区画入口 1.5m の高さで 100℃以下とい う条件で進入して、おき火の消火作業を行った。

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写真8 放水開始前の赤外映像 図1 実験区画 3.2.2 実験 レイは結露せ 該部分をピンポイントで消火することができ 写真 10 おき火の状況1 写真 11 おき火の状況2 ま 行った 実 写真9 100 秒間の放水中の赤外 結果 及び可視映像 区画内進入時は、区画入口 1.5m の高さで 88℃であったが、ディスプ ず消火作業中の映像も明瞭であった。 おき火についても明瞭に確認でき、当 た(写真 10、写真 11)。 た、クリブと共にじゅうたん、毛布、掃除機及び家具等を配置して消火を 験では、折りたたんだ毛布の中の高温部を見つけることができた(写真 12、写真 13)。

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写真 12 家具等の受熱状況 写真 13 毛布内部の高温部の状況 面体内は高温環境下における熱影響がほとんどなく、面体の外側に装着する場合に 比 3.3 良機を用いて消火した場合の放水量及び流下水量測定 放水量及び実験区画から 流 3. .2.1 と同様である。 表1 ウェアラブル赤外線カメラを用いた場合 3. 良機を用いて消火した場合、おき火 下水量で 19%少なかった。 3.4 初めて改良機を着装した隊員の活動状況 火災消火実験を行い、改良機の操作性、 放 3. .2.1 と同様である。初めて改良機を装着する隊員には、ディスプレイ 3. 結果 蒸気下で、改良機のディスプレイのみを頼りに区画内部に進入するこ べて熱に対する対策が不要なため、小型、軽量のディスプレイが使用可能である。 改 改良機を装着した隊員による区画内火災消火実験を行い、 出した流下水量(水損に関わる水量)の測定を行った。 3.1 実験条件 実験条件は 3 3.2 実験結果 と用いない場合における放水量等の比較 改良機の使用に慣れている者が改 等の火点がはっきり確認でき、また、 放水による温度の低下も確認できるこ とから、区画内部に進入してからの放 水時間は、赤外線カメラが無い場合に 比べて短い(表1)。したがって改良 機を用いた場合の方が放水量で8%、流 初めて改良機を装着した隊員による区画内 水量、及び実験区画から流出した流下水量の測定を行った。 4.1 実験条件 実験条件は 3 映像の白い部分は温度が高く、黒い部分は温度の低い部分であるということのみを伝 えた。 4.2 実験 (1) 濃煙・濃水

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とは、当初不安があるが、慣れると火点や障害物を判別することができるようにな り、的確な消火活動ができた。 ) 人によって利き目が異なるため (2 、どちらの目にディスプレイを装着した方が活動 (3 に高温度レンジと低温度レンジの切り (4 調を付けているため、高温度レンジで白く (5 らウェアラブル赤外線カメラを用いるときは、何度か訓練を積ん 、低温レンジに固定し、レンジ切り替えが起 .まとめ から、2で示した①~④の課題を実験段階では達成し、本システムの実現 に 他:平成 19 年度日本火災学会研究発表会概要集, pp.154-155 , pp.6-9 249 853-8632) しやすいか事前に試しておく必要がある。 ) 当該赤外線カメラのモジュールは、自動的 替えが行われるようになっている。このため温度の高いクリブ等を見ている場合は、 高温度レンジになっているが、歩くために温度の低い足下の床を見ると、低温度レ ンジに切り替わる。このレンジ切り替えに1秒程度時間がかかり、その間画面の動 きが止まってしまう。慣れてくるとレンジが切り替わるまで無駄な動きをせずに待 つようになるが、初めのうちは、画面が止まってしまう不安から周囲を見回し、そ の結果高温部と低温部を交互に見てしまうため、レンジの切り替えが頻繁に起こり、 ますます画面が止まったままになる。 ) 高温、低温各レンジとも相対温度で色 映っている高温部に放水し、温度が下がり黒く映るようになった後、低温度レンジ に切り替わると、当該部分がまた白く映ってしまう。初めて改良機を装着した隊員 には、再燃したように見えてしまうことから、再び放水をしてしまい、放水量及び 流下水量が増加してしまう。そのため、改良機を用いた場合と用いない場合の放水 量及び流下水量については、改良機の使用に慣れている者のような顕著な差異は見 られなかった。 ) これらのことか でから使用することが必要である。 また、通常の消火作業を行う場合は こらないようにすることが望ましい。 4 以上のこと 向けた確かな前進を実感することが出来た。さらに、隊員が装着する赤外線カメラの映 像を、リアルタイムで指揮本部へ伝送することが出来れば、指揮本部において災害全体像 の早期把握がしづらい、地下鉄・地下街火災や大規模工場火災などにおいて、有効な映像 となり、活動方針の決定等に大きく寄与することができると期待される。 【参考文献】 1) 三浦 大 2) 井野 幸夫 他:第 54 回全国消防技術者会議資料, pp.41-46 3) 吉村 眞一 他:平成 18 年度日本火災学会研究発表会概要集 4) 太田 二朗 他:平成 18 年度日本火災学会研究発表会概要集, pp.246-5) 吉村 眞一 他:平成 17 年度日本火災学会研究発表会概要集, pp.102-105 6) 太田 二朗 他:平成 17 年度日本火災学会研究発表会概要集, pp.348-351 (横浜市安全管理局 045-

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資料Ⅶ-2-7 平成 19 年度全国消防技術者会議原稿(展示発表)

赤外線カメラを活用した消防隊員活動支援装置の開発

三浦 大(横浜市安全管理局) 1 はじめに 横浜市安全管理局では、中高層建物火災の水損低減を図るため開発を行った水/空気 2 流体混 合噴霧消火システム(以下「2 流体消火システム」という。)の、少放水量、水損低減効果を遺憾 なく発揮するため、火災現場の濃煙、濃水蒸気を通して火点を確認する手段として赤外線カメラ の有効性に着目し、研究、実験を進めてきた。これまでの実験の中で、2 流体消火システムの少 放水量、水損低減効果については検証されているが、実火災においては必ずしも十分な検証がな されていない。また、実火災における消防隊の活動においては、マンション火災等の閉鎖空間に おいて濃煙により火点が確認できず熱気が充満している場合には、温度降下と排煙のため必要以 上に放水してしまう可能性が指摘されている。 一方、閉鎖空間における消火実験においては、消防隊進入のための冷却放水についても火点を 正確にねらった冷却放水の方が、天井や壁面に放水するよりも冷却効果が高いことがわかってい る。 以上のことから、2 流体消火システムの特性を生かし、水損を軽減するためにも、火災現場の 熱気の中で、濃煙、濃水蒸気を通して火点を確認する手段が必要であり、このたび消防隊員活動 支援装置として赤外線カメラの有効性の確認、基礎データ収集、試作機の開発をおこなったので 成果等について紹介する。 2 赤外線カメラの有効性 消防隊は従来、火災現場で消火活動や、人命救助活動を行うに当たって、何らかの照明装置に より内部を見通す努力を行ってきたが、煙や水蒸気に反射し、かえって内部が見づらいことはよ く経験することである。 赤外線は、煙や水蒸気に対する透過性を持ち、既に赤外線カメラとして実用化されているが、 消火活動時に使用するには、燃焼により発生する二酸化炭素や、放水により生ずる水蒸気を見通 すため、これらの吸収帯をさけた 8~13μm 波長域の赤外線カメラが有効であるといわれている (図1)。現在消防活動において使用されている手持ちの赤外線カメラは、外国製で重量が 3kg と 重く、救助活動や残火確認等に利用されているものの、火災現場で放水隊員が内部進入し、消火 活動や検索活動を行う際にはほとんど使用されていない。 火災現場で赤外線カメラの特長を活かすための条件としては、カメラの小型化が必須である。 赤外線カメラのキーデバイスとなる赤外線センサは、MEMS(超小型マイクロマシニング)技術・ 半導体技術の向上により、現在では高密度の 25μmピッチ程のセンサが実用化され小型化が可能 となってきている。赤外線カメラの小型化により、可能となるウエアラブルな赤外線カメラは、 両手が自由に使用でき、消火作業の効率改善・安全確保・煙中の被災者の救出という要求に応え ることができる。また、放水隊員がディスプレイにて火点を確認しながらの効果的な消火作業が

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可能となり、水損防止、要救助者の早期発見、救出が期待できる。 そこで、この赤外線カメラを消防活動に最大限生かすため、消防隊員の火災現場活動や、火災 現場環境に耐えられるよう、必要な基礎データの収集を目的にした検証・実験を行った。 大気の窓 大気の窓 図1 大気の透過率 3 消防隊員活動支援装置の基礎調査 (1) ディスプレイに必要な視野角の測定 現在、当局の防火帽に付けている耐熱用の「しころ」(火災の熱から顔や首を防ぐための覆 い)の視野角は、水平方向約 106 度、垂直方向約 48 度であった。赤外線カメラに同様の視野 角を求める必要はないが、視野角が狭いと、濃煙、濃水蒸気等の悪条件の中では、隊員の不 安が大きくなり、活動の制約となる。また、視野角が狭い状態で歩いたり、頭を振ると乗り 物酔いのような状態に感じられることがあるようである。 (2) 火災現場環境温度の測定 消防隊員活動支援装置としての赤外線カメラに求められる耐熱性を確認するため、消防隊 員が消防研究センター総合消火研究棟内の実験区画(6×6×2.3m)内へ進入し防火帽周辺の 温度を調べた。放水隊員及び放水補助員の防火帽に温度センサを取り付け、防火帽外部雰囲 気温度を測定した。このときの防火帽周囲の温度測定結果は図2、図3のとおりであり、防火 帽外部雰囲気温度は、80℃前後に達し、最高 90℃を超えた例もあった。 (3) 木材、その他の燃焼物からの煙に対する透過性確認 実験区画において、木材、アクリル毛布(難燃)、防炎布団、ポリプロピレンカーペット (防炎)、ポリエステルカーペット(非防炎)をそれぞれ燃焼させ、内部に煙が充満した後、 内部進入して消火作業を行い、その様子を区画外から赤外線カメラ及び可視カメラにより撮 影した。実火災を想定し、家庭内のカーペットや、寝具による煙に対する透過性を撮影検証 したが、可視光では煙により見通すことが出来ない燃焼物や、隊員を確認することができ、 一般的な建物火災で、利用できる目処が立ったといえる。

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試験NO.9-104(放水員) 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 0 60 120 180 240 300 360 420 480 540 着火後の経過時間 (秒) 温 度  ( ℃ ) 前 上 後 横 マスク 前雰囲気 試験NO.9-104(補助員) 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 0 60 120 180 240 300 360 420 480 540 着火後の経過時間 (秒) 温度 ( ℃) 前 上 後 横 マスク 前雰囲気 図2 頭部付近温度測定結果(補助員) 図3 頭部付近温度測定結果(放水員) 4 試作機の概要 次に基礎調査で得られたデータをもとに、本研究開発で製作した機器の試作等について紹介 する。 写真1 初期の試作機 写真2 ディスプレイ部分 初期の試作機は、ディスプレイ及びカメラを防火帽の前部分に装着したものであり、実験に より次の課題が見つかっている。①防火帽の前部分に重量が集中し、バランスが悪く、カメラ の焦点及びディスプレイの位置がずれる、②ディスプレイの映像が小さく見づらい、③濃水蒸 気下でディスプレイが結露する、④ディスプレイが 60℃を超える高温環境での使用に耐えられ ない。 以上の課題をクリアするため、改良機ではディスプレイを面体内部へ、赤外線カメラを面体 右側面に取り付け結露対策等を施した。

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表1 赤外線カメラの仕様

項目

仕様

センサ

Microbolometer(160*120)

波長

7~14μm

感度

50mK

フレームタイム

9フレーム/秒

視野角

50°×37°

I/F

NTSCビデオ信号

使用温度

-20℃~85℃

写真3 改良機 5 火災実験による検証結果 実験区画において 2 号クリブ 2 基を縦に積み、区画入口から 2 流体消火システムにより放水 後、内部進入し消火作業を行った。また、火災実験に先立ち、同区画において発煙筒の煙を充 満させ、濃煙内における透過性実験も行った。 発煙筒による濃煙実験では、煙に対する赤外線の透過は非常に良く、煙の中での歩行、区画 内に並べたお湯の入った紙コップを容易に確認できた。実験した時のお湯の温度は 30℃であり、 人間とほぼ同等の温度である。ウエアラブル赤外線カメラを使用することにより、煙中の被災 者の救出、消防隊員の安全確保を容易に行う事が可能となる。 火災実験では、区画内部で隊員がディスプレイにより映像を視認することが出来た。消防隊 員は、ウエアラブル赤外線カメラからフィードバックされてくる映像情報を頼りに、燃焼物体 へ確実に近づき、ピンポイントで消火活動を行うことができた。これにより、従来、濃煙、濃 水蒸気により全く燃焼物が見えない状況で、 事前に確認している燃焼区画と燃焼物のイメ ージを頼りに行っていた消火作業を自分の目 で確認しながら行うことが出来、的確な消火 による早期の火災区画進入や水損低減など、 迅速効率的な消防活動の実現の可能性を感ず ることが出来た。なお、ディスプレイの画像 は、有線ケーブル及び無線 LAN により外部で 確認しており、その画像が写真4であり、ウ エアラブル赤外線カメラで捉えた実験区画内 の燃焼クリブからは高温部位が確認できる。 写真4 火災実験区画内での赤外映像

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6 おわりに 消防隊員活動支援装置については、火災区画の視界が効かない場所で内部を視認するという 目的を実験レベルでは達成しているが、実火災に対する有効性については未知数である。今後 は、実働消防隊への検証配置により問題点の抽出を行い、実用化に向けた改良、改善を進める。 また、図4のように本装置と無線 LAN 装置の組み合わせにより、隊員が装着する赤外線カメ ラの映像を、リアルタイムで指揮本部へ伝送することが出来れば、指揮本部において災害全体 像の早期把握がしづらい、地下鉄・地下街火災や大規模工場火災において、有効な映像となり、 活動方針の決定等に大きく寄与することができると期待される。 図4 消防隊員活動支援装置(赤外線カメラ)の活用イメージ 【参考文献】 1) 三浦 大 他:平成 19 年度日本火災学会研究発表会概要集,pp.154-155 2) 吉村 眞一 他:平成 18 年度日本火災学会研究発表会概要集, pp.6-9 3) 太田 二朗 他:平成 18 年度日本火災学会研究発表会概要集, pp.246-249 4) 吉村 眞一 他:平成 17 年度日本火災学会研究発表会概要集, pp.102-105 5) 太田 二朗 他:平成 17 年度日本火災学会研究発表会概要集, pp.348-351 (横浜市消防訓練センター管理・研究課 045-853-8632)

参照

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