1984, Vol. 55, No. 3, 131-137
原
著
自己開示の対人魅力に及ぼす効果1
名 古屋大学 中
村
雅
彦2
Effects
of self-disclosure
on interpersonal
attraction
Masahiko Nakamura
(Department
of Educational
Psychology,
Faculty
of Education,
Nagoya University,
Chikusa-ku,
Nagoya 464)
The purpose of this study is to examine the effects of personalistic
self-disclosure
on interper
sonal attraction.
Thirty-two
male subjects participated
in the experiment.
After showing intimate
or superficial
disclosure,
the confederate
attributed
the cause of his disclosure
either to the
subjects
(personalistic
condition)
or to the confederate
himself
(non-personalistic
condition).
Subjects were then informed of these attributions.
Results obtained clearly supported the hypothe
ses. Subjects who received intimate and personalistic
disclosures liked the confederate
significantly
more than
those who received
intimate
and non-personalistic
disclosures.
On the other hand,
subjects who received superficial and personalistic
disclosures
disliked the confederate
significantly
more than those who received superficial
and non-personalistic
disclosures.
Key words:
self-disclosure,
intimacy,
interpersonal
attraction,
attribution,
personalism.
自己 開 示 (self-disclosure) は, 対 人 関 係 の 親 密 化 の 過 程 に お い て, 重 要 な役 割 を果 して い る要 因 で あ る (Alt man & Taylor, 1973). 自己 開 示 の 程 度 を 表 わ す 変 数 の1つ に, 内面 性 (intimacy) が あ る. 内 面 性 とは, 自 己 開 示 の 内容 が, 開 示 者 の 人 格 の 私 的 で 特 殊 な 領 域 を 表 示 す る程 度 に 関 す る変 数 で あ る と定 義 で き る. 他 者 の 行 う自己 開 示 が, そ の 他 者 に 対 す る 魅 力 に どの よ うな 影 響 を 及 ぼ す の か とい う問 題 に 関 連 した 従 来 の 研 究 は, これ まで 一 貫 した 結 果 を 見 出 して い な い. Worthy, Gary, & Kahn (1969) は, 内面 的 な 開示 を 行 う人物 は, 表 面 的 な 開 示 を 行 う人 物 よ りも好 まれ る こ とを 見 出 した. 山方, Ehrich & Graeven (1971) は, 自己 開示 の 内 面 性 は, 対 人 魅 力 に何 らの効 果 も及 ぼ さ な い とい う 結 果 を 得 て い る. さ らに, Cozby (1972) に よれ ば, 中 程 度 に 内 面 的 な 開 示 を行 う人 物 は, 極 め て 内面 的 な 開示 を行 う人物 や, 表 面 的 な 開 示 を 行 う人 物 よ りも 好 ま れ た. これ らの結 果 は, 対 人 魅 力 に対 して, 自 己開 示 の 内 面 性 と交 互 作 用 効 果 を も つ よ うな要 因が 存 在 す る こ とを 示 して い る と言 え る. そ の よ うな 要 因 と し て, 自 己 開 示 の タ イ ミ ン グ (Wortman, Adesman, Herman, & Greenberg, 1976), 開 示 事 態 の 適 切 性 (Derlega &
Chaikin, 1976) が 挙 げ られ る. 1 本 論 文 は, 1982年 度 名古屋大学大学院教育学研究科 に提 出 した 修士 学 位 論 文 に基 づ く もの で あ る. 2 本 論 文 の作 成 に あ た り御 指 導 いた だ いた 故大 橋 正 夫 先 生 (名古 屋 大 学 教 授) に厚 く感 謝 い た します. そ れ らに 加 えて 重 要 で あ る と考 え られ る要 因 に, 自己 開 示 の 個 人 志 向 性 (personalism) が あ る. 個 人 志 向 性 とは, Jones & Davis (1965) が 帰属 過 程 との 関 連 で 言 及 した概 念 で, 行 為 者 が 知 覚 者 に対 して 行 った 行 為 が, そ の 知 覚 者 自身 の 存 在 に よ って 生 じた もの か, 知 覚者 の 存 在 とは 無 関 係 に 生 じた もの か に 関 す る 認 知 的変 数 で あ る. あ る 行 為 の個 人 志 向 性 は, そ の 行 為 の 快 楽 関 与 性 (hedonic relevance) との組 合 わ せ に よ り, 知 覚 者 の行 う帰属 作 用 に影 響 を及 ぼ す. こ こで快 楽 関与 性 とは, 行 為 者 の行 為 が, 知 覚者 の 目的 ・利 益 を充 足 す る, あ る い は妨 害 す る程 度 に 関す る 変 数 で あ る. Jones & Davis (1965) に よれ ば, 快 楽 関 与 的 で個 人 志 向的 な行 為 は, 快 楽 関 与 的 で非 個 人 志 向的 な行 為 に比 べ て, 行 為 の意 図 ・ 傾 性 に関 す る確 信 あ る帰属 作 用 を 生 じさせ や す い と予 測 され る. そ こで, 内面 的 な 自己 開 示 を 受 け る こ とが, 知 覚 者 に とっ て ポ ジ テ ィヴ に快 楽 関 与 的 で あ り, 表 面 的 な 自己 開 示 を 受 け る こ とが, 知 覚 者 に と って ネ ガ テ ィ ヴに 快 楽 関 与 的 で あ る と仮 定 す る と, 内面 的 で 個 人 志 向的 な 開 示 は, 内面 的 で 非 個 人 志 向的 な 開 示 に 比 べ て, 開 示 者 の 被 開 示 者 に 対 す る好 意 ・信 頼 の よ うな ポ ジテ ィ ヴな 意 図 の 帰 属 を 生 じさせ, 表 面 的 で 個 人 志 向 的 な 開 示 は, 表 面 的 で 非 個 人 志 向 的 な 開 示 に 比 べ て, 開 示 者 の 被 開 示 者 に 対 す る 嫌 悪 ・不 信 の よ うな ネ ガテ ィ ヴな 意 図 の 帰属 を 生 一じさ せ や す い と予 測 され る. した が って, 内 面 的 で個 人 志 向 的 な 開 示 を 受 け る こ とは, 内 面 的 で 非 個 人 志 向 的 な 開 示 を 受 け る こ と よ りも, よ り報 酬 的 で あ り, そ の結 果 対 人 魅 力 が増 大 す る と考 え られ る. 逆 に, 表 面 的 で個 人 志 向 的 な 開示 を受 け る こ とは, 表 面 的 で非 個 人 志 向的
132 心 理 学 研 究 第55巻 第3号
な 開 示 を受 け る こ と よ りも, よ り罰 的 で あ り, そ の結 果 対 人 魅 力 が減 少 す る と考 え られ る.
Jones & Archer (1976) は, 自己 開示 の 個 人 志 向性 を, 開 示 者 が 被 験 者 に対 して 行 う開 示 の 内面 性 と, 被 験 者 以 外 の 人 物 に 対 して 行 う開 示 の そ れ を 変 化 さ せ る か否 か に よ って 操 作 した. そ の 結 果, 被 験 者に 対 す る 開 示 の 内 面 性 い か ん に 関 係 な く, 個 人 志 向 的 な 開 示 を 行 う人 物 が 好 まれ た. また, McAllister (1980) は, 開 示 者 が 自 分 の意 志 で 開 示 の 内容 を 選 択 した か 否 かに よ って個 人 志 向性 を 操 作 した が, 対 人 魅 力 に つ い て は 予 測 され た 効 果 は 見 出 され なか った. この よ うに, 自己 開 示 の 個 人 志 向 性 が 対 人 魅 力 に 必 ず しも予 測 され た 効 果 を も た な い の は, 1つ には 個 人 志 向性 の 操 作 が 間 接 的 な もの で あ った 為, 被 開 示 者 が 個 人 志 向性 を 明確 に知 覚 で きな か った か らで は な いか と考 えられ る. も う1つ の 可 能 性 は, 快 楽 関 与 性 との関 連 で, 被 開 示 者 が 開 示 者 か ら 内面 的 な開 示 を 受 け る こ とを, 必 ず しも快 で あ る とはみ な さ なか った と い う こ とが挙 げ られ よ う. これ らの 問題 点 を踏 ま え た上 で, まず 本 研 究 で は, 開 示 者 が 自分 の開 示 の原 因 を被 開示 者に 帰属 して い るか, 自分 自身 に帰 属 して い る か を直 接 被 開示 者 に知 らせ る こ と に よ って, 個 人志 向 性 を 操 作 す る こ とにす る. この操 作 に よれ ば, 開 示 者 が 開 示 の 原 因 を被 開示 者 の方 に帰 属 す る と き (以 下 これ を, 他 者 帰 属 と呼 ぶ), そ の 開 示 は 個 人 志 向 的 で あ る と知 覚 され るで あ ろ う. ま た, 開 示者 が 開 示 の 原 因 を 自分 自身 の方 に 帰 属 す る とき (以下 これ を, 自己 帰 属 と呼 ぶ), そ の 開 示 は 非 個 人 志 向 的 で あ る と知 覚 され る と期 待 で き る. つ ぎに 本 研 究 で は, 被 開示 者 が 開 示 者 の 開 示に 関 与 して い る とい う認 知 を 生 じさ せ る よ うに, 被 開 示 者 が 質 問 を して 開 示 者 か らで き るだ け 多 くの 情 報 を 聞 き 出す こ とを 被 開 示 者 の 役 割 と して 定 義 した. 以 上 の議 論 か ら, 本 研 究に お い て 検 証 され る仮 説 は 次 の通 りに な る. 仮 説1: 開 示 を 受 け る こ との 快 楽 関 与 性 が 高 い 事 態 に お い て, 内面 的 で個 人 志 向的 な開 示 を 行 う人 物 は, 表 面 的 で個 人 志 向的 な開 示 を 行 う人 物 よ りも好 まれ るで あろ う. 一 方, 内面 的 で非 個 人 志 向的 な開 示 を 行 う人 物 と, 表 面 的 で非 個 人 志 向的 な開 示 を 行 う人 物 との 間 に は, 魅 力 に差 が見 出 され な い で あ ろ う. 仮 説2: 開 示 を受 け る こ との快 楽 関 与 性 が 高 い事 態 に お い て, 内面 的 で個 人 志 向 的 な 開示 を行 う人 物 は, 内面 的 で 非個 人 志 向 的 な 開示 を行 う人物 よ りも好 まれ る で あ ろ う. 一方, 表 面 的 で個 人 志 向 的 な 開示 を行 う人 物 は, 表 面 的 で 非 個 人 志 向 的 な 開 示 を 行 う人 物 よ りも嫌 わ れ る で あ ろ う. 本 研 究 の 第2の 目的 は, 自己 開 示 の 相 互 性 (recipro city) に 関 す る もの で あ る. 自己 開 示 の 相 互 性 とは, 二 者 間 の開 示 の水 準 に正 の関 係 が 見 出 さ れ る 現 象 で あ る
(e.g., Jourard, 1959; Jourard & Landsman, 1960). 本 研 究 では, 実 験 協 力 者 の開 示 の後 に, 被 験 者 に 開 示 を 行 う機 会 を 与 え る. こ こ で重 要 な点 は, 本 研 究 の 実 験 事 態 に お い て, 被 験 者 自身 が 開 示 を 行 うこ とが 快 で あ るか 否 か とい うこ とで あ る. これ は, 実 験 協 力 者 が どの 程 度 開 示 を行 っ たか に よ っ て異 な っ て くる と思 わ れ る. す な わ ち, 被 験 者 の観 点 か らは, 内面 的 な開 示 を 行 った 実 験 協 力者 は, 被 験 者 の実 験 上 の役 割 を 満 た し た 人 物 で あ り, そ の よ うな相 手 に 自己 開示 を行 うこ とは快 的 で あ る と考 え られ る. 一 方, 実 験 上 の 目的 を満 たす こ との で き な か った相 手, つ ま り表 面 的 な 開示 を 行 うに と どま った 実験 協 力者 に対 して, 被 験 者 が 開示 を行 うこ とは不 快 で あ る と予 想 され る. した が って, 自己 開示 の相 互 性 が見 出 され る と考 え られ る. 方 法 被 験 者 被 験 者 は, 国 立 大 学 教 養 部1年 の 男 子 学 生32 名 で, 4個 の 実 験 条 件 に8人 ず つ に ラ ン ダ〓 に割 当 て ら れ た. 実 験 協 力 者 自己 開 示 の 内 面 性 を 統 制 す る 為 に, 実験 協 力 者 を 用 い た. 国 立 大 学 教 育 学 部 教 育 心 理 学 科 の 男 子 学 生7名 が, 実 験 協 力 者 と して 参 加 した. 実 験 協 力 者 に よ って, あ るい は 被 験 者 に よ って 実 験 協 力 者 の 開 示 の 内 容 が 異 な った り しな い よ うに, 実 験 に 先 立 って 実 験 協 力 者 だ け で 自己 開 示 の 練 習 セ ッシ ョンを 設 け た. 同 一 の 実 験 協 力 者 には, 各 実 験 条 件 につ い て 同数 の 被験 者 を 割 当 て る よ うに した. 実験 計 画 実 験 協力 者 の 開 示 の 内面 性 (表面 的 開 示-内面 的 開示) と, 実 験 協力 者 の 帰 属 (自己 帰 属-他 者 帰 属) とが操 作 され た. し た が っ て, 2×2の 要 因配 置 計 画 とな る. 手 続 き a) 実験 目的 と概 要 に つ い て の 教 示 実 験 は, 対 人 コ ミュ ニ ケ ー シ ョン と第一 印 象 との 関 係 を調 べ る為 の も の で あ る と教 示 さ れ る. 会 話 は, 聞 き手 と話 し手 とに分 か れ, 聞 き手 が 質 問 を して, 話 し手 が そ れ に 答 え る とい う 形 で 進 行 す る. 会 話 は2回 行 い, 被 験 者 は 必ず 両方 の役 割 を 受 け 持 つ よ うに な って い るが, 被 験 者 の方 が先 に 実 験 室 に 入 った の で, 1回 目の 会 話 で は 聞 き手 の 役 割 を と って も ら うと教 示 す る. 1回 目の 会 話 が 終 る と, まず 会 話 の感 想 を 所 定 の 用 紙 に 記 入 し, これ を 互 い に 交 換 す る こ とで 帰 属 等 に つ い て の フ ィ ー ドバ ッ ク情 報 を 与 え る. 次 に相 手 の 印象 に つ い て 記 入 す る. そ して2回 目の 会 話 で は役 割 を入 れ 替 えて 行 う. 聞 き手 は, 話 題 リス トに 記 され て い る話 題 に基 づ い て 自分 で質 問 を 考 え, 話 題 の 順 番 通 りに1つ ず つ質 問 を して い く. ただ し, この 実 験 で は 限 られ た情 報 に基 づ い て, で き る だ け正 確 に相 手 の 印 象 を形 成 す る こ とが要 求 され る の で, 相 手 か ら うま く話
を 聞 き出 せ る よ うに 質 問 を 考 え る 必 要 が あ る. 以上 の 教 示 を 行 った 後, 実 験 者 は 相 手 を 連 れ て来 るま で の 間, 被 験 者 に 質 問 を 考 え て お くよ うに と言 って 退 室 す る. b) 実 験 協 力 者 の 開 示 3分 程 度経 過 した後, 実験 者 は 実 験 協 力 者 を 連 れ て 戻 って くる. 実 験 協 力 者 は, 被 験 者 と向 か い 合 って 着 席 す る. しか し, 両 者 の 間 に は 仕 切 りが あ るの で, お 互 いの 姿 は 見 え な い よ うに な っ て い る. 実 験 の 進 め 方 に つ い て 簡 単 に 説 明 した 後, 会 話 の 内 容 を 後 で分 析 した い の で 録 音 させ て くれ る よ うに 実 験 者 は 要 請 す る. 両 者 の 承 認 が 得 られ る と, 2人 に 簡 単 な 自 己 紹 介 を 行 うよ うに促 し, 実 験 者 は 隣 室 で 別 の 作 業 を し て い る の で, 会 話 が 終 っ た らone-way mirrorに 向 か っ て 手 を 上 げ て合 図 す る よ うに被 験 者 に 頼 み, 退 室 す る. 被 験 者 は話 題 リス トに基基づ き, “通 学 ”, “車 の こ と”, “趣 味 ” , “大 学 の 授 業 ”, “大学 に 入 っ て ”, “親 との 関 係 ”, “深 刻 で重 大 な 出来 事 ” , “今 後 の 目標 ” の 合 計8つ の 話 題 につ い て質 問 を行 う. 内面 的 開 示 条 件 では, この うち “親 との関 〓” と “深 刻 で重 大 な 出来 事 ” の 話 題 に つ い て, それ ぞれ 父親 が アル コール 中毒 で あ る こ と と, 高 校 時 代 の抑 うつ 的状 態 の こ とを実 験 協 力 者 は開 示 す る. 表 面 的 開 示 条 件 で は, こ れ ら の 話 題 に つ い て 実 験 協 力 者 は, “特 に話 す こ とは, あ りま せ ん ”. とだ け答 え る. 残 りの話 題 に つ い て は, 内面 的 開示 条件, 表 面 的 開示 条 件 と もに 同 じ内 容 の表 面 的 な 開 示 が 行わ れ る. c) 実 験 協 力 者 の 帰 属 会 話 が終 了す る と実 験 者 が戻 って きて, 実 験 協 力 者 に 隣 室 に 実験 助手 が い る か らそ の 人 の 指 示に 従 って 所 定 の 用紙 に 記 入 す る よ うに 告 げ て 退 室 させ る. 被 験 者 に は, 今 の 会 話 の 感 想 に つ い て 記 入 し, これ を 相 手 の もの と交 換 す る と言 って 帰 属 尺 度 に 記 入 を 求 め る. 帰 属 尺 度 は, 会 話 の 流 れ ・調 子 を 決 定 した 原 因, 会 話 の 内 容 の 内 面 性, 会 話 の 内 容 を 決 定 した 原 因 に つ い て, そ れ ぞ れ7段 階 で 評 定 す る よ う に な っ て お り, 会 話 の 感 想 に つ い て 自 由に 記 入 す る欄 も含 まれ て い る. 被 験 者 の 記 入 が 終 る と, 実 験 者 は そ れ を 持 って 隣 室 へ 行 き, 実 験 協力 者 の 記 入 した (実は, あ らか じめ 作 成 して お い た) 帰 属 尺 度 の用 紙 を 持 って 戻 って くる. 実 験 協 力 者 の用 紙 の記 入 の仕 方 は, 次 の よ うに し て 操 作 し た. 自己 帰 属 条 件 で は, “会 話 の 流 れ ”, “会 話 の 内容 ”を 決 定 した原 因 を実 験 協 力 者 自身 の方 に帰 属 す る. 他 者 帰 属 条 件 で は, これ らの原 因を 被 験 者 の方 に帰 属 す る. ま た, 会 話 の感 想 を 自由 に書 く欄 に は, 内面 性 との組 合 わ せ に よ り, “普段 は 余 り口数 が 多 くな い が, こ の 人 と は 気 楽 に話 せ た (内面-他 者 帰 属 条 件)”, “普 段 は 口数 が 多 い方 だ が, この 人 とは うま く話 せ な か っ た (表面-他 者 帰 属 条 件)”, “普段 か ら 口数 が 多 い方 な の で, こ の 人 と も気 楽 に 話 せ た (内 面-自 己 帰 属 条 件)”, “普 段 か ら余 り 口数 が 多 くな い の で, こ の 人 と も う ま く話 せ な か った (表 面-自 己 帰 属 条 件)” 等 の コ メ ン トを 付 加 した. d) 従 属 測 度 実 験 協 力 者 の 記 入 した 帰 属 尺 度 を 被 験 者 に呈 示 した後, 実 験 者 は, 今 の会 話 か ら得 られ た知 識 と帰 属 尺 度 も参 考 に して相 手 の 印象 を 記 入 す る よ うに 求 め る. まず 被 験 者 は, 対 人 魅 力 尺 度 に記 入す る. 対 人 魅 力尺 度 は, 被 験 者 の実 験 協 力 者 に対 す る魅 力 を 測 定 す る “好 感 ” , “親 しみ ”, “信 頼 ” の3項 目と, 被 験 者 の 推 定 した実 験 協 力者 の被 験 者 に対 す る魅 力 を 測 定 す る “知 覚 さ れ た好 感 ”, “知 覚 され た親 しみ ”, “知 覚 され た信 頼 ” の3項 目 と, 知 覚 され た 類 似 性 を 測 定 す る “話 題 の 一 致 ”, “考 え方 の類 似 ”, “性 格 の類 似 ” の3項 目, 計9項 目に つ い て それ ぞれ7段 階 で評 定 す る よ うに な っ て い る. つ ぎに被 験 者 は, 印 象形 成 尺 度 に記 入す る. 印象 形 成 尺 度 は, 林 (1978) か ら選 んだ8項 目の形 容 詞 対, す な わ ち “無分 別 な-分 別 の あ る ”, “無 口 な-お し ゃ べ り な ”, “慎 重 な-軽 率 な ”, “あ け っぴ ろ げ な-か く しだ てす る”, “正 直 で な い-正 直 な ”, “近 づ きが た い-人 な つ っ こ い ”, “安 定 した 一不 安 定 な ”, “誠 実 な-不 誠 実 な ” に加 え て, 筆 者 が 適 当 だ と考 え た3項 目の形 容詞 対, す なわ ち “わ け へ だ て の あ る一わ け へ だ て の な い ” , “成 熟 した-未 熟 な”, “な れ な れ しい-よ そ よそ しい ” の 合計11項 目か ら な る. これ らの 特 性 形 容 詞 は, “な れ な れ しい-よ そ よ そ しい” を 除 い て, そ れ ぞ れ 評 価 的 に 好 ま しい もの と好 ま し くな い も の とを 組 合 わ せ て あ る. そ して, 両 形 容 詞 の間 に7段 階 の尺 度 が 配 置 され て い る. 評 定 値 は, 好 ま しい形 容 詞 の近 くに評 定 され て い る程, 高 い 得 点 を 与 え る よ うに した. e) 被験 者 の 開 示 従 属 測 度 に関 す る反 応 が 終 る と, 実 験 者 は再 び実 験 協 力 者 を連 れ て来 る. そ して 今 度 は, 実験 協 力者 が 聞 き手, 被 験 者 が 話 し手 と な って2回 目の 会 話 を行 う よ うに告 げ る. 実 験 協力 者 の 質 問 す る 内 容 は, “今, 最 も興 味 ・関 心 を持 っ て い る事 ”, “ス ポ ー ツ”, “学 生 生 活全 般 に つ い て 思 う事 ” , “友 人 関 係 ”, “自分 の 性 格 の 中 で 嫌 い な, 気 に な る所 ”, “今, 心 配 な事 ” の6 項 目で あ る. 被 験 者 の返 答 は, テ ー プ レ コー ダ ー に録 音 され た. しか し, テ ー プ レ コー ダー の故 障 に よ り1名 の 被験 者 の 録 音 が で きな か った の で, 実 験 条 件 間 の被 験 者 数 を 同 じに す る為, 被験 者 の 開 示 の分 析 は ラ ン ダム に選 ん だ 各 セ ル7名 に つ い て の み 行 われ た. 開示 の指 標 と し て, 開 示 時 間 と開 示 の 内 面 性 を と りあ げ る. 開 示 時 間 は, 会 話 の 中 で 被 験 者 が 話 して い る部 分 の 時 間 を, ス ト ップ ウ ォ ッチ で 計 測 した. また, 開 示 の 内 面 性 は, 5人 の男 性 の 大 学 院 生 に, 被 験 者 の 開 示 全 体 の 内 容 が表 面 的 で あ るか, 内面 的 で あ るか に つ い て7段 階 で 評 定 させ る こ とに よ っ て査 定 した. 被 験 者 の開 示 が終 了す る と, 実 験 者 が 戻 って きて, 実 験 の真 の 目的, 仮 説, 実 験 協力 者 を 用 い た こ とに つ い て 説 明 を 行 い, 被 験 者 に何 か質 問 が あれ ば それ に答 え, 実 験 は 終 了 した.
134 心 理 学 研 究 第55巻 第3号
Table 1
Analysis of variance on interpersonal attraction scale
* p< .05
** p<.01
結 果 独 立 変 数 の操 作 の 有 効 性 実 験 協 力 者 の 開示 の 内面 性 の 操 作 が 有 効 な もの で あ った か ど うか を確 認 す る 為, 被 験 者 が 記 入 した 帰属 尺 度 の中 の 内面 性 の 評 定 値 に つ い て, 2要 因 の分 散 分 析 を 行 った. そ の 結 果, 実 験 協 力 者 の開 示 の主 効 果 が 有 意 と な っ た (F(1,28)=34.86, p< .01). これ は, 内面 的 開 示 条 件 の被 験 者 の 方 が, 表 面 的 開示 条件 の被 験 者 よ りも, 実 験 協 力 者 の開 示 を 内面 的 で あ る と評 定 した こ とを示 して い る. した が っ て, 内面 性 の 操 作 は 有 効 で あ った と言 え る. 対 人 魅 力 Table 1に は, 対 人 魅 力 尺 度 の各 項 目の評 定 値 を 分 散 分 析 した 結 果 を 掲 げ た. またFig. 1に は, 実 験 協 力 者に 対 す る魅 力 を 測 定 す る3項 目, 知 覚 され た魅 力 を 測 定 す る3項 目, 知 覚 され た 類 似 性 を 測 定 す る3項 目, そ れ ぞ れ の合 計 値 の実 験 条 件 別 の 平 均 値 を 図 示 し た. 実 験 協 力 者 に対 す る魅 力 を測 定 す る3項 目に つ い て は, それ ぞれ 実 験 協力 者 の開 示 の主 効 果 が 有 意 と な っ た. ま た, “親 しみ ” の項 目につ い て は, 有 意 な交 互 作 用 が 見 出 され た. これ ら3項 目の合 計 値 を 分 散 分 析 した 結 果, 実験 協 力者 の 開示 の 主効 果 と交 互 作 用 が, そ れ ぞ れ 有 意に な った (F(1,28)=17.42, p<.01; F(1,28)=7.52, p<.01). 単 純 効 果 を 検 定 して み る と, 表 面 的 開 示-他 者 帰 属 条 件 と内面 的 開 示-他 者 帰 属 条 件 と の 間 に 有 意 差 が み られ (F(1,4)=26.82, p<.01), 表 面 的 開 示-自 己 帰 属 条件 と表 面 的 開 示-他 者 帰 属 条 件 と の 間 に も有 意 差 が み られ た (F(1,14)=6.12, p<.05). す な わ ち, 内 面 的 開 示-他 者帰 属 条件 の被 験 者 の方 が, 表 面 的 開 示-他 者 帰 属 条 件 の被 験 者 よ りも有 意 に実 験 協 力者 を好 み, 表 面 的 開 示-他 者 帰 属 条 件 の被 験 者 の方 が, 表 面 的 開 示-自 己帰 属 条 件 の 被 験 者 よ りも有 意 に 実 験協 力 者 を嫌 った. 被 験 者 が 推 定 した, 実 験 協 力 者 の 被 験 者 に対 す る魅 力 を 測 定 す る項 目に つ い て, そ れ ぞ れ 分 散 分 析 を 行 った と こ ろ, 実 験 協 力 者 の 開 示 の 主 効 果 が 有 意 に な った. ま た, 各 項 目につ いて, そ れ ぞ れ 交 互 作 用 が 有 意 に な った. こ れ ら3項 目の合 計 値 を 分 散 分 析 した 結 果, 実 験 協 力 者 の 開示 の主 効 果 と交 互 作 用 とが, そ れ ぞ れ 有 意 に な っ た (F(1,28)=24.17, p<.01; F(1,28)=29.68, p<.01). 単 純 効 果 を検 定 して み る と, 表 面 的 開 示-他 者 帰 属 条 件 と 内 面 的 開 示-他 者 帰 属 条件 との 間 に は有 意 差 がみ られ た が (F(1,14)=54.60, p<.01), 表 面 的 開 示-自 己 帰属 条 件 と 内 面 的 開 示-自 己 帰 属 条 件 との 間 に は差 が み られ な か っ た (F(1,14)<1, n. s.). ま た, 表 面 的 開 示-自 己帰 属条 件と表 面 的 開 示-他 者 帰属 条 件 とめ間 に有 意 差 が み ら れ た (F(1,14)=14.33, p<.01), 内面 的 開 示-自 己 帰 属 条 件 と 内 面 的 開 示-他 者 帰 属 条 件 との間 に も有 意 差 が み ら れ た (F(1,14)=15.59, p<.01). す な わ ち, 内 面 的 開 示-他 者 帰 属 条 件 の 被 験 者 は, 表 面 的 開 宗-他 者 帰 属 条 件 の 被 験 者 よ りも有 意 に実 験 協 力 者 が 自分 を 好 んで い る と知 覚 し た が, 内面 的 開 自 己 帰 属 条 件 の 被 験 者 と表 面 的 開 示-自己 帰 属 条 件 の被 験 者 との間 に は, 知 覚 され た 魅 力 に差 が 見 出 され な か っ た. 一 方, 内面 的 開 示-他 者 帰 属 条 件 の被 験 者 は, 内面 的 開 示-自 己 帰 属 条 件 の被 験 者 よ りも, 有 意に 実 験 協 力 者 が 自分 を 好 ん で い る と知 覚 し, 表 面 的 開 示-他 者 帰 属 条 件 の被 験 者 は, 表 面 的 開 示-自 己 帰 属 条 件 の 被 験 者 よ りも, 有 意に 実 験 協力 者 が 自分 を 嫌 っ て い る と知 覚 した. 対 人 魅 力 の間 接 的 測 度 と考 え られ る, 知 覚 され た類 似 性 に 関 す る項 目の うち, “話 題 の一致 ” と “性 格 の類 似 ” につ いて は, 実 験 協 力 者 の開 示 の主 効 果 が 有 意 に な っ た. また, 3項 目のす べ て につ い て, 交 互 作 用 が 有 意 に な っ た. これ らの3項 目の合 計 値 を 分 散 分 析 した結 果, 実 験 協力 者 の開 示 の主 効 果 と交 互 作 用 が, そ れ ぞれ 有 意 に な っ た (F(1,28)=7.22, p<.05; F(1,28)=23.08, p< .01). 単 純 効 果 を 検 定 し て み る と, 表 面 的 開 示-他 者 帰 属 条 件 と内面 的 開 示-他 者 帰 属 条 件 と の 間に は 有 意 差 が み られ たが (F(1,14)=51.19, p<.01), 表 面 的 開 示-自 己 帰 属 条 件 と内面 的 開 示-自 己帰属 条 件 との 間 に は, 有 意 差 が 見 出 され なか っ た (F(1,14)=1.46, n. s.). ま た, 表 面 的 開 示-自 己帰 属 条 件 と表 面 的 開 示-他 者 帰 属 条 件 との 間, お よび 内面 的 開 示-自 己 帰 属 条 件 と内葡 的 開 示-他 者 帰 属 条 件 との 間 に は, そ れ ぞ れ 有 意 差 が 見 出 さ れ た (F(1,14)=18.10, p<.01; F(1,14)=6.85, p<.05). す な わ ち, 内面 的 開 示-他 者 帰 属条 件 の 被 験 者 は, 表 面 的 開 示-他 者 帰 属 条 件 の被 験 者 よ りも, 有 意に 実 験 協 力 者 が 自分 に 類 似 して い る と 知 覚 した が, 内 面 的 開 示-自 己 帰 属 条 件 と表 面 的 開 示-自 己 帰 属 条 件 との 間に は, そ の よ うな 違 い は 見 出 され な か っ た. 一方, 内 面 的 開 示-他 者 帰 属 条 件 の 被 験 者 は, 内 面 的 開 示-自 己 帰 属 条 件 の 被 験 者 よ りも, 有 意 に実 験-協力 者 が 自分 と類:似して い る とみ な した が, 表 面 的 開 示-他 者 帰 属 条 件 の 被 験 者 は, 表 面 的 開 示-自 己 帰 属 条 件 の 被 験 者 よ り も, 有 意 に 実 験 協 力 者 が 自分 と類 似 して い な い とみ な した. 形 成 され た 印 象 印 象 形 成 尺 度 の 評 定 値 を 項 目別に 分 散 分 析 した 結 果, 8つ の尺 度 に お い て 実 験 協 力 者 の 開 示 の 主 効 果 が 有 意 に な った. す な わ ち, 内 面 的 な 開 示 を 行 ゐた 実 験-協力 者 は, 表 面 的 な 開 示 を 行 った 実 験 協 力 者 に 比 べ て, 有 意 に “お し ゃ べ り な ” (F(1,28)=12.66, p< .01), “なれ なれ しい” (F(1,28)=6.29, p<.05), “誠 実 な” (F(1,28)=4.79, p<.05), “わ け へ だ て の な い ” (F(1,28)=16.15, p<.01), “成 熟 した ” (F(1,28)=5.90, p<.05), “正 直 な” (F(1,28)=4.16, p<.05), “人 な つ つ こい ” (F(1,28)=12.68, p<.01), “あ け っ ぴ ろ げ な” (F(1,28)=29.47, p<.01) とみ な され た. つ ぎ に, 実 験 協力 者 の 印象 の 好 ま しさを 検 討 す る為, “なれ なれ しい-よそ しい-よそ しい ” の 尺 度 を 除 い た10尺 度 の 評 定 値 を 被 験 者 毎に 合 計 した 得 点 を 分 散 分 析 した 結 果, 実 験 協 力 者 の 開 示 の 主 効 果 だ け が 有 意 に な っ た (F(1,28)=13.47, p< .01). す なわ ち, 内面 的 な開 示 を 行 った 実 験 協 力 者 の 方 が, 表 面 的 な開 示 を 行 った 実 験 協力 者 よ りも有 意 に好 ま しい とみ な され た. 被 験 者 の 開示 被 験 者 の 開 示 の 指 標 で あ る, 開 示 時 間 と開 示 の 内面 性 につ い て, そ れ ぞ れ 分 散 分 析 を 行 っ た が, いず れ の主 効 果, 交 互 作 用 も有 意 に は な ら なか った. わ ず か に 開 示 時 間 につ いて は, 内面 的 開 示 条 件 の 被 験 者 の 方 が, 表 面 的 開 示 条 件 の 被 験 者 よ りも長 く開 示 を 行 う 傾 向が み られ た (F(1,24)=3.20, p<.10).
136 心 理 学 研 究 第55巻 第3号 討 論 対 人 魅 力 尺 度 の実 験 協力 者 に対 す る魅 力 と知 覚 され た 類 似 性 に関 す る項 目では, 実 験 協力 者 の開 示 の 主 効 果 が 有 意 に な った. これ は, 内面 的 な開 示 を 行 った 実 験 協 力 者 の 方 が, 表 面 的 な開 示 を 行 った 実 験 協力 者 よ りも好 ま れ る とい うこ とを 示 して い る. しか し一 方 で, 交 互 作 用 が 有 意 に な った こ とに よ り, 開 示 の 内 面 性 の 効 果 は 実 験 協 力 者 の 行 う帰属 に よ って 変 化 す る こ とが わ か る. まず 実 験 協 力 者 が 開 示 の 原 因 を 被 験 者 に 帰 属 す る とき, 内 面 的 な 開 示 を行 う実験 協 力 者 は, 表 面 的 な 開 示 を行 う実 験 協 力 者 よ りも好 まれ た. しか し, 実験 協 力者 が開 示 の原 因 を 自分 自身 に帰属 す る とき, 開 示 の 内面 性 の効 果 は見 出 され な か っ た. した が って, 仮 説1は 支 持 され た と言 え る. つ ぎ に, 一 部 の項 目で は この傾 向が 見 出 され なか っ た も の の, 全 体 的 に は 内面 的 な開 示 の原 因 を 被 験 者 に 帰 属 す る実 験 協 力 者 の方 が, 内面 的 な開 示 の 原 因 を 自分 自身 に帰属 す る 実 験 協 力 者 よ り も ポ ジ テ ィヴ に 評 価 さ れ, 表 面 的 な開 示 の 原 因 を 被 験 者 に帰属 す る実 験 協 力 者 の 方 が, 表 面 的 な開 示 の 原 因 を 自分 自身 に 帰 属 す る実 験 協 力 者 よ りも ネ ガ テ ィ ヴに 評 価 され た. した が って 仮 説 2は, お お む ね 支 持 され た と言 える. 個 人 志 向 的 な 開 示 は, 被 験 者 に 知 覚 され た 開 示 者 の 意 図 を 明 確 に す る方 向 に 作 用 した. 知 覚 され た 魅 力 の測 度 の結 果 を み る と, 個 人 志 向 的 な 開 示 は 非個 人志 向的 な開 示 に 比 べ て, 知 覚 さ れ た 魅 力 を 分 極化 さ せ て い る こ とが わ か る. この こ とか ら, 本 研 究 に お い て用 い た個 人 志 向 性 の 操 作 は, 有 効 な もの で あ った と言 え よ う. 個 人 志 向 性 が, 行 為者 の 意 図 に 関 す る帰属 を 明確 な も のに す る と い う結 果 は, Kelley (1972) の 割 引 き 原 理 (discounting principle) に よ って も説 明す る こ と が で きる. Kelley (1972) は, “所 与 の 効 果 を 生 起 さ せ る 所 与 の原 因 の役 割 は, 他 の も っ とも ら しい原 因 も また 存 在 す る な らば, 割 引 か れ る. (p. 8)” と述 べ て い る. 本 研 究 に お い て得 られ た結 果 に, この 原 理 を 適 用 す るな らば, 次 の よ うな説 明が 可 能 とな る で あ ろ う. 所 与 の 開 示 の 原 因 の1つ に, 開 示 者 の被 開 示 者 に対 す る好 意 が 考 えられ る. 被開 示 者 が, 所 与 の 開 示 の 原 因 が 被 開 示 者 の 側 に あ る と伝 え られ た と き, そ の 開 示 は 開 示 者 の 被 開 示 者 に対 す る好 意 の表 わ れ で あ る と解 釈 され や す か ったと 思わ れ る. しか し, 開 示 の 原 因 が 開 示 者 の 方 に あ る と伝 え られ た と き, そ の 開 示 は相 対 的 に, 開示 者 の被 開 示 者 に対 す る好 意 の表 われ で あ る とは解 釈 され に くか っ た の で あ ろ う. 本 研 究 で は, 快 楽 関 与 性 を 被験 者 が 与 え られ て い る実 験 の 目的 との 関 連 で 操 作 して い る. 内面 的 な 開 示 を 受 け る こ と 自体 は, 表 面 的 な開 示 を 受 け る こ と よ りも, 必 ず しも ポ ジ テ ィ ブに 快 楽 関 与 的 で あ る とは 限 らな い. そ こ で, 本 研 究 の よ うに 被 開 示 者 の 目的 と して, 開 示 者 か ら で き るだ け 多 くの 詳 しい 情報 を 聞 き出 す とい う条 件 を設 定 す る こ とに よ って, 初 め て快 楽 関与 性 の操 作 が 可 能 に な った. 本 研 究 で は, 快 楽 関 与 性 の操 作 有効 性 に関 す る 測 度 は, 取 り入れ て い な い. しか し, 被験 者 が開 示 を受 け た直 後 に 記述 を 求 め た会 話 の 感想 の 内 容 を み る と, 内 面 的 開示 条 件 で は, 相 手 か ら個 人 的 な情 報 を 聞 き 出せ た こ とに対 す る満 足 感, 成 功 感 を報 告 す る者 が 多 くみ られ た のに 対 し, 表 面 的 開 示 条 件 で は, 十 分 に話 を聞 き 出せ なか っ た こ と に対 す る失 敗 感 や 相 手 に対 す る不 満 を 報 告 す る者 が 多 くみ られ た. この こ とか ら, 快 楽 関 与 性 の 操 作 は 妥 当 な もの で あ った と言 えるで あ ろ う. ま た, 本 研 究 で は, 被 開 示 者 が 質 問 を 行 って 開 示 を 受 け る とい う手 続 きを 用 い た. この 手 続 きに よ って, 開 示 セ ッシ ョンに お け る被 開 示 者 か らの 積 極 的 な 働 きか け を 促 し, 開 示 へ の 関 与 を 高 め る こ とが 期 待 され た. 従 来 の 研 究 に お い て は, 開 示 者 が 開 示 の 主 導権 を 握 って, 一方 的 に 開 示 を 行 うとい う手 続 きが 用 い られ て い る. この よ うな 開 示 の 形式 は, 話 し手 と聞 き手 の 反 応 の相 互 性 か ら 生 じる会 話 の脈 絡 を無 視 した も の で あ る と言 え よ う. 結 果 的 に, この よ うな実 験 事 態下 で は, 開 示 者 の行 動 に被 開示 者 は何 らの影 響 も及 ぼす こ とが で き な い. Jones & Archer (1976) に よれ ば, 開 示 者 が 被 験 者 にだ け 内面 的 な開 示 を控 え て も, そ の こ とは被 験 者 に とっ て ネ ガ テ ィ ヴな結 果 と して み な され なか っ た. そ れ は, 1つ に被 験 者 の観 点 が 傍 観 者 的 な もの で あ った か らで は な い か と考 え られ る. つ ま り, 相 手 が 内 面 的 な 開 示 を す るか 表 面 的 な開 示 を す るか は, 全 く開 示 者 に 委 ね られ て お り, 被 験 者に は 余 り関 心 の な い こ とだ った の か も し れ な い. 一 方, 本 研 究 で は, この 点 が 被 験 者 に と って 重 要 な こ とで あ った. 被験 者 は 質 問 を す る こ とに よ って, 聞 き手 と し て の 目的 との 関連 で, 開 示 者 が どの 程 度 ま で 打 ち 明 け る , か に 関 心 を も った は ず で あ る. と ころ で, 印 象形 成 尺 度 の結 果 に 目を移 して み る と, 対 人 魅 力 尺 度 の結 果 とは 異 な った様 相 を呈 して い る. こ こで は, 実験 協 力者 の開 示 の主 効 果 だ け が有 意に な り, 内 両 的 な 開示 を行 っ た実 験 協 力 者 の方 が, 表 面 的 な開 示 を行 っ た実 験 協 力 者 よ りも ポ ジ テ ィ ヴに評 価 され る とい う結 果 が得 られ た. この よ うに開 示 の 個 人 志 向性 に よ っ て 印象 に差 が 生 じなか った の は , 印象形成尺度で測定 さ 紅 て い る もの が, 開 示 者 の パ ー ソナ リテ ィ ーの 比 較 的 安 定 した 記 述 的 側 面 で あ り, 対 人 魅 力 の よ うな 一 時 的 な 感 情 的 側 面 とは 異 な って い た 為 で あ る と考 えられ る. 被 験 者 は, 単 に 開 示 者 の 印 象 を, そ の 開 示 が 内 面 的 で あ った か 表 面 的 で あ った か とい う事 実 に基 づ い て忠 実 に記 述 し た に 過 ぎな か った の で あ ろ う. 被 験 者 の 開示 の結 果か らは, 自 己開 示 の相 互 性 は 見 出 され な か った. 仮 に 相 互性 が見 出 され て い た な ら, そ れ
は実 験 協 力者 の 開示 の 主効 果 が有 意 に な る とい う形 で 現 わ れ て い た で あ ろ う. しか し, わ ず か に 開 示 時 間 の 測 度 に お い て, そ の傾 向 が 見 出 さ れ た だ け で あ った. この 原 因 と して, 1つ に は 実 験協 力 者 の 質 問 に 対 して 開 示 を 行 う とい う手続 きを と った 為 に, 話 題 が 限 定 さ れ て し ま い, 被 験 者 が 実 験 協 力 者 と同 じレベ ル の 開 示 を 行 うこ と が 困難 で あ った の か も しれ な い. 総 じて 言 え ば, 本 研 究 に お い て は, 内面 的 な 開 示 を 受 け る こ とは, 表 面 的 な 開 示 を 受 け る こ と よ りも ポ ジ テ ィ ヴに 快 楽 関 与 的 で あ った. しか し, 開 示 者 か らの フ ィー ドバ ッ ク情 報 を 得 る こ とに よ って, 被 開 示 者 のそ の 開 示 の 意 味 に 関 す る解 釈 は 異 な った. 同 じ内 面 的 な開 示 で あ って も, そ の 原 因 が 個 人 志 向 性 に よ る もの で あ る ときの 方 が, そ うで な い と き よ りも, よ り報 酬 的 な経 験 とな っ た. 一 方, 同 じ表 面 的 な 開 示 で あ って も, そ の原 因 が 個 人 志 向性 に よ る もの で あ る と きの 方 が, そ うで な い とき よ りも, よ り罰 的 な経 験 と な った. 本 研 究 にお い て得 ら れ た 結 果 は, 帰属 過 程 が 対 人 魅 力 に ど の よ うに影 響 を及 ぼ す の か とい う, よ り一 般 的 な問 題 に対 して も重 要 な示 唆 を与 え る で あ ろ う. 対 人 魅 力 は, 知 覚者 が 行 為 者 に ポ ジ テ ィヴ な傾 性 的 特 徴 を 帰 属 す る とき に, 増 大 す る と期 待 され る (Regan, 1978). あ る 行 為 の個 人 志 向性 を 強 調 す る こ とは, 知 覚者 に そ の よ う な 帰 属 作 用 を 生 じ さ せ, 結 果 と して対 人 魅 力 を増 大 させ る為 の有 効 な手 段 の 1つ で あ る と言 え よ う. 引 用 文 献
Altman, I., & Taylor,
D. A.
1973 Social penetra
tion: The development of interpersonal
relation
ships.
New York: Holt, Rinehart
& Winston.
Cozby, P. C.
1972 Self-disclosure,
reciprocity
and
liking.
Sociometry,
35, 151-160.
Derlega, V. J., & Chaikin, A. L. 1976 Norms affect
ing self-disclosure
in men and women.
Journal
of Consulting
and Clinical
Psychology,
44, 376
380.
Ehrich, H. J., & Graeven, D. B.
1971
Reciprocal
self-disclosure
in a dyad.
Journal
of Experimen
tal Social Psychology, 7, 389-400.
林 文 俊1978対 人認 知 構 造 の基 本 次 元 に つ い て の 一 考 察 名 古 屋 大 学 教 育 学 部 紀 要 (教 育 心 理 学 科), 25, 233-247.